Side:みほ


練習試合が決まった訳だけど、試合場所は何処なんですか近坂部長?其れと試合形式は?



「この練習試合は、1年交代で、こっちと相手校の地元でやる事になってるの。
 去年はこっちでやったから、今年は向こうの地元での市街地戦――つまりはアウェーでの戦いになるって言う訳……きつい戦いになると思う。
 で、試合形式は殲滅戦よ。」

「ですね……地の利は相手に有る状況での殲滅戦な訳ですから。」

だけど、其れ位の不利は引っくり返して見せないと、この先何も出来ないだろうから、先ずはこの練習試合て勝って、最低でも引き分けて皆に自
信を付けないとだね。

その為にも、今は徹底的に相手の情報を引き出して、そして対策を組むのが上策!
近坂部長、相手校の使っている戦車は分かりますか?



「綾南高校附属も、私達と同じドイツ系戦車で統一されてるわ。
 尤も、ウチと違ってティーガーを主力にした重戦車主体の、重量級の編成だけどね。」

「重戦車主体の重量級編成ですか……駆逐戦車は使ってないんですか?」

「去年の練習試合と、大会を見る限りでは、ティーガーⅠが3輌、ティーガーⅡが3輌、残る4輌はラング(Ⅳ号駆逐戦車)って言う編成だったわ。」

完全に火力に重点を於いた編成で、機動力は捨ててますね其れ……駆逐戦車が『ヤークトパンター』じゃない辺りも、其れを感じますよ。
だけど其れなら、攻撃力と防御力では劣るモノの、機動力と奇襲力では此方が勝っています。

其れに、Ⅲ突の主砲なら、ティーガーの側面と後面を抜く事は容易いですし、パンターの主砲なら、ティーガーⅠを正面から、ティーガーⅡの側面
と後面を抜く事だって出来ます。
Ⅲ号だって、ラングの正面装甲を抜く事は出来ますから。

そして、Ⅲ号の軽快さを使えば、相手の部隊のペースを乱す事も可能な筈です――勝てますよ、此の試合!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer6
『練習試合の幕開け~軍神の序章~』










とは言っても、敵地での戦いになる以上、地形なんかは把握しておきたい所ですね?



「其れなら大丈夫よ。
 一応練習試合の時は、ホームならこっちが、アウェーなら向こうが、今回の試合で使う場所の地図と地形データを送る事になってるから、もうそ
 れもこっちに来てコピー出来てるから、全員に渡しておくわね。」


流石に、地形データはホーム側がアウェー側に渡す事になってましたか――まぁ、そうじゃないと明らかに地の利が大きくなり過ぎますからね。
って言うか、何時の間に其れを全員分コピーしたんですか近坂部長は……

でも、これで地形を把握する事が出来ましたから、ある程度の作戦が立てられました。
市街地には、Ⅲ突が隠れられる場所が結構あるので、其れを利用しようと思います。
無論、相手もⅢ突の待ち伏せは警戒するでしょうが、其処でⅢ号が相手にちょっかいを出して自身を追撃させて、相手の側面か後面をⅢ突の目
の前に曝すように連れて来て、其処でⅢ突が撃破するんです。
相手がラングの場合は、Ⅲ号でも正面装甲を抜く事が出来るので、ラングに関しては誘導せずに撃破を優先して下さい。

更に、赤パンターは、Ⅲ号と一緒に行動して、敵を見つけたら即撃破の方向でお願いします。

2輌のティーガーⅠは、私が登場するアイスブルーのパンターと一緒に行動して貰って、敵車輌を発見し次第撃破する『サーチ&デストロイ』を行っ
て貰います。



「何つーか、分かり易くて、だけど大胆な作戦じゃねぇかみほ。だけどよ、何だってⅢ突を市街地限定で待機させんだ?
 向こうから送られてきた地形データを見る限りだと、Ⅲ突が隠れられる場所はもっと他にもあるだろ?山岳地帯とか、平原の茂みとか色々と。」

「うん、青子さんの言うように、向こうから送られてきた地形データには、Ⅲ突の隠れ場所となりそうな所が沢山あるのは分かってるよ。
 だけど、その地図データが実は正しくないとしたらどうかな?」

「如何言う事だ?」



此の地図データをよく見て欲しいんだけど、良く見ると、何か気付かないかなぁ?



「此れは……Ⅲ突が待ち伏せに使える凄く多い場所が多いわね?それも、不自然なくらいに。」

「正解だよナオミさん。」

そう、此の地図データに示されてる、Ⅲ突の隠れ場所になりそうな場所は、データ上のフェイクで有る可能性がとっても高いと言えるんだよ。
此の地図データを鵜呑みにして試合に臨んだら、多分何も出来ずに負けてしまうかもしれない――だけど、此れがフェイクだって分かってれば、ミ
スミス相手の罠に嵌る事も無いからね。



「相手にフェイクのデータを送るって、其れってアリなの?」

「ルールブックには明記されてないグレーゾーンだけど、有か無しかで言えば有なんだよつぼみさん。
 お母さんが言うには、高校戦車道で認められてるスパイ行為をして来た相手校のスパイに対して、態と偽の情報を握らせるたりするのは普通
 に行われてたみたいだし、試合前から戦いは始まってるって言う事。」

流石に、試合中に相手の通信を傍受したり、試合前のスパイ行為の際に相手の戦車に細工するのは、ルールで禁止されてないグレーゾーンと
は言っても、有か無しかで言えば絶対に無しだけどね。

でも、此れは相手の隊長さんは余程この練習試合に自信が無いのかな?



「自信がないって、何でだよ?」

「だって、考えても見てよ青子さん。
 こんな事言ったらアレだけど、私達の学校は万年大会1回戦負けの弱小校なんだよ?其れに対して、こんな搦め手を使って来るなんて、余程
 自信がないんじゃないかって思わない?」

「あ~~~……言われてみりゃ確かに。」



でしょ?
試合当日になるまでは何とも言えないけど、格下の相手に試合前から仕掛けて来るとなると、余程用心深いのか、自信が無いのかの二者一択
だからね。

兎に角、この練習試合は、このチームでの初の試合となりますから、頑張って行きましょう!
錬度では向こうの方が上かも知れませんけど、チームとしての結束力は私達の方が上だって私は信じてます――だから、きっと勝てる筈です!



「我が校の新隊長である西住隊長の初陣を、絶対に勝利で飾るわよアンタ達!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



私の戦車道の第一歩となるこの練習試合、しっかり押さえておかないとね!








――――――








Side:凛


と言う訳で練習試合当日。
この日までみっちりと練習してきたから、今年は負けないわ!何よりも、この練習だって、西住が夫々のチームに合わせてカリキュラムを組んでく
れたお蔭で、物凄く効果が上がっているからね。

それに、今年の綾南は、去年の2年生副隊長が、3年生になって隊長になってる筈だから、絶対に負けたくないのよね……あの性悪女には!!
確かにウチは弱小校だけど、其れを嘲笑って見下す態度は、滅茶苦茶ムカついたから、一発吠え面かかしてやらないと気が済まないわマジで!



「来たわね明光大。
 まぁ、この練習試合は、大会前の肩慣らしみたいなものだから、精々経験値の足しになって頂戴ね万年1回戦敗退の弱小校さん?」

「ゴメン、分かってたけど、アンタヤッパリ超ムカつくから、試合前に一発殴っても良い?」

「あははは、駄目に決まってるじゃない。
 其れよりも、3年生が全員引退した今年は、2年生の貴女が隊長を務めてるの凛?去年の隊長よりはマシかもしれないけど、それだけね。」



本気でムカつくわねアンタ。
だけど残念な事に、今年の隊長は私じゃないわ――今年のウチの隊長は、最強の1年生よ。



「なに、貴女1年生に隊長職を譲った訳!?これは、お笑いだわ!」

「自分より優れた者に隊長職を任せるのは当然じゃない?
 それに、1年生の隊長だ思って舐めてると痛い目を見るわよ言峰?――西住隊長!」

「はい、何でしょうか近坂部長?」



試合前の挨拶よ。
隊長同士の挨拶は大切でしょ?



「そうですね……西住みほです、本日は宜しくお願いします。」

「言峰乱華よ。貴女が今年の隊長さんか……まさか隻腕とはね。
 ドレだけ能力が有るかは知らないけど、隻腕の障害者を隊長に据えるとは、明光大は完全に地に落ちたわ!この練習試合は完全試合だわ。」



西住のチームメンバーがこの場に居なくて良かったわねアンタ。今のを、吉良と辛唐と野薔薇が聞いてたら、アンタ試合前に半殺しにされてたと
思うわよ?略間違いなくね。

だけど、そんな余裕をぶっこいていていいのかしら?
確かに西住は隻腕の障害者かも知れないけど、名前で気付かなかったの?――西住は、かの西住流戦車道の家元の次女なのよ?



「に、西住流ですって!?」



純粋な西住流とは言い難いかもしれないけど、この子の能力が凄まじい事は、校内紅白戦で私が身をもって体験してるから、舐めてると痛い目を
見るわよ言峰?

それ以前に、隻腕て言う事で西住を見下してる時点で、アンタの敗北は決まったようなもんだわ。そうでしょ西住?



「良い試合が出来ると思っていましたけど、ガッカリしました。
 試合前に偽の地形データを送ってくるだけじゃなく、相手を見下すような発言を繰り返す人が隊長だったなんて……言葉を返すようですけど、貴
 女みたいな人が隊長を務めてる綾南の方が、地に落ちたと言えますよ。
 本当に部隊を纏めるべき立場にいる人なら、相手が格下であっても、決して見下したような発言はしません。試合前の挑発をしたとしてもです。
 貴女なんかには、絶対に負けません!!」



――轟!!



「「!?」」


な、なに今のは!?私だけじゃなくて、言峰も驚いてるって事は、私の見間違いじゃなかったって事よね?
西住の背後に、上杉謙信、武田信玄、北条早雲、織田信長、源義経って言う歴史に名を残す『軍神』の姿が一瞬だけど見えたのよマジな話で!
まさか、西住はそれらの歴史的軍神に匹敵するほどの力を秘めているとでも言うの!?……まぁ、あながちないとは言い切れないけれどね。

でもって言峰、アンタは如何やらその軍神の逆鱗に触れたみたいよ?――今の内に、ハイクを読む準備でもしておいた方が良いじゃないの?



「ふざけた事言ってんじゃないわよ!
 確かに一瞬驚いたけど、其れが何?西住流だろうと、所詮は隻腕の半端者じゃない!我が重戦車部隊で殲滅してあげるから覚悟しなさい!」



覚悟するのはアンタの方よ言峰。
私が校内紅白戦で味わった絶対的な力の差を、今度はアンタが味わうと良いわ――西住の持つ能力がドレだけの物かと言うのと同時にね!!

宣言するわ、言峰。
此の試合が終わった時、貴女は私達の力を脅威に感じる事になるだろうってね。――此の試合、絶対に勝つわよ西住?



「はい、勿論です!」



そして後悔しなさい言峰――私達の新隊長を見下してしまったと言う事に!!








――――――








Side:みほ


いよいよ練習試合開始だね。
まぁ、私は片腕が無いから、彼是言われるのはしょうがないかも知れないけど、だからってバカにされるのは良い気分じゃなんだよね流石に。
大体にして、向こうの隊長さんの物言いは、私を新隊長に任命してくれた近坂部長をも馬鹿にした物だったから、此れは絶対に許せないよ!!

近坂部長は、自分のプライドを捨ててまで、私を新隊長に任命してくれたのに、其れを馬鹿にするのは見過ごしちゃいけない事だからね。
だから、此の試合は絶対に勝つ!勝って、私達の力を相手に見せつける!!



「言うじゃねぇかみほ?だけど、そう来なくっちゃな!
 相手が勝てると高括ってんなら、其れを覆してやろうじゃねぇか!!弱小校と思って侮った事を、精々骨の髄まで後悔させてやるってんだ!!」

「馬鹿にされて黙ってられる程、神経が図太いわけじゃないからねアタシは。――全車撃ち抜いてやろうじゃない?」

「明光台一の俊足からは逃れられないって言う事を、教えてあげるわ!」



うん、頼りにしてるよ皆!
其れじゃあ行きましょう、Panzer Vor!!(戦車前進!!)



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



傲慢な相手の隊長に目に物を見せてあげるよ……私が持てる力の全てを持ってね。
悪いけど、貴女はお姉ちゃんと比べたら全然大した事は無いから、負ける気が全くしないよ――だから、絶対に勝ってみせる!私の初陣は、白
星で飾らせて貰うから、勝たせて貰います!








――――――








No Side



「Panzer Vor!」

「全軍前進!!」




こうして始まった練習試合――何方に勝敗が転ぶかは、今は未だ分からないが、其れでも殲滅戦である以上は激しい戦いになるのは間違いな
いと言えるだろう……と言うか、激しくなって然りだろう。


ともあれ、西住みほの戦車道の第一歩となる戦いの火蓋は切って落とされた――つまりは、此処からがみほの腕の見せ所な訳である。



しかし、この時ドレだけの人が気付いていただろうか?出撃したみほの顔に僅かではあるが、極薄くではあるが笑みが浮かんでいたと言う事に。
後に『軍神』と呼ばれるように成る少女は、この時すでに、その片鱗を見せ始めていたのであった……










 To Be Continued… 




キャラクター補足


近坂凛
明光大付属中学校の戦車部の部長。
みほに隊長の座を譲り渡してからは、副隊長の座に収まり、自身が隊長を務めていた時の副隊長と共に、隊長の補佐に回っている。



言峰乱華
神奈川県立綾南高校付属中学校の戦車道の隊長を務める3年生。
プライドが高い上に、不遜な性格。明光大の事を完全に見下してて、勝って当然の相手位に思っている典型的なやられキャラポジションである。