Side:ジャック


「此れがラストバトル!究極時械神セフィロンを返り討ちにしろ、シルバー・ウィンド!『シューティング・ストリィィィィィィィィィィィム』!!」

「そんな…馬鹿な!!」
ゾーン:LP700→0



ふ、見事なデュエルだったな遊里。
リミットオーバーアクセルシンクロで、最強のアサルト・ストームを呼び出して時械神を一掃し、シルバー・ストームでダイレクトアタックを決め、
究極のトラップカード『集いし願い』でシルバー・ウィンドを呼び出して、ゾーンの最強モンスターを打ち倒しての完全勝利だ。



「スゲェ……スゲェよ遊里!!」

「本当に凄い!あの状況から勝っちゃうなんて!!」

「流石は遊里ね……見事なものだわ。」

「良いデュエルだった。満足したぜ。」

「此れで、シティは救われるぜ!!」

「其れだけではなく、未来もまた姿を変えた筈だ――イリアステルによる、過去の破壊による未来の救済が砕かれた訳だからな。」



うむ、此れで未来も救われた事だろう。
遊里は自ら示して見せたのだ。未来は今を生きる人間が作っていく物であり、決して未来からの干渉を受けて変えられてしまう物ではないと
言う事をな。

残る問題は只一つ、此のデカブツの落下をどうやって止めるかだな……











異聞・遊戯王5D's Turn185
『Die Zukunft der Verzweiflung zerkleinert』











Side:遊里


さてと、大分派手に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられたけど、大丈夫ゾーン?アタシも手加減なしで全力のフィールブチかましちゃったから
少し気になるんだけど……



「この身は既に7割が機械化されているサイボーグである上に、痛覚神経もカットしてあるので問題はありません。
 ですがそれでも、貴女のフィールはこの身に響きました……真のデュエリストのフィールは、例え痛覚がなくとも直接心に響く物だと教えて
 いただきました……成程、私は貴女にはなれない筈ですね。」

「アタシはアタシでしかないし、貴女は貴女でしかない――姿が同じで、アタシのデータをインストールしたと言っても、アタシと貴女は違う人で
 ある事実は変えられない。
 もしも、貴女が貴女のままでデュエルに挑んで居たら、結果は違っていたかもしれないわ。」

「……そうですか。
 どうやら、貴女の言うように、私は間違っていたようです……あの絶望の未来を救うには過去を変えるしかないと思っていましたが、過去を
 変える事は出来なかった――私には、未来を救う事が出来なかった……」



其れも違うよゾーン。
確かに、貴女はやり方を間違ってしまったかもしれないけど、でもこのデュエルで、この世界の人達に未来に起きるであろう災厄を伝える事
は出来た。
将来起こり得る厄災の情報が有れば、其れを起こさないように対策を講じる事が出来る。そうならない為に考える事が出来るでしょ?
そうすれば、厄災を回避できるかもしれない。貴女が生きた絶望の未来を訪れさせない事が出来るかも知れない――方法は間違ってたか
も知れないけど、貴女がこの時代に来た事は、無駄じゃなかったんだよゾーン。



「私のしたことは、無駄ではなかった……?」

「アタシ達が無駄にはしないわ――此れだけの事をして未来を救おうとした貴女の思いは本物だと思うから。」

とは言え、シティに向かって落下を続けるコイツを何とかしないと、シティ崩壊のバッドエンドが回避できないんだけど、どうやったら此れを止
める事が出来るのやら。
てか、此れを止めるのもそうだけど、アタシ等だって此処から脱出しないと拙いよねぇ?脱出できなかったら、此れと運命を共にする事になる
訳だから。

アタシはアポリアのお陰で飛ぶ事が出来るけど、ジャック達は其れが出来ない上に、チーム・ラグナロクが作ってくれた虹の橋ももうない……
どうしたモンでしょうね?

「……ジャックなら、フィール・バニッシュが有るから、此処から紐無しバンジー敢行しても軽傷で済む気がしなくもないけど――度胸試し逝っ
 て見る?」

「字がおかしい上にやらんわ馬鹿者!
 そんな事を考える余裕があるなら、此処から脱出する術を考えろ!!」

「いや、そう言われても、アタシ以外が脱出する方法は見当たらないんだけど……自分の決闘龍をMAXフィールで実体化召喚出来れば、空
 を飛ぶ事も出来るんだろうけど……無理だよねぇ?」

さて、如何するか……



『キョァァァァァァァァァァァァ……!』



って、此処で赤き竜!?
若しかして、シグナ―の危機に呼応して現れた?……なら、アタシ以外のシグナーと兄さん、シェリーをシティの埠頭まで転移させて!
アタシは自力で戻る事が出来るけど、皆は出来ないし、アタシにはまだここでやる事が有るから。



「待てよ遊里、お前は残るってのか!?」

「アタシは此れの降下を止めてから脱出する……此れは、空を飛ぶ事が出来るアタシじゃないと出来ない事だから。
 大丈夫、必ずこれを止めて戻るから信じてよ。」

「でも、危険だよ遊里!もし巧く行かなかったら……」

「龍亞の言う通りよ遊里。もし、何かあったら……」

「大丈夫、絶対何とかして戻るから。
 其れに、アタシが今まで彼方達に嘘を吐いた事があったかしら、龍亞、龍可?」

「「……ない。」」



でしょ?なら信じて待ってて。
君達が目標にしてる遊里さんの生命力は、自分で言うのもどうかと思うけど台所に出る黒光りするGをも上回ってるんだよ?滅多な事じゃ死
なないから。仮にこれが空中で爆発四散しても生き延びて見せるから。



「……ダークシグナーの時、腹を貫かれても大丈夫だったお前が言うと妙な説得力があるな。
 分かった、俺達は一足先に戻るとしよう。だが、必ずお前も戻って来い!
 お前とのデュエルは、2戦して無効試合と引き分けなのでな?俺と明確な決着を付けずに居なくなる事等、断じて許さん!!」

「そう言えばそうだったわね?……考えてみればシェリーとのデュエルも流れたままだったから、帰らないといけない理由が出来たわ。」

だから大丈夫。シティで待ってて!
お願い、赤き竜!!


『クァァァァァァァァァァァ……!』

「必ず戻って来い……お前が戻ってこないんじゃ、エンディングとして満足できないからな。」

「待ってるからな!!」

「必ず戻って来い遊里。お前が戻って来なかったら、俺は未来から来た事を後悔してしまうだろうからな。」

「「戻って来てね遊里!!」」

「必ず帰還しなさい……貴女との決着を着けるのを、楽しみにしているわ。」

「此れを止めて、そして戻って来い。其れが、お前の役目なのだろうからな。」


――バシュン!!



消えた……もうシティに転移してるでしょうね――大丈夫、絶対に戻るから。
さてと、後は降下する此れを止めるだけなんだけど……ゾーン、アーククレイドルの動力に使われてるのは、逆回転してるモーメントで間違い
ないわね?



「!!……何故、分かったのです?」

「簡単な推理よ。
 モーメントが人々の暮らしを豊かにし繁栄を齎す物ならば、其れが逆回転を起こした時には人々の暮らしを衰退させて絶望を与える物とな
 る……貴女の未来も、其れで作られた物らしいから。
 でも、逆回転するモーメントが動力なら、止めるのは至って簡単――正回転するモーメントのエネルギーをぶつけて逆回転を相殺すれば良
 いだけの事。
 幸いにして、正回転するモーメントは、Dホイールに搭載されている訳だしね。」

「其れをぶつけてアーククレイドルを止める?
 そんな事をしたら、貴女とて只では済みませんよ?……死ぬ気、ですか?」



シェリーは、此処に来たらアタシは死ぬって言っていた。
其れは、此処でのデュエルで敗北した末に死の闇に沈むって言う事だと思ってたけど、勝っても負けても死ぬって言う事だったんだって、今
なら分かるわ――アーククレイドルを止める唯一の方法は、正に命懸けだからね。

でも、アタシは死ぬ気は毛頭ない!
可成り危険な事になるけど、万が一を考えてレーゲンにはモーメントエンジンの他に、バッテリー内蔵のエンジンも積んで来たから、其れを起
動して、モーメントエンジンだけをアーククレイドルの心臓部に叩き込む。
其れでも安全とは言えないけど、直接突撃する訳じゃないから危険度は格段に下がるし、見様見真似のフィール・バニッシュ擬きで衝撃を軽
減する事も出来るから、死ぬ事だけはない筈よ。


「貴女は……!」

「お喋りは此処までよ――アタシ達が此処に突入してから結構な時間が経ってるから、シティに墜落するのは時間の問題だからね。
 アタシはアーククレイドルを止めに行く――じゃあねゾーン、貴女は強敵だったわ。」


――ブオォォォォン!


ゾーンが何か言いたそうだったけど、悪いけど今は無視!此れを止めるのが先だからね。
ガール、アーククレイドルの動力炉は何処にあるか分かる?



ちょっと待って、エリアサーチかけるから!……見つけた。
 アーククレイドルはシティを反転させたものだけど、動力炉が有るのはゼロ・リバースを起こした旧モーメントがある場所。
 トコトン、あそこに因縁があるね遊里。



マッタクね。
でも場所が分かれば後は楽勝よ!空飛ぶレーゲンなら、あっという間に到着だからね!――てかマジで1分足らずで到着したし。
流石は心臓部だけあって頑丈な壁に覆われてるけど、そんな物アタシのフィールで吹っ飛ばす!頼むわ『有翼幻獣 キマイラ・ガイスト』


『ゴォォォォォォォ!!』
有翼幻獣 キマイラ・ガイスト:ATK2100



心臓部の外壁をぶち抜け!『キマイラ・インパクト・チャージ』!!


――バガァァァァン!!


よし、此れで心臓部に入り込む事が出来た。
あとは、パージしたモーメントエンジンをぶつけてやれば万事解決――相殺した際に発生する衝撃にアタシが耐える事が出来ればね。
ふぅ……其れでは一球入魂!


――ドガァァァァン!


って、何事!?……ゾーン?



「遊里、今すぐ脱出して下さい――貴女は生きるべき人です。
 如何に危険を軽減したとは言え、確実な物ではない。――何よりも、此れは私が持ち込んだこの世界の異物……私が処理をするのが筋と
 言う物。
 私の生命維持装置にはモーメントが使われています――だから、其れをぶつければ……」

「馬鹿言わないでよゾーン!そんな事したら、アンタが死ぬでしょうが!!」

「……それで良いのですよ。
 私は既に齢100歳を超えた身……生命維持装置のお陰で辛うじて生き長らえているにすぎません。
 其れに、仲間達は既に旅立ってしまっているのです。私も、そろそろ彼等の下に逝かねばなりません……随分と待たせてしまいました。
 だから、此れで良いのです。
 貴女が、私が幻想と断した希望を現実のものとしてくれた。ならば、未来は救われるでしょう……私も安心して逝く事が出来ます。
 私の最後のデュエルの相手が貴女で良かった……ありがとう、上条遊里。貴女のお陰で、私はこんなにも安らかな気持ちで逝ける。
 未来を、世界を、貴女達に託します。」



待って!ゾーン!ゾォォォォォォォォォォン!!!!



――キュゴォ……ドガァァァァァァァァァァァン!!!



最後の最後で、自分の命を燃やしてアーククレイドルを止めた……ホント、アンタは最上級の大バカ者よ!
勝手に絶望して、アタシを模して失敗して、過去の破壊で未来の再生を目したけど其れも失敗して、その挙げ句に目を覚まして、後始末の為
に命散らして……本当にバカ。
でも、約束するわ、貴女の命は無駄にしないって!!絶望の未来は訪れさせないってね!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・・・・

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・・・



と、言う訳で帰還しました。空を飛んで。――約束は守ったわよ皆。



「「遊里ーー!!」」

「あはは、心配かけちゃったね龍亞、龍可。だけど、約束通り戻って来たでしょ?」

「「うん!!」」



遊里さんは嘘吐かないからね。
ジャック、鬼柳、クロウ、シェリー、そして兄さんもただいま!アーククレイドルを止めて戻って来たよ!――尤も、アーククレイドルを止めたの
はゾーンなんだけどね。



「うむ、よく戻って来たな遊里!」

「大したモンだぜ!」

「此れで、満足だ……」

「貴女の帰還を信じていたわ。」

「流石な遊里。」



戻って来るって約束したからね。
動力炉が停止すると同時に、アーククレイドルは光の粒になって消えて行った――私達が勝った事で未来が変わり、アーククレイドルは存在
出来なくなったんだろうね。
なので此れにて一件落着だよ!

でも、其れとは別に、兄さんは如何するの?このままこっちで暮らす?



「いや、俺は未来に戻る。
 過去が変わった事で未来がどう変わったのか確かめなくちゃいけないし、何よりもアキを待たせっぱなしには出来ないからな。」

「だよね――で、流れ的に此処で帰る心算でしょ?」

「否定はしない。」



なら、このメモを未来でアキさんに渡してくれる兄さん?くれぐれも、中を見たらだめだからね?



「分かった。
 其れじゃあ俺は未来に帰る事にするよ――何時までもこの時代に居ては拙いだろうからな。」

「元気でね兄さん――偶には、こっちに遊びに来てね?」

「何時でも来い。機会が有ればデュエルの挑戦だって受けてやる――貴様とは遊里とは違ったデュエルが出来そうだからな。」

「その機会が有ればそうさせて貰うさ。」



ぜひそうして下さい!――じゃあね兄さん、バイバイ。



「あぁ、何時かまた会おう。」



――バシュゥゥゥン!!



ありがとう兄さん、短い間だったけど会えて嬉しかった。――未来で、アキさんを大事にしてね。








――――――








Side:アキ


此れは、世界が変わった?……やったのね遊星。イリアステルの野望を阻止して、未来を救う事に成功した証だわ此れは。



――ギュオォォォォォォン!!



そしてこの音は……帰って来たのね遊星!待っていたわ。



「思いのほか時間が掛かったが……如何やら未来は変わったみたいだな。
 遊里達のお陰で、あの絶望の未来は無かった事になった――無理を承知で過去に遡行した甲斐もあったさ、此れだけの世界になった訳だ
 からな。」

「貴方の決断は英断だったのよ。」

「だとしら嬉しい限りさ。
 と、そうだ。遊里……妹からお前宛てにメモを貰ったんだ。絶対に見るなと言われてたんだが……」



遊星の妹さんからメモ?――成程、そう来たか。メモに残されてたのはたったの1行。



『朴念仁な兄でごめんなさい。』



ふふ、妹だけに遊星の事はよく理解していたのね。
まぁ、何時かは振りむかせて見せるわ――少なくとも、遊星も私の事は仲間以上とは思ってくれている訳だから脈がない訳じゃないからね。


「結局、何が書いてあったんだ?」

「秘密よお馬鹿さん。」

「???」



ふふ、気にしないの。
とにかく世界は救われたんだから、目出度い事この上ないわ――その記念に、打ち上げパーティでもしようかしら?過去を守った名目でね。

でも、其れが出来るのも世界が平和だから。
絶望の今を無かった事にしてくれたチーム5D'sに心底感謝する、其れに尽きるわ――ありがとう、世界を救ってくれて。










 To Be Continued… 






登場カード補足