Side:雪奈


ナンパされてた委員長を助けて、礼に焼き肉屋で昼飯奢って貰った後は、アタシも委員長も暇だったから、一緒に適当に街をぶらつく事にし
たんだが、中々どうして委員長の意外な一面を見れた気がしたぜ……まさか、ゲーセンのユーフォ―キャッチャーで目的物をゲットするまで諦
めねぇとはな。
結局委員長の目的物はアタシが取ってやった訳だが、其の後もボウリングやカラオケで意外と盛り上がれたしな――つーか、委員長の歌唱
力の高さに驚きだぜ!
全国ランキング1位ってのは大したモンだ……しかもこの記録は絶対に超えられねぇ。何だよ100点満点って!初めて見たわそんなん!!



「こう見えて、歌は得意なんですよ私?」

「なんでもそつなく熟すタイプだってのは知ってたけどよ、まさかカラオケまで完璧だとは思わなかったぜ。
 取り敢えず、本日計10曲が、ユーザー名『委員長』が100点満点でトップを塗り替えると言う、多分前代未聞の記録が生まれたな。」

「フロントに報告したら何か貰えるのでしょうか?」

「分かんね。」

まぁ、早々ある事じゃないから、軽食メニューのポテト位はサービスしてくれるかもな。
ところでよぉ委員長、今日こうして過ごしたのも何かの縁だ……携帯の番号とメアド交換しねぇか?



「其れは構いませんが良いんですか?サボった時は容赦なくかけ続けますよ?」

「あ、サボる時は着信拒否るから。」

「成程、良い度胸ですね?」

「不良だからな。」

ま、そんな訳で委員長と番号とアドレス交換してだな。……しかしアドレスが『watashihaiinchou.ne.jp』って、徹底して委員長な訳な。











ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode15
『ヤンキーと夏休み、其の伍~不良娘と両親~』










カラオケで一通り歌った後は、駅前で委員長と別れて、其れから商店街で晩飯の材料買って帰宅。今日も暑いから、晩飯は冷やし中華だ。
って、ん?

「玄関の外灯が付いてる?」

いや、玄関だけじゃなくて家の中の明かりも点いてやがる……確かに出掛ける時に消した筈だから、まさか空き巣でも入りやがったか?
……良い度胸してんじゃねぇかこの野郎!
アタシの家に空き巣に入る度胸と根性は褒めてやるが、入る家を間違えたと後悔させてやんぜ!此の金属バットでな!!

良し、気付かれねぇように玄関を開けて……リビングから物音が聞こえるな?そこに居るって訳か……ふぅ――



――バァン!!



オイコラコソ泥!誰の家だと思って忍び込みやがった!……って、アレ?



「アラアラ、おかえりなさいユキ。」

「おかえりユキ。どうしたんだ、金属バットなんて振り上げて?」

「お、親父にお袋!?」

アンタ等だったのかよ!!
っつーか、珍しいなこんな時間に帰ってるなんて?……アタシの知る限りじゃ、アタシが小学校に上がってから、この時間に帰って来た事って
まず無かったよな?



「それは……まぁ、そうだね?」

「早く帰って来るならそう言ってくれよ……空き巣に入られたと思っちまったじゃねぇか。」

「其れで、金属バットを振り上げてたの?」



そうだよ!
空き巣のコソ泥が居たら、適当にぶちのめした後でサツに突き出す心算だったからな……まぁ、相手が複数いたとしても金属バットを装備し
たアタシの敵じゃねぇしな。



「いやはや、何とも……中々にバイオレンスだね?」

「自慢じゃねぇが、この界隈では――若しかしたら関東圏では最強の不良かも知れないんでな。」

それにしても、親父もお袋もアタシがこうやって不良やってる事に関しては何も言わねぇんだな……アンタ等の会社での立場ってのを考えた
ら、一人娘がトンデモねぇ不良だってのはマイナス要素だと思うんだけどよ?
――5年前、アンタ達に反発したその時から、アタシのやる事に口出ししなくなって、辞めた習い事を新たにやらせる事も無かったけど、其れ
までの英才教育を考えると、ちょっと信じられねぇんだ。

アンタ達にとって、アタシは気に掛けるような存在でもなくなったのか?



「……其れを話そうと思って、今日は残業しないで帰って来たんだよユキ。」

「なら、話して貰おうじゃねぇの。」

「私もお父さんも、貴女に期待を寄せて、親のエゴを押し付けてしまったわ……12年間もね。
 貴女が私達に反発して、お稽古事を全て辞め……そして中学進学と同時に所謂不良生徒になってしまった時に初めて、私達は自分達の
 過ちに気付いたの。」

「其れで母さんと相談してね……少なくとも12年間はユキのやりたいようにさせてみようと決めたんだ。
 僕達が親のエゴで奪ってしまったユキの12年間と同じ時間を返しても罰は当たらないだろうからね……だから、ユキが24になるまでは好
 きにさせようと思ったんだ。」



なんだそりゃ?……否、言わんとしてる事は分かるけどよ、流石に不良娘を放置しとくのは親として如何よ?
流石に弱い者苛めとか、援交とか、薬はやってねぇが、酒やたばこは普通にやるし、その辺の不良及び不良グループとの喧嘩は日常茶飯事
で、自主休校は授業のサボりはお手の物……如何よ此れ?



「だが、其れもまた無関係の誰かに迷惑をかけてはいないだろう?
 全ては自己責任の範囲での事だ……まぁ、タバコを吸うなら僕が愛飲してる『マイルド777』にしてほしかったけど。」

「其れは薄くて吸ってる気がしねぇ。
 アタシは『カクボロ』しか吸わねぇよ。其れもオリジナルの『赤カク』な――って、そうじゃねぇだろ!!普通は、止めるように言うだろオイ!」

「そうなんだけど、止めろと言っても止めないでしょうユキ?」



ぐ……其れはまぁそうだけどな。
と言うか、テメェで選んだアウトローの道だから、今更誰かに止めろと言われた所で止める気はサラサラないぜ?……まぁ、何時までも此れを
続ける事が出来ねぇのは分かってるから、どっかで見切りつける事も考えとかねぇとだけど。

で、結局どういう事?



「僕も母さんも、ユキのやる事に口出しはしないって事だ――流石に、補導されるような事態になったら話は別だけど、今の所はそう言う事は
 なさそうだし、喧嘩にしたって不必要に喧嘩を売り歩いてる訳じゃないんだろう?」

「そりゃ、まあな?
 アタシがぶちのめすのは、人様に迷惑かけてふんぞり返ってる馬鹿共や、学校にお礼参りに来たクソ共だからな。」

「ふふ、ユキは昔から正義感が強かったから、そう言う人は許せないのよね。」



正義感が強いって言うのかねアタシは?
只、そう言う馬鹿共を見てるとムカつくから叩きのめしてるだけだ……序に言っとくと、喧嘩するのも何かと楽しい部分があるのは事実だし。



「其れでも良い。
 僕達が抑圧していた時よりも、今のユキは生き生きしているからね……言うのが遅くなってしまったね、ユキの12年間を奪ってしまってスマ
 ナかった。」

「ごめんねユキ……」



……謝るなよ。
アンタ達がアタシに期待しちまって色々やらせたって事は、納得は出来ねぇが理解は出来るし、小学生の時のギュウギュウスケジュールの習
い事のおかげでアタシは強くなれたし、勉強の方も出来てる訳だからな。
感謝はしねぇが、恨んでもいねぇよ――そもそも、嫌ってる相手に夕飯作っておくほど、アタシはお人好しじゃねぇっての。

でも、話してくれたのは嬉しかったぜ親父、お袋。
だけどさ、許す代わりに一つだけ約束してくれ――アンタ達の仕事が忙しいのは分かるけど、せめて一カ月に一回は定時で会社を上がって、
一緒に版飯食おうぜ?
ダチ公が泊まりに来る事は有るけど、そうじゃないときゃ個食だからな……ガラじゃないかも知れねぇけど、個食って結構寂しいんだぜ?



「ユキ……うん、約束だ。」

「うん、約束するわユキ。」

「破ったら、ハリセンボン飲ますぜ?」

でも、アンタ達はアンタ達で考えてたんだな……若しかしてアタシには興味がなくなっちまったのかと思ってたからな。
何つーか、今日は良い事続きだな?
委員長とダチ公ってよりは、悪友って感じだが絆を深められたし、親父とお袋とは5年の溝を埋める事が出来た訳だからな。

その後は、アタシが買って来た食材で特製冷やし中華を作って、アタシが知ってる限りでは初めての家族団欒の晩飯を食った――何つーか
何時もよりも数倍旨く感じたのはきっと気のせいじゃねぇよな。



「時にユキ、友人は居るのかい?」

「あぁ、いるぜ?」

「どんな子なのかしら?」

「一人は美人なんだが基本無表情でスペックが色々とポンコツな同級生。もう一人は、小学生なんだが、家がヤクザで両親は組長と姐さん。
 磯野崎組って言えば、親父達も分かるだろ?」

「磯野崎組!!」

「此れはまた、凄いビックネームとの繋がりを持ってるものだねユキは……」



流石に、ヤクザの娘とダチ公だって言う事をカミングアウトしたら驚いてたけどよ。
何にしても、親父とお袋はアタシの事を如何でも良いと思ってる訳じゃなかったってのを知る事が出来ただけでも儲けモンだった――そう思っ
た所で罰は当たらねぇよな。

ハハ、マッタク持って今日は最高の一日だったぜ!










 To Be Continued… 



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