Side:みほ


と言う訳で、学園艦は無事に熊本港に入港して、生徒達も思い思いに陸に上がって行ってるみたいだね?――中には陸に上がらないで、学
園艦に残ってる人も居るみたいだけど。

私とエリカさんと小梅さんは、身支度を整えて下船。
此のまま、私の実家に向かう予定なんだけど……

「まぁ、当然隊長であるお姉ちゃんと、副隊長である近坂先輩も居るよね?」

「普通に考えて、隊長が報告に行かないとか有り得ないもの。」

「御一緒させて頂きます、隊長。副隊長♪」

「あぁ、一緒に行こうか?私と凛だけでなく、遊撃隊の3人も一緒と言うのは、お母様も喜ぶだろうしね。」

「その可能性はあるわね。
 ……で、アレが迎えなんでしょうけど、なんでオスプレイ!?普通は、車じゃないの!?西住流の事だから、戦車でのお迎え位は予想して
 たけど、アレは流石に予想外よ!!」



あはは……まぁ、迎えに来てくれたのが菊代さんだからね?
中学時代は、あれで学校に通ってたから、私は驚かないけど、やっぱり慣れてないと驚くよねぇ……港に居る人の注目集めまくりだし。
でも、陸路で行くよりもずっと早いし、意外と快適だから♪



「ま、空の散歩ってのも悪くないわね?」

「でしょ、エリカさん?」

其れじゃあ、西住本家に向かって、ぱんつぁ~ふぉ~~~♪










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer98
『家元が破滅の一手を打ちました、です』










菊代さんの操縦するオスプレイで移動する事、10分弱で実家に到着!
機内では、久しぶりに菊代さんと沢山話す事が出来て楽しかったなぁ~~――川に飛び込んだ事に関しては、『仲間を助ける為とは言え、あ
まり危険な事はなさらないで下さい。』って、やんわりとお説教されちゃったけどね。
でも『危険を顧みずに、仲間を助けた行動は立派でした』って言ってくれたから、あの行動は決して間違いじゃなかったんだって自信がついた
よ――エリカさんと小梅さんもね。

実家に到着したと言っても、オスプレイの発着場は母屋から少し離れた所になるから、其処からはちょっとだけ歩く事になるんだけどね。



「ねぇみほ、私の見間違いじゃ無ければ、さっきラーテの姿が見えたんだけど……西住流ってあんなトンでも兵器まで持ってる訳?」

「使う事は無いんだけどね。
 って言うか、アレは殆どお父さんの趣味なんだよ……『ドイツ戦車と関係が深い西住流なら、大戦期のドイツ戦車は揃えるべきだ』って言っ
 てたから。」

「設計図しか存在しない戦車を造ってしまうのには驚きだったな?
 尤も、置き場所に困ると言う事で、お母様から『造り過ぎないように』と釘を刺されてるみたいだがね……」

「正直言って、何処に突っ込みを入れれば良いのか分からないわ此れ……」

「突っ込み所満載ですからねぇ……」

「奥様も、旦那様の趣味には、少々頭が痛いようですから♪」



其れでも『止めろ』って言わない辺り、頭が痛くても、お父さんの趣味を否定する気はないんだろうねお母さんも。
さてと、そんな事を話してる間に母屋の正門前に到着~~!……今更だけど、何で西住の本家って家の造りは和装なのに、正門は造りは洋
装なんだろう?
今の建物は戦後に再建したモノらしいから、当時の家元であるひいお婆ちゃんの趣味だったのかも知れないね。

其れは何れお母さんに聞いてみるとして、お姉ちゃん久しぶりにアレやろうか?


「アレか?……偶にはいいかも知れないな。」

「それじゃあ、せーの!」


「「ただいまーーーーーー!!」」


「はい、おかえりなさいませ。まほお嬢様、みほお嬢様。」



お姉ちゃんと一緒に、お腹の底から『ただいま』を叫ぶ!そして、菊代さんが其れに応えてくれる……うん、とっても久しぶりな感じだよ。
って、アレ?エリカさんも小梅さんも近坂先輩も、なんでそんな唖然と――あ、若しかして、私だけじゃなくてお姉ちゃんがこんな事するなんて
思わなかった?



「ぶっちゃけて言うならその通りよみほ!貴女なら兎も角、隊長まで一緒になってやるとは思わなかったわ!!」

「ふふ、予想外だったかエリカ?
 だが、子供の頃は遊んで帰って来るとこうして正門で2人で大声で『ただいま』と言って、菊代さんが其れに返してくれていたんだ。」

「そうそう。
 それで、書斎か大広間に居るお母さんにまでちゃんと聞こえてたら100点満点、整備中のお父さんに聞こえてたら10000点だったんだ。」

「意外と、子供の頃は子供らしい事してたのねまほも。」

「ちょっと想像出来ませんけどね?」

「みほお嬢様は大きくなっても快活なままですが、まほお嬢様は大きくなられるにつれて雰囲気が落ち着き、若い頃の奥様に似て来てられま
 す……今のまほお嬢様から、快活な子供時代を想像するのは、少し難しいかも知れませんね。」



……菊代さん、其れって暗に私の事『子供っぽい』って言ってる?
むぅ~~……確かにお姉ちゃんと比べれば子供っぽいかも知れないけど、此れでもちゃんと成長してるんだよ?……ボコのヌイグルミ集めが
止められない辺りが子供っぽいのかも知れないけどさ……



「いえいえ、そんな事は申しておりませんよ?
 まほお嬢様も、みほお嬢様も、何方も夫々に違った魅力があって素敵であると言っているのです――其れに、昔も今も、菊代はお嬢様達を
 お慕い申し上げております。」

「むぅ~~……その言い方はずるいよ、菊代さん!」

「ふふ、今も昔も、菊代さんには勝てないさ。
 其れよりも、そろそろ広間に行こうか?私とみほの声は、お母様に聞こえていた筈だ……となれば、何時来るのかと首を長くして待っている
 だろうからね。」



お母さんが首を長くして待ってる……首の長いお母さん――『妖怪・ろくろ首戦車貞子』参上!!



「「「「「「ぶっ!」」」」」」

「あ、予想外に大ヒット。」

な~~~んて、下らない事はこの辺までにして、大広間にだね。
自分の家にも関わらず、あの大広間に行くのは緊張するんだよね~……きっと、あの大広間で西住流の色々と大事な事が行われて来たの
を子供の頃から見てるからなんだろうな~……さて、行こうか!



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



程なく大広間に到着した私達は、上座に座るお母さんに対面する形で下座に座る。勿論全員が正座をしてね。



「西住流師範へ報告。
 我等黒森峰女子学園は、第62回全国高校戦車道大会を制し、大会10連覇を達成した事を、此処に報告いたします。」

「前人未到の大記録、実に見事でした。
 今大会、全ての試合に於いて王者らしい堂々とした戦いぶりであったのは勿論の事、新設した遊撃隊も良く働いてくれましたね。
 新設の遊撃隊を用いてのこの結果は見事と称しますが、この結果に満足する事無く、更に精進する様に。」



先ずは形式的な報告から。
結果に満足する事無く更に精進せよって言うのは、日頃からお母さんが言っていた事だね――結果に満足して、精進を怠ったら、それ以上
の成長は望めないから、結果に満足したらダメなんだよね。

尤もそれは、この場に居る全員が分かって居る事だから、声を揃えて返事をしたけど。

で、お母さんは其れに満足そうに頷くと、表情を崩した……此処からは『西住流師範』じゃなくて『西住しほ』としてって言う所だね。



「堅苦しい報告と応えになってしまいましたが、此度の偉業は本当に素晴らしい物でした。
 まほは隊長としてよくやってくれましたが、其れも貴女と言う副官が有ってこその事……近坂さん、副隊長としてまほの事をよく支えてくれま
 した……貴女ほどの副官が居なかったら、此処までの結果を残す事は難しかったかも知れません。」

「そんな、恐縮です師範。
 私はただ、友としてまほの事を支えただけで、偶々其れが良い結果に繋がっただけで……この結果は、まほが隊長だったからこそです。」

「戦車道にまぐれなし、あるのは実力のみです。
 偶々ではありません、貴女にはまほの副官足り得る確かな実力があったのですよ、近坂さん。」

「……その言葉、身に余る光栄です……此れからの励みとさせていただきます!」



先ずは近坂先輩を大きく評価したね――確かに近坂先輩の副隊長としての働きは見事だったし、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、副隊長である
近坂先輩の事を信頼していたから。
中には、私が副隊長だったらって言う人も居るみたいだけど、私じゃなくて近坂先輩だからお姉ちゃんの副官が務まった――妹じゃなくて、お
姉ちゃんが、自ら選んだ近坂先輩だからこそね。



「そして、新設された遊撃隊……貴女達の存在失くして、黒森峰の10連覇は語れないでしょう。
 黒森峰が王道として貫いて来た戦車道の弱点を補う戦術は、黒森峰のOG会からしたら、否定したい物かもしれませんが、遊撃隊の戦術的
 サポートが無かったら、黒森峰は最悪の場合、1回戦の聖グロ戦で敗退していたかもしれません。
 そういう意味では、遊撃隊こそが今大会の一番の功労者であると言えるのかもしれませんね。」



続いては、私達遊撃隊に対しての賛辞……少しくすぐったいけど、こうして褒められるって言うのはやっぱり良い気分だよ!
エリカさんと小梅さんも、褒めれられた事は満更でもないみたいだし――此れなら、遊撃隊の車長全員を連れて来ても良かったかもしれない
よ……後2人位増えても、キャパシティーは全然余裕だし。



「何よりも決勝戦でのハプニングの際の行動は見事でした。
 即座に試合を中止させ、危険を顧みずに濁流に飛び込み、仲間だけでなくプラウダの生徒達をも救出した……アレは、本当に素晴らしかっ
 た……だけでなく、あの行動は戦車道を守る行動でした。」

「「「「「戦車道を守る?」」」」」


お母さん、其れって如何言う事?



「もしもあの事故で死者が出ていたら、戦車道は危険なスポーツと見なされ、廃止が検討されていたかもしれません……そうなれば、来年の
 大会はおろか、誘致を目指している世界大会をも中止せざるを得ない状況になっていたかも知れないのです。
 ですが、貴女達が水没した戦車の搭乗員全員を救助した事で死者はゼロで、戦車道そのものが危険と見なされる事は有りませんでした。」

「あ~~……うん、そう言う事か。」

「確かに死者が出てたら、戦車道そのものが取り潰されてたかも知れませんね……」



だから、戦車道を守ったって言う事か……私としても、大好きな戦車道を守る事が出来たんなら光栄だよ♪



「本当に見事でした……見事でしたが――幾ら仲間を助ける為とは言え、濁流と化した川に飛び込むのは幾ら何でも無謀が過ぎます。
 今回は大事には至りませんでしたが、最悪の場合は飛び込んだ己が濁流に呑まれて、命を落としていたかもしれないと言う事を肝に銘じて
 おきなさい。
 特にみほ――まさか、2度も娘の『死』を予感するとは思わなかったわよ?
 若しも川に飛び込んだ貴女が戻って来なかったらと言う事は、嫌でも考えてしまうのよ……貴女が左腕を失った時に、病院で二度と目を覚
 まさないんじゃないかと思った時の様に。
 エリカさんと小梅さんの御家族だって、同じように思ったかもしれないわ……仲間を助けた行動は素晴らしいし、あの濁流に飛び込んだ勇気
 も評価するけれど、もっと自分を大事になさい?……此れは母としての願いであり、西住流師範としての命令です。」

「……はい。分かりました……」

「ミイラ取りがミイラになったら、本末転倒ですからね……」

「お父さんやお母さんよりも、姉さんにめっちゃ叱られたわね私も……今度会ったら、暫く抱き枕にされるわねきっと。」



アールグレイさん。(汗)……愛されてるねぇ、エリカさん。私もだけど。
でも、自分を大事にするのは分かったけど、其れでも私は、仲間が危機に陥ったら、また自分の身を顧みずに助けに行くと思う。理屈とか、そ
う言うんじゃなくて、仲間を助けて皆で勝つのが、私の戦車道だから。






「ふん、何ともなまっチョロい戦車道じゃな、みほや。」






「「「「「「「!!!」」」」」」」


この声は、お婆ちゃん!……何の用かなお婆ちゃん?
私達は、『西住流の師範』に優勝と10連覇達成の報告に来たんであって、『西住流の家元』に用が有った訳じゃないんだけど……って言うか
呼んでもいないのに来るって……



「ふぇっふぇっふぇ……師範には報告して、その上に居る家元に報告なしとは寂しいのう?」

「そんな事思ってないよね?
 其れよりも、私の戦車道がなまっチョロいって如何言う事かな?……私は、真剣に戦車道をやって来たのに、其れをなまっチョロいって言わ
 れたら、流石に頭にくるんだけど……」

「みほの戦車道がなまっチョロく見えるんなら、耄碌してるんじゃありませんか家元?
 ……文字通りフィールドの全てを使って、会場の天気を『晴れ時々砲弾のち信号機、所によって電柱または歩道橋でしょう』ってな感じにす
 る戦い方に、一分のなまっチョロさもありませんけどねぇ?」

「みほさんの戦車道がなまっチョロいんでしたら、仲間割れしてるBC自由や、吶喊馬鹿の知波単とかどうなるって言うんですか?」



エリカさんと小梅さんからの援護射撃!
近坂先輩は、お姉ちゃんが目配せをして黙って貰ったみたい……お姉ちゃんは、何時も通り表面上はお婆ちゃんの言う事に従う姿勢を見せ
て、近坂先輩も其れに倣わせえた訳か。
まぁ、此処で副隊長が家元に噛み付いたとなったら大問題になるだろうからね。



「BC自由や知波単なんぞ、取るに足らぬ有象無象よ。
 ワシが言っとるのはみほ、仲間を救うと言うその軟弱な姿勢よ……戦場で散るは、戦士の誉れじゃろう?其れを助けるなど、アホらしいとし
 か言いようがないわい!」

「……お婆ちゃん、馬鹿なの?
 そんな旧態依然の、戦前の精神論を、21世紀に入った平成の世に持ち出さないでくれる?」

其れに『戦場で散るは、戦士の誉れ』って、本気でそう思ってるの?
どんな事だって命あっての物種で、死んだら何も残らない……誉も誇りも、あの世に持って行く事は出来ないんだから――と言うか、そんな
考えは、生き延びた者達の勝手な押し付けだよ。
何よりも、戦車道は『礼節』、『道』を教える『武道』であり、ルールのある『スポーツ』であって、只相手を殲滅すれば良い『戦争』じゃない。
そのスポーツの世界で、仲間を見殺しにして得た勝利に、一体何の価値があるって言うの?
もしも、私達がサトルさん達を見殺しにして勝った所で、そんな勝利に意味は無い……勝利と引き換えに、仲間の命を犠牲にしたって言う後
悔の念が残るだけな上に、メディアからも『仲間を見殺しにして得た、暗い勝利』って叩かれてたと思う。
其れなのに、仲間を助けるのが悪いって言うの!?



「……滑落したパンターの乗員を助けたのは、百歩譲って良いとしよう。
 じゃが、滑落したIS-2の乗員まで助けるとは如何言う心算じゃ?プラウダは敵じゃろう!敵を助ける道理などないわい!!」

「プラウダが敵?何言ってるの?
 確かに決勝戦で戦う事になったけど、プラウダは敵じゃなくてライバル――戦車道を通じて互いを高める好敵手であり、私達と同じ、戦車道
 をやってる『仲間』だよ。だから助けた。」

「命の価値に敵も味方もない……IS-2の砲手に言ったみほさんの一言は、正に至言ですね。」

「加えて、この間はプラウダの隊長さんが直々にお礼を言いに来てくれたってのに……プラウダの隊員を助けた事を否定するって、一体如何
 言う脳みそしてるのか疑いたくなるわ。
 梅干しみたいにしわくちゃになってる顔面と違って、脳味噌はつるっつるのゆで卵何ですかねぇ家元は?」

「……口を慎めよ小娘が……」



更に其処から、プラウダの乗員を助けた事を否定して来たけど、其処は私の考えをぶつけて、更に小梅さんが援護してくれて、エリカさんが必
殺の毒舌口撃!
普通なら西住流の家元に、此処まで言う事なんて出来ないかも知れないけど、エリカさんは全く気にしてない……此れは、相当に怒ってる証
だね……まぁ、私も怒ってるけどね。

口を慎めって、その言葉はそっくりそのまま返すよお婆ちゃん!
命は一つしかないんだよ?其れを救って何が悪いの?――仮に、私達が救助活動を行った事で負けたのなら兎も角として、勝利と仲間の命
の両方を手にしたのに批判される言われはないんだけど?



「黙れみほ!
 西住流は勝利が全てじゃ!犠牲失くして勝利は無い……勝つ為に必要な犠牲ならば、非情になって斬り捨てい!!」

「断るよ!其れに、滑落した戦車の乗員は、勝つ為に必要な犠牲なんかじゃない……犠牲になったら取り返しのつかない人達だった!!」

そんな事も分からず、只勝利を求め、勝利が人の命よりも重いのが西住流だって言うのなら……私はお婆ちゃんの言う西住流を否定する!
人の命を軽んじてる様な流派なんて、こっちから願い下げだよ!!
其れでも、勝利を第一に考えろって言うなら、私は西住流じゃなくて良い!!



「そうね、私も否定するわ。
 と言うか、みほの戦車道を否定した家元をね……みほが居てくれたからこそ、私は強くなれた――そのみほを否定する様な家元様を肯定
 する事なんて出来ないモノね。」

「私もエリカさんと同じ意見です。
 勝利の為に、仲間の命をコストにすると言うのなら……其れが西住流であり、黒森峰の戦車道に求められるモノだと言うのなら、私も家元
 の言う戦車道を肯定する事は出来ません。」



エリカさんと小梅さんも……!!
私にとっては嬉しい援護だけど、お婆ちゃんからしたら面白くないだろうね……おでこに青筋が浮いてるし。



「小娘共が吠えおったなぁ!?
 其処まで言うなら良いじゃろう……西住流の家元として、ワシはお前を西住流から破門するぞみほ!!
 そして、逸見エリカ、赤星小梅、貴様等も破門じゃ!!黒森峰に進学した時点で、お主らは西住流の門下生として登録されておるが、今こ
 の時を持って、お前達3名を破門する!!」

「破門?……上等だよ!!」

「アンタみたいな旧態依然の梅干しババアが家元やってる流派なんて、こっちから願い下げだわ……師範が家元だったら、ドレだけ良かった
 かって思うわねマジで。」

「いっその事、師範が家元になれるように、嘆願書でも集めましょうか?
 今の黒森峰の生徒は、中学時代の合宿で、師範の指導力を目の当たりにしてますから、集めようと思えば、可成り集まりますよね?」



お婆ちゃんの言う『西住流』には、子供の頃から疑問を持ってたけど、まさか此処まで勝利に固執してるとは思わなかったよ……!!
私とエリカさんと小梅さんは言うまでもなく、お姉ちゃんにお母さんに菊代さん、果ては近坂先輩まで『何言ってんのお前?』って顔をしてるか
らね。



「みほだけでなく、逸見エリカと赤星小梅も破門ですか……その言葉、取り返しがつきませんよお母様?」

「取り返しがつかないじゃと?だからなんじゃと言うんじゃしほよ!」

「黒森峰は西住流を色濃く反映している学園であり、機甲科の生徒は黒森峰に在籍した瞬間に、西住流の門弟として登録される。
 ならば、西住流を破門になった者は、学園に居る事は出来ない……みほと、エリカさんと、小梅さんは、破門された以上、黒森峰を出て、他
 の学校に転校するしかないでしょう?」

「……!!」



転校……成程、そう来たか。
確かに西住流を破門された以上、黒森峰に居る事は出来ないからね。
私は其れでも良いけど、エリカさんと小梅さんは、其れでも良いの?――特にエリカさんは、お姉ちゃんに憧れて黒森峰に来たって言うのに、
西住流を破門された上で転校だなんて……



「確かに私はまほさんに憧れて黒森峰に来たけど、私の戦車道の始まりは貴女なのよみほ。
 私の戦車道の始まりである貴女が居ない黒森峰なんて意味は無い……まほさんへの憧れとは違う――私は、貴女と一緒に戦車道をやり
 たかったのよみほ。
 貴女が黒森峰を去るなら、私も去るわ!!」

「私もですみほさん。
 中学の大会で貴女と戦ってから、私はずっとみほさんを目標にしてきました……そして、貴女を目指していたからこそ今の私があるんです。
 みほさんが、黒森峰から去るなら、私も去ります!!」

「エリカさん、小梅さん……」

其処まで私の事を……うん、正直に言って嬉しい。
そして、私が其処までの影響を与えていた事に驚きだよ……



「その友情、美しきなり!
 西住流家元の命により、西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅の3名は西住流を破門となり黒森峰から転校と言う事で――尤も、今から転校の
 手続きをしても色々面倒なので、今年度一杯は黒森峰で過ごす事になりますが、来年度からは別の学校に転校になりますね?
 其れで、宜しいですねお母様?……否、西住流家元殿?」

「……く……まぁ良いじゃろう。
 勝利の為に命を犠牲に出来ぬ軟弱者など、西住流には要らぬ……来年度は、何処へたりとも好きに行くと良いわ!!」



言われなくてもその心算だよ!!
何処に行くかはこれから決めるけど、行った先でも私は戦車道を続けて、そしてお婆ちゃんの言う『西住流』を真っ向から否定してあげるよ!
私は、お婆ちゃんの言う『西住流』を叩き潰す!!



「吼えたなみほ!……軟弱者が、やれるならやってみるが良い!!」

「やってあげるよ……見せてやる、西住の……否、私の戦車道を!!」

「目ん玉かっぽじって、よく見なさい!!」

「エリカさん、目玉をかっぽじったら見れませんよ……」



私が軟弱者だって言うなら其れでも良いけど、人の命を軽く見る事は絶対に認められない!!
その考え方は、絶対的に間違っているって、私が――私達が証明する!!……そして、お婆ちゃんの言う西住流は、私達が終わらせるよ!
例え破門されたとしても、隻腕の軍神の軍刀は錆びつかないし、孤高の銀狼の爪牙は鈍らず、慧眼の隼の目は濁らない……私とエリカさん
と小梅さんを破門した事を、後悔すると良いよ!

今、この瞬間から、私達は黒森峰の敵になったって言っても過言じゃないんだからね……








――――――








Side:まほ


最後の最後に悪態をついて、お婆様は部屋から出て行ってしまったか……場の空気を悪くする事に関しては天才的だなあの人は。

大会の結果を報告に行けば、お婆様が介入してくるのは予想していたが、まさかみほとエリカと小梅に破門を言い渡すとは思わなかったな。
尤も、この間の暴行事件を考えれば十分予想できた事ではあるか……更衣室で、みほとエリカと小梅に因縁をつけて暴力沙汰を起こした連
中は、OG会からの指示で乱行に及んだ事は調べがついている。
そして、OG会をそそのかしたのがお婆様であると言う事もね。



「まほ、其れは本当なの?」

「はい、本当ですお母様。」

黒森峰の諜報部隊だけでは心許ないので、聖グロの『GI16』に協力して貰いましたが、お陰で有力な情報を得る事が出来ました……恐らく
ですが、お婆様は暴力沙汰でみほの心を折り、その上で己の言う西住流を会得させ、みほを己の手駒にする心算だったのかも知れません。
尤も、其れは上手くいかず、みほ達を黒森峰から追放すると言う鬼札を切って来た……己の思い通りにならないのならば斬り捨てる――お
婆様らしいやりかたですよ。

私の予想通り、OG会の暴走があったとは言え、其れを誘発したのはお婆様だと言うのは、幾ら何でも笑えないからな。――まったく、お婆様
の思考は到底理解の範囲を超えている。

だが、其れを選択したのは家元であるお婆様だ……ならば、その選択を後悔させてやるまでだ。
私とお母さまが中から、みほが外から貴女の言う『西住流』を破壊する……精々覚悟しておけ、貴女の時代は既に終わっているのだから、そ
ろそろ退場して頂くぞ、西住かほ……!!



「まほ……貴女には負担ばかり掛けるわ……ごめんなさいね。」

「気にしないで下さいお母様……此れもまた、私の務めですから。」

みほを、大切な後輩を守る為ならば、私は蛇蝎の如く忌み嫌われようとも、覇道を突き進むだけです……そして、その覇道の先に待っている
のは、間違いなくみほであり、エリカであり、小梅でしょう。

転校は来年に入ってからと言う事だが、転校先の学校を探すのは始めなくてはならないか――何にせよ、転校先でも負けるなよみほ!!
私は、何時だってお前の勝利を願ってるんだからな……



「うん、勿論だよお姉ちゃん。転校先でも、私の戦車道を続けるから!」




しかし、みほとエリカと小梅が黒森峰を去るって言うのは、大きな戦力ダウンなんてモンじゃないな――尤も、お婆様が難癖付けて来た時点
で、予想はしてたがな……

「エリカ、小梅……」

転校先に編入するのは4月からとは言え年度末までは黒森峰に在籍してる訳だからね、ならばせめて最後の思い出を作って来い……みほ
の事をよろしく頼む……!!



「「了解!」」

「ふふ、良い返事ですね……これからも己を高めなさい!!」

「「はい!!」」



言われずともその心算ですよお母様。
我等に負けは無い……其れは此れから始まる、お婆様との戦いでも同じです。――みほとエリカと小梅を破門した愚行、其れをその身で知っ
て頂かねばなりませんから。


だが……みほは覚悟していたが、まさかエリカと小梅までもが黒森峰を去ることになるとはな……

此れで黒森峰は最大の爪牙を失う事になるか……来年度以降の大会に不安を覚えるのは仕方ないのかも知れん――それ程までに、みほ
とエリカと小梅の存在は大きかったのだろうな……正に失って初めて気づくと言う奴だ。

だが、悲観ばかりではい……みほ達が追放された事で、西住流の改革に打って出る事が出来るし、私もようやく本性を現す事が出来る。

精々覚悟しておくがいいさ西住流家元殿……貴女の言う『西住流』は、私達の『西住流』が真っ向から否定するからな………!!










 To Be Continued… 





キャラクター補足