Side:みほ


二回戦の全日程が終わった後、私は黒森峰の学園艦が熊本に寄港する日を選んで理子さんと会う約束を取り付けて、今は待ち合わせ場所のカフェ
でカフェラテを堪能中。
……ネットでの評価が高い店だったけど、実際に来てみるとネットの評価以上だね?ラテアートも、私のリクエストに見事に応えてくれたからね?ボコ
と、パンターのラテアートは最早芸術品だから。



「ゴメン、待たせちゃったみほ?」

「ううん、私もついさっき来た所だよ。」

っと、理子さん到着か。
実を言うと早く着きすぎちゃって、三十分以上待ってたとは言えないから、此処はデートの常套句を使って誤魔化すのが吉だね……私が待っていた
って言えば、理子さんは恐縮するだろうしね。



「そう言う事にしておくわ……其れでみほ、今日はどんな用事?」

「この間の二回戦についてだよ。」

実力的な事を言うのなら、理子さん率いる黒森峰が彼女達に負けるってのは考え辛いんだよね……勿論、フラッグ車へのラッキーパンチが巧い具合
に決まった可能性は無くはないけど、確率としては可成り低い。
それらを総合的に考えると、黒森峰が実力で負けたとは到底考えられないんだよ。



「みほには全てお見通しか……なら、隠す必要もないか。
 確かに実力で言えば、私達の方がインフィニット・ストライク学園よりも上だったんだけど……裏技でやられた。『見られて困るモノはないから、相手
 校のスパイは放っておけ』ってのが裏目に出たよ。
 試合前日に、主力の戦車が軒並み壊されたんだよ……そうして無事だったのはⅢ号と一部の回転砲塔のない駆逐戦車だけだった。……如何に黒
 森峰でも主力戦車を失っちまったら戦えねぇっての。」

「そんな事が……でも、其れは運営に訴えれば不正で向こうが失格になるんじゃないの?」

「そうなんだけど、カメラの映像に映ってた連中は黒森峰の制服を着てた上に顔はサングラスやマスクで隠してあったから、インフィニット・ストライク学
 園の生徒だって確証がねーんだわ。
 状況証拠では連中が限りなくクロに近いけど、連中がやったって言う物的証拠は何もないから、それじゃあ訴える事も出来ないし、仮に訴えても証
 拠不十分で処分は下されないって。」



卑怯な裏技を使うだけじゃなくて、自分達がやったって言う確実な物的証拠は残さない……残る証拠は、確証の無い状況証拠だけって、悪知恵は働
くみたいだね?



「そうなんだよ。だから貴女も注意した方が良いよみほ……アイツ等は、どんな手で学園艦に入り込んで何をしでかすか分からないから。」

「うん、忠告痛み入るよ。」

まぁ、大洗に何かしに来たら来たで、あのアウトローの巣窟と化してる学園艦の最下層に誘導して、この世の終わりレベルの恐ろしい体験をさせてあ
げるだけだけど。
それにしても、試合前の妨害工作はルールで明確に禁止されてるって言うのに、それを足が付かないようにして行うなんて絶対に許せない……あの
中二病隊長率いる戦車隊の連中に戦車に乗る資格はないよ。
次の三回戦でインフィニット・ストライク学園は徹底的に叩き潰す……そう、二度と戦車に乗る気が起きない程に徹底的にね。









ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer211
騙し騙されの裏の攻防です!』









三回戦前の寄港日、大会以外で陸に上がるのは久しぶりだったから、あんこうチーム+エリカさん、小梅さん、エミちゃんで大洗巡りをする事にしたん
だけど、行く先々で『大会頑張れよ~!』、『応援してるからね~!』、『軍神のお姉ちゃん、今度も優勝してね』って言葉を掛けられるのは、嬉しいと同
時に、『今年も優勝しよう!』って言う気をより高めてくれるね。



「う~~……みぽりんもエリリンもうめりんも人気ある~~。エミりんも今年からのメンバーなのに人気あるみたいだし、華も麻子も人気じゃん!
 なんで私に対する個人的な応援はないの~~!」

「まぁまぁ、仕方ありませんよ武部殿。
 装填士や通信士と言うのは、戦車においては目立たない縁の下の力持ちでありますから、花形ポジションの車長、砲手、操縦士と比べると、如何し
 てもファンが付き辛いのでありますよ。」

「……ゆかりん、直近一ヶ月のファンレターの数は?」

「百通くらいでしょうか?」

「其れでも三桁行ってるじゃん~~!」



因みに直近一ヶ月の私へのファンレターは千通を超えてたりするんだけど――逆に考えるんだよ沙織さん、沙織さんにファンレターをくれた人こそ、真
に沙織さんの見えない活躍を知ってる本物のファンなんだって。
こう言ったらなんだけど、花形ポジションのファンは、ミーハーなニワカも少なくないんだけど、縁の下の力持ちのファンは、戦車道玄人のファンが多い
って言えるからね。
そして、そう言う玄人ファンの中には、沙織さん好みのハンサムなイケメンや、渋くてダンディーなおじ様も居たりするんだから。



「マジ?」

「大マジだよ。
 其れと、他の誰も分かって無くても、私は沙織さんがあんこうチームだけじゃなく、大洗の戦車隊に無くてはならない人材だって分かってるから。
 確かに派手な活躍はないかも知れないけど、沙織さんが居なかったら私の命令を円滑に他の戦車に伝える事は出来ないだろうし、何よりも此処一
 番での沙織さんの皆を鼓舞するセリフは、もうなくてはならないモノだからね。」

「みぽりんの優しさが身に沁みるぅ……みぽりんが女の子じゃなかったら絶対に惚れてたって。」



あはは……本当に沙織さんは彼氏が欲しくて仕方ないんだなぁ。
沙織さんは普通に顔は良いと思うし、気遣いも出来るから、男性から見たら結構優良物件だと思うんだけど如何して彼氏が出来ないのか不思議だよ
ね……まさか、麻子さんの生霊が沙織さんに近付こうとしてる男性を追い払ってるとか、流石に其れはないか。

そんなこんなで久々の大洗を楽しんだ。
アクアワールドではイルカショーで全員が『水も滴るイイ女』になって、マリンタワーの展望台で絶景を堪能して、海の科学館で科学の不思議を楽しん
で、ランチにはシーサイドステーションのバーベキュー屋の野外バーベキューセットに舌鼓……クーラーボックスにノンアルのビールを持って来たのは
大正解だったね。
名物の岩ガキの網焼きとノンアルビールの相性は本気で最高過ぎたよ。
ランチ後はかねふくの明太パークで出来立て明太子を試食して、フードコーナーで明太ソフトクリーム(実在、意外と美味しい)を食べて、お土産を買っ
て、スタッフさんにサインをお願いされたから、色紙に全員でサインをした。……将来的に、私達が戦車道のプロリーグに行ったらあの色紙は絶対にプ
レミアが付くだろうね。
そして最後に、シーサイドステーションに戻ってショッピングをして寄港日を終えた……シーサイドステーションの『戦車道ミュージアム』には、戦車道関
連のグッズだけじゃなく、戦車のプラモデルや大洗+有名校のパンツァージャケットのレプリカに、果てはダージリンさんの格言が刺繍されたミニタオル
や、お母さんの写真がプリントされて『戦車道にマグレなし』って入ったマグカップだとか、コアなファンが買いそうな物まであって驚いたよ。

そんな訳で学園艦に戻って来たんだけど……パゾ美さん、首尾は如何ですか?



「学園艦に戻る集団に紛れて、三~五人ほど大洗の生徒じゃない人物を確認しました……西住隊長の言う様に、中に入れましたけど、本当に良かっ
 たんですか?」

「うん、此れで良いんだよ。」

戦車道の風上に置けない連中には、まずは己の愚行を思い知らせる必要があるからね。――インフィニット・ストライク学園からの工作員が来たのは
間違いないから、作戦は次の段階にだね。
スマホで、王大河さんに連絡してっと。

「大河さんですか?……賊が忍び込んだようなので、例の一件をお願いできますか?」

『任せておいてよ西住隊長!放送部の全力をもって、『あの噂』を学園艦全土に広めてあげるよ――確りと賊の耳に入るようにね。』



うん、お願い。
今回ばかりは、賊の耳に入るようにする為なら、尾鰭だけじゃなく、背鰭に胸鰭と色々付けちゃってくれても全然問題ないから……ぶっちゃけると、も
う好きにしてって感じだからね。
そして、美味しい餌をぶら下げればネズミは必ずそれに喰らい付いて来る……だから其処を捕える。
黒森峰を卑怯な手で下したその報いは倍にして受けて貰う――まずはその先駆けとして、侵入者には少しばかり痛い目に遭って貰うよ、ホンの少し
ばかりね。



「貴女の少しばかりってドレくらいよ……ま、来ちゃった連中は運が無かったと思うしかないでしょうね。」

「西住流の拷問術……相手に同情するわ。」



エリカさん、エミちゃん、外道相手に情け容赦は必要なしだよ。――何よりも、戦車道を穢した輩を笑って許せる程、私は人間出来てないから、インフィ
ニット・ストライク学園は徹底的に潰してあげるよ。
卑怯な方法で全国制覇をする心算だったんだろうけど、私達と当たったのが運の尽きだったね……次の試合、私は軍神じゃなくて鬼神となる。
隻腕となった手負いの鬼は、近頃大人気の『鬼滅の刃』の『鬼殺隊』の隊員でも倒せない位に狂暴だから、敵と見なした相手の息の根が完全に止ま
るまで攻撃は終わらない……そう、フラッグ戦であっても相手を全滅させるまでは終わらないよ。……骨の欠片も残らない位に、喰らい尽くすから!








――――――








No Side


大洗の学園艦にまんまと侵入する事に成功したインフィニット・ストライク学園の生徒は、裏工作をする機会を窺っていたのだが、中々その機会が来な
い事に若干の焦りを覚えていた。
放課後の部活以外には戦車庫に近付く人間はいないのだが、戦車庫には常に十人以上の警備員が居る上に、夜中も交代制で警備を行っているの
で戦車庫に近付く事が出来なかったのだ。

だが、だからこそ、ふと耳に入って来た噂は、ある意味で朗報だった。
大洗女子学園の生徒と思しき生徒は『次の対戦相手って、試合前にヤバい事して来る所だったらしくて、西住隊長は全部の戦車を学園艦で最も深い
場所に隠して、戦車庫には張りぼてのレプリカを置いたんだって。』と言っていた。
そして、この生徒以外にも同じような事を言っていた生徒が複数いた事で、インフィニット・ストライク学園からやって来た工作員は、其れを真実だと思
い、戦車庫への侵入を中止し、一路学園艦の最深部を目指し始めた――其れが最大の罠とも知らずにだ。


「え……なに此のアンダーグラウンド?」


なので、学園艦の最下層に到達した彼女達は絶句した……大洗の学園艦の最下層は、アメリカのスラムなんぞ生温い程のアウトロー感がバリバリだ
ったのだから。
壁には一面、スプレーペンキで描かれた落書きがあり、其処に住む住人は、ドレッドヘアーにボトムズはジーパンでトップスはブラオンリーで木刀装備
した姉ちゃんや、ロングヘアーにウェーブをかけて、ロングスカートに胸にはサラシを巻いて特服よろしいロングコートを纏った姉御、黒いセーラー服に
ヨーヨーを装備したスケバン刑事と言うアウトロー女子なのだ。


「あぁん?見ねぇ顔だなテメェ等……何処から湧いてきやがった?」

「ふぇ!?あ、あの……私達、戦車隊の者でして……」

「戦車隊の?……オイ、コイツ等の顔リストにあるか?」

「ちょい待ち……ねぇな。昨日付で情報を更新してるから間違いねぇよ。」

「って事は……成程テメェ等、スパイだな?」

「「「「「!!!」」」」」


でもって、あっさりバレた。
バレた以上は逃げるしかないのだが、今来た道はアウトロー連中に通せん坊されているので別ルートで逃げるしかないだろう……尤も、逃げた所で
更に逃げ場がなくなるんだけどね。
と言うか、命懸けで逃げろよ?大洗のヨハネスブルグに居る皆さんは、基本手加減とか全然出来ないからね。


「に、逃げろー!」

「言われずとも!!」

「逃がすんじゃねぇぞテメェ等!」


そして始まった命懸けの鬼ごっこ!
逃げるインフィニット・ストライク学園の生徒を、大洗のヨハネスブルグの皆さんが全力で追いかける……そして、その人数はドンドン増えて行くだけで
なく、全員が全員その手に凶器を持ってるんだから恐ろしい事この上ない。
バット(木製、金属、釘付き)、角材、鉄パイプと言った基本(?)の凶器から、チェーンにビール瓶、パイプ椅子に長机とプロレスで使われそうな凶器、
果ては、ハンマーに鉈にチェーンソー……いや、鉈とチェーンソーはヤバいでしょ流石に?
って言うか、鉈持ってるのとチェーンソー持ってるのは顔にホッケーマスクって、ジェイソンかい!十三日のフライデーか!


「ヤバいってあれ!捕まったら最低でも絶対に腕の一本は差し出す事になるんじゃないの!?」

「つーか、なんでこんなにヤバい事になってんだよ大洗の学園艦の地下は!治安悪いどころの騒ぎじゃないって!
 マジでこんな所に戦車隠したのか!?」

「其れなんだけど……若しかしたらアタシら騙されたんじゃない?アタシらの事はとっくにバレてて、あの噂はアタシ等の事を捕まえる為に態と流した偽
 の噂だったとか……」

「ダニィ!?」


旧劇場版ブロリーの時のベジータかな。
取り敢えず、逃げる中で自分達が罠に掛かったと言う事に気が付いたみたいだが、気付いた所でもう遅い!隻腕の軍神が仕掛けた罠に掛かったら、
もう逃れる事は出来ないのだ。


「居たぞ、逃がすな!」

「大洗に喧嘩売るたぁ、良い度胸じゃねぇか?買ったぜ其の喧嘩!」


次から次へと追手が増え、更に様々な方向から現れるため、インフィニット・ストライク学園の生徒は其れから逃れる為に、新たな追手が現れる度に
方向転換を余儀なくされてしまう。
だが、彼女達は知らない……一見、無造作に現れているように見える追手達は、彼女達を『ある場所』へと誘導していると言う事に。


「こ、このままじゃ流石に逃げ切れない……あそこだ、あの店みたいな所に逃げ込んでやり過ごしましょう!アタシ達の素性を隠して事情を説明すれば
 匿ってくれると思うし!」

「てか、それ以外の選択肢がねぇわよ!」


走り回っていい加減疲れて来た彼女達は、目の前に現れた店、『バーどん底』に逃げ込み、追手をやり過ごそうと思い、なだれ込むように店内へ!!
息も絶え絶えに店内に入った彼女達だったが、顔を上げ、店内を見た瞬間に絶望した。


「ようこそ、バーどん底へ。インフィニット・ストライク学園のスパイさん。」


何故なら其処には、カウンター席で燻製を肴にノンアルビールを飲んでいるみほの姿があったのだから。
此処で漸く、誘導されていた事を知り、彼女達は慌てて店から出ようとするが、店の入り口にはムラカミが仁王立ちしており、最早逃げる事は不可能。
大洗女子学園一の巨躯を誇り、パワーだけならばエリカをも上回るムラカミの威圧感もあって、彼女達は完全に戦意を喪失してしまった。

でも、戦意が喪失したからなんだと言うのか?そんな事はみほには全く関係ない事だ。


「隊長さん、そいつ等が例の下手人かい?
 無限軌道杯に助っ人で出ただけだから戦車道の事はまだ良く分からないけど、卑怯な事して勝ったって言うのは頂けないねぇ?……卑怯な手を使
 って勝つとは、まるでインセクター羽蛾みたいだ。まぁ、インセクター羽蛾に会った事はないんだけど。」

「コイツ等が、舐めた事し腐ってくれた学園のスパイかみほちゃん……黒森峰に上等かましただけでも業腹モンなんだが、大洗にまで上等かまそうと
 するとは良い度胸じゃねぇかテメェ等?
 その度胸に敬意を表して、嘗て大洗の荒熊と恐れられたこの秋山好子様が直々にワルの恐ろしさってモンをその身に叩き込んでやるから有り難く
 思えよメスガキ共!」


更にこの場にはみほとムラカミだけでなく、どん底及び大洗のヨハネスブルグを統治する親分であるお銀と、二十年前に大洗女子学園戦車隊の隊長
として、当時の黒森峰の隊長であるしほ、同じく聖グロの隊長にして初代アールグレイだった千代と鎬を削った、伝説のヤンキー隊長、『大洗の荒熊』
こと秋山好子までいるのだ。
隻腕の軍神のみほ、竜巻のお銀、大洗の荒熊の好子……人呼んで『大洗の三恐』と言われる三人に睨まれたスパイ達に、最早成す術は一切残され
ていなかった。


「其れじゃあ、少しばかりO・HA・NA・SHIしようか?」


其れだけ言うと、みほは瓶の中のノンアルビールを飲み干し、そのまま瓶を粉砕!玉砕!!大喝采!!!……落としても滅多に割れる事のないビー
ル瓶を粉砕するとか、ドンだけの握力なのか?
まぁ、流石に皮膚は鋼鉄ではなかったらしく、握り砕いた瓶の破片で負傷して血が流れているのだが、それが逆にスパイ達に恐怖を与えていた。
笑ってない笑顔で、右拳から血を滴らせてるみほは、確かにめっちゃ怖いからね……あ、みほの背後に神・豪鬼さんが見えた。


「覚悟は出来てるかな?まぁ、どん底のおもてなしを楽しんでおくれ。」

「なぁに、命まではとらねぇから安心しな……尤も、死んだ方が遥かにマシだったと思う程の地獄を、此れからテメェ等は味わう事になるんだけどよ!」


でもってお銀さんの背後にゴッド・ルガールが、好子さんの背後に本気を出したMr・カラテが見えた……うん、如何考えてもスパイ連中は終わったな。
格ゲーでも強ボスとして知られる存在を宿した『大洗の三恐』から行われる尋問と言う名の拷問は、筆舌にし難いモノだろうからね――そして、この日
は学園の奥底から、悲鳴や呻き声が絶えず聞こえていたらしい。
普通はどん底の声は地上に流れ出る事はないのだが、この時の悲鳴と呻き声は地上にも漏れていたらしく、此れが新たな学園艦の怪談に加わる事
になるのだった。








――――――








スパイ達がどうなったかも知らないインフィニット・ストライク学園の戦車隊の隊長は、スパイ達の帰還を今か今かと待っていた……彼女達が帰還して
くれれば、もう自分達の勝利は確定したようなものだ。
大洗の保有戦車は二十輌に満たないのだから、それら全てを壊してしまえば棄権せざるを得ない……そうなれば、優勝にまた一歩近づくのだから。


「さて、巧く行ったかな?」


全て巧く事が運べは、優勝できなくとも、黒森峰と大洗に勝った実績が手に入るのだから、インフィニット・ストライク学園の隊長からしたら、スパイ達
からの報告は待ち遠しいモノだろう。

だが――


「隊長、大変です!!」

「何だ、何事だ?」

「さ、先程大洗女子学園から荷物が届いたのですが……その中身は、身体の彼方此方に痣を作って、全身の関節を外された斥候達だったんです!」

「なんだと!?」


部下からの報告を聞いて彼女は驚愕した。
そして、実際に送られてきたモノを見て戦慄した……ボッコボコにのされ、全身の関節を外されてグニャグニャになったスパイの一人の背中には、ナイ
フで、『戦車道を穢した者に、鬼神が裁きを下す』と彫られていたのだから。
恐るべき拷問……西住流拷問術は、一切の容赦がなかったらしい――掘り込まれた一文は焼き固められ、一生消える事のないモノになって居るの
だからね。


「此れは……まさかスパイが全滅とは……流石は西住みほと言った所か――敵とみなした相手には一切の手加減をしないとは聞いていたが、よもや
 此処までとはな。
 だが、その冷酷さは嫌いじゃないぞ?……敵に対して容赦はするなと言うのは私も思って居る事だからね。」


其れでも、驚愕はしても戦意喪失にならなかった辺り、彼女も大分ぶっ飛んでいるのだろう――まぁ、黒森峰に対して上等かました時点で可成りぶっ
飛んでるんだけどね。
だがしかし、今度は相手が悪かった……この一件で、次の試合でみほは軍神から鬼神になる事が確定した訳だからね――次の三回戦は、誰がどう
見てもインフィニット・ストライク学園が勝利する事はないだろう。








――――――








Side:みほ


そんな訳でやって来たよ三回戦……今日の大洗は何時ものパンツァージャケットじゃなく、蝶野さんがデザインしてくれたロゴ入りの黒いパンツァージ
ャケットだよ。
スカートも何時もの白じゃなくて今日は赤……黒と赤、黒森峰のカラーリングだけど、この試合は黒森峰の敵討ちの意味もあるから、このカラーコーデ
ィネートは間違ってない筈だよ。



「えぇ、間違ってないわよみほ。赤と黒の取り合わせは、カラーコーディネートの王道とも言えるしね――真紅眼の黒竜が、其れを物語ってるわ。」

「言われてみればそうだったねエリカさん。」

まぁ、其れは其れとして、戦車道を穢したインフィニット・ストライク学園は完膚なきまでに叩きのめす――フラッグ戦だけど、フラッグ車以外の全ての戦
車を撃破して勝利するよ。
戦車乗りの風上にも置けない腐れ外道には、決定的な敗北を叩き込んでやらないとだからね……さぁ、覚悟は良いかな?隻腕の鬼神の戦車道は、
戦車道を穢した相手を決して許さないよ。
己の愚行で、『隻腕の鬼神』を目覚めさせた事を、精々後悔すると良いよ――尤も、後悔したところで、『後悔先に立たず』なんだけどさ。



――轟!!……ピィン!



「激しい闘気の爆発の後に訪れた静寂……西住さんは、遂に『身勝手の極意』の境地に至ったみたいだな。」

「身勝手の極意?」

「確か、あらゆる攻撃に対して、頭が判断するよりも先に身体が勝手に反応して防御する、究極の反射神経だった筈でありますが……其れは神の技
 なのですが、それを会得したとは凄いであります西住殿!!」



私も隻腕の軍神だから、一応は神だからね。
其れは其れとして、此れは今までになかった感覚だね……闘気は漲ってるのに、頭は驚くほどにクリアーで、冷静に物事を見極める事が出来てる訳
だからね。
でも、だからこそ負ける気がマッタク起きない……試合に出て来たって事は、私からのメッセージを無視した訳だから、お望み通りにぐうの音も出ない
位に徹底的に叩き込まれる覚悟は出来てるんだよね。


良いよ、望み通りにしてあげる――隻腕の鬼神の戦車道、その身を持って味わうと良いよ!










 To Be Continued… 





キャラクター補足