四組のクラス代表決定戦は、一夏と刀奈が一回戦を突破して、次の決勝戦での勝者が四組のクラス代表になる訳なのだが……一回戦を観戦していた生徒
は、一夏達のレベルの高さに圧倒されていた。
殆ど素人である陽彩が、イギリス代表候補生のセシリアに勝った事で、既に会場は盛り上がっていたのだが、その後に行われた四組のクラス代表決定戦は
一組のクラス代表決定戦とはレベルが全く違ったのだから、其れに圧倒されるのも致し方ないと言えるだろう。


「彼が世界初の男性操縦者の織斑一夏……二人目の正義陽彩と比べると、可成りの手練れである事が伺えますね?――何よりも、縦横無尽に動き回るビ
 ット兵器に完全に対応している時点で相当ですよ。」

「一夏の実力なら、此れ位は出来ると思ってたけど……否、マジハンパないわアレ。多分だけど、一夏は戦いの中で強くなるタイプだから、その伸びしろはき
 っと無限大。
 下手したら刀奈との決勝戦でまたレベルアップする可能性もあるわ。」

「お兄ちゃんはまだまだ強くなるって事かな?」

「でしょうね……けど、アイツをお兄ちゃんって呼ぶのは止めなさいよオニール!ゴシップ記者にすっぱ抜かれたら面倒な事になるんだから!!」

「アイツ強いじゃねぇか?……良いねぇ、強い奴は野郎だろうと女だろうと大歓迎だぜ。」

「強いだけじゃなくて、自分の力に自信があるように見えたわ……それも、厳しい訓練によって得たバックボーンに裏打ちされた自信が。」

「織斑一夏……世界初の男性IS操縦者がどれ程のモノかと思っていたが、成程中々やるみたいじゃないか――此れまでISは女性の分野だった故に、私自
 身狭い世界しか知らず、沢山の百合を囲って来たが……彼はそんな私の狭い世界を壊してくれた。
 織斑一夏……可憐さはないが、力強い美しさを備えた騎士……嗚呼、認めよう。私は君の戦い方に見惚れてしまったとね。」


だが、中には圧倒されなかったモノも居る。――そう、各国の代表候補生及び、国家代表だ。
褐色肌に緑色の髪が特徴的な少女はタイの国家代表候補のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。
もう知ってるだろうけど、明るめの茶髪をサイドテールにした天真爛漫の少女は、台湾の代表候補生である凰乱音。
まるで格ゲーの1Pと2Pの様な見た目で、幼い外見なのはカナダの代表候補生であるファニール・コメットとオニール・コメットの双子姉妹。
金髪をホーステールにして、改造しまくった制服から下着がチラ見してるのが、アメリカの代表候補生で二年のレイン・ミューゼル。因みに四組の担任である
スコール・ミューゼルは彼女の伯母である。
褐色肌に青毛のポニーテールが、レインと同じ二年生であるブラジルの国家代表であるグリフィン・レッドラム。
そして最後に芝居がかった動作とセリフ回しをしているのが、オランダの国家代表であるロランツィーネ・ローランディフィルネィ……無駄に長い名前と、銀髪
が特徴的な少女だ。――因みにロランツィーネ(以下ロラン)は、同性の恋人が九十九人居ると言うクイーンオブ百合である。
まぁ、其れは其れとして、国家代表或いは代表候補生が認める一夏の実力は本物であると言えるだろう――だって、本物は本物を知るって言う言葉がある
からね。

尚、転生者の陽彩は、余りにも予想外の展開に頭を抱えていたが……まぁ如何でも良いだろう。――奴に送る言葉があるとすれば、『そのまま死ね!』だけ
だね。










夏と刀と無限の空 Episode4
クラス代表決定戦Ⅱ~夏と刀の激突~』










一夏vs刀奈の決勝戦開始までには十分間のインターバルが設けられていた――如何に略ノーダメージで勝ったとは言え、ISは精密な機械故に競技用は一
度試合が終わる毎に簡易メンテナンスが必要になるからだ。
モンド・グロッソの様な大会ならば、他の選手の試合の合間に簡易メンテナンスを行う事が出来るのだが、一夏の銀龍騎は第一試合だった為に、第二試合
が行われている間に簡易メンテナンスを行えたが、第二試合だった刀奈の紅龍騎には其の時間がないため、十分間のインターバルが設けられたのだ。
『略ノーダメージなら要らねぇだろ?』と思ったか?……甘い!底にザラメがくっ付いてる長崎カステラに、更に練乳入り生クリームとハチミツ、トドメに煮詰め
た砂糖をぶっ掛けたくらい甘い!糖尿病注意報!!

確かに略ノーダメージであるのならば簡易メンテナンスは要らないようにも思えるだろうが、ノーダメージであっても、使用する事自体が機体に負荷を掛ける
事になるので、一回ごとに簡易メンテナンスで不具合がないかを確かめるのは絶対に必要なのだ。
ノーダメージだからと言って、此れを怠って次の試合で不具合が発生してパイロットがパワーマックス密着ジェノサイドカッター(要するに即死)になってしまっ
たら目も当てられないのだから。

とは言え十分間のインターバルは簡易メンテナンスを行うスタッフからしたら結構カツカツだが、待っている観客からしたらソコソコ長いので観客達――主に
生徒達は思い思いに過ごしていた。


「織斑君つっよ!日本代表に勝っちゃったよ!!」

「刀奈さんも凄くない?あの『絶対殺す弾幕』をトリックプレイで躱しちゃったんだから!」

「負けたけど織斑さんと簪さんも絶対強いでしょアレ?……ビットを操作しながら自分も動く織斑さんに、圧倒的な弾幕の物量で相手を爆殺する簪さんが弱い
 筈がない!」


特に四組所属の生徒達は大盛り上がりだが、其れも当然と言えるだろう。
自分達のクラスに世界初の男性操縦者と日本代表が揃っていて、その戦いを生でライブで見る事が出来た上に、その試合は自分達の予想を遥かに超えた
ハイレベルなモノだったのだから。


「それにしても専用機まで色違いのペアルックだなんて、織斑君と刀奈さんのラブっぷりをまさかこんな所で見せつけられるだなんて~~~!
 ……だけど、だからこそ言いたい!激ラブな二人は果たして本気で戦う事が出来るのかと!!互いに恋人に刃を向ける事を躊躇うのではないかと!!」

「其れは杞憂ってやつでしょ?
 互いに愛し合っているからこそ本気でぶつかるに決まってるわ……そしてその本気のバトルを通じて二人の愛の絆は更に深くなるに決まってるでしょ!」

「互いに全力バトルをした事で更に燃え上がる愛……よし、今年の夏の新作は其れで行こう!」


って、オイコラ其処、変な事を言うな?そして、尤もらしい事言うな?最後に薄い本のネタにすんな?
年頃の乙女だけに色恋沙汰に興味があるのは仕方ないと思うけど、あんまり深く入り込むと馬に蹴られて地獄に堕ちるどころか、滅びのバーストストリィィィ
ム!(津田ボイス)で撃滅されるからね。


「此れで、世界初の男性操縦者と日本代表がぶつかるクラス代表決定戦の一回戦は終了し、決勝戦は世界初の男性操縦者の織斑一夏君と、日本代表最
 強と言われている更識刀奈さんのガチバトル!
 決勝の模様は、十分後にライブ配信するのでお楽しみに!この動画を見て『世界初の男性操縦者ハンパねぇ』、『刀奈も強い』、『織斑妹はスーパーコーデ
 ィネーターか?』、『簪の弾幕に絶対クリアさせないマンを感じた』と言う方は、高評価とチャンネル登録、ベルマークの通知をお願いします。」


でもって動画投稿するな!高評価とチャンネル登録をサラッとお願いするな!……いやまぁ、あれだけレベルの高い試合を撮影して動画投稿したくなる気持
ちは分かるけどね?――取り敢えず動画投稿をしていた生徒、癒子によって一夏達の注目度がメッチャアップしたのは間違いなかろう。
因みに此の十分間のインターバルの間に『一夏vs円夏』の動画は二十万再生、『刀奈vs簪』の動画は十五万再生に達していた……一週間もあれば百万再
生突破は間違い無いだろう。マジスゲェわ。


そんな観客席の一番後ろには二人の女性が居た。
一人は黒い女性物のスーツを纏った円夏によく似た容姿の女性――世界最強のブリュンヒルデにして一夏と円夏の実姉であり、IS学園教師の織斑千冬と、
腰まである髪を首の辺りで一つに纏めた切れ長の目と眼鏡が特徴的なIS学園の制服を纏った少女……IS学園の現生徒会長である『蓮杖夏姫』だ。
蓮杖夏姫の事を簡単に説明しておくと、純血の日本人だが生誕したのはエジプトで、十五歳までエジプトで暮らしながらISの事を学び、エジプトの国家代表に
なった少女である。
生粋の日本人でありながら肌が褐色なのはエジプト生まれのエジプト育ちだからである……偏見と言われればそれまでかも知れないが、遊戯王の『王の記
憶編』では、闇遊戯も海馬も褐色肌だったから納得しろってなもんよ!(無茶振り!)
因みに国籍もエジプトであり、エジプトからの留学生と言う扱いだったりする。


「織斑先生の弟君と妹さんは中々やりますね?アタシも、少しでも気を抜いたらやられてしまいそうですよ……流石はブリュンヒルデの弟と妹と言った所です
 か――こう言う言い方は良くないとは分かっているんですが、そう思わずにはいられないので。」

「其れは仕方なかろう蓮杖……まぁ、織斑兄も織斑妹も、そして更識姉と更識妹も見事なモノだったと言える。恐らく生徒レベルで言うのならば、此の四人に
 勝てる奴などそうそう居ないだろう。
 だが、世界規模で見ればまだまだだろう……世界レベルならば、あれ位のレベルのIS操縦者は掃いて捨てる程存在しているだろうからな。」

「ふむ、其れは教師としての意見ですよね?……純粋に姉としての意見は?」

「純粋な姉としての意見か……誇らしいに決まっているだろうそんなモノ!
 私の後ろをついて来る事しか出来なかった一夏と円夏がアレだけのISバトルを行えるようになったのだから、その成長を喜ぶなと言うのが無理な話だと思
 わないか?
 其れに加えて更識姉だ……あれほどの奴が一夏と交際していると言うのは、私にとっても嬉しい事だ!――何処其の馬の骨とも知れん奴に一夏を任せる
 事は出来ないが更識姉ならば信頼出来るから一夏を任せられると言うモノだからな。」


はい、千冬さんがデレました!いや、此れをデレたと言って良いのかは分からないが、一夏と円夏の成長は喜んでたみたいだから其れはとっても良いと思う
けど、一夏の恋愛事情に頭突っ込むのは如何よ?否、刀奈の事を一夏の相手として認めてるみたいだから問題はないんだけどね?


「ならば黙ってろ!」

「織斑先生?」

「……スマン蓮杖、何故か言っておかねばならん気がしたのだ。本当に理由は特になく、言わねばならない気がしたんだ。」


メタ発言乙!時に『メタ発言』とか『メタい』の意味を知ってる人はドレだけ居るのかちょっと気になるなぁ?――多分多くの人はその意味を分からずに使って
んじゃないかと思うぜ!
ググらずに『メタ発言』や『メタい』の意味を知ってる人は大したもんだよ。冗談抜きでマジでね。


「先生は決勝戦は何方が勝つと思いますか?」

「織斑兄は凄まじい潜在能力があるが、其れは未だ解放されてないから決勝戦は接戦の末に更識姉が制するだろう――一夏が試合中に更なる成長をした
 場合は、その限りではないかも知れないがな。」

「ならばアタシは一夏君が勝つと予想します……一夏君の潜在能力は凄まじい物がありそうですからね――その一端が覚醒して一夏君の勝ちですよ。」

「其れはまた大きく出たな?」

「無限の可能性に賭けたと言う奴ですよ織斑先生。」


千冬は刀奈が勝つと予想し、夏姫は一夏が勝つと予想したらしい……身内贔屓を嫌う千冬と、生徒会長としての観察眼を持つ夏姫が予想したらこの結果に
なるのは目に見えていたと言えよう。
世界最強と学園最強は、それ以降は何も言わずに、アリーナをただ睨みつけていた――其れを見た生徒の数人が、千冬と夏姫の闘気に当てられてKOされ
た事を記しておく。
闘気だけで人を気絶させる事が出来るとか千冬さんと生徒会長の闘気ハンパないわマジで……アンタ等が組んだら其れだけで世界最強だと思うね。最強
に加えて『最恐』も加えっけどな。


「ん?」

「如何かしましたか、織斑先生?」

「いや……お前と更識姉にそっくりな気配を感じた気がしたのだが……姿が見えん。スマン、気のせいだったようだ。」

「織斑先生もですか……実は、アタシもアタシに似た気配を感じた気がしたんです……ですが、気のせいだったみたいですね。」


で、何かを感じ取ったっぽかった此の二人は……まぁ、色々と最恐な御方だから常人には感じ取れない何かを感じ取ったのかも知れない――此れはアレだ
ね、誰も居ない筈の背後に何か気配を感じる事があるのに似たモノだろうね。……違うか流石に。








――――――








で、十分間のインターバルも終わり、いよいよ四組のクラス代表を決める戦いの決勝戦の時間がやってきましたとさ!――まぁ、其れだけで会場は大盛り上
がりをも越えた爆盛り上がりってなモンよ!
てか寧ろ盛り上がらないと嘘だろ?――世界初のIS男性操縦者である一夏と、日本代表最強と言われている刀奈がガチでぶつかる訳なんだからね。
そんな盛り上がる会場を他所に、一夏も刀奈もアリーナ内にISを纏わない状態で現れた――そう、先程の刀奈vs簪の時と同じように。
其れを見た観客達は、一部を除いて『あ、これまたなんかネタが炸裂するパターンだ』と確信した……そらまぁ、更識姉妹が仮面ライダーネタぶっ込んで来た
のを見たら、また何か来ると思うわな。


「…………」

「…………」


一夏と刀奈は無言のままアリーナ中央まで歩みを進め……



――ガッ!!



一夏はミドルキックを、刀奈は横蹴りを繰り出して其れがかち合うと、其れを皮切りに拳脚入り乱れる打撃技の大乱舞が開始され、一夏と刀奈の拳打、蹴撃
に掌打に肘打ちがぶつかり合う。
刀奈の蹴り上げを一夏がバック転で回避すると、其れを追撃するように刀奈が間合いを詰めて蹴り足を地面に付けない連続蹴り!って、それ春麗の鳳翼扇
じゃんかよ!
発生が3フレームと優秀な上にヒット後は追撃も出来る、ストⅢ3rdの春麗の強さを支えてきた優秀技を放つとか鬼か?
其れに対して一夏はと言うと……



――カキーン!カキーン!カキーン!!



はい、物の見事に全段ブロッキングしてましたとさ。なんか動画で見た事有るぞこの光景?……仮面ライダーネタの次は格ゲーネタだったみたいだ。人外の
技を普通にやる刀奈と其れを全部防いだ一夏に驚きだがな。
刀奈の鳳翼扇を全段ブロッキングした一夏が反撃のアッパーを放つと、刀奈は其れをバックステップで華麗に回避して間合いを離す。


「覇ぁぁぁぁぁぁ………!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


すると一夏は左の拳を腰の辺りに構え、伸脚運動の様な姿勢を取ると右腕を真っ直ぐ下に下ろして気合を入れ、刀奈は両手を上に伸ばし、顔も上に向けて
闘気を高める……うん、此れはKOFの京とシェルミーのパワー溜めだね。ストリートファイターの次はKOFかい!ネタに走るなぁ!!


「……行くぜ!」

「行くわよ!」


だがまぁ、ネタも此れで終わりなのだろう――パワー溜の動作を終えた一夏と刀奈は同時にISを起動し、一夏には白銀の、刀奈には紅色の龍騎が装着され
て臨戦態勢に。
まるで格ゲーの同キャラ対戦みたいだが、一夏の得物が刀であるのに対して、刀奈の得物は槍と言う違いがあるので同キャラ対戦ではない――って、そん
な事は如何でも良いんだマジで。大事なのは、此の試合がどうなるかだからね。
互いに機体を展開した一夏と刀奈は十秒ほど睨み合っていたが、観客席にいる千冬が『このままでは睨み合いで終わってしまうかも知れんな』と思って、叩
いた手の音を合図に同時に飛び出し、一夏は刀を一閃し、刀奈は槍での突きを繰り出す……今更だけど刀奈が槍を使うって、言葉だけを聞くと『どういう事』
って感じだと思うわ。


「ち……やっぱり刀奈は強いな?」

「ふふ、そう簡単には負けないわよ一夏……でも、随分と私の槍術に付いて来るようになったじゃない?――自慢じゃないけど、私の百裂突きを見切れる人
 は、此れまで居なかったんだけどね?」

「その技は何度も見てるからな……何度も見てりゃ見切る事も出来るようになるさ!」


その試合だが、此れは完全に拮抗していた。
『剣で槍に挑むには三倍の力量が必要とされる』と言われるが、槍を使う刀奈に対して、一夏は互角に渡り合っている――但し此れは一夏の力量が刀奈の
三倍と言う訳でなく、此れまで幾度となく行われて来た模擬戦で、一夏が刀奈の戦い方のクセとかを学習している事が大きいと言えるだろう。
生身での剣術や体術ならば未だしも、ISバトルに関しては、一夏は自分が『最弱』と言う認識を持って居た――故に、誰よりも努力して最弱から脱却しようと
していた……だからこそ、模擬戦を行う際には相手の動きを『見る』ことを徹底したのだ。
これでもかと言う位に相手の動きを見て、観察して攻撃パターンの長所と短所を頭に叩き込む……つまり、一夏の頭の中には最も多く模擬戦を行った刀奈
の攻撃パターンは大体インプットされているのである。……ん~~、この時点で大分チートくさいね。


「今度はこっちから行くぜ刀奈!」

「!!……此れはまた、強烈なラブコールね!」


刀奈の百裂突きを捌いた一夏は、お返しとばかりに逆手の居合を繰り出すと、其処から逆手居合の百裂斬を繰り出して攻め立てる……が、刀奈もまた其の
猛攻を槍の特徴である円運動で捌くってんだからマジスゲェわ。
一進一退の攻防とは正にこの事だろう……しかも一夏も刀奈も夫々の得物での攻撃だけでなく体術も織り交ぜるってんだからマジパないわ。一夏のミドル
キックを刀奈がドラゴンスクリューで投げたかと思えば、起き攻めのシャイニングウィザードにカウンターのウェスタンラリアットが炸裂し、距離を離して刀奈が
ビームマシンガンを放てば、一夏は刀身にビームを纏わせると其れを飛ばしてビームマシンガンを相殺!――飛ぶ斬撃ってのはロマン技だと思うけど、マジ
で使われると結構驚く技だと思うんだが如何だろう?
まぁ、今のを見て可成り驚いてる生徒が結構いるのがその答えなんだろうな多分。


「やるわね一夏……だったら此れはどう?」

「さぁ、本物がドレか分かるかしら?」

「本物は一つだけ、其れを見極められる?」

「いっその事、此れでハーレムとかどうかしら?」


その攻防の中、刀奈は切り札とも言えるナノマシンで作った分身を展開……その中の一名が若干不穏な事を言っていたような気がするのだが……俺は何
も聞いてない!聞いてない事にする!じゃないとヤバそうだからね。
ではなく、此処で刀奈は簪戦でも使ったナノミストで作った分身を展開――見た目だけでなく口調まで全く同じの分身を見極めるのは至難の業と言えるだろ
う……ぶっちゃけ、ドラゴンボールの多重残像拳を上回ってるからなマジで。


「刀奈が沢山か……其れは悪くないけど、俺には本物の刀奈が居れば充分だ――本物はお前だ!」

「!!何で分かったの!?」


だが、其れでも一夏は分身には目もくれずに本物の刀奈にイグニッションブーストからのさや当てを喰らわせていた……ナノミストで作った分身も、一夏には
通じなかった様だ。
だが、刀奈の言う様になんで分かったのかは気になるなぁ?……一流の操縦者でも見切るのは略不可能な刀奈の分身を一夏は見破れたのだろうか?


「何で分かっただって?……愚問だぜ刀奈。
 俺がお前と分身を見間違えると思ってんの?――ドレだけ似てても分身は所詮分身、本物の刀奈には遠く及ばねぇんだよ!何よりも本物の刀奈は、千冬
 姉に匹敵するオーラがあるからな。
 何よりも、テメェの女の真贋を見極められずに男が語れるかってんだ!」


うん、言ってる事は分からなくはないけど、惚気キタコレ。
此れって要約すれば『俺は刀奈を愛してるから、偽物の刀奈には騙されない』って事っすよねぇ?……此れだけの殺し文句をサラッと言える事に感服するぜ
一夏君!
まぁ、君の場合は打算と欲望に塗れた陽彩が発するクッサイセリフと違って、心の底から発せられている物だからマッタク持って嫌な感じがないからね。
尚、刀奈に攻撃をする前に、分身はビームダガーを投擲して破壊している辺りは抜け目ないと言えるだろう。


「愛の力は全てを超えるって事?……其れはちょっと恥ずかしいけど、そう言って貰えると嬉しいわ一夏――私達の愛は無敵よね?」

「其れは確認不要だぜ刀奈!」


確認不要……つまり一夏と刀奈の愛は無敵と言う事で宜しいですね?……異議がないようなので、此れは正式に受理されましたとさ!――まぁ、そんな事
は関係なく試合はまだ続く!
一夏は刀を、刀奈は槍を揮い、時には体術も織り交ぜながらの高レベルバトルを展開しながらも、互いに決定打に欠き決着には至らない……いや、冗談抜
きでクラス代表決定戦のレベル超えとるわ、うん。

純粋な実力で言えば、まだ一夏よりも刀奈の方が上なのだが、一夏は相手が格上であればある程底知れぬ潜在能力を発揮して互角以上の戦いが出来る
と言う割とトンデモない奴なのだ……しかも其れだけじゃなく、発揮した潜在能力はその時だけのモノではなく、確りと自分の実力にしてしまうと言うのだから
凄まじい事この上ない。
ISを動かしてから僅か三年で日本代表と渡り合えるようになったのは、並々ならぬ努力の他に、この特異な能力と言うか体質みたいなモノも関係していると
言えるだろう……本気でサイヤ人じゃねぇだろうなコイツ?


「(凄いわね一夏、まだ上がるの?パワーなら私の機体の方が上だけど、スピードは一夏の方が上……此れ以上スピードが上がったら対処出来ない!
  確実にダメージを与えるにはクリアパッションを使えば良いけど、此の状況じゃ使う為のナノミストを散布する暇が無いわね……!)」

「(クソ、やっぱパワー負けしてるな?
  刀と槍じゃパワー負けするのは当然だから、スピードを上げる事で攻撃の威力を底上げしてたけど、このままじゃ決め切れないか……!)」


まぁ、そんな一夏に対処してる刀奈も割と何者だって話なのだが……流石は中学時代『武闘派夫婦』と呼ばれていただけの事はあるわ。ぶっちゃけ同世代
で此の二人に生身でのバトルで勝てる奴なんざ居るのだろうか?
円夏と簪ですら、生身でのスパーリングでは一夏と刀奈には一度も勝った事が無いのだ……尤も、ISバトルは兎も角、円夏と簪は生身での格闘技を本格的
にやった事が無いのだから、経験者である二人に勝てってのが無理な話かも知れないが。

其れは兎も角、互いに手の内を知っているせいで決定打となる一撃を放つ事が出来ず、互いにシールドエネルギーの削り合いの様な戦いになり、此のまま
では時間切れになってしまう――時間切れになった場合はシールドエネルギーの残量による判定になるのだが、其れは一夏も刀奈も望む決着じゃないし、
観客だって判定よりは何方かのシールドエネルギーが0になっての決着を望んでいる筈なのだから。
そもそもIS学園は圧倒的に日本人が多い!そして日本人は大概の場合判定よりも白黒ハッキリ付く『完全決着』を好む――だから、判定での決着なんぞ誰
得なのだ。


「そろそろ決着を付けましょうか一夏……せや!!」

「うおっと!」


此処で先に動いたのは刀奈だ。
ノーモーションからの前蹴りで蹴り飛ばして間合いを離すと、再びナノミストで分身を作り出して一夏を取り囲むように配置する――その数は簪戦で使った時
の倍である四十!『逃げ場はないぞ』と言った所だろう。


「また分身か?俺には本物の刀奈がドレか分かるから意味ねぇって。」

「そうね……だ・け・ど、今回は目的が違うのよね。
 今回の分身は只の分身じゃなくて、言うなれば爆弾――何かに触れた瞬間に爆発するね。」

「スーパーゴーストカミカゼアタック?」

「其れは言わないで。自分でもちょっと思ったんだから……だけど一夏、この物量から逃げられるかしら?ビームダガーで迎撃しようにも、ビームダガーを一
 度に投げられる数には限界がある上に、放てる方向は左手と右手で別方向に放っても二方向。
 全て迎撃する事は出来ないわよ。」


何と刀奈が作り出した分身は、何かに触れた瞬間に爆発する爆弾人形だった!……一夏も言ってるけど、スーパーゴーストカミカゼアタックですねマジで。
だが、此れは確かにやられた方からしたら堪ったモノではない――迎撃しようにも全方向から襲い掛かって来るとなれば、円夏の様にビット兵器による多角
的攻撃でも出来ない限りは全て迎撃するのは不可能なのだ。
此処は刀奈の『巧さ』が出たと言った所だろう。


「全軍突撃!!」

「「「「「「「「「「一夏、ハグして~~~!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略……四十個も書いたら見難いし!)


何とも物騒なハグ要求をしながら突っ込んでくる爆弾刀奈人形。
其れを見た観客の多くは、『此れで決まった』と思っただろうが……此処で一夏も切り札を発動した。


「ハグなら、後で本物の刀奈にタップリするよ!……行くぜ、界王拳!!」


――轟!!


一夏が叫んだ瞬間、銀龍騎が白銀のオーラを纏い迫りくる爆弾刀奈人形に対してビーム斬撃を飛ばして一部を爆散させる事で逃げ道を確保すると、此れま
で以上のスピードでその逃げ道から包囲網を抜けると同時にビーム斬撃やビームダガーの投擲で爆弾刀奈人形を次々と爆破処理して行く。

『リミット・オーバー』……銀龍騎に搭載されている特殊機能で、一夏が起動コマンドを口にする事で発動するこの機能は、発動後は防御力が半分になる代
わりに攻撃力とスピードが三倍になると言う割とぶっ飛んだモノだ。
其れだけの強化を行うのだから、パイロット自身も鍛えておかなければ引き上げられた機体性能で身体がぶっ壊れてしまうが、一夏は此れを使い熟す為に
フィジカルトレーニングもバッチリ行っていたので問題はない……起動コマンドが『界王拳』なのは、まぁ突っ込み不要の方向で。


「そんな……爆弾人形が全滅ですって!?」

「悪いが今回は、お前の策を俺の力でねじ伏せさせて貰うぜ刀奈!」

「一夏!!」


爆弾刀奈人形をすべて処理した一夏は再び刀奈に斬りかかるが、其れは先程までの様な拮抗した戦いにはなっていなかった――攻撃力とスピードが三倍
になった一夏の猛攻を刀奈は捌く事が出来ないからだ。
スピードが三倍になった事で手数も三倍に増えた上に、それらの攻撃が高速移動による多方向から放たれたら対処出来ねぇですよマジで……目の前の斬
撃を防いだと思ったら後ろから蹴りが飛んで来たとか、ガード不能だっての。


「此れで決めるぜ刀奈!
 散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花… 今宵、散華する武士が為、せめてもの手向けをさせてもらおう!はぁぁっ…!せいやっ!」


――ズバ!バシュウ!!


秘技!桜花残月!!


って、トドメでネタぶっこんで来た!まさかの空の軌跡のリシャール大佐の『桜花残月』とはな……あのスタッフの気合入りまくりの演出は素敵だ、大好きだ。
目にも止まらぬほどの居合からの連続斬撃……通常状態でも見切るのは可成り難しい攻撃が、スピード三倍の状態で放たれたら見切れない所か略ガード
不能技だ。


『更識刀奈、シールドエネルギーエンプティ!勝者、織斑一夏!』


其れを全て喰らった刀奈の紅龍騎はシールドエネルギーが0になって勝負あり……空中で機体が解除された刀奈を咄嗟に一夏がキャッチして、それが偶然
『お姫様抱っこ』になって、黄色い歓声が上がったのは、まぁ仕方ない事だね。


「負けちゃったか……強くなったね一夏。」

「当たり前だ。
 生身での戦いなら俺の方が強いけど、ISバトルでは負けまくってるからな……幾ら俺がルーキーだからって、何時までも負けてばかりもいられねぇよ。
 何より、俺は刀奈の彼氏なんだから、其れに相応しい様に強くないとだからな?」

「貴方はもう十分強いわよ……心も、身体もね。」


はい、ナチュラルにラブ空間を発生させるな?円夏と簪は耐性があるから良いとして、此のナチュラルラブ空間は恋愛経験がないモノには即死フィールドにな
るからね?……実際に一部の生徒が悶死してるから。
中には『今年の夏は一×刀の十八禁でぼろ儲け出来るわ』とか言ってる奴も居たが其れは止めとこうね?同人二次エロは兎も角、生もののエロは色々とヤ
バイので。

何にしても、此れにて四組のクラス代表決定戦は終了し、世界初の男性操縦者である一夏が日本代表の円夏と刀奈を下して優勝と言う結果になった。つま
り、四組の代表も一夏で決まりと言う事だ。


「あ、有り得ねぇ……一夏が楯無に勝っただと?
 楯無は作中でも最強クラスのキャラなのに、其れに一夏が勝った?……そうだ、此れは楯無が手加減したからだ……一夏を代表にして経験を積ませる為
 に楯無がわざと負けたに決まってる。
 そうじゃなかったら一夏が楯無に勝てる筈がないんだ!……きっとそうだ、そうに決まってるんだ。」


ただ一人、正義陽彩だけは、この結果を受け入れる事が出来なかったみたいだが……まぁ、好き勝手に思い込んでおけばいいさ。








――――――








クラス代表決定戦が終わったアリーナの上空、其処にはフリーダムとジャスティスを部分展開した蓮杖夏姫と蓮杖刀奈の姿があった。


「この世界の一夏は中々の腕前みたいだな?私達の世界の一夏には敵わないかも知れないが、束さんの装置で訪れた世界の一夏よりは強いな。」

「そうね……この世界の私も、あの世界の私よりは強いでしょうね――そして、二人目の男性操縦者の彼の実力は大した事が無いわ……其れこそ、一秋や
 散にも劣るんじゃないかしらね?
 セシリアちゃんに勝てたのは機体性能のおかげだと思うわ。」

「だろうな……にしても、ミラージュコロイドで姿を隠して居たのに、アタシ達の気配に気付くとは千冬さんと、この世界のアタシは結構ヤバ目だな――気配を
 完全に消せるようにした方がいいかもだ。」

「其れでも織斑先生は気付きそうだけれどね。」

「否定出来んな其れは。」


如何やら彼女達はミラージュコロイドで姿を消して観戦していたらしい――千冬と夏姫が感じた気配は、気のせいではなかった訳だ……全く見えない相手の
気配を感じ取った時点で大分スゲェと思うけどね。








――――――








クラス代表決定戦が終わり、夕食も済ませた一夏は自室のシャワールームでシャワーを浴びていた――試合で汗ばんだ身体に、シャワーはとても心地良い
モノだ……欲を言うのならば大浴場でゆったりしたかったのだが、此ればかりは男子用の大浴場が出来るまで辛抱するしかあるまい。


「(界王拳を使ったからなんとか勝てたけど、其れが無かったら俺は負けてた……俺は刀奈達に比べたらまだまだ弱い――もっと精進しないとな。)」


そんな事を考えながら一夏はシャワーを終え、身体を拭き、髪を乾かして部屋に戻ったのだが……


「刀奈、何してんお前?」

「今日は一緒のベッドで寝ましょ一夏♪」


其処にはタンクトップにホットパンツと言う刺激的な姿で一夏のベッドに寝転んでいる刀奈の姿があった……下着一枚よりは大分マシかも知れないが、刀奈
の抜群のプロポーションで此れは、逆に下着オンリーよりもエロイわ。
タンクトップの襟口からは胸の谷間がバッチリ見えるし、小さめのホットパンツは前が閉められなくて下着が見えてるからね……今日の下着は黒ですか。


「お前な……其れ、俺じゃなかったら確実に襲われてるぜ?」

「大丈夫よ、一夏以外の男は撃退するから……でも、一夏は襲ってくれないの?」

「キスも真面に出来てねぇのに其処から先に行く気はねぇっての……本音を言うなら、俺だってやりたい気が無い訳じゃないけど、やっぱ色々段階すっ飛ば
 してったのはどうかと思うからな。」

「そのセリフ、思春期真っ盛りの男子全員に聞かせてあげたいわね……」


其れはアンタが言う事でもないと思うぜ刀奈さんや?……って言うか事あるごとに一夏の理性破壊に走るお前が言うななのだが、まぁ、アレは愛があるから
こそなので、あんまり強く言えないんですけどね。


「ま、一緒に寝る位なら良いぜ刀奈?」

「ふふ、ありがと一夏。」


取り敢えず、この日は一夏は刀奈と同じベッドで寝る事に……まぁ、本当に一緒のベッドで寝ただけだったのだが、一つだけ言うのならば、寝る前に刀奈の
不意打ちでマウストゥマウスのキスが初めて実現したと言う事だろうか?
此の不意打ちには一夏も驚いたが、漸く刀奈とキスが出来たって事で納得したようだ……取り敢えず末永く爆発しろ此のラブラブカップルめ!











 To Be Continued 







キャラクター設定



蓮杖夏姫

・この世界のIS学園の生徒会長。生粋の日本人だが、生まれも育ちもエジプトで国籍もエジプトなエジプトの国家代表。
 切れ長の目に眼鏡をかけ、腰までの長い髪を首の辺りで一本に縛っている褐色肌の美人さん。専用機『セイクリッド・スピカ』を有している。