Side:みほ


聖グロとの練習試合もいよいよ開幕だね。
試合前の挨拶を終えて、今は試合前の最後のブリーフィングって言う所だね――作戦は、この前話した通り、市街地戦での包囲撃破を主軸
にして行くけど、本番前に質問はあるかな?



「はいは~い。
 包囲撃破って事だったけど、単体で遭遇しちゃった場合は如何すればいいの?Ⅲ号とⅣ号なら、聖グロの戦車とも遣り合えるかも知れない
 けど、アタシ等の38(t)とバレー部のクルセイダーMk.Ⅱじゃ、聖グロの戦車と遣り合う事は出来ねーと思うよ?」



うん、正に会長さんの言う通り――だから、単騎で聖グロの戦車とエンカウントしたその時には、先ずは生き残る事を第一に考えて『逃げの一
手』を使ってね?
逃げの一手を駆使して、物陰に身を潜めていれば、其の内チャンスがやって来るかもだからね。



「相手の出方によって戦況を見極めると言う事ですか――流石です、西住殿!!」

「あはは……驚き過ぎだよ優花里さん?――其れに此れ位の事は当たり前のタクティクスだから、興味があるなら、覚えてみても良いかも知
 れない事だけどね。」

「だが、聖グロは言うなれば重装甲のチャーチルと、防御の高いマチルダをメインにしたカウンター型の学校だ……下手に攻め込んだら手痛
 いカウンターの餌食になってしまうぞ!?」



其れは分かってますから、大丈夫です河嶋先輩。
カウンターが得意な相手だって言うのなら、カウンターをさせなければ良いだけの事だから、何にしても、市街地に引き込む事は絶対だね?
期待してるよエリカさん?



「任せなさい――あの紅茶格言を、マジギレさせてやるわ!!」

「まぁ、やり過ぎない様にね?」

そう言えば、ローズヒップさんがいるって事はクルセイダーも出て来る筈だから、カウンターだけじゃなくて、機動力による撹乱にも注意をして
置いた方が良いかも知れないなぁ……ローズヒップさんも去年の大会の時より強くなってるだろうし。

さて、そろそろ試合開始の時間だね――大洗の皆さんに、見て貰うとしようかな、私の戦車道をね――










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer107
『練習試合でも手加減不要です!』










No Side


20年ぶりに戦車道を再開した大洗女子学園と、今の高校戦車道界隈では4強の一角とされる聖グロの練習試合は、練習試合であるにも関
わらず、特設会場となっている大洗シーサイドステーション(旧リゾートアウトレット)の駐車スペースには多くの人々が集まっていた。
20年ぶりに大洗が戦車道に復帰すると言うだけで感激した人も居たのだろう。


……其れは其れとして、試合が始まる前に両校のオーダーを見て行く事にしよう。


大洗女子学園

・パンターG型×1(隊長車)
・Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車)
・Ⅳ号戦車D型×1
・ティーガーⅡ×1
・Ⅲ号突撃砲F型×1
・巡航戦車クルセイダーMk.Ⅱ×1
・38(t)戦車B/C型×1


聖グロリアーナ女学院

・チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1(隊長車)
・マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ×4
・巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲ×2




聖グロのオーダーは、一見すると防御主体の構成に見えるが、足の速いクルセイダーが2輌いる事を考えると、防御主体でありながらも機動
力で相手を撹乱する事を考えているのかも知れないと予想出来る。
逆に大洗は一見するとドイツ戦車で纏められているように見えるが、クルセイダーはイギリス戦車であり、38(t)は大戦期のドイツ軍で使用さ
れていたとは言え、製造元はチェコであり、使用戦車には統一性が無く、其れだけに何をしてくるかが全く分からないのだ。

尤も、みほの戦車道はそもそもにして『何が起きるか分からない』のが基本なので、使用戦車から戦術を読もうと言うのがそもそもにして困難
な事ではあるのだが――逆に言えば、だからこそ戦うのがワクワクすると言えるのである。


其れとは別に、観戦会場となっている『大洗シーサイドステーション』も賑わいを見せている。
特設スタンドは人で埋まり、駐車場にもレジャーシートを敷いて観戦している人達が多数集まり、また『此れを期に戦車道で町興しが出来るか
も!』と考えた商店街の人達が出店を出している事で、会場はちょっとしたお祭り騒ぎ状態だ。


「さてさて、ご覧ください皆様!
 20年ぶりに戦車道を復活させた大洗女子学園の初戦となる一戦には、練習試合であるにも拘らず、これだけの人が集まって来ています!
 此れは、凄い試合が期待できるかもしれません!何より、我が大洗の隊長は、戦車道ではその名を知らぬ者は居ないと言われている『隻
 腕の軍神』こと、西住みほさんなのですから!
 因みに此の試合の実況は、大洗女子学園放送部2年の私、王大河でお送りします!」


更に大洗女子学園の放送部が此の試合を撮影して、Y○u Tubeやニ○ニコ動画に生配信をしての『ネット生放送』を行って、会場に居ない戦
車道ファンに対しても此の試合を発信している――其れだけの事をするだけ、大洗は戦車道に力を入れているのだろう。



『其れでは、大洗女子学園vs聖グロリアーナ女学院、試合開始!!』

「Panzer Vor!!」

「Tank starting.」



そんな興奮が渦巻く中で試合開始!
聖グロがチャーチルを要とした扇型の陣形で進行するのに対し、大洗はパンターとティーガーⅡ以外の戦車は、試合開始と同時に散開して市
街地に入り、市街地戦の準備を整える。

完全に市街地以外では戦う気が無いと言う事だろう――尤も市街地戦を行えるかどうかは、みほとエリカにかかっているのだが。


「エリカさん、行ける?」

「任せなさいみほ。
 姉さんがダージリンのメンタルを鍛えてたとしても、私は其れを越えて見せるわ。」

「そっか……ちなみにそれってドレ位のレベル?」

「私だったら問答無用で砲撃をブチかまして肉片に変えてるレベルかしらね?……取り敢えず、自分でやって自分でムカついたレベルだと言
 っておくわよみほ。」

「あは、其れなら期待出来そうだね♪」


そのみほとエリカは、緊張などどこ吹く風――寧ろ『緊張って何?新しい食べ物か?』と言わんばかりの自然体であって、緊張なんて言う物と
は無縁の状態であり、そして車長がリラックスしているのならば、搭乗員もリラックス出来るモノであり、AチームとBチームのクルーは、緊張か
ら開放され、ごく自然にリラックスした状態となっていた。

隻腕の軍神と、孤高の銀狼のやり取りは、味方の緊張を解す効果もあった様だ。――そして、その緊張が解けた所で聖グロの部隊が見えて
来た……奇襲は成功したのだ。


だが、本番は此処からだ!


「華さん、チャーチルの足元を狙って!」

「了解しましたみほさん。」


「アイン、パンターの砲撃が炸裂したら、同じ場所にぶち込んで!!」

「任せておけ……私の射撃の腕前は針の穴をも通すからな!!」



先制攻撃(と言うには、余りにも強烈な攻撃だが……)をブチかまし、聖グロの部隊の意識を強制的に此方に向かわせる――尤も、みほ達と
向き合ったダージリンの顔には驚愕が浮かんでいたのだから、ダージリンとしても、この展開は予想外だったのだろう。



「ティーガーⅡは兎も角としてパンターが直々に来るとは……幾らなんでも無謀だと思いますわよみほさん?」

「は!みほの辞書に無謀なんて字は無いわよ紅茶格言――もといダージリン副隊長?……あぁ、元でしたね。」


其処から舌戦に持ち込む心算なのだろう。
『歩く罵詈雑言製造機』の異名を持つ(本人は全否定)エリカは早速ダージリンに対して、嫌味たっぷりな一言をぶつける――更に鼻で笑う様
な仕草もしている辺り芸が細かい。


「ごめんなさいねダージリン……私の中では聖グロの隊長って姉さんだから、ぶっちゃけアンタを隊長として見る事が出来ないのよね?」

「其れは仕方ありませんわ、アールグレイ様は偉大なお方でしたもの。
 ご存知?聖グロリアーナに於いて『アールグレイ』を名乗った隊長は、貴女のお姉さまを含めて2人しか居なくてよ?」

「あ、そうなの?因みにもう1人のアールグレイって誰?」

「島田流の家元と聞いてますわ。」

「……そんなビッグネームと同じ名前を名乗ってたとは、姉さんグレイト。」


だが、此の程度ではまだダージリンは余裕を保っているらしく、冷静に対処して来る――が、これはほんのジャブ。
逸見エリカと言う少女は此処からが本領発揮なのだ。


「でも、其れってつまり貴女はアールグレイの名を継ぐに値しないって事よね?
 そもそも貴女って、姉さんが卒業した事で繰り上がり昇格した隊長さんよね?……正直言って貴女が、姉さんより上とは思えないし?」

「誰が繰り上がり昇格ですかエリカさん?」

「お前ーーーm9(^Д^)!」

「……相変わらず安っぽい挑発ですわね……去年の私ならばいざ知らず、今年の私はこの程度の挑発には乗りませんわ。」


エリカの挑発に対し、ダージリンは努めて冷静に対応するが蟀谷の辺りに青筋が浮いてる辺り、可成りブチ切れてるのは間違い無いだろう。
だが、其れでもエリカの口撃は止まらない。


「精神修業をして来たって訳?……やるわね田尻さん?」

「ダージリンですわ!!!」


此れがトリガーとなり、聖グロの部隊は、みほとエリカに対しての攻撃を開始!

2対7と言うのは可成り不利な数字だが、ダージリンの怒りのボルテージを燃え上がらせるのが目的とばかりに、エリカは挑発を繰り返す。
それも、只挑発を繰り返すだけでなく、表情をガラりと変えての演出も忘れない。
更には攻撃を避けるでもなく、態とティーガーⅡの車体で受けている――これ以上の挑発は無いだろう……『お前達の戦車じゃあ、私達の戦
車は倒せない』と言ったような物なのだから。

因みにみほは、パンターの機動力を武器に聖グロの攻撃を避けまくり、その上で敢えて決定打にならない攻撃を加えている――此れも立派
な挑発と言えるだろう。
只、みほはエリカと違って口に出しての挑発をしていないだけだ。


「はい、残念でした。次頑張んなさい~~♪」

「馬鹿にしてますの貴女は私を!!」

「馬鹿になんかしてないわ……虚仮にしてるだけよ!!」

「なお悪いですわ!!!」

「まぁ、まぁ、そんなに怒るなよ田尻ん?」

「誰のせいだと思ってますの?……良いでしょう、お望み通りにぶっ殺して差し上げますわ。」


火に油所か、火にガソリンをぶっ掛けた末にエリカは聖グロの本隊から離脱し、同時にみほも離脱して市街地へと向かう。
その間も、エリカは挑発を忘れる事無く、みほと共に的確に市街地まで誘導して行き――


「其れじゃあまた後で会いましょう?アディオース!」

「ダージリンさん、ローズヒップさん、またね~~~♪」


――ボウン!!


海岸線の道路に有る大鳥居の前まで来た所で、みほの十八番のスモークボンバーが炸裂!しかも、今回は何時もの白煙ではなく、より視界
を潰す効果の大きい黒煙バージョンだ。

此れには聖グロの部隊も強制停止を余儀なくされる――よく知った試合会場ならばまだしも、土地勘のない大洗で視界が確保できない状態
で動くのは自殺行為でしかないのだから。
完全にしてやられた形だが、聖グロに取って唯一幸運だったのは、此処は道路のすぐ傍が海岸である為に海風が良く吹き、そのお陰で黒煙
が晴れるのが早かったのだ。……其れでも完全に視界を取り戻すには確り2分掛かってしまったが。


「完全にしてやられましたねダージリン。
 アールグレイ様が大分精神修業をさせていたようですが、未だ沸点が低いのは完全には治って居なかったと言う訳ですね?」

「手厳しいわねアッサム……まぁ、完全に乗せられてしまった以上、言い訳は出来ないけれど。
 だけどねぇアッサム、分かっていたとしても、貴女も一度エリカさんの挑発を真っ向から受けてごらんなさい?『挑発乗るべからず、怒ったら
 負け』と分かっていても、腹が立つのだから。
 アールグレイ様も人を乗せるのが巧かったけれど、エリカさんは別の意味で人を乗せるのが巧いみたいだから。」

「……成程、矢張り姉妹と言う事ですか。」


エリカの挑発に乗せられた挙げ句に、みほの土俵である市街地戦を行う事を余儀なくされた事に対して、アッサムは容赦なく苦言を呈するも
のの、ダージリンは其れを素直に受け止め、それどころかエリカの挑発の腕前を評価(?)する。
如何やら、強制的にみほの土俵に上げられる事になった事で、逆にダージリンは冷静さを取り戻したようだ――最後の最後まで冷静さを失っ
ていた去年の大会から考えれば、大きな進歩だろう。


「さてと、完全に乗せられてしまいましたが、こうなった以上は相手の土俵で戦う以外の選択肢はありませんわね?
 市街地戦はみほさんの十八番……隊員の練度では此方が上とは言え、地の利は相手に有る事と戦車の性能差を考えると、あちらの方が
 僅かながら有利と言う訳ね?
 隊員の練度の低さは工夫で補う……実にみほさんらしい戦い方だわ。――ホント、まほさんとは違うのね。」


そして冷静になったからこそ、ダージリンは状況を判断し、僅かに不利な条件ではあるが、市街地戦を行わない限り試合にはならないと考え
ていた。――此処で待ちに徹していても、みほ達が仕掛けてくるとは思えなかったからだ。


「聖グロリアーナの戦車道は、騎士道精神を忘れずに、常に優雅にあるべきですが、挑まれた勝負は受けて立つのが礼儀……良いでしょう、
 貴女のダンスのお誘い、受けさせていただきますわみほさん。」

故に、ダージリンは市街地――恐らくは大洗の部隊が潜んでいるであろう商店街へと向けて進軍を開始。
冷静さを取り戻したダージリンの瞳には剣呑な光が宿っていたが、その顔に浮かぶのは優雅な笑み……淑女の皮を被った獅子が、その牙を
光らせていると思わせる表情をしていた。








――――――








一方で、聖グロの部隊を目的地まで誘導する事に成功したみほは、商店街で一旦エリカと分かれ、商店街を進みながら指示を出して行く。


「聖グロの誘導には成功したけど、本番は此処からだから各員気を抜かないで。
 地の利では此方が有利だけど、練度では聖グロの方が上だから、交戦状態になって撃破が難しいと分かったら、無理に撃破しようとはせず
 に、その場を離脱して一番近くにいる仲間との合流を最優先にしてね?」

『『『『『『了解!!』』』』』』


如何に地の利があるとは言え、練度では圧倒的に負けている事を考えれば、交戦状態で大洗が聖グロを撃破出来る確率は可成り低い事を
考え、無理に撃破する事はせずに、生き残る事を優先する様に伝えていく。

副隊長である梓をはじめ、経験者であるエリカと小梅はみほの意図を理解しただろう。バレー部チームと歴女チームも、みほの意図は理解せ
ずとも無理に撃破はしない事と言うのは理解した筈だ。


「其れじゃあ、これより『かくれんぼ作戦』を開始するよ!」


みほの号令の下、各チームは商店街の様々な場所に身を潜めて聖グロの部隊が現れるのを待ち構える――ある意味で大洗は、聖グロを相
手に、掟破りの『逆カウンター戦法』を仕掛ける形をとったのだ。
尤もこれも地の利があればこその戦術だが、だからこそ最大の効果が発揮できるとみほは考えていた。

大洗女子学園の生徒にとって、大洗の町中は庭みたいなものだと言っても過言ではなく、そうであるのならば何処に身を潜めれば良いのか
など、言われなくとも理解しているのだ。

実際にⅢ号は町営駐車道のブロック塀に身を隠し、Ⅳ号は蕎麦屋『大進』の店舗の陰に潜み、Ⅲ突はのぼりを立てて薬局の一部に擬態し、
クルセイダーはコインパーキングに陣取っているのだから。

身を潜めていないのはみほのパンターと、エリカのティーガーⅡだが、此の2輌は商店街に入って来た聖グロの部隊とやり合う目的で商店街
内を走っているので問題は無い。

寧ろ問題なのは――


「ねぇ、桃ちゃん、隠れてた方がよくないかな?」

「何を言う!此処で待ち構えて、聖グロの部隊を一網打尽にしてくれる!!――聖グロの首は、この河島桃が取る!!」

「お~~……気合入ってんなぁ、か~しま~~?」


生徒会の38(t)だ。
何処に身を隠すでもなく、堂々と商店街の道路のど真ん中に佇んでいるのは、幾ら何でも無策と言うか、無謀極まりないとしか言い様がない
だろう……と言うか、この時点で可成り命令違反なのは否めないのだが。

そして最悪な事に、この38(t)の前に、進行して来た聖グロの部隊はその姿を現したのだ。
狭い道路を通ってきたせいで、聖グロの部隊は縦に長くなっている――つまり先頭車両を頭にした縦列陣形を取って此処までやってきたの
だろう。


「縦列陣形で来るとは愚かな……頭から叩き落してやる!!」


其れを見た桃は、装填しては撃ち、装填しては撃ちの攻撃を繰り返して聖グロの部隊を攻撃するが、悲しいかな、ドレだけ撃っても掠りもしな
いのだ……桃の砲手としての才能は無いとしか言いようがないだろう。


「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て!!」


其れでもめげずに攻撃を続けるのは立派かも知れないが、下手な鉄砲数うちゃ当たる的な砲撃を喰らう程、聖グロの隊員は能無しじゃない。
見事な回避動作で攻撃を避け、1輌も撃破される事なく、商店街に突入!

だが、其れでも依然として桃は攻撃を繰り返すが、聖グロの戦車を壊す以上に商店街を破壊しているようだ。


「桃ちゃん、此処は逃げた方がよくない?」

「逃げるだと?そんな事が出来る筈ないだろ!私達は此処で、ファースト撃破をしなければならないんだ――だから絶対に退かん!!!」


それでも尚、桃は当たらない砲撃を繰り返し行い、しかし掠りもしないまま聖グロの部隊の侵入を許してしまったのだ――


「隊長が最強でも、隊員が素人だと付け入る隙もあるモノですわね?――ローズヒップ!!!」

「お任せありですわダージリン様ーー!!」


そんな桃に対してダージリンは嘲笑とも取れる笑みを向けると次の瞬間にはローズヒップを呼び、呼ばれたローズヒップは、駐車道に停めてあ
った車を滑走路にして飛び出し、38(t)の上に落下!!
みほ直伝の『戦車プレス』を、行き成り仕掛けて来たのだ。

38(t)は、決して優秀な攻防力を備えている訳では無いが、大戦初期に作られた軽戦車と言う事を考えれば破格の性能を持っている――の
だが、だからと言って上から降って来た戦車の圧力に耐えられるかと言われればそれは否。


――ドゴン!

――パシュン!!



『38(t)行動不能。』


落下速度まで加わったクルセイダーの戦車プレスに耐える事は出来ずに38(t)は撃破されて白旗が上がる――無鉄砲に撃ちまくっておきな
がら1輌も撃破出来ずに、逆に撃破されるとは、情けない事この上ないだろう。


「あ~~……コイツはやられたねぇ?此れは、試合後に西住ちゃんからお叱りを受けるのは確実かな~~?
 取り敢えず、か~しまは厳しく叱られた挙げ句に降格は間違いねーわ。」

「其れは貴女もです、会長!」

「あ、やっぱし?」

「当然です!
 桃ちゃんの事は当然として、会長の事もみほさんには報告させて貰いますから――相応の罰は覚悟しておいて下さい。って言うかしろ。」

「こやま~~、キャラ変わってるぞ?
 だけど此れは確かに良くなかったかもな~~……撃破が難しい状況だったにもかかわらず、味方との合流はせずに無茶な攻撃をした挙げ
 句にこの結果だからね~~……降格は免れねーな此れは。」


何にしても、ファーストアタックを取ったのは聖グロだと言う事実は覆す事は出来ない故に、聖グロに最初にボードアドバンテージを与えてしま
ったのは確実だろう。

そして、これが事実上の試合開始のゴングでもあったのだ。








――――――








Side:みほ


エリカさんの挑発のおかげで聖グロの部隊を市街地戦に引き込む事が出来た訳なんだけど、その状況下で、まさか先に此方の戦車が撃破さ
れるとは思わなかったよ。
生徒会の38(t)が撃破されちゃったみたいだからね。

でも、私の言った事を遵守していれば撃破される事は無かった筈だから、これは勝手な独断専行をしたと見て間違い無いかもだよ――試合
が終わったら、生徒会チームには事情聴取を行う必要があるかも知れないね。

尤も1輌のビハインドなら直ぐに取り戻せるから何とかなるんだけど――そっちの状況はどうなってるかな梓ちゃん?



『こっちは依然問題なしです西住隊長。
 ですが、Ⅲ号の性能では聖グロの部隊を全て相手にする事は出来ないので、これより赤星先輩と合流した上で、聖グロの部隊との交戦を
 開始する心算です。』




ふむふむ、梓ちゃんはちゃんと見えてるみたいだね?――確りと作戦を考えてるんだから見事なモノだよ。
38(t)を行き成り失う事になっちゃったけど、1輌程度のビハインドなんて物は、私の中ではないに等しい物だから、此処から大暴れさせて貰
うからその心算でいてね?

今一度貴女には味わってもらうよダージリンさん、隻腕の軍神の力の一端と言う物を――勝たせて貰うからね、此の試合は!!



「おぉ、燃えてるねみぽりん!!」

「エンジンが唸っている……西住さんの闘気は、戦車にも伝染すると言うのか?……普通に凄いな其れは。」



ふふ、大袈裟だよ沙織さん麻子さん。
とは言っても、此の試合が大洗の初めての対外試合になる訳だから、きっといい経験になるよ――そういう意味では、此の聖グロとの練習試
合は、結果はどうあれ得るモノが多いと思うな。

さてと、気合を再注入して行こうか――私の戦車道はまだ完成してはいないけど、此の試合では今の私の全力を見せてあげるよ。
其れでも、刺激的な試合にする事だけは、もう決定事項だしね。


聖グロとの練習試合、本番は此処からだよね!!――絶対に負けないから……最低でも引き分けには持ち込ませる!!
生徒会の38(t)みたいに先走った事をする戦車が他にも居たら、其れすら難しいかも知れないけど、今のところその心配はなさそうだしね。

だからこそ楽しくなって来た――滾って来たよ、西住の血に流れる、戦車乗りとしての本能が!!……まさか、私の眠れる本能を覚醒させる
とは思ってなかったよダージリンさん!

だけど、眠れる本能が覚醒した以上、私に負けは無いから、本能を解き放たれた軍神の力を、その目に焼き付けて貰うよ、ダージリンさん!

大洗の戦車道は、此処からが本領発揮だからね♪










 To Be Continued… 





キャラクター補足