Side:みほ


マジノ女学院との練習試合が始まった訳だけど……間違いなくエクレールさんは去年の練習試合の時よりも格段に強くなってるみたいだね。
纏ってるオーラが去年とはまるで別物だし、何よりも直感的にオーラが強くなった事を感じ取ったから。

あれ程のオーラを放てるとは、『エクレール』――稲妻の名に恥じない選手になったみたいだね。
でも私達は其れを越える――新生マジノを、復活した大洗が倒したって言うのは大金星だし、勝てば部隊の士気も上がるからね……エクレー
ルさんには、去年以上に私の戦車道を味わって貰おうかな?



「貴女、其れ死刑宣告よみほ。」

「みほさんの戦車道は色々と凄い上に、時々えげつないですからねぇ……試合後にエクレールさんが廃人と化してない事を祈るばかりです。」

「……エリカさん小梅さん、其れは言い過ぎだと思う。」

まぁ、元より勝つ心算でいたから、勝利だけは絶対にこの手で掴み取ってあげるけどね――何よりも勝利の経験で得られたものは、後の全国
大会でも役に立つだろうからね。



「勝利の経験は、勝つための方法を会得する事にもなる訳よね。
 さて、ARL-44の運用を始めたと思われるマジノは去年よりも遥かに強化されてるのは間違い無いわ。
 去年の黒森峰での練習試合のようには行かないと思うんだけど、如何する?」

「其れに関しては、大丈夫だよエリカさん。」

マジノが戦術を変えて来たって言うなら、私達は其れに対応して最適な戦術を使えば良いだけだし、私の頭の中には古今東西の戦術が記憶
されてるから、マジノがどんな戦術を執って来ても、対応するのは難しくないからね。

何にしても、この練習試合では初勝利を決めて全国大会へ向けて弾みを付けておきたいからね――初勝利目指して、Panzer Vor!!











ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer112
『此れがマジの激闘マジノ戦です!!』










No Side


「Panzer Vor!!」

「Tank Forward!」



大洗女子学園と、マジノ女学院の練習試合が始まり、みほとエクレールは、部隊に指示を出して互いに進軍して行く――マジノが美しい隊列
を披露しているのに対し、大洗はまだぎこちなさを残しながらも、今年から戦車道を始めたとは思えない程の隊列を披露していると言うのは普
通に凄い事だろう。

マジノの部隊は、スタート地点から隊列を組んだまま進んで行くのに対して、大洗は途中からあんこうチームとライガーチームとオオワシチーム
、ウサギチームとアヒルチーム、カバチームとカメチームの3つの小隊に分かれて散開すると言う戦術を執って来た。

一見すると可成り偏ったチーム編成に見えるが、試合形式がフラッグ戦であると言う事を考えれば、フラッグ車であるティーガーⅡの護衛に信
頼出来る戦力を割り振るのは道理である故、みほのパンターと小梅のⅣ号がエリカのティーガーⅡのお供になったのだ。
特にマジノは、ティーガーⅡの装甲をも貫く主砲を持ったARL-44を運用している可能性が高い以上、フラッグ車の護衛もまた強力である方が
良いのである。


「其れでみほ、マジノが改革を行ってARL-44を使って来たとして、如何言う戦術を執って来るって貴女は予測してるの?」

「今までのマジノは、フラッグ車を護衛で囲って、攻撃して来た相手から倒して行くカウンター型の戦術だったんだけど、其れを根本から変えた
 となると、考えるのは機動力で相手を翻弄した上で、ARL-44の火力で吹き飛ばす――言わば、『高機動殲滅型』とも言う戦術かな。」

「マジノが使ってる戦車は、カタログスペック上は全て40kmの速度が出る訳ですらか、確かにその戦術は運用可能ですね。」


其れだけ、マジノの――もっと言うならエクレールの隊長としての手腕を警戒していると言う事なのだが、警戒する事とは別に、みほとエリカと
小梅の三人に緊張は無い。
緊張するどころか、マジノが新たにどんな戦術を執って来るかを話し合う位の余裕があるようだ。


「み、みぽりんもエリリンもうめりんも、少し落ち着き過ぎじゃない!?
 相手は、可成り強いんだよね?……なのに、なんでそんなに余裕なの!?――あ、若しかして経験者の余裕って奴なのかな!?」

「まぁ、ある意味ではそう言えるかな沙織さん。――其れに、相手が誰であっても此れ位の余裕は持ってないと、勝てる試合も勝てないよ。」

「……みぽりん、マジカッコいいわ。――でも、みぽりんがそう言うなら、そうなんだよね!」

「沙織、気付くのが遅い。」


其れに驚いた沙織に対してもみほは余裕の笑みを浮かべて対応し、其の効果があったのか、沙織の緊張も吹き飛び、同時にみほに対しての
信頼が湧いたようだ。――麻子の突っ込みが容赦ないのは何時もの事だが。



『西住隊長、此方偵察隊の澤です。
 隊長の予想通り、マジノはスタート地点からやや東寄りに南下して、一直線に大洗の部隊を目指してきています。』


其れと同時に、偵察に出ていた梓から通信が入る。
3チームに分かれた内の、ウサギチームとアヒルチームは偵察部隊としてマジノの動向を探りに出ていたのだ――梓はみほから、チーム分け
をした際に、『如何動くかは、梓ちゃんが自分で考えてくれていいから』と言われた事も有り、自ら偵察に向かったのだ。
同時に梓が、其れを選択したのは自身の搭乗戦車が小回りの利くⅢ号であり、一緒に組んでるアヒルチームの戦車は快速が売りのクルセイ
ダーだったと言うのも大きい。
此の2輌ならば、例え見つかったとしても、Ⅲ号は持ち前のフットワークの軽さで相手の攻撃を避ける事が出来るし、クルセイダーはその足で
逃げきる事が出来るからだ。


「偵察ご苦労様、梓ちゃん。
 此方に向かってきていると言う事は、進軍して来てるって事か……梓ちゃん、其処からマジノのシークレット車輌って見えるかな。」


そんな梓に労いの言葉を掛けつつ、みほは今停車してる地点からマジノのシークレット車輌が確認出来ないかを問う。
十中八九ARL-44だとは思うが、其れはあくまでの予想でしかない――もしも、仮に予測が外れていた場合には、戦術の練り直しが必要に成
る為、シークレットの確認は大事なのだ。


『え~っと……はい、見えます。
 掲示板には表示されていなかったシークレット車輌は……フランス戦車最強のARL-44です!!』


「やっぱり、ARL-44だったね――!!」


そして、その結果、マジノのシークレット車輌はARL-44だった事が明らかになり、其れと同時にみほは頭を超高速回転させて戦術を構築して
行く。


「(ARL-44がフラッグだと、パンターでも相当に近づかないと決定打を与えるのは難しい……となると、ティーガーⅡはフラッグ車でありながら、
  マジノのフラッグ車を撃破する役割も担って貰わないとだね。
  となると、重要になるのは如何にして、フラッグ車であるARL-44をキルポイントまで誘導出来るかにかかってる訳か……なら!!)」
 ウサギチームとアヒルチームは、此処で攻撃を加えた後に全力で離脱して。そして、カメさんとカバさんはウサギさんとアヒルさんを追っている
 戦車をピンポイントで駆逐して。
 全部が巧く行くとは思えないけど……1輌撃破出来れば及第点、2輌撃破したら上出来だから、あまり気を張らずにやって!」


頭の中では色々考えていても、その思考時間は現実の時間では1分にも満たないと言うのだから不思議なものだが、マジノと如何戦うかの
戦術を構築し終えたみほは、各チームに指示を出して行く――その姿は、正に隻腕の軍神と言って過言ではない程のオーラを放出している。


『了解しました西住隊長。
 時に西住隊長、攻撃を加えた後に全力で離脱しろとの事でしたが……別に倒してしまっても問題ありませんよね?』


「倒せるなら、そっちの方が有り難いよ梓ちゃん。」


そして、この師弟コンビ容赦がない。
そもそもにして離脱しろとの命令に対して、『倒せるなら倒して良いよね』と言う弟子も弟子だが、『倒せるなら倒しちゃって』と言ってしまう師匠
も師匠である。


「あんな事を言うなんて……澤は間違い無く貴女の弟子よみほ。」

「だろうね。梓ちゃんには、私の全てを教えたんだから。」

「澤さんが成長したら、トンデモない戦車乗りになるでしょうねぇ……」


だが、これで大洗の対マジノ戦術はほぼ決まったと言ってもいいだろう。――そして、みほが読み違いをしない限り、大洗が負ける事はない。
冗談にもならないが、マジノはマジで強敵からのラブレターを受け取ったと言う事になる訳だ。


「ふふ、其れじゃあ行こうかエリカさん、小梅さん!!」

「其れを待っていました、みほさん!」

「――マジノの連中に見せてやろうじゃない?隻腕の軍神、孤高の銀狼、慧眼の隼が揃ったら、負けは無いって言う事をね!!」


其れは其れとしても、みほとエリカと小梅の闘気はマックス120%まで引き上げられ、戦車長としての威厳や迫力も強化されている――此れ
ならば初勝利はかなり現実的と言えるだろう。








――――――








大洗がチーム分けをして散開したのに対して、マジノはフラッグ車であるARL-44を、ルノーやソミュアが護衛するかのように取り囲む布陣を敷
いており、機動力を重視しながらも、相手チームからの強襲に対しての防御も考えた形となっている。

これこそがエクレールが考えた『マジノの伝統を大切にしながらも、新たな戦術を取り入れた戦い方』だ。
フラッグ車、或いは隊長車を他の戦車が護衛するのはマジノの此れまでの戦い方と同じだが、今までのマジノはその布陣を敷いたら動かずに
待ち、相手が攻撃して来た所をカウンターと言うモノだったが、エクレールはその布陣のまま進軍する事で、部隊全体を『移動要塞』として運用
する事を基本戦術にしたのである。


「未知の相手と戦う時は、偵察を出すのが定石。
 みほさんは私達がARL-44を使う事を看破している様でしたが、去年までのマジノを知っているだけに偵察は出して来る筈ですわ――特に
 シークレット車輌が何であるのかを確定させるためにも。
 ブルスペードとダイヤブルは前方を注意なさって。ブルクラブとハートブルは後方を、スペードクィーンとクラブクィーンは両翼を警戒しつつ散開
 してくださいますか?」


が、エクレールは此処で部隊を散開させてきた。
移動要塞としての部隊運用は、あくまでも『基本』であり、エクレールのマジノ新戦術の真骨頂は、みほが予想したように戦車の機動力を生か
した機動戦――だが、其れは電撃戦とは違い、機動力をメインにしたヒット&アウェイを行い、攻撃後は即移動要塞に戻ると言う、攻防一体の
戦術だ。

エクレールが隊長になってから(隊長の座は、去年の終わりに前隊長に一騎打ちの勝負を挑んで捥ぎ取った)の新戦術であり、マジノの生徒
の中には、伝統的な戦術を変えようとするエクレールに対しての批判を口にする者も少なくなかったので、最初は難儀したモノの、練習試合で
此れまでよりも良い戦績を残した事で、段々と受け入れられてきたのだ――とは言え、流石にまだ練度は充分とは言えず、ちょっとしたミスが
出るのは仕方ないが。

だが、集団行動をしていた状態から、行き成り部隊を展開すると言うのは相手からしたら可成り虚を突かれた事になる為、変な言い方ではあ
るが、先出のカウンターとも言うべき攻撃が可能になるのだ。



「こっちに攻めて来たね~~……しゃーない、突っ込むぞ小山~~。」

「偶然か?……否、完全に読んでいた訳でなくとも、ある程度の当たりは付けていたと言う事か……!!」


今回其れを喰らってしまったのは、カバチームとカメチームの小隊。
本隊、偵察部隊とは別に、奇襲部隊として動いていたこの小隊は草むらに潜んでマジノを強襲する心算だったのだが、いざ攻撃と思った所で
相手の方から向かって来たと言うのは、正に先出のカウンターだ。


「小山、Ⅲ突の前に出て。
 Ⅲ突と38(t)の主砲なら、Ⅲ突の方が絶対的に強いから、敵さんはⅢ突を狙って来る筈だから、アタシ等がⅢ突の盾になるぞ。――火力不
 足の大洗にとって、Ⅲ突は失う事の出来ない戦車だからな~~。」

「了解です会長。」


が、カメチームの杏はさして驚かず、Ⅲ突の前に出るように指示を出して戦車を進めていく。
そしてその状態で、進軍しながら攻撃を続ける――砲撃の間隔が極端に短いのは、装填士専任を命じられた桃が大ハッスルしている結果だ
ろう……このペースで装填し続けたら、即ガス欠だろうが。
更に杏の正確な砲撃によって、砲撃其の物はソミュアとルソーに命中しているのだが、悲しいかな38(t)の主砲では、ソミュアとルノーの装甲
を抜く事が出来ず、マッタク持って効果が無いのだ。

だが、そんな事は杏だって分かっている――そう、これは囮なのだ。


「さぁて、充分引き付けたからね……頼むよカバさん!」

「了解した!撃て、もんざ!!」

「その呼び方は止めろ!!」


――ズドン!ズドン!!

――パシュ!パシュン!!



『マジノ女学院、ソミュア、ルノー、行動不能。』

ソミュアとルノーが充分に近づいて来た所でⅢ突の主砲が火を噴き、ソミュアとルノーを吹き飛ばして白旗判定に!
この間の聖グロ戦ではファースト撃破を相手に献上してしまったカメチームだが、今回は大洗のファースト撃破に貢献したのだから、前回の事
は此れで帳消しとしても良い位だ――自分の車輌の砲撃では相手の戦車を撃破出来ない事を見抜いた杏の、見事な頭脳プレーである。

此のまま一気に――



――ズドン!!

――パシュン!!



『大洗女子学園、38(t)行動不能。』


と思った所で、ARL-44からの砲撃が38(t)を吹き飛ばして一撃で撃破!!
如何やらエクレールは進撃を続けながらも、周囲に気を配っていた事で、ソミュアとルノーが大洗の部隊と交戦状態になった事は知っていたら
しく、ソミュアとルノーが撃破されたその瞬間に38(t)を攻撃し、一撃で白旗判定にしたのだ。


「大丈夫か、会長!」

「いっやぁ、やられちったねぇ……アタシ等は大丈夫だから、エルヴィンちゃん達は西住ちゃんや澤ちゃんのサポートに回ってくれっかね?
 Ⅲ突の出番はまだあるだろうからさ――頼んだよ?」

「……了解した!!」


数の上では依然として大洗の方が2輌不利な状態だが、フラッグ戦に於いては、極論を言うなら数の差などと言うモノは大した問題ではない
のだ――だからこそ、相手のフラッグ車を撃破可能な車輌を残すのは道理だ。
杏はARL-44からの砲撃を自ら受ける事でⅢ突を守り、損害を最小限に留めたのである……流石は生徒会長と言った所だろう。

ファーストコンタクトは大洗が若干有利な展開となったが、未だ序盤故に試合が如何転ぶかは予測がつかない状態だと言えるだろう。








――――――








その頃、偵察に出ていたウサギチームとアヒルチームもまた、マジノのソミュアとルノーを相手に戦車戦を繰り広げていた――偵察を終えたの
で、本隊と合流しようとしていた所で、運悪くマジノの部隊に見つかってしまったのだ。
Ⅲ号とクルセイダーは優秀な戦車であるが、Ⅲ号J型の42口径50mmとクルセイダーMk.Ⅱの40口径50mmでは、ソミュアとルノーを撃破する
のは難しいが、相手の主砲は此方を抜けるとなれば可成り分が悪い。
普通に考えればジリ貧の戦いになるのだが……


「当たらなければ、装甲は必要ない!」

「……其れは、何処の執務官の思考かナ梓?」

「根性で避けろーー!レシーブできないボールは避けて、次のチャンスを見出すんだ!!」

「はい、キャプテン!!」


ウサギチームも、アヒルチームも、変態的としか言いようがない機動で、ソミュアとルノーの砲撃を避ける!避ける!!避けまくる!!!
ウサギチームのクロエは経験者だから兎も角として、アヒルチームの忍は今年から始めたばかりの素人……であるにも拘らず此れだけの動き
が出来るあたり、みほの回避訓練は可成りの効果があるのだろう。


とは言えⅢ号とクルセイダーでは決定打に欠くので、撃破はされなくとも撃破は出来ない状況なのだが、梓は此れは此れで良いと思ってた。


「(此れでソミュアとルノーは1輌ずつ私達にクギ付けに出来るから、隊長の元に向かうのは6輌……対して隊長達のチームは3輌だから、少し
  だけ不利だけど、3輌差なら西住隊長達には大した問題じゃないからきっと勝つ筈。)
 この2輌は、此処で押さえます!――行きます!!」

「任せろ副隊長!!根性でブッ飛ばす!!」


そしてここで、『勝てなくとも負けない戦い』を選択し、勝利はみほに託した――が、其れで梓の大立ち回りが終わる訳でなく、アヒルチームの
クルセイダーと共にマジノの部隊を掻き乱しての戦車戦を開始!


「貴女達は此処で終わりだよ……西住隊長と戦いたいなら、先ずは隊長の一番弟子である私を倒す必要があるからね。
 西住隊長にはまだまだ敵わないけど、其れでも貴女達に後れを取るようなことはしない……隊長から教わった戦い方の全てを持って貴女達
 を倒します!!!」

「そう来なくっちゃネ!……行くよ梓!!」


其れはすさまじく、幾ら岩場であるとは言え信じられない程の土煙が梓の発した闘気によって発生する――此れもまた戦車乗りの凄さなのか
も知れない。

何にしても、此方の戦闘もまた決着には時間がかかるようだ。








――――――








梓達が奮闘していた頃、進軍していたエクレールは、山岳地帯の開けたフィールドでみほ達と邂逅していた。
みほもエクレールもキューポラから身を乗り出していて、互いにその身から発せられる戦車乗りの闘気は相当な物だが、其れを更に増幅させ
ているのはみほとエクレールの服装と態度だ。

エクレールは不敵な笑みを浮かべて胸の下で腕を組んでいるのに対し、みほはパンツァージャケットの上着のジッパーを半分くらいまで下ろし
た上で右腕を袖から抜いて開いたジッパー部から出して、ジャケットを左肩に引っ掛けた状態となる。(分かり辛い人は、遠山の金さんの桜吹
雪のシーンをイメージしてくださいませ。)


「機動力勝負に加えてARL-44……マジノの改革には成功したんだねエクレールさん?」

「えぇ、かなり難儀しましたが改革は出来ました……如何ですかみほさん?」

「うん、良いね、最高だよエクレールさん。
 こんな事を言ったら去年のマジノの隊長さんに失礼かもしれないけど、エクレールさんとの試合はドキドキワクワクで興奮が止まらないよ。
 ――でも、此処からは小細工なしだよ。決着を付けようか、エクレールさん。」

「望む所です……尤も、貴女の敗北を持ってしてですが。」


互いの覇気がぶつかった気組は、其れだけで地面を抉りそうな勢いだが、この程度の事は戦車乗りにとっては当たり前の事であり、一々驚く
事では無いのだ。


「行きますよ、エクレールさん?」

「受けて立ちますわ、みほさん!」


そしてそこからは全力全壊の戦車戦が開始される。
ARL-44はティーガーⅡかパンターでなければ撃破出来ないが、ソミュアとルノーではⅣ号しか撃破出来ない――つまり数の差はあまり問題
ではなく性能面を考慮すれば、略五分五分と言った所だろう。
実際に、ソミュアとルノーは決定打を欠いて大洗のフラッグ車であるティーガーⅡを撃破出来ないが、大洗もまたARL-44の重装甲に攻撃を阻
まれて決定打を与える事が出来ない。

其れは互いに隙が無いと言う事なのだが、此のまま隙が無ければドローゲームと言う展開もあり得るだろう――


「加勢するぞ隊長!!」

「エルヴィンさん!!無事だったんだね!!」

「我等は、そう簡単にやられる程柔ではないぜよ!」


だが、此処でⅢ突が合流!
これはみほにとっては嬉しい誤算だ――みほの予測では、Ⅲ突は38(t)と共に撃破されていた筈だったのだが、其れが健在な状態で戦闘に
乱入して来ると言うのは予測していなかったのだから。

が、其れはエクレールとて同じだ。
まさかこの局面でⅢ突が出てくるとは思っていなかったエクレールにとって、これは予想外以外の何者でもなく、其れによって一瞬だけ思考が
止まってしまった。

其れはほんの一瞬だが、しかし試合中であるのならば其れは確実な隙となる。


「Es ist jetzt Erika!(今だよ、エリカさん!)」

「Es wurde gefunden...... schießen Ein!(分かってる……撃て、アイン!)」

「Jawohl Erika!(任せろエリカ!)」


そしてその隙を逃さず、エリカのティーガーⅡの超長砲身88mmが火を噴き、ARL-44の装甲を容赦なく貫く!



――キュポン!



『マジノ女学院、フラッグ車行動不能!――大洗女子学園の、勝利です!』


その結果ARL-44は白旗判定となって試合終了!
大洗女子学園は初勝利を掴んだ訳だが、梓率いる偵察部隊は激闘の末に両者戦闘不能になり、決戦の舞台でも小梅のⅣ号がルノーと相討
ちになって白旗となっており、正に互角の戦いだった事が伺えるだろう。

試合時間こそ聖グロ戦よりも短かったが、試合内容では此方の方が濃かった事が人々の印象に残ったせいか、大洗女学園vsマジノ女学院
の練習試合は、大洗を舞台にした戦車道のベストバウトと評価されるのだった。








――――――








Side:みほ


ふぅ……な、何とか勝てた。
最後の攻防、カバさんチームが来てくれてなかったら結構ヤバかったかもだよ……新生マジノの力、堪能させて貰ったよエクレールさん。



「貴女にそう言って貰えるとは光栄ですわみほさん……尤も、勝てなかった悔しさはありますが――ですが、とても楽しい試合でしたわ。」


――チュ


「んな!?」

「ビズだよ~~!」



って、まさかほっぺにキスされるとは思ってなかったよ!?……優花里さんは威嚇しない、エリカさんは指鳴らさない、沙織さんは変なスイッチ
をオンにしない!
これは挨拶みたいなモノだからね?――すみませんエクレールさん、大洗は賑やかな物で……



「フフフ、構いませんわみほさん。今回は負けましたが、次は勝たせて頂きます
 全国大会で再び相見える事を願って居ますわ……Rendez-vous a nouveau Miho.(また会いましょう、みほさん。)」

「Ich freue mich auf den nachsten Kampf Frau Eclair. (次の戦いを楽しみにしてるよ、エクレールさん。)」

試合後の握手をして、試合は終了。
勝てた事は嬉しかったけど、それ以上にエクレールさんが強くなってた事が嬉しかったかな?……やっぱりライバルは強い方が良いからね。

で、これから如何しようか?試合後は自由時間って事だったけど……アウトレットでウィンドウショッピングでもしようか?



「おぉ、ナイスアイディアだねみぽりん!ウィンドウショッピングの後はクレープでブレイクタイムだね!
 アウトレットに出店してる屋台のクレープは絶品なんだから、一度は食べておかないと損だよ!エリリンと、うめりんも一緒に行こうよ!」



あはは……テンション高いなぁ沙織さんは。
これも初勝利の影響なのかも知れないから、悪い事じゃないけどね……まぁ、そのプランは魅力的だから、其れで行こう!偶には女子高生ら
しく、ウィンドウショッピングって言うのも悪くないからね。







「お嬢?」

「あら、新三郎?」







と思ってた矢先に角刈りの男の人に声を掛けられた――華さんが。
華さんは知り合いみたいだけど、この人は一体誰なんだろう……何となくだけど、これは試合後に一波乱ありそうな気配だよ……まさか、こん
な事になるとは思っても居なかったからね。

何にせよ、少し面倒な事が起こるかも知れないね、これは。













 To Be Continued… 





キャラクター補足