Side:杏


――高校戦車道連盟本部


高校戦車道を統括する場所に蝶野教官と赴いて、大洗の現状を訴えたんだけど……此れは、あんまり旗色が良いとは言えないかな?連盟の会
長さんも、文科省の決定には思うところがあるみたいだけど、困り顔だからね。

「優勝すれば廃校は撤回される、そう信じて戦って来たのに、その道は最初から存在しなかった、そんな事は到底納得出来ません。
 確かに辻局長は確約はしてはいませんでしたが、『やってみなさい』と言いました……確約ではなくとも、此れは『全国優勝した学校を廃校には
 しないよね?』と言う私の言葉に対しての答えとすれば『優勝出来れば廃校は撤回する』と取る事が出来ますし、辻局長もそう言う意味で言った
 と仰いました。
 で、あるにも関わらず、権力の横暴で廃校が推し進められるのを受け入れる事は出来ないんです。」

「確かに君の言う事は尤もだよ角谷君。
 全国制覇を成し遂げた学校を廃校にするなどバカげているとしか言いようがないが……だがしかし、文科省の決定とあっては私達連盟が抗議し
 た所で大した効果は上がらないだろう。」

「ですが、此度の処置は、文科省が推奨している『スポーツを通じての青少年の健全育成』の理念に反するのは無いでしょうか?――全国制覇を
 成し遂げた学校が廃校になるなどと言う事になったら、その理念は真っ向から否定される事になります。」

「君の言う事は分かるがね蝶野君……文科省は世界大会の誘致に躍起になっていて取りつく島もないよ。」



世界大会の誘致があるから高校生には構ってられないと言う事ですか……非常に不愉快な事ではありますが、政治的な事を考えれば理解出来
なくはありません。
時に会長さん、世界大会の組織委員の名誉顧問って誰でしたっけか?



「名誉顧問?確か、西住しほさん――此度新たに西住流の家元を襲名した方だった筈だが?」

「ほうほう……其れはまた――蝶野教官、此処は!」

「そうね、超信地旋回で行きましょう?」

「へ?えぇ?」



組織委員会の名誉顧問が別の誰かだったらゲームオーバーだったけど、西住ちゃんのお母さんが名誉顧問だってんなら手の打ちようはあるから
ね……言い方は悪いけど、其れを利用しない手はないよ。
天下の西住流が動いたとなれば、流石の文科省でも無視はできねーだろうからね。
恥も外聞も、裏技も反則技もあったもんか……大洗女子学園を守る為なら、悪魔にだって魂を売り渡す覚悟があるからねアタシは!!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer149
『反撃の火種は未だ消えず、です』










Side:みほ


それじゃあ、私とエリカさんと小梅さんは、一度九州に戻るけど、私達が不在の間は頼んだよ梓ちゃん?それから、アンドリューとロンメルもね。



「お任せください西住隊長。
 隊長が不在の間、ちゃんとこの場所を護って見せますよ――アンドリューとロンメルが一緒だから不安もありませんし。」

『ガルゥ。』

『キューイ♪』


「其れは頼もしいね。」

まぁ、梓ちゃんだけじゃなくアンコウとライガーとオオワシの車長以外のメンバーはこの場に残るし、他のチームのメンバーも基本的には此処に残
る訳だから不安は無いけどね。
それじゃあ、ちょっと行ってくるよ。



「行ってらっしゃい、みぽりん!お土産宜しくぅ!」

「長崎カステラ、芥子レンコン、つけ揚げのどれが良いかな?」

「つけ揚げ?」



あぁ、関東の人には馴染みがない名前だったね。
『つけ揚げ』って言うのは、さつま揚げの事なんだけど、九州の方ではつけ揚げや天婦羅っ言うんだよ。
九州で天婦羅うどんって言えばさつま揚げが乗ってくるからね。



「へ~~、そうなんだ?方言って面白いね?」

「其れには同感……私も茨城の方言には驚いたからね――『ごじゃっぺ』って何って思ったし。なんとなく、意味が分からなくはないんだけどね。」

「『明日明後日』、『昨日のその明日』……茨城弁は難解だわ。」

「『しみじみ』も、本来とは違う意味で使いますからねぇ……『しみじみしないな』って言われて、最初は何の事かサッパリ分かりませんでした。」



方言って言うのはその地域の特徴があるのかもね……茨城では釜揚げにして干した白魚を『煮干し』って言ったりするからね。
それじゃあ、改めて行ってきます!



「「「「「「「「「「「行ってらっしゃい!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略。)

「うわお、気付けばまさかの全員お見送りと来たよエリカさん。」

「ま、当然じゃない?
 貴女は誰が何と言おうと『大洗を救った救世主』である事は間違いないんだから――クソ馬鹿のせいで、其れがなかった事にされそうになって
 るんだけどね……」

「やっぱり文科省にマウスの128mm砲をぶち込んだ方がよくないですか?」

「小梅さん、大洗はマウス持ってないから。」

何とも盛大なお見送りになっちゃったけど、其れもまた私達が慕われてる証拠って言う事だから悪い気はしないね――そう言えば、実家に帰るの
も大分久しぶりだなぁ?
去年の大会の後以来だから1年ぶりの実家か……ちょっと、緊張して来たね。








――――――








Side:エリカ


茨城空港から飛行機に乗って、熊本の空港に降り立って、空港で小梅とはお別れね。
私とみほは熊本が地元だけど、小梅は南阿蘇村が地元だから空港からバスで移動しないとだもの――まぁ、私とみほも熊本が地元だとは言って
も住んでる地区が違うから駅までは一緒だったけど、其処からは別行動だからね。

そんなこんなで久しぶりに実家に戻ってきた訳なんだけど……嫌な予感がするわね此れは。
取り敢えず玄関の扉を開けて……



「エリちゃん久しぶり~~~~!!!」

「予想通りかい!!受けろ……」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「いきなり超技溜めないで!?出会い頭に『百八拾弐式』をかますそうとするのはお姉ちゃんどうかと思うんだけど?」

「いや、此れ位かまさないと姉さんは止められないかなぁって。」

って言うか、私の事を好きでいてくれるのは良いんだけど、妹好きも程々にしなさいよ姉さん――聖グロの伝説的ノーブルネームである『アールグ
レイ』を継いだ人がシスコンだったとか、今の聖グロ生が引くかもしれないしね。



「エリちゃん、戦車道女子の姉はシスコン気味になるんだよ?
 私だけじゃなくて、黒森峰のまほに、継続のミカ……度合いの違いはあれどシスコン気味。そして、揃いも揃って姉より優秀な妹持ちよ。」

「自分でシスコンって言ってりゃ世話ないわよ姉さん。
 って言うか、姉より優秀な妹って、其れには私も含まれるわけ?……だとしたら、其れだけは無いわ――私はドレだけ頑張っても姉さんに勝つ
 事は出来ないわ。
 それは自分で分かってるモノ。」

子供の頃から、何をやっても姉さんに勝つ事は出来なかったからね……だからきっと、戦車道でも勝つ事は出来ないと思う――姉さんが天才って
のは否定しようがないけど、私は凡才だからね。
天才の姉さんには敵わないわ。……勿論、諦める心算は無いから日々頑張ってるけど、姉さんに勝つビジョンってのは全く見えないのよ。



「エリちゃん……」

「そんな顔をしないで姉さん。
 理性では勝てないってのは理解してるけど、だからと言って私の本能が屈したわけじゃないわ……私の中にある凶暴な本能は、何時か姉さん
 を喰らい尽くせって言ってるからね。」

「エリちゃん、ガチンコ肉食獣?」

「ま、否定はしないわ。」

って言うか、最近のみほは私を通常の指揮系統から除外して、自由に暴れさせる事が多くなったからか、本能の凶暴性が増してる気がするのよ
ね……其れでありながら冷静な理性の部分も強くなってるんだから不思議だわ。
若しかしてみほは、私に本能の凶暴性と冷静な理性を同時に発動できるようにしようとしてるのかしら?……確かに戦い方そのものは本能任せ
の凶暴な物でも、状況を冷静な理性で的確に判断できれば、其れは最強かもだからね。
にしても姉さん、アールグレイの時とはまるで別人よね?



「アールグレイはあくまでも聖グロの隊長だから、何時でもそういう風に振る舞わないとだからね?
 あんまりにも疲れたから、1度だけダージリンの前でアールグレイの仮面を脱いで見せたら、鳩が豆鉄砲喰らったような顔してたわよ。」

「そりゃ、そうなるって。
 処で、父さんか母さん居る?転校の書類に保護者の印鑑が必要なんだけど……」

「ありゃ、バットタイミング。
 お父さんもお母さんも町内会の温泉旅行に出掛けちゃって、帰ってくるの3日後よ?」



ゲ、マジで?
参ったわね……印鑑を貰ったら直ぐに大洗に戻る予定だったからこっちに泊まる準備なんてしてないし、帰りもみほと小梅と駅で待ち合わせして
るから今日印鑑が欲しんだけど……



「……ねぇ、エリちゃん、必要なのは保護者の名前と印鑑なのよね?
 だったら……サラサラサラ。でもってお父さんの書斎から印鑑を拝借してポンっとね。これでも良い訳よね?」

「姉さん……いやまぁ、筆跡鑑定なんてしないだろうから此れでもOKだと思うけどさ。
 でもこれ、私でも言われないと姉さんが書いたんじゃないくて父さんが書いたって思う位にそっくりの字だわ……まさかとは思うけど、この特技を
 使って、大学での書類とか不正に提出してないわよね?」

「ちょ~っとだけやろうかと思った事は有るけど、ばれたら拙いからやってない♪」

「やったって言ってたら、今度こそ百八拾弐式かましてたわね。」

「其れは怖いわね。
 ……ねぇ、エリちゃん。エリちゃんは此のままで良いの?折角優勝したのに大洗は廃校になって、多分だけど仲間達とも散り散りになっちゃう。
 折角エリちゃんは自分を生かせる戦車道を見つけたのに、そんなの悲しすぎるわ……此れで良いの?」

「良くは無いわね。」

って言うか最悪よ……此れから大洗の戦車道を更にって時だったんだからね。あの糞モノクルには首相撲からの連続膝蹴りを叩き込んだ上で垂
直落下式DDTを喰らわせて、三角締めで締め上げたいからね。
だけどね姉さん、私は――私達大洗女子学園は諦めてないわ。会長が何やら動いてるみたいだしね。
会長は喰えない人だけど、多分誰よりも大洗の事を大切に思ってるから、どんな手を使ってでも大洗の廃校を撤回――いいえ、撤廃させるために
動いている筈だわ。
そして、誰も諦めてない以上は大洗の廃校は必ず撤廃にして見せる――この書類は、本当にダメだった場合の保険だけど、多分使う事はないと
思うわ。



「だったら、思いっきりフザケタ文字で名前書いても問題なかったわね?」

「姉さん、なんでそうなるのよ……」

マッタク姉さんは相変わらずね?……でも、元気そうで安心したわ。
その後は、少しだけ時間に余裕があったから姉さんと一緒に軽くランチ……姉さんが行きつけだって言う博多とんこつラーメンの店に連れて行って
貰ったけど、中々に美味しかったわ。
このラーメンのお礼に、今度姉さんを茨城に招待して、『茨城タンメン』を堪能してもらおうかしら?きっと、気に入ってくれると思うしね。








――――――








Side:小梅


書類の記名と捺印はこれで良し……ありがとうございますお母さん。
此れがあれば、最悪の事態に陥った時でも私は学校に通う事が出来ますから……転校したその先に戦車道があるかどうかは分かりませんけど。



「小梅……大変な事になってしまったわね?
 内向的だった貴女は、戦車道を始めた事で変わって友達も出来たと言うのに、全国制覇を成し遂げた母校が廃校になるだなんて……そんな事
 ってあんまりじゃないかと思うわ。」

「私もそう思いますよお母さん。
 でも、この決定に逆らう事は出来ないんです……逆らったら、学園艦に住む他の人達に迷惑が掛かりますから。」

……まぁ、だからと言って何もしないで手をこまねいてる訳じゃないんですけれどね――大洗は、会長さんが動いてるみたいだから、きっと廃校撤
廃の為の一手があると思いますから。
そして、その一手を捥ぎ取れたなら、その一手をもってして逆チェックメイトをかけるだけの事ですから。

何よりも、私は『慧眼の隼』……隼は虚空より襲来して獲物を狩るハンターだから、私はハンターとして大洗の廃校撤廃と言う獲物を確実に狩って
モノにするだけですので。



「いい顔をするようになったわね小梅?
 内向的で、人に話しかける事すら怖がっていたのが嘘みたいだわ。」

「戦車道を始めた事で私は変われたんです……そう言う意味では、私に戦車道をやってみないかと言ってくれた事に感謝しています、お母さん。」

きっと戦車道をやってなかったら、私は内向的なままで友達も作る事が出来なかったと思いますから。
だからこそ、私は諦めない。諦めなければ道が開けると言うのを教えてくれたのもまた戦車道だったのだから――廃校撤廃の一手はきっとある。
今は、其れを信じるだけです。








――――――








Side:みほ


こうして実家に来るのは……去年の大会後に御祖母ちゃんから破門を言い渡された時以来だから1年ぶりか――果てさて、どうしたモノかな?
普通ならこの門を押し開けて中に入るところなんだけど、西住流を破門された身としては少しだけ戸惑っちゃうんだよね……まして、私の場合は師
範の娘って言う立場らからね。



「みほ?」

「お姉ちゃん?」

なんて事を考えてたら犬の散歩に行ってたらしいお姉ちゃんとエンカウント。――で、そのまま一緒に西住家の門をくぐって中に入った訳なんだけ
ど、私が入っても良かったのかな?



「此処はお前の家だ。何の問題もない。」

「其れはそうだけど、私は破門された身だし、何よりもお祖母ちゃんが……」

「ん?聞いていないのかみほ、お前とエリカと小梅の破門はお祖母様自らが撤回した。
 お祖母様はお前の戦車道を認め、己が提唱していた『西住流』が過ちであったと言う事に気づいて下さった……今のお祖母様を見たらきっと驚く
 と思うぞ?」

「へ?そうだったの!?」

まさか、お祖母ちゃんが私とエリカさんと小梅さんの破門を撤回するとは思ってなかったら、此れは衝撃的だったなぁ?……それ以上に、今のお祖
母ちゃんを見たら驚くってどういう事?




「あぁ、こう言う事だ。」

「おや……帰ったのかいみほや?
 うんうん、元気そうで安心したわい……先の大会の決勝戦、実に見事じゃったぞ?……ワシのした事を許せとは言わぬが、お前の事を誇れる孫
 だと言うのは許してくれぬか?
 お前は自らの力をもってして己の正しさを証明し、ワシの間違いを指摘してくれたのじゃからな。」



……はい?
あの、お姉ちゃん、あの人誰?本当にお祖母ちゃん?おばあちゃんの皮を着た別の誰かじゃなくて!?って言うか、いくら何でもキャラ変わりすぎ
でしょアレは!!
ペパロニさん曰く『糞ババア』だったのが、今や完全な好々婆じゃんあれ!何有れ、別人28号!?



「うん、其れは私も思ったが、アレは紛れもなくお祖母様だ。
 大洗が黒森峰を破った――お前が私を倒した事でお祖母様の中にあった歪んだ西住流が砕け散ったらしく、私達が嫌っていたお祖母様も居な
 くなったようだ。
 今のお祖母様は、隠居して戦車道の試合を見る事が楽しみになっている老人だ……お前の戦車道が、戦車道の暗黒面に堕ちていたお祖母様
 を救ったんだよみほ。」

「其れは、ちょっと大袈裟かもだよ。」

でも、確かに今のお祖母ちゃんからは前みたいな嫌悪感は感じないから、こっちが本当のお祖母ちゃんだったのかもね。
……ただいま、お祖母ちゃん。これ、大洗のお土産。



「ふむ、熊本に次いで全国2位の生産量を誇るサツマイモを使った菓子に、大洗港で水揚げされた魚の干物か……後で美味しく頂かせて貰うとす
 るわい。
 特に干物は、焼酎とよく合いそうじゃからの。」

「お祖母ちゃん、飲み過ぎはダメだよ?」

「お前さんは優しいのみほよ?
 じゃが、熊本女は酒が強くてナンボじゃ……熊本女は、飲み比べで男を潰してこそ一人前じゃて!!」



あはは……本当に別人になっちゃったね此れは?でも、今のお祖母ちゃんなら普通に孫として接する事が出来そうだよ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



本来の姿に戻ったお祖母ちゃんと会った後は、書斎に行ってお母さんに転校手続きの書類に署名と印鑑を貰って、後はトンボ帰りみたいに、お姉
ちゃんの操縦するⅡ号戦車に揺られて駅まで。
お母さんは多くを語らずに『自分の道は、絶対に譲らぬように』と言ってたから、大洗がまだ諦めないで居るって言う事を感じてたのかな?――或
るいは、好子おばさまから何か聞いてたのかもね。
でも、其れだけじゃなくて抱きしめられたのは少しビックリだったかなぁ?……抱きしめるのは、お母さんの最大級の愛情表現だったからね。
最後に抱きしめられたのは大分前だったから、少し驚いたよ――尤も、お母さんの『母の愛』を感じたからとっても幸せな気分だったけどさ。



「本当に駅まででいいのか?」

「うん、其れで充分だよお姉ちゃん。」



そんな事を考えてる間に駅に到着……エリカさんと小梅さんはまだ来てないみたいだね。



「みほ、私に出来る事は、何かないか?」

「ん~~……それじゃあ、アイス買ってくれるかな?」

「そ、そんな事で良いのか?」

「うん。あ、どのアイスにするかもお姉ちゃんに任せるから。」

「私が決めるのか、責任重大だな?
 だが、任されたのならば応えねばだ……そうだな、此れで良いか?」



お姉ちゃんが選んだのは棒付きの九州限定のアイス『シロクマミルクバー・トロピカルマンゴー』……私達が子供だった頃に、良く駄菓子屋さんで
買ってた思い出の味。
此れを選ぶとは流石だねお姉ちゃん?



「これ以外のが思い付かなかったからな……それじゃあ、またなみほ。」

「うん、またねお姉ちゃん。」

さよならは言わないってね。
で、エリカさんと小梅さんが来るまでの間にお姉ちゃんが選んでくれたアイスを食べたんだけど……フフ、流石だねお姉ちゃん。


――【あたり】








――――――








Side:しほ


みほが転校手続きの書類を持って来たので、親として記名と捺印をしたけれど……あの子の目を見て確信したわ――みほも大洗も廃校の決定を
受け入れてはいないとね。
みほの目には、燃え盛る闘志が宿っていたわ……隻腕の軍神の二つ名に恥じない程の闘志がね――あの闘志は、現役時代の私や千代、好子
をも軽く上回ってるわ。
だからこそ、あの子なら仲間と共に理不尽な決定に徹底的に抗うのが否定できない――と言うかやって然りですからね。
でも、高校生の身では出来る事に限界があるから、私が動く事が出来ればいいのだけれど……



――バリバリバリバリバリ……



如何やら、私が動くための一手がやってきたみたいね?



「奥様、蝶野様がお見えになりました。」

「分かっているわ……大広間に御通しして。」

「御意に。」



亜美が此処に来たと言う事は、私を利用して文科省の決定を覆そうと言う事ね?……ふ、其れが正解でありベストよ亜美。――相手が権力で大
洗を廃校にしようと言うのなら、こちらも権力をもって対抗するのは当然の事だわ。

と思ってたんだけど、これはちょっと考えが甘かったかしら?



――グァッデェェェェェェェム!!



何でいるし黒のカリスマ。
亜美、こちらの方は……



「蝶野正洋、私の従兄妹です♪」

「従兄妹ぉ!?

ちょ、初めて聞いたわよそんな事!!
まさか、亜美が黒のカリスマの従兄妹だったとはね……と言うか、改めて生で見ると迫力が凄いわね?……伊達にプロレスのヘビー級ヒールの
頂点を極めただけの事は有るわ。



「いつも応援してます。此れはつまらないモノですが。」

「あら、ご丁寧にどうも。」

そして礼儀の方も出来ているみたいね?正に超一流と言う事ね。
其れは其れとして、貴女が此処に来たのは大洗女子学園の廃校に関してですね亜美?……教官を務めた大洗女子学園が廃校になる事を見過
ごすことは出来ないもの。



「師範!」

「行ってくれんのかしほりん!!」



えぇ、乗り込むわよ文科省に。
西住流の新家元としても、みほの母としても此れは認めて良いモノではありませんから、文科省への徹底的な抗議をするとしましょう……尤も、そ
の程度で私の怒りは収まりませんけどね。
文科省のお偉いさんには精々後悔して貰うわ――私利私欲のために西住流を、私を敵に回してしまった事を、ね。









 To Be Continued… 





キャラクター補足