Side:しほ


入学から半月と言うところですが、如何ですかみほ、学校には慣れましたか?



「うん!すっかり慣れたよお母さん♪
 戦車道の方でも、頼れる仲間が出来たし、私達と一緒に入部した1年生達が思った以上に上達が早くて、此れなら大会に間に合うかもなの。」

「其れは良い事ですね。
 戦車は一人で動かす事は出来ないから、仲間の存在は絶対に必要になってきます――其れが、頼れる仲間だと言うのならば最高ですね。」

何よりも、みほは仲間と共に在ってこそ己の力を発揮できるタイプだからね。
まほは、良くも悪くも西住流そのものだから、自己の能力だけでも勝つ事が出来るけれど、みほはそうじゃない――仲間の存在があってこそ、そ
の力を最大限に発揮する事が出来るタイプですものね。

言うならば、力のまほと、技のみほと言う所かしら?――何れにせよ、今年と来年の中学戦車道の大会は面白い事になるのは間違いないわ。

「みほ、まほと戦う事になったら、貴女は如何しますか?」

「お姉ちゃんと?
 ん~~~~……そうだなぁ、お姉ちゃんが相手でも負けたくないから、ありとあらゆる手段を駆使して、お姉ちゃんに勝とうとするかもだよ。」



西住まほと言えば、若干13歳でジュニアユースの選手に選ばれ、更には隊長まで任された、ある意味で戦車道を志す者にとってのカリスマ的
存在であるのだけど、其れに対して、こうも真正面から勝とうとすると言ってのけるとは……凄いわねみほは。

ですが、その気持ちを失わないようにね?
まほだってみほには負けたくないと思ってるでしょうから、互いのその思いがぶつかり合えば、きっと新たな世界が見えて来るでしょうから。


ふふ、みほを件の学校に進学させたのは、間違いではなかったみたいね。

因みに、縄梯子でヘリに搭乗するのは、命綱を付けていても危険だから即刻辞めさせたわ!此の子も菊代も、一体何を考えているのかしら?
今は、近くの複合商業ビルの屋上へリポートを使わせて貰っているけれど……あぁ言う交渉の際にも、西住の名って言うのは便利なモノよね…










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer4
『校内紅白戦-軍神の片鱗』










Side:みほ


入学して半月、そして戦車道部に入部してからも半月……うん、皆大分戦車の動かし方に慣れて来たみたいだね?
普通だったらもっと時間がかかるんだけど、僅か半月で此処まで動かす事が出来るようになった言うのは、隊長の指示が良いからだよね!!



「そう言って貰えると嬉しいけど、それ以上に貴女達の指導もあるわよ西住?
 貴女達のチームは、装填士を除いて、全員が夫々のポジションのエキスパートと言っても過言じゃないでしょ?だから、夫々のチームの的確な
 指導をする事が出来る。
 本当に、貴女達が味方で良かったわ。」

「あはは……そんな、私達は自分に出来る事をやってるだけですから。」

何よりも戦車が、戦車道が好きだから、どうしても初心者への指導には熱が入っちゃうかもだけど、ヤッパリ戦車の楽しさを知って欲しいから!
其れに、車長として教えられるのって、精々車長としての心得位ですから、実戦的な事を言うなら、ナオミさんとつぼみさんの指導の方が意味が
あると思いますから。



「まぁ、其れは確かにだけど、其れでも貴女達は凄いのよ。
 でも、此れで漸く目的の一つが達成できるかもしれないけれどね。」

「目的の一つ?」

「隠す事も無いから言っちゃうけど、其れはズバリ、私達2年生と、貴女達1年による紅白戦ね。
 変則的なバトルロイヤル形式になるけど、貴女達のチーム以外は未経験者だから、戦力バランス的には問題ないし、たった4輌の差くらいは
 大した問題じゃないからね。」



そう来ましたか。
確かに私達のチーム以外は、中学校から戦車道を始めた、所謂『素人』かも知れませんけど、だからって甘く見てると、痛い目を見ますよ隊長?



「其れを期待してるのよ。
 素人集団を、果たしてあなたがドレだけ纏め上げて、そして動かす事が出来るのかに興味があったからね――全力で、やろうじゃない西住!」

「上等です、近坂隊長!!」

やる以上は全力で!!お母さんにもそう教わったからね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・



と言う訳で、只今、作戦会議中。
近坂隊長率いる2年生チームには、ティーガーⅠが2輌と、パンターGが1輌だから、数の上では勝っていても、攻防の値では相手の方が上。

余談だけど、1年生チームの隊長は、ナオミさんの推薦で私になった――まぁ、ある意味で、やり易いけどね。



「さてと、車輌数ではこっちが有利だが、戦車の質なら2年生の方が上よ?此処から如何する心算?」

「攻撃力と防御力では2年生に分がありますが、機動力に関してはⅢ号J型4輌と、パンターGを有する私達の方が勝っています。
 なので、試合が始まった直後に、敵のパンターを索敵し、見つけ次第此れを撃滅して、相手の機動力を潰し、ティーガーを引き摺り出します。」

ティーガーⅠの最高速度は38㎞なので、パンターとⅢ号ならば追いつかれる事は有りませんから、其れを利用して相手の戦況をかき乱します。
なので、Ⅲ号の皆さんは、敵車輌を撃破する事よりも、兎に角生き残る事を考えて下さい。



「私達、Ⅲ突2輌は如何すればいいの?」

「Ⅲ突の主砲なら、ティーガーⅠの後部装甲を撃ち抜く事が出来ますが、相手も其れは分かっているので、開始直後の戦列には1号車のみ参
 加で、残る2号車は戦列に加わらずに待機していてください。
 向こうのパンターを撃破したら、改めて指示を出しますので其れに従って下さい。」

「よっし、了解っす!」

「了解よ、西住さん。」

「此れでこっちのやる事は決まった~~~!ってちょっと待った。
 2年生達だって、アタシ等の乗るパンターを意の一番に撃破しようとしてくるんじゃねぇの?1年チームの最高戦力にして、経験者が居る車輌な
 んだから、如何考えたって真っ先に狙われんだろ?」

「青子さんの言う通りよ?其処は如何するの、みほさん。」

「当然私達が狙われるでしょうけれど、其処は数の利を生かします。Ⅲ号でティーガーⅠの装甲を抜くのは、略無理に近いですが、それでも数で
 攻撃されたら、蓄積ダメージが何処で出るか分からないので無視は出来なくなります。
 更に、其処にⅢ突を混ぜる事で火力を底上げし、パンターだけに狙いを定められないようにし、その乱戦に乗じて敵パンターを撃破します。」

基本的には、私達がパンターを狙いますが、Ⅲ突1号車も狙えれば狙って下さい。
例え撃破に至らなくとも、其方に注意が向く事で、私達が撃破しやすくもなりますから。



「錬度と戦車の性能で劣る分は、工夫で補うと言う訳ね?
 良いんじゃない?正面からやり合っても勝機が薄い相手には、奇手・奇策・奇襲を駆使して勝機を手繰り寄せるしかないからね。
 其れじゃあ隊長、出撃の号令をお願いするわ。」

「うん!其れでは、行きましょう皆さん。
 勝てれば最高ですが、其れ以前に戦車を楽しんで下さい。――其れでは、Panzer Vor!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



行きますよ、近坂隊長!








――――――








Side:凛


さてと、お手並み拝見と行こうかしら西住?
戦車の性能と錬度では、圧倒的に貴女達の方が劣る状態で、果たしてどんな戦い方を見せてくれるのか――普通なら、此方を待ち伏せしての
カウンターの電撃戦って言う所だけど……



「ちょ、凛!」

「なに?如何したの原田?」

「前方に敵影!……Ⅲ突1輌を除いた、全車両がこっちに向かって来てるわ!!」

「はぁ!?」

何ですってぇ!?

Ⅲ突が1輌いないって言う事は、どこかに隠れてるんでしょうけど、其れにしたって残りの車輌全部で攻めて来るって正気なの西住!?こっちの
戦車は、貴女達の戦車を一撃で撃破出来るだけの攻撃力を備えているのよ!?

って、兎に角考えても仕方ないわ。
相手の方から打って出て来てくれたんなら、ある意味で逆に好都合!此方の予想とは違った動きだけど、先ずはパンターから撃破するわ!
恐らく向こうの隊長は西住だから、その西住が撃破されれば後はどうしようもなくなる筈よ!!

「他は無視して良いわ、兎に角パンターを狙いなさい!」

「そうは言うけど、Ⅲ号がちょろちょろと邪魔してくれて、パンターに狙いが定められないわよ凛!
 って言うか、パンターばっかり狙ってたらこっちだってヤバくない?Ⅲ号の砲撃じゃティーガーⅠの装甲は抜かれないけど、Ⅲ突の砲撃だとそう
 も言ってられないし、パンターの主砲だったら正面装甲だって抜かれるよ!?」



分かってるけど、でも此れじゃ……ってのわぁ!?な、なに今の衝撃は!?
砲弾が直撃した訳じゃないみたいだけど……まさか、近くの地面に着弾した!?ドイツ系重戦車の弱点である、足を狙って来たか……!!
真正面から撃って来るなら兎も角、こんな攻撃までしてくるとなると、流石にⅢ号も無視できなくなるじゃない――やるわね西住、流石だわ!!
だったら先ずは、Ⅲ号から撃破して、数を減らしたところで本命のパンターを……



――ズドン!

――パシュン




『2年生チーム、パンターG走行不能。』

『ゴメン凛、やられちゃった~~~!』




叩く前に、こっちのパンターがやられた!?
で、パンターを叩いたら蜘蛛の子散らすように退散て……若しかして、最初からこちらのパンターを撃破する事を狙ってたとでも言うの西住は!
まったく、やってくれるわ!追うわよ!



「つってもさ~、ティーガーⅠの速度じゃ、パンターとⅢ号とⅢ突に追いつくのって無理じゃね?
 Ⅲ号とⅢ突の最高速度は40kmで、パンターの最高速度に至っては大戦期の戦車最速の55km。
 対するティーガーⅠは最高速度で38kmだから、如何考えても追いつく事は出来ないでしょ此れ?虎の足じゃ、豹の足には勝てないって♪」

「分かってるわよそんな事は!」

それでも、追わない事にはどうにもならないでしょうに!
其れに、出来るだけ距離を開けられないようにしないと拙いと思うのよ……機動力では向こうが勝る以上、此れからどんな攻撃をしてくるか分か
ったモンじゃないしね。

何よりも、西住は西住だけど西住流じゃないみたいだから、私達の知ってる西住流だと思って挑んだら、火傷じゃ済まない痛手を被るわ。
全速前進!追うわよ!!

此れが西住流……否、西住みほの力!!
漸く、戦車を動かせるように成って来たレベルの素人集団をこうも見事に動かして見せるなんて……ワクワクさせてくれるじゃないの西住!!
余計に、貴女の事を倒したくなったわ!!








――――――








No Side


さて、みほの奇襲が作戦通りに決まって2年生チームのパンターを撃破した後は、これまた機動力の差を生かして即座に退散して2年生チーム
にだけ打撃を与える事に成功した。

其れに対して2年生チームも、即座に追撃を掛け、思った以上に離されずに、2~2.5mの高さの植物が織りなす茂みが点在する平原へと到達
していた。

普通に考えれば、車高の低いⅢ突が、茂みに隠れての待ち伏せをしているモノだが、此処で隊長の近坂には、先程の電撃戦が頭にちらついて
いたのだ。

心理的なモノだと言ってしまえば其れだけかも知れないが、人と言う生き物は、総じて最初に己の予想が外れると、次もまた己の予想が外れる
のでは無いかという無意識の恐怖に捕らわれてしまうモノなのだ。
故に、近坂はこの時どうしても、セオリー道理のⅢ突の待ち伏せがされていると言う可能性を疑いながらも、其れを是と出来ないでいたのだ。

そして、その迷いが、致命的な隙を生んでしまった。



――ズドン!!!



「のわぁぁ!!!
 今のはⅢ突の砲撃!!……セオリー通りに待ち伏せてたんだ!!」

「んな、最初は型破りな電撃戦を仕掛けておいて、今度はセオリー道理の待ち伏せって……マッタク考えが読めないわ、西住――!!」



此れこそがみほの狙いだった。
最初に型破りな電撃戦を仕掛ける事で、相手に『セオリー通りの戦術は使ってこない』という意識を刷り込ませて、次も奇策で来るんじゃないか
と言う思いを抱かせた上で、今度はセオリー通りの戦術を使って相手を混乱させる事が目的だったのだ。

更に、こう言う事をされると、された側は次の予想を立てる事が出来なくなって混乱する――戦車道の経験者であるならば尚更だ。


「く……怯むな、反撃しなさい!!
 先ずはⅢ突を撃破するのよ!そうすれば、私達を倒せる車輌はパンターだけになるから、そうなれば私達が勝つ事は容易い筈よ!!」


近坂は直ぐに指示を出す。
この対処の速さは、流石隊長と言った所だが――














「そうさせると思いますか?」












「へ?」


突如として、みほの乗るパンターを先頭に、Ⅲ号の軍団が現れ、瞬く間に2輌のティーガーⅠに対して一斉攻撃を開始!!
如何にⅢ号の60口径50mmは、ティーガーⅠの装甲を抜く事が出来ないとは言え、ひっきりなしに攻撃されたのでは堪ったモノではない。

加えて、Ⅲ突の48口径75mmならば後部装甲を、パンターGの70口径75mmならば正面装甲すら貫通するだけの威力があるのだから、下手し
たら撃破される可能性は非常に高いのだ。



――ズドン!!

――パシュン!



『2年生チーム、ティーガーⅠ2号車、走行不能。』


そして、其れが現実のものとなり、混戦の隙を突かれた2年生チームのティーガーⅠの2号車が、Ⅲ突に後部装甲を撃ち抜かれて白旗判定に。
無論この間に、2年生チームも、Ⅲ号を2輌撃破したが、其の位では、みほ率いる1年生チームに痛手を与える事は出来なかった。



「く……西住!!」

「此れで終わりです!!」




残ったティーガーⅠの1号車に対して、みほのパンターは突撃すると、其のまま急旋回して背後を取り、その瞬間に砲撃!更に、其れに続くよう
に2輌のⅢ突も砲撃!

その結果……


――パシュン


『2年生チーム、ティーガーⅠ1号車、走行不能。よって、此の試合、1年生チームの勝利!!』


凛の乗るティーガーⅠの1号車(隊長車)を見事に撃破するに至ったのだ。
2年生チームが全滅したのに対し、1年生チームの損害はⅢ号が2輌だけ……数の差があったとは言え、錬度で圧倒的に劣る戦力でこの結果
は見事というより他にはないだろう。

この校内紅白戦は、ある意味でみほの完全勝利で、幕を閉じたのだった。








――――――








Side:みほ


ふぅ……如何にか勝つ事が出来ましたね。
最後の攻撃は、ある意味賭けだったんですけど、青子さんが予想以上の装填の速さを見せてくれたおかげで巧く行きました。――勿論、つぼみ
さんの操縦技術と、ナオミさんの砲撃の力があってこそ成功した作戦ですけれどね。



「ハッハッハ~~!実を言うと、戦車道に入部した後から、徹底的に腕力と握力と、筋肉の瞬発力を強化する事にして、日に腕立て100回と、シ
 ャドーボクシングを30分やる事にしてんだ♪
 腕立てで腕力鍛えて、シャドーボクシングで瞬発力強化しようと思ってな!」

「私も、操縦技術を向上させようと思って、体感型の戦車ゲームで操縦技術を磨いているのよ。」

「私も、射撃の正確さを上げる為に、日々動体視力と狙いの正確さを鍛えてるわ。」



つまり、皆頑張ってるんだね♪
うん、良い事だと思うよ。



「は~~~……完全にやられたわ西住。言い訳のしようが無い位の完敗だった――だけど、凄く心が熱くなった!楽しませて貰ったわ。」

「近坂隊長!」

楽しんでくれたなら僥倖です。
戦車道はスポーツですから、勝つ以前に楽しむ事が出来ないと絶対にダメだと思いますし、楽しめない戦車道に本当の勝利はありませんから。



「至言ね。
 でも、そんな貴女だからこそ、任せる事が出来るわ――本日現時点を持って、私は隊長職を辞して、新たな隊長に西住みほを任命するわ!」

「はい!?」

ちょ、ちょっと待ってください、如何してそうなるんですか!?
確かに今回は私達が勝ちましたけど、だからって――



「だからこそよ西住。
 実際に戦ってみて分かった……貴女は私なんて足元にも及ばない位に強い――現実に、私は何も出来なかった訳だからね。
 何よりも、漸く戦車をそれなりに動かす事が出来るようになった未経験者の集団を此処まで纏め上げる腕前には正直に脱帽したわ。
 ありとあらゆる面で、貴女は私を大きく上回ってる……なら、貴女が隊長を務めるのは、ある意味で当然の事でしょ?違うかしら、西住?」

「違わないです…」

戦車道にまぐれ無し、あるのは実力のみって言うのはお母さんの口癖だからね。
つまり、私達1年生チームが2年生チームを倒す事が出来たのは、運でもなんでもなくて、総合的な力で此方が少しだけ上回っていたって言う事
になるからね。

でも、そう言う事なら、謹んで隊長の地位を拝任いたします。



「ありがとう。
 と言う訳で、今日この時から、我が校の戦車道チームの隊長は西住になったわ!なので、以降は私じゃなくて、西住の指示に従うように!!
 この新体制の下で、大会に臨むわよ!!今年こそ、絶対に1回戦を突破する!!行くわよ!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


まさか、1年生から隊長になるとは思わなかったけど、お姉ちゃんだって1年生で隊長を務めてた訳だから、ちゃんと隊長職を務めないとだね!
1年生で隊長って言うのは、可成りの重圧なんだろうけど、だけど私はなんだか楽しくなって来たよ♪












 To Be Continued…