Side:ルナ


 「普通なら『命令違反』と『独断専攻』で懲罰モノなんだけど…」

 「通常の指揮系統に組み込まれていないからそうする事も不可能なんだろう?」
 と言うか最初から其れを見越して『独立機動権』を得たようなものだからな。
 それにだ、結果から言うなら全部とは言えないが半分は此方で回収できたんだから良いじゃないか。

 「…其れは、確かにな。もし君達があの場に行かなかったら僕だって出なかっただろうし。
  結果的にあの次元跳躍魔法後に残り6つのジュエルシードは全て相手側に回っていたかもしれない。」

 「そうね。…アースラの機能ダウンは貴女達のせいではないし、今回の事は不問としましょうか…」


 まぁ、問題にする方が難しいだろうしな。
 現地協力者に独立機動件を与えて協力してもらっていたなんて知れたら立場が危ないのは其方だし。
 ……我ながら随分と悪知恵が働くようになったものだ。


 「それよりもフェイトちゃんを撃ったあの雷は一体誰の仕業なんですか!?」
 「確かに。あれ程の威力の次元跳躍魔法を行使するには相当な魔力と魔導技術が必要になる筈ですが…」


 確かに気になるな。
 ユニゾン状態のなのはすら弾く程の威力となると私と同等か、魔導技術によっては或いはそれ以上か?
 去り際のアルフの絶叫から察するに『プレシア』と言う名前なのだろうが…


 「艦長〜解析結果が出ました!」

 「エイミィ…そう、ご苦労様。タイミングもバッチリよ。」


 まったくだ。
 ……入るタイミングを覗っていた訳では無いよな?


 「どうかしましたかルナさん?」

 「いや、何でも無い。」
 あまり深くは考えないで、解析結果を聞くことにしよう。










  魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福17
 『黒幕発覚、事態急変』










 「此れが今回の事件の黒幕と思われる人物で、名前は『プレシア・テスタロッサ』。
  約18年前までは管理局の職員として『時空航行エネルギー』の分野での研究を行っていた大魔導師です。
  ですが16年前に違法実験による事故で放逐され、以後は今の今まで足取りは不明になっていました。」

 「其れが今になってジュエルシードを求めて出てきたという所か…」
 プレシア・テスタロッサか……彼女もまた何かしらの目的が有ってジュエルシードを集めているのだろう。
 アレの持つ力は正直に言って凄まじいの一言に尽きる。

 其れこそ只の樹木に寄生しただけで都市一つを破壊してしまうほどの力が…

 だが、だからこそコイツに渡したら碌な事にはならないだろう。
 ジュエルシードの確保の為に、自分の娘を攻撃するような輩ではまともな使い方をするとは思えない。


 「テスタロッサって…そんな、それじゃあフェイトちゃんは自分のお母さんに攻撃されたって事なの!?」

 「え〜!何だよ其れ!それじゃあ余りにもオリジナルが酷すぎるじゃないか!!」


 なのはと雷華が怒るは当然だな。
 いや、声にこそ出さないが星奈と冥沙も相当に怒っているな?

 ……私も人の事は言えないが…


 「ルナ、紋様が現われかけていますよ?」

 「…!と、余り昂ってはいけないな…」
 怒りつつも平常心は失っては駄目だ。
 しかし、どうして暴走してしまった時の紋様が現われそうになるのだろうか……謎だ。


 「むぅ…しかし、自分の娘にすら非道を働くとなると目的の為には如何なる手段をとってくるか分かったものではないな。
  この塵芥にも劣る下郎の情報は他には無いのか?こやつが居る場所でも分かれば乗り込むところだが…」

 「残念だけど、エイミィが調べた限りプレシアに関する情報は違法実験の事故までしかないらしい。
  これ以上の情報や彼女の目的は、更なる調査を進めていく事でしか分かりそうにない。」

 「ままならんモノだのう…」

 「仕方が無い。今は待とう。下手に動いて失敗したら大事だ。」
 時には待つ事も重要になると士郎が教えてくれたしな。
 『期』を見て、『機』を待ち、『気』を持って戦う…か。確かに大事な事だ。


 しかし、プレシア・テスタロッサ……お前は一体何を企んでいるんだ…?








 ――――――








 No Side


 「下らない情に流されそうになるなんて…思った以上の役立たずね…!」


 海上での戦いの最中、次元跳躍魔法を受けたフェイトはアルフによって手当ての為にマンションへと一時戻っていたのだが、
 アルフとリニスが手当ての準備の為に目を離した瞬間、強制的に此処『時の庭園』に転送されていた。


 そして、転送されたフェイトを待っていたのは、プレシアからの激しい叱責だった。


 否、其れはもう叱責などではない。
 四肢はチェーンバインドで拘束され、身動きを封じられた状態での鞭打ち。

 虐待……そう言うにも生温いほどの『拷問』と称すべきもの。

 鞭が振るわれる度に、フェイトのバリアジャケットは裂け、身体には痛々しい紅い筋が刻まれていく。

 先の戦闘で魔力を使い果たし、更に極大魔法の直撃を喰らったフェイトは最早指1本動かす力も残っておらず、黙って其れを受ける。

 普通なら絶叫を上げるほどの苦痛を受けながら、しかしフェイトの頭の中では先刻のなのはの言葉がリフレインしていた。


 ――友達…あの子は如何して…?


 予想外極まりない言葉だったが故に、しっかりと頭にこびりついている様だ。


 「此れだけされても泣かないなんて…本当に…!」


 ――パシィィン!!!


 何の反応も示さないフェイトに苛立ったのか、プレシアは今まで以上に激しく鞭を打ち付けるとその場から去る。
 と同時にフェイトの四肢を拘束していたバインドが解かれ、その身が床に倒れこむ。


 ピクリとも動かない。
 息はしているので死んでは居ないようだ。
 恐らくは最後の一撃で気を失ったのだろう――今の今まで意識を保っていた方が驚きだが…


 「「フェイト!!」」

 丁度その時、プレシアと入れ替わる形でアルフとリニスが入ってきた。
 目を離した僅かな隙に姿を消したフェイトを追ってきたのだ。(フェイトの状態から自分で何処かに行ったとは考えなかった。)

 突然姿を消したフェイトに、嫌な予感がして来てみれば案の定だ。
 傷だらけで気を失っているフェイトに、何が有ったのか等は考えなくても分かる。

 「あんの…クソババアァァァ!!」

 そして蓄積していたアルフの怒りが爆発した。
 元々、プレシアのフェイトに対する仕打ちに途轍もない不満と反感を持っていたアルフ。
 先程の魔法攻撃だけでも業腹ものなのに、更には此処までの…

 今の今までフェイトの事を思って我慢してきたがもう限界だった。
 怒りを顕にしたままプレシアの許に行こうとするアルフを、

 「待ってくださいアルフ。」

 リニスが呼び止める。
 が、それでどうにかなるアルフでは無い。

 「リニス…悪いけど止めないで。アタシは、もう限界なんだ!!」

 「分かっていますよ。其れに…止めるつもりはありません。私も行きますよ。」

 「え…?」

 予想外のリニスの言葉に、アルフは一瞬怒りを忘れて目を丸くする。
 当然だろう、リニスはプレシアの使い魔なのだ。
 契約主への反抗……其れは=自身の死を意味しているのだ、勝とうが負けようが関係なく。

 「教え子が此処までの非道を受けて黙ってられるほど、私は(にんげん)できてないんです。」

 口調は穏やかで顔も普段と変らない様に見えるが、その奥底には煮え滾る様な怒りが見て取れた。
 リニスにとって、フェイトは何時の間にか契約主であるプレシアよりも優先すべき存在となっていたらしい。

 其れを見たアルフは、一瞬驚くも、次の瞬間には狼らしい獰猛な笑みを浮かべる。

 「リニスが来たらあのクソババアもちっとは驚くかね…?」

 「如何でしょうか?ですが、予想外である事だけは間違いないでしょうね。私が逆らうとは思っていないでしょうから。」

 リニスは基本的にプレシアには忠実である――否、忠実であった。
 彼女も、プレシアのフェイトに対する仕打ちには疑問と疑念と不満を持っていたのだ。
 其れがついに限界を超えたのだ。



 たのも〜〜!!面貸せプレシアァァァァァァ!!

 道場破りなのか、生意気な下級生を〆に来た不良なのか良く分からない叫びと共に、アルフは扉を蹴り壊して突入し、リニスも其れに続く。

 殴り込みをかけた室内では、プレシアが8つのジュエルシードを取り出し、其れを見つめていた――狂気の笑みで。
 あたかもアルフとリニスの事など視界に入っていないかのごとく…



 ――バリィ!!



 そのプレシアの周囲に張られているバリアを素手で破き、アルフはプレシアに詰め寄りその胸倉を掴む。
 一切の手加減などない。

 「このクソババア!一体如何言うつもりだ!!フェイトはアンタの為に頑張ってるんだろうが!!」

 凄まじい力で掴まれ、肉食獣特有の敵意剥き出しの怒りの瞳に、普通なら卒倒物だろう。
 だが、其れを受けて尚プレシアは冷静そのものだ。

 逆に驚くどころか嘲笑にも似た冷笑を浮かべている。

 「躾のなっていない事ね…其れにリニス、貴女はこの犬よりも賢いと思っていたのだけれど?」

 「如何やらそうでもなかったようです。私は教え子が理不尽な虐待を受けたのを黙ってられる程腐ってはいないんですよ。」

 アルフとは正反対に、リニスは怒りを顕にはしないが其れが逆に怖いとも言える。



 ――其れもプレシアにはあまり意味のないことだったようだが。


 「そう…なら良いわ。貴女達に用はないわ…」

 リニスのセリフに、プレシアは心底『如何でも良い』と言う表情を浮かべ、

 「消えなさい。」


 ――ドン


 間髪入れずに、先ずは自分を掴んでいるアルフを魔法で吹き飛ばす。

 「ぐ…!」
 「アルフ!!」


 「使い魔風情が……命令に背くような出来損ないは処分するに限るわね。」


 ――ドゴォォオン!!


 続いて無数の雷球がアルフとリニスを打ち据え、戦闘不能に陥らせる。


 「うわぁぁぁぁぁ!!」
 「あぁぁぁぁぁぁ!!」



 「逝きなさい…サンダー…レイジ!」

 トドメとなる一発。
 喰らったら死は免れないが…


 「く…!」

 寸での所でリニスが転移魔法を発動し、アルフ諸共この場から離脱。
 プレシアの一撃は空を切って地を穿つに留まった。


 「逃げた…まぁいいわ。ジュエルシードが手に入りさえすれば後は如何でも…」

 離脱した2人には興味が無いらしく、プレシアはフェイトの許に赴く。



 使い魔に関する嘘の情報を教え、ジュエルシードを入手するように命じるために…








 ――――――








 Side:ルナ


 「…急転直下とは正に今の状況を言うんじゃないだろうか?」

 「うむ、まぁそうであろうな。」


 これまでの事の説明と、協力への感謝を伝える名目でリンディが海鳴に赴き、私達も10日ぶりに海鳴へと戻ってきていた。

 翠屋でリンディが桃子に色々と話をしていた最中、なのはの携帯にアリサから入った電話は正に急転直下だった。



 ――傷だらけの赤毛の犬と、茶色い猫を拾った。



 其れを聞いて、迷う事無くアリサの家に向かったのだが…


 「アルフさん、リニスさん……!」

 「酷い傷ですね…」


 予想通り、その2体はアルフとリニスだった。
 満身創痍と言うのが適当だろうが……一体何が有った?

 「あ、アンタ達は…く…そ…プレシア……情けないったらないね」

 「プレシア…?まさか彼女に挑んだのか!?」
 だとしたら無謀極まりないぞ!?
 下手をしたらその身は消滅じゃないか…!


 「我慢できなかっただけさ、あのクソババアのやり方にね。」

 「む〜〜〜…オイ、アホ犬!何が有ったんだよ!」

 「五月蝿いよ偽フェイト。アンタ等に話す義理なんて無いね!!」


 はぁ…何故にこうなる?
 仕方ない…



 ――ゴイン…



 「…!!痛いな!何するんだよクロハネ〜〜!!」

 「行き成りケンカ腰で言う奴が有るか。そんな事では何も聞けないぞ?」

 「雷華、駄目だよ?」

 「う〜〜…ゴメン。…わるかったな、あるふ。」


 うん、素直なのは良い事だ。
 其れでだ…教えてくれないか、一体何がどうなっているのか…


 「う…けどな…」

 「話しましょうアルフ…」

 「リニス!?」

 「恐らく…プレシアはフェイトにジュエルシードを…管理局から奪うように命じている筈です。
  とするならば、再び彼女達の前に現われるは必然……私達では無理なのならば彼女達にフェイトを…」


 矢張り何か有ったんだな?
 「…クロノ執務官、ジュエルシードの確保と共にフェイト・テスタロッサの保護を任務に加えられないか?」

 「保護?」

 「…そっか!流石ルナ!!私からもお願いクロノ君!フェイトちゃんを保護して!もし、この前にみたいな事になったら、フェイトちゃんは…!!」

 「!!…成程、確かに。…分かった。ジュエルシードの確保に加え、フェイト・テスタロッサの保護も任務としよう。」


 恩に着るぞ執務官。


 「あ、アンタ達…如何して…?」

 「フェイトちゃんの悲しい顔は私もなんだか寂しいし、其れに『友達になりたい』って言った事への返事を貰ってないから。」

 「理屈じゃないのよ。なのははこう言う奴なの。自分が怪我して痛くても、他に怪我して泣いてる奴が居たら、自分の痛みそっちのけでそいつのとこ行くような奴なんだから。」


 まったくだな。
 だが、だからこそ説得力も有る。
 「…話してくれないかアルフ。話してくれれば動く事も出来る。」

 「…分かった。でも約束だ、必ずフェイトを助けておくれ!」


 あぁ、約束だ…!



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・



 ――アルフ&リニス説明中



 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 「ひ、酷い…!そんなの酷すぎるの!!」

 「矢張り塵芥以下の下郎か…胸糞の悪くなる話だな…」


 まったくだ…大凡自分の子供に対する仕打ちとは思えない!!


 「…任務追加だ。ジュエルシードの確保とフェイト・テスタロッサの保護に加え、プレシア・テスタロッサの逮捕だな。」

 「そうなるか…。まぁ今の話を聞く限り、今回のジュエルシードを巡る一連の件はプレシアが黒幕と見て間違いないだろうからな。」
 其れに加えて逮捕されたら幾つもの罪状が付きそうなレベルだ。
 となるとだ…


 「クロノ君、フェイトちゃんの相手は私がするの!」

 「基よりそうして貰うつもりだ。僕達はプレシアの居場所を突き止めることに専念する。」


 当然だな。
 フェイトの相手はなのは以外にはありえないからな…


 「master.」

 「レイジグハート?…え、通信?」


 デバイスを使った通信…一体誰が…て、
 「テスタロッサ!!」

 「フェイトちゃん!!」
 「フェイト…。」
 「へいと!」
 「小娘か…」

 「「フェイト…」」


 用件は何だ…?


 『明朝、海鳴臨海公園で待つ。其方の所有するジュエルシードを全て持ってきて…お互いの所有数全てを賭けて勝負しよう。』

 「フェイトちゃん…!うん、分かった!!明日の朝だね!」

 『待ってるから…』


 ――プッ


 予想通りと言うか何と言うか…だが、向こうから来てくれるなら都合が良い。
 此方から探す必要がなくなるし…そしてそれ以上になのはが…な。
 「なのは…」

 「大丈夫!フェイトちゃんは必ず……私だって負けられないから!」

 「あぁ、頼むぞ。」
 テスタロッサを闇から救い出せるのはお前だけだ。
 そして、明日の朝こそが、その『時』だからな…お前の全てをぶつけて、テスタロッサが囚われている闇の檻を砕いてやるんだ。


 「うん!!」

 「悔しいけど…頼むよ…」
 「お願いしますね、なのはさん。」


 全ては明日の朝…だな。















  To Be Continued…