Side:零児
ここでユーヤ・B・榊が暗国寺を下し、勝利を手にした(元々暗国寺を失格処分にするつもりだったが)か。
本人が好まなかったであろう、エンタメや笑顔のまったくない相手を潰すためのデュエルでな。
メンタル面が試合開始前から不安定で、暗国寺に明らかな敵意を向けていた以上はこうなって然りか。
まぁ、ペンデュラムのその先に到達していたことが改めて確認でき、戦力としては十分使えそうだがな。
沢渡によると、暗国寺の手下と思わしきものが遊勝塾のアユという少女に手をかけ、それと関連した卑劣な策を暗国寺が仕向けたとみて間違いないようだ。
榊が遅刻しかけた件も、メールによる脅迫があったと沢渡が証言している。
もっとも、暗国寺にエクシーズカードを渡したであろう何者かも絡んできそうだ。
何の後ろ盾もなしに使用できるとは考えにくいのでな。
一方で当の榊本人は泣き出してしまったか…心身ともにダメージは少なくはないだろうからな。
いずれにしろ、榊遊勝の跡を継いでのエンターテイナーとしての夢は遠のいてしまったようだな。
やはり彼女はエンタメデュエリストには向いていないことが改めて見て取れた。
沢渡との試合が好評だったのは、結局沢渡が目立ちたがり故にエンタメと相性が良かった事があるだろう。
もっとも、彼女も小技が光っていたのは間違いないが。
それは兎も角…今は後ろの暴れ鳥を何とかせねば。
「どこへ行く?」
「ユーヤ・B・榊に会い、カオス・リベリオンの出所を問いただす!」
「気持ちはわからなくはないが、今の彼女はメンタル面で不安定だ…痛い目を見るぞ。
それに理由はどうあれ、大会の進行に支障をきたしかねない行動は控えろ。
私がこの大会を利用して試みようとしている計画が何かを忘れるな。」
「ちっ……。」
出ていくのを堪えてくれたか。
紫吹も有望な人材だ、失うわけにはいかない。
『え~、この後予定されていた第3試合ですが…。
LDSの辰ヶ谷真文選手の欠場により、ルウィー教会のファントム選手の不戦勝が決定しました。』
「欠場?」
ふむ、融合コースの辰ヶ谷が欠場とな…?
それに光焔ねねが行方を眩ませた事といい、何かが起こっているのは間違いない。
「社長!今から3時間ほど前に舞網市内で高レベルのエクシーズ召喚の反応が検知されました!」
「エクシーズ…」
高レベルのエクシーズの反応…アヴニールからの刺客か?
「発生位置の監視カメラの映像を流します、ご覧下さい。」
ここで、モニターに監視カメラの映像が映し出されたわけだ。
その映像には路地裏で辰ヶ谷がローブに身を包んだ女性と思わしき人物にじわりと追い詰められていた。
――ピカァァァァ!!
「ん?」
すると、眩しい光が発した次の瞬間に…辰ヶ谷の姿が消えていた。
そしてその正体不明の人物が立ち去る。
ん?一瞬見えた顔…まさか?
「巻き戻せ。」
「はっ。」
――ぎゅるるるる…
「止めてから拡大しろ。」
「はっ。」
もしやと思い、顔が映し出された所まで巻き戻した後、拡大しておく。
そしてモニターに拡大された顔は…私が見覚えのある人物の顔であった。
「これは……遊勝塾の!?」
「いや…」
その顔は遊勝塾所属の柊柚子に酷似しているが、実際は違う。
モニターに映し出されたその人物には昔会った事があるのでな。
ふむ、彼女がこの次元にやってきたと……これは私自らが動き出す時が来たか。
超次元ゲイム ARC-V 第39話
『二輪の華の舞う裏で』
Side:沢渡
あれから警察が駆けつけて、暗国寺の手下どもは逮捕。
一応参加者の暗国寺の息がかかっている事で、レオ・コーポレーションにも連絡は入れておいた。
そして被害を受けたアユって子を救急車で運び、俺達も付き添いで来て搬送先の病院の待合室で待機。
それから榊の奴に連絡を入れて、病院に来させたわけだが…?
榊の奴…全身痣だらけだったり、泣きじゃくってたりとひでぇ有様だった。
「ひぐっ、ぐずっ…ごめんなさい、アユちゃん…!」
「いい加減泣き止めって…そりゃ、お前にも落ち度はないわけじゃねぇだろうけどなぁ。」
「余計落ち込ませるからやめてあげて、沢渡。
ブラン、あなたが必死だったのはわかる。
でも、あまり一人で抱え込まないでよ…!あたしたちをもっと頼ってよ…」
お前も程々にしとけよ、柚子…言わないでやるけどよ。
改めて例の脅迫メールの内容みたが…こりゃ榊の奴がパニックにもなるわ。
それ以前に光焔の奴がいなくなった事のダメージは俺達以上だろうしな。
「だけど、なんで沢渡が…?」
「その辺をウロウロしていたら、慌てていた榊とぶつかったわけだ。
で、会場と逆方向に走り出そうとするもんだから捕まえて問いただしたら、そのアユって子が誘拐されたらしいって吐いたんだ。
榊を不戦敗にさせるのは気に食わねぇし、代わりに救出を引き受けて今に至るわけだ。」
「お前、本当に沢渡か?」
「ねぇ、あなた…頭大丈夫?」
「お前ら俺をなんだと思ってんだ!!」
「あ、病院では静かにお願いします。」
「うぐっ…」
お前らにしてきた事を考えれば文句は言えねぇだろうけどさ!
「けど、すまねぇ…助け出すだけで精一杯だった。」
「君たちが駆けつけた時にはすでにあんな感じだったんだろう?」
「それでも、命に別状はないってだけでもホッとしたわ。
本当にアユを助けていただきありがとうございました!」
「おいおい、別に礼を言われるような事をしたつもりはないんだがな。」
アユの両親に礼を言われるが、とりあえず人として当然の事をしただけだ。
ついでにアユは命に別状はなかったそうだ。
むしろ、榊の方が重傷だな。
一体どんなデュエルをしたらああなるんだ…ったく。
「ところでこいつのデュエルはどうだったんだ?」
「一応勝ったには勝ったんだけど…」
「見ているだけでも辛い、凄惨な試合内容だった。」
「今はそっとしてあげてください…ブラン様も辛いのですから。」
「そうかよ…」
だが、勝ったにも拘わらずこの落ち込みよう…俺達が捕まえた奴らの親玉が相手らしいし、碌な事が無かっただろうな。
まぁ、今は聞かないでおいてやるか。
「とりあえず、榊…お前も診てもらえ。」
「うん……それと、アユちゃんを助けてくれてありがと…」
「ったく、これで借りは返したつもりだ。」
一先ずこれであの時の借りは返したわけだ。
後、この場にあいつの友人でもある光焔がいればな。
ったく、本当にどこへ行きやがったんだあいつは…?
――――――
Side:ブラン
暗国寺との試合から一日が経って少しだけ落ち着いた。
アユちゃんは少しだけ入院する事になった。
オレも暗国寺に痛めつけられた際の怪我があり、体の至る所に湿布を貼って包帯を巻いている。
正直あまり人に見られたくない痛々しい姿だ。
あの試合はまるで自分が自分じゃないようになって、わけがわからないうちに試合が終わっていた。
だけど、超えてはならない一線を超えてしまったのは間違いないわ。
正直、これからエンタメデュエリストとしてやっていけるのだろうかと苦悩している。
動揺すると、感情的になってエンタメなんて考えていられなくなる事を思い知らされた。
特にそうなりやすいと自覚しているオレの場合は猶更ね。
駄目だ…このままじゃ、ネプテューヌに顔向けできないわ。
デュエルでみんなを笑顔とか幸せにするとか言っておきながら、当のオレが何やってるのよ。
しっかりしろ、まったくもう。
『さて、舞網チャンピオンシップも7日目だ!
まずは、第1試合と行きたいところなのですが…。
LDSの光焔ねね選手の欠場が決定し、霧隠料理スクール所属の山越敦也選手の不戦勝となります。
いったいどうしてこうなったのか、ワタシにも何が何だか…』
「また欠場かよ!」
「何がどうなってんだおい!」
「つーか、またLDSかよ!絶対おかしいだろこれ!」
覚悟していたのだけど、この悲報が現実なのだと思うと憂鬱になる。
キモオタの欠場といい…何か大変な事がねねの身に降りかかったのだと思うと辛くて涙が溢れ出る。
「ねね……一体、どこへ行ってしまったの…ぐずっ。」
「ブラン…」
「くっ…ただでさえ辛い心境のブランに追い打ちをかけるように、友達の失踪とは…!」
それにしても、同じ融合コース所属の選手が立て続けに失踪するなんて…!
まさか、融合次元を滅ぼしたというエクシーズの奴らの魔の手に…!?
いや、駄目…そんな後ろ向きな事を考えてちゃ。
『気を取り直しまして、これより第2試合を開始したいと思います!
試合に参加される両者は、準備をお願いします!』
「あたしの番か…ここで会場を盛り上げないとね。」
昨日、オレが会場を冷やしてしまった分…柚子がしっかり盛り上げようとしてくれるみたい。
「でも、気を付けて…前にも言ったけど、相手はオレに先攻1キルした程の手練れよ。」
「心配してくれてありがと…でも、そう簡単にやられる程ヤワじゃないから。」
「兎に角、がんばって…」
「ええ、キッチリ楽しませるから!」
「その意気で熱血だ、柚子!」
そうして、柚子は試合場へ向かっていく。
オレもいつまでも気落ちしていたら駄目ね。
『お待たせしました!これよりLDS所属の光津真澄選手と遊勝塾所属、柊柚子選手の試合を始めます!』
「融合コースの宝石騎士使いの褐色美少女…断然俺はこっち派だ!」
「いや、可憐でストロングなエクシーズ使いの遊勝塾の看板娘っていう柊柚子だって負けてないぜ!」
「ふぅ、好カードすぎるぜ…どっちもがんばってくれ~!」
で、この盛り上がり様に困惑するわね。
彼らってホント馬鹿ね、まだ始まってもいないのに。
気持ちはわからなくもないけど。
柚子も結構人気が出てきてるわね。
「あなたがあの桜小路栗音を退けたという柊柚子ね。
それにしてもあなたの目、くすんでるわ。」
「そういうあなたも立て続けに…」
「待って、白熱するのはいいけどそれはいけないわ…」
柚子が無神経に言おうとした事を遮る。
皮肉で返そうとしたのはいいけど、それはオレや他の人にとっても洒落にならないから。
「こほん…それは置いといて、うちのブランを可愛がってくれたそうじゃない。
ブランの敵討ちを兼ねて…相手にとって不足はないわ!」
「せっかくの大会ですもの、それくらいの意気じゃないと困るわ。
これなら、わたしを楽しませてくれそうね。」
「あなただけでなく、みんなも楽しませるわ!
だって、あたしはエンタメデュエルの遊勝塾の看板娘だもの!」
だけど、柚子もエンタメデュエリストだ。
昨日オレがやらかしたとはいえ、冷えた空気をきっと変えてくれる。
情けない話だけど、世話をかけるわ。
――――――
Side:ロム
ブランお姉ちゃんが昨日中途半端に覚醒したので警戒に当たりたいところなのですが、ボクはそれどころではなくなりました。
というのも、昨日今日と立て続けに欠場者が出たためです。
しかも、その欠場者はお二方とも融合召喚の使い手と。
恐らくは、異次元出身の輩が荒らしまわった結果のではないかと考えています。
特にあの時の黒龍院のようなエクシーズ次元出身と思われる誰かの。
ブランお姉ちゃん周辺の監視は一先ずファントムたちに任せましょう。
そして、ボクはユース大会を行っている第一会場に足を運び試合を観戦しております。
「俺は魔法カード『融合』を発動!
俺は手札の『カオス・マジシャン』とフィールドの『魔導戦士 ブレイカー』を融合!
融合召喚!来い、レベル7『黒魔導の覇者-カオス・ブレイカー』!!」
『ハァァァァッ!!』
黒魔導の覇者-カオス・ブレイカー:ATK2000
ふむ、今試合している桜木イサムというLDSの方が融合召喚を使いましたか。
そうなると周りに不審な影は……ありましたが、これは…?
「柊…柚子?」
ローブに身を包んでいかにも不審者然とした恰好ですが…あの女、柊柚子でしょうか?
いえ、あそこにいるのはおかしいですね…彼女は今第2会場で試合を行っているはずですから。
――pipi
『こちら、ファントム…そっちで何かあったか?』
「え~と…今そちらで柊柚子は試合中ですか?」
『ああ、今から始まるところだけど…それが?』
「それなら結構です、確認のための通話でした…報告感謝します。
それでは引き続き、監視をお願いします。」
『お、おう…?』
成程…ファントムに連絡したところ、どうやらあの不審者は柊柚子ではないようです。
向こうで試合をしている以上…こんなところで観戦なんて真似はできませんから。
何より、柊柚子以上に好戦的そうな顔つきでしたからね。
彼女が融合使いを手当たり次第に襲っている可能性がある事を考えると、捨て置けませんね。
一先ず、彼女の動向を追う事にしましょうか。
我々の世界を土足で踏み荒らす招かざる客人には、少々痛い目を見てもらいたいところですから。
――――――
柚子:LP4000
真澄:LP4000
ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ:ATK0(ブリリアント・フュージョン効果)
ジェムナイトレディ・ラピスラズリ:ATK2400
ジェムナイト・ルビーズ:ATK2500
ジェムナイト・ガネット:ATK1900
ジェムレシス:ATK1700
Side:柚子
デュエルが始まり、先攻1ターン目から対戦相手の真澄が連続で融合召喚を畳みかけてきている。
初っ端から一気にモンスターゾーンを埋められてしまったわね。
「ジェムナイトレディ・ラピスラズリの効果を発動!
デッキ・エクストラデッキから『ジェムナイト』1体を墓地へ送り、フィールドの特殊召喚されたモンスターの数×500のダメージを相手に与えるわ。
現在、特殊召喚されたモンスターは4体…エクストラデッキから2体目のラピスラズリを墓地へ送り、2000ダメージを喰らいなさい!」
手札を使い切っているとはいえ、最初のターンで2000ダメージ…!
しかも、ブリリアント・ダイヤの効果はまだ使っていないみたい。
ブランが先攻1キルされた事があるって事は、まだ何かあるという事で間違いなさそう。
だったら、このダメージは回避しないとね!
「自分フィールドにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果を発動した時、手札からこのカードを特殊召喚できる!
お願い!『幻奏の音女ラメント』を特殊召喚!!」
幻奏の音女ラメント:DEF1800
『ら~♪』
――シュゥゥゥン……
「ダメージがかき消された…?」
「そして特殊召喚されたラメントが存在する限り、あたしは効果ダメージを受けなくなるのよ!」
「そうこなくちゃ面白くないわ…少しは歯ごたえがあるようね。」
「当然よ!これで終わってしまったら、みんなを楽しませられないもの!」
まずは相手の思惑を挫いたのだけど、それでなお不敵な笑みを浮かべているのが不気味ね。
でも、よかった…そう来てこそ盛り上げ甲斐があるというものよ!
『序盤から光津選手が大量展開からの先攻1キルを狙いにかかりましたが、柊選手がそうは問屋が卸さないと見事防いできました!
現状は光津選手が有利な盤面ですが、まだまだ勝負の行方はわかりません。』
今のところはまだターンが回ってないから盤面が不利なのは当然ね。
だけど、きっとすぐにひっくり返してみせるわ!その上でブランやみんなを楽しませるんだから!
――――――
Side:イサム
――ギィィ…
ユース選手権を順調に勝ち進んでいるところで俺を呼び出したのは誰だよ。
面倒だなぁと思いつつ、ドアを開けて地下駐車場に入る。
「俺を呼び出したのはあんたたちか?」
そこには恐らく男女二人の不審な人物の姿があった。
ローブで身を包んでいる事と言い、いかにも怪しそうな奴らだ。
――バッ…!
「お前の試合を見させてもらったが、融合召喚を使っていたよな?」
その内の女の方がローブを捨て、思わず見惚れそうな金髪美少女が姿を現したわけだが…?
それにしても、なんでそんな事を聞くんだ?
「そうだけど…だから何だよ……?」
「そうか…だとすれば、お前が融合の残党のようだな!
ならば、オレがやっつけてやる!」
「はぁっ!?意味わかんねぇっての!」
いきなり、融合の残党とかわけがわからない因縁つけてきてんじゃねぇよ!
というか女子にしてはやけに口悪いな、こいつ…最近の女子ってこうなのか?
「来ないならこっちから…」
――ガシッ…!
「なんだ、このガキ…離せ!」
「そうはいきません、不審な動きをしていたあなた方を追いかけて正解でした。
やれやれ…手当たり次第に融合召喚の使い手を襲おうとは穏やかではありませんね。」
「き…君は…?」
ここで10歳あるいはそれ未満の幼い女の子がやってきて、今にも襲い掛かってきそうだった金髪の少女の腕を掴んで止めた…?
確か、年齢的にはジュニアながら特例でジュニアユースに参加しているというあの…?
噂ではやたら強いとは聞くけど、それでも怖くないのかよ…?
「ルウィー教会のロムです、ここはボクが引き受けますからあなたは早く…」
「ネズミが一匹紛れ込んだようだが、まぁいい。」
――スタッ、スタッ…!
ルウィー教会の所属という少女に続いて姿を見せたのは…!
「社長さん!?」
「レオ・コーポレーションの社長…赤馬零児ですか。」
なんと、レオ・コーポレーションの赤馬社長さんだった。
一体、どうしてこんなところへ…?
「呼び出してすまなかったな、君はもう行きたまえ。
今日のデュエルは見事だった、今後も期待している。」
「行ってください!」
「…はい!」
成程、俺は囮に利用されたって事か…だけど、社長直々ならむしろ光栄かな。
あのロムって女の子を放っておくのは引けるけど…なんとかなると信じて立ち去るしかなさそうだ。
――ガシャッ!
はぁ…それにしても、LDS内でも最近失踪が多くなってきてるというし物騒な世の中になったなぁ。
――――――
Side:ロム
試合が終わったところで不審者が動き出したので尾行して来てみれば、案の定融合召喚を使用した彼を襲おうとしてましたね。
その不審者の内一人がローブを捨てた後の姿が柊柚子に似ておりますが、色々と違うので別人ですね。
彼女を抑えようとしたところで、レオ・コーポレーションの社長が姿を見せて襲われた彼は立ち去りましたか。
彼もまた、この不審者二人を追っていた様子ですね。
流石にボクが来た事までは想定していなかったようですが、開口一番にネズミ呼ばわりされるのは心外ですね。
とはいえ、ここで争っていても仕方ありませんが。
おや、ここで柊柚子に似た顔の不審者に手を振りほどかれてしまいました。
流石にボクの体格ではこれが限界でしたか。
「邪魔するな!そう来るなら、お前たちから倒す!」
「どこからやって来たのかは想像がつきますが、我々も舐められたものですね…ぷんぷん。
そちらはやる気十分のようですが、ここは身の程を知っていただくとしましょう。」
そちらから向かってくるのであれば、容赦無用ですね。
融合使いを狙っている事からも、彼女達は恐らくエクシーズの手の者達でしょうから。
そうなると、こちらとしては捕えて色々と尋問したいところです。
「いや、身の程を知るのは貴様らの方だッ…!」
――パサッ!
ここで、もう一人の不審者もローブを脱ぎ捨てて正体を見せましたか。
いかにも体育教師と言った風貌の青年で、いかにも暑苦しそうですね。
顔立ちこそは整っているようですが、悪い顔をしていて台無しです。
「手出しは無用だ、片桐!」
「悪いが、そうはいかんのだよ。
プロフェッサーから直々に、お前のお守りを頼まれているのでな。」
「チッ…!」
「プロフェッサー…赤馬零王の事か?」
「赤馬…零王?」
赤馬零王…赤馬零児の父親にしてレオ・コーポレーションの先代社長の事ですよね。
数年前から行方がわからなくなっていたと聞いてはいましたが、彼がエクシーズ次元でプロフェッサーになっていると。
「だとすると、お前たちは…!」
「いずれにしろ、我々に盾突く愚かな奴には…ン熱血指導だ!」
なんといいますか、いかにも体育会系で濃いお方のようです…調子が狂いますね。
ですが、来るというのであれば迎え撃つまでです。
そこで、デュエルの準備をしようと前に出たのですが…。
「何の真似ですか?ぷんぷん。」
「ルウィー教会のロムと言ったな?ここは私の街だ、どう守るかは私が決める事だ。
申し訳ないが、ここはあなたには手を出さないでいただきたい。」
「これは失礼…ここは大人しく引き下がるとしましょう。
何よりボク個人として、あなたには借りがありますから。
もっとも、そこの金髪の女が二人のデュエルに水を差す真似をするようならその限りではありませんが。」
「それはそれで結構。」
残念ながら、赤馬零児に制止されてしまいましたね。
この世界を踏み荒らす不届き者に裁きを下すのも我々の使命ですが、ここは彼に任せましょう。
ジュニアユース選手権への出場を特別に許可頂いた借りがありますからね。
ここで盾突いた所でここでのこちらの立場がより不利になるだけです。
それにこれは、レオ・コーポレーション社長の実力を見るいい機会でもあります。
ここは少女の動きに注意しつつ、しばし高みの見物と参りましょうか。
「ここを封鎖しろ、他に誰も入れるな。」
『了解しました。』
封鎖したという事はこの件が終わるまでボクも戻る事はできないようですね。
そうしてお互いにデュエルディスクを展開し、デュエルの準備が完了したようです。
あの片桐という方のデュエルディスクは、まるで剣のようなソリッドビジョンですね。
「「デュエル!!」」
零児:LP4000
片桐:LP4000
「まずは貴様から葬り去ってやる!!
俺の先攻!手札から『熱血獣王ベアーマン』を召喚!
こいつはレベル8だが攻撃力を1300にする事で、リリースなしで召喚できるッ!」
『ガオォォォォ!!』
熱血獣王ベアーマン:ATK1300(妥協召喚)
「さらに!俺のフィールドにベアーマンがいる時、魔法カード『ベアーズ・ブート・キャンプ』を発動!
デッキからレベル4の獣戦士族モンスター1体を特殊召喚できるッ!
来いッ!『熱血獣士パンサージョガー』!」
『オォォォォ!!』
熱血獣士パンサージョガー:ATK1800
デュエリストがあれなら、モンスターもそれに似ていわゆる体育会系という事ですか。
個人的には暑苦しいノリは苦手です。
「ンまだだっ!俺は『熱血獣王ベアーマン』の効果を発動!
自分フィールドの獣戦士・レベル4のモンスター全てのレベルを8にする!」
熱血獣士パンサージョガー:Lv4→8
ここでレベル8のモンスターを2体揃えてきましたか。
「俺はレベル8となったパンサージョガーとベアーマンでオーバーレイ!
我々に盾突く奴に、ン熱血指導を刻み付けろ!エクシーズ召喚!出でよ、ランク8!ン『熱血指導王グレイトレーナー』!!」
『フンヌォォォォォォ!!』
熱血指導王グレイトレーナー:ATK2700 ORU2
やはり、ここでエクシーズ召喚をしてきましたか。
これはエクシーズからの刺客で確定ですね。
でも、出てきたのは結局体育会系のモンスターですか。
『昨日検知したものとほぼ同レベルの召喚反応を確認しました!
間違いなく、相手はエクシーズ次元のデュエリストのようです。』
「わかっている。」
今、赤馬零児のデュエルディスクから聞こえましたね。
成程、召喚反応の強さでどの次元出身かを見抜く事ができるわけですか。
余程用心していない限り、侵入者やスパイなどは簡単に割り出されるという事でしょうね。
「俺はグレイトレーナーのン熱血効果を発動ゥ!
1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手の手札をランダムに1枚破壊する!
まずは活を入れてやる!お前から見て右から2番目の手札を破壊だァ!!」
熱血指導王グレイトレーナー:ORU2→1
「ふむ…」
「ンまだまだッ!破壊したカードがモンスターカードだった場合、お前に800のダメージを与える!
破壊したカードはモンスターカード『DDバフォメット』…喰らえ、800のダメージを!!」
「くっ…」
零児:LP4000→3200
1ターン目から手札破壊に加えてダメージですか。
最初のターンから効果的な戦術で攻めてくるようですね。
「1ターン目から地道に手札とライフを削っていく…。
態度に反して元教官らしい嫌らしい戦法で、イラつくってもんだぜ。」
「成程、意外と堅実なのですね。
いえ、指導を叩き込むとなればむしろこうなりますか。」
「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドッ!」
でもって、ここでターンを終えましたか。
もっとも、その戦術は場合によってはむしろ命取りになる事もありますがね。
赤馬零児…あなたにとってこの程度は大したことないでしょう?
「私のターン、ドロー。
私は永続魔法『地獄門の契約書』を発動!
原則として契約書は自分のスタンバイフェイズ事に自分自身が1000ダメージを受けるリスクのあるカードだ。」
「ほう?自らダメージを受けるとは、いい根性だな。」
「だが、それと引き換えに1ターンに1度…デッキから『DD』モンスター1体を手札に加える事ができる。
この効果でチューナーモンスター『DDナイト・ハウリング』を手札に加え、召喚する!」
DDナイト・ハウリング:ATK300
これが噂に聞く『契約書』ですね。
正にハイリスクハイリターン…一企業の社長にふさわしいと言えそうな戦術です。
もっとも、リスクはタイミングが遅い事もあって踏み倒すのも容易そうですが。
「ナイト・ハウリングが召喚に成功した時、墓地より『DD』1体を攻守0にして特殊召喚できる。
この効果でそちらのカード効果により墓地へ送られた『DDバフォメット』を蘇らせる!」
DDバフォメット:ATK1400→0(DEF1800→0)
「折角のグレイトレーナーの熱血効果を逆手にとるだとッ…!?」
「手札破壊を逆利用された気持ちはいかがでしょうね…くすくす。」
「貴様ッ…!」
「相手を履き違えないでいただこう…ここでDDバフォメットの効果を発動する!
このカード以外の自分の『DD』1体のレベルを1から8のいずれかのレベルに変更できる。
この効果でDDナイト・ハウリングのレベルを1に変更させてもらう。」
DDナイト・ハウリング:Lv3→1
レベルを変更したという事は…ここはレベル5のシンクロ狙いですか。
「私はレベル4のDDバフォメットにレベル1となったDDナイト・ハウリングをチューニング!
闇を切り裂く咆哮よ!猛き暴風を纏いて、新たな王の産声をあげよ!シンクロ召喚!降誕せよ、レベル5『DDD威風王ダレイオス』!!」
『ヌオォォォォォ!!』
DDD威風王ダレイオス:ATK2200
やはり来ましたか…攻撃力ではグレイトレーナーに届いていないのでここは効果次第と言ったところですね。
「ダレイオスの効果を発動!
1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の魔法・罠1枚を手札に戻し、攻撃力をターンの終わりまで800アップする。
この効果で『地獄門の契約書』を手札に戻し、ダレイオスは攻撃力を800アップし3000となる!」
DDD威風王ダレイオス:ATK2200→3000
「グレイトレーナーの攻撃力を上回っただけじゃなく、デメリットのある永続カードを手札に戻しただと…!
ちっ、スタンダードの奴が永続カードを上手く使うとは…!」
あの少女の目の付け所、なんだか引っかかりますね。
シンクロ召喚を使用した事よりそこに目を付けるわけですか。
もしかして、彼女は永続カードを主体としているのでは?と思ったりします。
いずれにしろ、我々を甘く見られたものですが。
「さらに永続魔法『魔神王の契約書』を発動!代償は先ほどの地獄門と同様だ。」
「地獄門じゃないだと…?」
流石に同名のターン制限はあるでしょう。
とはいえ、ダメージのリスク回避目的だけでも手札に戻す価値は有りですが。
「代わりに墓地から素材を除外する事で『DD』モンスターの融合召喚を行う事ができる!」
「シンクロの次は墓地から素材を除外しての融合だと…?」
「私は墓地のバフォメットとナイト・ハウリングを除外し融合!
闇を切り裂く咆哮よ!異形の神に溶け込み、真の王と生まれ変わらん!融合召喚!出でよ、神の威光伝えし王『DDD神託王ダルク』!!」
『はぁぁぁぁっ!!』
DDD神託王ダルク:ATK2800
「今度は攻撃力2800…!」
シンクロ召喚に続き、墓地融合までこなしてきますか。
この融合モンスターもグレイトレーナーより攻撃力の高いようですね。
「バトル!神託王ダルクでグレイトレーナーを攻撃!『オラクル・チャージ』!!」
――ザスッ!
「ぐっ…!」
片桐:LP4000→3900
「だが、パンサージョガーを素材にしたグレイトレーナーは1度だけ戦闘ではやられんのだよ!」
「ならば、もう1度攻撃するまでの事…やれ、威風王ダレイオス!」
――ズバァッ!!
「ぐおおっ…!」
片桐:LP3900→3600
ふむ…2枚ある伏せカードを発動しなかったのが気がかりながら、グレイトレーナーを処理できましたね。
そうなると、あの伏せカードはブラフ?それとも何か違う条件があるのでしょうか…?
「私はカードを2枚伏せてターンエンド。
この瞬間、ダレイオスの攻撃力は元に戻る。」
DDD威風王ダレイオス:ATK3000→2200
「フッククク…」
「む?」
「この程度で俺のン熱血指導が止むと思わない事だ…!
うぉぉぉぉぉぉぉ!!このエンドフェイズに罠発動『エクシーズ・リボーン』!
この効果で『熱血指導王グレイトレーナー』を蘇らせ、このカードを蘇生したモンスターのオーバーレイ・ユニットとする!」
『フンヌォォォォゥゥ!!』
熱血指導王グレイトレーナー:ATK2700 ORU0→1
成程、伏せカードのうち1枚の正体は蘇生カードでしたか。
しかも素材付きで出すためにまた効果を使えるわけで、また手札破壊が飛んでくるということですか。
それにしてもやたら叫び声が大きいですね…いらいら。
「破壊される事も織り込み済みだったというわけか。」
「ンまだまだッ!自分フィールドに炎属性モンスターが特殊召喚された事で罠カード『熱き咆哮』を発動!
相手フィールドの効果モンスターの効果を全て無効にし、デッキから炎属性の獣戦士族モンスター1体…『熱血獣士ウルフバーク』を手札に加えるッ!」
『ウォォォォォォォォォ!!』
DDD威風王ダレイオス:ATK2200(効果無効)
DDD神託王ダルク:ATK2800(効果無効)
それだけでなく、処理される事も織り込んで次の展開に繋いできますか。
その上、2体の大型モンスターの効果を無効にでさせられたというのも地味に来ますね。
何より発動タイミングの都合上、赤馬零児の2枚の伏せカードはまだ発動できないわけです。
もっとも、効果を受けた彼が動揺する様子もなく…まだまだ余裕綽々と言ったところですね。
「勝利のために主力を処理されるリスクを見込んで着実に手をうつ。
腐っても異世界の戦士という事か…無駄にうるさい所を除けば、相手にとって不足はない。」
「当然だ、オレの付き人だからな…口やかましい所を除けば。」
「あなたたちもそう思いますか…しみじみ。」
彼も金髪の少女もアレがうるさいとは思っていたのですか。
熱血キャラにウンザリしている光景が想像できますね。
「貴様らァ!俺に仇なすそのふざけた根性……ン熱血指導だァァァァァァ!!」
「すまない…前言撤回して構わないだろうか?」
「別にいいと思います。」
味方にさえ煽られてこうなっている様では戦士としても駄目そうですね。
いくら実力が高くてもあれでは淘汰されて然りだと思います。
これから彼の猛攻が来るのは間違いないと思いますが、それをどのように凌ぐかが見物ですね。
続く
登場カード補足
幻奏の音女ラメント
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻 800/守1800
(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、相手がモンスターの効果を発動した場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):特殊召喚されたこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受ける効果ダメージは0になる。
DDD威風王ダレイオス
シンクロ・効果モンスター
星5/風属性/悪魔族/攻2200/守1600
チューナー+チューナー以外の「DD」モンスター1体以上
(1):1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻し、このターンこのカードの攻撃力は800アップする。
(2):S召喚したこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「契約書」カード1枚を手札に加える。
熱血指導王グレイトレーナー
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/炎属性/戦士族/攻2700/守1500
レベル8モンスター×2
「熱血指導王グレイトレーナー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
相手の手札をランダムに1枚選んで破壊する。
破壊したカードがモンスターカードだった場合、相手に800ダメージを与える。
熱血獣士パンサージョガー
効果モンスター
星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守 600
(1):自分フィールドに獣戦士族・レベル4のモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードをX素材とした炎属性のXモンスターは、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。
黒魔導の覇者-カオス・ブレイカー
融合・効果モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1400
「魔導戦士 ブレイカー」+「カオス・マジシャン」
(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動する。
このカードに魔力カウンターを3つ置く。
(2):このカードの攻撃力は、このカードの魔力カウンターの数×300アップする。
(3):このカードはレベル7以下のモンスターの効果の対象にならない。
(4):1ターンに1度、このカードの魔力カウンターを1つ取り除き、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
ベアーズ・ブート・キャンプ
通常魔法
(1):自分フィールドに「熱血獣王ベアーマン」が存在する場合に発動できる。
デッキから獣戦士族・レベル4のモンスター1体を特殊召喚する。
熱き咆哮
通常罠
(1):自分フィールドに炎属性モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。
相手フィールドの表側表示モンスターの効果を全て無効にする。
その後、デッキから獣戦士族・炎属性のモンスター1体を手札に加える。