Side:しほ


高校選抜も大学選抜も互いに三輌を失う事になった訳だけれど、大学選抜を市街地に誘導する事が出来た以上、みほが圧倒的に有利になったと言う
のは間違いないでしょう。
みほの最大の強みは市街地でこそ発揮されるモノですからね……正直な事を言うと、みほと市街地戦で戦ったら、私も勝つ自信が無いわ。と言うか略
間違いなく完封されるんじゃないかしら?
何よりも恐ろしいのは、みほはあの市街地での戦い方を、略独学で編み出したって事なのよね……我が娘ながらマジでハンパないわ。



「でも其れがみほちゃんの魅力である件について。」

「其れは否定しないわちよきち。」

「ガッデメファッキン!それがみぽりんの魅力だろ!
 みぽりんの戦車道は一流のレスラーがやるプロレスみてぇに観客を引き付けるんだ!みぽりんこそ最強だぜ!アイム、チョーノ!!ガッデム!!!」

「みほちゃんの戦車道ってのは本気で先が読めねぇからな?ありゃ、対戦相手からしたら歩く絶望だろマジで?」



絶好調ね黒のカリスマは。其れと好子、其れ若干洒落になってないわ。
みほの市街地戦は初見殺しなのは当然だけれど、一度経験した者であっても次に何をしてくるか予想が出来ない――と言うか、予想させない怖さがあ
るのよ。
初見でも絶望、二度目以降でも絶望を与えて来るのがあの子の市街地戦なのよね。
まほは愛里寿さんに提案して市街地に向かったようだけれど、其れすらもきっとみほの想定通りなのではないかしら?――市街地戦を選択させられた
時点で大学選抜側の勝率は大きく下がったと言えますからね。
大学選抜側に勝機があるとすれば、如何にみほの予想外に対応して、逆にみほに予想外を突き付けられるか……みほを孤立させた状態で、まほと愛
里寿さんと安斎さんで仕掛ければ勝てるかも知れないわ。

……如何にも高校選抜の方に肩入れしてしまうのは、私が高校戦車道連盟の顧問を務めているからなのかしらね?――或いは、大学戦車道連盟の
理事長であるちよきちへの対抗心か。
現役を引退したとは言え、ライバルへの対抗心と言うのは存外消えないモノなのかも知れないわね。



「ところでしほちゃん……私は娘の愛里寿と、お気に入りのみほちゃんのどっちを応援すれば良いのかしら?」

「メッチャ今更ねちよきち……其処はまぁ、貴女の好きな様にすれば良いんじゃないかしら?……貴女の場合、何方かだけを応援したら確実に愛里寿
 さんから嫌われそうだけど。」

「そうなのよねぇ……愛里寿だけを応援したら『どうしてみほさんは応援しなかったの?』って言われるだろうし、みほさんだけを応援したら『なんで私の
 事は応援してくれなかったの?』って言わるでしょうしねぇ……」

「こりゃもう、どっちも応援するかどっちも応援しないかしかねぇだろ?」

「其の二者一択なら、両方応援する以外の選択肢は無いわね。」



其れが賢明ね。
さて、舞台は市街地に……一体みほは、高校選抜はどんな戦い方をしてくるのかとても楽しみだわ。












ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer222
試合はバーニングソウルです!』









No Side


高校選抜の巧みな誘導で市街地に誘い込まれた大学選抜の面々だが、市街地に入った途端に高校選抜の戦車が見えなくなった事に何とも言えない
不気味さを感じていた。
戦車道の試合の為に住人が居なくなった市街地は元々ゴーストタウンの様な不気味さがあるのだが、そんなモノは戦車乗りならば慣れている……筈
なのに不気味さを拭えないでいた。――そう、まるでホラー映画の静まり返ったシーンを見ているかのような不気味さを。
或いはその不気味さは、去年の遊園地での戦闘も影響しているのかも知れない。稜線での攻防では優位に立った大学選抜だったが、遊園地では尽く
大洗連合にしてやられたのだから。


「みほとの市街地戦……間違いなくExcitingな戦いになるわね!楽しみだわ!!」


「ミホーシャ……今度は負けないわよ!!」

「今度は勝って、みほさんを私達の大学に誘うんですよね?」

「当然よ!私とミホーシャが組めばもう最強なんだから!!」



「お前の全力を見せて貰うぞみほ……!!」

「市街地戦ってのはある意味で地雷だったかもだが、楽しもうじゃないか!」

「みほさん……楽しい戦車道をやろう。」


だがしかし、高校時代にみほとの試合経験のある者と、みほと直接戦った経験のある愛里寿だけは、不気味さよりもみほと――みほ率いる高校選抜と
の市街地戦を楽しみにしているようだ。
此れがみほの戦車道の特徴と言えるだろう。
みほと直接戦わなかった者に対しては不気味さと恐怖を覚えさせるのに対し、みほと直接戦った者には期待と楽しさを覚えさせるのだ……まぁ、みほと
直接戦った事があるモノでも、軽く絶望を感じちゃったりするのがみほの市街地戦ではあるんだけどね。


「Hey!hey!hey!Come on babes!!(如何した如何した!来いよオラ!!)ビビってんかしら、田尻!!」

「誰がビビってるですって?」

「いや、アンタでしょ?」

「アールグレイ様、もういっその事私を誤射して撃破してくれません事!?」

「良く言った田尻!許可が出たからやっちゃえ姉さん。」

「いやいやいや、此処はもうちょっとダージリンをからかってからにしましょうよエリカ?ダージリンってばからかえばからかう程ムキになって可愛いんだ
 から……久々に、たっぷりと虐めてあげるわダージリン。」

「やば、姉さんのSスイッチ入っちゃった……田尻、御愁傷様。」

「田尻ではありませんわ!と言うか、Sスイッチって何ですの!?」

「まんまよ。
 姉さんって隠れ弩Sなのよ……普段は隠してるんだけど、一度Sスイッチが入ったらロックオンしたターゲットが泣くまで徹底的に虐め倒すのよね。こう
 言ったら何だけど、覚悟を決めなさいダージリン。」

「何ですの其れは~~~!?」


そんな中で異質な戦闘になっていたのが、エリカが率いる小隊と、琳とカンナの小隊の戦いだった。
エリカとカンナの逸見姉妹は琳をからかう事を楽しんでいた(カンナは大学選抜なのだから其れに参加するのは如何かと思うのだが。)のだが、その最
中にカンナの『Sスイッチ』とやらが入ってしまったらしく、味方でありながらも琳を徹底的に虐め倒す事にしたらしい。
流石に同士討ちは無いだろうが、精神的に虐められるってのは可成りキツイだろう。


「うふふ……た~っぷりと虐めてあげるわ……」


……カンナの言う『虐め』にはなんか別の意味がある様な気がしてならないけどね。――彼女がアールグレイを名乗っていた時の聖グロの隊長室から
は、しばしばダージリンの艶めかしい声が聞こえて来たとかそんな噂があるとかないとか。
場は正に混沌として来た訳だが……


『待たせたねエリカさん……暴れて良いよ!!!』

「みほ!その言葉を待っていたわ!!」


此処でエリカにみほからの通信が入り、『暴れて良い』との許可が出た。
エリカは普段はみほの片腕として冷静な判断が出来るように自分を律して戦車道を行っているが、其れは逆に言うとエリカの最大の強みである闘争心
を理性で抑えている状態であり、エリカの力を完全に発揮出来てはいない。
だがしかし、その理性はみほの許可があれは解除される……理性と言うリミッターが解除され、エリカの闘争本能が解放されるのだ。


「グオォォォォォォォ……ミホォォォォォォォォォォォ!!!!」

「「!!?」」


その結果が齎すのはエリカの暴走。
この状態になったエリカは、敵と認識した相手を徹底的に追い続ける狂戦士だ……そして、エリカの敵は大学選抜チームだ。なので――


「ショォォォォォアァァァァァァ!!!」


琳とカンナが同時にターゲットになる訳だ。


「エリカが暴走した!?やば!!」

「ヤバい所ではありませんわ!!」

「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」


流石にエリカの暴走はヤバいと思ったのか、カンナは琳を虐めるのを止めてエリカに向き合い、大後もまたエリカに向き合い迎撃戦とするが、相手はエ
リカだけではないと言う事を忘れてはならない。


「五十鈴華……目標を狙い打ちます!」

「パンターと比べれば大分じゃじゃ馬だが、慣れれば可愛いもんだな。」


――ズガン!!

――バッガァァァン!!



琳のチャーフィーに華が砲手を務めるファイアフライの砲撃が炸裂し、カンナのパーシングに麻子が操るクルセイダーの戦車プレスが炸裂!!


――キュポン!


『大学選抜、チャーフィー、パーシング、行動不能!』

「何ですってぇ?」

「うっそーん?」


「五十鈴華、目標を撃破しましたわ。」

「西住さんの戦車道に常識は通じない……逸見さんの暴走に驚いた時点でお前達は負けていたんだ。」

「ウゥゥゥゥゥゥ……ギョアァァァァァァァ……!!」


そして撃破!!
エリカの暴走に驚いた琳とカンナを華と麻子が撃破するとは誰も思わなかっただろう……げに恐ろしきは、みほが華と麻子に直接的な指示を送ってな
いと言う事だ――つまり、華も麻子も己の直感で此処に来たと言う訳だ。
基本的に『自分達の判断で動く』のが大洗流とは言え、其れで此れだけの連携が自然に出来てしまうと言うのは驚異だ……大洗の戦車道が一部のフ
ァンの間で『変態的戦車道』と称されているのも何となく納得である。


「テェキハァ……ドコ、ダァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


かくして、琳とカンナが撃破された事で、暴走エリカは更なる敵を求めて市街地を彷徨う事になった訳だが、此れだけでも大学選抜側からしたら脅威で
有ると言えるだろう――だって、エンカウントしちゃったら問答無用で襲われる訳だから。


「逸見さんは行ってしまったが、私達は如何しようか五十鈴さん?」

「そうですねぇ……此処で会ったのも何かの縁ですから暫くは一緒に行動しませんか麻子さん?」

「ん、了解だ。」


麻子と華は、暫し一緒に行動する事にしたらしい。
麻子の操縦技術で相手を攪乱し、其処に一発必中の華の砲撃が炸裂するって言うのはコンビとしては可成り強力だろう。

だが――


「ファイアフライにクルセイダーじゃない!良い獲物を見つけたわ!!」

「機動力のあるクルセイダーと、火力のファイアフライ……確かに撃破しておいた方が良い相手ですね。」


いざ動こうとした所に現れたのは二輌のパーシング。
優子(カチューシャ)と奈緒(ノンナ)、嘗ての『地吹雪・ブリザードコンビ』が偶々此処を通りかかり、ファイアフライとクルセイダーを発見したのだ。予想外
のエンカウントもまた市街地戦の醍醐味であると言えるだろう。


「カチューシャさんとノンナさん……お久しぶりですわ。お元気ですか?」

「相変わらずの凸凹コンビは健在みたいだな……?」

「ってマコーシャ!誰が凸凹コンビよ!誰が小さいですって!?此れでも伸びたんだからね!1cmだけど!!」

「誰もそこまで言っていませんよ優子。」


その予想外のエンカウントでも通常営業な華と麻子は、精神的に相当図太いと言うか強いのは間違い無いだろう……西住流フィジカルトレーニングを
熟せるようになれば、精神的にもめっちゃ強くなるのだろうが。
だが、奈緒が優子にお馴染みの突っ込みを入れている間にクルセイダーとファイアフライは急発進!


「ちょっと!逃げるんじゃないわよ!!」

「車長、『だが、断る。』と伝えてくれ。」

「『だが、断る。』だそうですわよ~~?」

「ファイアフライは兎も角、クルセイダーはパーシングを撃破出来ないのに、攻撃を喰らったら一撃KOですから当然と言えば当然だわな。」

「ムキー!!絶対に撃破してやるんだから!!」

「優子、少し落ち着いて下さい。ムキになったら負けますよ。」

「分かってるわよ!!」


パーシング二輌が相手は確かに分が悪いので、此処は一旦退くと言うのも立派な戦術だろう――真正面から撃ち合っても勝てない相手であるのなら
ば、真面に撃ち合うのは避け、地の利を生かした戦い方をした方が良いに決まってるのだから。
尤も、優子も簡単に逃がす心算は無いので即座に追いかけっこが始まった訳だが。


「其れでは、また後で。」

「あぁ、後で。必ずね。」


十字路に差し掛かった所で、クルセイダーとファイアフライの車長は簡単に言葉を交わすと、クルセイダーは直進し、ファイアフライは右折して二手に分
かれた。二手に分かれて優子と奈緒に『分散か片方に集中か』の二択を迫ったのだ。


「二択を迫られましたね。如何しますか優子?」

「クルセイダーは紙装甲だからこの際放っておきましょ。パンチ力のあるファイアフライを集中的に叩くわよ!」


二択を迫られた優子は、ファイアフライに集中する事を決め、右折したのだが……右折した道は直後にY字路が現れ、先に曲がったファイアフライの姿
は既にない――Y字路の何方かに向かったのは間違いないが、何方に行ったのかは分からないだろう。
『嵌められた』……優子は完全にそう思った。ファイアフライが右折する事自体が罠だったのだ。『ファイアフライを先に叩くべき』と考えてる事を読み、そ
れを逆手に取った訳だ。
実に見事なトリックプレイで、ファイアフライとクルセイダーは、地吹雪・ブリザードコンビを撒いてみせたのだった。


「えぇい、ムカつくわね!他の獲物を探しに行くわよ!!」

「つまり八つ当たりの相手を探しに行くんですね?」

「煩いわね!!」


……大学生になっても、この二人は相変わらずのようである。








――――――








市街地戦では各所で激戦が繰り広げられ、高校選抜が何方かと言うと有利な展開だ。
大洗の面々がみほ直伝の裏技搦め手その他諸々を使えば、他の高校選抜のメンバーも其れを駆使して大学選抜を次々と撃破している――其れでも
未だに『黄金世代』が琳以外撃破されてないのはある意味で凄い事ではあるが。

尤も、そのお陰で市街地はトンデモナイ有様になっている……駅前の歩道橋は崩壊し、バスが横転してタクシーがひっくり返り、電柱は折れて信号機と
道路の案内版は落ち、大型百貨店は1フロアが丸々ぶち抜かれているのだ。
幾ら連盟が保証してくれるとは言え、一体どれだけの金が吹っ飛ぶのか想像も出来ない……冗談抜きで国家予算並みの金が羽を生やして飛んで行く
のかも知れない。


それはさておき、大学選抜側もやられてばかりではない。


「巧く隠れた心算だろうが……バレバレだ。」

「その作戦を考えたのは私だぞ?通じる筈が無いだろう。」

「其処に隠れてるのは分かっていた。」


まほ、千代美、愛里寿が組んだ小隊は、『マカロニ作戦ツヴァイ』を展開していたⅢ突、ヤークトパンター、ラングの『待ち伏せ部隊』を見事に撃破して高
校選抜の戦力を削る事に成功していた。


「如何してバレたし!今回は間違わなかった筈なのに!!」

「確かに間違ってなかったが……如何に精巧に描き込もうとも、違和感を完全に消し去る事は出来ん。」

「この書き割り、描き込んだんじゃなくて、写真の解像度を限界まで引き上げてから引き延ばした物で、普通は違和感を感じない筈ぜよ?」

「……此れが西住流だ。」

「島田流は此れ位は普通。」


何やらトンデモない事をしたみたいだが、まほも愛里寿も其れを『西住流だから』、『島田流だから』で片付けてしまった……二大流派の跡取りがそれで
良いのかとも思わなくもないが、何となく納得できる部分があるのが否めないのがアレである。

そして、此処だけでなく、黄金世代の活躍は他の場所でも行われており、残存車輌数は高校選抜が二十、大学選抜が十五となっていた。








――――――








Side:みほ


大学選抜を半分撃破したとは言え、此方も十輌も撃破されちゃったか……流石に黄金世代が居る大学選抜チームは一筋縄では行かないね?私達も
美佳さんを撃破する事が出来たけど、中学で戦った時よりもずっと強くなってたからね。
でも、だからこそワクワクするよ。


「西住隊長、CV-33より伝令。大学選抜のフラッグ車を見つけたとの事です。」

「場所はポイント○○……如何する妹隊長?」

「そんなの決まってるよ。」

其処に向かって愛里寿ちゃんとのフラッグ車戦を行う。
一発逆転のあるフラッグ戦だけど、観客が最も見たいのはフラッグ車同士の戦いだからね……負けが許されない全国大会なら未だしも、高校選抜と大
学選抜の試合はある意味でエンターテイメント試合とも言えるから、魅せる事も大事だからね。

「行くよ、梓ちゃん!ツェスカちゃん!!」

「了解です!」

「Jawohl!」



此の試合もいよいよ佳境に入って来たね?――クライマックスは、此れからだけどさ。
お姉ちゃん、愛里寿ちゃん……私の高校生活の集大成である戦車道をぶつけて行くから、覚悟してね?これでもかって言う位に、私の戦車道を味わっ
て貰うから……!!












 To Be Continued… 





キャラクター補足