遂に学年別タッグトーナメントの日がやって来た訳なのだが、ラウラは第三アリーナで蛮行を行ったにも係わらず、学園からの処分はあれど、国際的な処分は下
されずに此の日を迎えていた。
何故国際的な処分が下されなかったのかと言えば、其れは被害者であるヴィシュヌとグリフィンが本国への報告をしなかったからだ――若しもヴィシュヌとグリフ
ィンが本国への報告をしていたら、タイとブラジルからドイツに猛抗議が入ってラウラは即刻ドイツに強制送還となっていただろう。

だがしかし、一夏もヴィシュヌもグリフィンも――更に言うなら刀奈とロランも、ラウラの事を『ドイツへの強制送還』なんて言う生温い処置で済ませる心算はマッタ
クなかった……アレだけの事をしてくれたのだから相応の報いを受けさせなければならないと思っているのだ。

だからこそ、ヴィシュヌとグリフィンは本国への報告を行わなかったのだ――だって、強制送還されてしまったら一夏がラウラを叩きのめす機会は無くなってしまう
し、何だか巧い事逃げられたように感じてしまうからね。

学園の方としても、ラウラがアリーナの使用許可を取っていた事、ラウラが一方的に襲い掛かったのではなく、可成り強引な方法で半ば無理矢理な形ではあるの
だが、ヴィシュヌとグリフィンも戦闘の意思を示していた事で『一方的な暴力ではなく、同意された模擬戦』と認めざるを得なく、『やり過ぎた事への反省文』程度の
処罰しか下せなかったのだ。

故に今日と言う日までラウラは何ら不自由なく学園生活を送れていたのだ……反省文の提出と、毎日放課後に千冬の『個人授業』と言う名の『惚気話』を完全下
校時刻まで延々と聞かされると言う地獄はあったとは言え、陽彩とタッグ戦の練習をしたりと至って普通の生活が出来ていたのだ。……そんな日々の中でも、一
夏への一方的な憎悪を忘れなかったと言うのはある意味で大したモノではあると思うが。

だが、それ故にラウラは気付いていない……自分が一夏に燃やしている憎悪の炎以上に、一夏が自分に対して怒りの炎を静かに燃やしていると言う事に。一夏
だけでなく、刀奈とロランも同等の怒りを抱いていると言う事に。――そして今日、其れが遂に自分に向けて放たれると言う事にも。


「ハァァァァァァァ……セイッ!!」

「セイ!ハッ!ヤァァァァァ!!」


そしてタッグトーナメント当日の朝であっても、一夏は何時ものトレーニングは欠かさない……今日は、と言うか此処数日は刀奈も一緒にトレーニングをして、コン
ビネーションの練習なんかもしている。
ラウラを倒す為の牙と爪を、あの日からずっと砥いでいたと言う訳だ。
元々息の合っていた二人だが、この数日間のトレーニングでコンビネーションの精度は更に上がり、更に個々の力も上がっているので正に隙なしのタッグに仕上
がったと言えるだろう。


「一夏、刀奈、そろそろ良い時間だからその辺にしておいたら如何かな?」

「朝ごはん出来てるよ?」

「運動後の昂った気持ちを鎮めるアロマも炊いておきました。」


そんな一夏と刀奈をサポートしていたのがロランとヴィシュヌとグリフィンだ。
トーナメント不参加を決めたロランと、怪我と機体の半壊により出場出来なくなったヴィシュヌとグリフィンは裏方に回って二人をサポートする事に決めたのだ。
重傷を負ったヴィシュヌとグリフィンだが、ヴィシュヌの骨折以外は日常生活に支障をきたす負傷はなく、ロランがメインとなり、グリフィンは主に料理で、ヴィシュヌ
は右腕だけでも出来る機体データの整理やアロマセラピーなんかで一夏と刀奈のタッグを支えていたのだ。――正にチーム一丸って所だね。
雨降って地固まる、ではないのかも知れないが、ラウラが起こした蛮行が切っ掛けとなり、この五人の絆はより強くなった――否、一夏がLINEでクラリッサに『ラウ
ラと戦うかもしれない』と言う事を連絡し、其れを聞いたクラリッサもまたスマホ越しではあるが、対ラウラ戦に付いて真剣に考えてくれたので、六人の絆がより強く
なったと言うべきかもしれない。


「もうそんな時間か?分かった。」

「何時も最高のサポート、感謝するわ♡」


一夏と刀奈もトーナメント前の最後のトレーニングを終えて寮の中へ――二人が去った場所の地面に大きな斬り痕が残されていたのだが。


「……練習用の木刀とゴム槍でコンクリートを抉るとか、坊主と嬢ちゃんも大分人間離れして来たな?――俺の護衛とか要らないんじゃねぇかと思うぜマジで。」


二人のトレーニングを陰ながら見ていたオータムは、其れだけ言うと新たなタバコに火を点け一服しながら、トーナメントが無事に終わるように願っていた。

因みにだが、本日の朝食はグリフィンが担当した事で、朝っぱらから『肉120%』だったのだが、脂身の少ない肉で作られていたので特に胃にもたれる事もなく
美味しく頂いた。寧ろ、胃にもたれるどころかトーナメントでガッツリ力が発揮出来る位のメニューだったと言えるのかも知れないわな。










夏と刀と無限の空 Episode20
『Start of tag tournament by grade』










学年別タッグトーナメントが行われる会場は、学園のアリーナの中でも一番大きな『大アリーナ』だ。
此処は、普段生徒達が訓練なんかで使う『小アリーナ』とは違い、モンド・グロッソ等で使われるISバトルの会場とほぼ同じ大きさのアリーナで、会場キャパシティ
も同じ位あると言う施設だ。
其れだけの大きな会場での試合ともなれば多少は緊張すると言うモノだが、一夏と刀奈にそんなモノは全くなかった……刀奈は一度、一夏は二度、此の会場で
試合をしているのだから緊張なんぞする訳ないのだ。(刀奈はクラス代表決定戦、一夏はクラス代表決定戦とクラス対抗戦ね。)

とは言え、今回はクラス代表決定戦やクラス対抗戦とは少々異なり、学園関係者以外の外部の観客も来ていたりする――其れは主にIS関連企業の人間だ。
実は学年別トーナメントは、単純な学園イベントの他に、IS競技者を目指す生徒にとっては自分を売り込むチャンスの場であり、企業側からすれば、優秀なISバト
ル競技者をスカウトする場でもある為、特に競技科に進んだ二、三年生にとっては将来に関わって来る大事なイベントでもあったりするのだ。


「企業のスカウト、ね。俺と円夏、刀奈と簪には関係ねーよな。」

「そうね。競技者の道に進んだ場合は、自動的に更識ワールドカンパニーがスポンサーになる訳ですもの♪」


まぁ、中には織斑兄妹や更識姉妹の様にスカウトされるまでもなくスポンサーが決定してる企業付きの生徒もいる訳だが……と言うか、更識姉妹と円夏は、日本
の国家代表でありながら、更識ワールドカンパニーの企業代表も務めてるってんだから中々にトンデモナイかも知れない。――世界中探しても、国家代表と企業
代表を兼任してるってのは珍しいモノだろうからね。


「一夏。」


大アリーナに入ろうとした所で、一夏は誰かに呼ばれた。
『何だ?』と思い、声がした方を向くと……


「クラリッサ?」


其処に居たのはクラリッサだった。
以前のお見合いの時とは違い、今日はドイツ軍の軍服と軍帽を被っている……其れがまた彼女の魅力を引き立てているのが何とも言えないだろう。クールな女
性と軍服の組み合わせってのは中々に最強である。


「如何して此処に?」

「君の人柄はこの間のお見合いで知る事が出来たが、君の実力が如何程かと言うのも見ておいた方が良いと思ってね――と言うのもあるが、LINEで遣り取りを
 していたら会いたくなってしまったんだ。
 学年別トーナメントと言うのは、毎年外部からの人間も見に来るとの事だったから良い機会だと思ってね……中将殿に『織斑一夏の実力をこの目で見ておきた
 い』と言ったら、アッサリと許可されて此処に来たと言う訳さ。」


如何やらクラリッサは、『一夏の実力を見る』との名目のもとに一夏に会いに来たらしい……まぁ、刀奈達と違ってクラリッサは一夏と一緒に居られない訳だから、
会いたくなってもしたかないけどね。まぁ、其れだけ一夏の事を思ってるって事だろう。


「さいですか……だけど、来るなら来るって言ってくれよ?」

「其処はサプライズと言う奴だ。こう言ったサプライズがあってこそ、私達の仲はより進展すると言うモノなのだろう?」

「漫画やアニメで得た知識なんだろうけど、其れは若干間違ってるかな?……大間違いって程は間違ってないのが何ともアレだが。……テストで微妙な答えをし
 ちゃった生徒の答案を丸付けをする先生ってこんな気分なのかも知れないな。
 って、そう言えばクラリッサは実際に刀奈達に会うのは初めてだったよな?……彼女達がお前以外の俺のパートナー達だ。」


クラリッサのちょっと間違った知識に苦笑いを浮かべながらも一夏はクラリッサに刀奈達の事を紹介する。クラリッサだけが、一夏の他のパートナーの名前は知っ
てても顔は知らない状況だったのだから此れは当然の事と言えるだろう。
自然な流れで其れが出来る一夏が見事だと言わざるを得ないがな。


「君達が一夏の……クラリッサ・ハルフォーフだ。君達同等、一夏に選ばれた一人だ。宜しく頼む。」

「更識刀奈よ。宜しくねクラリッサ。」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、君と同様に一夏に心を奪われてしまった者さ……同じ男性に惹かれた者同士、仲良くしようじゃないか。」

「ロラン、アンタ偶には普通に出来ないの?……まぁ、其れがロランなんだけどさ。
 私はグリフィン・レッドラムだよ。宜しくねクラリッサ。」

「ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーです。」


夫々が自己紹介をし、互いに握手を交わす――一夏のLINEのやり取りに参加していた刀奈達だが、実際に会ってクラリッサには『同じ男性を愛する同士』の波動
を感じ、クラリッサもまた同じモノを感じたらしかった。……一夏の嫁ズは結束力もハンパなさそうである。
取り得ずファーストコンタクトは大成功だと言えるだろう。


「ん?時にヴィシュヌとグリフィン、その包帯やギプスは?模擬戦で怪我でもしたのか?」

「えっと……此れはその……」

「何て言うか……」

「……ラウラにやられたんだよ。」


そんな中でクラリッサはヴィシュヌとグリフィンの絆創膏や包帯に気付き、如何したのかと尋ねヴィシュヌとグリフィンは答えに窮したのだが、一夏が特大の爆弾を
投下してくれた。
ラウラが隊長を務めている黒兎隊の副隊長であるクラリッサに、『ラウラにやられた』って告げるのは核爆弾か水爆か、最低でもTNT火薬級の爆弾なのは間違い
ないからね。


「隊長に?……其れはつまり、隊長が一夏に喧嘩を吹っ掛けたが、一夏には戦う理由がないから其れを拒否し、拒否された隊長が一夏が隊長と戦わざるを得な
 くする為に彼女達を傷付けたと言う事かな?」

「……ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサー。」

「……正解。
 あの銀髪チビ、俺をテメェと戦わせる為にヴィシュヌとグリフィンを半殺しにしやがったんだ……絶対に許さねぇ。俺の大切な人を傷付けた報いを受けさせてやる
 ぜ――悪いが、お前の上官を俺は倒すぜ?」

「……構わないよ一夏。寧ろやってくれ。
 隊長はISの操縦では最強なのだが、それ以外は色々と問題があってね――特に精神的は未熟な部分もあり、ミスをした隊員を激しく叱責したり、時には殴るな
 んて事もあったからね。」


だが、それを聞いたクラリッサは『矢張りだったか』と言う表情を浮かべると、一夏に『徹底的にやってくれ』と言って来た……クラリッサから見ても、ラウラの振る舞
いには思う所があったのだろう。……ってか、ラウラでの軍での振る舞いは普通に暴君だろ?普通に隊長の器じゃないな。


「マジかよ……ガチで最低だなあの銀髪チビは?」

「そうね……お義姉さんも言っていたけど、あのおチビちゃんには一度決定的な敗北って言うモノを教えてあげる必要があるわね此れは。」

――【滅殺、抹殺、瞬獄殺♪】


なので一夏も刀奈も気合マックス!!刀奈の扇子に殺の三段活用が書かれていたのは当然と言えば当然だろう――刀奈からすれば、同じ男性を愛した同士を
傷付けられた訳だから、若干殺意の波動に目覚めてもおかしくないからね。
だが、少しばかり物騒な雰囲気になったとは言え刀奈達とクラリッサの顔合わせは成功だったと言えるだろう。互いに『一夏を愛する同士』だと言うのを確認出来
た訳だからね。


「此処に居たのか織斑、探したじゃねぇか?」

「……正義?其れに銀髪チビもだと?」


其れで終われば最高だったのだが、現れたのは最低最悪の転生者である陽彩――そして、その隣にはタッグパートナーであるラウラの姿もある。如何考えても
穏便に済むとは思えない。
……そもそもにして、陽彩は最初から喧嘩腰だからね。


「何の用だテメェ?悪いが、トーナメント前にお前の喧嘩に付き合う気はないぜ?てか、お前等タッグ組んだのかよ。」

「喧嘩じゃねぇよ、宣戦布告だ。トーナメントで当たったその時は、俺とラウラでテメェをぶっ殺す!それを忘れるなよ!!」

「織斑一夏、貴様は殺す!絶対にな!!」


陽彩とラウラは何やら強い事を言ってくれたが、其れを聞いた一夏は怯みもせずに、それどころか余裕の笑みを浮かべて見せる――世界最強の千冬を姉をに持
つ一夏だからこそ出来た事かもしれないけどな。
傍から見たら、何方が格上か丸分かりだろう。


「そうかい、精々頑張れよ?戦う前から無駄吠えしてる時点で、結果は見えてるけどな。」

「弱い犬程よく吠える……真の強者は決して吠えず強がらないモノだと言う事を学びなさいな。」


実際に一夏と刀奈は、陽彩とラウラを軽くあしらっている始末……陽彩に関ては事ある毎に勝負を吹っかけて来るんだから、あしらい方も覚えるってもんだ。適当
にあしらいながらも、キッチリと挑発かましてる辺り、試合前の心理戦も既に一夏と刀奈のペースな訳だが。


「何処までも気に入らんな貴様……まぁ良い、試合で叩きのめしてやるだけだ。
 其れよりも、何故お前が此処に居て、しかも織斑一夏と一緒に居る、クラリッサ!!」


その挑発にギリギリのところで耐えたラウラではあったが、自身の部下であるクラリッサがIS学園に居て、しかも憎き一夏と一緒に居る事に気付き、速攻でそれを
聞いて来た……一夏の所に来た時点で気付けと思うが、一夏の事で頭が一杯で周囲が見えてなかったと言う事なのだろう多分。そんなのが隊長で本気で大丈
夫か黒兎隊。


「何故と言われましても……率直に彼の実力が如何程かを己の目で確かめる為にですが?
 其れと私が彼と一緒に居るのは、私が彼に選ばれたパートナーの一人だからですが、何か問題がありましたか?」

「パートナー、だと?」

「はい。
 国際IS委員会が可決した『男性操縦者重婚法』は隊長も御存知でしょう?かの法律で定められた『国籍が被らない五人の相手』の一人に私は選ばれたと言う
 訳です……彼に私のデータを送ったのは中将殿ですが。」

「「な、なんだとーーーー!?」」

「……近距離で大声出すんじゃねぇよお前等。」


で、クラリッサが告げた事に、ラウラだけでなく陽彩も驚いて思わず絶叫してしまった。
ラウラからしたら何時の間にか己の部下であり副官である者が憎んでいる相手のパートナーになっていたと言う衝撃、陽彩からしたら『原作』では接点のないクラ
リッサが一夏のパートナーになっていると言う、『原作乖離』じゃ済まない展開になっていた事に対しての衝撃でだ。


「織斑一夏……貴様、クラリッサまで誑かしおって、もう絶対に許さん!!」

「待てコラ、何でそうなるんだ?」

「私は誑かされてなどいませんよ隊長?彼の人柄には間違いなく惹かれましたが。
 其れと、あまり一夏の事を悪く言わないで頂けますか?隊長が彼の事を如何思っているのかは知っていますが、だからと言って己の伴侶となる男性を悪く言わ
 れると言うのは良い気分ではありませんので。」

「クラリッサ!?……ククク、そうか。
 如何やらお前はそいつに洗脳されてしまったようだな?ならば余計に私は貴様を倒さねばならんな織斑一夏?術者を倒せば洗脳は解けるモノだからな!!」


ラウラは勝手に盛大な勘違いをかますと、改めて一夏に『お前を倒す』と言ってその場を去り、そんなラウラの行動で再起動した陽彩も『兎に角、今日がテメェの敗
北の日だ』と若干バグった日本語を吐いてアリーナに消えて行った。
陽彩もラウラも、略間違いなく敗北フラグを建てたと言えるだろう……去り際のセリフが、時代劇で最終的に切り捨てられる悪役以下だったからな。


「……結局、何がしたかったんだアイツ等?」

「単純に、一夏にちょっかい掛けたかったんじゃない?」

「それにしても試合前に無粋な真似をするモノだね……マッタク持って美しさの欠片もない。」

「国に戻ったら、中将殿に部隊長の変更を申し出た方が良いのだろうか?」

「其れは、要検討案件だと思います。主に部隊の為にも。」

「にしても、一夏に連敗してるのにどうして勝てるって思えるんだろうねアイツ?
 一夏単体に勝てないのに、其処に刀奈も加わったタッグに勝てる筈ないでしょうに……あ、馬鹿だからか。」


そんな事を言いながら一夏達もアリーナに。
入り口で一夏と刀奈は出場生徒の控室へ、ロラン達は応援の為に客席へと分かれて行った――その際に一夏と刀奈が突き出された四つの拳に、自分の拳を合
わせたのが、このチームの絆の深さを思わせた。無言のエールと、無言の応えってのは深い絆の証だからね。








――――――








『さぁ、始まりました!学年別タッグトーナメント!実況はこの私、新聞部のエースこと黛薫子がお送りします!そして解説にはこの方!!』

『見た目はセレブなのに、私服はジャージ、因みに今日はメルカリで購入したALS○Kのジャージで決めてる、スコール・ミューゼルが務めさせて貰うわね。』



開会式が終わった大アリーナは既に盛り上がっていた。
トーナメントに参加しない生徒と、外部からの客としてやって来たIS関連企業の人間で観客席は満杯となり、『満員御礼』、『超満員札止め』状態だ――毎年学年
別トーナメントは外部からの客が多いのだが今年は例年以上だ。
其れは矢張り、一夏と陽彩の存在が大きいだろう――世界で二人しか存在しない男性IS操縦者を如何にか自分の所にと思ってる企業は少ないないのだから。
尤も一夏は更識ワールドカンパニーの所属だから、他企業が一夏をスカウトするのは可成り難しいのだが、更識ワールドカンパニーと共同所属と言う奥の手もあ
るから狙わない手はないのだろう。知らんけど。
実況と解説が、既にトークで会場を盛り上げてるってのは素晴らしいと言わざるを得ない……既に会場が盛り上がってる方が出場選手もモチベーションが上がる
ってもんだからね。

さて、トーナメント前に少しばかりトーナメントのルールと言うか、専用機を持ってる生徒に課せられたハンデに触れておこう。
当然の事ながら出場生徒全てが専用機を持って居る訳ではなく、出場生徒の多くは学園の訓練機を使う事になる訳だが、其れだと専用機持ちとの機体性能に
差があり過ぎるので、専用機持ちには相手によってハンデが課せられているのだ。
先ずは専用機持ち同士のタッグの場合、相手も専用機持ち同士のタッグならハンデはなし、相手が片方だけ専用機持ちならシールドエネルギー30%減、相手が
何方も学園の訓練機だった場合はシールドエネルギー50%減でのスタートとなる。
専用機持ちの相方が訓練機だった場合、相手が何方も専用機持ちだった場合はハンデ無し、片方だけが専用機持ちならシールドエネルギー20%減、相手が何
方も訓練機だった場合はシールドエネルギー35%減でのスタートとなる訳だ。
訓練機と専用機の性能差を考えれば、此れ位のハンデは妥当だろう……って言うか此れ位のハンデを付けないと訓練機なんて瞬殺されちゃうだろうからな。


『解説のスコール先生、今年の注目は何処でしょう?』

『そうね……矢張り注目は一年の織斑君と正義君ね。
 世界で二人しか存在しない男性IS操縦者に注目するなと言うのがそもそも無理だし、特に織斑君はかのブリュンヒルデの弟だから余計にね。』



実況と解説がトークを繰り広げている間に、先ずは一年生の部の組み合わせがコンピューターによってランダムに決定され、次々とトーナメントに組み合わせが
表示されていく。
円夏と簪のタッグは第一試合で、乱とティナのタッグは丁度一回戦の折り返し地点に決まり、一夏と刀奈のタッグは……


「……此れはマジかよ?否、ある意味では美味しいかな?」

「そうね、ある意味では美味しいと言えるわね。」


なんと一回戦の最終試合だった。しかも相手は陽彩とラウラのタッグだったのだ――この組み合わせには会場は更に盛り上がった。男性操縦者同士の戦いは決
勝ってのが燃える展開なのだが、決勝戦でぶつかるには互いに勝ち進まなくてはならない為、確実ではない。
だが、一回戦での激突となれば絶対に見る事が出来るから盛り上がるってもんなのだ……まぁ、陽彩が一夏に連敗しまくってるのは既に周知の事だが、『タッグ
なら若しかして』と言う気持ちがあるのかも知れないが。


「しかも相手は正義と銀髪チビか……マッタク持って最高だね。確実にあの銀髪チビを成敗出来るって訳だ。円夏と簪のタッグか、乱とティナのタッグと当たったら
 アイツ等はリタイアだったろうからな。
 今回はコンピューターの選出に感謝だぜ。」

「そうね……あのおチビちゃんには確りと己の愚行と蛮行を悔いて貰いましょう。」


この組み合わせに一夏は静かに闘気を高め、刀奈は妖絶とも言うべき笑みを浮かべる……その姿は宛ら地獄の修羅と羅刹女の如しだ。――このオーラに当て
られた生徒がちょっと失神しかけたのも仕方ないと言えるだろう。まぁ、何とか踏みとどまって失神はしなかったが。
何にしても組み合わせは決まったので、先ずは一年生の部がスタートだ。

先ずはトーナメントの第一試合を飾る事になった円夏と簪のタッグ。相手は箒と鈴だ。
箒は学園の訓練機である『打鉄』を使っている為、円夏と簪はシールドエネルギーが30%減少した状態でのスタートだったのだが、そんなモノはマッタク持って問
題ではなかった。
打鉄も甲龍も近接戦闘型のISである為に射撃・砲撃戦は得意ではないのだが、円夏と簪のタッグは『火力はロマン』と言わんばかりの重火力タッグであり、試合
開始早々に簪が『相手を絶対殺す弾幕』を展開し、円夏がビット兵器で箒と鈴の動きを制限して回避出来ないようにして鬼弾幕を受けさせて速攻爆殺!!
恐るべきミサイル弾幕による爆煙が晴れた其処には、機体が強制解除されて目を回している箒と鈴の姿が……円夏と簪タッグが文句の付けようのない勝利をし
たのだった。
と言うか此の妹達、可愛い顔してやる事が割とえげつない。相手の動きを制限した上で、シューティングゲームだったら『画面の九割を覆う弾幕』とかマジで容赦
の欠片もないわ。


一回戦の折り返しとなる試合の乱とティナの相手は、セシリアとシャルロットの欧州タッグ。
相方が訓練機で、相手が専用機同士と言う事もあって乱にはハンデは課せられなかったのだが……此れまた乱とティナのコンビがセシリアとシャルロットを圧倒
していた。
クラス代表決定戦の時に既にセシリアの弱点は割れているので、乱は徹底してセシリアに近接戦を仕掛ける事でBT兵器を使わせる暇を与えず、ティナは正確な
射撃でシャルロットを牽制して乱の邪魔をさせまいとしていた。
完全に役割分担の出来ている乱とティナのタッグは手堅く、乱は近接戦が苦手なセシリアを倒すと、イグニッションブーストでシャルロットに接近して猛攻を展開!
シャルロットとて、可成り高い腕前があるのだが、自分と同格以上の相手を二人も相手にするとなれば厳しいのは間違いなく、乱の近接戦での猛攻と、精密なテ
ィナの射撃の前に少しずつシールドエネルギーが削られて行き……


「参った、僕の負けだね。降参します。」


シャルロットの専用機のシールドエネルギーが残り50%を切った所で、シャルロットが降参し、乱とティナのタッグの勝利となった――『此れ以上戦っても無意味』
と考えて降参したシャルロットも大したモノだけどね。
その後も試合は続き、そして遂に一回戦最終試合がやって来た。


『さぁ、いよいよ一回戦も最後の試合!
 戦うは織斑一夏君&更識刀奈さんのタッグと、正義陽彩君とドイツの代表であるラウラ・ボーデヴィッヒさんのタッグ!
 正義君は、クラス対抗戦の時に織斑君に圧倒されてしまったが、果たして今回はその雪辱を果たせるのか?シングルではなくタッグである事を巧く使えばそ
 れも出来るかも知れないぞ~?』

『そう巧く行くかしら?
 自分のクラスの生徒を贔屓する訳じゃないけれど、一夏君も刀奈さんも今年の一年生の中ではトップクラスの実力者……その二人がタッグを組んだと言うだ
 けでも驚異なのに、あの二人は学園一のラブラブカップルでもあるから息はバッチリあってる筈ですもの。
 正直、正義君とボーデヴィッヒさんは可成り分の悪い戦いだと言わざるを得ないわ――とは言え、勝負に絶対はないから、どうなるかは分からないけれど。』



実況と解説が、一回戦最終試合を此れ又盛り上げてくれている。……スコールは若干、陽彩とラウラを落としてる気がしなくもないが、一夏と刀奈の実力を知って
いるスコールからしたら致し方ないと言えよう。

そして盛り上がっているアリーナのバトルフィールドには既に陽彩とラウラが自身の専用機を展開して試合開始を待っているのに対し、一夏と刀奈はまだバトルフ
ィールドにその姿を見せていない。
だが次の瞬間!!


「熱く滾るこの闘志が、俺の拳を真っ赤に燃やす!!」

「仄暗く燃える冷たい炎が、世界の全てを焼き尽くす……」

「熱き炎と冷たい炎が此処に交わり!」

「無限の力で敵を討つ。此れが我等のIS道!」

「俺等と当たったのがお前等の運の尽き……精々地獄を楽しみな!!」

「絶望と言う名のゴールまでエスコートしてあげるわ。」


ISスーツ姿の一夏と刀奈がバトルフィールドに現れ、キレッキレの動きと共に啖呵を切り、一夏は腕を組んで仁王立ちし、刀奈は扇子を口元に持って来て妖艶な
笑みを浮かべてターンエンド。
此れだけでも充分にインパクトのある登場だったが、其れで終わる一夏と刀奈ではない。
一夏が刀奈を見ると、刀奈は笑みを浮かべながら軽く頷き、そして二人揃って陽彩とラウラに向き直ると、刀奈は足を大きく開いて重心を右に傾けて拳を握り、一
夏は左手を腰に構えて右腕を真上に掲げる。
一夏は掲げた右腕を真っ直ぐ腰の辺りまで下ろしてから真一文字に切って腰に構えると、左手も真一文字に切ってガッツポーズをし、刀奈は両腕を素早く交差さ
せた後に、左腕を大きく回し、右腕と一緒に身体の右上方向に一気に振り抜く。


「「変身!!」」


実に見事なRXとブラックの変身をしてくれた一夏と刀奈は専用機を身に纏い、準備は完了!!――ネタをぶっこんで来た辺り、一夏と刀奈は精神的に可成りリラ
ックス出来ていると言うべきだろう。
ラウラへの怒りは確かに有るだろうが、その怒りをコントロールしているのだろうね。


「俺は太陽の子、仮面ライダーブラック、RX!!」

「仮面ライダー、ブラック!」


『いや、お前等仮面ライダーじゃないから』と言う突っ込みは兎も角として、これまたキレッキレな名乗り口上をしてくれたところで試合開始のブザーが!……学園
側も色々分かっているようだ。

試合開始と同時に陽彩とラウラは一夏に向かって行ったのだが……


「あらあら、仲間外れは寂しいわね?」


陽彩の方には刀奈が割って入った。


「テメ、邪魔すんな!」

「そんな連れない事言わないで頂戴な。
 あの子は私の旦那と遊びたいみたいだから、貴方は私と遊んでくれない?――此れだけの美少女からの誘いを断ったりはしないわよね?」

「自分で言うかオイ?確かに美少女だけどよ。
 ……良いぜ、相手になってやるよ更識。俺に挑んだ事を後悔しな!!」


早々に一夏を叩きのめそうと思っていた陽彩からしたら出鼻を挫かれた形になったが、即座に刀奈との戦いに思考を切り替えて戦闘開始!……即座に切り替え
る事が出来たのは、『此処で楯無を倒して俺の強さを見せつけて、俺に惚れさせてやるぜ』ってクッソアホな考えがあったからだが。
尤も、陽彩が如何頑張った所で、刀奈は一夏一筋であり、一夏への愛はエクゾディアレベルなので陽彩に惚れる事なんざ初期手札五枚でエクゾディアが揃うより
も更に低い確率だけどな。


「そう……其れじゃあ、先ずは地獄のハーレムを楽しんでもらおうかしら?」

「さぁ、私達を全て倒す事が出来るかしら?」

「一夏はやったけど、貴方は如何かしらね?」

「魔法カード『増殖』を発動ってところかしら?」

「全ての私を倒さなければ一夏とは戦えないわよ♪」


「な、なんじゃこりゃー!!」


刀奈は行き成り大量の分身を作り出して陽彩を取り囲む。その数なんと五十!クラス代表決定戦の時に簪と一夏に対して使った時よりも更に多い!
ナノマシンで作り出した分身なのでビームマシンガンこそ使う事は出来ないとは言え、槍は普通に使えるので此れは厄介極まりない……特に『原作』を知ってい
る陽彩からしたら最悪だ。
『原作』での刀奈――楯無は作中でも最強クラスのキャラとして描かれており、ゲーム作品では扇子一本で一期ヒロインズを圧倒する姿まで描かれているのだ。
そんな強キャラが五十体以上に分裂したとか普通に悪夢でしかない……タイマンなら兎も角、多数が相手では如何にガンダムエクシアを使ってるとは言え、陽彩
は旗色が悪いのだから。
先ずは刀奈が陽彩に対して先手を取った形になった。


一方、一夏に向かって行ったラウラだが……


「オラァ!!」

「がっ……!!」


突っ込んで行ったところで、一夏のカウンターの喧嘩キックを叩き込まれていた。タイミング、蹴り足の高さ、威力共に申し分のない喧嘩キック――此処に黒いカリ
スマが居たら絶賛していた事だろう。
だが、このカウンターで終わる一夏ではなく、カウンターを喰らって仰け反ったラウラにボディアッパーを叩き込むと、強烈な回し蹴りを叩き込む!!
ラウラは咄嗟に其れを左腕でガードするが……



――メキィ!!



一夏の蹴りはガードした下腕部ではなく上腕部に炸裂し、ラウラの左の上腕骨を蹴り砕いた――一夏の渾身の回し蹴りは絶対防御をも貫通してラウラにダメージ
を与えた訳だ。……何それ怖い。


「ぐ……腕が!!」

「ヴィシュヌの左腕を折ってくれた礼だ……片腕が使えないってのはどんな気分だ?」

「ふん……この程度は如何と言う事はない!骨折の痛みなど気合で如何とでもなるし、骨が折れようともISのパワーアシストで腕を動かす事は出来る!」


だが、ラウラは怯む事無く、機体のパワーシストを使って折れた左腕を無理矢理動かして一夏に襲い掛かる。
其れに対し一夏は、ラウラの攻撃を最小限の動きで躱しながら、龍刀・朧で鞘当て→鞘打ち→抜刀からの逆手居合二段を叩き込み、其処から更に抜刀斬り上げ
を叩き込んでラウラを浮かせると、更に追撃を叩き込もう……


「調子に乗るな!!」

「お?」

「如何だ、此れではもう動けまい!!」


とした所で一夏の動きが止まった。
ラウラが自機の最大の機能であるAICを使って一夏の動きを止めたのだ……停止結界とも呼ばれるAICに捕らわれては一夏も動きようがない。完全に動きが封
じられてしまったらチェックメイト間違いないだろう。


「参ったね此れは、指一本動かせねぇと来た。」

「ははは……如何だ織斑一夏!身動き出来ねば貴様は只の的に過ぎん!――じっくりと甚振って殺してやる!!」

「だけど、其れはあくまでもタイマンの場合に限るんだよなぁ。」

「なに?」

「つまり、タッグマッチではあまり意味はないと言う事よ。」


AICに捕らわれて絶体絶命の一夏を救ったのは刀奈だった。
AICで一夏を捕らえて余裕ぶっこいていたラウラに向かって超絶鋭い飛び蹴りをブチかましてAICを強制解除した訳だ……愛する一夏の窮地に駆け付けた刀奈と
言うこの構図、愛の力は偉大だと思わざるを得ないだろう。


「貴様……正義は!!」

「彼は私の分身と遊んでるわ。」


刀奈は五十体以上の分身を陽彩に向かわせて、自身は一夏と合流したって訳だ……如何に陽彩が頑張ったって、五十体以上の刀奈の分身を倒すのには時間
が掛かるのは間違いないので、状況は完全に二対一となった訳だ。


「覚悟は良いな銀髪チビ?」

「ヴィシュヌとグリフィンを傷付けた報いを受けて貰うわ。」


其処からは一夏と刀奈のオンステージだった。
一夏の剣技と刀奈の槍術は同時に相手に出来るモノではなく、現役軍人のラウラでも完全に対処は出来ずに少しずつではあるが、確実にシールドエネルギーを
削られていった。
しかもラウラを襲うのは剣技と槍術だけでなく、蹴りや拳と言った格闘もなのだ……それら全てに対応しろってのは可成りの無理ゲーと言えるだろう。――サンド
イッチラリアットを喰らった時は、一瞬意識が飛びかけた位だからね。


「一夏、今よ!!」

「応!!」


戦いは続き、刀奈が槍による連撃でラウラのガードを強引にこじ開けると、其処に一夏の一閃が炸裂し……


「散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花… 今宵、散華する武士が為、せめてもの手向けをさせてもらおう!はぁぁっ…!せいやっ!」


――ズバ!バシュウ!!


秘技!桜花残月!!


其処から必殺の連撃が叩き込まれ、ラウラのシールドエネルギーを大きく減らして残りを一桁にする。
シールドエネルギーの残量が一桁と言うのは、次に攻撃を受けたら間違いなく負けとなるだろう――ラウラは完全にチェックメイト状態になったと言う訳だ。


「(私は負けるのか……こんな所で!!)」


認めたくはないのだろうが、敗北が現実に迫って来た事でラウラは精神的に追い詰められ、自分が負けるかも知れないと言う考えに居たり、そして敗北の未来を
恐怖した。
負けたら其処で終わりだとラウラは思っているからだ。


――だが……


【Willst du Macht?】(汝、力を望むか?)

「(力だと?あぁ、望む……奴を、織斑一夏を倒す力を私に寄越せ!!)」

【Jawohl……Valkyrie Trace System Anfang.】(了解……ヴァルキリートレースシステム、起動。】


敗北が訪れる其の瞬間に、ラウラに何かが語り掛け、ラウラはその何かが問いかけて来た『力を望むか?』との問いに肯定の意を示し、そしてその瞬間に其れは
起きた。


「ぐ……ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「!?」」


戦闘不能寸前だったラウラの機体が突如ドロドロに溶け、そして溶けた黒い何かはラウラを覆い尽くし、その姿を変える……そう、ラウラが最も憧れて崇拝してい
た存在へと。
力を得て、師を軽く見るようになったとは言え、ラウラの中での最強は矢張り彼女だったのだろう。


「一夏、アレって……!」

「暮桜……現役時代の千冬姉だな。」


ドロドロが再構成して現れたのは、現役時代の千冬の愛機であった暮桜――世界最強の存在が、歪んだ思いと共に一夏と刀奈の前に降臨したのだった。










 To Be Continued 







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