Side:遊里


大破したゴーストから回収したチップを解析したんだけど、如何やらあのアンドロイドは、セキュリティが開発した『デュエルロイド』って奴みたいね。
如何にも、試作機数台が盗み出されて、ゴーストの手駒になったみたいだわ……って言うか、セキュリティの防犯システムが甘すぎると思う人は挙手して。


「はい!」

「「はい!はい!!」」

「「「はい!はい!!はい!!!」



ジャックにクロウに鬼柳に、龍可と龍亞にアイン……其れでは、全会一致でセキュリティの防犯システムはザルで穴だらけで、役に立たないと言う事でOK?


「「「「「「勿論!!」」」」」」


一切迷いなしかい!!
まぁ、今後の違法デュエル取り締まりで使われるだろうデュエルロイドの試作機が、簡単に盗み出されたとなったらそう思うのが普通だけどね……


「相変わらずの解析力だが、そいつはちっと犯罪じゃねぇか?」

「牛尾!!もう退院して良いの?」

「捻挫と脱臼で長期入院てのもアレだからな?脱臼を整体的に治して貰って、今し方退院して来たぜ。
 流石に、捻挫の方は相当にひでぇから、松葉杖を借りてはきたけどよ。」


頑丈だねアンタも……まぁ、退院したなら安心したわ。
で……ちょっぴり犯罪って事だけど、セキュリティじゃ此れを解析したところで何も出来ないと思うわよ?デュエルロイド盗難の汚点が有る訳だしね。
正直言って、セキュリティはあてにならない――だったら、アタシ達が直々にゴーストを叩きのめす!!そっちの方が、シンプルかつ確実でしょ牛尾?


「違いねぇな……ったく、お前さん達を本気にさせちまうとは、ゴーストは藪をつついて蛇どころか、トンでもないドラゴンを出しちまったのかも知れねえな。」


かもね?
何にしても、ゴーストは叩き潰す!!SXキラーが相手でも、アタシは――アタシ達は絶対に退かない!!退く理由が、何処にもないんだからね。











異聞・遊戯王5D's Turn76
『螺子は確り締めましょうね?』











とは言ったモノの、あの時以来ゴーストはぱったりと姿を見せなくなったのよね?……一体何でだろ?
盗み出されたデュエルロイドは複数体あるから、其れを使えば今まで通りの活動も出来るのに――若しかして、アタシに負けた事で警戒してるのかしら??

そうだとしたら、構わないんだけど……まぁ、アイツ等が大人しくしてくれてるなら、此方としても日常を過ごす事が出来るから悪い事ではないんだけどね。


「平和である事が一番だからな……時に遊里、このパソコンの画面一杯に展開されたアルファベットや数字や記号の羅列は一体何なんだ?
 何か重要なモノであるのだろうとは察しが付くが、其れが何であるのかは全く分からん!!見ているだけで頭が痛くなってくる此れは一体なんなんだ!」

「何って……Dホイールに組み込まれてるプログラムよ。
 此れを弄って、機体制御とか最高速度に至るまでのエンジンの出力調整や、トップスピードに至った際の速度維持なんかを司ってる重要なモノよ?」

「此れがそうなのか!?……目にするのは初めてだが、此処まで複雑なモノだとは思わなかったぞ?
 ……此れは、俺には理解出来んな……デュエルでの戦術を組み立てるならば兎も角、そう言った理数系の複雑さは、俺には肌に合わんらしい。」


あ~~~~……人夫々に得手不得手が有るって言うし、ジャックが此れを理解出来なくても仕方ないとは思うわよ?
アタシは確かに理数系得意だけど、だからってモーメントの全てを理解してる訳じゃないからね?…まぁ、其れを有効利用する手段は思い浮かぶけれどさ。


けど、ゴーストがなりを潜めて、平和であるのならば其れに越した事は無いわ。さてと、次は此れを直して――――


「失礼、上条遊里さんは此処においでかな?」


ん?お客さんかな?……上条遊里はアタシだけど、何か御用ですか?
修理の依頼だったら、1年365日何時でも休まずに受け付けてるけど、態々コンドミニアムにまで来るなんて、可成り切羽詰った仕事依頼なのかしら?


「緊急と言えば緊急かな?……と、私は今年度よりデュエルアカデミアの校長を務める者です、以後お見知りおきを。
 其れでですね、遊里さん、貴女に締め直して欲しい螺子があるのですよ?」


螺子の締め直し?……其れ位だったら直ぐに済むけど、何の螺子を締め直せばいいのかしら?


「其れはですね……アカデミアの『ハイトマン』を言うモノの螺子を締め直して欲しいのです。
 此れそのものは優秀なのですが、螺子が緩んだせいで少しばかり暴走していまして……お願いできますか?」


アカデミアのハイトマン……そう言う愛称で呼ばれてるデュエルマシーンか何かかな?アタシが在籍してた時にはなかったと思うけど。
デュエリスト養成所であるアカデミアで採用されてるなら、確かに性能そのものは優秀だろうけど、其れの螺子が緩んで暴走したと…OK、直ぐに向かうわ。

あ、どうせならジャックも一緒に来る?
アタシが修理してる間に、初等部の子達の相手でもしてあげたらいいんじゃない?絶対王者がアカデミアになんて、良いサプライズになると思うし。


「其れも面白いかも知れんな?どうせ暇だし、付き合わせて貰おうか?」

「それじゃあ、アカデミアに向かって出発進行!!」

そう言えば、アカデミアに行くのって随分御無沙汰だけど、校舎とか敷地内の施設はアタシが居た頃のままなのかな?
もしそうだったら、久しぶりに学食で『ブルーアイズ白湯麺』を食べてこうかな~~?あの白湯麺は、正に美味さが『滅びのバーストストリーム』だからね!


「うむ、意味が分からん。」

「攻撃力3000な美味しさって事よ。」

まぁ、其れもハイトマンてのを治してからの話だけどね。








――――――








Side:ジャック


と言う訳で、遊里と共にデュエルアカデミアにやって来た訳だが……如何にも面倒な場面に出くわしたみたいだな?
エントランスで、眼鏡で髭の男が初等部と思しき子供達相手に『レベルの低いデュエリストはアカデミアから排斥する』と言う趣旨の事を喚き立てているか…

奴もまたアカデミアの関係者なのだろうが、レベルの低い者をデュエリストとして育てるのがアカデミアの仕事だろうに……呆れて物も言えんぞ。


「ちわ~~っす!上条修理工房の上条遊里だけど、修理の依頼を受けて来ましたー!」

「「遊里!!」」

「やっほ~~、龍可、龍亞!遊里さん御登場!更に、アカデミアの諸君、今日は特別ゲストとして絶対王者ジャック・アトラスが特別訪校してくれたよ~~!
 さぁ、良い機会だ!最強の男にデュエルの彼是聞いて、自分のデュエリストレベルを上げる為の糧にしよう!」


そう来たか!!まぁ良いが…な。
しかし遊里よ、あの髭眼鏡を見逃す訳ではあるまい?


「勿論よ――あ、スイマセン、修理の依頼を受けて来たんですけど『ハイトマン』て、何処?」

「へ?ハ、ハイトマンとは私の事でありますが?」

「え?貴方がハイトマン!?……そう言う愛称のデュエルマシンかと思ったら人間!?つまりはアンタの螺子を締め直せって事!?」

「は~~~!?私の螺子を締め直すとは如何言う事でありますか!?」


……言葉の意味其のままだろうな……確かにコイツは螺子が緩んで暴走しているようだな?其れも相当に酷いと来ている。
デュエリストを育てる機関の人間が、此れから育つであろう芽を摘むような発言をするのは見逃す事は出来まい――此れはキッチリ締め直さなくては遊里?


「だね……序に、回路の最適化と思考形態の更新も必要だわ。」

「ムキーーー!!聞いていれば失礼な!!其れに誰の螺子が緩んでいるでありますか!!
 弱小カードを平気で使うようなレベルの低いデュエリストはアカデミアには必要ないであります!!アカデミアは、エリートのみで構成されべきである!!」


弱小カードを使うからレベルが低い……聞いて呆れるな。
だが、貴様は絶対に言ってはならない事を言ったぞ?他でもない、最強クラスのデュエリストの前でな?


「弱小カードを使うからレベルが低い?……取り消しなさいハイトマン!
 強いカード、弱いカード、そんなの使う個人の勝手でしょ?ううん、本当のデュエリストだったら強いカードよりも好きなカードを使って勝つべきじゃないの?
 確かに、強力なカードで構成されたデッキを使えば勝率は上がるかも知れないけど、そんな張り子のデッキは直ぐに鍍金が剥がれて地金をさらすわよ?
 其れすらも分からずに、純粋にデュエルを楽しんでる子達を排斥しようって言うなら、アタシは黙ってないよ?
 ……オイ、デュエルしろよ?アンタの頭の螺子をキッチリと締め直してやるわ!!」


ふむ……デュエル前から凄まじいフィールを身体から発するモノだな?此れ位は俺としては心地い位の物だが……さて、如何するハイトマン?


「頭の螺子を締め直すとは……良いでしょう、デュエルしてあげるのであります!
 ですが、弱小カードを肯定した手前、貴女のメインデッキのモンスターの攻撃力は1000ポイント如何に縛らせて貰うますが、宜しいでありますね?」

「攻撃力1000以下……上等よ。
 其れに、メインデッキって事はエクストラには影響しないし、その条件でデュエルするわ!!」


ハンデ戦か……だが、メインデッキのモンスターの攻撃力が1000以下程度の縛りは遊里の実力を削るには至らんだろう。
大幅にモンスターが削られるが、足りない分はアカデミアの子供達から借りるようだし――ハイトマンが勝利する確率は1%にも満たないかも知れんな?

遊里は元々強いが、更に友や仲間の意思を受け継ぐ事で常人では到達できない程の強さを発揮するからな?
例え攻撃力が1000以下の縛りを受けようとも、足りないカードをアカデミアの子供達から借りた遊里に隙は無い……精々螺子を締め直してやるが良い!!


「準備は出来たわ……行くわよハイトマン!」

「私が勝ったら、地獄の授業を受けて貰うでありますよ!!」


「「デュエル!!」」


遊里:LP4000
ハイトマン:LP4000



さて、どうなるかこのデュエル?


「先攻は貰うわ!アタシのターン!!『魂虎』を守備表示で召喚!」
魂虎:DEF2100


「更に魔法カード『強固な護衛配置』を発動。
 アタシのフィールド上に守備表示のモンスターのみが存在する場合、デッキから攻撃力500以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
 この効果でデッキから特殊召喚するのは『千年の盾』!!」
千年の盾:DEF3000


「カードを2枚セットしてターンエンド。」


成程な、制限を受けているのが攻撃力だけと言う事に着目して、守備力の高いモンスターを選んだと言う訳か。
魂虎も、千年の盾も、通常モンスターでトップクラスの守備力を持っている故、そう易々と突破される事は無いだろうが、其れで如何戦う心算だ遊里よ?


「私のターン!『古代の機械石像』を召喚!」
古代の機械石像:ATK500


「更に魔法カード『機械複製術』!このカードで、デッキから2体の『古代の機械石像』を特殊召喚するであります!!」
古代の機械石像:ATK500(×2)


「そして、古代の機械石像の効果発動!このカードをリリースする事で、手札の『アンティーク・ギア』を召喚条件を無視して特殊召喚するであります!
 私は3体の古代の機械石像をリリースし、手札から3体の『古代の機械巨人』を召喚条件を無視して特殊召喚するでありますよ!!」

『『『ガオォォォッォォォォォ!!』』』
古代の機械巨人:ATK3000(×3)



1ターンで、攻撃力3000の貫通持ちを3体だと!?……中々に侮れんようだなコイツは…


「更に永続魔法『古代の機械城』を発動するであります!
 此れのカードの効果で、私の古代の機械巨人の攻撃力は300ポイントアップするでありますよ~~~!!」
古代の機械巨人:ATK3000→3300


「ふ~~ん?なら其れにチェーンしてトラップ発動『ハルクアップ!』
 このターン、アタシのフィールド上に守備表示で存在するモンスターは戦闘では破壊されないわ!!」


だが、遊里もまたハイトマンに対して一歩も退かずに、モンスターに戦闘耐性か……此れならば、このターンで遊里がやられる事は無いが……


「更に、其れにチェーンして永続罠『ペイン・サモン∞』を発動!
 アタシが戦闘ダメージを受けた時、デッキから受けた戦闘ダメージの数値以下の攻撃力のモンスターを特殊召喚するわ!!」


更にか……尤も、そうでなくては面白くないがな!!
遊里のフィールドは整ったが、さぁ如何するハイトマン!!


「守りを固めたのは見事でありますが、古代の機械巨人には貫通能力が備わっているのでありますよ?
 如何に守備を固めようとも、貴女にダメージを与えるのは造作もない事であります!
 バトル!!古代の機械巨人で、魂虎に攻撃!『アルティメット・パウンド』!!」


――バガァッァアァァァァン!!


遊里:LP4000→2800

「く……だけど、ペイン・サモン∞の効果で、デッキから『バトルフットボーラー』を守備表示で特殊召喚する!!」
バトルフットボーラー:DEF2100


「攻撃はまだ続くであります!!2体目の古代の機械巨人で、魂虎に攻撃!!!」


――ドガァァァァアァァァン!!!!


遊里:LP2800→1600

「ぐ……この程度!!ペイン・サモン∞の効果で、デッキから『ビッグ・シールド・ガードナー』を守備表示で召喚!!」
ビッグ・シールド・ガードナー:ATK2600


「何を知れも無駄でありますよ?3体目の古代の機械巨人で、魂虎に攻撃!『アルティメット・パウンド』!!」


――ズガバァァァァァァアッァァアッァアァン!!


遊里:LP1600→400

「あぁぁあぁーーーーー!!……此れは可成り効いたけど、ペイン・サモンの効果で、デッキから『迷宮壁ラビリンス・ウォール』を守備表示で特殊召喚!」
迷宮壁ラビリンス・ウォール:DEF3000


何とか残りライフ400で持ち堪えたが、ハイトマンは攻撃力3000オーバーのモンスターを3体も従えている……一体どうやって勝つ心算なんだ遊里は?
この程度の相手に負けるとは思えんが――


「粘るでありますね?私は此れでターンエンドであります。」

「アタシのターン!!此れで終わらせるわハイトマン!!手札から速攻魔法『結束-Unity』を発動!!
 このカードの効果で、アタシのフィールド上のモンスターの守備力の合計値をバトルフットボーラーに集中するわ!!」

『ムオォォォォォ!!』
バトルフットボーラー:DEF2100→12800



「そして、此れがアタシの切り札!!
 手札から魔法カード『右手に盾を左手に剣を』を発動!!このカードの効果で、全てのモンスターの攻守が逆転するわ!!」

バトルフットボーラー:DEF12800→ATK12800


「ふげぇぇえぇぇぇぇ!?攻撃力1000ポッチのモンスターが、攻撃力10000越えの超強力モンスターになるとは……予想が出来なかったで有りますよ~!」


全ては、このコンボの為か……流石は無敵女帝には隙なしか。
ともあれ、此れでオーラスだ、精々派手にぶちかましてしまえ遊里!!一切の手加減などなしにしての全力のフィールを叩き込んでやれぇぇぇ!!!


「えぇ、此れで終わりよハイトマン!!
 バトルフットボーラーで、古代の機械巨人に攻撃!!『ハイパー・アメラグ・タックル』!!!」

『デリャァァァァァアッァァァアァァ!!』



――バガァァァァァァァァァァァァァアァァッァアァァァァン!!




「この私がぁぁぁぁあぁぁぁぁあっぁあ!!」
ハイトマン:LP4000→0


終わってみれば、極めて楽勝だったが、今回の事でハイトマンが分かってくれたかどうかが問題だろうな?
まぁ、攻撃力1000ポイント以下の制限を受けたデッキで、完全敗北したのだから、少しは改まるかも知れんが、其処は天運に任せてだな。


「アタシの……勝ちだ!!!」


だが、ハンデを背負わされたにも関わらず、見事なデュエルだったぞ遊里。
矢張り、お前は……無敵女帝の二つ名を冠するお前は、絶対王者たる俺のライバルに相応しい――いずれ訪れる決着の時を楽しみにしているぞ!!








――――――








Side:遊里


終わってみれば、守備力集中後の攻守逆転で一撃滅殺!!攻撃力の低いモンスターだって、使い様によっては最上級モンスターを凌駕するのよ!!
理解できたかしら、ハイトマン?


「そんな……そんな事が……!!」

「ですが、此れが現実ですよハイトマン君……カードの上辺だけ見てては、何も得る事は出来ません。」


あ、校長先生!
取り敢えず、依頼通りハイトマンの螺子は締め直した心算だけど……如何かな?


「校長?……」

「貴方のデュエルタクティクスは見事でしょうが、レベルの低い者を排斥すると言う考えは、教育者として最も間違って居ますよ?
 未熟な者を育てるのがアカデミアの仕事ですし――何よりも、遊里さんとのデュエルで『攻撃力だけでは決まらない』と身をもって知ったでしょう?」

「……で、有りますね……私が間違っていたようであります。」


如何やら、ハイトマンは己の誤りに気付いたみたいね?……なら、これ以上何も言う事は無いわ。
でもまぁ、これで仕事はこなした訳だから、支払いは期限までに厳守でお願いね、アカデミアの校長先生様♪


「ぜ、善処するよ……」


まぁ、カードや日用品での現物支払でも一向に構わないけどね、
けど、取り敢えずアカデミアに発生したトンでもない『不具合』を修正できたのは良かったかもしれないわ……龍可と龍亞の為にもね♪














 To Be Continued… 






登場カード補足







古代の機械石像
地属性   レベル2
機械族・チューナー
このカードをリリースして発動する。
自分の手札から「古代の機械石像」以外の「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
ATK500    DEF500



強固な護衛配置
通常魔法
自分フィールド上に存在するモンスターが全て表側守備表示の場合にのみ発動できる。
デッキから攻撃力500以下のモンスター1体を選択し、表側守備表示で自分フィールド上に特殊召喚する。



ハルクアップ!
通常罠
発動ターンのエンドフェイズまで、自分フィールド上の守備表示モンスターは戦闘では破壊されない。



ペイン・サモン∞
永続罠
自分が戦闘ダメージを受けた場合、デッキから受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体を選択し、表側守備表示で特殊召喚する。