Side:ジャック


「どうぞ、ご注文の『ブルーアイズ・マウンテン』になります。」

うむ……この芳醇な香りは見事だな?……一杯3000円と言う高価な物ゆえ、あまり頻繁に頼む事は出来んが、偶には良かろう。
何よりも、今日は防衛戦を制したのだから、自分への褒美と言うのも悪くはない。


「偶にはいいんじゃない?って言うか、自分のポケットマネーで払ってるんだから誰も文句は言わないわよジャック。」

「遊里か……如何した?お前がカフェに来るなど珍しいではないか。」

「仕事の帰りに通りかかったらジャックが居たから、一緒にお茶しようかと思っただけ。
 あ、すいませ~~~ん、オーダー宜しく~~~!!……え~っとね、此の『濃厚カフェオレ』と『極旨フルーツパフェ』をお願い。パフェは大盛りで宜しくね。」


偶には其れも一興か。
それにしても、お前は本当に極端な味覚なのだな?……パフェは兎も角、濃厚カフェオレは大凡常人が飲める代物では無いぞ?
アレは最早カフェオレではない……カフェオレの色をした砂糖水と称した方が適切な劇物だ!其れを飲むと言うのかお前は!!……正気か遊里よ!!


「至って正気よ?てか、アタシ普通に『リンディ茶』飲めるし……味覚は結構特殊かもね~~~♪」

「特殊どころの騒ぎではないわ!!」

個人的な好みとは言え、お前の味覚は特殊すぎるぞ?……彼是口出す気はないが、身体を壊さないようにな?――マッタク、本気で規格外だなお前は。











異聞・遊戯王5D's Turn78
『絶対王者よ、下衆を裁け!』











さてと、カフェでの一時は有意義に過ごし、あっという間に夜か。
ネオ・ドミノシティは『眠らない街』と称されるが、繁華街を一歩離れるとそうでもないらしいな?夜独特の静寂が此処にはあるようだ……気分が落ち着く。


「――だから……俺達は夢を持っちゃダメなんだ!……借金返済の為に稼ぐしかないんだよ!」

「でも、其れでも!!」


と思って居たら、静寂にそぐわぬ喧噪……発生源はあの兄弟のようだな?
会話は途切れ途切れで聞き取り辛いが、如何にも借金があるようだな?――その為に己の夢を諦めると言うのか?……あまりにもふざけた話だな。


「俺達は、デュエル地蔵様に祈るしかないんだ……どうか、お救い下さいってな。
 其れに俺達じゃ、ガロメを倒す事は出来ない……貧乏人は耐えるしかないんだよ!!!」


……ガロメ?……聞いた事のある名前だ……後で遊里に調べて貰うとするか。


「嘘だ!だったら何で、デュエル地蔵にカード供えて願掛けしてるのさ!
 本当に夢を持っちゃダメなら、こんな事したって意味がないよ!!態々、デュエル地蔵にカード供えるんだから夢は諦めてないんでしょ!?」

「此れは、一日でも早く借金が返済できますようにって……言うなら気休めさ!ほら、帰るぞ!!」

「あ、ちょっと待ってよ!!」


デュエル地蔵に願掛け……そう言えば、そんな話を聞いた事が有るが――よもやそれに頼るほどに困っていると言うのか今の兄弟は?
いや、恐らくはそうではない……誤魔化してはいるが、本当に夢を諦めたのならば、あんなにムキになって否定する筈はない……諦めきれぬのだろうな。

「エクシーズモンスターか……効果も強力でレアリティも高い……あの子のエースカードではないのか此れは?」

其れを供えて……如何にも裏がありそうだな此れは?
事と次第によっては、手を差し伸べてやらねばなるまい――困っている者に、救いを与えるのもまた『絶対王者』の役目であろうからな。



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そして翌日――

「ガロメと言う奴に付いて何か分かったか遊里?」

「分かったどころじゃなく、調べたら『これでもか』って言うくらい出て来たわよ?
 ガロメ――所謂『闇金』関係の会社を運営してる銭ゲバで、親のいない子供、子供を亡くした親なんかに『嘘の借金』の取り立てを行ってる外道ね。
 『親が借りていた』『息子が借りていた』とか言って、偽の契約書を見せて取り立てをしてるみたい――外道の小悪党を絵に描いたような奴だわ此れ。」


……呆れて物が言えんな?
そんな腐れ外道を、何故セキュリティは野放しにしている?市民の事を考えるならば、即刻逮捕すべきだろう?


「其れが、証拠の立証が難しいのよ多分。
 今の情報だって、ガロメの会社のメインコンピュータにハッキングしてやっと得られたモノなのよ?セキュリティがこの事実に辿り着けると思う?」

「お前が難航したのならば先ず無理だな。」

「でしょ?加えて、此の情報も『状況証拠』の類だから、証拠能力に乏しい。
 言い逃れ様のない『物的証拠』でも上がれば、セキュリティも動きようがあると思うんだけど………」


ならば、物的証拠を取りに行くとするか?
正直、この様な下衆が私腹を肥やしている等と言う事は反吐が出る……ましてや、子供が夢を見る事を諦めかねん状態にする奴はな!!

コイツの会社に直々に乗り込んで、俺自ら成敗してくれる!!


「言うと思った――場所は分かってるから、今直ぐ乗り込む?」

「無論だ。」

下衆が……貴様の悪行の数々、このジャック・アトラスが裁いてくれる!!



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此処か……建物そのものは平屋の一階建てだが、外装が全部金色と言うのは何と言うか、この上なく悪趣味だな?…欲深い馬鹿のやりそうな事だが。


「此れが今回の返済分……其れに、俺のデッキも付ける……」

「うひひひひ……此れは此れは……ですが、こんなデッキは二束三文にしかなりませんねぇ?まぁ、多少は足しになるかも知れませんが。
 では、次の返済は10日後にお願いしますよ?期限を過ぎれば利息が発生しますのでその心算で。」



建物の中から声が……返済に来てるのはあの兄弟か!
しかも返済の足しにデッキを渡すだと!?……本来ならば、絶対に手放したくないだろうが……其れを二束三文と言うとは、腐れ外道が!!


――バァァァァァァァァァァァン!!!


「「「「「!!?」」」」」


話は聞いたぞガロメ!
貴様……随分と違法な事をしている様ではないか?その兄弟の借金も、どうせ貴様が捏造したもので、本来はない物だろう?……反吐が出るぞ下衆が!


「こ、此れは此れは絶対王者。
 しかし、行き成り現れて言いがかりが酷すぎませんかな?私は、正当な取り立てをしているだけですよ~~?
 私が彼等の借金を捏造した証拠が、一体何処にあるのでしょうか~~~?」

「此処のコンピューターに有るでしょ?
 悪いけど、此処のコンピュータをハッキングして、内部情報全部引き出させて貰ったわ――後は偽の契約書の現物を確保できれば万事OKって感じね。」


何も考えずに乗り込んできたと思ったか?――甘いな、遊里の腕を持ってすれば貴様等の情報を洗い出す事など造作もない事だ。

とは言え、俺達にセキュリティの様な捜査権限はない……其処で如何だ、俺とデュエルをせんか?


「デュエルを?」

「そうだ。貴様が勝った場合は、この兄弟の残りの借金を、俺が全て肩代わりしてこの場で払い、貴様等の事も見逃してやろう。
 だが、俺が勝った場合はこの事務所に有る全ての物をセキュリティの方に『物的証拠』として送らせてもらう――さて、如何する?」

「……良いでしょう。ですが、私が勝った場合は、払って頂く金額は、残りの借金に更に50%を加えた額とさせて頂きますよ絶対王者?」


良いだろう………貴様は此処で散るのだからな!!


「絶対王者……そんな事したら!!」

「案ずるな……この程度の奴に、俺は負けん――何よりも、夢を諦めようとしている者を放ってはおけぬのでな。」

「!!!」


故に俺は勝つ!覚悟は良いなガロメ!!


「「デュエル!!」」


ジャック:LP4000
ガロメ:LP4000



「先攻はいただきます!私のターン!
 私は『ヘル・トレーダー』を守備表示で召喚!」
ヘル・トレーダー:DEF0


「カードを2枚伏せ、ターンを終了します。」


俺のターン!よし、此れならば!
相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札の『バイス・ドラゴン』を特殊召喚できる!攻守力は半減してしまうがな。


バイス・ドラゴン:ATK2000→1000


そして、チューナーモンスター『ダーク・リゾネーター』を召喚!


ダーク・リゾネーター:ATK1300


「行くぞ!レベル5のバイス・ドラゴンに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!
 万物を焼き尽くす孤高の絶対王者よ、天地鳴動の力を揮うが良い!シンクロ召喚!降臨せよ『煌魔龍 レッド・デーモン』!!」

『バオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
煌魔龍 レッド・デーモン:ATK3000



下衆が……絶対王者の前に散るが良い!煌魔龍 レッド・デーモンの効果発動!
1ターンに1度、フィールド上のモンスターを全て攻撃表示にし、元々の攻撃力がレッド・デーモンよりも低いモンスターを全て破壊する!
砕け散るが良い!!『クリムゾン・デス・メテオ』!!


――バガァァァァン!!


貴様のヘル・トレーダーの効果は戦闘破壊でなくては発揮されんからな?効果破壊してしまえば如何と言う事は無い!!
バトルだ!!煌魔龍 レッド・デーモンでプレイヤーにダイレクトアタック!!焼き尽くせ『アブソリュート・ヘル・バーン』!!!


「そうはさせません!永続トラップ『借金地獄』
 相手モンスター1体を選択し、選択したモンスターの攻撃を封じ、相手のターンのエンドフェイズ毎に1000ポイントのダメージを与えます!!」


そう来たか……小悪党の考えそうなことだ。
カードを1枚セットしてターンエンド。


ジャック:LP4000→3000


「私のターン!クヒヒヒ……貴方には此処で終わりになって頂きましょう絶対王者!
 私は『暗黒債務取立人』を召喚!」
暗黒債務取立人:ATK2000


「このカードは『借金地獄』が存在しない場合破壊されます。
 ですが、このカードが表側表示で存在している限り、借金地獄で相手に与えるダメージは倍になります!
 更にトラップカード『超ローン地獄』!私の場に暗黒債務取立人と借金地獄が存在する場合、相手に1000ポイントのダメージを与えます!!」


ジャック:LP3000→2000


残りライフ2000……次のターンで奴のライフを0にしなければ俺の負けと言う訳か……だが、其れが如何した!
トラップ発動『誘導召喚』
俺が効果ダメージを受けたとき、ライフを800ポイント払い、デッキか手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する!来い『マッド・デーモン』


マッド・デーモン:ATK1800
ジャック:LP2000→1200



「此れはまた……カードを1枚セットしてターンエンドです。」

「俺のターン!!」

「この瞬間に、永続トラップ『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』を発動。
 此れで、貴方のレベル4以上のモンスターは攻撃する事が出来ない!!」


矢張りそう来たか……だが、絶対王者を舐めるなよガロメ!
俺は『ツイン・ブレイカー』を召喚!


ツイン・ブレイカー:ATK1600


「貴様の首を狩るのは、貴様が食い物にした夢だと知れ!俺は、マッド・デーモンとツイン・ブレイカー、2体のレベル4モンスターをオーバーレイ!
 反逆の鼓動、今此処に列を成す。革命の意思を今此処に示すが良い!エクシーズ召喚!現れよ『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

『グオォォォォォォォォォォォ!!!』
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン:ATK2500   ORU2



「そのカードは!!」


そうだ……お前がデュエル地蔵に供えたモノだ。
だが、コイツは供え物になる様なカードではない!!お前と共にまだ見ぬロードを歩むカードだ!――此れでガロメにトドメを刺してくれるわ!!

先ずは装備魔法『巨大化』をダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンに装備!
俺のライフが相手よりも少ない場合、装備モンスターの元々の攻撃力は倍になる!!


ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン:ATK2500→5000


「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果発動!
 このカードのオーバーレイユニットを2つ取り除き、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値をこのカードの攻撃力に加える!
 この効果で、暗黒債務取立人の攻撃力を半分にし、その数値をダーク・リベリオンに加える!『トリーズン・ディスチャージ』!!」


ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン:ATK5000→6000   ORU2→0
暗黒債務取立人:ATK2000→1000



「こ、攻撃力6000!!」

「此れで終わりだガロメ!!私腹を肥やすために、悪業を重ねた事を地獄で悔いるが良い!
 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンで、暗黒債務取立人に攻撃!反逆の雷で薙ぎ払え『反逆のライトニング・ディスオベイ』!!」


――ドガァァァァァァッァアッァァァァァァァン!!!



「のわぁぁぁぁぁぁぁっぁ!?」
ガロメ:LP4000→0


デュエルは制した――遊里!!


「合点承知!!深影さん、宜しく!!!」

「待っていました!!大人しくしなさい、セキュリティです!
 此れよりこの場を『強制捜査』します……社長のガロメ他は、重要参考人として、留置所に護送しなさい!」

「何でセキュリティが~~~~!!!」


ふん、事前に俺がデュエルで勝利した場合には突入する事が決まっていたのだ――大人しくお縄に付くが良い、腐れ外道が。


「いやだ、いやだぁぁ~~~~~~!!!」

「喧しいわ外道が!!」


――ゴスゥゥゥ!!


「ぴがぁ?」


ギャーギャー喚くな、耳障りだ下衆が。……精々牢獄の中で、己の愚行を悔いるが良い――貴様に出来るのは其れだけだからな。


さてと……

「このカードは大切なモノなのだろう?ならば、デュエル地蔵に供えずに、お前が使ってやれ――そっちの方がカードも喜ぶと言うモノだ。」

「……」


如何した?受け取らんのか?


「受け取りたいけど………そのカードはジャックに預けとく。
 そいつも、俺が使うよりも、ジャックみたいな超一流のデュエリストに使って貰った方が嬉しいだろうし……今の俺には不釣り合いだよ。
 だから、俺がそいつを持つに相応しい実力を身に着けたらその時にジャックに挑んで、そのカードを俺の元に取り戻す!!……だから――」


良いだろう……そう言う心意気は嫌いではない。
その時まで、このカードは預かっておこう!何時でも、カードを取り戻すために挑んでくるが良い!絶対王者は誰の挑戦だろうと、何時でも受けて立つ!!

待って居るぞ、お前が俺に挑んでくるその時をな。







因みに―――



「いや~~、更に名が上がったねジャック?」

「此処までデカデカと報道する必要があるのか?」

その日の夕刊の一面は、俺がガロメを退治したと言う記事が飾っていた――まぁ、構わんが……一体何時の間に此の写真を取っていたのだろうな?


……考えるだけ無駄か。


まぁ、今回の一件は外道を叩きのめす事が出来たと言う事で良しとしておくとしよう。













 To Be Continued… 






登場カード補足







暗黒債務取立人
レベル4    闇属性
悪魔族・効果
自分フィールド上に「借金地獄」が表側表示で存在しない場合、このカードを破壊する。
このカードが表側表示で存在する限り、「借金地獄」で相手に与えるダメージは倍になる。
ATK2000    DEF0



ヘル・トレーダー
レベル1    闇属性
悪魔族・効果
自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、 このカードは手札から特殊召喚できる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、相手フィールド上に 「ローントークン」 (岩石族・光・星1・攻守0)1体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンはリリースできず、シンクロ素材にできない。
相手ターンのメインフェイズ時、相手は手札を1枚墓地へ送る事で、 フィールド上の「ローントークン」1体を選択して破壊できる。
ATK0    DEF0



誘導召喚
通常罠
自分が効果ダメージを受けた場合に発動できる。
ライフを800ポイント払い、デッキまたは手札からレベル4以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。



超ローン地獄
通常罠
自分フィールド上に「暗黒債務取立」と「借金地獄」が表側表示で存在する場合に発動できる。
相手に1000ポイントのダメージを与える。この効果ダメージは無効に出来ない。



借金地獄
永続罠
相手モンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターは攻撃できず、表示形式の変更も出来ない。
このカードの対象になったモンスターが存在する限り相手ターンのエンドフェイズ毎に、相手に1000ポイントのダメージを与える。