――遊勝塾・アクションデュエル場――


Side:ブラン


ブラン:LP4000

柚子:LP4000
裏守備モンスター×1




「これであたしはターンエンド!!」


今、オレはストロング石島の弟子が敵討ちというシチュで柚子とデュエルしているところよ。
あれから遊勝塾への入塾希望者が殺到して大変なことになっているの。
といってもペンデュラム召喚目当てで来た人が多いみたいなのだけれどもね。
でも、ここにきただけでペンデュラム召喚が使えるというわけにはいかない。

そもそも、ここはあくまでもアクションデュエル専門の塾なのよ。
本音を言えばペンデュラム召喚目当ての客にはお断り願いたいわね。


「頼むぜ、ブランお姉ちゃん!」

「ペンデュラム決めて!」

「「「「「「ペンデュラム!ペンデュラム!」」」」」」

「ほら、みんな期待してるんだから!」


でも、オレもエンタメデュエリストの端くれだもの。
それに元々いた二人――アユちゃんとフトシもそれを期待してる。
そうね、期待には応えなくちゃ。
あの時の記憶はないけど、ペンデュラム召喚のやり方もニコというMCに譲ってもらったVTRを見て大体わかった。
あの意味不明なカード――ペンデュラムカードの謎の数値の意味は多分その際に必要な数値なんだ。


「任せて。わたしのターン、ドロー。早速、皆さんお待ちかねのペンデュラム召喚を披露します!
 わたしはスケール5の『甲殻砲士ロブスター・カノン』とスケール8の『時読みの魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!」

甲殻砲士ロブスター・カノン:Pスケール5
時読みの魔術師:Pスケール8→4



「あっ…。」

「アカン。」

「…。」

「「「「「「ペンデュラム!ペンデュラム!」」」」」」


よし、これでレベル6と7のモンスターが同時に召喚可能…のはずよ。

「いくわ、ペンデュラム召喚!来なさい『甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター』!」


よし、これでオレのエースが出てくるはず…。


―ERROR―


「え、エラー…?」


そんなはずは、もう一度…!


―ERROR―


やっぱり上手くいかない…どういうことなの?


「ペンデュラムカードのスケール内には合っているはずなのに…。」

「ん?ペンデュラムカード?」

「なんだ、それ…?」


――ざわ、ざわ


「何も出ないね。」

「おう、どうなってんだろう…。」


あわわわわわわわ、ま、まだ慌てるような時間じゃなななないわ…!


「ブラン、時読みの魔術師がいるところの数値をよくみて!」

「え…あっ。」

そんな、ペンデュラムスケールの値が4になっているわ…!でもこのカードには8って…。
まさかカードテキストの上に別枠である記述って…あ、駄目だこれ!
それに魔術師カードは兎も角、オッドアイズカードって何よ…?
オッドアイズなんて前に使った覚えのあるオッドアイズ・ドラゴンくらいしか知らないしあれはペンデュラムじゃないわ。
これじゃペンデュラム召喚できないじゃない…!


「ねぇ…ペンデュラム召喚、まだなの?」

「早く見せてくれよ!」


ま、まずいわね。とりあえず適当に誤魔化そうかしら…!


「ペ、ペンデュラム召喚!!穿て、紅き弾丸!現れろ『ザリガンマン』!!」

『ヌゥゥンッ!!』
ザリガンマン:ATK1800



ちなみにこいつは手札かフィールドのザリガンをリリースした場合のみ出せる中々強力な牽制効果を持つモンスター。
一応わからないように手札のザリガンをリリースさせてもらったけど…誤魔化せてるかしら?


「ぶぅー!なによそれ!」

「違う、そうじゃない。」

「誤魔化しやがったな!よくも僕を騙したぁぁぁぁぁ!!」

「手札のザリガンをリリースしたの見えてたぞ!」


ううっ、ソリッドビジョンは空気を読んでくれないし…やっぱり、バレるわよね。
でも仕方ないじゃない、できないものはできないの…ひぐ。


「誤魔化し方、下手すぎよ…。どわーっはっは!その程度のモンスターだけとはこの泣き虫め!
 しかも慌ててるようじゃ、見た目だけじゃなくて中身も幼女なようね!!」


おい、今なんつった柚子…!オレの事、そんな風に思ってたのか!!
悪役の役回りを押し付けていることから負い目はあるとはいえ…。


「あーもう!頭来た、ストロング柚子!!バトル!ザリガンマン、セットモンスターを切り裂け!『クリムゾン・エッジ』!!」


――カッキィィン!!


幻奏の音女セレナ:DEF1900


げ、セレナじゃねぇかよ…!
アクションカードも拾ってないから、破壊できない!


「セットモンスターはセレナ。守備力は1900よ!反射ダメージを受けなさい!」

「あいたっ…!」
ブラン:LP4000→3900


あ…セレナを倒せなかったのは厳しいし、しかも手札を無駄に2枚も使っちゃった。
しかも伏せられるようなカードもない…。


「う、あ…ターンエンド…!」

「あちゃ…この様子だとアクションカード探す気力もなさそうね。あたしのターン、ドロー!
 セレナは天使族のアドバンス召喚のリリースにする際、2体分として扱える!
 あたしは2体分としてセレナをリリース!『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』をアドバンス召喚!!」

『アッハハハハハ!!』
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト:ATK2600



「プロディジー・モーツァルトの効果発動!1ターンに1度、手札から光属性の天使族1体を特殊召喚できる!
 あたしは『幻奏の音女エレジー』を特殊召喚!
 特殊召喚されたエレジーがいる限り、あたしの天使族の攻撃力は300アップする!」

『ラーラーラー!』
幻奏の音女エレジー:ATK2000→2300
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト:ATK2600→2900



「あ…くっ。」


幻奏の厄介な所は特殊召喚されると耐性含め適用される効果が多いこと。
しかもエレジーにはもう1つ厄介な効果がある。


「これでダメ押しよ!自分フィールドに幻奏モンスターがいる場合、このカードは手札から特殊召喚できる!『幻奏の音女ソナタ』を特殊召喚!
 ソナタがいる時、あたしの天使族の攻撃力と守備力は500ずつアップする!」

幻奏の音女ソナタ:ATK1200→1700→2000 DEF1000→1500
幻奏の音女エレジー:ATK2300→2800 DEF1200→1700
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト:ATK2900→3400 DEF2000→2500



もうダメだ。アクションカードを探す気力もない。
でも、悪あがきだけはしておくわ。


「ここでザリガンマンの効果発動。手札の水属性モンスター1体を墓地へ送り、相手の特殊召喚されたモンスター1体を破壊する!
 通常召喚されたモーツァルトは対象にできない…だからエレジーを破壊する!『スカーレット・バレット』!!」

「特殊召喚されたモンスターしか破壊できないのが仇になったわね!
 エレジーがいる時、あたしの特殊召喚された幻奏と名のつくモンスターは効果では破壊されない!」


知ってた、わかってたさ…!


「まずは邪魔なそのザリガニに消えてもらうわ。エレジーでザリガンマンを攻撃!」


『ラァァァァァ…!』


「うぅっ、くっ!!」
ブラン:LP3900→2900


「これで終わりよ!プロディジー・モーツァルトでダイレクトアタック!『グレイスフル・ウェーブ』!!」


――シュオォォォォォォ!!



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!げふっ!?」
ブラン:LP2900→0


あ、が…いたた…。


「え、もう終わり…?」

「ペンデュラム召喚は…?」


あの状況でどうペンデュラム召喚しろと…?無理言わないで…!!


「ペンデュラムカードを張替えしない限り…あの状況じゃできるわけないじゃない…ひぐ。」

「やっぱり今、ペンデュラムカードって!!」


あ、拙い…!


「それとブラン、そのカード見せて!」

「あっ…!」

「これがペンデュラムカード。」


柚子に抜き取られたのは時読みの魔術師のカード…ペンデュラムカードだ。
そして見学者にそのカードが見せられる。


「は?これがなきゃ、ペンデュラム召喚できないのかよ。」

それ、ズルじゃん。つか、ペンデュラム召喚って最初からないんじゃねぇの?」

「石島戦はシステムに細工したんだろ!じゃなきゃモンスターの大量召喚なんかできるわけねぇし!」

「そこまでして勝ちたかったの?」

「やっぱり卑怯者の娘ってことね、帰ろうよ?」


やめて、オレはそんなこと…!あの時は無意識に…!
あ、大勢の入塾希望者が帰宅を始めちゃう。


「あ、あっ…!」

「ぎゃあぁぁぁっ!折角の入塾希望者が、俺の熱血がぁぁぁ!!


あはは…あの時の石島戦は嘘だったのかな…?
オレは…何も変われてなかったの?…ぐす。


ブランお姉ちゃんは卑怯者なんかじゃない!!それに細工もしてない!

「え…!」


…!?
あれは前にも来たあの子、また来てくれてたんだ…!


「正々堂々と石島と戦って勝ったんだ!ペンデュラム召喚で勝ったんだ!!」


ありがとう。でも、そんな言葉オレにはもったいないよ。
あの時、ペンデュラム召喚した記憶はオレにはないんだよ…!
そう考えていたら権現坂が次の事を言ってくれたんだ。


「ブラン!ファン第1号にこんな事を言われて恥ずかしくないのか!悔しくないのか!」

「ファン…第1号…!」


ああ、あのペンデュラム召喚含めて感動してくれた人が確かにここにいる。
そうだ、さっき無様なデュエルを見せてしまったのはとても悔しいよ!


「そう、この子はあの時見学に来てくれたタツヤ君。」

「あのデュエルを生で見てすっかりファンになったんだって!」

「くぅー!痺れるぅー!」


どうでもいいけど、フトシが本当に痺れたらどうなるんだろう?


「僕、すごいと思った。あんなのお客さんがデュエルでブランお姉ちゃんのデュエルで1つになって…」


あ…そうだ…!あの時の一体感が嘘であるはずがない。


「僕もあんなデュエルがしたいと思った!ブランお姉ちゃんみたいなデュエルが!」


この子だってオレのデュエルでこんなにも感動してくれたんだ。
ああ、そうだ。このまま終わってしまうもんか!!

「オレも…もう1度あんなデュエルをしたい!あの大観衆の前で!


あの時の盛り上がり…忘れるもんか。
そういったデュエルを何度でもやりたい!!


「お前は…あのデュエルで生まれ変わったはずだ!もう逃げない男に!」

「ん?」

「権現坂…言葉の綾だと思うけど、女だけどな…!


おい、一気にこの空気が台無しだよ!


「そ、それは今は細かいことだろう!ごほん!だから頑張れ、ファンのために!」


いや、細かくはないだろう…もういいけどね。


「俺たちだってファンだぜ!」

「これからもずっと!ね、タツヤ君。」

「うん!」


それは置いておいて、あのデュエルは決して嘘じゃなかった!
だから…さっきの事は反面教師にしてもっとがんばらなきゃ。


「エンターテイナーがファンをがっかりさせたら二流以下ね。
 次からはもっともっとみんなを楽しませなきゃ。あの時以上に。」

「そうだ、出来たファンは大切にしないとな。」


まずはペンデュラム召喚…。
意図せずとはいえ新しい召喚法を作ってしまった以上、それなりの責任がある。
だから、使いこなしてやる!必ず。


「心配かけてごめんなさい。
 決意も新たにしたところで、ペンデュラム召喚の特訓…誰か付き合ってくれないかな?」

「いいわよ!その代り、絶対に使いこなしなさい!」

「俺も付き合うぞ!いくぞ、ブラン!」

「ああ!!」


ありがとう、二人とも。












超次元ゲイム ARC-V 第2話
『奪われるペンデュラム』












―舞網市立第2中学校・教室―


あれから、オレと柚子と権現坂で徹夜しつつペンデュラム召喚の特訓を行った。
それで大量特殊召喚は魅力なんだけど、この前のデュエルのように手札消費が激しいのは結構きつい。
それに都合よく2枚のスケールに合ったモンスターがいるとは限らないという問題も出てきたわけだ。
オレのデッキにはまだまだエース級のモンスターが存在しているわけだし、できるだけ効果的に使える時を狙って使いたいところね。
なお、ペンデュラム召喚自体は1ターンに1回しか行えない。

それと、ペンデュラムモンスター独特の性質は中々優秀よ。
いつになるかはわからないけど、他の召喚法と併用してみたいところね。

ただしペンデュラムスケールとして置く場合、ペンデュラムモンスターはどの分類にもない魔法扱いで発動される。
その後もモンスター扱いでなく魔法扱いなのでサイクロンとかで割られる危険もあるわけだ。
そういったことに留意しながらこれからは使っていきたいと思う。

ちなみにオレのデッキにはあの4枚以外にもペンデュラムに書き換えられたモンスターが存在しているわ。
今後は星読みや時読みはシナジーの都合上使わず、今までデッキに眠っていたペンデュラムを活用する方針でいくつもりよ。


「ふぁ〜あ…。」


それで、徹夜しちゃったから今はとても眠いのよね。
授業中なのにいつ眠ってしまうのやら…う。


「榊、この問題の答えは。」

「あ、はい。」


うっ、授業に集中できてなかったみたいね。
問題は連立方程式…よし。


「かくかくしかじかで…4です。」


このかくかくしかじかには触れたら駄目よ。
この程度は眠くても余裕だから。


「む、正解だ。眠そうなようだな。あまり夜ふかしするなよ。」

「ごめんなさい…むにゃ。」


もう駄目…おやすみなさい。


――パァン!


「…っ!」

「寝るな!この馬鹿ユーヤ!!こんな調子で問題に答えられてるのがすごいけどさ。」

「「「「「あはははは…。」」」」」


ごめん、柚子…そっちも遅くまで付き合ってくれたのに。
こんなんじゃ駄目ね、もっと気を引き締めないと。








――――――







――キーンコーンカーンコーン


それから放課後になり柚子と一緒に帰路につく。


「ねぇ、あの二人っていつも一緒だけど、もしかしてできてる関係なのかな?」

「ほほう?もしかしてキマシってやつですか?」


え、オレたち二人ってそういうふうに思われてたのか。


「あるあ…ねーよ!!」

「あ、さいですか。」

「ブラン、それって何のことなの?」

「別に柚子は知らなくていいことよ。」


…ネットサーフィンで拾った無駄知識だから。柚子はこういった変な言葉は知らなくていいからね。


「そう…あら?」

「「「ブラン姉ちゃんと柚子姉ちゃん!」」」

「みんな!」


おっと、塾生3人が迎えに来てくれたみたいね。この、かわいい子たちめ。


「お姉ちゃん、ペンデュラム召喚上手くいったんだって?」

「早くみたいな。」


あら、特訓のこと知られちゃってたみたいね。
そう見せるものでもないけど、できるだけリクエストには応えるのが正しいファンサービスだ。


「いいわよ、それなら遊勝塾でね。」


とまぁ、意気揚々と向かおうとしたところで…あれは?おっと!!


――ビュビュビュン!


危ない危ない、何かが頭上を通過していった。
咄嗟にしゃがんだおかげで回避できたわ。


「今、何か通過しなかった?」

「うん、後ろにダーツが落ちてる…どうも失礼な輩がいるみたいね。」


まったく、人に向かってものを投げつけるなんて。


「おやおや、君は勘がいいようだね。見事にかわされちゃったか。」

「どこの馬の骨かはわからないけど、ダーツは人に向かって投げるものじゃないって教わらなかった?」


吸盤付きみたいだったけど、それでも当たったら痛いんだから。
犯人は…いかにも金持ちそうで同年代の気障そうな男か。


「君、ユーヤ・B・榊だよね。」


こいつ、いきなり馴れ馴れしく近づいてオレの手を握ろうと…!


――ギュッ…バシッ…!


人の話聞けよ!てかいきなり人の手握んな気持ち悪い!!

「でたわ、ブランのキレ芸。」


柚子も余計なこと言わないの!あー!もう!!まずは人に向かってダーツ投げた事、謝れよ!!むかつくな!


「おや、これはいきなり嫌われちゃったかな。さっきは悪かったね。
 俺は1組の沢渡シンゴ、よろしくな。」

「む…。」


くぅ…!。なんというか、沢渡シンゴ――こいつのペースに乗せられそうだ。


「テレビで見させてもらった。すごかったよ、ストロング石島とのデュエル。
 特にあの、ペンデュラム召喚って最高!なんつったけ、あの使ってたカード。」


うわ…あれからペンデュラム召喚で絡む奴がでてくるようになったけど、こいつもそのクチか。
これはまた、面倒そうで。


「…ペンデュラムカードのこと?」

「そう、それ!ああいうレアなカードは特別な人間が選ばれて使えるようになるんだろうね。」

「おう…?」


いや、謎の力で書き換わったからある意味否定はできないけど。
いちいち皮肉めいてて本当にイラっとくるな。


「沢渡君?あまりブランのことおだてたりキレさせないであげてくれる?」

「いやいや、本当にそう思ってるだけさ。」


はぁ…本当にそれだけなの?胡散臭いな。


「そんなこと言うためだけに声かけたの?これからうちの塾で子供たちにペンデュラム召喚を見せる約束してるのに余計な時間を使わせないでくれる?」

「ペンデュラム召喚を見せるのだったら、もっとふさわしい舞台があるよ?5時からLDSのセンターコートを貸し切ってるんだ。」


やはりLDS関係だったか…って、は?


「マジかよ…あのLDSのセンターコートが貸し切りって?」

「それ本当なの?」


待て、LDSのセンターコートといったらこの舞網市の中でももっともいいアクションデュエル場とされている場所のはず。
LDSの生徒でも滅多に使えないと噂されているそこを貸し切りできたって…相当だぞ!?


「俺はLDSの中でも優秀な生徒だし、父親も次期市長と期待されてるからね。」

「…『次期』ってことは今は違うわよね?」

「そ、それは今は置いといてだな。…ちっ、調子狂うぜ。

「今…何か言ったかしら?」


聞こえないつもりでつぶやいたんだろうけど、普通に聞こえてるわ。


「ちょ、ちょっと頼んだら…快く貸してくれたよ。」


うわぁ…やっぱりとても胡散臭い話よね。
絶対裏があるんじゃないかしら?

とはいうけども…。


「いいなぁ…LDSのセンターコートでペンデュラム召喚なんて!」

「すごい痺れるぜ!」


まいったわね、子供たちはこの話にすごく目を輝かせている。


「「む…。」」


一方、柚子はオレと同じくジト目で見ているわ。


「別にうちで十分だと思うけど。」

「右に同じよ。」


それと妙に嫌な予感がするからね…色々と黒い噂もあるLDSだし。


「でもさ、あのセンターコートだぜ!センターコート!」

「「うん、うん!」」


でも、無邪気なこの子たちには憧れの場所なのも事実…。
仕方ない、背に腹は代えられないか。


「はぁ…まったく、仕方ないわね。」

「あたしもいくわ、遊勝塾の代表としてライバル塾の視察という事でね。」

「「「わーい!やったー!」」」


まったくもう…。


「そう言ってくれると思ったよ、では早速いこうか。」

「いこうぜ!」


え、ちょ…引っ張らないで!
そんなに慌てないでいいから!


「待ってよ!みんなー!」















「シュッ…全て、計算通り。」








――――――







――LDS内部――


「ようこそ、レオ・デュエル・スクールことLDSへ。」


成程、ここがLDSか。
レオ・コーポレーション轄下でデュエル塾業界の最大手という。
今も講義をしているところやドローの特訓とか色々やっているのが見えるわね。


「施設も最先端なんだよね。」

「タツヤ、お前詳しいな。」

「あはは、お母さんがこっちの方がいいって言ってたからね。
 でも、いつかブランお姉ちゃんのようなデュエルをしたかったからあっちにしたんだ。」


ふふ、そういってくれると嬉しいわ。
でも、憧れだけじゃどうしようもないことが出てくると思うけどね。
オレにも教えられることは教えるけど、後は自分次第だから。


「最高の設備、最高の講師、最高のカリキュラムがモットー。」

「つまり、遊勝塾にないものが全部あるわけね!」

「君も中々詳しいね。」

「悪かったわね、どうせうちはボロですよ…。」


柚子…自分からそれを言ったらおしまいよ。


「でも、アクションデュエルのことならうちは負けるつもりはないわ。」

「へぇ、それはどうだろうね?」


ちなみに業界2位には梁山泊塾…だったかしら?
そんなところもあるけど、あんな反則気味で暴力的な戦法を推奨しているところは絶対に認めないわ…!


それは兎も角、様々な召喚方法とかうちに足りないものが学べるのも事実。


「シンクロ、融合…石島も使ってたエクシーズ召喚コースもあるわね。」


ちなみにこの中で一番学びたい召喚法はシンクロ召喚だったりするわ。
ペンデュラムの性質から考えて一番相性が良さそうなのよね。


――チラッ。


「…。」

…今、誰かがこっち見てた気がするけど…何だったのかしら。


「ブラン!」

「センターコートはあっちだよ。」

おっと、よそ見しちゃったみたいだね。








――――――







「わぁー!これが憧れのセンターコート!」


それでここがセンターコートというわけか。
本当に広いところね。
確かにここでペンデュラム召喚を決められると気持ちいいかもしれないわ。


「やぁ。」

「…?」


どうも、オレたちや沢渡の他にも誰かいるようね。


「…ひっ。」

「あっ。」


その4人の内、いかにも場違いな可愛らしい女の子にどうしても目がいってしまう。
でも、人見知りなようで怖がらせちゃったみたい…。


「彼らも君のファンなんだ。是非、あの時使ったペンデュラムカードを見せてもらえないかな?」

「え…でも。」

「少し、見せるだけだからさ。ね?」


ガラの悪い3人の男の方は兎も角、女の子の方には避けられたけどな!
それでも一応ファンからのリクエストがあった以上、見せなきゃ駄目ね…どうしようか。
そうだ、デッキから外したあの2枚はまだ手元にあるから…。


「見るだけならいいわ、この2枚がペンデュラムカードで…」


――ドッ、ドンッ!


「きゃっ…っ!」


…痛いわね、いきなり突き飛ばすなんて!
ッ!拙い、今のでペンデュラムカードが!


――シュッ!


…沢渡の手に!?


「ほら、これがペンデュラムカードだ。」

「「「すげー!!」」」

「これがペンデュラム召喚に使うカードか!」

「俺も欲しい!!」

「ダメダメ、これは…君たちのものじゃない…だろ。」

「「「ちぇ〜っ。」」」


そんな、話の方向がどんどんおかしく…。


「だってこれは…俺のカードになるんだからな。」

「は?」

「ちょっと、どういうことよ…!」


くそっ、とうとう下衆な本性を現したか。
こいつら、エンターテイナーとしてファンサービスを心がけたのを仇で返しやがった。


「俺はレアで強いカードが好きでさ、弱いカードを入れるのは嫌なんだよね。
 だから、この2枚はもらってやるって言ってんだよ!」

「きっひひひひひ!」


ふざけんな、あげるなんて一言も!


「そ、そんな…!話し合うんじゃなかったんですか、沢渡さん…話が違います。」


すると、さっきの女の子が抗議したようね。
よかった、良心はいてくれたんだ。


「うるさいな、光焔…折角いい気分なのに水差してくれちゃってさ。お前も俺のペンデュラム召喚、見たかったくせに…。」

「ひっ…!ご、ごめんなさい、わたしなんかが…。」


駄目だ、オレ以上に弱気すぎて頼りにならない。


「もしかして、あたしたちをここに呼んだのって!最初からこのために!」

「だけじゃないよ。このカード、使ってみたいじゃん。お前たちも見たいだろ、ペンデュラム召喚。」

「もちろん!」

「見たいぜ!!」


やれるものならね。その2枚だけで上手くいくほどペンデュラム召喚は甘くない。
使いたいタイミングでその2枚が手札に来る確率はそう高くはないからな。
サーチ手段が多かったら話は別だが。


「だから、センターコートまで抑えたんじゃん…ん?」

『そこまでにしておけ。君の仕事はこちらにペンデュラムカードを渡す事だ。』


沢渡がだれかと無線で通信しているようだ。
やっぱり、裏で誰かとつながっていたみたいね。


「…悪いね中島さん、俺の目的は違うんだよね。最初からこのカードが欲しかったし。」


どうやら揉めているみたいね。
いずれにしても、この落とし前はつけてもらう。








――――――







Side:中島


昨日、遊勝塾に一人スパイを忍ばせたところ…ペンデュラム召喚に使うカードがわかった。
そこまではよかったのだが…。


「何を考えている!余計なことは…!!」


ちっ、よりによって沢渡にこの件をやらせたのは失敗だったか…!
まさかここまでペンデュラム召喚に執着していたとは…!


「いや、やらせろ。」

「社長…。」


ですが、これでどうなるかはわかりません。
ペンデュラムカードがないと我々の計画が…!


「このままやらせるんだ。」


わかりました、社長がそこまで言うのならばいいでしょう…。
しかし、貴方が何を考えているか…私には理解できません。








――――――







Side:ブラン


「というわけで…。」


――パチン!


「!!?何するの!!」


んなっ、あいつら3人がかりで柚子を…!


「うわっ!!」

「…ごめんなさい、ですが。」

「「「ブランお姉ちゃん!!」」」


そんなっ、あの子――光焔だけはそんなことしないと思っていたのに…!
くそっ、みんなを人質に取るなんて…!


「ふざけるな、柚子たちを離せ!!」

「心配しなくていいよ、俺たちのデュエルに協力してもらうだけだから。」

「…デュエルに?」

協力してもらうって、いったい何をするつもりだ!

「そうだ、もらってばかりじゃ悪いから…。」


あの野郎…胸ポケットからカードの束を無造作に放り投げやがった!

その中にはモリンフェンといった通常モンスターや様々な一般的に扱いにくいカードなどがあった。
だが、痛み分けやギフトカードといったデッキによっては優秀なカードの姿も。
挙句の果てにはオレが1枚ずつデッキに入れているカニカブトやザリガンまでもあった。


「それ、全部くれてやるよ。君にぴったりの屑カード…」

「おい…今、何言った…!」


冗談じゃない、特にカニカブトとザリガンはもう1枚ずつ欲しかったカードだったのに!
それ以前にカードをクズと称してぞんざいに扱いやがって…!
カードの価値はデッキと使うプレイヤー次第なんだ!


「あぁ?おいおい、よく聞こえなかったのかな?だから君にぴったりの屑カードって…」

その減らず口を今すぐ閉じやがれ!!


そのカードの束を回収しつつ、カニカブトとザリガンの2枚は入れておく。
それぞれが2枚になったのは単純にありがたい。
だが、それ以上にこいつには怒りがこみあげてくる。


「てめぇの腐った価値観でこいつらをクズカードと決めつけてんじゃねぇ!!
 それだけじゃなくカードの窃盗、挙句の果てには人質まで取りやがって…おい、デュエルしろよ!」

「ふん、ペンデュラムカードを手にした俺に隙はねぇ!が、アクションフィールドはこちらで決めさせてもらう。
 か弱き姫たちを閉じ込め、ここに聳え立て!アクションフィールドオン!『ダークタウンの幽閉塔』!!」

「っ、てめぇ!そのフィールド、正気か!!


ダークタウンの幽閉塔…それはアクションフィールドの中でも特に危険とされているものだ。
アクションデュエルは質量を持ったソリッドビジョン。
何が危険なのかというと高所を強いられることと、それが崩れるという事だ。
一応の安全装置はあるとはいえ、トラウマになりかねず…最悪の場合はそれでも死ぬことだってありえる。
そこに、オレだけじゃなくて柚子や子供たちまで巻き込んだってことだ!


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「みんな!!」


アクションフィールドの展開に巻き込まれた柚子たちは、高い塔に幽閉されてしまった…。
野郎…なんてことしやがる!!


「お姫様にはさ、塔に幽閉されてもらわないと…な。」

「…御託はいいんだよ、くだらねぇことばかりしやがって…!」

「あぁん?」

「オレは兎も角、柚子たちを人質にとって危険なことに巻き込みやがって…!本気でぶちぎれたぜ…徹底的にぶちのめす!!
 柚子たちとあのペンデュラムカードは絶対に返してもらう。覚悟しやがれ、このカスが!!!

「お前如きにやれるもんならやってみな…!いってみようか!!」


こうなった以上は違う意味のエンタメを叩き込んでやるのも吝かだ。
沢渡、てめぇには情け無用だ…いくぞ!


「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

「モンスターとともに地を蹴り宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「…見よ、これがデュエルの最強進化系。」

「アクショォォォォォォン!」


「「デュエル!!」」


ブラン:LP4000
沢渡:LP4000















 続く 






登場カード補足



ザリガンマン
特殊召喚・効果モンスター
星6/水属性/水族/攻1800/守2100
このカードは通常召喚できない。
自分の手札・フィールドの「ザリガン」1体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。
(1):1ターンに1度、手札の水属性モンスター1体を墓地へ送り、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
その後、相手に600ダメージを与える。
この効果は相手ターンでも発動できる。
(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分の墓地の水属性・攻撃力1500以下のモンスター2体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。