Side:みほ


戦車道――其れは、良妻賢母を育てる乙女の嗜みであり、現代の日本でも、全盛ではないにしろ、其れなりの盛り上がりを見せている競技の一
つなのは、多分間違いないモノだと思う。

身内贔屓をする心算は無いけど、史上最年少でジュニアユースの代表に選ばれ、そして隊長として活躍してるお姉ちゃんの存在も大きいのかも。
なんて事を言ってる、私こと西住みほも、日本の二大戦車道流派『西住流』の次女として生まれ、日常的に戦車と触れ合ってたんだけれどね。



「みほちゃん、今日も練習を見に行くの?」

「ゴメンね、折角誘って貰ったのに。
 本音を言うなら、駅前にボコが来るって言うなら、何よりも優先したいんだけど、車長専任免許を取るには、もっと頑張らないとだから。」

「そう言う事ならOK。駅前の生ボコは、携帯で写真に撮って、後で携帯に写メしてあげるよ。」

「うん、ありがとう♪」

「それにしても、車長専任免許を取ってまで戦車を続けるって……本当に戦車が好きなんだね、みほちゃん?」

「うん、好きだよ?大好き!」

そして、現在私は『車長専任免許』を取得する為に、猛勉強中!!此れを取得する事が出来なかったら、二度と戦車に乗る事が出来ないかもだ
から、本気だよ。

左腕のない私は車長専任免許を持って居ないと戦車道をやる事は出来ないし、戦車道を続けて行かないと、友達との約束も果たせないからね。
片腕だからって、諦める事だけはしたくなかったから。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ プロローグ
『隻腕の軍神の序章です』










私が片腕を失ったのは今年の、6年生に進級してからの事だった。
始業式を終えて、友達と一緒に下校していた時に、居眠り運転(?)的な、暴走スポーツカーが私達に向かって突っ込んできて、下校グループの何
人かは、ギリギリ避ける事が出来たんだけど、私は逃げ遅れた友達を助ける為に飛び出して、ね。

其処から先の事は覚えてなくて、次に目を覚ました時には病院で、其処で私は左腕を失った事を知った。
左腕を失ったって言う事に、お母さんと姉ちゃんは動揺してたけど、私はある意味で冷静だった――或は私が助けようとした友達が無事だったか
らかも知れないけど、私は『左腕一本で済んでよかった』って言う思いが有った。

まぁ、意識が戻ってからお母さんに見せて貰った新聞を見る限り、物凄い事故だったみたいで、死者が出なかったのが不思議なレベルだった訳だ
っから、其れを考えると、左腕1本で済んだのは、本気で御の字だと思うんだ。

でも、同時に私の中には不安が渦巻いていた――『片腕でも戦車道を続ける事が出来るのか』って言う事が。
エミちゃんとの約束が有るから、やめたくなかったけど、片腕じゃ出来る事が限られるから、普通に戦車道を続ける事は無理だと思ってた――でも
道は途絶えていなかった!

『車長専任免許』を取得すれば、私みたいな身体障害者でも、戦車道を続ける事が出来るから!――だから、私は其れを取る事に躍起になった。
其れを伝えたら、お母さんも理解を示してくれて、西住流の門下から教官を選んでくれたし、



「みほ、今日も来てたのか?熱心だな。」

「お姉ちゃん!
 うん、車長専任免許の取得試験まで、あと1ヶ月だから、其れまでに出来るだけ多くの戦術的知識を付けておきたいもん。」

「ふふ、みほらしいな。だが、其れは正しい事だ。
 西住流は元より、他の戦い方も知っていれば柔軟な思考も出来る。お母様も、其れを考えて『みほが練習を見に来た時には、西住流以外の様
 々な戦術を見せるように』と仰ったのだろうな。
 今日は、所謂待ち伏せ作戦を幾つかやろうと思うから、良く見ておくと良い。」

「うん!其れと、待ち伏せされた時に如何動けばいいかも考えるんだよね?」

「その通りだ。」



私が練習を見に行った時には、色んな戦術を見せるようにって、お姉ちゃんにも言ってくれたみたいだから。
で、お姉ちゃんもお姉ちゃんで、本当に色んな戦い方を見せてくれて、退院してから今までの間で、私の戦車の戦術的知識は数倍になったって言
っても、多分過言じゃないよね。



「熱心ねみほさん?感心感心!戦術的知識は、本で学ぶよりも、実戦でバーッとやってガーっとやるのを見て学ぶのが一番よ!」

「蝶野さん……相変わらずアバウトですね?」

「気にしない気にしな~~い!最終的に分かれば問題ないんだし。
 それで、今回は待ち伏せ戦法みたいだけど、みほさんだったらこの待ち伏せに遭った場合、どう対処して切り抜ける?」



そうですね……今みたいに、Ⅲ突メインで待ち伏せていた場合は、即時部隊を展開してⅢ突の側面を抜いて撃破した後で、残るⅢ号を狙います。
Ⅲ突の75mmは強力ですけど、回転砲塔が無いので、側面を取ればこちらが有利な上、Ⅲ突を沈黙させてしまえば、主力のパンターでⅢ号を撃
破するのは容易だと思いますから。

或は待ち伏せ部隊に正面から突っ込んで中央突破して、其のままその場から離脱して態勢を立て直すって言うのもアリだと思いますけれど。



「前者は兎も角、後者は普通は思いつかないんだけど……本当に、みほさんは定石に捕らわれない柔軟な発想が出来るのね。
 其れで居て、車長専任免許の取得に必要な定石通りの考え方も出来るって言うんだから、免許を取得して本格的に戦車乗りとしての訓練を積
 んだらどれ程の物になるのか、正直予測すら出来ないわね……」

「そうなんですか?」

「そうよ♪
 師範がみほさんに、車長専任免許を取得する事を了承したのも分かる気がするわ~~~……此れだけの才能を、開花させずに終わらせるのは勿体ないモノ。

「???」

最後の方がよく聞き取れなかったけど、まぁ良いか♪
兎に角、免許取得試験まであと1ヶ月だから、全力で頑張らないと!何よりも、お母さんもお姉ちゃんも、そして蝶野さんも此れだけ協力してくれた
んだから、免許が取得できなかったら嘘だからね。



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と、言う訳で1ヶ月が経って、無事試験が終了。あとは結果を待つだけなんだけど……うぅ、流石に緊張するなぁ。
合格者は電光掲示板に受験番号が表示される――私の受験番号は1023番……1018、1021……1023!!やった、受かった~~~!!!

これで、私はまた戦車に乗れる!エミちゃんとの約束を果たす事が出来るんだ!



「おめでとう、みほ。これで、戦車道を続ける事が出来るな。」

「ありがとうお姉ちゃん!
 お姉ちゃんが、色んな戦術を見せてくれたおかげだよ!」

「そんな事は無いさ……私はあくまで協力しただけ。合格できたのはみほの力だよ。」

「そうかな?」

「そうだよ。
 でも、兎に角合格できてよかったよみほ。――あの事故の後、もう二度と戦車に乗る事は無いんじゃないかって、左腕を失った事で自棄になって
 しまうんじゃないのかって本気で心配だったんだが、如何やら杞憂だったみたいだ。」



あの事故の写真を見たら、左腕だけで済んだのが奇跡みたいなものだからね。(汗)
それに、私は戦車が好きだから、絶対に辞めたくなかったんだよ、お姉ちゃん。



「其れを聞いて安心した。
 諦めない意思……其れはつまり『鋼の心』その物だ。――西住流戦車道の根幹を成す『強い意志』を、本当の意味でみほは備えているんだな。」



そう、なのかな?よく、分からないや。
兎に角、此れで私はもう一度戦車に乗る事が出来るんだから、頑張って自分の進む戦車道を見つけないとだね!



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其れからあっと言う間に時が経って、気が付けば年末。
秋口には、小学生の戦車道の大会が有って、試しに其れに出場してみたんだけど、決勝で戦ったチームの隊長の銀髪の子強かったなぁ?機会が
あったらもう一度戦ってみたいよ。

まぁ、其れは其れとして、この時期は何処の中学に進むかを決めないとなんだけど……

「お母さん、なんでこの中学?」

「決まってるでしょう、お母様の暴挙から貴女を護る為&あの人を納得させるためです。」

「……一体何があったのですか、お母様?お婆様と……」

「あの人は、今のみほを黒森峰の中等部に進学させろって言って来たのよ!
 黒森峰は良くも悪くも実力至上主義だから、みほならば問題ないでしょうけれど、それ故に果たして隻腕の新入生に対しての風当たりは強い筈。
 何らかの実績があるなら兎も角、専任免許を持っているだけの新入生では、格好の攻撃の的になってしまう――そんなのは認められないわ!
 みほが黒森峰に進むのは高校から……其れこそ、中学戦車道で結果を残して、黒森峰からスカウトされるくらいになってからの事よ。」

「お婆様……私だけでは飽き足らず、みほにも己の考える西住流をさせようと言うのか?……其れは絶対無理だと言うのに。
 と言う事は、この中学戦車道全国大会万年1回戦敗退の弱小校にみほを進学させて、戦車道チームを立て直させた上で結果を出させると?
 ……お母さま、其れは無茶振りだと敢えて言ってみます!」

「仕方ないでしょう!こうでも言わないと、あの人は退かないでしょうが!
 其れに、此処であの人の言う通りにしたら、貴女があの人の言う西住流を敢えて体現してる意味がなくなってしまうでしょうまほ!!」

「其れは確かに。」



あ~~……お婆ちゃんか。其れは確かに面倒だよね。
お婆ちゃんは、兎に角『常勝不敗』を謳う人で、西住流は絶対に勝たねばならないって思ってて、『戦車道はあくまでも武術で有って、大切なのは
勝つ事よりも武人としての礼を欠かない事だ』って考えてるお母さんとの折り合いが凄く悪いからね。

お姉ちゃんは自分が、お婆ちゃんの言う西住流を体現できるって理解してるみたいで、其れをやってるけど、同時にお母さんの言う西住流も行って
居るから、本気で凄いよ。――ただの一度、エミちゃんが責めた試合を除いては、常に武人としての礼を払った上で完全勝利を手にしてるからね。


とりあえず話を纏めると、お婆ちゃんを納得させるために、私はその万年1回戦負けの学校に進学して、其処で結果を残せば良いんだよね?
其れこそ、絶対王者黒森峰の高等部からスカウトが来るくらいに。――いいよ、その話受けた!

お姉ちゃんみたいに黒森峰に進学して、ユース代表に選ばれるって言うスター街道は、憧れる物が有るけど、私は其れよりも弱小校の立て直しの
方が燃えて来るし、万年一回戦敗退の学校が、行き成りベスト4とかに残って、その後の大会で優勝とかになったら凄く痛快だもんね。

だから、私は其処に行くよ――『私立 明光大付属中学校』に!
私が居る3年間の間に、必ずこの学校を中学戦車道の全国大会で、優勝させて見せるから!!



「良く言ったわみほ!それでこそ、此れを選んだ意味もあったと言うモノだわ。
 先ずは、中学で貴女の力を見せなさい?貴女ならば、此の弱小校を作り変える事が出来ると、私は信じているから。」

「うん、頑張るよお母さん!」

きっと、其れが私の戦車道を見つける事にも繋がるだろうから。



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で、あっという間に三学期が終わって、私も卒業して、春休みを堪能する間もないままに、中学校の入学式。
本州にある中学だから、実家の熊本からは自家用ヘリでの通学になるんだけど……此処が、此れから3年間、私が通う学校――悪くないかもね。

ともあれ、此処から始まるんだ――私の、私だけの戦車道がね。












To Be Continued…