遂にやって来ましたクラス代表決定戦!ISバトルでクラス代表を決めるとは実にIS学園らしいと言えよう――まぁ、二組の専用機持ちは乱だけなので、乱が
クラス代表になり、三組はオランダの代表候補とタイの代表候補の決選投票の末にオランダの代表候補がクラス代表になっていたのだが。
まぁ、其れは其れとしてクラス代表決定戦は先ずは一組の正義vsセシリアなのだが――


「(クソ、一体如何なってやがる!
  一夏の野郎は四組で、しかも既に楯無と交際関係にある上に、マドカが妹だって?……原作乖離どころじゃねぇだろ此れ!――其れに、楯無じゃなくて
  刀奈、そんでもって簪と双子とか、冗談にも程があんだろ!おまけにスコールが教師でオータムが一夏の護衛って!!)」


転生者、正義陽彩は盛大に混乱していた――入学から一週間、一夏の事をそれとなくマークしていたのだが、一夏をマークしている中で、色々とトンデモな
い事が明らかになったので混乱しているのだ……だって、自分が持つ原作知識とは全然違う事になっていたのだから。

一夏と刀奈は交際状態にある上に、刀奈と簪は双子で、原作では敵だったマドカは『織斑円夏』として、一夏の妹となっている。更にスコールはIS学園の教
師でオータムは一夏の護衛と言う立場――原作知識を持って居る陽彩からしたら驚くなと言うのが無理なのだ。


「(一体何がどうなってんだよ……俺がインストールされた事で、少し原作とずれてるのか?)」


ん~~……其処まで考えが至ったのは見事だと思うけど、残念ながら不正解なのだよ其れは――お前がこの世界に転生した事で、世界が壊れるって事は
有り得んのだ。
だって、お前は所詮ただのイレギュラーに過ぎないのだから。


「(まぁ、良いか……先ずはセシリアを圧倒して俺に惚れさせるのが最優先だ――後の事は其れから考えれば良い。一夏の野郎が四組のクラス代表になっ
  たら、クラス対抗戦で叩きのめして、楯無も俺が貰い受ければ良いだけの事だからな。)」


でもって考えてる事がガチでクズだなコイツは?ゲロ以下のニオイがプンプンするぜ?――だが、其れは自信過剰の自己陶酔のナルシストだと断言するぜ
正義陽彩よ!
チート頼みのお前と、ストイックに己を鍛えて来た一夏ではスペックに雲泥の差があるのだ!お前が一夏に勝つ事なんぞ、京に一つも有り得ねぇっての。
其れは其れとして、陽彩の専用機が現れたのだが、其れは陽彩が望んだ『ダブルオーライザー』ではなく『ガンダムエクシア』――此れに陽彩は『如何してダ
ブルオーライザー』じゃないのかと思ったが、ダブルオーライザーは二次移行した形態なのだと思って、先ずはエクシアを使いこなす事にしたようだ。

そんなこんなで試合時間来て、陽彩はカタパルトに入り――


「正義陽彩、エクシア――目標を駆逐する!」


と、エクシアの元々のパイロットの『刹那・F・セイエイ』の真似をして意気揚々とアリーナに飛び立っていった――此の時千冬が『試合で相手を駆逐するな馬
鹿者が。』と呟いたのは、誰にも聞こえていなかった。










夏と刀と無限の空 Episode3
クラス代表決定戦Ⅰ~序章と第一幕~』










一組のクラス代表決定戦は、結果だけならば陽彩が勝利して幕を閉じた――まぁ、ガンダムエクシアとブルーティアーズでは機体スペックに大きな差がある
ので、陽彩の勝利は略確定していたのだ。
まぁ、ブルーティアーズのビット兵器を全て破壊した上で、セシリアを倒したとなれば注目もされるだろう。
如何でも良い事だが、陽彩は実は代表決定戦までトレーニングはしていた……とは言っても『ストイックに練習している姿を見せておけば、俺が勝ったとして
も誰も不審に思わないだろうし、寧ろこう言う姿を見せておけば好感度稼げるからな』と言う、下衆の極みな考えの末の事だが。


「傍から見れば、ISを動かしたばかりの素人が代表候補生に勝った大番狂わせって事になるんだろうけど……ハッキリ言ってレベルの低い試合だったな。」

「そうね……二人目の彼は、未だ動かしたばかりな上に練習期間が一週間しかなかったからまだ良いとして、ミス・オルコットはあの程度のレベルで何で代
 表候補生になれたのかしら?
 イギリスって余程人材不足なのかしらねぇ?」


観戦していた生徒――主に一年一組の生徒はこの結果に盛り上がっていたが、一夏と刀奈の様に冷静に試合の分析をしている者達も居た。其れは、主に
他クラスの専用機持ちや二・三年生や千冬をはじめとした教師陣の一部だ。
陽彩が機体スペックで勝ったと言うのは間違いないが、其れ以上にセシリアの未熟さの方が目立ったのである……確かにセシリアの射撃の腕前は正確無
比であり、射撃用の的ならば百発百中間違いなしだろう。
だが、それ故に正確過ぎて読みやすい上に、最大の問題はブルーティアーズの特徴であるBT兵器の扱いだ。
本体から独立して動き回り、多方面から多角的な攻撃が可能になるBT兵器は非常に優秀な武装だが、その真骨頂は本体との連携攻撃にある――にも係
わらず、セシリアはBT兵器を使用する際には射撃はおろか動く事すらしなかったのだ。
BT兵器はその性質上、使用するのに多大な集中力に加え、並行思考能力と空間認識能力が必要になるのだが、セシリアには並行思考能力と空間認識能
力が圧倒的に欠如しており、BT兵器を使う場合はその操作に全てのリソースを割く必要があったのだ……此れでは、BT兵器の真髄を半分も引き出せない
だろう。(結局陽彩にもその弱点を突かれて敗北した。)
無論それ等は一朝一夕で身に付くモノではないが、訓練次第では完璧にとは行かなくても、BT兵器を操作しながら自分も動く事もある程度は出来るように
なる筈なのだ――セシリアが代表候補生になったのは何年も前の話なのだから。
其れなのに、BT兵器の扱い方は素人レベル……如何考えても、セシリアが代表候補生の地位に満足して自己研鑽を怠ったとしか、一夏達には思えなかっ
たのだ。


「イギリスは人材不足ではありませんよ刀奈。私と同じ学年のサラ・ウェルキンさんは、彼女よりも遥かに実力があります――正直な事を言うと、オルコットさ
 んよりも、サラさんにこそあの機体……ブルーティアーズは渡されるべきであったと思います。」

「あら、そうなの虚ちゃん……と言うか、虚ちゃんの方が年上なんだから敬語止めない?幼馴染でしょ私達?」

「そう言われても、こう言う性格なので……其れに、齢十七ともなると、もう性格は直しようがありませんから。」

「あはは~~、確かにお姉ちゃんが行き成り砕けた口調になったら~『頭でも打ったのかな~~?』とか、『変な物でも食べたのかな~?』とか、『脳味噌が
 壊れちゃったのかな~?』とか思っちゃうよね~~♪」

「お前、口調が間延びしてるからアレだが、言ってる事は中々に酷いな?」

「だけど、本音のキャラのせいで大概の人は酷い事言われてるって言う事に気付かないんだよマドカ……でも大丈夫、虚さんには確り通じてるからキッチリ
 とシメられるから。」


取り敢えずイギリスが人材不足だったのではなく、単純にセシリアの実力が低い――と言うよりも、代表候補生になった事で満足したと言う事なのだろう。
もしも、代表候補生になっても自己研鑽を怠らなかったら可成りのスペックを発揮していたのかも知れないと思うと少々残念だ――とは言っても、仮にセシリ
アがBT兵器を操作しながら動けるようになっていたとしても、一夏、刀奈、簪の三人にはレベルが低いと映っただろう……何故なら、円夏の専用機にも似た
様な兵装であるビット兵器が搭載されており、円夏はビット兵器を操作しながらビームガンでの射撃や高速機動も完璧に熟すのだから。
まぁ、其れに勝ってしまう一夏と刀奈、勝てないまでも互角に渡り合える簪も割と化け物なんだけどね。って、其れを言ったら暮桜が使える状態であれば、こ
の四人を圧倒出来る千冬さんは何者だって話だわな。
でもって、その千冬さんが『勝てない』と言う稼津斗はマジで何者だ?オロチのダークパワーと殺意の波動を同時に宿してる?……ゴッドルガールかよ!

取り敢えずまぁ、失礼な事を口走った本音は虚さんにお仕置きのテキサス・クローバーホールドを喰らっていた――かのテリー・ファンク考案の必殺技をチョ
イスするとは、虚さん、アンタ渋いねぇ?
因みにこの技で決めた時に、決まり手を『テキサス式四つ葉固め』と表記したのは中々のセンスを感じる。……まぁ、のほほんさんも『お姉ちゃん、ギブ!』と
か言いながらも笑ってるので、本気で絞め上げてる訳ではないのだろう。


「平和な姉妹のじゃれ合いだな……俺と円夏が同じ事やったら千冬姉から割と本気のファイナルインパクトが飛んでくるからなぁ。」

「私と兄さんの先制攻撃を喰らっても平然と反撃して来るからなぁ……だが単発のファイナルインパクトで良かったと言うべきか?乱舞技の疾風迅雷脚だと
 したら……」

「空恐ろしい事言うなよ円夏……3rdのケンの疾風迅雷脚はマジで性能がヤバいからな。
 まぁ、其れは其れとして、オルコットの実力は兎も角、前座試合で会場が其れなりに盛り上がったんだから、俺達でさらに盛り上げてやろうじゃないか?IS
 バトルの真髄ってのをオーディエンスに見せてやろうぜ?」

「ふふ、そうね。
 私達の試合で、さっきの試合が如何にレベルが低かったかを教えてあげましょうか♪」


でもって、次はいよいよお待ちかねの四組のクラス代表決定戦だ。
注目度で言えば一組のクラス代表決定戦よりも四組のクラス代表決定戦の方が上なのは当然と言えよう――四組のクラス代表候補は、世界初となる男性
のIS操縦者である織斑一夏と、日本の国家代表である更識刀奈、更識簪、織斑円夏が試合を行うのだから。
しかも一夏と円夏はブリュンヒルデこと織斑千冬の弟と妹なのだ――色眼鏡で見るのは良くないとは言っても、千冬のネームバリューの事を考えれば、期待
するなってのが無理な話なのだ。ぶっちゃけ期待するだけならタダだしな――タダより安いモノは無いけどね。美味い話には気を付けろマジで。

尚、四組のクラス代表決定戦はトーナメント形式だ――リーグ戦では時間が取れないし、バトルロイヤルでは実力が図り辛いと言う事でトーナメント形式が
採用されたのだ。
で、アリーナの電光掲示板には一回戦の組み合わせが表示される――コンピューターがランダムに選出した組み合わせは……


・一回戦第一試合:織斑一夏vs織斑円夏
・一回戦第二試合:更識刀奈vs更識簪


なんとまぁ、見事なまでの兄妹姉妹対決!――まさかこんな結果になるとは、実際にくじ引きした作者が一番驚きだよ!個人的には一夏vs簪、刀奈vs円夏
が良いかなと思ってたのにどうしてこうなった?神の陰謀か?或いは謎の因果律なのか……ともあれ、こう決まってしまったのだから仕方ないだろう。


「こうなったか……悪いがまた一つ白星を重ねさせて貰うぜ円夏?」

「此のところは連敗しているが、星は私の方が上だ。兄さんの連勝は此処で終わりだ。」

「今のところ三百戦して私の二百八十九勝十一敗……貴女の勝率は4%未満だけど、其れでもやるの簪?」

「圧倒的に負けてはいるけど、其れでも十回以上は私が勝ってる……だから、退く理由はないよ刀奈。」


で、織斑兄妹も、更識姉妹もバッチバチに火花散らしてんなぁ?兄弟姉妹対決の雰囲気じゃないよ此れは――ガチのバトルの雰囲気だよ此れ!高々、クラ
ス代表を決めるにしてはガチ過ぎんだろマジで!
って、言うだけ無駄なんだろうなぁ……完全に闘志に火が点いてるからね。闘志よりも投資に火を点けて経済回しませんか?――いや、冗談です。ちょっと
だけマジだけど。
因みに、参考までに此れまでの模擬戦の成績はと言うと……


・一夏30-120刀奈
・一夏45-98簪
・一夏80-102円夏
・刀奈289-11簪
・刀奈220-80円夏
・簪150-150円夏


と言った感じ。
一夏が誰にも勝ち越してないのは、ISの訓練を始めたばかりの頃の成績も含まれているからだが、夫々との直近五戦の成績は、刀奈に対して二勝二敗一
分け、簪には四勝一敗、円夏には五連勝中であり、星の差は徐々に埋まっている感じだ。
刀奈が簪と円夏に大勝ちしているのは才能の差……も若干は有るが、此れは機体の相性が関係している数字だ。全く同じ性能の汎用機で模擬戦をやって
居た頃は成績は精々刀奈が一~二勝リードする程度で、此処までの差は付いてなかったのだ。
序に、一夏が円夏が相手の場合の勝利数が一番多いのも機体の相性が関係しているのだが、一夏と円夏、刀奈と簪の専用機の相性が如何言った感じで
有るのかは夫々の試合の中で説明するとしよう。


一夏と円夏は拳を合わせ、刀奈と簪は肘から下を軽くぶつけて挨拶として、一夏と刀奈は一番ピットに、円夏と簪は二番ピットに入って行った……此れは只
のクラス代表決定戦ではなく、一回戦は史上最大の兄妹姉妹喧嘩になるのは間違い無いだろう。








――――――








一番ピットでは、既に一夏が専用機である『銀龍騎』を纏ってカタパルトで待機していた――だが、その姿には緊張は感じられない……緊張するどころか寧
ろ一種の余裕すら感じられる。
ISを動かせると分かったあの日から無茶苦茶な訓練を行って来た一夏には、何時の頃からか自信が付いていた――それも、己の実力を正確に判断した上
での自信が。
ISの訓練を始めた頃の一夏は円夏だけでなく刀奈にも簪にも模擬戦で連敗していたが、最近では互角以上に渡り合えるレベルになってるんだから、自信も
付くってもんだろう。日本代表と互角って事なんだから。
つーか、一夏の潜在能力マジでハンパねぇな?僅か三年で日本代表と肩を並べるレベルに達するって、ドンだけのハイスペックだお前?地球人じゃなくて
実はサイヤ人じゃねぇの?いや、サイヤ人と地球人のハーフ……つまり悟飯と同じ存在!そら、潜在能力ハンパねぇわな!


「私は簪に勝つ……だから、貴方も円夏に勝ちなさいよ一夏?」

「言われるまでもないぜ刀奈――けど、お前の方こそ負けるなよ?機体の相性ではお前の方が有利とは言え、簪のガッツは凄いモノがあるからな。」

「大人しそうに見えて、あれで根性あるのよねぇ簪って。ゲームセンターのUFOキャッチャーで激レアの仮面ライダーのフィギュア見つけた時には、最終的に
 野口さん五人も消費してゲットしたしねぇ……其れでも定価で買うよりも安かったらしいけど。」

「其れはガッツって言うよりも執念じゃね?いや、どっちにしても凄いと思うけどな?」


試合前にも拘らず、穏やかで和やかな会話が出来るのも一夏と刀奈だからだろうか?――まぁ、試合前であるにも拘らず、これだけの精神的余裕があるの
ならば何の問題も無いだろう。
だって、精神的余裕があると言うのは、戦いに於ける大きなアドバンテージになるのだから。


「其れじゃ、行って来るぜ刀奈。」

「えぇ、勝って来なさい一夏。」

「勿論その心算だっての。
 織斑一夏。銀龍騎、行きます!」


そして、一夏はカタパルトから発進してアリーナへと飛び出したのだった――が、アリーナに現れた一夏の姿を見た陽彩は又しても混乱の極みに陥っていた
っぽかった。


「(一夏の機体が白式じゃねぇだと!?其れに、マドカもサイレントゼフィルスじゃねぇだと!?)」


一夏と円夏は、陽彩の原作知識とは違う機体でアリーナに降り立ったのだ。
まず一夏が纏うISは、パワードスーツと言うよりも、洗練された鎧の様なモノだった。
頭、胸部、両肩、両腕、両足には銀色の装甲が展開された騎士の様なデザインなのだが、そんな中でも一番目を引いたのが、頭部のヘッドパーツだ。
ドラゴンの頭部を模したような其れは、ハイパーセンサーが内蔵されているであろうカメラアイが黄金色に輝き、龍の開いた口から一夏の口元が見える独特
のデザインだった――その姿に、観客の殆どは電光掲示板に表示された一夏の専用機の『銀龍騎』の名に納得していた。
続いて円夏のISは、一夏の物と比べると装甲の面積が大きく、また装甲も厚いようだが、此方もメカメカしいパワードスーツと言うよりはアメコミに出て来そう
なヒーローと言った感じだろうか?
純白の装甲には金のラインが入り、背中に搭載された高速機動用のウィングスラスターと思しきモノが目を引く。機体名は『シャイニングウィング』だ。
取り敢えず絶賛大混乱中の陽彩は放っておいても問題なかろう――だって大事なのは四組のクラス代表決定戦なのだから。


「思った以上に盛り上がってるなぁ?やっぱ俺達が千冬姉の弟と妹だからか?」

「其れも有るだろうが、其れプラス世界初の男性操縦者と日本代表の戦いって言うのも大きいんじゃないか?……今や兄さんは、世界で最も有名な男性に
 なっているからな?」

「別に有名になんぞなりたくなかったんだが、ISを初めて動かした男ともなれば嫌でも有名になっちまうよなぁ……もしも実家で暮らしてたら毎日の様にマス
 コミが押しかけて来たんだろうなと思うとゾッとするぜマジで。
 社員寮に住まわせてくれた甚八郎さん(更識パパ)と華凛さん(更識ママ)には感謝しかねぇな。」


ん~~、其れは確かにゾッとするなぁ?って言うか、あの連中は自分達が押し掛ける事で当人だけでなくご近所さんにも迷惑を掛けてるって事を分かってな
いのだろうか?……分かってないからあんな事が出来るんですよねぇ!だから、口の悪い人に『マスゴミ』言われるんじゃゴルァ!
っと、気を取り直して試合前であっても一夏も円夏も自然体――つまり、最高の精神状態にあると言う事だろう。


「そんじゃまぁ……始めるか円夏。楽しもうぜ、このパーティを!」

「ふ、イカレタパーティは大好きだ!寧ろ大好物だよ!」


試合開始のアナウンスが流れたと同時に一夏も円夏も動いた。
一夏は距離を詰めるように動き、円夏は逆に距離を離すように動く――一夏の機体は近接戦闘型で、円夏の機体は遠距離型なので此れは当然の事であ
るのだが……


「行けよ、翼!」


距離を取った円夏は、高機動用のウィングスラスターの一部をパージし、其処からビームを発射して一夏を攻撃し始めた――此れがシャイニングウィングに
搭載されているビット兵器『翼』だ。
その名の通り、高機動用のウィングスラスターをプラットフォームにして搭載されており、その形状から『機動兵装ウィング』とも呼ばれている物である。
この兵装そのものは、先の一組のクラス代表決定戦でセシリアが披露しているので其処まで観客も驚く事は無かったのだが、円夏の戦い方には大いに驚く
事になった――何故って、円夏はビット兵器を操作しながらも自身も動き、更に射撃まで行っているのだから。
セシリアがBT兵器操作中は動けなかったのを考えると、円夏のIS乗りとしての実力の高さが伺えた筈だ――此れだけの多角的攻撃が行われたら、相手は
其れへの対処で手一杯になってしまうのだから。


「ビット兵器は、もう俺には通じないぜ円夏!」


だが一夏は、焦る事なく、拡張領域からビームダガーを取り出すと、其れを投擲してビット兵器を破壊!しかも、ビット兵器から発射されるビームを華麗に回
避してからのカウンターだ。
模擬戦を始めた頃は連敗しまくっていた一夏だが、何時の頃からかビット兵器に対応出来るようになり、ビームダガーでビット兵器を破壊する事が出来る様
になっていたのだ。
そして其れだけではなく、ビームダガーでビット兵器を半分ほど破壊した一夏はイグニッションブーストで円夏に接近し、日本刀型のISブレードを一閃!!


「くぅぅぅ……何故だ?如何してビットの動きを見切れるんだ兄さんと刀奈は?」

「其れは、自分で考えろよ円夏――俺と刀奈からの宿題ってな。」


其の一閃を円夏もまた近接戦闘用のビームブレードを展開して辛くも防ぐが、この距離は一夏の間合いだ――そう、此の間合いこそが一夏が円夏との模擬
戦での勝利数が多い理由だ。
ビット兵器は他方向から多角的な攻撃が出来る優秀な兵装だが、其れを十全に使いこなすには高い集中力と並行思考能力と空間認識能力が必要になる
のは既に述べたが、円夏はそれら全てを十分なレベルで備えており、ビット兵器を操作しながら動く事も、射撃も可能だ――其れだけ見れば、最強クラスに
思えるだろうが、その円夏にも弱点はある。
其れが、近接戦闘だ。
円夏は近接戦闘が出来ない訳ではないが、しかし近接戦闘能力では一夏には大きく劣る上に、近接戦闘ではビット兵器は使えないのである。
他方向からの多角的攻撃が可能なビット兵器だが、近接戦闘では全く役に立たない――背後からの不意打ちを驚異的な直感で回避された場合には、己を
誤射してしまうだけでなく、そもそもにして近距離戦は遠距離戦よりも攻防が複雑化するからビット兵器の操作は難易度が高いのだ。
射撃、砲撃戦ならば基本的に正面からしか攻撃は来ないが、近接戦闘となると上下左右から次々と攻撃が繰り出されるので、其れに対処するにはビット兵
器の操作に思考能力のリソースを割く事が出来ないのだ。
そして、此れが一夏と円夏の機体の相性だ――ビット兵器で圧倒する事が出来れば円夏が勝つが、円夏の懐に飛び込む事さえ出来れば一気に一夏が有
利になるのである。
其れでも、一夏が刀オンリーだったら円夏も何とかなったかも知れないが、一夏は刀の攻撃だけではなく、蹴りや拳、果ては刀と鞘の疑似二刀流をも使って
来るのだから、近接戦闘が得意でない円夏からしたら堪ったモノではない。
矢継ぎ早に繰り出される近接戦闘技の雨霰に、対処するのは至難の業だと言えるだろう――一夏がIS操縦者としてレベルアップした事で生まれてしまった
圧倒的な相性の悪さが存在していたのだ。


「隙ありだぜ円夏!」

「しまった!」


そしてこの攻防の最中、ローキックで体勢を崩した円夏に、一夏は雷光のエルボーを叩き込むと、其処から切り上げ式の居合を炸裂させて円夏を打ち上げ、
其れを追う様に間合いを詰め、刀と鞘の疑似二刀流を喰らわせると、逆手の連続居合を叩き込み、トドメに落下速度を加えた兜割りを炸裂させる。
近接戦闘でガリガリシールドエネルギーを削られていた円夏は、一夏のこのコンボを喰らってシールドエネルギーがエンプティーになってしまった……って言
うか、バトルとなったら実の妹でも手加減しない一夏君が凄いわ。
機体を解除して腕を組む姿がまた様になってるからねぇ?此のハイスペック主人公め!って言うかそのポーズは、ストリートファイターのリュウの勝ちポーズ
ですね!


「此れで俺の六連勝だな?近接戦闘も磨かないと、俺には勝てないぜ円夏。」

「そうだな……だが、短所を補う暇があるのなら、私は私の長所を伸ばす方を取るぞ兄さん――必ずや、近接戦闘を行いながらもビット兵器を自在に扱える
 ようになってやる。
 その時を楽しみにしてろ兄さん。」

「其れ、何処の白い魔王の理論だ?――まぁ、長所を伸ばすってのは大事だけどな。」


まぁ、何にしても四組のクラス代表決定戦の第一試合は一夏が円夏を圧倒して勝利を収めた――でもって、此の試合を見た陽彩は『一夏の奴、こんなに強
かったっけ!?』と、またも自身の原作知識とは違う事態に頭を抱えていた。
……原作なんて存在しないって言っても、通じないんだろうねコイツには。








――――――








そんなこんなで、四組のクラス代表決定戦の第二試合は、刀奈と簪の『更識姉妹対決』なのだが――何故か刀奈も簪もISを纏わずにフィールドに現れたの
だ。
一体何事かと思ったが、其れは次の簪の行動で解決した。


「変身!」


簪は専用機の待機状態であるカードを掲げて翻すと、其れを制服のベルトのバックルに差し込み、そして次の瞬間には専用機が展開されていたのだ。
分かる人には分かっただろう……簪は『仮面ライダーディケイド』の変身を模した動作で専用機を起動したのだ――そんな事をしなくても起動出来るが、ここ
は簪の特撮愛が炸裂した感じだ。
展開された簪の機体は、全身が白の装甲で覆われ、頭部にはバイザー型のアイパーツが展開されており、足と肩にはミサイルポッドが見える、砲撃戦特化
の機体である事が分かる。
対する刀奈はと言うと……


――バッ!


右手を天に向かって突き出したかと思うと、其の手を真っ直ぐに下ろし、腰の辺りで真一文字に切ってから腰の横に構え、左手も真一文字に切る。


「変身!」


妹がディケイドなら、姉はRXの変身キタコレ。刀奈は妹の趣味に付き合う位にはノリが良いのだ。


「私は太陽の子!仮面ライダーブラックRX!!」


いや、アンタ仮面ライダーじゃないから。って言うか、名乗り口上のキレッキレな動きをパーフェクトに熟すアンタに脱帽だっての――ネタを挟みながらも刀奈
は己の専用機を展開する。余裕あるなぁ!
そして現れたのは、一夏の専用機である銀龍騎に酷似した機体だったが、装甲はメタリックレッド、カメラアイはグリーンになり、搭載武装も刀型のISブレード
から槍に変更されている。
此れこそが、刀奈の専用機である『紅龍騎(こうりゅうき)』だ。
一夏の銀龍騎にはスピードで劣るがパワーで勝る機体である。


「悪いけどこの後は一夏とのデートが待っているのよ……だから、勝たせて貰うわよ簪?」

「そう……だけど、そのデートは今回はキャンセルだよ刀奈。勝率は絶望的に低いけど、勝った事が無い訳じゃないんだから、私が勝った時の戦い方をすれ
 ば勝つ事が出来る。」

「そうね……でも、其れが出来るかしら?」

「出来るかどうかは問題じゃない。やるかやらないかだよ刀奈。」

「ふふ、其の通りね――行くわよ簪、ミサイルの貯蔵は充分かしら?」

「ほざくなよ雑種が。」


でもって試合開始――試合開始直前までネタをぶっこんでくる更識姉妹が素敵すぎるぜマジで。今回は衛宮とギルさんですね、分かります。
ってな感じで始まった第二試合は、刀奈が距離を詰めようとするのに対し、簪が距離を離そうとすると言う、先程の一夏対刀奈に似た出足となった――機体
の性能が刀奈が高機動近接型で、簪が遠距離砲撃射撃型なので此れは致し方ないだろう。


「かんちゃーん!たなっち~~!どっちも頑張れ~~!」

「刀奈、負けるなよ!」

「簪、妹の意地を見せてやれ!」


観客席からは一夏達の声援が飛ぶ……と言うか、簪が『かんちゃん』なのは分かるとして、刀奈が『たなっち』とは、相変わらず独特なニックネームを付ける
子だなぁのほほんさんは?
所謂原作では『オリムー』だった一夏と、その妹である円夏はどんなニックネームになるのやら。


「イッチーと、マドマドだよ~~?」

「のほほんさん?」

「誰に話し掛けてるんだお前?」


誰でしょうねぇ?其れについては、何も言えないな。
それはさておき試合の方だが、間合いを離したい簪に対し、刀奈は両手甲に搭載されたビームマシンガン『雪崩』で牽制射撃を行う――ダメージを与える事
が目的ではなく、簪の動きを鈍らせるのが狙いだ。
だが、其れに対し簪もビームマシンガン『ソル』を使って刀奈の牽制射撃を相殺する……いや、其れ普通に凄くない?波動拳を波動拳で相殺するような事を
現実でやるとは驚きだわ。


「此れ位の射撃が通じないのは織り込み済み……だったらこれは如何かしら?」


牽制射撃を相殺された刀奈は、今度は牽制ではなくダメージ目的で両手の雪崩を簪に向かって集中斉射!寧ろ集中砲火!
ビームマシンガンの連射性能は、実弾マシンガンの倍以上であり、集中砲火によって生じる弾幕は、弾幕シューティングゲームのエグイラスボスレベルの弾
幕になるのだ……まぁ、正面からしか来ないので回避は容易なんだけどね。
なので簪も余裕で回避したのだが、此れが刀奈の狙いである事は簪も重々承知している――この正面弾幕を回避させる隙に槍の間合いに詰めて来ると言
うのが刀奈のパターンだったから。
何度もそのパターンを喰らっていた簪は、回避しながらもソルと、ビームライフル『朧』で射撃を行い刀奈を近付けさせないようにする――簪が刀奈から上げ
た十一勝は、何れも刀奈を近寄らせなかった事で得たモノなのである。


「私が此れまで勝った時と同様に、絶対に近寄らせない!」


ソルと朧による射撃を行いながら、更に肩と足に搭載されたミサイルポッドからミサイルを次々と発射して、ガチに弾幕シューティングの絶対倒せない攻略不
可能ラスボスレベルの弾幕を大展開!
雪崩は高速連射出来ないが、ソルはトリガーを引いている限りオートでビームが発射されるので、ソルをバラ撒きながら、更にミサイルも他方向にバラ撒くと
言う徹底っぷり……ゲーム画面だったら画面の九割を覆い尽くす極悪弾幕だ此れ絶対に。
此れだけの弾幕を張られたら刀奈も完全回避は難しいだろう……確実に何発かは貰って、ダメージを受けた筈だが……


「中々激しいラブコールね簪?そのラブコールに応えてハグしてあげようか?其れともキスの方がいいかしら?」

「嘘……無傷?どうして?」

「あらあら、忘れちゃった?
 私の紅龍騎にはナノマシン精製機能が搭載されているの――其れを使って私の周りにナノミストを発生させて水のヴェールを作り出したのよ。水で出来た
 無形の盾をね。」


刀奈は無傷だった。
ナノマシン精製機能『ミストミラージュ』で水のヴェールを作って自身を覆い、簪の弾幕攻撃をやり切ったのだ。


「時に簪、周りをよく見てみなさい?」

「さて、私は一体何人いるでしょう?」

「そして本物の私はドレでしょう?」

「!?」


更に、何と簪の周囲には無数の刀奈が存在していた……その数なんと二十!
勿論これは刀奈が増えたなんて事はなく、本物以外はナノミストで作り上げた偽物の分身だ――但し、本物と見分けが付かないレベルで作り出された超精
細な分身だが。
しかし、実際に此れと対峙した簪のプレッシャーはハンパなモノではない――此れまで自分を圧倒して来た刀奈が一気に二十人になったのだから。十九体
は偽物と分かっていても、見分けが付かないのだから厄介だろう。


「だったら……全部に攻撃するまでだよ!」


其れでも簪は折れず、マルチロックオンを起動すると、全ての刀奈に向かってミサイルを発射!ミサイルには追尾性があるので、逃げる事は不可能――な
ので、全てのミサイルが全ての刀奈に命中したのだが……


「え?」


爆炎が晴れた其処に刀奈の姿は無かった。
分身の刀奈が消えたのは当然として、本物の刀奈すら存在していなかったのだ……此れは一体どういう事なのか?――簪がそう思った次の瞬間だった。


「後ろの正面だーれだ?」

「!?」


そんな声が聞こえたと思ったら強烈な槍の突きが簪を襲った――咄嗟にビーム薙刀を展開して直撃を避ける事が出来たのは奇跡と言っても過言ではない
だろう。


「刀奈、何時の間に!」

「此れもナノマシンの力よ……ナノマシンで光学迷彩を作って、貴女に気付かれない様に間合いを詰めていたのよ。」


その攻撃を行ったのは刀奈。
ナノマシンを纏って光学迷彩を作り出し、簪が分身に気を取られている間に槍の間合いまで近付いていたのだ――こう言ったトリックプレイの巧さも、刀奈の
強みと言えるだろう。
そして、槍の間合いに入ったのならば其処からは刀奈の独壇場だ。
簪も長物の薙刀を装備し、更にビーム薙刀なのでビームエッジの長さを伸ばす事で通常の薙刀の間合いの外にある相手を攻撃する事が可能なのだが、槍
はそもそも薙刀よりも更に長い武器である為、ビームエッジを可能な限り伸ばしても僅かに槍の長さには届かないのだ。
で、この僅かな差こそが刀奈と簪の機体の相性差だった――遠距離ならば簪の方が圧倒的に有利だが、槍の間合いに入ってしまえば刀奈が絶対的有利
なのだ。
その僅かな長さのせいで簪の攻撃は刀奈に当たらないが、刀奈の攻撃は簪に当たる上、槍と薙刀ではそもそも使える攻撃の種類に差があるのである。
薙刀は基本的に『斬る』武器だが、槍は『斬る』『打つ』『突く』が可能な武器であり、特に突きは攻撃モーションが小さいのに一撃必殺の威力がある恐ろしい
技なのだ。
現に刀奈も、片手連続突きで簪を攻め立てているしね。
そしてこの間合いは、簪にとって最悪なのだ――薙刀の攻撃は届かないけど弾幕攻撃をするには近過ぎる此の間合いは。……最悪な事に、槍の間合いは
簪にとって攻撃手段が全て潰されてしまう距離なのである。
薙刀は届かない、弾幕は自分もダメージを受ける危険性があるって、ドナイせいっちゅーんじゃホンマに。ターボベガのニープレスハメ、スパストX豪鬼の弱
攻撃後の強灼熱波動拳ハメ並みに如何しようもねぇわ此れ!
徐々に簪のシールドエネルギーは削られていき……


「此れで終わりよ簪……牙突・零式!!」


トドメの一撃が炸裂!……って、其れ槍でやる技じゃねぇから!そもそも間合い的に零式じゃねぇし!何より左手じゃない時点で牙突ですらない!牙突のモ
デルは『左片手一本突き』だからね!
とは言え、此の必殺の一撃を喰らった簪はシールドエンプティーとなってしまった……簪も刀奈に勝つ為に技巧を凝らしたが、刀奈のトリックプレイが簪の其
れを上回ったと言った所だろう。――一夏同様、妹にも手加減なしの刀奈が凄かったね。


「……また、勝てなかった……強いなぁ刀奈は。」

「ふふ、結構ギリギリだったけどね――分身のトリックを見破られてたらきっと勝てなかったわ。
 敢えて私の勝因を上げるとしたら、其れは勝利への執念の違いかしらね。」

「勝利への執念?」

「簪は私を倒す事を考えていたんだろうけど、私は簪を倒して一夏とのデートを考えていたから、其処に差があったのよ。」

「……要するに一夏への愛があったから勝てたって事だよね其れ?……惚気御馳走様。永遠に爆発しろ、此のリア充。」

「永遠に爆発って、可成りの無茶振りね其れは。」


うん、其れは確かにね。って言うか『リア充爆発しろ』ってどういう意味なのか良く分からん……爆発した所で何がどうなる訳でもなかろうに――其れとも、世
のカップルは全て爆死しろとでも言うのか?だとしたら物騒だなぁマジで。
ともあれ、此れで四組のクラス代表決定戦の決勝戦は一夏vs刀奈となった。


「次は貴方とのデートよ一夏。確りエスコートしてね?」

「勿論、最高のエスコートをさせて貰うぜMademoiselle?(お嬢様?)」


刀奈が観客席の一夏を指さして言えば、一夏も其れに慇懃に応える……だが、其処には恋人同士を超えた闘気のぶつかり合いが発生し、闘気がぶつかっ
た場所では火花放電が発生していた。……お前等本気で超サイヤ人じゃないですよね?
銀と紅の龍騎が激突する四組のクラス代表決定戦の決勝戦は間違いなく激戦になる事だろう――そんな予想をしつつ、観客席でこの戦いを見ていた観客
(主に一年生)は、代表候補生と国家代表には大きな差があるのだと知っただけでなく、世界初の男性IS操縦者である織斑一夏の実力がドンだけのレベル
なのかを知る事になったのだった。
だが、だからこそ会場は盛り上がるのだ――日本代表最強の刀奈と、日本代表を下した一夏が戦うのだから。きっと決勝戦は、一回戦以上の激闘になるだ
ろう。間違いなく、ね。












 To Be Continued 







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