WRG1決勝トーナメントが延期となり、チーム遊戯王のメンバーはDホイールの改造&整備やらデッキ調整やらに余念が無い。
決勝トーナメントで戦う事になるであろう『ファントム』の事も念頭に置いて、これ等の作業は順調に進んでいる。
とは言え、根の詰めすぎにならないように適度な休息やら生き抜きもちゃんと入れている。(遊星の場合は無茶しやすいので遊哉が強制的に休ませているのだが…)
「このメンバーで出掛けるのも、何か久しぶりな感じ。」
「だね。チームが結成されてからは中々時間が取れなかったってのも有るけど。」
霧恵もまた、本日は響、氷雨、美咲の3人と息抜きのショッピング。
最近はこのメンバーで出掛ける事が無かったので、何か新鮮な感じがするようだ。
「パーッと息抜きして、英気を養おう!霧恵が一番楽しみなよ?」
「分かってるって!」
実に平和な一時であった。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel46
『エゴビヨノンネヤジ』
「小物が中心て言っても結構買ったね〜。」
年頃の女の子の買い物と言うのは得てして長く、そして購入物が多くなる。
大きな買い物をしない代わりにチマチマと沢山買う事が多いせいだろう。
この4人もご多聞に漏れず、小物を結構な数購入していた。
尤も霧恵の場合は、その殆どがカードプロテクターやデッキケースと言ったデュエル関連の物で占められているのだが…
「それにしてもさ、凄いよね此れ。本当にカードの精霊を見ることが出来るなんて。」
「マジ吃驚!しかもデザインも色々あるし。やっほ〜元気かエリア〜?」
「元気だよ響〜♪」
其れは兎も角として、霧恵を除く3人は辰美財閥製の『ある商品』を身につけていた。
今までの会話で分かるだろうが、其れは『カードの精霊を見ることの出来る装置』だ。
シンプルな眼鏡タイプから、アイバイザー、モノクル、果てはスカ○ターのような形まで形状のバリエーションも様々。
新商品のテストモニターを依頼する形でレンがチーム遊戯王に持ち込み、3人娘と鬼柳、シェリー、アキがテストユーザーとして使用しているのだ。
「面白いもの考えるよねレンも。」
「ソリッドヴィジョンで出て来ても、精霊見えない奴とは話せなかったからな。」
技術的にどんな事して、此れの開発に成功したのかは聞いてはいけない。
レン曰く『企業秘密』との事らしい。
「アレ?そう言えば遊哉の龍皇達って居なかったよね?さっき居たのはエアトスだけ?」
「龍皇殿達は単純に室内だと狭くて出てこれないんですよ。大きいですから。」
「成程…納得。」
霊魔導師達と話しながら、ショッピングを続け穏やかで平和な時が過ぎて行く。
「ん?何だこの感じ?」
が、こう言った穏やかで平和な時と言うのは往々にして長続きしないものである。
ダルクが何かを感じ取りその動きを止め、ある一点を見つめている。
「ダルク、どうかした?」
「…俺の気のせいか?あっちの方から重苦しい感じがする。」
そう言って自分が見つめている方向を指差す。
その方向にある物は霧恵達も知っている。
『開発地区』だ。
「開発地区?そう言えば古い洋館が有った筈だけど…」
「多分発生源は其処からっぽいな。言われてみりゃ変な感じがするぜ…」
「流石は闇属性のダルク君!変な気配には真っ先に気付くね!」
「其れは誉めてるん……だよな?」
とは言っても、廃墟同然の洋館ともなれば自縛霊や浮遊霊の一つや二つ居てもおかしくない感じがする。
霧恵もダルクはそんなモノを感じ取ったのだろうと思い、それほど気にはしなかったのだが…
――キ…エ…
「…誰か呼んだ?」
突然誰かに呼ばれた気がして辺りを見渡すが誰も居ない。
3人娘と霊魔導師達に聞いてみるも、誰も呼んではいないようだ。
――…キリエ…!
「!!」
――気のせいじゃない!今度ははっきり聞こえた…!
再び呼ばれた気が――否、今度はハッキリと霧恵を呼んでいる事が分かった。
改めて辺りを見回し、そして見つけた。
――雑居ビルの陰から此方を見ている『カガミキリエ』の姿を。
「アタシ自身!!?」
「げっ、何アレ!?」
「そっくりさん……って訳じゃ無さそうだね…」
「まさかのドッペルゲンガー!?」
霧恵だけでなく、当然3人娘も驚く。
更に…
「アレから、ダル君が感じたのと同じ気配を感じる…」
「うん、間違いない。」
ウィンとライナが、先程ダルクが感じ取った『異様な気配』と同類の物がすると言う。
一体如何言う事かと考える間も無く、
――ニヤリ…
ソレは不気味な笑みを浮かべて裏路地に姿を消す。
「ま、待って!!」
霧恵も慌てて其れを追い、3人娘も其れに続く。
此れが、全く知らない第3者の姿をしていたならば捨て置いたかもしれない。
しかし霧恵の姿で現れたと言う事に何処と無く嫌な予感がして無視する事ができなかったのだ。
――コッチダ…
誘導するようにキリエは霧恵達に自分を追わせる。
霧恵達も見失わないように喰らい付く。
「霧恵、此処って…」
「開発地区…!てことはやっぱりあの洋館?」
追いかけっこの末、辿り着いたのは朽ちた洋館のある開発地区。
まだ昼間だと言うのに、何とも言えない不気味さが漂う。
「霧恵、あの洋館からで間違い無いよ。物凄く嫌な感じがする。」
「エリア…うん、そうだね……」
――凄い瘴気…でも如何して遊哉や遊星は気付かなかったの?
物理的な息苦しさすら覚えそうな洋館の佇まいと、其処から発せられる瘴気に起こる僅かな疑問。
少なくとも遊哉と遊星ならば気付きそうなくらいに強烈な力を感じるのだ。
だが、この場には霧恵達以外に居ない事が、気付いたのはこのメンバーのみであると言う事を示していた。
「霧恵。」
「氷雨……此れは又お約束ね…」
氷雨に呼ばれて見てみれば、キリエが洋館の入り口からこちらを見ている。
――…ニィ…
そして不気味な笑みを浮かべて洋館の中へと姿を消す。
普通に考えれば霧恵達を内部に誘っているのは間違いない。
したがって此れを追うのは最大級の悪手と言えるだろう。
が、此処まで来て引き返す霧恵ではない。
「お約束だけど、捨て置けないわよね…」
誘われていると分かっていても、洋館に踏み込む。
3人娘も其れに続いて中に。
で、こうなると更なる『お約束』があるわけで…
――ギィィィィ……ガチャリ
全員が洋館内部に入った瞬間に扉が閉まり、鍵まで掛かってしまう。
正面扉から出ることは此れで不可能になってしまった。
「マジでお約束だ……しっかし不気味だね〜〜。あの偽霧恵は何処よ?」
閉じ込められたと言うのに割りと余裕があるのはこのメンバー故だろう。
『闘いの王国』から、この間のファントムの襲撃までトンでもない事態を経験してるので耐性ができて洋館に閉じ込められたぐらいでは驚かない。
「霧恵、後ろ!!」
そんな中、美咲が霧恵の背後を指差して叫ぶ。
霧恵の背後にはひび割れた大きな鏡がある。
それだけならば問題は無かった。
だが、その鏡に映った霧恵の姿は美咲達の方を向いていたのだ。
霧恵は鏡を背にしているにも拘らずだ。
「!!…アンタは一体…」
美咲の叫びに、霧恵は鏡に向き直る。
映っているのは歪んだ自分の姿。
――ニヤリ…
その虚像が笑みを浮かべ…
――ズルリ…
鏡の中から出てくる。
姿形は霧恵そのものだが、まとう気配はまるで違う。
その身から発せられるのは、禍々しいまでの『闇の気配』。
霧恵とは似ても似つかない邪悪なモノ。
「一体誰なの?目的は何?」
不気味極まりない己の写し身に、怯む事無く霧恵は問う。
明らかに人で無い存在である事は間違いないが……
――ニィ…
「…………」
不気味な笑みを浮かべたまま無言でデュエルディスクを展開してくる。
「デュエルをしろってこと…?」
其れを見て、霧恵もデュエルディスクを展開。
相手の目的などは分からないが、恐らくデュエルで勝たなければ洋館から出る事は出来ないのだろ。
となればデュエルは受けるしかない。
「アンタの目的は分からない。如何してアタシの姿をしているのかも。でも、売られた以上は全力で相手するわ!」
「…そウ来なクてはナ。」
此処で漸く口を開くキリエ。
その声も、ボイスチェンジャーを使ったかの様な不気味さが漂う。
「デュエル!」
「デゅえル。」
霧恵:LP4000
キリエ:LP4000
「私ノたーン。…『ヴェルズ・ヘリオロープ』。」
ヴェルズ・へリオロープ:ATK1950
「カーどヲ伏セテ、たーンエンど。」
始まったデュエルは、キリエの先攻から。
先ずは攻撃力の高いレベル4の通常モンスターを召喚して伏せ1。
対して、
「アタシのターン!星砕く魔導師を捨て『THE トリッキー』を特殊召喚!」
THE トリッキー:ATK2000
「カードを1枚伏せ、墓地の『星砕く魔導師』の効果発動。アタシのフィールドの魔法・罠1枚を破壊し墓地からこのカードを特殊召喚する!」
「我が魔導の全てを賭けて…!」
星砕く魔導師:ATK1400
霧恵は得意の速攻トリック戦法でシンクロの準備を整える。
「破壊した『ダブルトリック』の効果でカードを1枚ドロー。さてと…出し惜しみ無しで行くわ!
レベル5のTHE トリッキーに、レベル3の星砕く魔導師をチューニング。
聖なる魂を受け継ぎし水の魔導師よ、清き力を我が前に示せ。シンクロ召喚!不浄を流せ『聖水霊魔導師−エリア』!」
「霧恵の偽者…覚悟!」
聖水霊魔導師−エリア:ATK2500
1ターン目から新たなエースであるエリアをシンクロ召喚。
宣言通り出し惜しみ無しと言うところだろう。
「星砕く魔導師がシンクロに使われた事でデッキから『蒼雷の魔導戦士』を手札に加える。
バトル!エリアでヘリオロープを攻撃!『清流のクリスタル・ストリーム』!」
「喰らえ〜〜!」
――バシャァァァ!!
放たれた激流の一撃がヘリオロープをいとも簡単に飲み込み、粉砕する。
キリエ:LP4000→3450
「…トラッぷ発動『侵略の尖兵』。自分フィーるド上の『ヴェルズ』と名ノツくモンスターガ破壊さレた時、
デッキか手札カラレベル4以下の『ヴェルズ』を攻守を0にシテ2体まで特殊召喚スル。現われロ『ヴェルズ・フォカス』『ヴェルズ・フリーグ』。」
ヴェルズ・フォカス:DEF850→0
ヴェルズ・フリーグ:DEF350→0
しかしライフを削られながらも、キリエは新たなモンスターを2体呼び出す。
攻守が0になったとは言え、此れで上級モンスターを呼ぶ事が出来るようになった。
――レベル4のモンスターが2体…エクシーズで来る?
「エリアの効果発動。相手モンスターを戦闘で破壊した時、そのモンスターの攻撃力か守備力のどちらか高い方を選択し、その数値分ライフを回復する。」
「そぉれ!」
霧恵:LP4000→5950
逆に霧恵はライフを大幅に回復。
このライフゲインは結構大きいものだ。
「更にエリアの効果でその2体のモンスターの効果はこのターン中は無効よ。カードを1枚伏せてターンエンド。」
「この瞬間ニ、2体のモンスターの効果ハ復活すル。私のターン…先ズはフォカスの効果発動。コノかードは守備表示デ存在する時元々のレベるは6ニなる。」
ヴェルズ・フォカス:LV4→6
「更ニフリーグの効果。エんドフぇイズまデコノカードのレベルヲ6にスる。」
ヴェルズ・フリーグ:LV4→6
先手を取られたキリエは、復活したモンスター効果を使い、レベルを変動。
レベルのみを揃えたと言う事は狙いはエクシーズだ。
「レベル6が2体…ランク6のエクシーズ!」
「迦神霧恵…面白いものヲ見せテヤろう。れベル6となっタ、フォカスとフリーグをオーばーレイ。
オーバーレいネっトわークヲ構築。邪念を喰らいシ侵略者ノ魂、今此処に顕現ス。エくしーズ召喚『ヴェルズ・ヘカーテ』。」
「ウゥ…アァァァァァァァァァ!!!」
ヴェルズ・ヘカーテ:ATK2950
「え…?」
現われたそのモンスターに、霧恵は己の目を疑った。
顔の半分は仮面で覆われ、左腕は人のものではなく蟲を思わせる足。
それだけではなく、背中からも無数の蟲の足と思われるものが生えている異形の存在。
だが、仮面に覆われていない顔の部分と、何よりもその纏った服は間違えようも無い。
「そんな…どうして…!」
「う、嘘だよ…こんな事って…!」
霧恵だけでなく、エリアも信じられないという風に其れを凝視する。
「どうして其処に居るの…アリオス!!」
「アリオスちゃん!!」
「あぁ…ヴァァァァァァァァァァ!!!!」
霧恵とエリアの声に、アリオスだった存在は理性を欠片も感じさせない叫びで応える。
――ニィ…
其れを見たキリエは、この上なく邪悪な笑みを浮かべていた…
*補足
ヴェルズ・フォカス(ヴェルズ化D・スコープン)
レベル4 闇属性
機械族・効果
このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。
●攻撃表示:1ターンに1度、手札からレベル4の「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
●守備表示:フィールド上のこのカードの元々のレベルは6になる。
ATK1350 DEF850
ヴェルズ・フリーグ(ヴェルズ化極星天ヴァナディース)
レベル4 闇属性
天使族・効果
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。エンドフェイズ時まで、このカードのレベルは6になる。
ATK1250 DEF350
侵略の尖兵
通常罠
自分フィールド上の「ヴェルズ」と名の付いたモンスターが破壊された時に発動できる。
自分のデッキか手札からレベル4以下の「ヴェルズ」と名の付くモンスターを2体まで特殊召喚する。
コノ効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力と守備力は0になる。
To Be Continued… 