Side:みほ


マジノ女学院との練習試合が迫る中、何をしているのかと言うと……



「西住隊長は、B83、W54、H84……羨ましい位のプロポーションですね。」

「あはは……」

パンツァージャケットを作る為の身体測定。
身長と、スリーサイズのデータが必要だって言う事で計ってたんだけど、これは計っておいて正解だったかも……お尻は、変わって無いけど、
胸囲は去年よりも1cmだけ大きくなって、ウェストは2cm縮んだからね。
エリカさんと小梅さんは如何だった?



「私と小梅も微妙に育ってたわね……胸は1cm大きくなって、ウェストは1cmだけ細くなったわ。」

「胸が……2cmも大きくなってました。」



つまり、小梅さんはバスト86……お姉ちゃんと同格になるとは侮れないね――大人しそうな顔しておきながら、実は可成りのダイナマイトボデ
ィだからね小梅さんは。



「も~~!みぽりんもえりりんも梅りんもプロポーション良すぎ!
 私なんて、上から82、60、84だよ?太ってる訳じゃないんだろうけど、ちょっとぽっちゃり体型だよね此れ……此れじゃあ男の子にはモテな
 いよ~~~!!」

「大丈夫ですよ沙織さん。世の中には少しぽっちゃりしてる女性の方が好みの男性も居るようですから。」



華さん、其れってあんまりフォローになってない気がするかな?寧ろある意味ではトドメを刺してる気がするからね……実際に沙織さんが猛抗
議してる訳だし。

でも、其れは其れとして、大洗女子学園のパンツァージャケットがどんなデザインの物になるのかは楽しみだね。これは、完成が待ちきれない
って感じだよ!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer111
『練習試合第2戦!開幕マジノ戦です!』










身体測定から3日後、大洗女子学園戦車隊のパンツァージャケットが完成!
此れだけの人数のパンツァージャケットを3日で完成させる為には、相当な突貫作業をしたはずだから、若しかしたら徹夜での作業も有ったの
かも知れないね……被服科の皆さんには心から感謝だね。後で、何か差し入れを持って行こうっと。

其れは其れとして完成したパンツァージャケットはシンプルながらも良いデザインだね?
スカートはホワイトのプリーツスカートで、インナーはライトグリーンのタンクトップ。そして、一番重要な上着は襟付きの濃紺の物――折り返し
た襟がホワイトって言うのもお洒落だね。
可成り完成度の高いパンツァージャケットだけど、一番の特徴は、ジャケットの背の部分に夫々のチームエンブレムが刺繍されてる事だね。



「まぁ、特徴と言えば特徴よね。
 恐らくパンツァージャケットの背に、夫々の戦車のエンブレムを刺繍してる学校なんて無いわ――精々入れるとしても校章を入れるのが普通
 でしょうから。
 ……そう言う意味では隊長がピンクのあんこうを、副隊長が目が完全にヤバいピンクのウサギを背負ってるって言うのは、他校の生徒に与
 えるインパクトがハンパじゃないわ。」

「アハハ、其れは言えてるかも。
 背中にこんな刺繍入れてる人なんて他には居ないだろうからね?――此の背中の刺繍も、大洗の特徴って言う事だね。」

時に私のパンツァージャケット、ボタンじゃなくてチャックなのは片腕でも着やすい様にって言う心遣いだろうけど、なんで左の袖がオミットされ
てないんだろう?
通す腕が無いんだから、袖は無くても良いと思うんだけど……



「あぁ、それ?
 被服科の子が言うには『隻腕キャラにこそちゃんと袖付きの服を用意すべき。無い方の腕の袖が風になびくのが最高にカッコいいから!』っ
 て事だったよ~~。」

「その被服科の人は分かってますね?
 キューポラから上半身を出して、左の袖を風になびかせながら指示を出すみほさんは最高にカッコいいですから!」



……そんな理由で!?
って言うか、小梅さんも乗ってるって言うか、そう思ってたの!?



「私だけじゃなくて、多くの戦車乗りが同じ事を思ってますよ?
 特に、中学時代に打ち立てた数々の武勇から『隻腕の軍神』の名は有名ですし、その二つ名が付くに至ったのも、実は左の袖をなびかせな
 がら戦車に乗るみほさんがカッコ良かったから付いたモノですから。」

「西住殿と言えば、左の袖をなびかせて戦車に乗っているモノでありますからねぇ?
 矢張り特注品であっても、左の袖は必要でありますよ。――王のマントではありませんが、風になびく何かと言うのは一種のカリスマ性を感
 じさせるアイテムでもありますからね。」

「ジャケットの上着を肩に引っ掛けた『闇遊戯モード』じゃダメなのかな……?」

「アレは本気モードを越えた、超本気モードだから中々見られるモンじゃないからダメなんじゃない?
 小梅に便乗する訳じゃないけど、袖をなびかせながら戦うみほって、カッコイイだけじゃなくて相手には結構なプレッシャーを与えるのよ?
 私も、中学大会の決勝戦で貴女と戦った時には、左の袖を風になびかせた隻腕の軍神の姿に、思わず圧倒されかけたからね――もし、合
 宿を行ってなかったら、完全に呑まれて一方的に負けてたわ。」



成程、そう言う事なら納得したよエリカさん。
さてと、其れじゃあパンツァージャケットが出来て、試着が終わった所でマジノ女学院との練習試合の作戦会議を始めるとしようか?



「作戦会議など必要か西住?
 我々は聖グロと引き分けた――つまり、実力的には4強クラスと言う事が出来る訳で、この所2回戦負けのマジノが相手ならば負けはしない
 と思うのだが……」

「其れは素人考えだよ河嶋先輩。」

確かにマジノは、ここ最近は2回戦負けが続いてて、すっかり『古豪』のイメージが定着しちゃってるけど、今年のマジノは去年までとは違うチ
ームになってる筈だから、去年までと同じと思うと痛い目を見るのは間違い無い。
そもそもにして聖グロと引き分けたって言う事で、慢心してたら勝つモノも勝てないからね?――其れと、河嶋先輩は自身の階級が三等兵で
聖グロ戦でのA級戦犯だと言う事を忘れないで下さいね?
今回は大目に見ますけど、最下級の三等兵が、准将に意見するなどもってのほか……河嶋先輩、次は無いからね?



「り、了解であります隊長殿!!」

「懲りねーなかーしま……でもさ西住ちゃん、何だって今年のマジノは此れまでとは違うって言えんのかな?」

「其れは、私がマジノの改革を進言したからだよ会長さん。」

去年黒森峰でマジノと練習試合を行った際に、エクレールさんて言う人にマジノの改革を進言したんだ――其れに対して、エクレールさんは何
か感じる物が有ったらしくて、マジノを改革するって言ってたからね。
エクレールさんは私と同じ2年生だけど、改革を成し遂げる為にも3年生の隊長候補を押し退けて隊長になった可能性は可成り高い――略確
実って言っても良いレベルだよ。
そうなると、戦術その物を根幹から変えて来てる可能性は低くない……ううん、確実に変えて来てる筈だから、マジノの戦い方を、マジノ伝統
の強襲浸透戦術だと思って挑んだら返り討ちに遭うと思うんだ。



「ありゃりゃ……西住ちゃんの進言で改革が成されたとしたなら、其れは確かに此れまで通りとは行かねーだろうね?
 って事は、ある意味で聖グロとの練習試合以上にハードなモノになんのかな?……まぁ、経験を積む事が出来るって言う事を考えると、楽じ
 ゃない相手の方がありがたいけどさ。」

「楽な相手じゃ、レベルアップは望めないからね……で、マジノとは如何戦う心算なのみほ?」



今年のマジノは強いだろうからね。
練習試合の会場は、聖グロ戦と同様に大洗だけど、今回は市街地戦を行わずに、高台に居ある草原や岩場のエリアをメインに戦う心算だよ。
市街地戦での戦い方は、聖グロ戦で大体掴めたと思うから、今度は市街地戦以外の戦い方って言うのも身に付けておかないと、試合会場が
ランダムで決まる全国大会で戦う事は出来ないからね。
まぁ、試合の流れで市街地を通る事は有るかも知れないけど、今回は其処での戦闘を行う心算は無いから。



「西住隊長、その意見には同感ですが、どうせなら偵察隊を出してみては如何でしょうか?
 草原や岩場のフィールドでは、いかに素早く相手を発見するのが大事になりますから、偵察と言うのは全国大会でも重要になって来ると思
 うんです。」

「ふむ……其れは確かにそうだね梓ちゃん?
 ナイス意見だよ梓ちゃん。確かに偵察を訓練しておけば、此方に有利な情報を一方的に得る事が出来るかも知れない訳だからね――試験
 運用も兼ねて、マジノ戦で使ってみるのは良いかもだよ。」

エクレールさんがマジノを改革できたと仮定するなら、マジノは此れまでとは全く別の戦術を執ってくる可能性が高いから、事前に偵察を出し
てマジノの動きを探るのは大事になって来るしね。



「見知った相手でも、戦術がガラリと変われば初見の相手と変わりないと言う訳だな。
 とは言え、戦車を全て入れ替えると言うのは金銭面で不可能だろうから使ってくる戦車はあまり変わらない筈――西住隊長、マジノ女学院
 は、どのような戦車を使って居るのだろうか?」

「去年の黒森峰との練習試合では、ルノーR35と其れのSA38搭載型、ソミュアS35、ルノーシャールB1bisだったよエルヴィンさん。」

「フランス戦車か……ふむ。
 西住隊長、戦車道の公式ルールでは戦車の改造はドレ位許されているのだろう?――例えば我が校で言うのなら、我等のⅢ突を現在のF
 型からG型への改造する事は許可されているのか?」



其れは問題ないよエルヴィンさん。
実際に私が通ってた中学では、Ⅲ突をG型に、Ⅲ号をL型に改造してたからね。でも、其れが如何したの?



「いや、そう言う改造が認められているのならば、ルノーB1をARL-44に改造してある可能性があると思ってな?
 ルノーB1ならばまだしも、ARL-44ともなると火力と装甲厚は可成りの物があるから、如何に此方にティーガーⅡがあるとは言え、撃破する
 のは容易ではないと思ってな。」

「ARL-44……ルノーB1をベースに開発された戦車だから、ルノーB1bis改(ARL-44仕様)って感じに改造されてる可能性は確かに捨てきれ
 ないね。」

もしもその改造が施されてるとしたら、此方の戦車でARL-44の正面装甲を抜けるのはパンターとティーガーⅡだけ――逆にARL-44の主砲
なら、大洗の戦車は全て倒す事が出来るから……うん、その改造がされてる事を前提に作戦を考えた方が良いね。

基本は偵察を出してマジノの動きを探りつつ、自然の地形を生かして戦う。そして可能なら、市街地戦を経由する事無く勝ちたい所だね。
市街地戦は私の十八番だけど、其れに慣れすぎると市街地戦以外での戦い方が出来なくなっちゃうから、今回は出来るだけ市街地を使わな
い方向でね。



「ねぇ小梅、市街地戦を封印した程度でみほが如何にかなると思う?」

「思いませんよエリカさん。
 みほさんだったら市街地戦でなくとも相手の度肝を抜く戦いをしますって――例えば、キューポラから車長が身を乗り出してる戦車に対して、
 機銃でスズメバチの巣をキューポラ内に落とすとか、砲撃で岩場崩して頭上から岩石降らせるとか……」

「何を言ってるのかな小梅さん……そんなのは森林地帯や岩場で戦う時には普通の事だよ?」

自然のフィールドは、其れを最大限に生かしてこそだからね。
まぁ、今度の練習試合は全国大会を見据えての『フラッグ戦』ルールだから、相手を全滅させる必要はないし、其処ら辺を考えて戦う心算だか
ら、そんなにトンでも戦術は出ないと思うけど。



「みぽりんってば、可愛い顔してても、戦車道では容赦ないって言うか、結構えぐいよね?
 この間の……みぽりんが車長で、エリリンが砲手で、うめリンが装填士を務めたティーガーⅡからの砲撃を避ける回避訓練なんて、ちょっと
 トラウマだから――最後まで避け切った麻子と梓ちゃんのⅢ号はホント凄いと思う。」

「まぁ、ギリギリだったがな。」

「私としては、マニュアルを一読しただけであそこまでの操縦が出来る麻子さんに驚きだヨ。」

「みほさんは、戦車に乗っている時の軍神状態では、普段とは少し異なるのでしょう。
 時にみほさん、フラッグ戦とは何でしょうか?この前の聖グロとの殲滅戦とは違うのですか?」



あぁ、そう言えば言ってなかったね華さん。
殲滅戦は、その名の通り相手チームの戦車を全滅させないとダメなんだけど、フラッグ戦は双方のチームに『フラッグ車』っていう旗車を設定し
ておいて、そのフラッグ車を撃破した時点で、撃破したチームの勝利になる試合形式の事だよ。
使用戦車や隊員の練度で結果がほぼ決まっちゃう殲滅戦と比べて、一発逆転のジャイアントキリングが起こる事が少なくなくて、試合形式とし
ては殲滅戦よりも人気がある試合形式だね。



「と言う事は、今度は聖グロ戦よりも勝率が上がって居るんですね隊長!」

「うん、そう思ってくれて良いよ磯部さん。
 こう言ったらアレだけど、フラッグ戦なら練度の差だって関係ない――相手のフラッグ車を倒せばその時点で勝ちだから、殲滅戦よりも勝率
 は可成り高い……何よりも、私は何方かと言えばフラッグ戦の方が得意だからね。」

「よっしゃー!なら今度こそ初勝利目指して、根性で頑張るぞーーー!!」

「「「はい、キャプテン!」」」


「……あいっ変わらず暑苦しいわねアヒルチームは?まぁ、その根性が戦車道でも確り役に立ってるみたいだから煩い事は言わないけど。
 其れでみほ、フラッグ車はドレにするの?」



其れがアヒルチームの良い所だから♪
で、フラッグ車だけど其れはティーガーⅡにしようと思ってるんだ――マジノがARL-44を使って来たとしても、ARL-44以外のフランス戦車じゃ
ティーガーⅡの正面装甲を抜く事は出来ないからね。
頼めるかな、エリカさん?



「Jawohl Kapitan.(了解よ隊長。)そもそもにして、貴女のお願いを私が断ると思ってるの?
 貴女の事は信頼してるから、多少の無茶は言ってくれて構わないわ……Was wir sehen, etwas sagen so Comrades?(私達って、そう言う
 モノでしょ、戦友?)」

「So war es jedenfalls……(其れは、確かに其の通りだったね。)」

「み、みぽりんとエリリンが英語を話してる!?」

「沙織、これは英語じゃなくてドイツ語だ――まぁ、これ程までに流暢なドイツ語が話せるのには驚いたがな。」



あはは……黒森峰は、ドイツ語が必修外国語だったから普通に身に付いちゃうんだよ。
其れからエリカさんはドイツ系のクォーターだからドイツ語は得意なんだ♪――黒森峰に居た頃は、私も小梅さんも、ドイツ語の授業では随分
とエリカさんにお世話になったからね。

「まぁ、其れは今は良いとして、次のマジノ戦は全国大会基準のフラッグ戦だから、此処で勝って全国大会での弾みをつけて行こう!
 大洗女子学園は無名の弱小校じゃなく、未開にして未完の才能に溢れている戦車道の魔窟だから、マジノ女学院相手でも負けない!寧ろ
 勝つ!――私達は強い!!」

「私達は強い……!」

「なんと言う、力強い一言ぜよ!――隊長、私達の命、貴女に預けるぜよ!!」

「流石はみほさん、人心掌握術は見事なモノですねぇ……」

「ある意味で、人を惹きつけるカリスマ性って言うモノに関しては、みほはまほさんよりも上かも知れないわ――実際に、私を初めとして、小梅
 も澤も武藤も、みほを追いかけて大洗に来た訳だからね。」

「其れが西住隊長なんです!」



人心掌握術って、そんな心算は無くて、私は思った事を口にしてるだけなんだけどね……でも、其れでチームが纏まるって言うのなら、決して
悪い事じゃないとは思うけど。
何にしても、マジノ戦は勝利で終えたいモノだけど、多分簡単には行かない――生まれ変わったマジノを、見せてもらうよエクレールさん。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



で、あっという間に練習試合当日。
今回も前回同様、学園艦が大洗港に停泊する訳なんだけど……うん、マジノの学園艦は全国大会出場校の中では小さい方ではあるけど、大
洗の学園艦よりはずっと大きいね。

まぁ、先に聖グロの学園艦を目にしてた事で、大きさに驚く人はあんまり居なかったけど。

接岸して、大洗の地に降り立った訳だけど、観客性に指定されてる大洗シーサイドステーションには、この前の聖グロ戦以上に人が集まって
るんじゃないかな?
如何に地元とは言え、高々練習試合に此れだけの人が集まるなんて、普通は考えられないけど……其れだけ、戦車道に興味を持ってくれて
るって言う事なのかな?だとしたら嬉しい限りだね♪



「この間の聖グロ戦での引き分けって結果も大きいかも知れません。
 20年ぶりに戦車道を復活させた無名校が、現在の高校戦車道4強の一角と引き分けたって言う事実は、大洗の人達が戦車道に興味を持
 つには充分な事ですから。」

「成程、分かり易いね梓ちゃん。」

でも、そう言う事なら、今度こそ大洗を応援してくれてる皆さんに『勝利』をプレゼントしないとだね!!



――轟!!


『我こそ、拳を極めし者……!』




「軍神招来キター!って、ちょっと待て其れは軍神か!?何だって豪鬼をインストールしてんのよ!!」

我こそ戦車を極めし者……うぬらが無力さ、其の身をもって知るが良い……滅殺!!

みほさんが、殺意の波動に目覚めたーーー!?



……冗談だよエリカさん、小梅さん。
殺意の波動に目覚めたら冷静な判断をする事は出来ないからね……まぁ、ルールが殲滅戦の場合には、滅殺の感情は頼りになるかも知れ
ないけどね。

所で、客席の端に、アンツィオの物と思われる屋台が見えるのは気のせいかな?



「いや、気のせいじゃないわみほ……ペパロニの奴が精を出して大洗の人達に『鉄板ナポリタン』を振る舞ってるわね。」

「ペパロニさん……」

アンツィオの財政難は知ってたけど、まさか大洗の練習試合の会場まで出てくるとは思ってなかったよ――実際に前回の聖グロ戦では居な
かった訳だしね……此れは、ダージリンさんが各校に大洗の隊長が私である事をリークしたのかも知れないね。



「あの紅茶隊長なら、大洗の戦力を伏せた状態で貴女が大洗の隊長である事をリークしてもおかしくないわね。
 そうだとしたら、中学時代の貴女の仲間が駆けつけない理由は無いし、アンツィオにとっては願ってもない資金稼ぎの場が出来た訳なんだ
 から、其れを利用しない手は無いわ。」

「確かにそうだね。」

これは、益々この練習試合は負ける事が出来ないよ――ペパロニさんの前で無様な試合は出来ないし、観客席にはナオミさんとローズヒップ
さんの姿があったから、絶対に負けたくない!!

「絶対に勝つよ、此の試合!」

「勿論!そう来なくっちゃね!」

「私達の力を、マジノに見せつけてあげましょうみほさん!!」



うん、マジノ女学院には大洗女子学園の底力を味わってもらうとしようかな……戦車道を復活させた大洗女子学園と、改革を行ったマジノ女
学院のどちらが強いのか、ハッキリさせようか!!

全国大会前の最後のリハーサルとも言える練習試合、今度こそ勝って弾みをつけないとだね!








――――――







No Side



大洗女子学園、マジノ女学院共に、学園から戦車を降ろす作業は終わり、大洗の隊長であるみほと、マジノの隊長であるエクレールは、試合
開始を宣言する中央フィールドで睨み合っている。
何方も目付きが鋭い方ではないが、みほには『隻腕の軍神』の威圧力があり、反対にエクレールにはマジノの改革に成功した自信が満ち溢
れている――其れが本来の顔つきよりも鋭い印象を与えているようだ。

両校のオーダーは


大洗女子学園

・パンターG型×1(隊長車)
・ティーガーⅡ×1(フラッグ車)
・Ⅳ号戦車D型×1
・Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車)
・巡航戦車クルセイダーMkⅡ×1
・Ⅲ号突撃砲F型×1
・38(t)戦車B/C型×1



マジノ女学院


・ルノーR35 SA38搭載型×5
・ソミュアS35×4
・SECRET×1(フラッグ車)




この様な布陣。
マジノ女学院のオーダーはシークレットを除けば此れまでと大差ないモノであるが、だからこそ態々シークレットを設定して来た事が生きてくる
とも言える。
尚、車輌数が同数で無いのは、フラッグ戦である事と『大会と同じルールで』と言う事を大洗がマジノに提案したためであり、其れを受け入れた
マジノが、全国大会1、2回戦での使用車輌数である10輌を揃えたからだ。


「シークレット……如何やらARL-44は持ち出してくるみたいだね。」


だが、其れを見たみほは『最高の獲物を見つけた』と言わんばかりに、瞳が輝き、マジノの隊長であるエクレールを見据える。――そして、エク
レールも其れを受けてスイッチが入ったらしいが……心の奥底に眠っていた闘気を解放する!!



――ゴォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!



そして、その闘気は周囲の物を吹き飛ばす位に強力で強烈!!



「行きますわみほさん……!!」

「受けて立つよエクレールさん!!」



試合前の気組みの時点から可成り激しい物となっているようだが、一流の戦車乗りにとってこの程度の事は試合開始前の簡単な挨拶でしか
ない――マジノ女学院との練習試合は、此処からが本番だ。

隊長同士が試合前の握手を交わし、其れと同時に後ろに控えている隊員達の闘気も一気に膨れ上がり、まるで試合開始の号令を催促してい
るかのようだ。


「其れでは、これより大洗女子学園と、マジノ女学院の練習試合を始める!お互いに、礼!」

「「よろしくお願いします!」」


其れを見た審判長の、蝶野亜美は満足そうに微笑むと、此処で試合開始の号令を下し、互いに試合前の礼を行う。
後に『大洗大決戦』と呼ばれる事になる、この練習試合は、今此処で幕を開けたのだった。――だがしかし、みほとエクレールが全力を持って
して戦う練習試合が凡戦で終わる事だけは絶対にないだろう。

ある意味で、この練習試合は大洗にとっても、マジノにとっても最高にして、最強の練習試合だと言えるだろう。
そして、其の空気が観客席にも伝わり、試合開始の号令と共に観客席も大きく盛り上がる――特に、みほの中学時代の戦友であるナオミ、ロ
ーズヒップ、ペパロニの三人は特にだ。(モニターにクギ付けになりながらも的確に鉄板ナポリタンを作ってるペパロニが凄すぎるが。)



何れにしても大洗の練習試合の火蓋は切って落とされた――何方が勝ってもおかしくないこの試合……結果は神のみぞ知ると言うと言う所
なのかも知れない。


何にしても、大洗女子学園と、マジノ女学院の練習試合は、只では済まないだろう――そう思わせるだけの物が、大洗女子学園には定着して
居るのだった。












 To Be Continued… 





キャラクター補足



エクレール

・2年生ながら、マジノ女学院の戦車隊の隊長を務めている人物。
 マジノの伝統を越える事を目指していたが、1年時に其れの限界を知り、マジノの改革に乗り出す。――改革の一手を授けてくれたみほには
 感謝してもし切れない気持ちを持っている。