「うわぁぁぁぁぁ!!」
LP2000→0
童実野町の一画で行われていた1つのデュエルが今終わった。
「弱ぇなぁ…オイ!なんだっけ?…そうそうこんなんじゃ満足できねぇぜ?ひゃ〜っはっはっはっは!!」
勝者の男はそう言いながら負かした相手に蹴りをぶち込む。
「ガッ…げふ…この野郎…」
「んじゃなこいつは貰ってくぜ。」
そしてデッキと財布を強奪してしまった。
「そうそう、俺のことはよく覚えて置けよ?俺の名は『キリュウキョウスケ』。手札零のキリュウだ…ひゃっひゃっひゃ!!」
此れを皮切りに、辻デュエルを仕掛けての強盗傷害事件が何件も発生する事になった。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel34
『無手札と手札零』
「警察が俺に何の用だ?」
ある日の事、毎度おなじみ霧恵のコンドミニアムに、何故か警察がご登場。
「鬼柳京介、近頃多発している連続強盗デュエル事件の重要参考人としてご同行願う。」
「はぁ?」
余りに行き成りすぎて素っ頓狂な声が出てしまった。
何故に自分が重要参考人なのかと言う疑問もあるだろう。
「被害者全てが犯人は『キリュウキョウスケ』と名乗っていたと証言している。」
「オイオイ…そいつは濡れ衣だな。てか、もう殆ど犯人扱いじゃないか。」
「兎に角詳しい話を署の方で……「たっだいま〜〜!!」……グハッ!!」
連行しようとした所で、今まで話していた警察の男が行き成り吹っ飛んだ。
「って誰だこのおっさん?」
「取り合えず確認してから蹴り入れようね?」
原因は遊哉。
霧恵と買い物から帰ってきた矢先、玄関に屯していた(遊哉視点)男を蹴り飛ばしたらしい。
「手加減したから無問題。まぁいざとなったら強盗を蹴り飛ばしたって事にすりゃ、警察だって何とかなんだろ。」
「遊哉、お前が蹴り飛ばした奴が、その警察だぜ?」
「えっ……?」
「だから確認しろって言ったでしょうに…」
沈黙。
そして…
「……OK無かった事にしよう!」
「出来るか〜〜!オノレ小僧、暴行罪と公務執行妨害で逮捕してやる!!」
実に予想通りになった。
「なんだよオッサン、ちょっとした間違いじゃねぇか。んな事で一々キレてっと生涯独身のままだぞ?」
「何故俺が独身だと知っている!!」
「あ、マジだったんだ。」
「おんどれぇぇ!!!本気で逮捕してくれるわ〜〜!!」
「ウワー、警官がブチキレテ善良な市民を無実の罪でしょっ引こうとしている〜。国家権力のオーボーだ〜〜♪」
行き成り相手を確認しないで蹴り喰らわせた方が絶対に悪いと思うのだが、遊哉には言うだけ無駄。
「…もう良いや。で、鬼柳がどうかしたの?」
警官をからかっている遊哉はほうって置いて、霧恵は制服の警官に何事かを聞く。
「はい、実は…
――説明中
と言うことでありまして、真に申し訳ありませんが鬼柳京介さんには同行を…」
「そんなことがね…でもね、言わせて貰うけどそれは無いと思うわ。ねぇ遊星?」
「あぁ、鬼柳はそんな事はしない。」
タイミングよくコンドミニアムから現われた遊星に同意を求めれば勿論肯定。
「つーか京介は、んなちまちましたせこい事なんざしね。だろ?」
何時の間にか遊哉も加わる。
「当然だろ?強盗なんて行為は満足に値しない。…でさっきの警官は?」
「毒舌で沈めました!!」
言われてみてみれば、なるほど真っ白に燃え尽きている。
一体何を言ったのやら…
――PiPiPiPiPi…!
「む、失礼。」
そんな中、制服警官の無線に通信が入る。
「はい、はい…えっ?公園で?はい、了解しました!直ちに急行します!!」
なにやら切迫した雰囲気だが…
「何か有ったのか?」
「たった今、公園で新たな被害者が出たと。こうなれば貴方はシロだ。失礼、本官は直ちに現場に……起きて下さい警部!!」
どうやら、新たな強盗事件が発生した模様。
奇しくも、それは鬼柳が犯人ではないという証明となった。
で、制服警官は、遊哉の口撃でKOされていた私服警官(どうやら階級は警部らしい)を引き摺る形で現場へ急行。
残された遊哉達はと言うと…
「犯人は逃走してるだろうよなぁ?」
「まぁ、そうだろうな。」
「どうする?」
「こうなったら、俺が直々に捕まえてやる。俺の名を語る偽者に本当の満足の仕方ってモノを教えてやるぜ。」
やる事は決まった。
そうなると次は、
「犯人を誘き出す為のトラップか…」
「誘き出すより殴りこみかけた方が早くねぇか?」
なんとも物騒な発言が飛び出した。
と言うか、この間の辰美財閥の件と言い、遊哉は待つのではなく、自分から攻め込むのが信条らしい。
「場所わかんないでしょうに…」
「さっきオッサン口撃してる時に適当に誘導してある程度情報は聞き出してるぜ?」
「やるな緋渡。」
ただ口撃してただけではなかった。
「警察の方は童美野埠頭の近辺で当たりをつけてるみてぇだな。」
「なら、其処に張りこむ。無手札の鬼神の恐ろしさ…思い知らせてやる…!」
自らの名を騙っての強盗行為に、鬼柳は既に怒りゲージが振り切れ寸前だった。
其の後、シェリーとアキも加えて作戦は決まった。
張りこみにレンと3人娘も呼び、決行は今夜。
――――――
――童実野埠頭
チーム遊戯王+αは此処で張り込みをしていた。
付近には警察も張りこんでいる。
警察が張りこみに踏み切ったのは、昼間の一件で『鬼柳京介』と一連の事件の犯人『キリュウキョウスケ』が別人だと断定されたからだ。
で、本物の鬼柳本人は埠頭の一角、それも非常に目立つ場所で犯人を待ち構えている。
如何考えても、大人しくお縄に付く事などにであろう。
ならばデュエルで叩くのみ。
鬼柳としても、自分の名を騙った偽者は自らの手で煉獄に叩き落さねば満足出来ないのだろう。
と、
「ひゃっひゃっひゃ…今日もぼろ儲けだぜ。手札零は無敵だぜ!」
「さっすがはアニキ!このまま儲けましょうぜ!」
「罪を被るのは鬼柳って奴ですからね!!」
事件の犯人と思しき3人組が登場。
並んだ3人の、真ん中の人物が主犯格…つまり『キリュウキョウスケ』なのだろう。
上手く事が進んでいるからだろう、非常に上機嫌だ。
この先に何があるのかも知らず。
「あれ、アニキ俺達のアジトの前に誰か居ますよ?」
「あぁん?誰だこんな所に?」
犯人グループは鬼柳の姿を確認し、訝しげにその姿を見る。
「おう、誰だテメェ?此処がどこか知ってんのか?」
1人がガラ悪く絡んでくるが、鬼柳は涼しい顔。
この程度で怯むような軟弱者ではないのだ。
「…俺が用があるのは1人だけだ。お前が『キリュウキョウスケ』だな?」
主犯格の男を見やり確認する。
「だったら如何するよ?」
「貴様にデュエルを申し込む。」
自信満々に言い放つ相手に、あくまで冷静にデュエルを仕掛ける。
仕掛けられた側は、内心ほくそ笑んでいた……『カモが来た』と。
「けっけっけ、馬鹿な奴だぜアニキに勝てると思ってんの?」
「負けたらテメェの有り金全部貰うぜオイ!」
「好きにしろ。だが、精々俺を満足させてくれよ?」
「いいぜぇ。一応名前を聞いておいてやるよ。」
「恐ろしい偶然だがな俺の名も『鬼柳京介』だ。」
「「「!!!」」」
「どうかしたか?」
――鬼柳京介ぇ?まさか本物か!?いや、んな訳ねぇぜ。ひゃっは〜どうせはったりだぜ〜〜!!
「ひゃっはっは。いいぜぇ〜かかって来い。」
どうやら目の前の男が『本物』の鬼柳だとは思わなかったようだ。
故にマダマダ自信満々。
この余りの馬鹿さ加減に鬼柳は溜息をついていた。
――満足には程遠いな。だがまぁいい……本物の無手札を見せてやる。
「「デュエル!!」」
鬼柳:LP4000
キリュウ:LP4000
始まったデュエル。
先攻は鬼柳から。
「俺のターン。『インフェルニティ・ナイト』を守備表示で召喚。」
インフェルニティ・ナイト:DEF400
「カードを2枚伏せてターンエンド。」
――なんでぇ雑魚じゃねぇか。
「俺のターン!速攻魔法『手札断札』発動。互いのプレイヤーは手札を2枚捨て、新たに2枚ドローする。」
此方は手札の入れ替え。
「更にもう1枚『手札断殺』発動。」
又しても。
「更に魔法カード『謙虚な壷』発動!手札を2枚デッキに戻してシャッフルだ。」
今度は手札を自ら減らしてきた。
「準備は整ったぜ!来い『サイバネティック・サイクロプス』!」
サイバネティック・サイクロプス:ATK1400
「サイバネティック・サイクロプスは手札が0の時攻撃力が1000ポイントアップする!」
サイバネティック・サイクロプス:ATK1400→2400
一気に上級クラスの攻撃力に。
このために手札を消費していたのだ。
「バトルだ!サイバネティック・サイクロプスでインフェルニティ・ナイトに攻撃!!」
――ズバァ!!
その機械的な爪がインフェルニティ・ナイトを切り裂く。
守備表示なのでダメージは無いが…
「ふん…インフェルニティ・ナイトの効果発動。コイツが破壊された時手札を全て捨てることで、このカードを特殊召喚する。」
インフェルニティ・ナイト:DEF400
「更に永続トラップ発動『煉獄縛鎖』発動。俺の手札が0の時、相手モンスター1体を選択し、そのモンスターの効果は無効になる。」
「あんだとぉ!?こしゃくなまねしやがって〜〜!ターンエンド。」
サイバネティック・サイクロプス:ATK2400→1400
「俺のターン。今ドローした『インフェルニティ・デーモン』の効果発動。
手札0の時にこのカードをドローしたとき、互いにこのカードを確認する事でこのカードを特殊召喚する。」
インフェルニティ・デーモン:ATK1800
「更に手札0の状態でインフェルニティ・デーモンを特殊召喚したことで効果発動。
デッキから『インフェルニティ』と名の付くカードを1枚選択して手札に加える。俺が選ぶのは『インフェルニティ・ジェネラル』。」
相手のモンスターを弱体化させただけでなく、恐るべき速攻を披露する。
此処に来て相手は漸く、自分の考えが間違っていると分かった。
「こ、この展開。其れに今思い出したが『インフェルニティ』って、てめぇまさか本物の〜〜!」
「今更気付くなんて、矢張り満足には程遠いぜ。そうだ、俺こそが元『チーム・サティスファクション』のリーダーの鬼柳だ。
勝手に名前を騙って、強盗なんて真似をしてくれた落とし前は、確りつけてもらうぜ?」
正に大迫力。
やはりアメリカで修羅場を潜ってきたデュエリストは違う。
「俺は、インフェルニティ・ナイトとインフェルニティ・デーモンの2体をリリースし『インフェルニティ・ジェネラル』をアドバンス召喚!」
インフェルニティ・ジェネラル:ATK2700
「バトルだ、インフェルニティ・ジェネラル、サイバネティック・サイクロプスを切り裂け!『煉獄断殺』!」
無慈悲なまでの刃が機械仕掛けの巨人を切り裂いただけでなく、相手にも恐怖を与える。
「ひ、ひぇぇぇ〜〜〜!」
キリュウ:LP4000→2700
なんとも情けない声を出し、犯人:偽キリュウはへこたれてしまう。
「俺は此れでターンエンド。如何した、此れくらいじゃまだまだ俺は満足できねぇ…!」
完全な錯覚だろうが、今の鬼柳からは赤黒い煉獄の炎を思わせるオーラが立ち昇っているようにさえ見える。
偽者はデュエルどころではないのだが…
「あ、アニキしっかり!!」
「大丈夫何とかなるぜ!!」
子分の手前、逃げ出したら格好悪すぎる。
なんとか立つと虚勢を張ってデュエル続行。
「こ、此れくらい…俺のターン!!へっへっへ…魔法カード『0の宝札』を発動。
自分の手札が0の時、デッキからカードを2枚ドローする…ひゃっひゃっひゃ引きがいいぜ!!」
余程良いカードを引いたのか、一転強気になる。
なんとも単純だ。
「魔法カード『死者蘇生』!蘇れ『メカニカル・ハウンド』!!」
メカニカル・ハウンド:ATK2800
確かに良いカードだった。
蘇生コンボで、鬼柳のモンスターよりも攻撃力が高いモンスターを出した。
「メカニカル・ハウンドで、インフェルニティ・ジェネラルに攻撃、『メカニック・ファング』!!」
「ち…」
鬼柳:LP4000→3900
「カードを1枚セットしてターンエンド。言っとくとこいつは手札0の時、相手の魔法カードを封じるぜ!!」
この効果は確かに強い。
魔法を封殺できれば、行動は大きく制限されるからだ。
「それが如何した。俺のターン…『インフェルニティ・ミラージュ』を召喚。」
インフェルニティ・ミラージュ:ATK0
「インフェルニティ・ミラージュの効果発動。俺の手札が0の時、このカードをリリースする事で自分の墓地のインフェルニティモンスター2体を特殊召喚する。
煉獄から蘇れ『インフェルニティ・リベンジャー』『インフェルニティ・ジェネラル』!」
インフェルニティ・リベンジャー:ATK0
インフェルニティ・ジェネラル:ATK2700
魔法が封じられようとも手札が0の状態の鬼柳に死角は無い。
其れを証明するかのような高速展開。
しかもレベル8シンクロを可能とする展開だ。
「レベル7のインフェルニティ・ジェネラルに、レベル1のインフェルニティ・リベンジャーをチューニング。
光と闇、そして天と地が交わる時、その狭間…煉獄より無の支配者が現われる。シンクロ召喚!『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』!!」
「グオォォォォォォ!!」
煉獄龍 オーガ・ドラグーン:ATK3000
現われたるは煉獄に座す漆黒の龍。
その迫力は遊哉と遊星のドラゴンにも匹敵する。
「バトル。オーガ・ドラグーンでメカニカル・ハウンドに攻撃、『煉獄炎弾』!」
「掛かったな!トラップ発動『次元幽閉』!相手の攻撃モンスターを除外するぜ〜〜!!」
「残念だが、其れは無駄だ。オーガ・ドラグーンは俺の手札が0の時相手の魔法、罠の発動を無効に破壊できる。
そして、この効果を使用した場合オーガ・ドラグーンの攻撃力は500ポイントアップする。」
「な、なんだとぉ〜〜〜(゜Д゜;)!!」
煉獄龍 オーガ・ドラグーン:ATK3000→3500
自信満々の罠も不発に終わり、機械仕掛けの犬は爆破炎上。
「だが俺のライフはまだ残るぜぇ〜〜!」
キリュウ:LP2700→2000
「いや、此れで終いだ。トラップ発動『無の劇薬』。俺の手札が0の状態で相手モンスターを戦闘破壊したときに発動。
相手に俺の墓地の『インフェルニティ』と名の付くモンスターの数×300ポイントのダメージを与える。
お前が最初のターンで使った2枚の手札断札と、インフェルニティ・ナイトの効果で俺の墓地のインフェルニティモンスターは計10体だ。
さて、此れくらいは分かるだろ?300×10は?」
「さ、3000〜〜〜〜だっひゃ〜〜〜!!」
キリュウ:LP2000→0
全く危なげなく鬼柳の勝利。
そして、
「動くな、大人しくしろ!!」
潜んでいた警官が犯人を包囲。
遊哉達も犯人の退路を断つ。
「ひ〜なんで警察が〜〜?」
「お前達が昼間に動いたお陰で、鬼柳への疑いは逆にはれたんだ。」
「自分で隠れ蓑にしてた相手の無実証明とかアホかテメェは……あ、確認不要か。」
あっという間にお縄になった。
「やれやれ…こんなデュエルじゃ満足できないぜ…」
「でしょうね。…でも。」
「1週間後には…!
「「「「「「WRG1開催!!」」」」」」
しょうも無いデュエルだったが、大会前に厄介事が1つ無くなったのは良い事だっただろう。
チーム一丸、目指すは優勝のみだ。
――――――
――ファントム・アジト
「…だから如何して、あんなのを使うかな?」
「う〜む…少しは奴等に打撃を与えられると思ったのだが…」
部屋の中のモニターに映るのは童美野埠頭、今のデュエルを隠しカメラで見ていたらしい。
と言うか、会話から察するに、今回の事件はファントムが裏で手を引いていたようだ。
「あの程度で、連中が怯むわけ無いでしょう?まったく…それより私のカードは出来てるの?」
「其れは問題ない。大会までには出来上がる。お前の『機皇帝』がな。」
「ふふ、楽しみだわ。」
妖艶に笑い、その女性は部屋を出て…
「楽しみは良いけど遊星ちゃんは私のよ〜〜♪」
「…黙れ変態。」
行く前に、遊星狙いの変態に蹴りを入れていた…
ともあれWRG1まであと1週間…
To Be Continued… 