臨海学校二日目の朝。
臨海学校の様な特殊な時でも、一夏の朝のルーティーンは変わらず、早くに目を覚ますとジャージに着替えて朝のロードワークに繰り出す……海辺の旅館と言う
事で、すぐ傍に砂浜があるので学園では中々出来ない砂地でのロードワークが出来ると言うのも一夏が何時ものルーティーンを行う理由だったりするのだ。
土や芝生、アスファルトでのロードワークとは異なり、砂地のロードワークは足がより深く地面にめり込む上に、踏ん張りが利き辛いので足腰に掛かる負荷が大き
く、その分下半身をより強化出来るんだわ。
更に一夏は、より付加を大きくする為に、何処から持って来たのかタイヤをロープで引っ張っている……己を鍛える為には一切の妥協はしないのだ一夏は。
「臨海学校の時でも鍛錬は怠らないとはな。」
「カヅさん……」
「昨日、お前の身体を見たが、中々に良い身体をしてるじゃないか。
インナーマッスルとアウターマッスルの両方が理想的な形で鍛えられてるが、其れがお前がドレだけの鍛錬をして来たと言うのを証明している……お前が俺や
千冬さんを越えるのはそう遠くないかもな。」
「必ず超えてやりますよ、千冬姉もカヅさんも。
二人とも俺の目標だけど、目標ってのは其処に到達するだけじゃなく、追い付いて越えてこそだと思うから。」
「其れが分かってれば上出来だ。何時でも挑んで来な、まだ当分負けてやる心算はないけどよ。」
其処に稼津斗が現れ、一夏が鍛錬を怠ってない事を賞賛したが、一夏にしてみれば此れは普通の事であり、目標は千冬と稼津斗に追い付いて追い越す事だと
言うのだが、稼津斗以上の『俺より強い奴に会いに行く』思考と言えるだろう――って言うか、稼津斗と千冬に勝てるようになったら問答無用で世界最強だろ。
「ところでさカヅさん、千冬姉の事何時になったら貰ってくれるんです?ぶっちゃけて言うなら、何時結婚すんの?」
「うおっと、そう来たか一夏……結婚は、まぁ考えてはいるんだが、先ずはプロポーズからってな。
まだ先になりそうだが、世界規模のドデカい格闘技の大会に出て、優勝したら千冬さんにプロポーズする心算だ……指輪には、俺の全財産の八割を使って、純
金のフレームにダイヤを散りばめたものにしようと思ってんだけど如何よ?」
「悪くないけど、ゴージャスで派手な指輪より、千冬姉にはシンプルでシックな指輪の方が似合うと思いますよ?……敢えて石嵌めない純金のシンプルな指輪って
言うのもありじゃないですかね?」
此処で一夏が爆弾を投下したが、稼津斗は稼津斗で千冬にプロポーズする気はあったようだ……其れをするシチュエーションには拘りがあったようだが。
でもって、指輪に関しては一夏がアドバイスをして千冬に似合う指輪が決まったっぽい――格闘の実力は兎も角、恋愛に関しては五人も嫁が居る一夏の方が稼
津斗よりも上なのだ。現に、五人全員に指輪を送ってるからね。
そんなこんなで朝練を終えた一夏は、汗を流す為に温泉に――向かう前にスマホでLINEを起動してグリフィンにメッセージを送信……『おはよう。お互いに今日も
一日頑張ろうぜ。』と言う短いメッセージだが、此れもまた臨海学校の期間中に一緒に居られないグリフィンへの配慮だろう。
直接会う事は出来ずとも、愛する相手からのLINEメッセージが来ると言うのは嬉しい事だろうからね。
「『二日目はISの訓練だから、頑張ってね』か……了解です、と。」
グリフィンから送られて来たメッセージに返信すると、一夏は温泉で汗を流してリフレッシュ。やっぱり、朝食は爽やかな気分で食べたいモノだし、周りは女子ばか
りなのだから、運動後の汗の臭いとかには気を付けなければならないからな。
尚、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、クラリッサの四人も朝風呂を楽しんで居たらしく、壁越しのお喋りでお風呂タイムはより楽しいモノになったらしかった。
夏と刀と無限の空 Episode25
『臨海学校の二日目に予想外が!』
臨海学校二日目の朝食は、ご飯に味噌汁、焼き魚と漬物と言うシンプルな物だったが、焼き魚は数種類の中から好きなモノを選ぶ事が可能なだけじゃなく、水揚
げされたばかりの新鮮な魚を使ってると言うのだから豪華なモノと言えるだろう。
納豆がオプションなのは、生徒が日本人だけではない事への配慮と言った所か……尤も、刀奈以外の一夏の嫁ズは、一夏が何度か『初体験の外国人にも食べ
易い納豆料理』を作ってくれたおかげで全員納豆OKなのだけれどね。
この朝食時に一夏の両隣りに居るのは刀奈とロラン。昨日の夕食時の一夏の両隣りはヴィシュヌとクラリッサだったので、今回はね。――こうして不公平にならな
い為のルールがちゃんとしてる辺りも一夏が一夫多妻に真剣に向き合ってる事の証だわな。
で、朝食は全員が納豆付きだったのだが、焼き魚は一夏がイワシ、刀奈がトビウオ、ロランがアジ、ヴィシュヌがサバ、クラリッサがカレイだった……刀奈がオーダ
ーしたトビウオは、あの特徴的なヒレがそのまま付いていたので可成りインパクトが強かったが、取り敢えず朝食は平和だった。
本音が納豆に最初から付いて来た卵黄とネギと鰹節に加え、其処に醤油だけじゃなく、一味唐辛子、花椒、漬物を加えると言うインパクト抜群の事をしてくれたけ
ど平和だった。……納豆ってのは、ある意味で食べ方が最もフリーダムな食品であるのかも知れないな。
そんな感じで朝食を済ませ、午前中は自由時間なので昨日と同様に海で過ごし、昼食はこれまた昨日と同様に海の家で済ませた……今日のカレーの肉は『プー
ラシア牛のモモ肉』と昨日以上に怪しい代物だったが。
んで、午後の訓練の為に一度シャワーを浴びて、ISスーツを取りに各自部屋に戻り、改めて砂浜に向かおうとしていたのだが……
「…………」
「ん?如何した乱?」
「あ、一夏。アレ、何かなって。」
一夏は縁側で庭を見つめる乱に出会い、何かあったのかと聞いたのだが、乱が指さした先には地面から生えるウサミミが……しかもご丁寧に『優しく抜いてね♡』
ってプラカードまで刺してあるのだ。乱が怪しむのも当然と言えよう。
だがしかし、一夏からすればこんな事をするのは只一人しかいない上に、その人物は割と何をしても平気なので、手加減は必要なかった。
「カヅさん……やっちゃって下さい。」
「滅せよ……愚か者め!!」
速攻で稼津斗を召喚し、召喚された稼津斗はハイジャンプから落下速度に全体重を乗せた手刀――神・豪鬼の『禊』で、ウサミミを文字通り木端微塵に完全滅殺
して見せた。――ウサミミがあった場所に半径3mのクレーターが出来た辺り、マジで手加減なしだったのだろう。やっぱ人間辞めてるわコイツ。
稼津斗と千冬が結婚して子供が生まれたら、その子供はベジータ位なら余裕で倒せる超人に成長する気がしてならない。
「一夏、大丈夫なのアレ?」
「大丈夫だろ?どうせ束さんはあそこには居ないし、仮にいたとしてもあの位じゃあの人は掠り傷も負わねぇから心配するだけ徒労だって……千冬姉にアイアンク
ローからの琴月・陰のコンボを喰らっても一秒後には復活してるからな。」
「そう言えば、一夏はISの生みの親の束博士と知り合いだったんだっけ……って言うか、束博士って本当に人間?」
「俺としては宇宙人と地球人のハイブリットの可能性があるんじゃないかと思ってる。
篠ノ之家は全員黒髪なのに、あの人だけ天然で紫だからな……更に言うと箒と全然似てないから、雪子小母さんが宇宙人にアブダクションされて子種を植え付
けられたんじゃないかと思ってる!!」
「まさかのトンデモ説来た!!」
其れは兎も角、一夏の束への評価が割とアレだった……確かに、宇宙人とのハイブリットってのは若干否定出来ない部分があるのは事実だけどな。姉妹なのに
箒とは似ても似つかないからね。
まぁ、このウサミミは無害みたいだったので良しとしよう――旅館の庭に大クレーターこしらえた稼津斗は、そのクレーターを埋める羽目になったのだけれどな。
――――――
そして午後のIS訓練。
基本的には学園での実技訓練の時と同様に、専用機持ちがグループに分かれて教えているのだが、臨海学校では普段は実技授業の担当ではない教師も参加
しているので少しばかり雰囲気が異なるのだ……安定のジャージ姿で右手に竹刀を持ってるスコールは盛大な勘違いをしているようだが。
まぁ、服装に関して言うのならば、今日は千冬や麻耶も動きやすいジャージだから違和感はない――因みに千冬と麻耶のジャージがIS学園指定の物であるのに
対し、スコールのジャージは濃紺の地にシルバーで『ARADESU』の文字とロゴが入った見事なパロディ商品……スコール・ミューゼル、彼女は果たしてドレだけの
ジャージを所持しているのかちょっと謎である。
まぁ、其れは其れとして訓練其の物はとても順調に進んでいると言って良いだろう。
所謂『一夏チーム』は教え方が巧く、何処がダメで何処が良かったのかを明確に説明してくれるので、教えられる側の生徒達も己の長所と短所を理解し易く、そし
て短所を克服するのか、それとも短所には目を瞑って、長所を伸ばすのかを選択出来るのだ……現状では、短所の克服よりも己の長所を伸ばしたい生徒が多い
のだけれどね。
だが、其れは間違いではない……短所を補って出来上がるのは、最大公約数の平均的なIS乗りでしかないからね。ならば、敢えて短所には目を瞑って、長所を
伸ばした方が良いってもんだ。短所を克服する暇が有ったら長所を伸ばせってのは、ある意味では当然の事と言えるかもしれない。
それを徹底した一夏チームの指導を受けた生徒は秘められた才能が開花しようとしてる奴もいるらかね。
そもそも一夏チームが、一夏と円夏と簪は完全特化型だし、オールラウンダー型にしても、刀奈、ヴィシュヌ、グリフィン、乱は近接より、ロランとクラリッサは射撃よ
りのオールラウンダー、コメット姉妹は支援型と、見事に得意分野が分かれているのだから、指導方法も得意分野を伸ばすになるのは当然と言えるだろう。
「うん、大分いい感じだぜ鷹月さん。基本動作は完璧だし、武器の使い方も大分サマになって来たじゃないか。」
「そうかな?一夏君達の教え方が巧いから、教えて貰う方も上達が早いんじゃないのかな?」
「あんまり自覚ないけど、そう言って貰えるのは素直に嬉しいな。
でも、俺達がやってるのはあくまでも皆の成長の手助けでしかないからさ、其処まで上達したのは個人の努力があってこそだと思うよ俺は。」
そうして開花し始めた才能に関しても、『個人の努力が有ればこそ』と言われれば更にやる気は出ると言うモノだろう。誰だって、自分の努力を褒められたら、より
努力してみようと思うモノだからね。
そう言う意味では一夏チームの面々は教える相手を乗せるのも巧いと言えるだろう。
その逆なのが陽彩チームだ。
鈴は感覚的な話ばかりで分かり辛く、セシリアは逆に細かすぎて理解不能、ラウラはガミガミ言うだけで何が悪いのか教えず、陽彩に至っては使ってる機体が特
殊過ぎるため、そもそも指導役に向いていないと来た……唯一ちゃんと教えているのはシャルロットなのだが、シャルロットはシャルロットで『ちゃんと指導すれば
成績も上がる』と言う打算の元でやってるのだから純粋な指導とは言えんだろう。
加えて、二組である筈の鈴が一組に混ざっていたり、逆に一組のコメット姉妹が二組の指導をしてたりするのだが、この辺は合同授業の時も割とそうなので最早
誰も突っ込み入れず、千冬自身も『いっそ二学期からはコメット姉妹と鈴音をクラス交換して、問題児は一纏めにした方が良いか?』とすら思ってたりするのだ。
まぁ、今回の臨海学校で、改めて一組の生徒が他の三クラスと比べて練度が低いのが浮き彫りになったと言えよう……実技授業の担当は同じく千冬と麻耶なの
に差が出ると言うのは、此れはもう個人の努力の問題なので如何しようもないのかも知れない。
尚、二組は新たに『フォルテ・サファイア』と言うギリシャの代表候補生が指導側に加わっているのだが、彼女は此れまで専用機がなかったので同じく代表候補生
ながら専用機を持って居ないティナと共に、乱やコメット姉妹のサポートに回っていただけで、決して此れまでサボっていた訳ではない。
臨海学校の直前に専用機がロールアウトして学園に届けられ、晴れて専用機持ちとなった今は指導側に回っているのだ……此れまで、一夏達に接触してこなか
ったのは、『専用機がないと格好が付かないから』だとかなんとか。まぁ、彼女なりの拘りみたいなモノがあったのだろう。
「それでは、専用機持ちは此方に集まれ。」
ともあれ訓練は進み、此処からは専用機持ちは一般生徒とは別メニューになるのだが、何故か専用機持ちの一団の中に箒の姿があった……陽彩と一緒に居た
いとかではなく、まるで居るのが当然とも言わんばかりの態度でだ。
「織斑先生、な~んで篠ノ之が居るんすか?コイツ、専用機持ちじゃないですよね?」
「あぁ、其れはだな……いや、説明するよりも見た方が早いか。丁度来たようだからな。」
一夏の質問に千冬は答えようとしたが、何かが来るのに気付いたのか視線を浜辺の先に向け、一夏達も同じ方を見ると……
「ちーちゃーーーーん!!会いたかったよ~~~!!」
砂煙を上げながら世紀の大天災にして大天災の束が千冬に向かって突撃して来る所だった……そしてそのスピードが可成りハンパない。と言うか速すぎて残像
が出来るレベルに達しているってドンだけなのか。本気で宇宙人かもしれんなこの人は。
「さぁ、久しぶりに会ったんだからハグしよう!チューしよう!いちゃいちゃ、ヘブ!?」
「久々の再会のハグは兎も角、なんでお前とキスしたりイチャ付かねばならんのだ……私にそっちの趣味はないし、私にはカヅが居る事を忘れるなよ束?」
「おぉう、相変わらず見事なアイアンクローだねぇ?しかもアイアンクローかますだけじゃなくて、その状態で束さんの事持ち上げちゃうし……で、そろそろ放して欲
しいなぁ?
割と本気で頭がミシミシ言ってるから、そろそろ砕けるんじゃないかなぁって。」
「この程度で砕ける柔な身体ではないだろうがお前は。そもそも、砕けたら砕けたで砕けたパーツ夫々が新たなお前として再生する気すらするぞ。」
「束さんは一体何時の間に、マンガ版ドラゴンボール超の合体ザマスになったのかなぁ?」
まぁ、突撃して抱き付こうとした所で、千冬のアイアンクローを喰らってそのまま宙吊りにされてしまったのだが――如何に相手が女性とは言え、人一人を片手一
本で宙吊りにしてしまう千冬もまた大分人外であるのかも知れないけどね。
イキナリの事に、その場に居た生徒の多くは驚いていたが、一夏と円夏と箒は『何だか懐かしい光景だ』と千冬と束の遣り取りを見ていたようだが。
「まぁ、良い。取り敢えず自己紹介をしろ束。」
「だね。いっ君とまーちゃん、かたちゃんとかんちゃん……そして箒ちゃん以外は初めましてだからね。
どうも、初めまして。ISの生みの親である篠ノ之束です。皆ヨロピコ!!」
んで、千冬のアイアンクローから解放された束は学園の生徒達に自己紹介。若干ノリが軽いが、其処は自分のネームバリューを認識している束なりの配慮と言っ
た所だろう。
良くも悪くも自分は有名なのだから、そんな有名人が突然目の前に現れた事に緊張しない様にフレンドリーな軽いノリで自己紹介をした訳だ。それ位の気遣いは
出来るのだ彼女は。
「……お久しぶりです、姉さん。」
「おぉ、久しぶりだね箒ちゃん!暫く見ないうちに大きくなったねぇ……特におっぱいが。束さんの見立てだと98のHカップってところかな?此れは、三桁の大台も
夢じゃないかも。
箒ちゃんのおっぱいは化け物か!?」
「そう言う事は言わないでください!!」
そんな束に箒が話し掛けたのだが……此れまた何とも言えない姉妹漫才が始まった感じだ。
まぁ、確かに束の言う様に、箒は胸だけはバカでかいからな。ぶっちゃけIS学園の生徒の中ではぶっちぎりのトップと言えるだろう――まぁ、教師を含めれば麻耶
と言う更に上が居るのだが、少なくとも生徒で箒のバストサイズを上回る者は居ない。
「其れよりも、頼んで居た物は?」
そんな姉妹漫才を半ば強引に終了させるかのように、箒は束に尋ねる。『頼んで居た物は何処か。』と。
訪ねられた束はと言うと、ポケットから赤いブレスレットを取り出して箒に渡す。
「勿論持って来たよ。待機状態だけど、此れが箒ちゃんの専用機である紅椿。
可成り気合を入れて作ったから、第四世代機ってところだね。」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます、姉さん!!」
そう、此れが箒が専用機持ちと一緒居た理由だ。
箒は本日付で一般生徒から専用機持ちにクラスチェンジするのだ……七月七日の本日は箒の誕生日であり、束から『誕生日に専用機をプレゼントしてあげる』と
言われていたので、堂々と専用機持ちの方に混ざっていたのだ。
「だけど、その機体にはリミッターを掛けて2.5世代にまで性能を落としてあるけどね。」
「え?如何いう事ですか姉さん!何故そんな事を!」
「決まってるじゃん、箒ちゃんが素人だからだよ。」
だが、喜ぶのも束の間、束は紅椿にはリミッターを掛けて性能を落としてあると言う事を箒に伝えた……箒は驚き、どういう事かと束に詰め寄ろうとしたが、其れよ
り先に束がその理由を話し始めた事により、箒は詰め寄る事が出来なかった。
「紅椿は確かに高性能なISだけど、逆に高性能過ぎて熟練者じゃないと其の力を十全に発揮する事が出来ないんだよね。
それどころか、リミッターで能力を制限してやらないと、箒ちゃんの方が機体性能に付いて行けずに全身がボロボロになっちゃうって……最悪の場合は二度と立
って歩けなくなるレベル。
今の箒ちゃんは免許を取得したばかりのドライバー、そんな人に行き成りF1を操縦しろって言っても無理なのと同じ。――まぁ、箒ちゃんが頑張って自分のレベ
ルを上げればリミッターは解除されて行くから、紅椿の真髄を引き出せるかは箒ちゃん次第だね。
でもって、此れが一番大事な事なんだけど、この紅椿は束さんから箒ちゃんへの最後のプレゼントだよ……今この時を持って、私は君と姉妹の縁を切るから。」
だが、リミッターを掛けた理由以上の爆弾を束は此処で投下した。
「姉妹の縁を切るって、如何言う事ですか姉さん!」
「どうもこうも言葉のままだけど?
君が私の事を嫌ってるのは知ってたけど、嫌われてるなら嫌われてるで其れは構わないと思ってたんだ……だけどさ、普段は嫌ってるくせに、自分の都合の良
い時だけ『篠ノ之束の妹』の立場を振りかざすってのは人として如何なの?
私としてもさ、都合の良い時だけ姉扱いされるのは冗談じゃないんだよね……そもそも、いっ君にストーカーしてたくせに、転校先で出会った男にアッサリと転が
る尻軽娘が妹とか、束さんでもゴメンだから。」
当然箒は驚くが、そんな事はお構いなしに束は此れまで溜めていた箒への不満をアサルトライフルの如くぶちまけての絶縁宣言!!箒への専用機は、文字通り
の手切れ金だった訳だ。
ともあれ此れで、箒は専用機を手に入れたとはいえ、二度と『篠ノ之束の妹』と言う立場を行使する事は出来ないだろう……少なくとも一年生全員が、束が箒と姉
妹の縁を切るって宣言を聞いちゃったからな。
「そんな……」
其れを聞いた箒は絶望していたが、其れも束からしたら知った事ではない……都合の良い時だけ、自分の妹と言う立場を利用しまくって来た箒にはほとほと愛想
が尽いていたのだろう本気のマジで。寧ろ今まで愛想を尽かさなかったのが不思議なレベルであると言えるだろう。
束と絶縁=二度と束を利用&助けを求める事が出来ないと知った箒は、己の最大の後ろ盾(だと思っていた)を失ったショックと絶望が、専用を手に入れた嬉しさを
上回りどこぞの漫画の最終回状態になってるが、束には最早如何でも良い事だろう。
束には縁を切った元妹よりも大切な事が有る。紅椿の開発も、『箒に専用機を渡す』と言う大義名分を作って此処に来るためだったのだから。
「かたちゃんは知ってるけど、それ以外の三人は初めましてだね。君達がいっ君のお嫁さんかな?」
束が此処に来た最大の目的は、一夏の嫁ズに会う事だ。篠ノ之束として会うのは初めてなので、こんな挨拶になるのは致し方ないだろう。
南風野吏としてはクラリッサ以外とは会っているのだが、篠ノ之束としても一度ちゃんと会っておこうと思ったのだ――南風野吏として会った時は、ロラン達は一夏
の友人だったが、今は刀奈と同等の恋人になってるってのもあの時とは違うしな。尤も、南風野吏として会った直ぐ後に、ロランは立候補しているのだが。
まぁ、其れは其れとして、束に尋ねられたロラン、ヴィシュヌ、クラリッサは……
「嗚呼、其の通りだよ篠ノ之束博士……私こと、ロランツィーネ・ローランディフィルネィの心はすっかり一夏に奪われてしまった。
だから、彼の嫁に立候補する衝動を抑える事が出来なかった――九十九人の百合の花を魅了した此の私を魅了するとは、実に罪な男だよ彼は。」
「どんな時でも貴女は絶対にブレませんねロラン。ある意味で感心します。
初めまして篠ノ之束博士。ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーです。一夏に選ばれた一人です。」
「よもやISの生みの親に会う事が出来るとは、光栄だな。
ドイツの黒兎隊副隊長のクラリッサ・ハルフォーフです。如何やら私には、一夏の琴線に触れるモノがあったらしい。」
相手が世界的な有名人である束に対しても、臆する事無く自己紹介をして、束に聞かれたことを肯定した。
まぁ、指輪まで貰ってるんだから否定する理由が何処にも無いからな――だが、其れを聞いた束は満足そうに笑みを浮かべていた。実の妹である箒以上に可愛
がっていた弟分の一夏に、素敵な嫁が出来た事が嬉しいのだろう。
この場に居ないグリフィンの答えだけは聞く事が出来なかったが……
『初めましてプロフェッサー束!ブラジル代表のグリフィン・レッドラムです!一夏に選んで貰いました!』
刀奈のスマホの画面にグリフィンの顔が映り、スピーカーからは声が!……何の事はない、刀奈がグリフィンにテレビ電話モードで電話を掛けて、束が此処に現
れて、自分以外の嫁ズに『君達が一夏のお嫁さんか?』と聞いて来た事を伝えて、グリフィンにも答えて貰ったと言う訳だ。
「刀奈、お前何時の間に……」
「この展開は流石の束さんも予想外だったかなぁ……まぁ、最後の一人の答えも聞けたから結果オーライだけど。」
「お褒めに預かり光栄ですわ、束さん♪」
――【恐悦至極】
刀奈は人を驚かせる事と、煽って焚き付ける事に関しても天才的に巧いので、此れ位のサプライズは朝飯前なのである。午後であっても朝飯前なのである。
まぁ、このサプライズにより、ロラン、ヴィシュヌ、クラリッサ、グリフィンが一夏の嫁だと言う事を確認出来た束は満足そうだ――束の場合、既に知っていたとは言っ
ても、矢張り本人達の口からも直接聞きたかった事だったのである。
因みに此処まで千冬もスコールも何も言ってないが、其れはまぁ別分危険な事もないからだろう……箒に関しては今は何も聞こえてないだろうから放置している
がな。
「ちょ~~~っと、予想外の事はあったけど、聞きたい事は聞けたし、皆良い子そうで束さんは安心したよ~~。まぁ、いっ君が選んだ子、いっ君に魅了された子に
悪い子は居ないと思うけどね。
さて、其れじゃあ今度はかたちゃんも含めた五人と、其れからいっ君に其々約束して欲しい事が有るんだ。」
「「「「「『約束?」」」」」』
「そ、とっても大事な約束。
先ず、かたちゃん、ローちゃん、ヴィーちゃん、クラちゃん、グリちゃん……君達は絶対に何が有ってもいっ君を裏切らないで、いっ君の味方で居てくれるかな?
そして、どんな時でも五人で力を合わせていっ君を支えてあげるって、この二つを約束してくれるかな?」
「そんな事、当然の事じゃないですか束さん。勿論約束します。」
「一夏を裏切る……そんな事出来る筈がないじゃないか。私の心は既に一夏に捧げているのだからね……そして、彼を支えるのは当然の事さ。」
「はい、約束します。此の私の心に誓って……!」
「裏切ると言うのは、人として最も最低の行為だ……そんな事は絶対にしないさ。一夏を悲しませたくないし、やった自分が惨めになるからね。」
『安心してくださいプロフェッサー。ブラジル人は血気盛んで喧嘩が大好きな人種ですけど、仲間や恋人を裏切る事だけはしませんから!
其れと、何が有っても私達で一夏の事を支えますから!』
「うん、宜しい!
次にいっ君、君も何が有っても彼女達を裏切らない事、何が有っても彼女達を己の寿命が尽きるその時まで守り抜く事……そして彼女達を必ず幸せにする事。
此れを約束してくれる?」
「束さんアンタ……何を当たり前の事を言っていやがるバカ野郎!!」
「うわぁお、まさかそう返して来るとは思わなかった。」
「すいません、東亰ザナドゥの不良パイセン大好きなんで……ま、其れは兎も角、約束しますよ束さん。『自分の女に責任持てないなんてのは、最低の男だ』って
カヅさんも言ってたし、俺も彼女達を悲しませる事はしたくないからな。」
「ん、Goodだよいっ君。」
その後の束の『約束』に関しても全員が異口同音に『約束する』と答えた事で束は実に満足そうだ――一夏に対して、『全員を女にする事!』とか言わなかったの
は、流石に空気を読んでの事だろう。一夏と二人きりだったら間違いなく言ってだろうけどな。
さて、傍から見れば和やかな遣り取りだが陽彩だけは信じられないような目で一夏達と言うか束を見ていた……此処でもまた、彼の持つ原作知識とは全く違う束
が現れたのだから致し方ないだろう。
原作の束は、箒大好き人間で周囲の迷惑なんぞ考えずに自分のやりたい事を好き勝手にやる性格だったのに、目の前に現れた束は箒に専用機を渡したはした
が絶縁を叩きつけ、逆に一夏の嫁ズと何だかフレンドリーに会話をしているのだからね。
だが其れも、一瞬自分の方を見た束の目を見た瞬間に全て吹き飛んでしまった……陽彩を見た時の束の目には一切の光がなく、まるで『異物が……』とでも言う
かのような冷たい目をしていたのだら――其れもホンの一瞬だったので陽彩以外には気付いていなかったが、陽彩は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えて
いた。
だが、それでも何とか踏ん張って耐え、茫然自失状態の箒を再起動させて、専用機の最適化と一次移行をするように促したのは大したモノと言えるだろう。
そんな陽彩を尻目に、千冬は一夏達と束の遣り取りを微笑ましく見ていた……そして同時に、束の『約束』に迷う事無く力強く答えた事に安心もしていた。
だが……
「織斑先生、大変です!」
「如何した山田君?」
「実は……」
麻耶が何やら慌てた様子で現れて、耳打ちをした突端にその表情は引き締まったモノに代わり、まるで現役時代の試合前の様な厳しい顔に変わる……如何にも
あまり良くない事態が起きたみたいだ。
「諸君、緊急事態が発生した、訓練は中止だ!
各自、旅館に戻って旅館内で指示があるまで待機するように!旅館内の移動は認めるが、旅館の外に出る事は禁ずる!」
そして生徒達に緊急事態が発生した事を伝え、旅館内での待機を命じると訓練の為に設置した的なんかを急いで片付けはじめ、其れを見た生徒達も直ぐに旅館
に戻る準備を始める。
緊急事態の詳細は分からずとも、千冬を始めとした教師陣の態度から、『途轍もなくヤバい事が起きた』事を察したのだろう――だが、そんな中で陽彩だけは、密
かにほくそ笑んでいた……彼の記憶にある通りの展開が起きたからだ。
此れから起きる事で自分が活躍して、あわよくば一夏を始末しようとか考えてるのだろう……容姿は一夏より優れていても、クズは何処までもクズでしかないな。
――――――
旅館に待機になった生徒の中で、一夏チームは何時ものメンバーに、新たにフォルテが加わって、旅館のサロンに居た。
「いや~、初めましてっすね一夏君!自分はギリシャの代表候補のフォルテ・サファイアって言うっす!宜しく!」
「フォルテ……若しかしてレイン先輩の……」
「そう、恋人っす!……やっぱ、女同士とかオカシイっすかね?」
「いや、良いんじゃね?恋愛に老若男女は関係ないだろ?お互いに好き合ってるなら問題ねぇって……だがしかし、野郎同士だけは如何しても受け入れられねぇ
んだわ此れが!
野郎同士がキスしてるとか、マジで引くわ!!」
「噂では、漫研が一夏と陽彩君のBL同人誌作ってるとかなんとか……」
「其れがマジだったら、臨海学校が終わったら俺は漫研をぶっ潰しに行くぜ……そして、稼津さん直伝の滅殺剛昇龍で漫研の腐女子を全員滅殺してやる……!」
何だか初めて加わったとは思えない程にフォルテが馴染んでいるのだが、此れもまた一夏チームの特徴であると言えるだろう――一夏チームは、余程の事が無
い限りは『誰でもウェルカム』なので、新たに入って来た者に対しても割とフレンドリーに接するので、フォルテも直ぐに馴染む事が出来たのだ。
緊急事態が発生したのに緊張感が足りないかとも思うだろうが、その緊急事態が何であるのかも分からないのに緊張しても無駄だと、そう思って居るからこその
自然体なのだ……自分達に直接関係ない事ならば、緊張するだけ徒労だからね。
――ピンポンパンポーン
『緊急連絡。織斑一夏、織斑マドカ、更識刀奈、更識簪、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、クラリッサ・ハルフォーフ、凰乱
音、ファニール・コメット、オニール・コメット、フォルテ・サファイア、布仏本音、以上の生徒は至急教員室101に集まる様に。繰り返す……』
と、此処で一夏チーム全員に千冬からの招集が掛かって一行は指定された部屋……一夏と千冬が宿泊している部屋に集合したのだが、其処には千冬の他にス
コールも居た。其れも二人とも先程までのジャージ姿ではなく、千冬は何時ものスーツ姿で、スコールは千冬とは異なるパンツタイプのスーツ姿だった……この二
人がスーツ姿と言うのが、事態が只事ではない事を示していた。
「千冬姉、一体何があったんだ?」
「……つい先程、ハワイ沖で行われていた、アメリカとイスラエルが共同で開発していた新型の無人機ISの起動実験中に、其の新型機が暴走した……そして其の
機体は此の近くの海域を通過するので、其れを止めて欲しいとの依頼が学園に入った。」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」(例によって鍵カッコ省略)
そして、其れは予想を遥かに上回るモノだった――新型のISが暴走し、そして其れを止める事になるとは予想しろってのがそもそも無理な話ではあるのだがね。
「暴走している事で、其の新型機の攻撃は絶対防御が発動する位に危険なモノになっている……この依頼を受けるか否かは、お前達の判断だが……」
「そう言いつつも、断らない面子を選んだんだろ千冬姉?……余計な前置きは要らない、俺達は如何すればいい?」
「一夏……そうだったな、余計な前置きは不要か。
単刀直入に言う、諸君等にはこの暴走した新型機、『銀の福音』を止めて欲しい……本来ならば、大人である私達が何とかしなくてはならないのだが、現状で福
音に対抗できるのはお前達しか居ない。――だから、頼めるか?」
「ふ、任せとけよ千冬姉、福音だか何だが知らねぇが、相手が千冬姉以上じゃない限りは、俺達に負けはねぇ……暴走した新型機を鎮圧する位なら如何って事な
いって。」
言葉を濁す千冬に対し、一夏は余計な事は要らないと言い、依頼の全容を千冬からオープンにさせる……最新鋭のISの暴走を止めるってのは並大抵のモノでは
ないのだが、しかし一夏チームにしてみれば其れ程難易度の高い任務ではなかった。
最新鋭機と言うのならば性能では負けるのかも知れないが、一夏達には機体の性能差すら覆してしまうほどの実力があるから、性能差なんての所詮飾りなので
ある。
でもって、千冬から機体スペックを聞いて作戦を考えていたのだが……
「ハーイ、ちょっと待とうか!!」
此処で大天災にして大天才の束が乱入!天才と天災は順不同だ。……天井をぶち抜いて現れたのには、流石の千冬も驚いていたがな。
「束、何の用だ?」
「いんや、此れ大事な事だから。
銀の福音は無人機って伝えられてるけど、其れは嘘で本当は人が乗ってる……そして福音が暴走したのは、福音に無理矢理IS用の武装じゃない『人を殺せる
通常兵器』を搭載しようとしたから。
……要するに、ISを兵器として利用しようとして暴走させちゃったんだよ。マッタク持って、馬鹿な事をしたもんだね。」
だがしかし、束が齎した情報はトンデモナイ事だった……IS学園には無人機だとされていた福音が実は有人機で、暴走した理由が福音を兵器として利用しようとし
たと言う事なのだから……此れは下手しなくても国際問題に発展するレベルだろう。
まして有人機を無人機と偽っていたとなれば、国際人権団体からの追及だって免れない……アメリカとイスラエルは、無人機として処理させた後で、真実を闇に葬
ろうと言う魂胆だったのだろう。――尤も其れは、束の手によって未遂に終わった訳だがな。
とは言え、暴走した機体が有人機ならば任務は一気に難易度が跳ね上がったと言えるだろう――無人機ならばぶっ壊してお終いだったのが、有人機であるのな
らばそうはいかない……パイロットも無事に保護しなければならないからだ。
「此れは、大分難易度が跳ねあがったが、だからと言ってクリアできないレベルじゃねぇ……行けるよな、皆?」
「其れ、聞く必要ある?」
「愚問だぞ兄さん。」
「私達にしか出来ないのなら、其れをやるべき。」
一夏が聞けば、全員がやる気充実のやる気120%だ――やるとなったら全力全壊の全力投球が一夏チームなのである。
「お、織斑先生!ミューゼル先生!!」
「如何した山田君?」
「何か問題が?」
「其れがその……ま、正義君と、篠ノ之さんと、オルコットさんと、凰さんと、ボーデヴィッヒさんが無断で出撃してしまったんです!!」
だが、此処で予想外も甚だしい事態が麻耶から告げられた……シャルロットを除く陽彩チームが無断で出撃したと言うのだ――原作知識がある陽彩は、この機に
活躍して己の株を上げようと考えたのだろうが、其れは最悪の一手だろう。
「正義……何してやがんだあの馬鹿野郎!死ぬ気かよ!!」
「其れ以前に如何して彼は出撃したの?……いいえ、そんな事は今は如何でも良いわ――先ずは彼らを連れ戻さないと!!」
「あの馬鹿共め……説教だけでは済まんぞ――!!」
新型機の暴走と言う厄介な事態に加えて、シャルロットを除いた陽彩チームの無断出撃と、事態は如何控え目に見ても悪い方向に――最悪の事態に向かってる
のは確実だった。
「行くぞ皆!!」
「えぇ、行きましょう一夏!」
「相手が誰でも、君と一緒なら負ける気がしないな。」
「暴走を、止めましょう必ず!」
「隊長……少しばかり軽率ですよ。」
「イッチー、私は何をすればいいの~~?」
「のほほんさんはオペレーターを頼む!」
だがそれでも一夏チームは焦る事はなく、本音をオペレーターに据えて出撃準備は完了している……マジで、一夏チームはチームとしての完成度がとても高いと
言えるだろう。
そしてこの最強チームは、此れより福音の鎮圧と、命令無視して無断出撃した阿呆共を連れ戻す為に緊急出撃……戦力的にはマッタク問題ないのだが――
――パリン!
「アレ、愛用のコーヒーカップが割れた……なんか不吉だなぁ?」
遠く離れたIS学園の寮では、グリフィンが愛用しているコーヒーカップが突如真っ二つに割れると言う、何とも縁起の悪い事が起きていたのだった……
To Be Continued 
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