Side:まほ


季節は春……つまりは新入生が入学してくる季節。
みほも、明光大付属中学校に入学して、新たな生活が始まると言う訳か……まぁ、お母様の設定した難易度Sランクのミッションが有る訳だがな。

加えて、片腕と言うハンデもあるだろうが、みほならばきっと大丈夫だろう。――皮肉にも、あの事故が、みほの心を相当に強くしたようだからね。
だからきっと、県外の中学校でも巧くやるだろう。

まぁ、私もみほの事を心配している場合じゃないのだけれどな。
2年生で隊長に抜擢された以上、その任は果たさねばならないし……

「1年生全員、二列横隊!各自、クラスと名前を言え!」

「1年B組、逸見エリカ!」

「1年A組、赤星小梅!」



今年の新入生は、中々に粒揃いであるようだから、其れを徹底的に鍛えてやらねばならないからな。…と言うか、黒森峰に入学したんだな逸見。
私に二度負け、その末に、私の指揮下に入る事を選んだか……面白いじゃないか。

この子は、何方かと言うと私に近いタイプだから、黒森峰の戦車道にも直ぐに慣れるだろうな。


間違いなく、みほとは大会でぶつかる事になるだろうから、其れまでに徹底的にチームを鍛えておかねばならないだろう。
最強の敵として立ちはだかってやる事が、王者黒森峰として、そしてみほの姉としての礼儀だろうからな――さて、お前は進学した先で、どんな戦
車道を見つけるんだ、みほ?










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer1
『集うは戦車の仲間達です』










Side:みほ


明光大付属中学校に入学して3日目。本日は、各部活動の新入部員勧誘の為のオリエンテーリングが開かれて、この学校では、科目じゃなくて
部活動として戦車道が有るって事を知った。

で、戦車道はどの部活よりも『やる気のある新入部員』を必要としてた……お母さん曰く、万年1回戦負けの弱小校って事だったけど、戦車道への
情熱だけは、他の学校に負けてないのかもしれないね。――これなら、若しかしたら行けるかも知れない。

とは言え、私だけが戦車道を選択しても意味は無いから、他の1年生でも戦車道を選んでくれる人がいないか、後で探してみないとね。


と、戦車道の事は此れ位だけど……やっぱりと言うか何て言うか、隻腕て言うのは、皆から奇異な目で見られちゃうみたい。覚悟はしてたけど。
まぁ、クラスメイトの1人が、片腕無しだったら、確かに奇異な感じはするのかもしれないけどね。

それでも……



「よぉ、片腕!相変わらず不便そうだなぁ?」

「なんだって普通の学校に来た訳?
 アンタみたいな障碍者は、特別養護学校に行ってた方がいいんじゃない?って言うか、片腕で普通学校に来るとか、馬鹿じゃないのアンタ?」



僅か3日で、こう言う人達が出て来るとはね……ある意味で予想はしてたけど、ヤッパリ気持ちの良いモノじゃないなぁ。
私だって、好き好んで片腕になった訳じゃないのに、何でこんな事を言われないとならないんだろう?……こう言う人達は、無視するに限るよね。



「何とか言えよ片腕。左腕だけじゃなくて、声も無くなっちまったのか?聞こえてんのかオイ!!」




「おぉっと、足が滑ったーーーーーーーー!!!」


――ドガバァァァァァァァァァン!!!!



で、無視してたら、リーダー格っぽい人が掴みかかって来たんだけど、その人がイキナリ吹き飛んだ!?ううん、誰かに蹴り飛ばされたみたい!
足が滑ったって言ってけど、此れは明らかに普通にドロップキックを炸裂させたよね!?



「てめ、何しやがる!!」

「あぁん?何しやがるだと?……あんまりにも、お前等がムカつく事してるから、つい足が滑ってドロップキックをブチかましちまっただけだタコ!!
 てか、心底下らねぇ事してんじゃねぇぞオラ!コイツは好きで片腕になった訳じゃねぇだろ!!
 もっと言うなら、片腕ってハンデ背負ってでもアタシ等と同じ生活をする事を選んだんだぞ?……其れを、馬鹿にして突っかかるとかアホか!!」



割って入ってくれたのは、黒髪が特徴的な女の子……確か『辛唐青子(しんとうしょうこ)』さんだったっけ?
助けてくれたのは嬉しいけど、喧嘩はダメだよ?喧嘩になっちゃったら、きっと先生だって黙ってないと思うし、変に処分されても面倒だからね?



「む……言われてみりゃ、其れもそうだ。
 しょうがねぇ、今回だけはコイツの顔に免じて許してやらぁ。――だけど、2度目はねぇからな?次またコイツに下らねぇ事したらそん時は……
 としての選手生命断つからな?

「はいぃぃぃぃぃぃ!分かりましたぁ!!行くぞお前等!!」

「二度と来るな……てか、一言コイツに侘び入れろって。」

「あはは……まぁ、其れは良いよ。助けてくれてありがとう、辛唐さん。」

「まぁ、あぁ言う輩は好きじゃないからなアタシも。って、名前名乗ったけかアタシ?」



自己紹介の時に覚えたから。このクラスの生徒全員の名前と出席番号、其れと生年月日は全部。
――辛唐青子さん、出席番号15番、9月12日生まれで間違ってないよね?



「スゲェ、マジで覚えてんのか!?アタシなんて、クラスで名前覚えてんのはお前だけなんだけどな、西住?
 いや、こう言っちゃなんだけど、やっぱ片腕ってのは良くも悪くも目立つから、『隻腕は西住』ってな感じで、完璧に覚えちゃってさぁ~~~~?」

「そうなんだ?……まぁ、確かにどうしても目立つからね、片腕だと。別に不便はしてないんだけど。」

「其れがスゲェんだよ西住は!
 普通だったら、日常生活だって難しい筈なのに、全然そんな事感じさせないからさぁ?相当根性無いと、そんだけの事は出来ないだろマジで。」



まぁ、リハビリとか頑張ったし、この身体のせいで迷惑だけはかけたくなかったから。
あ、其れと私の事は『みほ』で良いよ辛唐さん?そっちの方が、呼ばれ慣れててシックリくるから。



「そうか?ならアタシも青子で良いぞ。そっちの方が呼ばれ慣れてるからさ。
 んで、話しは変わるけど、みほは部活は如何すんだ?こう言っちゃ悪いけど、片腕じゃ運動部も文化部も、出来るのあんまりないだろ?」

「うん、確かにその通りだけど。私は戦車道部に入るって決めてるの。
 確かに片腕だと出来る部活は少ないけど、戦車道の『車長専任免許』を持ってるから、此れなら戦車道をやる事は出来るからね。」

「戦車道か~~~?部活説明会では、スッゲー気合入ってたけど、この学校って中学の全国大会毎年一回戦負けの弱小校じゃなかったけか?」



うん、そうだよ?
だけど、青子さん、その毎年一回戦負けの弱小校が、行き成り快進撃を続けて、優勝とかしちゃったら凄く痛快な事だと思わない?
私は、私が在籍中にこの学校を、全国中学校戦車道の大会で優勝させる為に来たんだよ。だから、私は戦車道部に入部以外の選択はないよ。



「良いねぇ?カッコいいジャンそう言うの!なら、アタシも戦車道部にするぜ!」

「え?」

「そうと決まれば、他にも戦車道部に入部する奴を増やさないとダメだよなぁ?
 なぁみほ、戦車って大体何人で動かすもんなんだ?」



えっと、基本的に4人いれば大丈夫だよ?CV33みたいな豆戦車は例外だけど、大概の戦車は4~5人乗りで、5人乗りの場合でも、通信士は車
長が兼任できるから、車長以外に、砲撃手、装填士、操縦士が居れば動かす事は出来るよ。



「って事は先ずは後二人か……よっしゃ、昼休みまでに二人は確保してやる!1年全クラス探せば、経験者の一人や二人居るかも知れねぇし!
 やっぱり、弩デカい夢を見る仲間は多い方がいいからな!!」



それは、確かにそうだけど、果たしてそう巧く行くかなぁ?
こう言ったら何だけど、経験者が態々弱小校に入学して来る事なんて、余程の事が無いと有り得ないと思うから、経験者は期待できないと思う。
それでも、戦車道部に入る人が増えてくれれば、其れは嬉しい事だけどね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



で、あっという間に昼休み。
経験者なんて、居ると思ってなかったんだけど……



「如何だみほ、2人も経験者見つけて来たぜ!!!」

「まさか、2人も経験者を見つけて来るなんて、青子さんの行動力を甘く見てたよ……って言うか、私以外の経験者が居た事に驚いてるけどね。」

青子さんが連れて来たのは、背が高くてそばかすが特徴的なショートカットの子と、赤い髪が特徴的な活発そうな子……うん、確かに戦車乗り特
有のオーラを纏ってるから、経験者なのは間違いなさそう。



「それで、アタシ等に何の用なの?」

「戦車道の経験者はいないかって聞かれて、咄嗟に経験者だって言ったら、昼休みに屋上に来てくれと言われて、こうして来てるんだけど……」


「青子さん、詳細な事は話した?」

「いや、全然。取り敢えず、昼休みに屋上に来てくれって言っただけだ。時間も無かったしな♪」



其れは問題あり過ぎだよ青子さん!!
えっと、説明が足りなかったみたいだけど私達と一緒に戦車道部に入部してくれませんか?経験者だって言うなら、可也心強いモノが有るから。



「なんだ、そんな事?言われるまでも無く、戦車道部に入部するわ。元よりその心算だったしね。」

「私も同じだから問題ないわ。」



あ、そうだったんですか?
でも、だとしたら御二人は如何してこの学校に?失礼だとは思いますけど、この学校は毎年一回戦負けの、所謂『弱小校』なんですよ?……経験
者なら、選ぶ事は無いと思うんですけど……



「……アタシは親との意地の張り合いの末かな?
 アタシの親は、アタシが戦車道をやる事を快く思ってなくて、何かと辞めさせようとしてくるから、つい『中学で、毎年一回戦負けの弱小校を、アタ
 シが在学中に優勝させる事が出来たら、文句言うな!』って啖呵切っちゃってね。
 其れだけの事を言った手前、退く事は出来ないし……可也きついかも知れないけど、自分の言った事をやり遂げないとだからな。」

「私は、戦車道の強豪中学から、全然声が掛からなかったからね。
 操縦技術には自信があったのに、其れなのにスカウトされないなんて、流石にプライドが傷付いたから、其れなら弱小校で結果を残して、高校
 からはスカウトされるようになりたかったのよ。」



成程………理由はちゃんとあるみたいだけど、私も似たような物だからね。



「アンタも?」

「貴女も?」

「うん。私は、お母さんから『弱小校を立て直して来い』って言われて、この学校に来たから。
 そう言う意味では、貴女達と同じかもしれないね……えっと~~~~~。」

「ナオミ。吉良ナオミだ。ナオミで良い。」

「野薔薇つぼみ。つぼみで良いわ。」



ナオミさんとつぼみさんだね?うん、覚えたよ。
あ、私は西住みほっって言うの。私も、みほで良いから宜しくね?



「西住だって!?」

「まさか、貴女はあの西住流の!?」

「うん、次女だよ?」

「西住流って何?其れって凄いの?」

「アンタねぇ……西住流って言うのは、戦車道の一大流派で、現在日本戦車道の全権力を掌握してると言っても過言じゃない位の流派なのよ?
 撃てば必中、護りは固く、進む姿は乱れ無し。その精神は、日本戦車道の根幹をなしていると言っても過言じゃないわ。」

「まさか、その西住流の方と出会えるとは……この学校を選んだ甲斐が有ったと言うモノね!」



……厳密にいうと、私は純粋な西住流じゃないけどね――車長専任免許を取る為に、西住流以外の戦車道の戦術も頭に叩き込んだから、逆に
純粋な西住流とはかけ離れているかもしれないよ。



「だけど、車長専任免許を取るのは簡単な事じゃないでしょ?
 例え純粋な西住流じゃないとしても、其れを取得したと言うだけで、貴女がドレだけ優秀な戦車乗りなのかは分かるわよ?……例え片腕でも。」

「寧ろ、身体に障害を抱えながらも、車長専任免許を取得して、戦車道を続けると言う考えに感動するわ!」



そうかな?私は、只こんな事で自分の道を諦めたくなかったし、友達との約束を違える事はしたくなかったから。
何よりも、私は戦車が好きだから、左腕を失っただけで止めたくなかったんだよ、絶対にね。



「言うじゃない?気に入ったよみほ!
 貴女の夢と、アタシの目的は一致してるし、どうせやるなら徹底的にやった方がいいから、貴女と一緒に優勝を目指してみようじゃないか。」

「みほさんとなら、若しかしたらエキサイティングな戦車道が出来るかも知れないわね……一緒に、この学校を中学戦車道の一番にしましょう!」



勿論です!
黒森峰に、お姉ちゃんて言う強敵が居るから簡単じゃないかもしれないけど、力を合わせれば、きっと出来る筈だって、私は信じているから。



「よっしゃ、其れじゃあこれでチーム結成だな!
 ……だけど、新入部員が、アタシ達だけじゃあダメだよな?――よし、放課後までに、最低でも後20人は戦車道入部者を連れて来てやるぜ!」

「本気?」

「流石に無理じゃない……?」

「かもだけど、青子さんなら何とかしちゃうかもしれない感がバリバリするよ……ナオミさんとつぼみさんを連れてきた実績があるだけに余計に。」

「「確かに。」」



だけど、青子さんなら、きっと何とかしちゃうんだろうなぁ。
あのノリと勢いで引っ張られたら、最大でまだ入部する部活を決めてない1年生を全員戦車道部に引き連れてくる可能性が、全くゼロじゃない上
に、やろうと思えばやっちゃいそうだからね。

兎に角、先ずはチームメイトを確保出来たのは、嬉しい事だよね♪



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



で、これまたあっと言う間に放課後。
現在、戦車道部の部室(?)である、車庫前に新入生の入部希望者が可成りの数集まってる――ざっと見て、20人は居ると思う。此れなら、最低
でも、私達のチームを合わせて、1年生だけで6輌を動かす事が出来るから、戦力としては申し分ないかもね?殆どが未経験者だとしても。

此れからは、此のメンバーが仲間だから、ちゃんと覚えておかないとだよね。

いよいよだね……此処から始まるんだ、私の戦車道が!!私だけの道が!!
そして同時に、私はこの日、かけがえのない存在となる戦車と出会う事になった――そう、『車体をアイスブルーに塗られたパンターG』と………












 To Be Continued…