Side:しほ


――文部科学省本部


文科省に抗議する為に、文部科学省までやって来たわ――初めまして角谷杏さん、西住しほです。



「御足労頂いて申し訳ありません、西住流家元――本来ならば、もっと正式な手続きをする所だったのですが……」

「構いませんよ角谷さん。
 私は西住流の新たな家元ではありますが、堅苦しいのは好みではありませんから……其れに、娘の母校の危機と知って黙っていられる程、私
 は人間が出来ていないのでね。」

正直な事を言わせて貰うなら、抗議以前に文科省にラーテかP1500で突撃かましたい気分だからね……と言うか、みほの居場所を奪う輩なんて
言うのは滅殺以外に有り得ないわ。
白髪モノクルに誰にケンカを売ったのか教えてあげましょう。

なんだけど、貴方は何をしてるの黒のカリスマ?



「大洗女子学園が廃校とはどういう事だえー!納得できる説明をしてみろ馳!!
 ふざけた事ぬかしたら只じゃ済まねぇぞオラァ!
 大体にして、現役の頃からテメェのその甲高い声と黄色いパンツが気に入らなかったんだ俺は!アイアム、チョーノ!!」

「あのな、アレは俺のレスラーとしてのキャラ付けなんだから理解してくれよ蝶野。
 其れに、大洗女子学園の廃校を決定したのは俺じゃないから。」

「ガッデーム!責任者出せオラァ!!」



如何やら相当にブチ切れてるみたいね?
でも、彼の迫力を使えば、かの白神大五郎を説き伏せる事は難しくないかも知れないわ――何にしても、みほが見つけた戦車の道を絶たせる訳
には行かないから、私の持てる力の全てを懸けさせて貰うわ。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer150
『逆転の一手は希望と共にです!』










応接室に案内された私達の前に座るのは、文科省の大物である白神大五郎――成程、中々のやり手のようだわ。……だからと言って退く気は
毛頭ないのだけれどね。

「此度の大洗女子学園廃校決定の件は、事実なのでしょうか?」

「其れに関しては事実としか言いようがありませんな。」



左様ですか……ですが、全国制覇を成し遂げた学校を廃校にするのと言うのは如何なモノかと思いますね?
全国制覇を成し遂げた学校が廃校になってしまっては、来年の大会に参加した者達が目標を見失うのは必至である上に、世界大会の誘致を目
指す日本にとってはマイナスのイメージにしかならないと思いますが、其れに関しては如何お考えですか?
其れについての明確な答えが頂けない以上、私が世界大会運営委員会の顧問を務めるのは、難しいと言わざるを得ません。



「仰ることは分かりますが、マグレで優勝した学校では……」

「ガッデム!!」



――バッキィィィン!!



大五郎が言い終える前に、黒のカリスマが机を拳で粉砕してターンエンド……プロレスラーのパワーは、ヘビー級ギリギリのウェイトでも馬鹿に出
来ないわね?
まぁ、得意のケンカキックで大五郎の顔面を蹴り飛ばさなかった辺り、流石にこらえたのかも知れないけれど。



「戦車道に、マグレなんぞねぇ!あるのは実力だけだ、エー!!
 つまり、大洗女子学園の優勝は偶然じゃなくて必然だったんだオラァ!!分かってんのかガッデメファッキンアー!!」

「左様、戦車道にマグレなし。あるのは実力のみ。
 全てのスポーツがそうであるように、強者だから勝ったのではなく、勝った者が強者であるのは戦車道もまた同じ事……如何すれば認めて頂
 けますか?」

「そ、それはその……」

「其れは何だ?言ってみろオラァ!!」

「だ、大学選抜チームに勝利する事が出来たら、大洗女子学園の廃校は撤回――否、撤廃しましょう。」



言ったわね?……角谷さん、今です。



「其れじゃあ今此処で誓約書を書いていただけますか?口約束は約束ではないようですので。」

「ぐ……!!」



ふ、お見事です角谷さん。
『口約束は約束ではない』などとぬかす輩には、書面で作ったモノを残し、其処に記名捺印させるのが最も有効な手段なのですからね。――自ら
記名して捺印した書面ならば法的な力も充分にあるのですから。
そして、この書類も事前に作成されていたとは思えない程の出来ですね?
内容としては……


27文科高第307号
申請者 氏名 角谷 杏 殿

申請のあった県立大洗女子学園の廃校撤回については、学園艦教育法(昭和57年法律第67号)第79条の4第7項の規定により次の条件をつけ
て許可します。

1 指定された戦車道試合において勝利した場合は、当該撤回の申し立てをすることができます。
2 上記1の試合において敗北した場合は、当該撤回の申し立てへの権利は失われたものとします。
3 上記1の試合については下記条件のもとで行われるとします。

文部科学大臣:馳浩
文部科学省学園艦局長:辻康太
文部科学省学特別顧問:
戦車道連盟理事長:児玉七郎
大学戦車道連盟理事長:
高校戦車道連盟理事長:西住しほ
大洗観光大使:蝶野正洋



1 試合の対戦者は大学戦車道連盟強化選手とする。
(試合対戦者)
2 試合場所は、上記1対戦者に指定の権利が与えられる。
(試合場所)
3 試合を行える期間は、この許可の決定から7日以内とする。
(試合の期間)
4 試合の規則、形態等については主催者たるものが定める権限を有する。
(試合の規則)
5 使用料は、免除とする。
(補給物資の負担)
6 試合許可を受けた者は、試合許可場所を常に善良なる管理者の注意をもって維持保存しなければならない。
(試合場所検査等)
7 試合に必要な資材、人員の確保は戦車道連盟がその責任を負うものとする。
(審判、試合会場の設営)
8 試合に関しての告知は、戦車道連盟がその組織を通じて行うこと。




充分過ぎるわね。
尤も、大学戦車道連盟理事に関しては千代に後で記名と捺印を貰わないとだけど、日本の戦車道の二大流派の双璧を巻き込むとは、角谷さんの
本気具合が伺えると言うものです。
此の子もまた、みほとは質は違えど強い意志を宿しているのでしょうね。



「オラァ!さっさとサインしやがれ!!テメェみたいな小悪党に割いてる時間はねぇんだ!!」

「分かった、分かりましたよ!!」



黒のカリスマの迫力もあって、取り敢えず形で残る書面を創る事が出来たわ……後は、千代の了承を取り付けて記名と捺印を貰うだけなんだけ
ど、其れも問題なく行くでしょうね。
千代は昔からみほの事を気に入ってたから、みほの危機に立ち上がらない筈はないモノ。

取り敢えず、第一関門はクリアしましたね角谷さん?



「はい、家元のおかげで何とか。
 まぁ、結果的にはまた西住ちゃんに……みほちゃんに負担を懸ける事になっちゃうんですけどね――本当にアタシは、みほちゃんに負担を背負
 わせてばかりで申し訳なくなります。」

「……其れは違いますよ角谷さん。
 此れはあの子が、みほが自ら選んだ道です――其処にある困難など分かっていた事でしょう。……でも、あの子は自分の手でその道を選んで
 結果を出した。
 其れも全ては、貴女が大洗女子学園の戦車道を復活させてくれたからこそです。
 みほは、大洗で自分の戦車道を完成させた――其れを考えれば、私は貴女に感謝こそすれ、負の感情を向ける理由がありません。」

「はは……そうですか――其れを聞いて、少しだけ救われました。
 西住ちゃん達の事を調べて、戦車道の経験者だと知って、その上で体よく利用してただけだったんじゃないかって思ってましたから――ですが
 家元の話を聞いて、吹っ切れました。」

「そうであるのならば良かったわ。」

「感謝します。
 今度、是非とも西住ちゃんに会いに大洗に来てください――大洗には美味しい物が一杯あるので、力の限りおもてなしさせて貰いますから。」

「……焼酎に合うモノってあるかしら?」

「シーサイドステーションのバーベキューのサザエのつぼ焼きや、ハマグリの網焼きなど如何でしょう?」

「OK、其れは最高だわ。」

取り敢えず、文科省の方は何とかなったわ――記名捺印した書類を、知らぬ存ぜぬとする事は出来ないのだから。
だから、後は千代次第……だけど、其れは実質クリアしたも同然よね。



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そんなこんなで、島田家の応接室。
こうして会うのは、一昨年の中学大会以来ね千代?



「2年ぶりねしほちゃん。
 先ずは、家元就任おめでとうと言うべきかしら?」

「如何かしらね?まぁ、賭け事ではあったけれど、一応はお母様に勝っての家元就任だから、めでたいと言えばめでたいのかもしれないわ。
 まぁ、私の家元就任が如何のとかは、今は如何でも良いのよ。
 千代、貴女の所にも大洗女子学園の角谷杏さんから話は来ているわね?」

「えぇ、来ているわ。
 本当だったら私も文科省に行くべきだったのでしょうけれど、生憎と大学戦車道連盟の会議とぶつかってしまって行けなかったのよ――で、そっ
 ちの方はどうなったのかしら?」



取り敢えず『大学選抜チームと試合を行って、勝つ事が出来たら大洗女子学園の廃校は撤廃にする』と言う条件を引き出す事は出来たわ。
そして此れが、其れの証拠となる書類よ――後は此処に貴女の記名と捺印があれば書類は完成となるって訳よ。



「私に話が来る時点で、大学戦車道を巻き込む事は予想していたけれど、まさかこんな書類を作っていたとは驚きだわ。
 若しかして角谷さんは、白神が大学選抜との試合での勝利を条件に出してくる事を予想していたと言うのかしら?」

「いえ、何方かと言うと、その条件を出すように誘導したと言うのが正しいと思うわ。」

高校戦車道連盟理事の児玉さん、そして西住流家元の私、陸上自衛隊の二佐である亜美に……異様な威圧感を放っていた黒のカリスマも居た
訳だから、無理難題を突き付ける訳には行かなかった――そんな事をすれば、確実に黒のカリスマが元祖ケンカキック→STFの必殺コンボを喰ら
わせてたでしょうからね。
だから白神は、無理難題にならない範囲での最大難易度のカードを切るしか道は無かった……そして其のカードこそが、大学選抜チームとの試
合だった。
社会人のチームを相手に圧倒的な勝利を収める大学選抜チームは、現行の日本最強チームと言う事になるのだからね。



「状況を整えれば、自分の望む答えを引き出す事が出来るか……恐ろしい事を考えるモノだわマッタク。
 でも、そう言う事ならこの書類には喜んで記名捺印させて貰うわ――何よりも、みほちゃんの戦車道が潰えてしまうと言うのは、私の望む所じゃ
 ないもの。」

「千代、貴女昔からみほの戦車道好きよね……」

「だって、みほちゃんの戦車道って何が起きるか分からなくて毎回ワクワクドキドキよ?
 世間では忍者戦術って言われてる島田流をも上回るトリッキーで、裏技搦め手もルールで認められてる範囲なら上等な戦い方って凄いと思うの
 よ普通に。
 みほちゃんは楽しむ事を最優先にしているのだろうけど、その戦い方は誰よりも本気で勝ちを取りに行く戦い方なのよ。
 でも、それは勝利に固執しないで、己の戦い方を貫いた結果勝利していると言う理想の形でもあるわ……ある意味でみほちゃんは、あらゆるス
 ポーツが目指すべき極地に最も近い位置にいるのかも知れないわね。」



其れは、確かに言えてるかも知れないわね。
勝利に固執せず、楽しむ事を第一に考えて結果として勝利する事が出来れば最高だもの――まぁ、みほの場合は『絶対に負けられない戦い』の
場合は、徹底的に勝ちを取りに行く事も出来る訳だけどね。

そう言えば千代、今の大学選抜の隊長って確か……



「私の娘の愛里寿よ。
 世間的には、此の試合は島田流vs西住流の側面を備えてるって言う事にもなるわね。」

「そうなってしまうでしょうね……此の試合の事が明るみになればマスコミが放っておくはずがありませんモノ。」

「そうよね……でも、これは愛里寿にとっては良い機会かも知れないわ。
 あの子には後学の為にみほちゃんの試合のビデオを何回も見せたんだけど、何時の頃からか『この人と戦いたい』って言うようになったから。
 こんな形ではあるけれど、愛里寿の願いが叶うのは良かったわ。」



左様か。
だけど千代、大学選抜チームに話しを通して手心を加える様な事だけはしないでね?……全力の大学選抜チームに勝たなければ意味は無いの
だから。



「分かってるわよしほちゃん。
 愛里寿にも『西住流の名が地に落ちるように叩きのめせ』って言っておくわ。」

「中々に過激な事を言うわね千代……でも、それで良いわ。
 みほは相手が強ければ強い程、底知れない力を発揮するからね……隻腕の軍神は、だからこそ不敗神話を築く事が出来たのよ。」

「そう言えば、中学2年から今まで、みほちゃんって公式戦では無敗なのよね。」



其の通り、中学2年から今までのみほの公式戦の戦績は15勝1分けと言う4年間の無敗神話を貫いてるわ……だからきっと、大学選抜チームが
相手であっても負けはしないわ。
そしてこの試合は、貴女の娘にとってもプラスになるでしょう?



「そうね。
 愛里寿の才能は、長女の美佳が『島田流を継ぐのは私よりも愛里寿の方が相応しい』と言って家を出てしまったくらいだけど、マダマダ未熟な所
 があるから、みほさんとの試合は愛里寿にとってもいい経験になるわ。」

「でしょう?
 そして、大洗が勝てば貴女の娘は敗北を知る事が出来る……敗北を知らぬ者に成長は無いからね。」

みほだって中学1年の時に黒森峰に負けたからこそさらに成長する事が出来たのだから。
でもどっちが勝つにしても千代、試合後に私達がやる事はただ1つだけよね?



「うふふ、決まってるじゃないしほちゃん――試合が終わったその瞬間に……」

「家元合体キン肉バスターね。」

まぁ、其れは其れとして、私に出来る事は全てやったから、後は貴女が何とかしなさいみほ……貴女ならば、大洗廃校を撤廃する為の一手を必ず
結実させると信じているわ。
隻腕の軍神の真髄、其れを白神に叩き付けてあげなさい。








――――――








Side:みほ


熊本から無事に大洗に帰還!皆、ただいま~~!!!



「「「「「「「「「西住隊長、逸見さん、赤星さん、おかえりなさい!!」」」」」」」」」(鍵カッコ省略。)

「お見送りも全員だったけど、お出迎えも全員とは豪華じゃないの……貴女、相当に慕われてるわねみほ?」

「エリカさんと小梅さんの名前も言ってから、私だけじゃないと思うんだけど……」

「みほさんと比べたら、私とエリカさんはおまけですよおまけ。
 ビックリマンチョコで言う所のチョコレートです……アレのメインはシールですから。」



小梅さん、其れは言っちゃダメだって。
でも、エリカさんと小梅さんがおまけって言う事は無いと思うよ?――だって、決勝戦での殊勲賞はエリカさんのライガーチームと、小梅さんのオオ
ワシチームだったんだから。
ライガーがレオポンと一緒に入り口を塞いでくれたから、オオワシが建物内に潜んでいたからこそ、お姉ちゃんに勝つ事が出来た訳だからね。



――ピンポンパンポーン



っと、此処で校内放送?一体何だろう?



『緊急連絡、角谷会長が帰還されました、戦車道履修者は至急講堂に集合してください。』

『オ~イオイオイ!!』




会長さんが戻って来た?
しかも、其れに合わせて講堂に集合とは、何かあるのは間違いないよね……で、小山先輩の後で聞こえる泣き声は一体――いや、言わなくとも
予想は付くんですけどね?



『繰り返します。角谷会長が帰還されました、戦車道履修者は至急講堂に……って、泣き止もうよ桃ちゃん。』



矢張り河嶋先輩でしたか。
会長さんが居ない間は、気が張り詰めて本当に同一人物なのかって疑いたくなる位に業務を熟していたけど、会長さんが帰還した事で緊張が一
気に解けちゃったとか、そう言う事なのかも知れないね。
だけど、会長さんが戻って来たって言う事は、きっとなにかがある筈――あの会長さんが、何日も留守にして何もないなんて言う事は有り得ない。
きっと見つけたんだ、大洗を廃校から救う道を!!



「その可能性は大きいわね?
 そして、その条件は戦車道関係で決めた可能性が高い――となると、黒森峰以上の相手と戦う事になる可能性があるんだけど……」

「問題ないよエリカさん。
 寧ろ黒森峰以上の存在が相手だって言うのなら上等だよ――高校戦車道最強の黒森峰をも上回る相手に勝利したとなれば、流石に文句の付
 け様は無いだろうからね。」

会長さんがどんな一手を持って来たのかは分からないけど、其れが誰かに勝てって言う条件なら、私は必ず其れを成し遂げて見せるよ。



――轟!!



「此処で軍神招来……!!」

「隻腕の軍神の闘気に火が点いたみたいですね。」



何よりも、第2の故郷である大洗を奪われる訳には行かないからね……必ず取り戻して見せるよ、私達の大洗の学園艦を!!
そして、あの白髪モノクルには、其の身をもって味わって貰うよ――隻腕の軍神にケンカを売ったらどうなるのかと言うのをね……下らない謀略の
果てに、私の中の眠れる本能を解放してしまった事を、精々後悔すると良いよ!!
こうなった以上、誰も私を止める事は出来ないからね――!!










 To Be Continued… 





キャラクター補足