Side:アインス


ロランスに勝ちを譲られた形での優勝と言うのは正直腹立たしいが、そのお陰で城に入る事が出来ると思えば、ロランスには逆に感謝すべきかも知
れないが……考えてみると妙だな?
情報部からしてみれば、私達が城に入るのは余り良い事ではない筈……とすれば、ロランスは本来全力で私達を潰さねばならない筈だが……独断
の気紛れか、リシャールの指示か、其れとも何かの罠か……まぁ、その辺は城に行けば分かるだろう。



「グランセル城の晩餐会……本番は此処からね!」



と、エステルが気合いを入れ、オリビエがノリノリで城に向かおうとした所で、怖い顔をした男が現れ、それを見たオリビエの顔が一瞬で青くなった。
ミュラーと名乗った男は、エレボニア帝国大使館駐在武官らしく、帝国の人間でありながらリベールで気侭勝手に動き回っているオリビエを大使館へ
連れ戻しに来たらしい。……うん、彼は間違いなくオリビエのせいで日々苦労をしているな。
そしてミュラーはオリビエの頭をアイアンクローで引っ掴むと、其のまま強制連行だ……オリビエが『素敵でゴージャスな晩餐会が……』とか言ってる
が、『問答無用』と取り付く島もないな。



「あのー……晩餐会くらい出席させてあげても良いんじゃないかしら……」

「ならば想像してみろ。リベール王国の王族が主催する素敵な晩餐会に、コレを放り込んだら如何なると思う?」

「えらいひとにぶれーなことして、オリの中にぽーい!」



レヴィよ……だがまぁ、確かにその可能性は否定出来ないなオリビエの場合。ボースの時もメイベル市長に割と遠慮がなかったからなコイツは。



「ごめんねオリビエ。ばいばい。」

「お気の毒ですが……」

「お前さんの分まで楽しんできてやるからな!」

「手の平を返すよーに!?」



いや、実際に問題が起きてからでは遅いからな……デュナンにならば未だしも、アリシア女王に無礼を働いたとなったら、其れこそ投獄じゃなくて極
刑になる可能性もあるからね。



《アイツ、何しにリベールに来たんだろう?》

《さぁな……自由人の思考は理解出来ん。》

だが、オリビエが不参加と言う事で枠が一つ空き、此れでレヴィも正式に城に入って晩餐会に参加出来る。『一人は急用で来れなくなったからその
代理だ』と言えば問題ないしね。
最重要クエスト達成の為に、いざグランセル城にだな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡74
『Abendessen und jede Spekulation』









入り口で門番に招待状を見せ、レヴィの事も説明した上で無事に城に入れて貰える事になり、十年振りとなるグランセル城だ……十年前と荘厳かつ
豪華な内装は変わっていないな。
……今更だが、エルナンに頼んで晩餐会用の服を用意して貰うべきだったか?正直此の格好は城の晩餐会に参加する格好ではないよな……こん
な事なら、ルーアンで手土産にジェニス王立学園の制服を男女一着ずつジルに見繕って貰うんだった。学園の制服と言うのは、正式な場で着てもO
Kだからね。
まぁ、私達以上にレヴィの服装が一番トンデモないけどな。

其れは其れとして、晩餐会に参加しているメンバーが凄いな?
クラウス市長が武術大会を見に来ていたのは知っていたが、晩餐会にも招かれていたとは……そしてクラウス市長だけでなく、ボースのメイベル市
長、ツァイスのマードック工房長、ジェニス王立学園の学園長と、リベール中の名士が勢揃いと言った所だな?――ルーアンは、アレが無かったらダ
ルモアが招待……は、されないか。結局はアイツも情報部に利用されたに過ぎんからな。
それとは別に、レヴィがテーブルマナーを知ってた事に相当な驚きだ……きっと、王やシュテルに徹底的に叩き込まれたのだろうな。

でだ、デュナンが私達の事も紹介し、『今宵は無礼講だ』と言っているが……私達は兎も角、リベール中の名士を集めたこの晩餐会は、只の晩餐会
ではないのかも知れないな。



「ヨシュア、アインスが『只の晩餐会じゃないかも』って。」

「確かにそうかもね……ゲストが余りにも豪華すぎる。」



流石に鋭いヨシュアは気付いていたか。
そして其れを肯定するかのように、リシャールがデュナンに『そろそろあの話を』と促し、デュナンも『諸君等に集まって貰ったのは、此の場で重大な
発表があるからなのだ』と来た。



「で、では説明するが良い、リシャール大佐。」

「って、おまえがせつめいするんじゃないんかーい!」



レヴィが此の場に居た全員の気持ちを代弁した突っ込みを入れてくれたが、デュナンが『無礼講』と言っていたので、其れを咎める者は居らず、リシ
ャールも『ふふ、元気なお嬢さんだ』と軽く流していた……流石だな。
それで、デュナンに説明するよう言われたリシャールは、先ずはアリシア女王の健康状態について話し始めた。
今はまだ女王宮で静養中だが、体調は徐々に回復に向かっており、この分ならば女王生誕祭には元気な姿を見せる事が出来るか……尤も、アリシ
ア女王の体調不良も情報部による情報操作の一つだろうから、実際の所は不明だがな。――まぁ、全く無関係な人達には朗報だったみたいだが。

だが、次にリシャールが言った事には、私を含めこの場に居た全員が驚かされる事になった。
『リベールに新たな国王が誕生する事になった』と聞けば驚くなと言うのが無理な話だがな……アリシア女王は近日中に退位して、その王位はデュ
ナンが継承すると来た。

其れに対し、マードックは『女王陛下がお決めになられたのですか?』と聞き、メイベル市長は『そのな重大な話を、こんな酒の席でなさるなんて』と
少し非難気味だったが、そう言った非難が出てくるのは予想していたのだろうなリシャールは。
『事の詳細は女王生誕祭で陛下の口から正式に発表される』とした上で、『余りにも重大な発表なので、各地の責任者と遊撃士協会にも前もって伝
えておくべきだと公爵閣下がそう判断した』とは……そう言われては何も言えないな。……デュナンが、そんな判断を出来るとは到底思えんがな。
成程、デュナンを傀儡の王として立て、政治の実権は己が握る心算か……だが、デュナンよりも王位の継承権が上の者が居るのを忘れるなよ?
代わるぞエステル。



《アインス……そうよね、アンタは黙ってられないわよね。》

《あぁ、黙ってられん。》


――シュン!


「一つ良いか、リシャール?」

「エステル君?いや、アインス君か……何かな?」

「いや、今のリベールにはそのデュナンと同等、いやそれ以上の王位継承権を持つ者が存在する筈だ――私の記憶が正しければ、彼女はアリシア
 女王陛下の直結だった筈だ。
 であるのならば、王位を継承するのは彼女――アリシア女王陛下の孫娘であるクローディア・フォン・アウスレーゼ殿下だと思うのだが?」

「あぁ、そう言えば君は十年前に殿下と会っていたのだったね……確かに君の言う通りだが、姫君は年端もいかない少女であらせられる故、一国の
 主と言う立場はまだ重いのではないかと陛下は考えたのではないかな?」

「リベールより遥か東にある島国では十五歳で大人として扱われ、場合によっては一国一城の主となる事もあると聞く……であるのならば、現在齢
 十六であるクローディア殿下は充分に王位を継承するに値すると思うが?
 と言うか、アリシア女王がデュナンを後継者に選ぶとは到底思えん……自分が公爵である事を振りかざして、市民からホテルの部屋を奪う等と言う
 事をする奴をな。」

ルーアンでホテルの最上級ルームを奪われた恨みは忘れん……コイツに奪われなければ、夕焼けに染まるバルコニーでエステルとヨシュアが良い
感じになったかも知れない可能性があったから余計にな。



「デュナン侯爵……」

「ぬ?……若しかしてお主等はあの時の!!
 そ、その節は済まぬ事をした。あの時の事は……今宵、お主等がこの城で犯罪行為とならない事をしない限り、何をしても不問とする事で帳消しに
 せよ。」

「では、部下達にもそう伝えておきましょう。」



そう来たか……中々に巧い落としどころだな。――咄嗟に思い付いた事だけに、割と穴が多いがな。
だが此れで、デュナンのルーアンでの一件は有耶無耶になり、トドメにリシャールが『女性と言うか弱い身でありながら四十年もの間、一人で王と言
う重責を背負ってこられた女王陛下の決断に込められた思いを汲んでいただきたい』と来たか……そう言われては黙るしかないだろう。
だが、悪いが私達は黙る心算はない……『新しい国王と共に新たな王国の明日を切り拓かねばならない時期に来ている』としてもだ。

ま、トンデモない発表はあったが、晩餐会はその後は滞りなく進んだ……再び人格交代をして表に出たエステルが、メインディッシュの豚の丸焼きの
後ろ足を棒術具で叩き落して、足を鷲掴みにして齧り付いたのには驚いたがな……まぁ、無礼講なら此れもアリだろ。メイベル市長も、『中々にワイ
ルドですわね』と好意的だったけどな。

それは兎も角として、此処まで周到に準備が進んでいるとはな……此処まで来ると、遊撃士とは言え一般市民が如何こう出来るレベルじゃないんだ
が、だからと言って諦めると言う選択肢は存在しない。



《でも、如何するのよ?》

《デュナンが言った事を利用させて貰おうじゃないか。
 明らかな犯罪行為をしない限り、私達のした事は不問とされるんだ――ならば、城の中を見学しない手は無いだろう?……特に、女王宮がある空
 中庭園はな。》

《そっか!そうすれば若しかしたら、女王様に会えるかも!!》

《そう言う事だ。》



如何やらヨシュアも同じ考えだったらしく、城の見学を提案して来た――レヴィは晩餐会でたらふく食べて、お眠モードに入っていたので、ジンに面倒
を頼んで、私達は女王宮のある空中庭園に。
デュナンの言った事は其れなりの効果があったらしく、私達が城の内部を歩いていても咎められる事は無かった――事情を知らない城の侍女がヨシ
ュアに声を掛ける事はあったがな。
そんな訳で、特に苦労する事もなく空中庭園に到着だ……この先に女王宮がある訳だが、此れまでとは違い、女王宮に入るのは容易ではないだろ
うな――体調不良で静養中のアリシア女王と面会と言うのは、流石に女王宮を警護……と言う名の見張りをしている黒装束が許しはしないだろうか
らね。さて、如何したモノか……



「其処の二人、其処で何をしているのです?」



しまった!黒装束に気を取られていて、他が疎かになっていたか……って――



「あ、えっと……アタシ達お城の晩餐会に招待されてて、その序にお城を見学させて貰おうかなーなんて……って、ヒルダさん!?」

「エステル、知り合い?って言うか、十年前にクローディア殿下に会っていたとリシャール大佐も言ってたけど……」

「あはは、実は十年前に父さんのお仕事に付いて来た時に此処に来てるのよ。その時に王女様とリシャール大佐とも会ってたの。
 そして、このヒルダさんとも。お久しぶりです、ヒルダさん!」

「十年振りですねエステル殿、そしてアインス殿。」



声を掛けて来たのはヒルダだったか……十年前に此処に来た時、私達と侍女、そしてクローゼが一緒に遊ぶ様を何も言わずに見守っていた彼女に
声を掛けられるとは……だが、見つかったのが彼女で良かったな。



「エステルの知り合いだったんですね……申し訳ありません、グランセル城に入れたのが嬉しくて。
 この辺りは来てはいけない場所だったでしょうか?」

「……いいえ、この空中庭園ならご自由に見学していただいて結構です。
 ですが、奥の小宮殿は女王様の居られる女王宮――此処から先、関係者以外の立ち入りは遠慮願います……ヨシュア殿。」

「エステルとアインスは兎も角、どうして僕の名前を……」

「警戒せずとも、あなた方の事はある人から伺っております――その上で、少しお話を聞かせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「話しって言われても……」

「……確かに此処は話をするような場所ではありませんね、場所を変えましょう。」



如何やらヒルダは、ある程度此方の事情を知っているようだ……ならば、事と次第によってはアリシア女王への謁見を取り付けてくれるかも知れん。
グランセル城の女官長である彼女ならば、黒装束達も女王宮へ入る事を拒む事は出来ないだろうからな……目下の問題は、どうやって共に女王宮
に入るか、だな。








――――――








Side:クローゼ


あの日、リシャール大佐に捕まり、そしてこのエルベ離宮に囚われてもう何日経つのでしょう?……そろそろ時間の感覚がオカシクなりそうですね。
此処に囚われているのは、王国軍上層部の方の家族や、情報部にとって障害となる方達……薄暗い地下牢ではなく、このエルベ離宮に閉じ込めた
と言うのは、リシャール大佐の最後の情けと言った所でしょうか?



「王女様~~、私達もうお父さんに会えないの~~?ずっと此処に居るの~~?」

「そんな事はありませんよ?大丈夫です、きっと私達を助けに来てくれる人が現れますから。」

「ホントーに?」

「えぇ、本当です。だって、その人は約束してくれましたから。私が危機に陥ったその時は、必ず助けに行くって。だからきっと、私と一緒に皆も助けて
 くれる筈です。」

其れにきっと、アインスさん達なら今回の件に関わっている筈です……根拠はありませんが、何となくそんな気がします。



「ちくしょー!捕まっちまうとは下手こいたぜ……エステル達に渡す資料、ドロシーに預けといて正解だったな。」



……訂正、関わってる筈ではなく、確実に関わってますね。
今連れて来られたのは、リベール通信の記者のナイアルさん――ダルモア市長の一件の時、市長の汚職を暴いた彼が捕まったと言う事は、彼なり
に今回の件を調査していたと言う事。
そして、アインスさん達に渡す資料もあったみたいですから……ですが、そうであるのならば反撃の機会は必ず訪れます。王女としての覚悟は未だ
持てませんが、その時が来たらリベールに生きる一人の民として私も微力ながら協力しましょう!



「って、若しかしてクローディア殿下か?……オイオイオイオイ、女王陛下の孫娘であるクローディア殿下もエルベ離宮に閉じ込めるとか、幾ら何でも
 やり過ぎじゃねぇか大佐よぉ?
 いや、だが待てよ……此の状況、考えようによっては、クローディア殿下にインタビュー出来るまたとない機会って事にもなるよな!?」

「え?」

「それじゃあ、早速インタビュー開始と行くぜ!!……クローディア殿下、アンタジェニス王立学園の学園祭で騎士を演じてた子だろ?」

「!!」

「あぁ、驚くなって。こちとら、仕事上人を見る目には肥えてるんでね……其れより、俺に何かあった時の為に、後輩に俺が調べた資料をエステル達
 に届けるように言っておいた。
 アイツ等がアレを受け取ったら、間違いなく俺達の救出に来る筈だ……でもって、俺の勘が正しけりゃ、其処からリシャール大佐の計画への反攻っ
 てモンが始まるんじゃないかと思ってる。
 だが、そうなると先ずはグランセル城を大佐から取り返さなきゃならないだろ?……殿下の知ってる範囲で良いんで、正面の門以外でグランセル
 城に入る裏ルートがあったら教えてくれないか……俺のインタビューに答えるって形でな。」

「……分かりました……!」

こんな状況でも、自分の立場を利用して状況を好転させようだなんて、ナイアルさん、貴方はジャーナリストの鑑です――そして、其れが反撃の一手
になると言うのであれば、私は話しましょう。
王族と一部の人間しか知らない、王都グランセルの地下にある、グランセル城への秘密の入場ルートを……!










 To Be Continued… 





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