Side:アンチョビ


カール自走臼砲か……名前だけは聞いた事がるが、実物を目にするのは初めてだ――一体どんな代物なんだカールと言うのは?……お前はミ
リオタって言う事だったから知ってるんじゃないのか秋山?



「カール自走臼砲とは、敵の城砦を突破する事を目的に作られた兵器で、その主砲は600mmと言う化け物染みた破壊力を有した兵器なのであり
 ます!!――如何考えても戦車とは呼べない代物でもありますが。」



つまり、戦車道に於いては間違い無く場違いな違法兵器と言う訳か――否、そんな存在でもなければ、みほが真っ先に撃破しようとは思わないだ
ろうからな……マッタクふざけたモノを持ち出して来たもんだな大学選抜は。
文科省から押し付けられたとは言え戦車乗りとしての誇りがあるのなら試合で使うなよ……って言うか主砲が600mmって、CV-33の何倍だ!?



「75倍でありますね。」

「75倍だとぉ!?」

75倍って、スーパーサイヤ人超えてるじゃないな!!
スーパーサイヤ人でさえ50倍だったというのに、其れを上回る75倍とは……直撃したら一溜りもない所か、下手すりゃカーボンがあっても死ぬん
じゃ無いのか其れ!?
冗談抜きで命懸けのミッションか……キッチリと作戦を立てないと此方が一撃で全滅してしまうだろうさ。
だがまぁ、やられてやる心算は毛頭ないから……私達の手でカールに引導を渡したやるとしようじゃないか――戦車道にあるまじき兵器であるカ
ール自走臼砲を野放しには出来ないからな。
ドングリ小隊、Avanti!!!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer158
カールだと?ガッデムオラァ!です』










林の出口に到達し、其処から先にある場所を観察してみれば……林の出口の岩場から橋で繋がった高台に陣を取った黒い巨大な兵器――アレ
がカール自走臼砲か。
弾頭と薬莢の装填、薬莢の排出が自動で行われているようだが……アレはアリなのか秋山?



「いえ、なしでありますよアンチョビ殿。
 カールは、本来ならばⅣ号戦車を改造した専用の砲弾運搬車で砲弾を運び、給弾にも専用のクレーンが必要な上、装填~発射は18名もの人
 員が人力で行うモノであります。
 当時はあの様な自動装填と薬莢排出機構は存在していませんから、仮にカールを認可したとしても、完全にレギュレーション違反であります!」

「明らかにレギュレーション違反の魔改造が施されている訳か……戦車道の根底から崩れてるじゃないか!」

まぁ、何が何でも大洗を廃校にしたい連中にとってはそんな事は如何でも良いんだろうな。
だからこそ、余計に腹が立つ!!
大事な試合に、こんな余計な横槍を入れてくれた事にな!!何が何でも、絶対に撃破してスクラップ……にするよりも大学選抜側に交渉して、戦
利品として所有権譲渡して貰ってから売り払う方が良いか?
戦車としてはアウトでも、ミリオタの中には欲しがる奴も居るだろうし、そうすれば少しはアンツィオの資金が捻出出来るかも知れないからな。



「ドゥーチェ……?」

「いや、冗談だカルパッチョ。
 とにかくアレを撃破するには、お供のパーシングが邪魔だな?……パーシングを撃破せずとも、カールから引き剥がす必要が有る訳だが――」

『――こちらみほです、聞こえますかアンチョビさん?』

「っと、如何かしたかみほ?こっちは順調にカールを目視できる場所まで来たぞ?……今はどうやってあのデカブツを倒すかを考えている所だ。」

『其れなんですけど、カールの撃破には大学選抜チームの天城さんとアールグレイさんが協力してくれるって言ってたの覚えてます?』



あぁ、そう言えばそんな事言ってたなぁ逸見との電話で。
いや、だがあれは流石に冗談だろう?幾ら何でも、そんな事をしたら大学選抜をクビになるからな……アレは、まぁなんだ、私達の事を鼓舞する為
のモノじゃないかと思うんだけれどな?



『いえ、マジです。』

「……は?」

『だから、マジです。本気と書いてマジです。って言うか、カール撃破に向かった事を伝えました。』

「E una bugia!?(嘘だろ!?)」

あの2人、本気だったのか!?
流石は西住が隊長になるまで黒森峰を率いていた天城春奈と、聖グロの伝説の隊長であるアールグレイ……やる事が大胆と言うか何と言うかだ
が、其れ程の戦車乗りが味方をしてくれるというのならば有り難い事だ。



『大マジです――だから、やっちゃってくださいアンチョビさん!』

「あぁ、任せておけ!予想外の援軍だが、此方にしては有り難い事この上ないからな!」

となれば、パーシングを引き剥がす役目が出来るのはお前しかいない……頼めるかミカ?



「その作戦に意味があるとは思えない……だが、君が作ろうとしている風に乗るのは悪くないよアンチョビさん。」

「……お前、少しは其の捻くれた性格は何とかならないのか?」

「ふふ、齢18ともなると今更性格を変える事など出来ないモノだよ。」



はぁ、何を如何やったら此処まで素直じゃない人間が出来上がるのか知りたいもんだが、ミカの実力は生半可なモンじゃない――もっと戦力に恵
まれている学校に進学していたら、間違いなく黒森峰の最大の脅威となってただろうからな。



「ふふ、其れは君もだろうアンチョビさん?」

「さぁ、其れは如何だろうな?」

西住はアンツィオに進学した私の事もライバルであり友であるといってくれるけどな……まぁ、そんな事よりも今はカールの撃破が最優先だから全
力で行くぞ?
大洗連合改め、高校選抜チームの底力を見せてやる!!








――――――








No Side



カール自走臼砲を撃破する為に編成された、アンチョビ率いるドングリ小隊だが、アンチョビの指揮の下、行き成り大学選抜の予想を超えた戦術を
放って来た。


「やぁ、お邪魔するよ?」


突如現れた、継続のBT-42が高台の下から現れ、カールに向かって砲撃!!
尤も、その砲撃は牽制の為の一発である為、カールの側面に掠っただけで大した損傷を与える事は出来なかったのだが、其れでもこの奇襲は大
学選抜側からしたら予想外だっただろう。
こんなに早くカールの存在がバレるとは思っていなった上に、カールを撃破しようとした相手チームの戦車が奇襲をかけて来たのだから。


「1輌でって、舐めるんじゃないわよ高校生風情が!!」

「返り討ちにしてやるわ!!」


だが、其れでも大学選抜のエリート意識から、単騎で奇襲をかけて来たBT-42を撃破せんと、カールの護衛に付いていたパーシング3輌が出撃し
て、カールは丸裸だ。
そして、其れを見逃すアンチョビではない!!


「行くぞ、全軍突撃!!」


パーシングが居なくなったのを見るや否や林の中から飛び出して一路カールに向けて全力前進の全力全開の全力全壊!!――ヘッツァー以外
は火力が足りない?……其れが如何した!!


「カール自走臼砲……戦車道を穢すお前には此処で消えて貰うぞ!!」


黒いマントを翻し、鞭を片手にしたアンチョビからはみほとは異なる『策士』の闘気が溢れているのだ――この突撃が、只の突撃でない事だけはハ
ッキリしているだろう。








――――――








アンチョビが突撃を命じたのと同じ頃、カールが要る高台の下の荒野では、ミカ率いるBT-42と大学選抜のパーシング3輌の戦闘が幕を開けてい
た――戦車の性能で負けている上に、数も相手の方が多いとなれば、ミカが圧倒的に不利なのは言うまでもないだろう。
普通に考えれば、如何にミカが優秀な戦車乗りであっても一方的に塵殺されるだけなのだが――


「其れじゃあ、頼れる助っ人にご登場願おうかな?……Tupla etukateen kutsu(ダブルアドバンス召喚)――出番だよお2人さん?」

「其れを待ってたわ!」

「少しばかり暴れさせて貰うわ……付き合って貰うわよ?」


ミカの号令と共に現れたのは、天城春奈が車長を務めるパーシングと、アールグレイ改め、逸見カンナが車長を務めるパーシングだ――冗談では
なく、天城とアールグレイはガチでカール撃破を手伝う心算だったのだ。

が、此れに驚いたのはカールの指揮官だ――いやまぁ、味方が裏切ったというのなら驚いて然りだが。


「天城、逸見……裏切る心算なの!?」

「裏切る?違うわね、見限ったのよカール自走臼砲を……そして、其れを迷わず使う貴女達もね――もしも愛里寿がこの場に居たらカールでの攻
 撃は絶対にしなかったでしょうね。
 だけど、貴女達は迷わずにカールでの攻撃を行ったわ……其れこそが愛里寿に対する最大の裏切りだと気付かないのかしら?」

「おそらく島田隊長はカールの使用には反対だったでしょう……けど、文科省に押し付けられた以上は1回は使用しなければならないとは思ってい
 たとは思うけれど、連続使用は考えてなかった筈だわ。
 にも拘らず、其れを連続で使った……強力な兵器を得た事で、其れを嬉々として使う貴女達に戦車に乗る資格はないわ……恥と知りなさい!」


裏切ったのかという言葉に返って来た天城とアールグレイの言葉に、カールの指揮官は思わず言葉を詰まらせる――天城とアールグレイの指摘
は、自分でも自覚していなかったモノだったから。
だが、言われた事で自覚してしまった。普段は絶対に使う事が出来ない強力な兵器を使えるという事に浮かれ、此れが戦車と呼ぶ事が出来ない
異端なモノだと言う事がすっぱりと頭から抜け、只その強い力を使う事に酔ってしまった。
まるで、子供が新しい玩具を与えられて、其れに夢中になってしまうように。
気付かされた己の愚行に苦虫を噛み締めたような顔になるカールの指揮官だが、だがだからと言ってチームからの離反者を放っておいて良いと
いう訳でもない。


「其れはそうかも知れないけど……だけど、だからってチームを裏切るのを見過ごす事は出来ないわ。
 パーシング部隊、天城と逸見も撃破せよ!2輌失う事になるのは正直痛いけれど、その2人をそのままにしておいたらチームが瓦解する!!」


殆どヤケに近い状態でミカだけでなく天城とカンナの乗るパーシングも撃破する様に命令を下す――そして、命令を下された3輌のパーシングは、
特に躊躇う事も無くミカ達に向かってくる……チームを離反したモノは、排除すべきと考えたのは指揮官だけでは無かったらしい。


「此れは此れは、中々に激しい風が吹き始めたみたいだ――なら、その風を乗りこなすのもまた一興かな?」


だがそんな事は正にどこ吹く風と言わんばかりのミカは、不敵な笑みを浮かべると同時に手にしたカンテレの弦を弾き、曲を紡ぎ始める――『試合
中に何やってんだ、仕事しろ車長』と言いたくなるかもしれない光景だが、ミカがカンテレを弾き始めた瞬間にBT-42は猛発進し、大学選抜のパー
シングに向かっていく。
それも、機動力はあるモノの機体バランスの悪さから真っすぐ走る事さえ困難と言われているBT-42とは思えない程の運動能力を発揮してだ。
此れはあまり知られていない事実だが、ミカは車長としての指示らしい指示を出す事は滅多になく、その場その場で思い付き的な指示を出す事が
多いのだが、本気になったその時は、カンテレを弾き、そのメロディーを指示とする――其処だけ聞くと『なんのこっちゃ?』と思うだろうが、ミカと日
常的に一緒に居るアキとミッコにとって、ミカのカンテレの音はとても聞き慣れたモノであると同時に、ミカがカンテレを奏でるのは、気分が乗ってい
るからだと言う事を理解していた。
そして、戦車に乗ったミカの気分が乗っている状態になった時になった時にはどうすれば良いのかを理解している、其れだけの事だ――常に一緒
に要る3人だからこそ可能な、無言の連携プレイ――其れが、ミカのカンテレの正体だった。

無論それに負けじと天城とカンナのパーシングも発進し、此処にカール自走臼砲を巡る戦いが幕を開けた訳だが――ミカは真の目的を果たす為
の囮であるという事を忘れてはならない。


「今だぁ!全軍突撃ぃ!!」

「「了解!!」」


カールの護衛であるパーシングが全ていなくなった事を確認したアンチョビは、此処で全軍を進撃させ、カールを撃破する為に猛スピードで石造り
の橋を激走!驀進!!アァクセルシンクロォォォォォォォォォ!!!


「しまった!!」


完全に虚を突かれた形となったカールの指揮官は慌てるが、だからと言ってカールの主砲で迎撃する事は出来なかった――CV-33の車長である
アンチョビが車体から上半身を出して指揮をしていたからだ。
戦車の中にいるのならば、特殊なカーボンによって守られている為、カールの砲撃が直撃しても、骨折くらいはするかも知れないが死ぬ事は無い
だろう――だが、600mmの凶悪な砲弾が生身に直撃してしまったら?……言うまでもなく挽き肉になるだけだ。
その可能性が頭をよぎり、攻撃が出来なかった。


「させるかあぁぁぁ!!」



――バガァァァァァン!!



だが此処で味方であるパーシングが橋を砲撃して破壊し、アンチョビ達の進撃を食い止める――が、その選択は間違いではないがこの状況では
ある意味では悪手だろう。


「目の前の敵から目を逸らすとは、随分と余裕があるわね先輩?」

「天城!!」


橋を砲撃したパーシングの横っ腹に天城のパーシングが現れ、略ゼロ距離からの攻撃を敢行!!
重装甲のパーシングとは言え、同じく重火力を誇るパーシングの砲撃を略ゼロ距離から放たれたら一溜りもないだろう――だがしかし、只やられる
という事も無く、天城の攻撃を受けたパーシングは、苦し紛れの一撃を放つ。
其れは、狙いも何もない、正に苦し紛れの最後っ屁だったのだが――



――ズガァァァァァァン!!!



何の運命か、神の悪戯か、その砲撃はBT-42の履帯に炸裂し、履帯を断裂してしまう――戦車にとって履帯とは行動する為の生命線其の物であ
り、其れを切られてしまった以上、撃破判定とはなって居なくともBT-42は戦力外なのだが……


「天下のクリスティ式舐めんなよぉ!!」


履帯を切られると同時に、ミッコは専用のハンドルを操縦桿にぶちこんでBT-42の走行を続行!――クリスティ式を採用しているBT-42は、履帯が
無い方が機動力は高くなるのだ……ある意味で、戦車の概念超えてねぇか此れ?
まるで『履帯が外れてからが本番だオラァ!』と言わんばかりの機動で、BT-42はパーシングを翻弄する……相手をキリキリ舞いさせるミカの戦術
は、正に忍者戦術の島田流と言えるだろう。
だが、ミカは島田の人間でありながら島田流の申し子ではない――みほが西住の人間でありながら西住流の申し子でないように。


「紅茶のお供に、スコーンは如何かなアールグレイさん?」

「そうね、美味しく頂戴させて貰うわ。」


自身にパーシングを集中させたミカは、クイックターンで軌道を変えると、其処から現れたのはカンナのパーシング……己を囮にしたトリックプレイを
用いて2輌目のパーシングを撃滅!!
こうなっては、もう護衛だったパーシング部隊は略壊滅言っても良いだろう――残り1輌で、ミカ、天城、カンナの3人を相手しろと言うのは、幾ら何
でも無理ゲーなのだから。
となれば、後はアンチョビ達がカールを如何撃破するかに掛かっているのだが……


「橋が寸断されたか……ならば、私達の足元を攻撃しろ磯辺!!って言うか引っくり返せ!!それが、勝利への布石だ、根性見せろ!!」

「了解しましたアンチョビ小隊長!!此れが根性ダァァ!!」


有ろう事か、アンチョビはアヒルチームに自らを攻撃――もっと正確に言うのならば、自分を引っ繰り返せと命じる。其れが勝利への布石となると言
った上でだ。
アヒルチームは悪い言い方をすれば、スポコンの脳筋なので、勝利への布石と聞かされれば、その為の一手を打つ事に戸惑いはなく、アンチョビ
の命令に従ってCV-33の足元を攻撃し、此れによりCV-33は裏返しになってしまうが、其れこそがアンチョビの狙いだった。


「履帯回転!!飛べ角谷ぃぃぃぃぃぃ!!」

「チョイサァァァァ!!!」


裏返しになったCV-33の履帯を回転させ、其処にヘッツァーを乗せて打ち出す――大洗女子学園が、全国大会の決勝で黒森峰の切り札であった
マウスを撃破した時に使った戦車カタパルトをアンチョビは使ったのだ。
黒森峰戦ではカタパルト役になったヘッツァーが、今度はCV-33のカタパルトで射出されるというのは何とも奇妙なモノを感じなくもないが、射出さ
れたヘッツァーの砲手は杏だ。そうそうしくじりはしないだろう。


「会長!お願いします!!」

「任せとけよ、か~しま!!」


そしてカタパルトで射出されたヘッツァーは、カールの主砲を攻撃し、その結果カールの砲身は誘爆を起こして破壊され、結果として――


――キュポン!


『大学選抜チーム、カール自走臼砲行動不能。』


凶悪兵器であるカールは白旗判定に――戦車道に持ち込まれた悪意は、戦車道を愛する者達の熱意によって沈んだ……そう言える展開だった
と言えるだろう。
だが、だからと言って護衛のパーシングとの戦いが終わった訳では無いのだが、既に2輌を失い、1vs3となったパーシングに勝機は無かった。
考えても見て欲しい、まほが来るまで黒森峰の隊長を務め、大会でも優勝を捥ぎ取っていた天城と、聖グロで現島田流の家元以外で唯一アール
グレイのノーブルネームを名乗ったカンナ、そして、実は島田流の長女でありみほが強敵と認めたミカの3人を相手にしたら、如何に大学選抜のエ
リートであっても勝機は薄い――というか勝率は0%だろう。


「さて、最後に何か言いたい事は有る?」

「なんでこんな事に……不幸だ!!」

「よく言ったわ……なら、此処で散れ。」

「君は風に乗れなかった様だね……サヨナラだ。」


慈悲などないと言わんばかりに、BT-42と2輌のパーシングの攻撃を受け、パーシング部隊は壊滅!正に粉砕、玉砕、大喝采!!どこぞの社長が
高笑いしかねない事態になってたのだ。
更に――


「違法兵器は撃破出来たみたいよ天城?」

「そうね……ならば、私達は此処までだわ――本部に通達、現時点で私、天城春奈と逸見カンナは此の試合を棄権します。」


此処で天城が自身とカンナの棄権を申し入れたのだ――此の2人が棄権した所で大学選抜が即敗北と言う事にはならないのだが、此処での棄権
は、大学選抜にとっての痛手に他ならないだろう。
天城とカンナの棄権によって大学選抜の損失は9輌に。
対して大洗の損失は6輌……その差は僅かに3輌だが、殲滅戦ルールに於ける3輌の差は決して小さくないので、状況は大洗有利に傾いたと言
えるだろう。

因みに――


「逸見と天城が裏切った末に降参しました。」

「予想はしてたが矢張りか……だが此れで、もうカールを使わずに済むな。」


カールの関する報告を聞いた愛里寿は特段焦ったりという様子はなかった――愛里寿的にも、戦車層を穢す兵器が駆逐されたというのは喜ぶべ
きものなのだろう。
カールがなくなれば、純粋にみほと戦う事が出来るのだから。


「本番は此処から……そうだよね、みほさん、姉様。」


呟かれた一言は、誰も聞く事は無かったが、その一言には愛里寿の闘気が詰め込まれていた――隻腕の軍神と、島田の天才児が直接対決を行
う事になったその時には、戦車道の歴史に名を残す激闘になるのは間違いないだろう。








――――――









Side:みほ


さてと、状況はどうなってるかな沙織さん?



「んっとね、こっちの被害はパンター2輌、知波単の戦車2輌、T-34とKV-2の6輌が撃破されたけど、大学選抜はチャーフィー2輌とパーシング6輌
 ……うち2輌は棄権だけど、カール1輌の合計9輌――数的には有利だよみぽりん!
 此れなら勝てるかも知れないよ!!」

「うん、其れは確かにそうかも知れないけど油断は禁物だよ。」

大学選抜の隊長は、ミカさんが島田流の後継者の地位を明け渡した程の天才である愛里寿ちゃんだから、数的な有利に立ったからって油断は出
来ない……だから、此処からは各校の特色を生かしたチームワークで行きましょう!



「普通なら、『急ごしらえのチームでチームワーク?』って言う所なんだけど、貴女が指揮するチームに限っては其れは無いわ――寧ろ、流儀も何
 もかもが違うチームが揃ったこのチームこそが貴女の力を発揮出来るチームでしょうみほ?」

「エリカさん、其れはちょっとほめ過ぎじゃない?」

「そんな事は有りませんわみほさん……貴女は正に隻腕の軍神の二つ名に恥じない戦車乗りである事は、今や高校戦車道の常識――その名を
 知らないモノはモグリと言われていますのよ?」



うぇーい、思った以上に私の名前は有名だったみたいだね?――でも、そう言う事なら、其れに応えないとだよ……!!



――轟!!!



「これは……この闘気は!!」

「はは……みほが本気を出したみてぇだな!!」

「こうなった以上、みほさんの勝利は絶対ですわ!!」

「此れがみぽりんの本気の本気の更に本気!冗談抜きで空気が震えちゃってるよ!!」



腐った大人の思惑を焼き尽くす為に、私は私の中で眠っていたモノを――眠れる本能を解放する!!さぁ、試合は此処からが本番だよ大学選抜
チーム……私の闘気を目覚めさてしまった事を、精々後悔すると良いよ。
隻腕の軍神の闘気は、眼前の敵を倒さない限り、治まる事は無いのだからね。












 To Be Continued… 





キャラクター補足