Side:アインス
《身喰らう蛇》の情報を集める為に、誰が何処に行くのかを決めたのだが、その結果アガットはツァイス、アネラスはボース、シェラザードはロレントの
担当になったのだから、残ったルーアンには私達が行くしかあるまい。
シェラザードはエステルが新人だと言う事を危惧していたが、其れは当然だろう……シェラザードも私の実力は知っているとは言え、エステルも私も
正遊撃士としてはマダマダ駆け出しだからな。まぁ、私もエステルもやる気は充分だから、何を言われても退く気はないがな。
「あれ、其処の可愛い女の子と美人のお姉さん!君達ひょっとして、エステルちゃんとアインスちゃんと違う?」
「「え?」」
「やっぱりそうやん!
君の事メッチャ心配しとったんやでエステルちゃん。」
「あ、アタシ?」
「……知り合い?」
「え、えっと……「誰?」」
「うわっ!……まぁ、しゃーないか。大分前に飛空艇で声掛けただけやし。あの後、ロレントのお家にはちゃんと帰れたんか?」
「あ、あの時の!」
と、突然声を掛けて来た奴が居たのだが、其れはヨシュアが居なくなった直後に乗った飛空艇で出会った、レヴィと漫才を繰り広げてくれた青年だっ
た。
シェラザードが言うには、失踪した私達の目撃情報をギルドに入れてくれたらしい……何だか、世話になっていたらしい。
でだ、その後もシェラザードは私達の事を心配していたのだが、そこで青年が『そないに心配なんやったら、俺がその子をルーアンまでエスコートし
ましょか?』と言って来た。
如何やら彼も仕事でルーアン地方に行くらしいのだが……怪しいな。
「エステル、不審者には関わらないようにしよう。」
「うん、そうね。」
「ちょい待ち!誤解やって!これ見て!!」
と思って居たら、青年は何かを見せて来たが……此れは、『星杯の紋章』か?と言う事はお前は……
「俺、ケビン・グラハム言います。見ての通り、七耀教会の神父さんです♡
任せて安心!真面目で素敵な聖職者ですわ。さぁ!迷える子羊ちゃん、俺と一緒に行きましょか?」
「七耀教会の神父なら信用出来るか?星杯の紋章は、確か偽造出来ないように特殊な細工が施されているとの事だったからな……そうだったよな
シェラザード?」
「え、えぇそうよ。星杯の紋章を偽造する事は不可能だわ。」
ならば其れを持つ彼は本物と見て間違いないだろう。其れに、此処まで言って貰って断るのも悪いからな。
「シェラ姉、アタシはアインスと一緒に頑張ってくるから……!」
「……分かったわ、仕方ないわね!何かあったらちゃんとギルドに連絡するのよ!」
「分かってるよシェラザード。」
「ありがとう、シェラ姉!行ってきます!!」
先ずはルーアンへ!
行き成り身喰らう蛇の情報を得られるとは思ってないが、だからと言って何もないとは思えない……どんな些細な事でも良いから、身喰らう蛇の、そ
してヨシュアの情報を手に入れたいモノだな。
夜天宿した太陽の娘 軌跡86
『ルーアンでの依頼、其れは怪談?』
Side:ワイスマン
計画の第一段階は成功した……ヨシュアも予定通りに彼女達の元を去り、今頃は私を探している事だろう。私を殺す為に。――そして、其れすら私
の目的だとも知らずにね。
ヨシュア、君には私を殺す事は出来ないよ?出来ない理由があるからね。
第一段階は成功したが、面白いのは寧ろ此処からだ。
何しろ今回の計画に協力してくれる諸君は、皆リベールに個人的な目的を持っている人間ばかりだからね。
「な~るほど。
人の記憶を弄っちゃうような悪趣味な教授が考えた計画と、其れを遂行する執行者達の因縁にも要注目って訳だ。」
「あぁ、心行くまで見て行くといい。我等が『盟主』の代理としてね。」
「うふふ……任せておいてよ。
執行者№0《道化師》カンパネルラ。此れより、使徒ワイスマンによる《福音計画》の見届けを始める。」
ククク……最後まで見届けたまえよ、この壮大な計画の行く末を!
――――――
Side:アインス
さて、無事にルーアンに到着したんだが、到着するや否や、観光推進派と海運推進派の両方から熱い市長選の選挙運動を喰らってしまった……ダ
ルモアが逮捕されて、市長の座が空位になったから新しい市長を決める選挙がある訳か。
だがしかし、ルーアンの市民でない私とエステル、そしてケビンに投票を呼び掛けると言うのは間違ってないか?市民でなければ投票権はあるまい
に……まぁ、逆に言うと其れだけ熱の入った選挙戦なのかも知れないがな。
「市長選挙……そのせいで前とは雰囲気が違うんだ。」
「まぁ、活気があるのはえぇ事やね。
さてと、あっちに教会があるのは分かったけど、自分等の目的地はどこら辺にあるん?」
「アタシ達の遊撃士協会は直ぐそこだから。」
「ほな、此処まででえぇのんかな?」
「此処までありがとうなケビン。前の事も含めて色々とな。」
「気にせんといて。あんまり無理せんと頑張りなぁよ。」
ギルドの前でケビンと別れ、いよいよギルドにだ……準備は良いかエステル?
「勿論よアインス!」
「では行くぞ!」
「「たのもー!!」」
――バガァン!!
扉を蹴りでぶち開けてこんにちわだ。
「や、やあよく来たねエステル君、アインス君。だけど、出来れば普通に入って来てくれないかなぁ?と言うか、そもそもにして女の子が扉を蹴り開け
ると言うのは如何かと思うよ?」
「扉を蹴り開けるのがダメなら床を突き破って入るか?」
「屋根を突き破るのも良いんじゃない?」
「ごめん、扉を壊さなければどんな形でも扉から入って来てくれて構わないよ。」
だろうな。
しかし、私とエステルの蹴りを喰らっても罅一つ入らないとは、ギルドの扉もエルベ離宮の扉程ではないが相当に頑丈だな?エステルの蹴りは木製
バットを真っ二つにするし、私の蹴りは金属バットが折れ曲がるんだけれどね。
其れは其れとして、ジャンに話を聞いたのだが、ダルモアの一件以降はルーアンは平穏で結社が関係しているようなヤバい案件はないらしい。
「通常の仕事もメルツ君だけで回せてるし……君達は暫くのんびりしていても良いんじゃないかな?」
「で、でもジャンさん!
どんな小さな依頼だって、何に繋がるか分からないわ!アタシ達に出来る事はないかしら?何だって構わないから!」
「エステルの言う通りだ。
気にも留めていなかった些細な事が、実は大事に繋がっていたと言う事は少なくない――クーデター事件だって、一つ一つは関係なさそうに見え
た事件が、実は裏では全て繋がっていた訳だからな。」
そう言うと、ジャンは怪談じみた語り口で、エア=レッテンで起きた怪現象の事を話してくれた……エア=レッテンの関所に勤めている兵士から聞い
た話らしいのだが、深夜の関所を巡回していた時に白くてぼんやりした『何か』を目撃した、か。
兵士は驚いて発砲したが、其れは全く意に介さず、寧ろあざ笑うかのように兵士の頭上を飛び回った後で北の方角に消えた……何とも妙な話だ。
「…………」(滝汗)
だが、幽霊とかお化けが苦手なエステルはこの話を聞いた時点で戦々恐々と言った感じだな……仕方ない。悪いが代わらせて貰うぞ。
――シュン!
「その話、詳しく聞かせてくれないかジャン?」
「アインス君?えっと、エステル君は?」
「人格交代をしたんだよ。今では人格交代をすると容姿も私になってしまうんだ……エステルはお化けや幽霊が大の苦手なのでね、詳細を聞く事は
難しいと思って交代したんだよ。」
「あぁ、そう言う事か。
今の話は、正直僕としてもオカルトチックな上に眉唾な話だからスルーしようと思ってたんだけど、君達の言うように些細な出来事に隠された手掛
かりの糸口を、僕は先入観だけで見逃してしまう所だったのかもしれない。
アインス君、エステル君と共にこの白い影の正体を解き明かしてくれるかい?」
「勿論だ、断る理由がないからな。
その為にも関連した事案の情報が欲しい。目撃されたのはエア=レッテンだけなのか?」
《って、この話聞くのアインス!?》
《どんな小さな事でも何に繋がってるか分からない、だろ?ならば、怪談めいた話でも捨て置く事は出来んよ……お前はそう言ったモノが苦手だか
ら、代わりに私が調査する。此れで良いだろう?》
《うぅ……ごめんアインス。お化けとか幽霊は本当にダメなのよ!》
《マッタク、日常的に背後霊みたいなのと一緒に居るクセに何だってお化けや幽霊を怖がるかな?》
《だって、アインスはアインスだって分かってるもん!お化けや幽霊は正体が分からないから怖いのよ!加えて、殴っても倒れそうにないから!!》
つまり、正体が分かって殴って倒せる相手なら怖くないと言う事か?
と言うか、普通の人間では触れる事が出来ない、半実体化した私に触れる事が出来るんだからやろうと思えば幽霊やお化けの類も殴って倒す事も
出来るんではなかろうかエステルは?
まぁ、嫌いなモノはそう簡単に克服出来るモノではないがな。
さて、エステルと心の中で話してる間に、ジャンが白い影の目撃情報を教えてくれたのだが、エア=レッテンの他にはルーアンの倉庫街、マーシア
孤児院の子供達も其れらしきものを見た、か。
目撃情報は三件だが、ルーアン周辺だけで三件と言うのは決して少なくない数だから、此れは調べてみる価値はありそうだ……『白い影』と言う共
通点も、何かの見間違いとしては奇妙な共通点だからな。
「ふむ……取り敢えずは、目撃者から話を聞いてみるのがベターかな。この一件、必ずや何か掴んで見せるよジャン。」
「うん、期待してるよアインス君。……エステル君にも宜しく言っておいて。」
「あぁ、分かった。」
さて、ギルドを出て調査開始……なのだが、グランセルに戻り、ルーアンに来るまで何も食べてなかったから流石に空腹だな?……船員酒場で腹
ごしらえをしてからだな調査に行くのは。
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船員酒場で『潮風のスープパスタ』と『厳選ハラス焼き』を食べて、改めて調査開始だ。……ハラス焼きは、焼き加減がレアだった所に拘りを感じる。
さてと、倉庫街での目撃情報と、マーシア孤児院の子供達の目撃情報の何方から聞きに行くか……倉庫街での目撃情報は誰が見たかのは分から
ないから、孤児院の子供達の証言から聞きに行くか。子供達の誰が見たかは分からないが、あの子達は基本テレサ先生と一緒だから、略確実に
話を聞けるだろうからな。
……と、そう思って孤児院への分岐路まで来たんだが、孤児院は火事で全焼してしまったんだよな?ジャンも『孤児院の子供達も見た』としか言って
なかったから、若しかしたらまだマノリア村の宿屋で生活してるのかもしれん。
《あ、其れアタシも思った。》
《だよな……先にマノリア村に行ってみるか。》
若しかしたら、予期せぬ情報を得る事が出来るかも知れないからな。
で、マノリア村に向かってるのだが……
――ビビビビビビビビ……!
拝啓、我が主。
今私の目の前では、何時か見た様な火花放電が発生しています……未来世界からターミネーターでもやって来たというのでしょうか?其れとも……
《アインス、此れって……》
《あぁ、似ているな。レヴィがやって来た時と。》
――バシュン!!
やがて火花放電は収まり、其処に居たのは……
「ふむ、転送実験は成功ですね。一人しか送れず、一度送ったら帰るのに半年近く掛かってしまうのが難点ですが、まぁ、其れは追々改善していくと
しましょう。」
「レヴィの次は、お前だったかシュテル。」
「おや、貴女は闇の書……と呼ぶのは失礼ですね。レヴィから話は聞いていますが、まさか本当にあの世界とは違う世界に居るとは驚きました。
久方ぶりですねアインス。」
「あぁ、本当に久しぶりだな。」
闇の書の構成素体、マテリアルの一体である『知のマテリアル』こと、星光の殲滅者、シュテルだった。
To Be Continuity 
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