Side:ルナ


もう、アレから4年も経つのか……早いモノだな。
ちょっとした事件はあれど、世界は平和そのものだ――まぁ、2年前のマリアージュ事件は結構なモノだったが、被害はそれ程大きくなかったしな。

はやて嬢にイクスヴァリアの力は継承されたが、だからと言って本人が消える訳ではなかったか。
事件後に再びイクスは眠りに就いたが……果たして目覚めるのは何時の事になるのやら……願わくば、ヴィヴィオが生きている内に目覚めてほしいな。

其れは其れとしてもだ………連続通り魔事件とは穏やかじゃないなジェイル?


「うむ……マッタクその通りだね。
 まぁ、あくまでも格闘技対戦だから、襲われた相手が骨を折るような大怪我をしたとか、死んでしまったとか、そう言う事は無いみたいだけどね。
 だが、この通り魔が居るとなると、格闘技を学んでいるヴィヴィオ君に何時火の粉が降りかかるかも分からないだろう?」

「確かに……姪っ子に危害が及ぶなんて言うのは見過ごせないね……」

「それ以前に、通り魔とやらは一体何を考えておるのだ?
 己の強さを確かめたいと言うのなら、インターミドルにでも参加すればいいではないか?何故ストリートファイトなどを………」


さぁな?……だが、穏やかじゃないのは間違いない。
……ジェイル、通り魔の犯人は誰だか分からないのか?


「そう来ると思って既に調べてあるよ。
 襲撃犯の名前は『ハイディ・E・S・イングヴァルド』……自称『覇王』との事らしいね。」


覇王だと!?……まさかそいつは、古代ベルカの英雄の力と記憶を受け継いでいるのか?……もしそうだとしたら、何ともやり辛い相手だな……











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 外伝4
『月の祝福と覇王の邂逅』










だが、だからと言って何かが起きてから動き始める程、私は悠長でもないし、此れだけの事を黙って見過ごす事も出来ない。
もし、襲撃犯が道を踏み外しかけているのならば、其れを正してやるのも年長者の務めか……ジェイル、襲撃犯の容姿に付いては分かっているのか?


「抜かりはない。市街地の防犯カメラにハッキングして記録映像をコピーさせて貰ったからね。」

「貴様……自信満々に犯罪行為を行うでないわ!!!!」

「お〜〜〜!!流石はまっど、やる事がふつーじゃない!!」

「まぁ、確かに普通じゃないよね……一番手っ取り早いかもしれないからって、思いついてもやらないと思うな普通は……」

「其れをやるのがコイツなんだろ……」


其れで納得してしまうあたりが悲しいが……まぁ、其れは其れだ――映像を出してくれるか?



………此れは、顔こそ隠しているが女の子だな。
歳の頃は17、8と言ったところだろうか?……変身魔法の可能性もあるが、其れまでは映像からは判別できないがな。

「ん?どうしたなのは、難しい顔をして……」

「この子が覇王………この髪の色は、クラウスと同じだし、何よりこの子が使った技は間違いなく『覇王の拳』…。
 其れに……うん、思い出した!クラウスのフルネームはクラウス・G・S・イングヴァルド……この子が名乗ってるのは、正当な覇王の血統の名前……」


本物……と言う事か?益々面倒だな。
此処は私が行った方が良いな。


「え?で、でもクラウスの記憶を継いでる子だったら私の方が……」

「かも知れないが、お前が聖王の転生体と言うのは聖王教会でも認知していない事だし、ヴィヴィオの事も有るからな。
 まして、お前が出て言った事で、相手が興奮して何をしでかすは分かったモノじゃない――お前が出て行くのは少し落ち着いた後の方が良い。」

「よっしゃ〜〜〜!其れじゃあ僕も行く〜〜〜〜!!」

「うぬは大人しくしておれ!アホの子が出て行ったら纏まる物も纏まらなくなるであろうが!!
 そもそも、うぬはこ奴を見た瞬間に考えなしに特攻して益々事態をややこしくしかねん!!我等と大人しく待っておれ!!」

「お姉さまが行かれるのですか!?だったら此方に素敵な格闘用の衣装が!!」

「……此れは桃子のコレクションでしょうか…?」


………何故こうなるのか?
冥沙達がこっちに来てからと言うモノ、非常に賑やかになった気がするな――まぁ、嫌いじゃないけどなこういうのは。
と言うかクアットロ、絶対に着ないからなその『真紅のビキニアーマー』なんぞ!!それ以前に桃子は私に何を着せる心算だったんだ!?まったくもう…

まぁ、取り敢えず行ってくるよ。夜の街中をぶらついていれば遭遇する事も有るだろうし、ストリートファイトが始まれば魔力反応で分かるしな。


「……?」

「……一緒に来るか、なはと?」

「♪」


こうして、お前と一緒に事件の解決に向かうと、14年前の砕け得ぬ闇事件を思い出すよ。
ただ、付いて来るならば事によってはお前にも活躍して貰うから、その心算で居てくれ。


「!」(コクリ)


さてと、少し困った覇王様にちょいとお仕置きをして差し上げるか。



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で、夜の街を散策する事30分……出て来たか。
だが、まさか狙いがノーヴェだとはな?……まぁ、彼女もストライクアーツとシューティングアーツの有段者だから狙われて当然と言えば当然か……



「知らねーなそんな連中は……アタシが知ってんのは、今を懸命に生きてるガキ共だけだ……大昔の王族なんざ知らねぇよ!!」

「そうですか…では其れについては他を当たるとしましょう。」


そして怒っているなノーヴェ……当然か、確かヴィヴィオは彼女の格闘の弟子だった筈だし、2年前のマリアージュの時にイクスとも面識が有った筈だ。
その子達を引き合いに出して来た覇王様の事は許せない…か。

だが、ノーヴェの立場を考えるとこの私闘を見過ごす訳には行かないな。

「待て!双方動くな!!」

「!!ルナさん!?」

「……何方でしょうか?」


この戦い、私が預かる。
其方の覇王様の気持ちも分からんではないが、生憎とノーヴェは管理局員でな……局員が売られた喧嘩とは言え、市民と戦うのは拙すぎるからね。

だからと言って、其れでは君の気持も収まらないだろう?……だから、ノーヴェの代わりに私が君の相手をしようじゃないか。


「失礼ですが貴女は?……格闘技の有段者リストには居なかったと思いますが?」

「まぁ、載っていないだろうね、無段者だからな私は。
 だが、少なくとも、君が戦いを挑もうとしていたノーヴェよりはずっと強いと思うぞ?……私が代役では不足かなノーヴェ?」

「まさか……ルナさんがアタシの代役なんて、不足どころか家一軒建つくらいのお釣りが来ますよ……」


だ、そうだ――如何する、自称覇王『ハイディ・E・S・イングヴァルド』さん?


「良いでしょう……腕の立つ武術家と言うならば、目的は果たせます……一槍お願いできますか?」

「無論だ……だが、その前に聞きたい――何故こんな通り魔のような真似をする?
 己の強さを知りたい、己の強さを磨きたいと言うなら、ジムでの鍛錬やインターミドルへの出場など、方法は幾らでもあるだろう?…何故こんな事を?」

「私の知りたい強さは、表舞台にはないからです。
 私が真に知りたいのは、ルールの中での競技ではなく、ルールもない真の戦いの中での強さ……其れは大会の中では得られないものですから。」


成程な、良く分かったよ……だが――図に乗るなよ小娘。


「!?」

「ルナさん!?」

「表舞台には知りたい強さは無いだと?……ふざけた事も休み休み言え、命を賭した戦いをした事が無い小娘が。
 お前の戦いは、防犯カメラの映像で見たよ――実に見事なモノと言えるが、お前の其れはあくまでも『競技格闘』に過ぎないさ。
 ルールの中での戦いならば、まぁ良い成績は残せるだろうさ。だが、その程度の戦闘技量では『戦場格闘』ではマッタク通用しない。
 ストリートファイト位なら圧倒できるだろうが、本当のルール無用となったら、お前の技は脆い……其れをまるで理解していないなお前は。」

大体にして、覇王の拳とやらは名のある武闘家を見つけては通り魔的に戦いを挑んで相手を倒す暴力なのか?
だとしたら、覇王の名も地に堕ちたとしか言いようが無い……君の御先祖であるクラウス殿下は草葉の陰で泣いているだろうな。


「愚弄する気ですか……?」

「事実を言ったまでだ。
 それに、今しがたの私の殺気に怯む程度では、競技格闘でしかお前は戦えない………なんなら試してみるか?」

「良いでしょう……覇王の拳をお見せしましょう。」


――轟!!


ほう?なかなか良い魔力だね?……鍛えれば良い格闘者になるだろうに……勿体ない事だな。


「覇ぁ!!!!」

「甘い!!」



――ガァァン!!


鋭い踏み込みからの一撃は悪くないが、攻撃の軌道が素直すぎる!それでは一流には当てる事は出来ん!!
防がれてからの連携も悪くはないが、矢張り素直すぎて至極読みやすい!防ぐまでもなく、全て避ける事が出来るぞ?……この程度か?


「……どうやら貴女は相当の使い手の様です……ならば私も慢心を捨て、全力で行きましょう!!」

「そうしてくれ、一歩も動かずにと言うのもつまらないのでな。」

「!!」


今更気付いたのか?私は開始位置から一歩も動いていないんだぞ?
体移動のみでお前の攻撃を避けていたと言う訳さ――少しは私とお前の差が理解できたか?


「認めたくはありませんが……ですがその余裕が命取りです!!はぁぁ……覇王断空拳!!!


此れが覇王の奥義とされる『断空』か……確かに間近で見ると物凄い迫力だが――だが甘すぎる!!
技のタイミング、魔力の練り方、其れを拳脚に伝える速度が遅い!加えてそのせいで、折角練った力が行き届いていない……そんなモノは技と呼べん!


――ガシィィィ!!!


「!?……そんな……!!」

「此れが競技格闘しか知らない者と、戦場格闘を知る者の差だ。
 ……この場では君の意識を刈り取らせてもらう……きっと君は己が進もうとしていた道の怖さを知るだろうが、同時に競技格闘への興味もわくだろう。
 君が正道に戻る為に、この場では敢えて圧倒的な実力差で君を叩き伏せる!!覇ぁぁぁぁぁ……真・昇龍拳!!!!


――ガスッ!!ゴス!!バキィィィィィィィ!!!!


「あぁぁぁぁぁぁあぁ〜〜〜〜〜〜!!!!
 あう…ぐ……何と言う破壊力……ですが、私はまだ――!!!?な、此れは……力が入らないし、息苦しい……?」


無理だよ、大人しくしておけ。
最初の一発は完璧にボディに居れたし、残りのアッパーは脳が揺れるように顎に打ち込んだ……ダブルのダメージで暫くは自分の意思では動けないさ。
この状態は、君の言うルール無用の世界なら、君は殺されてもおかしくない状況だ。
相手によっては、身体が言う事を聞かない君を犯した上で嬲り殺しにする外道だっているかもしれない……ルール無用とはそう言う世界だ。


「そ、そんな……」

「己の力を示したい……その気持ちは分かる心算だ。
 だが、君はあくまでも競技格闘者だ……だったら、其れに最も合った事でやらねば取り返しのつかない事態になりかねないぞ?
 現に今だって、やろうと思えばノーヴェは君を『傷害罪』でしょっ引く事が出来る訳だしね……」

「!!」


まぁ、そんな事はしないが。
今回の事は、私も手を出したからね……何とか『喧嘩両成敗』と言う事で手打ちに出来ないだろうか?


「無茶ぶってくれますね……まぁ、出来ない事は無いですけど、その前に一つソイツに聞きてぇことが。
 お前は自分の強さが知りたいだけで、聖王や冥王に恨みつらみがある訳じゃねぇんだな?」

「はい……ですが『彼女』が今の時代に存在していると知って、居てもたってもいられなくなって…
 だけど、私はまだ弱いから……彼女の隣に立つだけの強さが無いから……知りたかったんです、今の自分の強さを……その強さのレベルを……!!」


そうか……だが、今ので分かっただろう?君のは戦場格闘じゃない。
何処のジムにも行かずに、独力で其処までになったのは見事だが――矢張り独力では限界がある。

今の君に必要なのは、手当たり次第に武闘家を襲撃して倒す事じゃない……共に高みを目指す仲間だ。
幸いにして、最初に君が襲撃しようとしたノーヴェは共に練習している将来有望な子が居てね?君も彼女達と一緒に練習して高みを目指すと良い。


「ですが、其れでは……!!」

「そう言わずに、先ずはやってみると良い……其れで見えて来るモノもある。
 最初から『此れは無理だ』と決め付けていたら出来る事も出来なくなってしまう……此れは私の体験談でもあるけれどね。」

私がルナとなる以前の世界で、私は呪いは超えられないと決めつけていたからね……其れはモノの見事に打ち砕かれた訳だけれどね。
先ずはやってみろ、グダグダ言うのはそれからさ。


――はい……!!」

「良い返事だ……悪かったな、殺気を向けて怖がらせるような真似をしてね。」

「いえ、自業自得ですのでお気になさらずに……」


素直だね……其れならきっと大丈夫だろうな。
スマナイが、後の事は任せて良いかノーヴェ?私は立場が立場だけに、あまり表沙汰になりたくないからね。


「まぁ、何とか巧くやりますよ。
 襲撃して来たのがコイツって事で、だけど相手の攻撃に対して先に手を出したのはアタシって事にすりゃ正当防衛の体裁は出来るし。
 それなら、アタシが局員だってのもあんまし問題にならねぇからな。」

「苦労を掛ける……今度、礼として翠屋のシュークリームを差し入れるよ。」

「そのお礼は魅力ですね!!」


桃子の味力恐るべし!!
まぁ、取り敢えず、この件は此れでどうにかなりそうだな。



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「それじゃあ、その子は……」

「あぁ、ノーヴェの話では、ヴィヴィオと2回戦って、色々と目が覚めたらしい――今ではヴィヴィオ達と一緒に高みを目指してるんだそうだ。」

なんにせよ道を完全に踏み外さないでよかったよ。
此処からは彼女の頑張り次第だろうが……アレだけの地力があれば、鍛えればインターミドルでも良い成績が残せるんじゃないのかな?


――ピン


っと、メールか?……差出人は『アインハルト・ストラトス』……あの子か。


『その節はお世話になりました。
 この度インターミドルに参加する事と相成りましたので、もしも宜しければ予選大会を観戦に来ていただけないでしょうか?
 無論其方の都合で良いのですが、もしも可能でしたら是非に………会場でお会い出来る事を願っています。
                                                              アインハルト・ストラトス


 P.S:もしよろしければ、今度模擬戦をお願いしても良いでしょうか?……もしよろしければ、今度は『競技格闘』でお願いします。』



何と言うかマッタク……此れは見に行かない訳には行かないね。
さて、どんな良い成長をしたのか楽しみだよアインハルト……頑張れ、君ならきっと更なる高みを望める筈さ。






そして、私達は前年度のチャンピオンに倒されるまで、アインハルトの大活躍を会場で目の当たりにする事になるのだった。


お疲れ様アインハルト……また、次の大会で頑張ってくれ……君の目指す『真なる強さ』を得る為にな。









外伝4END