突如ロレントを襲った王国軍の奇襲攻撃――宣戦布告もなく放たれた一撃は、教会とホテルと時計塔を一瞬で瓦礫と化し、教会とホテルに居た人々は、瓦礫の下敷きになってしまった。
瓦礫に埋まったからと言って、生存率がゼロではないのだが、其れでも全てが助かるとは言えないだろう――救えなかった命と言うモノは如何したって出てしまうのだから……だが、その犠牲が天災によるモノだったとしたら、其れは仕方のない事だと、ある意味で諦める事も出来るだろうが、その原因が天災ではなく人災であると言うのならば、諦める事は出来ない。
寧ろ、その人災を起こした者に対して怒りを覚えるのが当然だと言っても過言ではないだろう。


「私とクローゼが目障りだと言うのならば、私達だけを狙えば良いだろうに……其れにも関わらず、全く無関係なロレントの市民を犠牲にするとは、大した正義だなモルガン将軍殿?
 己の正義を遂行する為には人の命など簡単に斬り捨てる事が出来るとはご立派過ぎて、どんな賞賛の言葉を投げかければ良いのか分からんよ――貴様の言う、唾棄すべき独善的な正義に掛ける賞賛の言葉など、永遠に分かりたくはないがな。」

「ほざけ、小娘が!!不穏分子は全て排除するのが国の為!!その為には多少の犠牲は必要経費よ!!」

「老害が吠えるな!!」


ロレントを襲った移動要塞の上空では、なのはとモルガンが激しい空中戦を行っていた。
なのはのレイジングハートと、モルガンのハルバートが幾度となく激突して、その度に激しいスパークが発生しているのを見るに、相当に激しい戦いが繰り広げられているのは間違いないだろう。


「アシェル、敵を蹴散らせ!滅びのバーストストリーム!!」

『ゴガァァ……ゴォォォォォォォォ!!』


一方では、クローゼがアシェルに攻撃命令を下して、モルガンと同じ飛行ユニットに乗っている兵を次から次へと撃墜して行く……手加減はしている上に、兵達はパラシュートも装備しているので、飛行ユニットが破壊されたからと言って地面に激突して人生にピリオドと言う事にはならないだろう。
ヴァリアスもまた、可成り加減した黒炎弾で飛行ユニット兵を撃破して行き、地上では京、レオナ、稼津斗の三人が武装した歩兵を相手に大立ち回りを演じている。
数が数なので、歩兵全員を足止めする事は出来ず、京達が到着する前に出撃した兵も居るので、可成りの数の兵がロレントに向かってはいるのだが、ロレントにはロレントで精鋭達が揃っているので問題ないだろう。


「く……!」

「ふん、中々にやる様だがワシと戦おうなど十年早いわ!!」


なのはとモルガンの方はと言うと、何度目かのぶつかり合いでモルガンがなのはをハルバートで吹き飛ばしていた……年老いたとは言え、若い頃は第一線で腕を振るっていただけあって、パワーはモルガンの方に分があるらしい。


「……其れは如何かな?」


だが、次の瞬間、モルガンを無数の魔力弾が襲った。
全く予想していなかった攻撃に、モルガンは驚くも何とか回避行動をとって被弾を最小限に止める……回避に集中してしまった事で、ハルバートで防ぐと言う事は出来なかったみたいだが。


「此れはアーツ……いや、魔法か!!まさか、ワシと戦いながら魔力弾を空中に設置していたと言うのか貴様!!」

「其の通りだ。
 そして、私の本領は近接戦闘ではなく魔法……そう、私は魔導師、其れも遠距離型の砲撃魔導師と言う奴さ。――さて、魔導師が近接戦闘で略互角に貴様と戦ったと言う事に関して、感想を聞かせてくれるとありがたいな?」

「貴様……!!」

「将軍とやらが如何程の実力を持っているのかと思い、お前の流儀に合わせてやったが……貴様の実力は最早底が知れたのでな、此れからは私の流儀で戦わせて貰うぞ?
 さて、その玩具に乗った状態で、何処まで私の本気に付いて来れるか……力の限り足掻いて見せるが良い!」


なのははモルガンの実力を推し量る為に、敢えて近接戦で遣り合っていたのだが、だとしても魔導師が戦士と略互角に近接戦が出来ると言うのは恐るべき事だろう。
近接戦も出来る砲撃魔導師と言うのは、言うなれば不得手な距離が存在しないと言えるのだから――加えてなのはは、『単機で戦える砲撃魔導師』と言う独特のスタイルをも確立し、近接戦闘が出来なくとも戦士と互角に戦う事が出来るのだが、その戦闘スタイルを確立した後に、戦士に勝てずとも負けないレベルの近接戦闘技術を身に付けているので正に隙なしと言えるだろう。

そして此処からは、なのはの本領である空中での魔法攻撃が解禁される……なのはの魔力を受け取ったレイジングハートが、一層強く金色の輝きを放ったのだった。











黒き星と白き翼 Chapter15
『見せてやる、ロレントの底力を!』









その頃ロレント市内でも、ロレントの精鋭達と、軍の兵による戦闘が行われると同時に、美月が破壊されたホテルと教会に結界を張って、無事な市民達の手で瓦礫の下敷きになった人達の救助活動も行われていた。
不幸中の幸いだったのは、マルガ鉱山で働いている力自慢の鉱員達が、今日も今日とて鉱山での作業に勤しんでいた事だろう――なので、璃音がマルガ鉱山まで文字通り飛んで行き、鉱員達に話をして、今度はリベリオンで身に付けた転移魔法で鉱員全員をロレントまで転移させ、そして救助活動に参加して貰ったのだ。
鉱山に行く際に転移しなかったのは、璃音の転移魔法はまだ初期レベルであり、『一度行った場所にしか転移出来ない』からである。


「美月の結界は、多少の攻撃ではびくともしないからな……救助現場の安全が確保されていると言うのならば此方も思い切り戦う事が出来る!
 咎人の血を啜りし呪われた楔よ、その呪いで更なる血を己に注ぐが良い……ブラッディ・レイン!!」


救助現場の安全が確保されているのならば、其方を気にせずに戦う事が出来るので、ロレントの精鋭達は此処からが本領発揮だ。
先ずはアインスが、自身が得意としている広域攻撃魔法『ブラッディダガー』のバージョン違いとも言える『ブラッディ・レイン』を使って、王国軍の兵の頭上から無数の魔力の刃を降らせる。一応非殺傷で放っているが、先端が尖っている鋭利なナイフが空から避け様がない位に降ってくると言うのは脅威だろう。
無論、兵達はその場から逃げようとするが……


「楽には死ねんぞ!」


其処に庵が『裏百八式・八酒杯』を叩き込んで兵達を拘束する――千八百年前に八岐大蛇を動きですら封じてしまった炎に囚われては、人間では指一本動かす事は出来ない訳で、兵達は無慈悲な『血の雨』を喰らう事に。


「エステル、今だ!」

「うおりゃぁぁぁぁ……オータニショーヘイ!!」


別の場所では、ヨシュアが持ち前のスピードで兵を攪乱して、更に体勢を崩すと、其処にエステルが重い一撃をぶちかまして五~六人の兵を纏めてホームラン!ブッ飛ばす際の掛け声が若干謎だったが、其処は突っ込み不要だろう。
エステルとヨシュアのコンビは、男女コンビでありながらスピードを男性のヨシュアが、パワーを女性のエステルが担当すると言う少しばかり珍しいタイプのコンビでもあるのだが、此れが初見の相手には『男の方が攪乱するのか!?』と混乱させる効果があって中々に良い感じなのだ。――因みにロレントでエステルに腕相撲で勝つ事が出来るのは現状志緒だけである。
戦闘技術とか知識、総合力ではカシウスの方がエステルよりも遥かに上だが、パワーだけに関して言えばカシウスでもエステルには敵わないのだ……庵が暴走した場合はまた話が違うだろうが。


「うふふ、レンからは逃げられないわよ♪」


更にレンが大鎌を振るう度に兵が崩れ落ちて行く……レンは兵を殺した訳でなく、死神の能力を使って、身体を傷付ける事なく、大鎌で直接魂にダメージを与えて意識を刈り取っているのだ。
魂を直接攻撃されると言うのは、延髄を攻撃される以上の効果があり、ドレだけ屈強な男であっても一撃で気絶してしまうのだ……魂の質が強ければ耐える事も出来るのだが、それでも『脳を揺らされた』のと同じ位のダメージを与える事が出来るのだ。

美月以外のBLAZEのメンバーも的確に兵達を倒しており、特に志緒が獅子奮迅の活躍っぷりだ……兵の一団の中に飛び込んだかと思ったら、必殺の『イグニス・ブレイク』を叩き込んで、一気に十人は戦闘不能にしてしまっているのだ。
身の丈以上の大剣……いや、重大剣とも言える得物を軽々とぶん回すって時点で相当な剛腕なのだが、その剛腕から繰り出される一撃と言うのも相当な破壊力があると言う事なのだろう。

そんな彼等に負けていないのが一夏達、『鬼の子供達』だ。
『殺すな』との事だったので、武器は使って居ないが、稼津斗に鍛えられた一夏達は無手であっても充分に強いのだ――無手の格闘が得意でない夏姫は、ガンブレードの峰打ちで兵を倒しているが。


「合わせろ刀奈!!」

「お任せあれ!!」


一夏が蹴り飛ばした兵を、刀奈が蹴り飛ばされた勢いを利用して投げ飛ばし、其処に一夏がトドメとなる飛び蹴りを突き刺す!――だけでなく、別の兵に蹴りを叩き込んで昏倒させると其れをハンマースローで投げる……兵に追われているグリフィンに対して。
其れを見たグリフィンは、口元に笑みを浮かべると一夏がハンマスローで投げた兵に対してドロップキックを繰り出し、一夏はグリフィンを飛び越えて追って来た兵に跳び蹴りを叩き込む……グリフィンは追われていたのではなく、自身を追わせていたのだ。この合体攻撃を決める為に。


「一夏、一曲如何だい?」

「そうだな、乗らせて貰うぜロラン。」


今度はロランの手を取ると、まるでダンスをするかのような動きで兵を蹴散らして行く……戦いの舞踏とは、正にこの事だろう。華麗なバトルダンスは、兵を次々とダウンさせて行く。


「行くぜヴィシュヌ!」

「はい!!行きますよ……炎神……」

「雷龍……」

「「波動拳!!」」


続いて発動したのは、ヴィシュヌとの合体攻撃――一夏の『電刃波動拳』とヴィシュヌの『灼熱波動拳』を同時に放つ『炎神雷龍波動拳』だ。灼熱の炎と、閃光の雷の合体攻撃を喰らって立って居られる者は居ないだろう。
因みに、一夏は簪以外の嫁とはヴィシュヌ同様に『合体波動拳』を使えたりする。氷の波動が使える刀奈とは『氷牙雷龍波動拳』、風属性のロランとは『風雷神撃波動拳』、属性が周囲の環境によって変わるグリフィンとは『超真空波動拳』を放つ事が出来るのだ。


「何の罪もない人を勝手な理由で殺すか……ハーメルを滅ぼしたライトロードを思い出してムカつくぜ、お前等を見てるとな!!」


そして、一夏はロレントの一般市民を巻き込んだ攻撃をした王国軍に、ハーメルを滅ぼしたライトロードを重ねて怒りのボルテージが可成り上がっていた……そして、その怒りが一夏の力を底上げしていた。
一夏は、最も稼津斗の技を身に付けており、『鬼の子供』達の中では最強とも言えるのだが、その一夏が怒りによって強化されたと言うのは凄まじいだろう。



――ドッガァァァァァン!!



そんな戦場に、突如として上空から何かが突っ込んで来た!
突っ込んだ場所は、王国軍の兵の集団だったので、ロレントの戦力にはマッタク持って被害は無いのだが、流石に行き成り上空から何か突っ込んで来たとかマッタク持って意味が分からない。よもや隕石が降り注いだと言う事でもないだろうからね。……着弾点には、隕石が衝突したようなクレーターが出来てる訳だが。


「あ~っはっは~~!らいこー散らして僕さんじょー!!あくとーどもめ、僕がきたからにはもう逃げられないぞ!さぁ、かかってこーい!!」

「掛かって来いと言っておきながら、自分から攻撃するのってどうなのかな?」


クレーターから飛び出して来たのは、プレシアの子供の一人であるレヴィだ。――隕石宜しく地面に激突しておきながらマッタク持って無傷と言うのは呆れた頑丈さだと言えるが、そもそもにして『アホの子』には、並大抵の事では大したダメージにならないのかも知れないな。アホの子マジで最強ですわ。
そんなレヴィに、姉であるフェイトが突っ込みを入れていたが、此れはテスタロッサ姉妹にとっては最早日常の事なので気にする事でもないだろう。そもそもにしてアホの子には突っ込みは要らんのですよ!だってアホの子だから。

取り敢えず、テスタロッサ姉妹が戦線に加わり、同じく転移して来たリニスは救助現場に赴いて、怪我人の治療に当たっていた。その間、魔導人形は瓦礫撤去を手伝って、まだ生き埋めになている生存者を探している。


「あの人形凄いっすね……アイツ等が二、三体居てくれたら鉱山での仕事も大分楽になるんじゃねぇか?」

「馬鹿言ってんじゃねぇ!鉱員はテメェの手で鉱石掘り出してナンボだろうが!其れにな、機械使って掘ったり、ダイナマイトで吹っ飛ばしたりすると、鉱石の純度が落ちるんだ、覚えとけ!
 んな事よりも今は瓦礫だ!鉱山から鉱石掘り出すんじゃなく、瓦礫の山の中から犠牲者掘り出すのが今の俺達の仕事だ!!」

「「「「「「「「「「うっす!!」」」」」」」」」」


鉱員達も負けじと瓦礫を撤去し、まだ息のある者をリニスの元に連れて行く……無論生存者だけでなく、事切れてしまった者も居るのだが、其れもちゃんと瓦礫の外に運び出して行った。物言わぬ骸になったと言えども、瓦礫の中に閉じ込めて居ていい筈がないからだ。
其れでも、身体の損傷が軽微な物であれば、蘇生魔法で蘇らせる事も可能だが、そうでない場合は……な。犠牲者は、不届き者を始末した後でキチンと弔ってやらねばならないだろう。




「しかし、殺さないように戦うと言うのも中々に面倒なモノだな?
 この程度の連中には負ける気は全く無いが、手加減をし過ぎるとすぐまた向かって来るし、だからと言って加減を間違えれば殺してしまう……いっそ腕や足の一本でも斬り飛ばしてやるか?
 傷口を焼き固めてやれば死ぬ事もないだろうし、流石に腕や足を失えば戦う事は出来んだろう?私の様な再生能力を持っていない限りはな。」

「サイファーよ、切り落とされた四肢の処理が面倒だからやめておけ。コイツ等の肉など、犬畜生でも食わんだろうさ。」


市長邸の前では、サイファーとクリザリッドが市長邸に群がる敵を叩きのめしていた。
長剣二刀流の峰打ちで戦うサイファーは、己の再生能力にモノを言わせて、銃で撃たれようが剣で斬られようが、そんなモノはお構いなしに兵達を刀身でブッ叩いて行き、クリザリッドは大ぶりの蹴りから横倒しにした竜巻の様な技『テュフォンレイジ』で兵を吹き飛ばして行く。通常の竜巻とは違い上空に吸い上げられる事はなく、横方向に強烈に吹っ飛ばされるだけなので殺傷能力はあまり高くないので、『殺すな』と言うなのはの命令を守るために使って居るのだろう。

どんなに攻撃しても倒れないサイファーと、竜巻で吹き飛ばして来るクリザリッドのコンビは、其れだけでも兵達からしたら恐怖の存在なのだが、更に兵達を震え上がらせているのが、攻撃を受けても居ないのに突然と倒れる兵が少なくない数居た事だ。
此れは恭也が気配を完全に消した上で『神速』を使って完全に意識外から延髄に的確に手刀を叩き込んで意識を刈り取って居るのだ……日々の鍛錬で戦いの勘を取り戻した恭也の実力は相当なモノがあるのだ。

だが、其れでも兵は次から次へと現れる……モルガンはハーケン門に詰めている兵隊を全て連れて来たのだろう――つまり今はハーケン門は警備が手薄になってる訳なのだが、この隙にハーケン門を攻められたらどうする心算だったのだろうか?……多分其処までは考えてないのだろうな。


「あぁ、ったくうざってぇな!一体何匹出て来やがんだテメェ等は、あぁ!?灯蛾の如く燃え尽きろぉ!!」


KUSANAGIが悪態を吐きたくなるのも無理はない。次から次へと兵が現れ、ハッキリ言って倒しても倒してもキリがない『無限討伐』状態なのだから。最悪の場合はロレント勢の方が先にスタミナ切れを起こしてしまう可能性すらあるのだ。

だが――


「ウオォォォォォ……ドラゴン、フォーーーーール!!!」


此処で空から炎の龍が兵達に向かって突撃し、兵達を鎧袖一触!!


「アンタは……アガットさんか!如何して此処に?」

「オッサンに呼ばれたんだよ。……しかしまぁ、王国軍の奴等がロレントに攻め入ってくるとは、中々にトンでもねぇ事になってるじゃねぇか高幡よぉ?久々に一緒に暴れんぞ!遅れるなよ!!」

「ウッス……!」


その正体は、リベールのA級遊撃士の一人でボース地方のラヴェンヌ村に住むアガット・クロスナーだった。
赤い髪と頬の十字傷が特徴的で、言動は粗野で粗暴だが、その実は頼りになる兄貴分と言った人物だ――大柄な体格、炎属性、使用武器が重剣、頼れる兄貴分と、何かと志緒と似通った部分が有るのだが、志緒との仲は良好で、『リベールの重戦車コンビ』との呼び名も高かったりする。

そして援軍はアガットだけではなく、アガットに続く形でロレントの上空に現れた高速輸送船から多数の兵士が飛行ユニットを使って降下して来たのだ。


「王国軍諜報部特務隊、此れよりロレントに加勢する!」

「貴様!王国軍の人間でありながら、我等の邪魔をすると言うのか!この逆賊が!!」

「逆賊は貴様等だろう!皇女殿下を幽閉した愚王に従う不届き者共が!!」

「そうだな……クローディアを幽閉したと言うだけでも、デュナン公は万死に値する。」


其れは情報部の特務隊と、元王族親衛隊の隊員達だ。
特務隊は特務隊としての戦闘装備を身に付けているのだが、元王族親衛隊の隊員達は王国軍の軍服ではなく、王族親衛隊の隊服を着用している――此れは、リシャールが用意したモノだ。
『リベールに新たな王が誕生しようとしているのならば、王族親衛隊はまた必要になる』と言って、表向きには廃棄された事になっていた隊服を元王族親衛隊の隊員達に届けたのだ。何とも粋な計らいだと言えるだろう。

だが、特務隊と元王族親衛隊の隊員達が戦線に加わった事で数の差は略無くなり、質で上回るロレントの勢力が徐々に兵達を抑え込んで行った。


「此れで決めるで!響け終焉の笛、ラグナロク!!」

「無敵!無限!!我こそが王よ!吼えよ巨獣!ジャガーノート!!」

「クズ共が、精々祈るが良い……遊びは終わりだ!泣け!叫べ!そして、死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」


でもって、庵、はやて、なぎさの『八神三兄妹』は絶好調だった。――『死ね!』と言いつつ殺していない辺り、庵も相当に手加減しているのだろうな。








――――――








移動要塞上空でのなのはとモルガンの戦いは、なのはが本来の戦闘スタイルを解禁した後は一方的な展開となっていた。
縦横無尽に飛び交う魔力弾に動きを制限された所に超威力の直射砲を叩き込まれ、モルガンは既に満身創痍だった――魔力弾をかいくぐってなのはに肉薄して一撃を与えた事もあったが、渾身の一撃を叩き込まれてもなのはは全く涼しい顔をしていたのが、モルガンには信じられなかった。
なのはは、自分の得意分野の弱点も把握しており、『攻撃に耐える事が出来るのならば避ける必要はない』と言う極端な考えで、己の防御力を極限まで強化しているので、ハルバートの一撃を喰らった程度では碌にダメージを受けないのだ。
先刻吹き飛ばされたのは、モルガンに己の愚かさを分からせる為だったのだろう。


「……此れ以上やっても無駄だなモルガン。大人しく降参しろ。今降参すれば、此れ以上痛い目に遭わずに済むぞ?」

「小娘が……生意気にも降参しろだと?貴様の様な小童に対して負けを認めて降参する位ならば、ワシは戦場で命を散らす事を選ぶ!軍人の覚悟を舐めるでないわぁぁぁぁ!!」

「……ヤレヤレ、自分が生かされている事にも気付かないとは、哀れだな。
 お前が背負っているパラシュートは既にアクセルシューターで破壊してある……そして、飛行ユニットを破壊すればお前は地面に向かって真っ逆さまだ――が、そうなって居ないのは、私が飛行ユニットを破壊していないからだ。
 分かるか??パラシュートを破壊した時点で、私は何時でもお前を殺す事が出来たんだ……其れでも、まだ負けを認めんか?」

「んな!?」


更になのはは、モルガンに対して『いつでも殺す事は出来たが、今まで殺さないでやっていた』と言う事を明らかにする――パラシュートを破壊された上で、飛行ユニットを破壊されたら、其れはもうお陀仏間違いなしだが、なのはは敢えて飛行ユニットを破壊せずにいたのだ。モルガンが自ら降参するのではないかと考えて。


「だが、如何あっても貴様に降参すると言う選択肢は無いらしいのでな……決定的な一撃で強制的な敗北をくれてやる!
 なに、非殺傷だから死にはしないから安心しろ……尤も非殺傷であっても無機物は破壊出来るから、移動要塞の中にいる連中には避難を促した方が良いかも知れないぞ?瓦礫の下敷きなったら、命の保証はないからな。
 レストリクトロック!」

「なにぃ!!」


だが、モルガンが降伏しない以上、なのはにはモルガンを完全に叩き伏せる以外の選択肢は存在せず、モルガンをバインドで拘束して身動きを封じると同時に、周囲の魔力をかき集めて、必殺の一撃を放つための準備をしていく。
集められた魔力は、やがて巨大な桜色の魔力球を生成する……此れこそが、なのはが十年間己を鍛えて来た中で会得した究極奥義『スターライトブレイカー』だ。
周囲の魔力の残滓をかき集めて放つ、なのはの魔力が略枯渇した状態であっても放てる、正に究極の切り札!


「此れで終いだモルガン……全力全壊!スターライトォォォ……ブレイカァァァァァァァァ!!」

「アシェル!ヴァリアスもお願いします!」

『ゴガァァァァァァァ!!』

『ギシャアァァァ!!』


「おぉぉぉぉ……燃え尽きろぉ!!」

「さよなら……」

「滅殺……ぬおりゃぁぁぁぁ!!」


スターライトブレイカーが放たれると同時に、アシェルのブレス攻撃、ヴァリアスの黒炎弾、京の最終決戦奥義・十拳、レオナのリボルスパーク、稼津斗の滅殺剛波動が炸裂して移動要塞を粉砕!玉砕!!大喝采!!!

飛行ユニットごとスターライトブレイカーを喰らったモルガンは完全に意識を失って地面に落下して行ったのだが、地面に激突する寸前でなのはが回収して一命を取り留めたようだ……尤も軍服が全て消し飛んでパンツ一丁の状態だったのを考えると、地面に激突してセイグッバイした方がマシだったかも知れないが。

何れにしても、この部隊の最高司令官であったモルガンが戦闘不能になった今、最早ハーケン門から出撃した兵達はコントロールを失った烏合の衆に過ぎないので、鎮圧は簡単だった。


「この程度か……余興にもならん。」

「此れでお終いです。」

「ち……アンタじゃ燃えねぇな?」

「任務……完了。」

「我こそ、拳を極めし者!」


勝利ポーズも実に見事に決まり、勝利宣言だ。

こうして、ロレントを襲った一件は陽が沈む頃には全ての兵を鎮圧して終息した。
だが、ロレントの被害は決して小さなものではなく、時計塔とホテルと教会が全壊し、死者十四名、重傷者二十名、軽症者十二名、重体者五名と言う人的被害が出てしまったのだった……

そして、この悲劇は程なくしてロレント全域に知れ渡る事になるのであった――デュナンと言う愚王が起こした、国民の虐殺行為として。












 To Be Continued 







補足説明