エルベ離宮周囲での戦いに於いてライトロードが殺意の波動を発動し、更にアウトレンジから射手がなのはを狙っていたのだが、突如として射線上に刀奈が入って来て、結果として刀奈はなのはの身代わりになって射手の矢に貫かれる事になった。
幸いにして貫かれたのは心臓のある左胸ではなく右胸だったので即死には至らず、クローゼが治癒アーツを使って回復させ、刀奈を貫いた射手はなのはのハイペリオンスマッシャーによって葬られたのだが、己の恋人の一人を貫かれた一夏はその光景に十年前の惨劇がフラッシュバックし、『もう誰も失いたくない。』、『力が欲しい』と願い……そして、其の願いに呼応する形で一夏の中に眠っていた力が目を覚ました。
「我こそ、拳を極めし者……ウヌらが心の臓、止めてくれる!」
其れは『鬼』と呼ばれ恐れられた、稼津斗が宿している『殺意の波動』だった。
殺意の波動に目覚めた一夏からは、何時もの『好青年』の姿は消え去り、赤く染まっ逆立った髪と同じく赤く輝く目、浅黒く染まった肌が圧倒的な威圧感を放ち、刀奈を討たれた怒りに染まったその顔は『鬼』其の物だ。
『そんな……嘘……!』
「簪、如何した?」
『一夏の戦闘力が有り得ない位上昇してる。
一夏の戦闘力は通常状態で十六万、電刃錬気を使った状態で二十万だったのに、今の一夏の戦闘力は九十五万まで上昇してる……神魔の力を開放したなのはさんすら越えてる……!』
「神魔の力を開放した私すら越えているだと!?」
更に一夏の戦闘力は殺意の波動に目覚めた事で神魔の力を解放したなのはの戦闘力すら越えていた。
参考までに、神魔の力を開放したなのはの戦闘力は八十万で、アウスレーゼの力を開放したクローゼの戦闘力は五十万……なのはの場合はカートリッジを使えば最大で二百四十万まで戦闘力は上昇する訳だが、其れでも九十万越えの戦闘力となった殺意の波動に目覚めた一夏の力は凄まじいと言えるだろう。
「十年前、俺から家族を奪っただけでは飽き足らず、今度は愛する人まで奪うと言うのか……ライトロード、貴様等は殺す!」
「この殺意は……殺せ!先ずは最優先で奴を殺せ!奴は危険過ぎる!」
一夏から溢れ出る殺意に、自らも殺意の波動を解放したライトロードも何か危険なモノを感じたらしく、一夏を集中的に狙うが、一夏は放たれた攻撃を全て阿修羅閃空で躱し、そして遂にライトロードの部隊の一人に肉薄し――
「愚かな……滅せよ!」
次の瞬間、強烈な閃光が弾けると同時に雷の如き轟音が鳴り響いたのだった。
黒き星と白き翼 Chapter40
『殺意の波動の脅威~暴走する力~』
閃光が晴れると、其処には一夏の足元に倒れ伏したライトロードの一員の姿があった。
四肢は有り得ない方向に折れ曲がり、右目は頭蓋ごと吹き飛んでいるのを見るに事切れているのは間違いないだろう――一夏は、殺意の波動の極意である獄滅奥義『瞬獄殺』でライトロードを一人完全に葬り去ったのだ。
殺意の波動の技、特に瞬獄殺は肉体だけでなく魂をも完全に殺す技なので、瞬獄殺によって葬られた者は蘇生魔法でも蘇らせる事は出来ないのだ。
だが、一夏は其れでも止まらない。
「滅殺!ぬぅぅぅん……奈落へと落ちるが良い!」
直ぐ近くにいたライトロードに滅殺剛昇龍をブチかます。
稼津斗が使う滅殺剛昇龍は剛昇龍拳を三連続で放つ技だが、殺意の波動に目覚めた一夏の滅殺剛昇龍は、二連続の剛昇龍拳で相手を宙に吹き飛ばした後に、自分も飛び上がって相手の胸に拳を叩き込んでそのまま地面に叩き付けて確実に心臓を破壊すると言う文字通りの殺人拳だった。
更に一夏は百鬼剛斬でライトロードを強襲すると、掴んだ相手に膝での背骨折りを喰らわせて身体を文字通り真っ二つに折り曲げると、向かって来たライトロードに対して、瞬獄殺をも越える殺意の波動の究極奥義『龍哭波動拳』を放って骨の欠片すら残さない程に撃滅!抹殺!!滅殺!!!
殺意の波動に目覚めた一夏は、正に一騎当千なのだが……
「いかんな……一夏は殺意の波動に呑まれている――此のままでは殺意の波動に自我を喰われて只の殺戮者に成り果てるぞ。」
「なんだと?」
稼津斗が言うには、今の一夏は殺意の波動に呑まれて自我を失って殺意のままに拳を奮い、この状態が長く続けば一夏の自我は殺意の波動に飲み込まれて肉体を支配され手唯の殺戮者になるとの事だった。
稼津斗ですら殺意の波動を完全に己のモノとするのに三百年掛かった事を考えれば、僅か十六歳の一夏が殺意の波動を使いこなすと言うのは幾ら何でも無理があると言うモノだ。
だがしかし、今の一夏を止めるのは難しいだろう。
殺意の波動に目覚めた一夏を止める事が出来るのは稼津斗か、カートリッジを使ったなのはだけであり、其れでもどちらも無傷で止める事は無理であり、殺意の波動に目覚めた一夏の暴走を止めるにはリベールの最強戦力の何方を犠牲にしなくてはならないのだから。
「一夏!」
「!!?」
だが、此処で一夏に抱き付く影があった。
其れはクローゼの治癒アーツによって回復した刀奈だった――即死ではなかったとは言え、右の肺を貫かれた刀奈は可成り危ない状況だったのだが、クローゼの治癒アーツによってギリギリのところで命を繋いでいたのだ。
「私の為に怒ってくれるのは嬉しいけれど、でも只の殺戮者にはならないで……大丈夫、私は、私達は貴方を残して死んだりしないから。だから、その怒りを治めて。」
「刀奈……生きてたのか……良かった。本当に良かった。」
其れを見た一夏は正気を取り戻し、その姿が元に戻って刀奈を抱きしめる――愛する者を討たれた事で殺意の波動に目覚めた一夏だったが、愛する者の無事を知った事で目覚めた殺意の波動は一時的に治まったようだ。
「だけど、テメェ等が刀奈を殺し掛けたって言う事実は消える事はねぇ……覚悟しろよライトロード、刀奈が受けた苦痛、億倍にして返してやるぜ!!」
「億倍では生温いぞ一夏、奴等には兆倍にして報わせねばなるまい!」
「なのはさん……そうだよな。千冬姉の事も含めて、十兆倍にして返してやる!覚悟するんだな。」
殺意の波動は治まった一夏だが、正気を取り戻すと即座に気を開放して其の力を高める――電刃錬気は使っていないが、其れでも一夏の戦闘力は二十万程に上昇しているのだ。殺意の波動に目覚めた事で、地力の方も引き上げられたのだろう。
「目に焼き付けて死ぬが良い。」
また此処でクリザリッドが、纏ってたコートを燃やしてバトルスーツ姿となってライトロードをぶっ飛ばしていた――超絶セクシーなバトルスーツ姿にライトロードが思わず目を止めたとは言っても、本気を出したクリザリッドの力は凄まじく、ライトロードを三人ほど捕まえると、其れを木に叩き付けた後に、超絶連続パンチをブチかまして、最後はトドメの右ストレートと共に拳に宿した炎を炸裂させて爆破!
殺意の波動に目覚めてもライトロードは最終防衛ラインを突破する事が出来ないで居たのだが、此処で異変が起きた。
「馬鹿な……我等が、魔王ですら滅した我等がこの様な事になるなどありえ……あり……ありぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「うぐおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
「「「「「!?」」」」」
突如ライトロードが奇声や咆哮を上げ始めたのだ。
殺意の波動の闇色のオーラが身体から溢れ出し、同時に本来身に宿していた光の力も溢れ出し、相反する二つの力がぶつかり、混ざり合って、それはやがて混沌の力となって行くが、混沌の力は余りにも大きく、其の力を宿すに至ったライトロードから理性を根こそぎ奪い去って行く。
唯一殺意の波動を宿していない召喚士のルミナス以外は理性を残していない状態となってしまう事だろう。
なのはやなたねのように生まれながらに其の身に光の力と闇の力を宿していたのならば兎も角、後天的に光属性に闇属性を宿し、更に其の力を使った事でライトロードは暴走してしまった訳だ。
『『『ガァァァァァァァァァァ!!』』』
裁きの龍:ATK3000×3
更に、王都に攻め込むために遥か彼方に居るルミナスが召喚したライトロードの切り札である『裁きの龍』ですら、殺意の波動を宿して暴走状態になっていた。
そして暴走状態と言うのは理性を失って暴れ回る状態であるのだが、理性が無くなった事で普段は理性で制御している闘争本能が全開になる状態でもあるので、ライトロードの戦闘力は爆発的に上昇したと言えるだろう。
「理性を失った暴走状態……厄介だな。」
「本能のままに暴れ回るだけにその攻撃を読むのは難しく、此方の牽制や陽動は全く意味を成しませんからね……特に闘争本能が全開になったドラゴンは厄介極まりありません。」
「あぁ、ライトロードの切り札である裁きの龍の最大の攻撃は世界を灰燼に帰すと聞いているからな……そんなモノを暴走状態で放たれては一溜りもないぞ。」
「大丈夫だよママ達!私のバハムートの最大の攻撃は其れ以上の破壊力があるから、其れで相殺してやるもん!!」
其れでも士気は落ちる事なく、なのは達は暴走状態となったライトロードと交戦を続け、前線を維持する――だが、暴走した事で戦闘力は拮抗した状態となり、戦闘は此れまでよりもより激しさを増す結果になっていた。
――――――
ライトロードの暴走は王都方面の部隊だけでなく、各地に散らばった部隊でも起きていたのだが……
「暴走には暴走だぜ!つ~訳で、暴走しろ八神!八神を対象にエネコン発動!←→←→←→A+C!!」
「京貴様!……グゥゥゥオォォォォォ!!キョオォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
ロレントでは京が庵に対してエネミーコントローラーを使って謎のコマンドを入力して庵を暴走させて暴走したライトロードにぶつけていた……暴走してもライトロードだけを攻撃している庵は本能的に敵を認識しているのだろう多分。
「そう言えば京、なんでライトロードはリベールを攻めておるのだ?ワシが居ない間に何があった?」
「あぁ、そう言えば親父は知らないんだよな。
簡単に言えば、リベールでは革命が起こって、何時ぞや城から姫様を連れ出した奴が此の国の新たな王様になったんだよ。んで、その新たな王は魔族の血を引いてるからライトロードのターゲットになったんだろ。魔族だから殺すとか、思考が短絡過ぎだろライトロードはよ。」
「うぅむ、よもやそのような事になっていたとは……此の戦いが終わったら、親王に謁見せねばなるまいな。草薙の前当主としての筋を通さねばなるまい。」
「其れよりも先にお袋に会いに行けよ親父。其れと、なのはには俺が草薙家の現当主として挨拶を済ませてあるから問題ねぇから。」
「京……ワシだって偶には若い女の子と触れあいたいんじゃ!」
「其れが本音かクソ親父!
つーかお袋だって見てくれは充分若いだろ!こう言っちゃなんだが、お袋と一緒に出掛けた時に親子じゃなくて姉弟に間違われた回数は両手の指じゃ足りねぇ!二十歳の息子が居る見てくれじゃねぇだろアレは!お袋の見た目はドレだけ高く見積もっても三十ちょいだろうが!」
「其れは否定出来ん!」
そして京と柴舟は親子漫才を演じていたが、其れでもキッチリとライトロードの相手をしているのだから大したモノだろう。
暴走した事で戦闘力が上がったライトロードではあるが、下手をすればリベール一の戦力が集っていると言っても過言ではないロレント地方に於いてはマッタク問題になっていなかった。
また、ボース地方ではアガットとカプア一家、ハーケン門の部隊が暴走したライトロードを相手に前線を維持し、ツァイス地方ではティータのオーバルギアと、不動三兄妹の精霊が無双していた。
特に遊星は、スターダスト・ドラゴン、シューティング・スター・ドラゴン、シューティング・クェーサー・ドラゴン、コズミック・ブレイザー・ドラゴン、シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンと言う最強クラスのドラゴンを並べてライトロードを圧倒していた。
遊里もプリンセス・ヴァルキリア、ライトニング・ウォリアー、セブンソード・ウォリアー、マイティ・ウォリアー、グラヴィティ・ウォリアーを召喚し、レーシャに至っては銀河眼の光子竜、ギャラクシー・アイズ・FA・フォトンドラゴン、銀河眼の光子竜皇、真銀河眼の光子竜、銀河眼の究極竜を並べると言う容赦のなさだ。
そしてルーアン地方ではダンテとカルナのコンビがライトロードを圧倒し、ルガールもまた孤児院を襲撃して来たライトロードを次から次へと葬り去り、ジェニス王立学園では、金属バットを装備した不良女子生徒がライトロードを次から次へと撲殺していた。
ジェニス王立学園始まって以来の不良生徒と言われている不良生徒、通称『雪女』の戦闘力は実は相当なモノだったみたいだ。
其れは其れとして……
「殺意の波動、君達には相応しくない力だ……其の力は魔王たる私こそが宿すに相応しい!」
ルガールは倒したライトロードから殺意の波動を吸収していた。
その結果、ルガールが宿していたオロチの暗黒パワーと殺意の波動が融合して最強最大の闇の力を生み出し、ルガールを超強化するに至った……ルガールはオロチの力を宿した己を『オメガ・ルガール』と称していたが、オロチの暗黒パワーと殺意の波動が融合したルガールは、オメガ――究極すら凌駕する存在となっていた。
究極を越えた存在――ゴッド・ルガールが誕生した瞬間だった。
「フフフ、素晴らしい力だ……となると、稼津斗君に私のオロチの暗黒パワーを注入したらまた凄い事になるのかも知れないな?待っていろ稼津斗君!君に私から最高のプレゼントを渡すとしよう!」
そしてルガールは何かを思い付いたらしく、王都の防衛ラインに向かって飛んで行ったのだった。
――――――
その王都の防衛ラインは、あろう事か壊滅状態に陥っていた。
暴走した裁きの龍が最大の攻撃を放ち、ヴィヴィオがバハムートに命じて最大攻撃を放たせたのだが、一対三では相殺する事は出来ず、結果として壊滅的な被害を被る事になってしまったのだ。
ギリギリでクローゼがアースウォールを使った事で全員致命傷は免れたが、三体の守護龍も翼を貫かれて深刻なダメージを負っていた。
「リベールを貴方達の好きにはさせません……リベールを守る為に、私は今こそ封印された私の精霊を解放します!」
だが、此処でクローゼが切り札を切った。
此の土壇場で、アリシアによって五つに分けられ、王城の地下と四輪の塔に封印された己の精霊を解放を行ったのだ。
「我が身に眠る封印されし精霊よ、今こそ其の力を解き放ち、リベールを守る守護神となれ。」
クローゼはアリシアから教えられた精霊の封印を解除する呪文を唱え、其れと同時にグランセル城と四輪の塔から光の柱が発生し、その光の柱はエルベ離宮に、クローゼの基に集束してより大きな光の柱となる。
「現れよ、『封印されしエクゾディア』!!」
『グオォォォォォォ……!』
エクゾディア:ATK∞
そしてその光の柱が弾けて現れたのは、グランセル城に匹敵する巨躯と、圧倒的な力を持った魔神であった。
To Be Continued 
補足説明
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