――2020年・ネオ・ドミノシティ


 大きく発展したこの街の中央に位置するスタジアムは興奮の渦で満ちていた。
 シティ最強のデュエリストである『キング』の名を冠するデュエリストが、今正に勝利を収めたところだから。

 「キングは只1人!この俺だ!!」

 絶対の自信と共に放たれたセリフに観客は熱狂し、興奮する。
 眠らない街とまで称されるネオ・ドミノシティは今日も激しく盛り上がっていた。



 だが、この街と海を隔てて存在する孤島がある。
 嘗てはシティの一部だったが、『ある事件』で切り離され、今は元犯罪者等が暮らすアウトロー地区。


 ――サテライト


 そう呼ばれる地区だ。
 其処を疾走する1台のDホイール…操るのは十代後半の少女だ。

 彼女の名は『上条遊里』。

 これから幕を開ける物語の主人公だ。
 彼女を中心に紡がれるのは如何なる物語か……では、ごゆっくりとご堪能を…










 異聞・遊戯王5D's Turn1
 『サテライトの女帝』










 Side:遊里


 ――ヒィィィィン…!!


 うん、良い感じ。
 エンジンの調子は申し分ないわね……後は操作性だけど。


 ――キキィ!!


 こっちも大丈夫。
 うん、基本性能は問題ないわね――我侭を言うならもう少し出力をアップしたいけど。

 此ればっかりはどうしようもないか…シティから来るジャンク品から探すしかなさそうね。


 「よう、調子は良さそうだな。」

 「牛尾…うん、出力以外は問題ないわ。」

 「やっぱ問題はエンジンの出力か……ジャンク品だけじゃ限界があるよな。」


 まぁ、ソレはしょうがないわよ…サテライトだもの。
 無いものねだりは出来ないし、シティから良いパーツが流れてくるのを期待して待つしかないわね。


 「気の長いこったな………なぁ、オメェは此れで良いのか?
  俺が押さえた証拠曝せば、シティに戻る事も出来るんだぜ?」

 「良いわよ…双子には少し心配かけちゃうけど、アタシにはサテライトの方が肌に有ってるみたい。
  それに、サテライトのデュエリストはシティのデュエリストよりも実は質が高いしね。
  大体、押収されたデッキは貴方が取り戻してくれたでしょ?だったらソレで充分よ。」

 「ま、オメェが良いなら良いけどよ…」


 確かに冤罪吹っかけられて、アカデミア強制退学+サテライト送りは堪えたけど、悪い事ばかりじゃなかったし。
 何よりサテライトはシティよりも『本当の意味』で活気に溢れてるじゃない?
 此処ならマーカー付きだからって差別される事もないのも気に入ってる。
 アタシは好きよ、サテライトのこの空気。

 貴方とも仲間になれたって事を考えれば、悪い事ばかりでもないし…


 「遊里〜〜〜!!」

 「アタシを慕ってくれる子も居るしね。」

 如何したの宇里亜、ご機嫌みたいだけど?


 「これ、遊里にあげるね♪」

 「!!これって、Dホイールの出力チップ!…如何したのこんなの?」

 「今日シティから流れてきたガラクタの中にあったDホイールのスクラップから見つけたの。
  遊里のDホイールに使えるんじゃないかと思って♪」


 そうなんだ…ありがとう。
 早速使わせてもらうわね?


 今までのチップを外して、此れを…さて、如何かしら?



 ――キィィィィィィン…!!!



 此れは、今までとは比べ物にならない出力ね。
 うん、此れなら理想のDホイールになりそうだわ。
 改めて、ありがとう宇里亜。


 「えへへ〜〜♪」

 「じゃあ早速試しに………ん?」

 アレってセキュリティ?
 何か揉めてるみたいだけど…何か有ったのかな?


 「いや…ありゃ一方的にいちゃもん付けてやがるな。
  大方、取るに足らない理由で住民を苛めてやがんだろうぜ……呆れて物が言えねぇが、無視はしねぇだろ?」

 「当然。」

 ちょっと、何してるのよ。
 その人が…って、弥生じゃない!如何したの?


 「如何したもこうしたもない…ったく、そっちからぶつかって来たくせにいちゃもん付けて…デッキを押収するとか抜かしてんのさ。」

 「何ソレ……幾らなんでも横暴が過ぎるわよセキュリティ?」

 「遊里の言う通りだ、ソレが治安維持だってのか?
  いや、冤罪を冤罪として処理しないで強行に有罪判決下して真実握り潰す様な連中じゃこんなもんか…」


 牛尾…まぁ、そうかもね。
 権力振りかざして住民を抑圧なんて最低最悪としか言いようがないわ。


 「何だお前等?俺達セキュリティに立て付こうってのか、サテライトのクズの分際で。
  いいか?俺達こそが此処ではルールでテメェ等に権利なんざねぇんだよ!分ったら消えなクズが。」

 「断る。悪いけどサテライトの住民は仲間意識が強くてね、その仲間が理不尽な目に遭ってるのを見過ごす事は出来ないのよ。
  ソレに、貴方達みたいのを野放しにしておくのも気分が悪いしね。」

 「偉そうにクズの分際で…だったら如何するってんだ?あぁ!?」

 「…アタシとデュエルしなさいよ。」

 貴方が勝ったら、何でも好きにすれば良い。
 けど、アタシが勝ったら貴方には即刻サテライトから出て行ってもらう……如何かしら?


 「へっ、サテライトのクズが粋がりやがって…いいぜ、受けてやるよそのデュエル!」

 「OK。デュエルはDホイールを使ったライディングデュエル、コースはこのサテライトの全てよ。」

 コースなんて有って無い様な物、サテライトのライディングデュエルは激しいわよ?
 セキュリティの隊員さんに、果たして耐えられるかしらね?


 「ほざくなよ小娘…俺にデュエルを挑んだ事を後悔させてやるぜ!」


 やってみなさい。
 ところで牛尾、今の会話は録音したわよね?


 「当然だ、口約束じゃ破りかねねぇからな。バッチリボイスレコーダーに録ったぜ。」

 「流石ね。」

 此れで貴方は逃げられない……さて、始めましょうか?


 「クソが…叩きのめしてやるぜ!」

 「返り討ちにしてあげるわ。」

 フィールド魔法『スピードワールド』セットオン!
 オートパイロットスタンバイ!


 「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!!」」


 ――ドォォン!!


 !!速い…宇里亜が持ってきてくれたパーツはやっぱり最高級品…!
 此れは、弥生のためだけじゃないく、此れを持ってきてくれた宇里亜のためにも負けられないわ!


 「ちぃ…サテライトのくせに速い…が、俺達セキュリティのDホイールには加速装置が付いてんだ!
  テメェ等なんぞに遅れをとるかよ!!ファーストコーナーは貰うぜ!!」


 …セコイわね全く…いいわ、先攻は譲ってあげる。
 行くわよ!


 「「デュエル!!」」


 遊里:LP4000   SC0
 セキュリティ:LP4000   SC0


 「俺のターン!モンスターを裏守備でセットしてターンエンド!」


 様子見?裏守備のモンスターが1体のみね…そんなの牽制にもならないわよ?
 アタシのターン!


 遊里:SC0→1
 セキュリティ:SC0→1



 アタシは『ジャンク・ブレーダー』を攻撃表示で召喚。


 ジャンク・ブレーダー:ATK1800


 「先ずはそのモンスターを明らかにしましょうか?
  ジャンク・ブレーダーで、裏守備モンスターに攻撃!『ジャンクスラッシャー』!!」


 ――ズバァァ!!


 セットモンスターはキラー・トマト…リクルーターだったのね…


 「キラー・トマトの効果!戦闘で破壊されたとき、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを特殊召喚出来る。
  コイツで俺は、デッキから攻撃力1500の『デビル・ドラゴン』を特殊召喚する!」
 デビル・ドラゴン:ATK1500


 成程、次のターンで強力な上級モンスターを召喚する為の駒という事ね?
 アタシはカードを2枚伏せてターンを終了。


 「俺のターン!」


 遊里:SC1→2
 セキュリティ:SC1→2


 「デビル・ドラゴンをリリースし、『偉大魔獣ガーゼット』をアドバンス召喚!」

 『がぁぁあぁぁ!!!』
 偉大魔獣ガーゼット:ATK?



 ガーゼット!
 ガーゼットの攻撃力はアドバンス召喚のためにリリースしたモンスターの攻撃力の倍…という事は…!


 「そうよ!デビル・ドラゴンの攻撃力は1500!よって攻撃力は3000になる!!」

 『ウガァァァ!!!』
 偉大魔獣ガーゼット:ATK?→3000



 攻撃力3000…ふふ、大口を叩くだけは有るわね?


 「余裕か?ソレも何時まで持つかなぁ!?
  俺は手札の『ハウンド・ドラゴン』2体と『ヘル・ドラゴン』を墓地に送り、『モンタージュ・ドラゴン』を特殊召喚!」

 『キシャァァァ!!!』
 モンタージュ・ドラゴン:ATK?


 「モンタージュの攻撃力は、特殊召喚のために墓地に送ったモンスターのレベル合計の300倍!
  墓地に送ったモンスターのレベル合計は10!よって攻撃力は3000だ!!」

 『ゴガァァァ!!!』
 モンタージュ・ドラゴン:ATK?→3000


 攻撃力が3000のモンスターが2体…ね。
 確かに凄いけど、まさかソレでアタシを倒せるとかは思ってないわよね?


 「あ?思うも何もこの2体の攻撃でテメェのライフは0だろうが!
  バトル!モンタージュ・ドラゴンで、ジャンク・ブレーダーを攻撃!『パワー・コラージュ』!!」

 「甘い。トラップ発動『ガード・ブロック』
  このカードでアタシへの戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドローする。」

 更にトラップ発動『戦士の誇り』
 戦闘で破壊された戦士族を特殊召喚し、この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン戦闘では破壊されないわ。
 蘇れ『ジャンク・ブレーダー』


 ジャンク・ブレーダー:DEF1000


 「ち、此れじゃあ意味がねぇ…ターンエンドだ。」

 「アタシのターン!」


 遊里:SC2→3
 セキュリティ:SC2→3



 「手札からスピードスペル『Sp−エンジェルバトン』を発動。
  スピードカウンターが2個以上あるとき、デッキからカードを2枚ドローしその後手札を1枚捨てる。」

 アタシは『スピード・ウォリアー』を墓地に捨てる。
 そして、チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』を召喚!


 ジャンク・シンクロン:ATK1300


 「ジャンク・シンクロンの効果発動!召喚に成功したとき、自分の墓地からレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚出来る。
  戻ってきて『スピード・ウォリアー』!!」
 スピード・ウォリアー:DEF400


 更に墓地からの特殊召喚に成功した事で手札の『ドッペル・ウォリアー』を特殊召喚するわ。


 ドッペル・ウォリアー:ATK800


 「一気に4体のモンスターだと!?」

 「マダよ!スピードスペル『Sp−チューナーチェーン』
  アタシのスピードカウンターが3個以上ある時に、アタシのフィールドのチューナー1体を選択して発動!
  選択したモンスターと同じレベルのチューナーをデッキから効果を無効にして特殊召喚するわ。
  頼むわね『クイック・スパナイト』!!」
 クイック・スパナイト:ATK1000(効果無効)


 これで、全ての準備が整った!
 行くわよ、レベル2のスピード・ウォリアーとドッペルウォリアーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!


 「な、サテライトのクズがシンクロ召喚だと!?」


 サテライトだろうとなんだろうとデュエルの戦術に規制はない筈よ?
 それに、そんな事を言ってるようじゃ、貴方はアタシの敵じゃない。

 「集いし風が新たな世界を吹き抜ける。光射す道となれ!シンクロ召喚、駆け抜けろ『宵闇の暗黒騎士−ガイア』!!」

 『ウオォォォォォ!!』
 宵闇の暗黒騎士−ガイア:ATK2300



 『ドッペル・ウォリアー』がシンクロ素材となった事で、アタシのフィールドに攻撃力400の『ドッペルトークン』が2体現れる。


 ドッペルトークン:ATK400(×2)


 そしてガイアの効果発動!
 宵闇の暗黒騎士−ガイアは、シンクロ召喚に成功したとき、自分フィールド上のこのカード以外の戦士族モンスターの攻撃力の合計値分攻撃力がアップする。
 アタシのフィールドのガイア以外の戦士族はジャンク・ブレーダと2体のドッペルトークン!
 この3体の攻撃力の合計は2600!よってガイアの攻撃力は2600ポイントアップ!!


 『おぉぉぉぉ…!!!』
 宵闇の暗黒騎士−ガイア:ATK2300→4900



 「こ、攻撃力4900だと!?」

 「それだけじゃないわよ?アタシのフィールドにはまだシンクロの素材が残ってる!
  レベル1のドッペルトークンと、レベル4のジャンク・ブレーダーに、レベル3のクイック・スパナイトをチューニング!
  集いし星の瞬きが、聖なる力を呼び覚ます。光射す道となれ!シンクロ召喚、切り込め『プリンセス・ヴァルキリア』!!」

 『覚悟は…出来ていますね?』
 プリンセス・ヴァルキリア:ATK2500



 宜しくね、プリンセス♪


 クイック・スパナイトの効果発動。
 シンクロ素材となった時、相手モンスター1体の攻撃力を500ポイントダウンする。
 此れでガーゼットの攻撃力を500ポイントダウンするわ。


 偉大魔獣ガーゼット:ATK3000→2500


 「クズの癖に…!!」

 「そのクズに貴方は負けるのよ?
  バトル!宵闇の暗黒騎士−ガイアで、モンタージュ・ドラゴンに攻撃!『サイクロン・シェイバー』!!」

 『オォォォ…テリャァァ!!』


 ――ズバシャァァ!!!


 「うおわぁぁぁ!!」
 セキュリティ:LP4000→2100


 続いて、プリンセス・ヴァルキリアで偉大魔獣ガーゼットに攻撃!


 「な、相打ち狙いだと!?」

 「違うわ…プリンセス・ヴァルキリアは相手モンスターを攻撃するとき、そのモンスターの効果を無効にする。
  効果によって攻撃力を得ていたガーゼットの効果が無効にされたらその攻撃力は、言うまでもないわね?」

 「効果が無効になったら…攻撃力は0!!」

 『アガァァァ…』
 偉大魔獣ガーゼット:ATK2500→0




 此れで終り。
 プリンセス、その魔獣を切り裂いて。『デュランダル・ブレイザー』!!


 『消えなさい、悪しき魔獣よ…!!』


 ――ドガシャァァァァン!!!




 「ぬおわぁぁぁぁ!!!!」
 セキュリティ:LP2100→0


 アタシの勝ち。
 大口叩いた割には、計4ターンで決着が付いたわね?


 「く…クソがぁぁ…!!」

 「大体にして、オメェは喧嘩売る相手を間違えたんだよ。
  コイツは上条遊里…『サテライトの女帝』って言われてるサテライト最強のデュエリストだぜ?」


 え、アタシそんな渾名が有るの牛尾!?
 初めて聞いたわ…


 「あ?結構皆言ってるぜ?
  お前が『女帝』で、弥生が『女王』、そんでもってクロウのやつが『サテライトのキング』なんだそうだ。」


 そうなんだ…弥生とクロウは何となく納得だわ。

 ま、ソレは良いとして約束は守ってもらうわ。
 即刻サテライトから出て行きなさい!


 「うるせぇ!俺達セキュリティが…」

 「お前等サテライトのクズに従う道理などない!!」


 …やっぱりこうなったわね…牛尾!


 「おう!ったく約束ぐらい守れってんだ!うおりゃぁぁぁ!!!」

 「約束も守れないなんて、人として最低と知りなさい!」


 ――ドガシャァァ!


 ――バッキィィ!!


 牛尾の一本背負いと、アタシのアッパー掌打…見事に決まったわね。
 あ、伸びてる…う〜〜ん、その辺に放置しとこうか?

 1時間もしたら身包み剥がれて、サテライトから出て行くしかなくなるでしょうし。


 「賛成〜〜♪」

 「ソレが一番だな。」

 「ま、当然の報いってやつだろうよ。」


 そうね。

 目が覚めたら精々セキュリティに逃げ帰って上司に伝えなさい?
 『どんなに卑劣な事をしても、サテライトの住民は権力には屈しない』ってね。


 貴方達によってサテライト送りになったアタシだけど、アタシはこの場所を気に入ってる。
 理不尽な理由と権力を振りかざす連中は、正面からデュエルで叩きのめしてあげるから。


 ネオ・ドミノシティ、サテライト地区…此処は誰にも荒らさせないわ!













  To Be Continued… 



 登場カード補足



 スピードワールド
 フィールド魔法
 このカードは破壊できない。
 このカードが存在する限り、スピードスペル以外の魔法を発動したプレイヤーは2000ポイントのダメージを受ける。
 互いのターンのスタンバイフェイズ毎に夫々のプレイヤーはこのカードに「スピードカウンター」を乗せる。(最大12個まで)
 又1000ポイント以上のダメージを受けたプレイヤーは、受けたダメージ1000ポイントに付き1個のスピードカウンターを失う。



 Sp−エンジェルバトン
 スピードスペル
 自分のスピードカウンターが2個以上ある時に発動できる。
 デッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚捨てる。



 Sp−チューナーチェーン
 スピードスペル
 自分のスピードカウンターが3個以上ある時に、自分フィールド上のチューナー1体を選択して発動する。
 選択したモンスターと同じレベルのチューナー1体をデッキから選択して特殊召喚する。



 戦士の誇り
 通常罠
 自分フィールド上の戦士族モンスターが戦闘で破壊されたときに発動できる。
 そのモンスターを墓地から特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン戦闘では破壊されない。