Side:梓


クナトサエとヤトノヌシ、結界を張って居た此の2体を打ち倒したのなら結界は消えた筈だ――此れで、オオマガドキの門が開くで
有ろう場所まで行く事が出来る。
オオマガドキを齎す『鬼』の力は強大であるのは間違いないが、だからと言って退くなどと言う選択肢は最初から有り得ん。
退いてしまったら、其処で終わりだからね。



「いよいよ決戦の時だ。準備は良いか、梓――オオマガドキの扉を開くと言う『鬼』を討つ。お前ならば出来る筈だ。」

「出来るかどうかは大した問題じゃないぞ大和。」

出来るかどうかじゃなくて、やるんだ!その意思がなかったら、何事にもなし得る事はないだろうからな!!
数多のミタマと、仲間との絆を得た今、誰にも負ける気がしないさ。――私は、ウタカタの鬼を討つ鬼神だ。里を守る為に、破壊の
力を使わせて貰うよ。



「ふ、頼りになる奴だ。だが、戦いまでには暫しの猶予がある――其れまでに、皆に挨拶を済ませておけ。
 今生の別れにせんためにも、勝って戻る覚悟が必要だ――皆に背中を押して貰ってこい。」

「了解だ。」

最後の決戦を前に、仲間から力を貰う、か。確かに、仲間に背を押して貰えば頼もしい物かも知れないな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務38
『最終決戦に向けて……』











とは言え、桜花達モノノフは共に戦場に出るのだから、今更挨拶と言う事もないだろうな?……と言うか、富嶽辺りには『決戦前
に何言ってんだテメェは?』とか言われそうだ。

そうなると、戦場では共に戦わない仲間達か……



「梓さん、いよいよ、決戦の時ですね。」

「橘花か……あぁ、そうだな。
 正に人の世の存亡をかけた戦いだ――私達が負けたらオオマガドキが訪れ、人の世は『鬼』に食い潰される……必ず勝たなく
 てはだよ。」

「大丈夫です、皆さんなら勝てると信じています。
 ……貴女が此処に来てから、本当に沢山の事がありました。
 誰もが少しずつ変化し、誰もが少しずつ前進しました。それも、全て貴女のお陰です。」



それは、別に私の力と言う訳でもないと思うが――だが、私が良い変化をもたらした何らかのきっかけになっていると言うのなら
ば、其れは勿論悪い気はしないよ。



「……あずまの果てよりムスヒの君来たりて。
 八百万のミタマを結び、『鬼』と言う『鬼』を祓えり……若しかしたら、貴女こそが本当の――もしもの時は、結界子の欠片に願い
 を込めて下さい。
 貴女なら、きっと……」



分かった、もしもの時はそうしてみるよ橘花。
私がムスヒの君であるかどうかは兎も角として、『鬼』を討つモノノフの使命、果たして見せるさ。だから、信じて待っててくれ。



「……はい。」



さてと次は……樒の所に行ってみるか。序に、ミタマの力も解放して貰おう。


ってオイ、樒。なんだ社の前に大量に積まれたその『ハク』は!!軽く見積もっても100万位あるんじゃないか!?



「貴女のお陰であそこまで貯まった……数多のミタマを宿している貴女が、力を引き出しに来る度にハクを払ってくれたから……」

「原因は、私か!」

「とても有難い事。
 それよりも、行くのね……オオマガドキを喰い止めに。……ミタマがざわついているから分かる……
 死ぬのは良くない……無理はせず、無事で……彼方達は、最後の希望だから。」



分かっている。
其れでだ、決戦までにミタマの力を引き出して貰っても良いか?必要なハクはちゃんと持って来ているから。



「任せて……ん?
 此れは、貴女の宿しているミタマが、貴女の刀と共鳴して……産霊が生まれている――ミタマの力の宿った刀を作れる……」

「そんな事が可能なのか!?」

「可能。
 力を解放したミタマと、宿主の絆が深く、更に該当する武器がある場合、産霊が生まれ、其れを武器に融合する事で、その武器
 の性能は飛躍的に向上する。
 ……貴女の6本の刀と共鳴しているのは、無属性がオリヴィエ、地が佐々木小次郎、風が稲姫、火が須佐之男命、水が源義経
 で天が伊達政宗……」



ミタマの力を武器に宿す事が出来るとは驚きだ。
それに、私の刀に宿す事が出来るミタマの力は、オリヴィエをはじめとして、名立たる剣豪に武人ばかりじゃないか……須佐之男
命に至っては神格の存在だからな。

だが、それらの力を宿した武器ならば、最終決戦でも力を発揮してくれる筈だ――産霊と刀の融合を、お願いできるか樒?



「任せて………それ……」


――バキィィィン!!


――闇払・弐式にオリヴィエの産霊を融合し、『聖刀・オリヴィエ』になった。

――金剛刀・断裂に佐々木小次郎の産霊を融合し、『秘剣・燕返し』になった。

――嵐迅に稲姫の産霊を融合し、『風の刀』になった。

――鬼焔に須佐之男命の産霊を融合し、『大蛇薙』になった。

――霧払いに源義経の産霊を融合し、『落花流水』になった。

――妖刀不二に、伊達政宗の産霊を融合し、『独眼竜』になった。



此れは……此れまで以上の凄い力を刀から感じる――私用にオヤッさんが調整してくれた刀が、更に手に馴染む感じだ。
……六爪流を使う私の刀に、伊達政宗の力が宿されたのは偶然だと思いたいがね。――此れならオオマガドキを齎す『鬼』が相
手であっても、よりダメージを与えられるはずだ。
ありがとう樒!



「此れ位は、お安い御用……
 ……どこかで誰かが、開けてはならない箱を開いた……其れで、この世には、『鬼』が溢れる事になった……でも、箱の底には
 希望が残った……此処には、まだ彼方達が居る。」

「誰かがパンドラの箱を開けたと言う事か……だが、その話を知ってるお前は何者だ?
 この話は、この国の話ではない故に、知ってる者は皆無だと思うのだが……」

「其れは最高機密……頑張って。」



……最高機密か、なら仕方ないな。
まぁ、期待に応えられるように頑張るよ樒。――オオマガドキを齎す『鬼』を打ち倒して、新たなミタマを手に入れたら、又その力を
解放してくれ。



「分かった。……行ってらっしゃい……」



行ってきます。

さて、次はオヤッさんだ。
おーい、オヤッさん!この前よろず屋で、美味しいお茶と、渡来のお菓子である月餅を手に入れたんだが、一緒に如何かな?酒
だけじゃなくて、甘い物も好きだったよな?



「おうよ、甘いモンは大好物だ。有り難く頂戴するぜ梓。
 ……ほう、中々旨いな、この月餅って菓子も。饅頭なんかと比べると甘さが強いが、其れが渋い茶と合うって訳か……舶来のモ
 ンも案外馬鹿に出来ねぇな。」

「ふふ、気に入って貰ってよかった。此れは、是非ともオヤッさんに食べて欲しかったんだ。」

「そうかい。ありがとうよ、梓。
 ……時に、大一番が近えらしいな……」



……あぁ、その通りだよオヤッさん。
人の世の存亡をかけた戦いがもうすぐ始まろうとしている……勿論負ける心算はないが、相手はオオマガドキを齎す『鬼』……此
れまで戦って来た『鬼』とは、比べ物にならない相手だと思う。

負ける気は毛頭ないが、万が一と言う事を、どうしても考えてしまうよ。



「どうした、しけた面しやがって。
 安心しな、ワシの魂込めた自信作を、オメェが使うんだ。勝てねぇ訳がねぇ!!」

「オヤッさん……」

そうだな、そうだったな。
オヤッさんが魂込めて鍛えてくれた刀にミタマの力が宿り、其れを私が使うんだから、負ける要素は何処にもない――精一杯、頑
張ってみるよ!



「その意気や良し!
 負けてみろ、ワシがその頭をカチ割ってやる――生きて帰って来い!」



頭をカチ割られるのは流石に困る。如何に頑丈とは言え、脳味噌をカチ割られてしまったら流石に生きて行けないからね。
だけど、負け=死の状況で、そんな事を言うって言うのは、オヤッさんの心配の裏返しって事だ――だから、貴方が鍛えてくれた
刀に誓って、私は必ず帰って来るよオヤッさん!!



「おう!……行ってきな。」

「はい……行ってきます!」

さてと、後は……ん?神木の前に居るのは、秋水か?
如何した秋水、こんな所で何をしている?



「梓さんですか…いよいよ、最後の戦いですね。」

「あぁ、そうだな。
 だが秋水、お前は言わば間者だったのだろう?どうして、私達に協力しようと思ったんだ?」

「少し、夢を見て居たかっただけです。
 ……僕は、北の地の出身でして――8年前、オオマガドキの門が開いた地です。
 地獄と言うのを、生温く感じる程の悪夢の地…元々『モノノフ』は、此処中つ国と、北の地の2カ所に拠点を構えていたのです。
 ですが……」



8年前のオオマガドキで北の地は滅んだ。
差し詰め、本命の戦力である中つ国を死守して、控え戦力であった北の地を斬り捨てた……大体そんな所だろう、秋水?



「その通り……北の地は、見捨てられたのです。
 尤も、そうしなければ人の世は滅んでいたでしょう……英断です。」



だが、お前はそうは思っていないのだろう秋水?
理解する事と、納得する事は別だ――まして、その決断で犠牲になった者達は、決してそうは思わない筈だ……考えなくとも分
かるさ……



「えぇ……北の地で散って行った仲間達……その過去を変えられる物なら、変えたいと僕は望んで居ます――今でも……
 時間を越えて、過去を変える。其れが僕達、陰陽方の悲願ですから……
 ……喋り過ぎてしまいました――今は、オオマガドキを喰い止める事に全力を尽くしましょう。」

「是非もないさ秋水――オオマガドキは、私がこの手で喰い止めてやる。」

「頼もしいですね。
 ……犠牲の連鎖には、いささか倦みました――汝に、英雄の導きがあらん事を……」

「秋水……」

犠牲の連鎖、私がこの手で断ち切ってやるさ。
そもそもにして、何かを犠牲にして相手を倒すと言う考えその物が間違っていると言わざるを得ない――犠牲を払って得た勝利な
ど、平穏が訪れた世界においては虚しい物になり下がるのだからな。

そんな事は、絶対にさせないさ。


さて、そろそろいい時間だ。本部に行くとしようかな。



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さあ、機は熟した!一気呵成行こうか!!



「皆さん、お集まりですね。」

「あぁ、集まって居るが、如何した秋水?」

「また、何か企んでんじゃねぇだろうな?」

「フフ……そうかも知れません。
 ……僕から一つ、皆さんに尋ねたい事がありまして――全てを無かった事にしませんか?」



全てを無かった事に、だと?



「取り戻したくはありませんか?――オオマガドキで失われた全てを。
 伊吹さんは最愛の人を、富嶽さんはホオズキの仲間達を、速鳥さんは過去の過ちを、桜花さんは誰も犠牲にしなくて良い世界を
 、那木さんは大切な友人を、初穂さんは時の彼方の故郷を――その全てを取り戻す機会が、此れより訪れます。
 オオマガドキです。」

「アンタ、何を言ってる?」



息吹の言う通りだ……何が言いたい、秋水?



「オオマガドキとは時間の扉が開く事。
 『鬼』は時を超えて過去からやって来る――ならば、その扉を通り、僕達も過去に戻れるのではないか、そう考えた事はありま
 せんか?」



私達が、過去へだと?



「オオマガドキの扉を通り、過去に戻って全てをやり直す。そして、奪われた全てを奪還する――それが、僕達の計画です。
 いえ……正確には、長老の方々の計画でしょうか。
 時を越え、過去、現在、未来の全てを手中にする……そう考える人達が居まして、僕はその小間使い、と言う訳です。
 あの異形の『塔』を見つけた時、僕達は狂喜したものです。これで、計画を遂行できると。
 ですが、困った事にその近くにはウタカタの里があった。
 8年前のオオマガドキの英雄であるお頭と、優秀なモノノフが居る里……下手をすると、異形の『塔』を見つけ、オオマガドキを
 防いでしまうかもしれない。
 だから、僕が送り込まれたと言う訳です。」



……ウタカタを、調略する為にか。



「貴殿は、其れを話してどうする心算だ?」

「そうですね……
 どうですか、皆さん。僕と一緒に行きませんか?
 時間を越え、失われた全てを取り戻す旅へ。散って行った、数多の仲間を取り戻す旅へ。」



非常に魅力的な提案だが、其れはお断りだ秋水。
過去の過ち、過去の悲劇、其れは確かに誰もが一度は『あの時こうしていれば』と考える事であり、やり直したいと思う物だろう。
私だって、変えられるのならば変えたい過去は有る――だが、過去を変えて一体何になる?
過去を変えると言う事は、今を否定するのと同じだ。

やり直したい過去が有っても、その過去があればこその今だ――私が生きる今を否定する選択をする事は出来ない。



「私も、梓に賛同かな。」

「……初穂様?」

「梓も言ってた事だけど、其れじゃあ此処で皆と一緒に居た事が無かった事になっちゃう。
 其れはイヤ、無かった事になんて出来ない。――だって、此処も私の大事ない場所だから。」



良く言った初穂!その通りだ!!



「……お子様にしちゃ上出来だ。」

「あのね……お子様言うの禁止!!」

「私も、友とまた会いたいです。
 ですが、此処での日々を失いたくありません。」

「生きた結果は、己で引き受ける――それが、どんな結果だろうと。」

「……私には橘花が居る。だから、此処で生きて守り抜く。」

「姉さま……」



と、言う訳だ秋水。
悪いが私を含め、誰も過去に戻るつもりはない――此処は、諦めて白旗を上げるべきだと思うが……さて、如何する?



「クックック……アッハッハッハ!
 失礼、余りにも予想通りの答えなので。……組織の長老達にも見習ってほしいものです――今回は諦めましょう。
 ですが、僕は考えを変える気はありません――皆さんがまた道に迷った時、再びお誘いする事にしましょう。
 とは言え、今回は皆さんの邪魔はしないとお約束します――偶には、誰も犠牲にする事のない物語が有ってもいいのかも知れ
 ません。
 それを、見届けさせて貰います。」



ならば、しかとその目に焼き付けておけ秋水!私達が、オオマガドキを防ぐその時をな!!
大和!!



「うむ……8年前、先人達が防ぎ得なかったオオマガドキ――其れが今、再び起きようとしている。
 だが、俺達は、『鬼』共の企みを暴き、心臓部に迫っている。
 俺は信じている――お前達ならば、必ずオオマガドキを打ち祓えると――行け、そして、生きて帰れ!!」



「梓様――皆、貴女の号令を待っていますよ。」

「行こうぜ、オオマガドキとやらをぶっ潰しに!」

「君がいなければ、私はここまで来られなかった……ありがとう。」

「どんな状況でも、アンタが希望をくれた――だから、今度はアンタの為に戦うぜ。」

「見せてやりましょ。夜が何度訪れても、必ず夜明けが来るって!」

「では、生きて朝日を見なければな。」

「そうだな。生きて、また会おう。」

「きっと、見事な晴天になりますよ。」

「さぁ、行こう梓。」



あぁ、行こう!
オオマガドキを喰い止めに!人の世を守りに!!――私達『人』の強さを『鬼』達に分からせてやろうじゃないか!奴等が、ドレだ
け攻め立てても、人の世は滅びないと言う事を!!



「了解、隊長!!」

「行ってらっしゃい、皆さん。きっと……帰ってきてください……」



勿論だ、必ず帰って来るよ木綿――私達なら、必ず出来るさ!!行くぞ、戦場へ!大事な物を、守るために!!



「「「「「「おーーーーーーーーー!!!」」」」」」



今頃、塔の力を持ってして、此方に現れる準備をしているのだろうが――貴様の思い通りにはならんぞ、オオマガドキの『鬼』よ。
残念だが、貴様が此方に現れたその時が、終わりの時だ。

私達が貴様を討ってオオマガドキを喰い止める――そのシナリオは、既に決定しているのだからな!!










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場