Side:梓


合宿最終日の模擬戦――1年生vs2・3年生での模擬戦なんだけど、幾らフラッグ戦ルールとは言え、此れは幾ら何でもキツク無いかなぁ?
西住隊長を相手にするのだけだって相当なのに、其処に部長と、隊長のお姉さんと、黒森峰の副隊長と副隊長補佐が居るって、これって相
当な無理ゲーって思うのは私だけかなツェスカ?
弱音を吐く心算は無いけど、ハッキリ言って戦力差が凄すぎる――其れこそ大戦期のアメリカと日本位の戦力差があるんじゃない?
幾ら西住隊長に鍛えられたって言っても、今の私じゃこの戦力差を覆す戦術は思いつかないよ……って、弱気になっちゃダメだよ!!



「まぁ、確かに相手はトンでもない位の過剰戦力だけど、其処につけ入る隙が無いとは言い切れないわ。
 西住まほ隊長が言ってた事なんだけど、この世界に絶対強者は存在しない――一勢力が栄華を極めようとも、其れは泡沫の夢に過ぎず、
 必ず次の勢力が力を伸ばしてくる物なんだって。」

「盛者必衰……隊長のお姉さんが言うと説得力ありますね。」

自ら盛者必衰を今年の大会で味わった訳だし。
だからと言って、この合宿を見る限り隊長と同じかそれ以上に凄い人なのは間違いないし、部長は言わずもがなで、逸見さんと赤星さんも隊
長と略互角レベルだから何か策を考えないと瞬殺されちゃうかも……如何しようかな。

そう言えばツェスカは、この模擬戦はどの戦車に乗るの?この間のバトルロイヤルの時と同じくパンターで行く?



「実を言うとパンターにするかティーガーⅠにするか迷ってるわ。」

「其れなら、パンターにしない?私は今回ティーガーⅡに乗るつもりだから。
 で、少し作戦があるんだけど――――って言う感じで、こんなのは如何かな?」

「此れは……案外いけるかも知れないわよアズサ!
 決定打にはならないかもしれないけど、其れでも、此れは隊長達だって予想してない事だろうから、きっといい戦果を齎してくれる筈だわ!
 こんな作戦を思いつくなんて、流石は軍神の弟子ねアズサ?」

「そんな大した事はないよツェスカ……私は、私の為すべき事をして来ただけだからね。」

だから、この模擬戦で、此れまでの私の全てをぶつけます西住隊長!!――勝てるとは思わないけど、簡単に負ける心算はありません!!
受け止めて貰いますよ西住隊長、今の私にできる全力を!!

因みに、隊長はツェスカね?
如何に私があり得ない成長をしてるとは言え、ドイツで鳴らして来たジュニア選手のツェスカの方が経験は上だから隊長には相応しいから。

さぁ、行きますよ西住隊長!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer40
合宿模擬戦全力全壊です』









No Side


合宿最終日の1年vs2、3年連合の模擬戦は、試合開始前から去年よりも凄い熱気に包まれていた。単純に夏の暑さだけではない。
その原因は、両チームの隊長と副隊長に有ったと言っても過言ではないだろう。……何と言っても連合チームの隊長であるみほと、1年チー
隊長のツェスカの間には、凄まじいまでの視線のスパークが起こっているのだから。

しかも其れだけでなく……


「…………」

「…………」


――バチィ!!



両チームの副隊長であるエリカ(3年生勢は副隊長も辞退した)と梓もまた、凄まじいまでの視線のぶつかり合いを展開していた。
どちらも全く持って退く気がないところ見ると、試合前の睨み合いから、既に勝負は始まっていたと言えるだろう――何れにしても、みほとエリ
カと対峙して、全く怯まない梓とツェスカの胆力は大したモノなのは間違いない。


「良い目をしているねツェスカちゃん。
 澄んだ瞳の奥に見える闘志の炎……心の底から戦車道が好きで、戦車道を楽しんでいないと出来ない目だよ――ドイツのジュニアリーグ
 で負けなしって言うのも頷けるかな?
 貴女と梓ちゃんが、どうやって私達に挑んでくるのか楽しみだよ。手加減をする心算は無いから、最初から全力で来てね?」

「Ja.(はい。)最初から全力で行かせて頂きます――そうでないと、恐らく勝負にならないかもしれませんから。」

「ふふ、楽しみにしているよ。」



「今年から始めたにしては良い目をしてるじゃない?流石はみほの子飼いの部下……いいえ、みほ自らが見出した愛弟子と言った方が良い
 かしら?
 何にしても、胆が据わってるのだけは確かね?こう言ったらなんだけど、私に睨まれて平気な子ってあんまり居ないのよ?」

「……西住隊長と練習してると、嫌でも度胸はつきますよ?
 回避訓練では止まったら撃破されますし、紅白戦とかバトルロイヤルみたいな実戦形式の練習だと、隊長って割と本気で相手を倒しに来ま
 すから、度胸が無いとあっと言う間に呑まれてお終いなんです。」

「明光大の練習内容を聞いてると、背筋を嫌な汗が流れてく気がするわ……まぁ、其れだけの度胸があるなら楽しめそうね澤。
 今の貴女達が持てる力の全てを遠慮なくぶつけてきなさい――私達が、其れを粉砕してあげるわ。」

「簡単には砕けませんから!」


みほはツェスカと、エリカは梓と言葉を交わし、その後みほと梓、エリカとツェスカも少し言葉を交わして、両チームの隊長と副隊長は夫々の陣
営に戻って行く。

マッタク持って今更だが、大会さながらの模擬戦を行う事が出来る演習場を有している西住家は一体どれほどの大家なのだろうか……流石
日本戦車道における二大流派の片翼を担っているだけはあると言う所だろう。


さて、自軍の陣営に戻って来たみほは、模擬戦開始の前に最後の作戦確認を行い始めた。


「其れで隊長、1年生チームは如何来ると思う?」

「もう、止めてよお姉ちゃん。お姉ちゃんに隊長とか呼ばれると、背中がむず痒くなっちゃうから……って、ちょっと面白がってやってない?」

「さぁ、如何だろうな?」

「もう!
 だけど、そうだね……戦力的には私達の方が絶対的に上だから、1年生チームは真正面からのぶつかり合いを避けて、此方を翻弄する為
 の策を弄して来ると思うんだ。
 具体的に言うなら、演習場に点在してる小規模な雑木林に誘い込んでのゲリラ戦を仕掛けて来る可能性がとっても高いと思う。
 付け加えるなら、梓ちゃんの策に乗じてツェスカちゃんが黒森峰仕込みの重戦車の火力での真っ向勝負を仕掛けてくる事も頭に入れておく
 べきかも知れないね。」


姉妹のちょっとしたじゃれ合いはあったが、其れでもみほは1年生チームがやって来るであろう事を模擬戦が始まる前から尽く看破して作戦
を確認していく。相手は格下でも、一切の油断はしないと言う事なのだろう。
更に言うのならば、みほには梓がどんな事をしてくるかは大凡の見当が付いていた――当然だ、梓を鍛えたのはみほなのだから。

だからこそみほは、1年生チームが何をしてくるか楽しみで仕方なかった。
確かに梓がどんな作戦を展開して来るかを読む事は出来るが、だがツェスカの考えまで読む事が出来るかと言われれば其れは否だ。
如何にまほに鍛えられたとは言え、この合宿で初めて知り合ったツェスカの考えを読む事は、如何に人間観察が得意なみほであっても簡単
な事ではなく、だからこそ何かしてくるのではないかと言う期待が有ったのだ。


「楽しそうねみほ?」

「うん、凄く楽しいよエリカさん……梓ちゃんとツェスカちゃん、将来有望なこの2人がどうやって私達に挑んでくるのか、其れを考えるだけでも
 私の心はワクワクして来るから。
 エリカさんだってそうでしょ?」

「まぁね。
 ツェスカは今年の黒森峰の1年では間違いなく最強だし、私に睨まれて臆さなかった澤も相当だと思うから……確かに楽しみではあるわ。」


2、3年連合チームの副隊長であるエリカと話しながら、みほは己の乗る戦車の前にやって来た――最早、己の半身と言っても過言ではない
アイスブルーのパンターの前に。

既に準備は出来ている――後は模擬戦の開始を待つだけだ。


そして――


『其れでは、試合開始!』


スピーカーから、しほの試合開始が告げられる。


「「Panzer Vor!!」」


其れと同時に、みほとツェスカが戦車前進を指示し、両軍とも夫々の戦力を展開していく。
2、3年チームはみほとエリカと小梅がメインとなった第1小隊、まほが指揮する第2小隊、凛の指揮する第3小隊と、部隊を3つに分けて1年
チームが陣取るであろう場所へと夫々進軍して行く。
総合的な戦力で見ると、みほ小隊がやや高い感じがするが、此れはこの模擬戦のルールに於いて『フラッグ車は隊長車』と言う特殊ルール
がある為に、フラッグ車を守る意味でやや戦力が高くなっているのだ。


「さてと、このまま何もなく進軍出来たとして、お姉ちゃんと部長が1年生チームと接敵するのは最短で10分後って所だね。
 全車停止、本隊は此処で陣を組み、第2小隊と第3小隊からの連絡を待ちます。」

「了解。って言うか、去年の合宿でも思ったけど、貴女って戦車乗るとちょっと感じが変わるわよねみほ?」

「ふぇ?そうかなぁ?」

「そうですねぇ?
 普段のみほさんは、何て言うかお転婆少女って言う感じなんですけど、戦車に乗ると冷静沈着で的確に指示を飛ばしてますからねぇ?
 戦車に乗ってる時のみほさんは、正に軍神。中学戦車道で知らない者は居ない『隻腕の軍神』ですね♪」

「まほさんが『冷然たる武神』でみほが『隻腕の軍神』って、西住姉妹はんぱないわね……」

「もう、止めてよエリカさんも小梅さんも!」


で、みほ小隊は部隊をある程度進めると、遮蔽物のない平原のど真ん中で停車し、まほや凛からの通信が入るのを待つ。この場所ならば見
通しも良く、仮に周囲に何個かある藪から1年チームが仕掛けて来たとしても、完全に丸見えなので見てからでも対処が間に合うのである。
そして、停車中に仲間と談笑できると言うのも、此れは油断ではなく余裕からきているモノと言えると同時に、みほにしてみれば態と隙を見せ
ていると言う事でもある。
双眼鏡で此方を見る事が出来ていたのならば、仲間と談笑してる相手と言うのは隙だらけ以外の何物でもないから、攻め入る大チャンスで
あり、その大チャンスに1年チームが如何動いて来るのかにも興味があった――尤も、此れに乗って来たら即座に撃破する準備も確りと整え
ていると言うのだから恐ろしいが。


そんなこんなで、エリカ達と雑談を始めて暫くして――


『こちら第2小隊、第1目的地に到達した。』

『こちら第3小隊、第1目的地点に到着したわ。』



略同じタイミングでまほと凛から通信が入り、此れを合図にみほの顔は雑談をしていた少女の物から、軍神と称される戦車乗りの物へと変わ
り、其れを見たエリカと小梅の表情も引き締まる。
いよいよ此処からが本番なのだから。


「藪の中に敵影は?如何に藪に潜んでいるとは言え、Ⅲ突は2輌とも此方に居る事を考えると、完全な待ち伏せは難しいと思いますが……」

『いや、此方には敵影は確認できない。試しにⅢ突での威嚇射撃を行ったが応戦はなしだ。』

『敵影はないわ。ラングで一発ぶち込んだけど反応はないし、この藪は外れだったのかも知れないわね。』

「2カ所とも外れ?」


だが、まほと凛からの通信を受けたみほは両方の藪が外れだった事が意外だった。
少なくともみほの見立てでは、1年チームの練度や実力を総合的に判断した結果、まほと凛を向かわせた茂みに潜む確率が最も高いと考え
ていたのだから。


――見立てが外れたか?


そう思った次の瞬間に、其れは来た。


「みほ、前方に敵影!――アレは、1年チームの全軍よ!!」

「えぇ!?まさか、真正面から挑んで来たって言うの!?」


エリカが双眼鏡で辺りを確認していた所、真正面から向かってくる1年チームを視界にとらえる事が出来たのだ。
此れにはみほも流石に驚いた――まさか、真正面から挑んでくるとは思わなかったから。


「(真正面から……でも、そうか。梓ちゃんは敢えて奇策を捨てて挑んで来たんだね?
  私が指導したから、どんな策を弄しても私には全て読まれちゃうって思って藪に潜んでのゲリラ戦を捨てて、真正面から挑んで来たか。
  其れも、明光大最強のティーガーⅡに乗って、そしてツェスカちゃんがパンターって……此れは、完全に裏をかかれたなぁ。)」


だが、驚きながらもみほの顔には笑みが浮かんでいた。まさか、梓が自分の予想を超える事をしてくるとは思わなかったのだろう。
だからこそ面白い。ならば、其れを受けきってやるとばかりに、みほはパンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けるように着直し(イメージは
遊戯王の闇遊戯が学ランを肩に引っ掛けてる感じ。)真正面から挑んで来た1年チームを見据える。


「真正面から来ましたか……ならば其れには応えましょう!
 第2小隊と第3小隊の合流には時間がかかるでしょうが、合流前にフラッグ車を叩いて終わらせます……全軍前進!!」


そして進軍!
この模擬戦、みほと小梅はパンターで出ているが、エリカはティーガーⅠで出撃しているので、火力に関しては問題なく、ティーガーⅠの主砲
ならば、ティーガーⅡの装甲を抜く事は可能な上に、パンターならどこに当てても撃破出来る。
ゲリラ戦を捨てて突撃して来た梓達だが、フラッグ車を用意に撃破出来る戦力を有しているみほ達の方が圧倒的に有利なのは間違いない。

だが――


「撃て!!」


――ドガァァァァァァァァァン!!


1年チームのヤークトパンターが放った一発が、みほ小隊の最前線にいた千尋のティーガーⅠを襲い、呆気なく白旗を上げさせる。完全に予
想していなかった攻撃に、明光大の副隊長も対処できなかったのだ。

狙ったのか?……否、そうではない。偶々、最も近くにいる戦車を攻撃したら撃破出来たと言う所だろう――狙うのならば、みほのフラッグ車
を狙うのが上策なのだから。
其れでも、先手を取る事が出来たのは良い事だろう。先手を取る事が出来れば、其のまま一気に波に乗る事だって不可能ではない上に、先
手を取ると言うのは部隊の士気向上にも繋がるのだ。

たった1輌、されど1輌と言ったところだろう。


だが、其処は流石のみほだ。


「全軍砲撃開始!敵フラッグ車を集中的に狙って下さい――私の予想を思い切り裏切ってくれたんだから、そのお礼はちゃんとしないとね♪」


即座に状況を理解すると、全軍に攻撃を指示し、ツェスカの乗る隊長車兼フラッグ車に攻撃を集中させる。
確かに自分の目論見は見事に躱されたが、だからと言って其れが如何した?模擬戦のルールはフラッグ戦なのだからフラッグ車を撃破すれ
ば其処で終わりだ。

梓が、自分の考えを読んで策を捨てた奇策を使って来た事には驚き、多少の嬉しさを感じたみほだが、真正面から挑んでくるのであれば、そ
れはみほにとってはカモに他ならない。

みほは自分が正当な西住流ではないと自覚しているし、真正面から押せ押せの戦いよりも、此れでもかと言う位に策を巡らす戦いを得意とし
ているが、だからと言って正面突破上等の西住流殲滅戦法が出来ない訳ではない。
寧ろ、戦力で上回っているならば、殲滅戦法上等なのがみほだ。――何よりも、嬉しい誤算として、自分のチームにはティーガーⅠに乗った
エリカがいるのだから、火力面でも不安はない。


「真っ向勝負、受けて立つよ梓ちゃん。」

「真正面からとは良い度胸してるじゃないツェスカ?……受けてやるわ!!」


だから、此処で終わりにしようとみほ小隊は1年チームに向かい、そしてそのまま激しい戦車戦に突入!
1年チームは梓のティーガーⅡがフラッグ車であるツェスカのパンターを護る様に位置を取り、砲塔を『食事の角度』にする事で2、3年チーム
の猛攻からフラッグ車を護っていた。

この見事な戦い方には、みほだけでなくエリカや小梅も舌を巻いた。
如何にみほが1年生チームの力を引き出したいと言う理由で、本当の意味での全力を出してはいないとは言え、8割開放のみほと互角に渡
り合う事の出来る梓とツェスカの実力に驚かされたのだ。

真っ向勝負を挑んで来た1年チームに対してみほ達も真っ向から対処しようとするが――


「ツェスカ、今だよ!!」

「OK!喰らえ、閃光煙幕弾!!」


――カッ!!

――ボウン……!!



そこで、ツェスカがまさかの発煙筒と閃光弾の同時投擲を敢行!
敵視界抹殺は明光大のお家芸であり、みほが流れを掴む意味合いで最もよく使う戦術だが、まさかそれを使われるとは思っていなかったの
だろう。
否、ある程度予測はしていたが、ツェスカが其れを使ってくると言うのは思いもしなかった。だから、こうも見事に嵌ったのだ。

そして、此れこそが試合前に梓がツェスカに持ちかけた『作戦』だった。
梓は自分が策を弄する事はみほに看破されているだろうと考え、ならばとその裏をかき、自分が重戦車での正面突破を敢行し、逆にツェスカ
に搦め手の視界奪取を行うように言ったのだ。

其れは実に見事に嵌った。
梓は搦め手で来るだろうと考えていたみほにとって、梓の正面突破は予想外であり、ツェスカは策に乗じて蹂躙して来ると思っていたエリカ
にとってもこの閃光煙幕攻撃をツェスカが行ったと言うのは衝撃的だった。

だが――


「あは……あははははは!やってくれるよ梓ちゃん。師が弟子を見ている以上に、弟子は師を見てたって言うのかな?……此れは完全に予
 想外だった!全く予想していなかったよ。
 でも、だからこそ面白いよ――此れこそが戦車道!最高だよ梓ちゃん……私の目に狂いはなかった!!矢張り貴女は最高だよ!!」

「此処で搦め手とは……やるじゃないツェスカ。
 アンタが搦め手で来るのは予想外だったけど、其れはつまり、私達に勝つ為の布石って言う事よね?……上等じゃない、受けてあげる!」


みほ小隊のトップ2であるみほとエリカの顔には『壮絶』でも足りない程の背筋が凍る程の笑みが浮かんでいた――戦車道での戦いを心底
楽しみ、それ以上に戦い其の物を楽しんで居なければ浮かべる事の出来ない『戦う者』の笑みが。


「此れは、面白い事に成りそうです。」


そして、みほとエリカには劣るが、小梅もまたその笑みを薄く浮かべていた。
此れが後に『黒檻峰の隻腕の軍神』『黒森峰の銀狼』『黒森峰の隼』と呼ばれる事に成る3人のチーム初結成であったのだ――そして、その
評価は間違いではない。

静かに笑みを浮かべるみほは正に軍神であり、獰猛な牙を隠そうともしないエリカは狼で、控えめに笑みを浮かべる小梅は上空から獲物を
狙う隼そのものだったのだから。


「視界が回復したら、直ぐに追撃するよ!
 私達の視界を奪っておきながら、其処でフラッグ車を狙ってこなかったって言う事は、此方のフラッグ車をより確実に撃破する為の策がある
 筈だからね……其れが発動する前に、相手のフラッグ車を叩く!――異論は?」

「無いわよみほ――寧ろ思い知らせてやろうじゃないの……あの子達と私達の間にある絶対的な壁って言う物をね!!」

「其の壁を越える事が、彼女達が『本物』になるための試練になるのですから、異論はありません。私達も、全力で行きましょうみほさん!」

「それじゃあ、改めて……Panzer Vor!」

「「Jawohl!!」」


そして、みほ小隊は視界が回復すると同時に、1年チームを追撃開始!
奇策を越えた奇策で、1年チームが先手を取ったとは言え、其れが逆にみほ小隊の力を底上げしたと考えると、一概に何方が先手を取って
優位に立ったかとは言えないだろう。

難にしても、最終日の模擬戦は此処からが本番――其れは間違いないだろう。








――――――








Side:梓


ふぅ~~~……取り敢えず、最初の作戦は何とか巧く行ったけど、逆に言うのなら、西住隊長には此処からはどんな搦め手も多分通じない。
戦車戦になったら多分私もツェスカも勝ち目はないし、時間が経てば隊長のお姉さんや部長もやって来ちゃうだろうから、小隊全部が合流す
る前に、西住隊長を――フラッグ車を叩く!それ以外に勝ち目はないからね。



「だからと言って西住妹様が登場してるフラッグ車を落とすのは簡単じゃないと思うんだけど……って言っても、貴女はやるんでしょアズサ?」

「勿論だよツェスカ……勝つ気で行かなきゃ隊長には敵わないから――私は、この合宿で隊長を越えて見える!!」

「其れは……何とも凄い目標じゃない?でも、其れ位の思いが無かったら、あの妹様に勝つ事なんで出来ないだろうけどね。
 でも、其れは果てしなく遠い道よアズサ……其れでも、貴女は進むの?」



其れは愚問だよツェスカ。私は、西住隊長の勇姿を見て、其れに憧れて戦車道に足を踏み入れたんだから、どれだけ遠い目標でも其処を目
指して行けば、何時か必ず追い付けるし、追いかける段階で得た知識だって無駄にはならないから。

だからこの模擬戦、私の持てる全ての力を持ってして貴女に挑みます西住隊長!

受け止めて貰いますよ……私の力を――否、私達1年生チームの力を!!
私の成長は、貴女の予想の上を言ってるんだって言う事を、この戦いで証明します!――だから、手加減は無しの方向で願いします!!


「手加減なんて最初からないでしょうに……そもそもが無理ゲーレベルだしね?――勝つ気で行くんでしょアズサ。」



うん、その心算だよ
此処からが第2ラウンドにしてファイナルラウンド……全力で行きますよ、西住隊長!!私達の本気と全力、受け取って下さい!!!











 To Be Continued… 





キャラクター補足