Side:エリカ


大会の抽選会まであと3日か……いざ、自分が隊長としてあの場に行くと言うのを考えると、ガラにもなく緊張してしまうわね。
3年生になって隊長に就任した私がこうなんだから、1年生の頃から隊長を務めていたみほは、一体どれ程の緊張と戦っていたのか、正直な
所想像がつかないわ。

そもそもにして、1年の頃から隊長をやれと言われても、私だったら其れを熟す事は出来なかったでしょうからね――にも拘らず、隊長就任1
年目でベスト4、2年目で全国制覇したみほは、やっぱり類稀なる戦車乗りなのは間違いないわ。

だからこそ、今年の大会で勝って優勝したいって思えるんだけどね。
今はまだタイマンでは勝てないかも知れないけど、小梅と力を合わせればみほに勝つ事は不可能じゃないから、作戦如何では、明光大を倒
す事は可能だわ――でしょ、小梅?



「みほさんは私とエリカさんで何とかとは言っても、他のチームだっていますよ?澤さんだって強敵でしょう?」

「逆に言うなら、圧倒的に黒森峰の隊員を上回ってるのはその2人と言えるわね。澤に関しては、私と小梅にはまだ及ばないけど。
 その澤にだって、ツェスカをぶつければ最悪でも致命的な打撃は与えるはずでしょう?
 後は徹底的にフラッグ車を狙って行けばこっちにだって勝機はあるわ――まぁ、其れは明光大と戦う事になったらの話だけどね。」

最短で1回戦、最長では決勝戦になるからね明光大とは。
私としては、みほとは決勝戦で戦いたいわ――中学生活最後の大会では、最強のライバルと優勝を争って完全燃焼で終わりたいもの。



「その気持ちは分かりますよエリカさん。
 そう言えば、今週の『週刊戦車道』見ましたかエリカさん?」

「見てないけど……何か面白い記事でも載ってたの?」

「面白いかどうかは分かりませんけど、丁度持ってるんで見てみますか?」

「うん、見せて頂戴小梅。」

果てさて、何が書かれているのやら……ゴシップ記事であっても気になるのは、戦車女子とは言え、私も年頃の女子中学生って事よね。









ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer49
まさかの評価と抽選会です』









で、小梅から渡された週刊戦車道の記事を読んだんだけど……

「く……くはははは!あはははははは!!!な、何よこの記事、私を笑い殺す心算?
 だとしたら良く出来てるわ。この場には居ないけど、まほさんがこの場に居たら、あのクールフェイスが割れて失笑漏らしてるわ!『此処まで
 書かれると、いっそ清々しいな。』って。」

「え~~と、怒りが湧いたりは……」



する筈ないでしょ小梅?
よくもまぁ、こんな記事を書いたモノね?怒りを通り越して感心するわ。



『今年の大会は、隻腕の軍神率いる明光大が優勝筆頭候補であり、次点として黒森峰と愛和学院が上げられるが、黒森峰の栄光奪還は相
 当に厳しい物になるだろう。
 西住まほ無き黒森峰が、軍神を有する明光大にドレだけ喰らい付けるか?黒森峰の新隊長が軍神相手に何処まで戦えるかに期待だ。』




直接的な表現はないとは言え、此処までハッキリと、私じゃみほには敵わないって言ってくれるのは却って清々しい気分すらするわ。
おかげさまで、前評判て言う有り難くない物が無くて助かったわ――此れなら、ドンだけ泥臭い試合をして勝っても、雑誌や新聞で叩かれる
事だけはないからね。

王者で無くなった途端にこの扱いって言うのは、少しカチンとくるけど、去年までは黒森峰が勝つ事を前提に記事が書かれていたから、他校
の戦車女子はきっと面白くなかった筈……其れを、身をもって味わうのも良い経験よ。
其れに、この記事を引っ繰り返して黒森峰が優勝したら、其れは其れでインパクトが有るってモノじゃない。



「意外でした。エリカさんだったら、その記事を読んだ瞬間、雑誌を真っ二つに引き裂くんじゃないかって思ってましたから。」

「小梅……アンタ、私を何だと思ってるの?」

「誰よりも努力を惜しまないストイックさを持った戦車女子ですが、気性は可成り荒い上に好戦的で、敵と認識した相手は誰であろうと構わず
 噛み殺そうとする狂犬と言った所でしょうか?」

「其処まで見事に言われると何も言えないわ流石に。ストイックさは兎も角として、誰彼構わず噛みつく狂犬は否定しないわ。
 でもまぁ、この記事を読んで怒ってるのは、私よりもみほかも知れないわね?」

「みほさんが?」



そう。
あの子は、多分自分が悪く言われるならドレだけでも耐える事が出来るけど、自分に近い人間が悪く言われる事には耐えられないタイプよ。
少なくとも、みほは私の事をライバルとして認めてくれているから、そのライバルが軽く扱われてる、この記事には怒り心頭なんじゃないかしら
ね?……下手したら明光大に『殺意の波動に目覚めたみほ』が降臨するかも知れないわ。



「『我は戦車道を極めし者。うぬらの無力さその身をもって知るが良い』ってですか?……パンツァージャケットの背に『戦』一文字を背負って
 仁王立ちするみほさんとか、普通に迫力あり過ぎると思います。」

「其処で即座に『瞬獄殺』をイメージするアンタも大概ね小梅。」

ま、そう言う訳で、私はこんな記事は気にしてないわ。
此れがまほさんやみほ、或はまほさんのライバルである安斎さんを貶すようなものだったら、私だって怒り爆発だけど、結局は私が隊長の黒
森峰じゃ明光大に勝つ事は出来ないって言われてるだけだから目くじら立てるモノでもないわ。
言いたい奴には言わせておけって所ね。



「ですね。……そして、エリカさんはみほさんと絶対値は同じなんだって認識しました。」

「……何で?」

「分からないなら分からなくて良いですよ。
 取り敢えず、私達の隊長さんは最高なんだって、改めて認識させて貰っただけですから♪」



何よ其れ?
でも、副隊長の貴女にそう思って貰えるのは嬉しいわよ小梅。――取り敢えずこの記事に関して何か言ってくる子は居るだろうけど、その時
は、『大会で見返しましょう』とでも言っておいて。
下手に抑えるよりも、そう言った方がやる気も出るでしょうからね。



「ふふ、了解です。」

「それじゃあ、今日は此処までね。
 って、もういい時間じゃない?……学校の食堂は閉まってるから、どっかで食べて帰るしかななさそうね。
 良ければ、一緒に如何よ小梅?――こんな時間まで付き合ってくれたお礼に奢るわ。」

「え?良いんですか?」



良いわよ。私がそうしたいんだから。
と言っても、馴染みの洋食屋だけどね?……あそこは兎に角ハンバーグが美味しいのよ。
特にデミグラス煮込みハンバーグと、ガーリックバターハンバーグと、完熟トマトソースのモッツァレラチーズインハンバーグは絶品と太鼓判を
推すわ!



「ハンバーグマスターのエリカさんが太鼓判を推すなら期待できそうですね♪」

「その期待には応える味だと言う事だけは保証するわ小梅。」

てか、誰がハンバーグマスターか。
確かにハンバーグは好物だけど極めてはいないわよ!!――マッタク、小梅は変な所でぶっ込んでくるから困るわ。……罰として、あの店の
良さを徹底的に知ってもらうとしましょうかね。



「お手柔らかに?」

「何で疑問形なのよ――ま、貴女も絶対に気に入る店だとは思うから、私が何かする必要はないかもだけれどね。」

其れより大事なのは、3日後の抽選会ね。
何処が相手でも勝つだけだけど、如何か明光大とは決勝戦で当たる組み合わせになりますように――それが、私の願いだわ。








――――――








Side:青子


あ~~……現在、明光大戦車道部の部室は絶対零度の空気と、みほが発する『軍神の煉獄闘気』に包まれて、熱さと寒さの二重唱状態!
最新の『週刊戦車道』を読み始めてからみほがアレなんだが……何が書いてあったんだ?



「エリカさんを馬鹿にするなぁぁ!!!」


――バガァァァァァン!


「雑誌を床に叩き付けて燃やしたわね此れ。」

「素晴らしいまでに見事な『琴月 陰』ねみほさん。」



軍神招来てか、鬼神招来か、或いは魔神招来かこの場合は。
取り敢えずみほがブチ切れる程の事が書いてあったんだろうが、一体何が書いてあったんだよみほ?黒森峰の銀髪を低く評価した様な記事
が書いてあったんだろうって想像は出来るけどよ。



「どうもこうも読んでよ此れ!!」

「いや、無茶言うな!真っ黒な灰になった本が読めるかぁ!!だから、何が書いてあったか教えてくれ。」







――みほ説明中だ、少し待ってろ。







……成程な、確かにそいつは笑って済ませられるもんじゃねぇわ。
黒森峰の銀髪と天パは、みほが中学戦車道で見つけた数少ないライバルだし、今年の大会なら最強の対抗馬になる可能性がある奴等な訳
だからな?
特に銀髪は、みほに勝るとも劣らない力を付けてきてるから、今年の大会の最大の相手なのは間違いねぇ……其れを安く見られたら、みほ
としては黙ってられねぇか。



「全くこの記事は、お姉ちゃんがエリカさんを隊長に指名したって言う事を知らないんじゃないのかな?知ってたら、こんな記事書かないよ!
 西住まほが隊長に指名した戦車乗りがどれ程のレベルなのかって事を考えてないもん。」

「言われてみりゃそうだ。
 まほ姐さんが生半可な実力の奴を隊長に指名する筈がねェモンな。」

「隊長のお姉さんが指名したなら相応の実力が有るって事になりますからね?
 実際、逸見先輩って凄く強いですし……隊長と逸見先輩と赤星先輩が組んだ去年の合宿最終日の模擬戦は全然敵いませんでしたから。」

「そう!お姉ちゃんが指名したんだからエリカさんは強いの!」



でもまぁ、ライバルを低く言われて此処まで怒れる奴ってのも早々居ねぇんじゃねぇか?
自分のチームが悪く言われて怒る奴はごまんと居るだろけどな。……ま、そんだけみほが銀髪の事を好敵手として見てるって事なんだろうな
ぁ~~~……あと天パの事も。

「取り敢えずみほ、この記事の内容は前評判で終わるんじゃねぇかと思うぞ?」

「そうね、エリカならこの下馬評を引っ繰り返す位の事はやってのける筈よ。
 まぁ、みほ率いる私達明光大が、バリバリ快進撃するって言うのだけは間違ってないけれど。」

「エリカさん率いる黒森峰は、明光大と当たるまでは負けないわよみほさん!!」

「……そうだね。
 エリカさん――だけじゃなく、小梅さん達も居る黒森峰がそう簡単に負ける筈がないよね……」

「そうですよ隊長!それに、2年生にはツェスカも居るんですから、選手層だって確りバッチリ大丈夫です!」



そうそう、黒森峰の選手層は、ウチ等の3倍はあっからな。
兎に角だ、アイツは絶対に下馬評引っくり返してくるだろうから、アタシ達も前評判に負けないようにバッチリやってこうぜ?目指せ2連覇だ!



「うん!目指せ2連覇!願わくば決勝戦を黒森峰とで!!」

「そうなったら、燃えるシチュエーションね。」



ライバルとの決勝戦は王道だからな――全ては、今度の抽選会だけど、多分みほなら良い番号を引き当てるんだろうな。
今年はどんな所と戦えるのか、楽しみって奴だぜ♪


そんな訳で、今日の練習は終わった訳だが、まさか翌日の学校新聞に『西住隊長、週刊戦車道に怒りの琴月 陰』なんて記事が載るとは思
ってなかったぜ……記事見たみほが頭抱えてたからな。

一体何時撮ったのか、明光大の新聞部、侮れねぇな此れ。(汗)








――――――








Side:みほ


そんなこんなで、抽選会当日!
今年の抽選会場は……なんで態々東京ドームホテルの大フロア!?高校戦車道大会の抽選会会場は、日本武道館でやるみたいだし……
試合での損害の補償とかもしてる事を考えると、連盟の資金源が何処なのか激しく謎だね。

それにしても各校の隊員以外にも結構人が来てるね?戦車道関係の雑誌の取材陣も来てるんだ。
まぁ、学校毎に来てる人数には差があるみたいだけどね――私達は隊長チームと副隊長チームだけだけど、レギュラーを全員連れてきてる
所もあるみたいだし、黒森峰に至っては一軍全員連れてきてるよねアレ?
エリカさんの性格を考えれば、あの大所帯は考えられないんだけど、大方一軍の子達が『隊長に付いて行かせてください』って感じでグイグ
イ来られて押し負けちゃったんだろうなぁ……

其れよりも、今年は明光大、黒森峰、愛和学院の3つ以外は見事に顔ぶれが異なってきた感じだね?
戦車道の地区大会は有ってないような物(都道府県によって戦車道をやってる学校の多さに差がある為、多い所は予選選抜を行うけど、少
ない所は練習試合なんかの戦績で行政が代表を決定する場合があるから。)だけど、こうもガラリと変わって来るって言う事は、結構な戦力
変化があったんだろうね……楽しみだよ。



「相変わらず、こう言う場所では良い顔するわねみほ?」

「エリカさん。――うん、抽選会は大事だからね。」

「自分のくじ運で何処と当たるかが決まる訳だから、大事なのは否めないわ――まぁ、何処と当たろうと私達黒森峰は勝つ、其れだけよ。」

「勝つだけですか?」

「勿論、全員が試合を楽しんだ上でね――楽しんだ上で勝つって言う、合宿で貴女に教わった事は忘れてないわ。」



なら良かったです。
そう言えば、エリカさんも読みましたよね、あの記事?……頭に来ませんでしたか?




「あ~~……アレね、怒りを通り越して笑いが出てきたわ。
 あそこまでハッキリと、みほには勝てないって書かれると、清々しく感じた位よ?おかげさまで、今年は『王者の戦い』に拘る必要もなくなっ
 た訳だしね。」

「成程、怒りを通り越して感心したと。それ程酷い記事だったって事ですね。」

でも、それで『王者の戦い』をする必要が無いって判断したエリカさんは凄いと思うなぁ?
黒森峰みたいな学校だと、伝統を重んじるから、王者の戦いに拘るんじゃないかと思ってたよ――お姉ちゃんが卒業して、西住流が居なくな
ったから余計にね。



「黒森峰だからよ。
 私が今年言われてるのは只一つ『再び王者となれ』と言う事だけで、戦い方まで煩く言われてないの。おかげで、好きなように出来るわ。」

「そう言う事ですか。」

と言う事は、王者の戦いって言う枷がない状態でエリカさんは大会に臨む訳だね……此れは、狼が檻から解き放たれたと考えて良いかも。
確かに此れなら、エリカさん率いる黒森峰なら、あの下馬評を軽く引っ繰り返すだろうね。

と、黒森峰の番だねくじ引き。



『黒森峰女学院、8番。』



8番て言う事は、前半ブロックの最後だね。――私が前半ブロックの残り3つの内の何処かを引かない限りは当たるのは決勝だね。
7番の学校は既に決まってるから、1回戦で当たる事だけは無いけど。


さて、次は私の番だね。
箱の中に手を突っ込んで、かき混ぜてかき混ぜて……ドレにしようかな?……よし決まった!
私が選んだのは此れだよ……ドロー!!



『明光大付属中学校、9番。』



9番て言う事は、トーナメント後半の第1試合!
そして番号の上では1番しか違わないけど、8番と9番なら、決勝まで当たる事は絶対にないから、エリカさんと戦う事になるのは決勝戦!!
此れは、最高のくじ運だったって言わざるを得ない感じだよ。



「如何やら、貴女と当たるのは決勝戦みたいねみほ?……最高じゃない、必ず決勝戦まで勝ち上がって来なさい?
 貴女は、私が黒森峰以外の戦車乗りで唯一認めた戦車乗りなんだから、私以外に負ける事なんて断じて許さない――何よりも、貴女には
 最強のライバルで居て欲しいからね。」

「その言葉、そのまま返しますよエリカさん。
 私達と戦うまで負けちゃダメですよ?順当に勝ち上がれば、準決勝で愛和と当たる事になりますけど、其れこそ去年の雪辱を果たして決勝
 に駒を進めてきてください。」

「言うじゃないの?……OK、約束するわ。
 私達は絶対に決勝に駒を進めるって此処で誓うわ――だから、貴女達も必ず決勝まで来なさいよ?」



勿論ですエリカさん。
私達は必ず決勝戦まで勝ち抜くって、私の魂と、隊長車輌であるアイスブルーのパンターに誓うよ。それで足りなかったら、お母さんに『西住
流師範』の署名入りの誓約書作って貰って、其処に記名捺印したっていいから!



「……其処までしなくて良いわよ、貴女の気合は分かったから。
 でも、私達が決勝に進む以上に、貴女達が決勝に進むのは難しいわよ?――去年の優勝で、明光大は各校からマークされてるからね。」

「其れは分かってるよエリカさん。
 だけど、マークされてる中で勝ち進んで行ったら、其れはきっと皆の自信になるだろうから、此れ位は越えてなんぼって言う所かな?」

「マークされてる事を、逆に自信を付けさせる機会と取るって、本気で恐ろしいわ貴女。
 けど、そう言う事なら私の心配は杞憂に過ぎないでしょうね――決勝で待ってるわよみほ。」



はい、決勝で会いましょうエリカさん。
今年の大会も強敵揃いだから、楽な試合にはならないだろうけど、其れを全部倒して私達は決勝に進むから、最高の舞台で待っててね。

中学校最後の大会で、最高の試合をして優勝する――それが、今大会の目標!必ず、果たして見せるよ!!











 To Be Continued… 





キャラクター補足