Side:アインス
クラムから『テレサ先生が襲われた』との報を受け、クラムの案内で現場に来てみれば、其処には倒れ伏しているテレサ先生とカルナの姿が。
見たところ外傷は無く、ヨシュアによれば呼吸や脈拍にも大きな乱れはないか。
子供達の証言によると、黒い服を着た奴が現れ、テレサ先生とカルナの口を塞いだ途端、二人は倒れてしまったとの事……ヨシュアが言うには睡
眠薬の一種を使われたらしいな。
薬の副作用はない事、其の内自然に目覚める事を伝えて子供達を安心させるのもヨシュアはお手の物だったがな。
そこから更に子供達の証言で、犯人は学園で貰った寄付金が入った紙袋だけを持って行ったらしい……其処だけ見ると強盗なのだが、強盗だと
すると解せんな?
《解せないって、何が?》
《テレサ先生を襲った犯人は、どうしてその紙袋を盗んだんだ?
普通強盗ならば、確実に金が入っているであろう財布や、身に付けている貴金属なんかを持ち去る筈だろう?……テレサ先生は貴金属は身に
付けていないが、学園祭で子供達に屋台でおやつを食べさせてやる為に財布は持って来ていた筈だ。
だが、子供たちの証言では紙袋以外の物には一切手を付けていないと来た……妙だと思わないか?》
《え?だって紙袋の中には百万ミラの寄付金が……って、アレ?其れっておかしくない?》
《そう、オカシイんだ。
寄付金がテレサ先生に贈答される事は、直前までジルと学園長しか知らなかった事だから、事前に犯人がテレサ先生が莫大な寄付金を所有し
ている事を知っている筈がないんだよ。……学園祭で、寄付金がテレサ先生に渡される所を見ていない限りな。》
《!!》
「あのねヨシュア、クローゼ、アインスが『犯人は、学園祭でテレサ先生に寄付金が贈られる所を見てたんじゃないか』って!」
「アインスさんが?……実は、私も同じ事を考えていました。
いえ、学園祭よりももっと前から……若しかしたら孤児院の放火も……」
「クローゼの言う通り、この二つの事件の犯人は同一と見て良いと思う。」
だろうな。
丁度タイミングよくカルナが目を覚ましてくれて、子供達の事を守ってくれることになった……『犯人を頼んだよ』と言われたら、頑張るしかないな。
更に示し合わせたかのようにジークがやって来た……クローゼが言うには『先生達が襲われる所を見ていて、ずっと追跡していてくれた』との事だ
った……マッタク持って頼りになる奴だ。
夜天宿した太陽の娘 軌跡58
『灯台での戦い~明かされた黒幕~』
ジークに案内される形で海道を進んでいるのだが……
「お前等は……」
「貴方は、倉庫の時の……」
「デカい剣もったバットーサイ!!!」
レヴィ、其れは違う。確かにアガットも赤毛で頬に十字傷有るけど違う。其れと、アガットの十字傷は右頬で、抜刀斎こと緋村剣心は左頬だから。
「あんだ、バットーサイってのは?」
「アハハハハハ、レヴィの言う事は気にしないで良いわよ?って言うかこの子の言う事はあんまり気にしちゃダメだから。と~っても可愛くて可成り
強いけど、アホの子だから。
……んで、アンタはこんな所で何してんのよアガット?」
「お前等こそこんな所で何してる?ガキと民間人を連れ歩く時間でもねぇだろ?……何か、起きやがったのか?」
む、流石に鋭いな?
今の僅かなやり取りで何かが起きたのかを察するとは……此れが正遊撃士として場数を踏んで来た者だけが持ち得る洞察力と言うモノなのだろ
うね――ヨシュアの洞察力は其れに近いモノがあるが、エステルはもう少し頑張らないといけないな。
で、ヨシュアがテレサ先生とカルナが襲われたと言う事をアガットに伝えると、アガットも『レイヴンが姿を消した』と言う事を教えてくれた……放火
事件の調査を引き継いだアガットが消えたレイヴンを探して此処に来たと言う事か。
となると、レイヴンは犯人でなくとも全く無関係ではない訳か……此処からはアガットも一緒にだな。どうせ目的地は同じだろうしね。
「そう言えばお前等、あの白い隼を追ってたみたいだが……」
「ジークが犯人を追跡してくれていて、私達を案内してくれていたんです。」
「ハァ?マジか?」
「はい♪」
「ジークってばとっても頭いいもんね。」
「猛禽類は総じて知能が高いって言われてるけど、ジークはその中でも飛びぬけているのかも知れないね。」
「だとしても、ドンだけだっての……まぁ、道案内が居るなら良いか。」
「ジークは、ぼくよりもあたまいーかも!」
いや、お前の脳ミソは鳥に負けるのか?……あ~~、でもジークの賢さとレヴィのアホさを比べると、若干否定出来ない部分があるのがなんか悲
しいモノがあるな?
さてと、ジークに案内されて到着したのはバレンヌ灯台……此処にテレサ先生とカルナを襲った犯人は逃げ込んだ訳か。
早速中に入ったんだが……静かすぎるな。人の気配がまるでないが……気配がないだけで人は居た、か。階段の脇に、レイヴンの連中の姿が
あったからね。
「あ、やっぱりアンタ達だったのね!」
「まさかとは思ったが……テメェ等、こんな所で何やってやがる!
ロッコ!レイス!!オイ、聞いてんのか!」
だが、私達が現れても何も言わない……アガットがレイスと呼ばれた男の胸倉を掴んだが……
――ドゴォ!!
そいつが手に持って居た木刀を振り下ろした。
アガットは寸での所で避けたが、振り下ろされた木刀は床の石畳を砕いた……木刀に使われる木材はとても硬く、石を砕く事も出来ない事もない
が、其れには相当な力が必要なのだがな。
「ギャア!!」
「!!」
別の奴が襲って来て、エステルは咄嗟に棒術具でガードしたが……なんてパワーだ!同世代ではヨシュア以外に敵が居ない、『十代女子最強』
と言って過言ではないエステルの手を痺れさせるとは。
いや、パワーだけじゃなく、耐久力も桁違いに上がっているな?……アガットにぶっ飛ばされようと、ヨシュアに顎を蹴り上げられようとマッタクダメ
ージを受けていないからな――レヴィのバカ力でブッ飛ばされても戦闘不能にならないとか、本気であり得んよ。
まるで薬物中毒者だ……恐らくだが、今のアイツ等は痛覚すら極端にマヒした状態なのだろうね――だとしたら可成り危険だな。神経系を狙って
落とさない限り、下手にダメージを与えるとその分だけ狂暴になる可能性があるからな。
《つまり、一撃で気絶させる事が出来れば良い訳ね?》
《そうなるが……何か妙案があるのかエステル?》
《ふっふ~ん、ちょっといい事思い付いちゃったのよ。アインスは、アースウォールを使えるようにしておいて。》
《あぁ、分かった。》
一体何をする心算なのか……
「クローゼ、アタシがアイツ等を一纏めにするから、其処に水属性のアーツをお願い。」
「エステルさん?……はい、分かりました!」
「レヴィは、クローゼがアーツを喰らわせたら、デカいの一発かまして!」
「オッケー!」
成程、そう言う事か……!
「二人とも伏せて!でないと、まとめて団子にしちゃうわよ!!」
「おっと!」
「うお!!」
先ずはエステルの旋風輪でレイヴンの連中を一気にぶっ飛ばす……大の大人の男六人を纏めてブッ飛ばすとか、エステルの腕力が大分ヤバい
感じだな?……そうなってしまったのは主に私とカシウスのせいだけれどね。
「クローゼ!」
「……行きます!」
ぶっ飛ばされたレイヴンにクローゼの水属性アーツが炸裂し、連中はずぶ濡れだ……そして――
「レヴィ、やってしまいなさい。」
「ア~ッハッハ~~!!
いっくぞ~~?パワーきょくげーん!くらえ~~!雷刃封殺爆滅剣!!」
「「「「「「みぎゃーーーーーーーーーー!!!」」」」」」
レヴィの必殺の一撃が炸裂してレイヴンは纏めてスタン……あ、口から煙が出てる。
クローゼのアーツでレイヴンの身体は濡れていたから、レヴィの攻撃の電気伝導率がアップし、攻撃はクリティカルヒットだった訳だ……クローゼ
のアーツで床も濡れていたから、私達も感電の危険性があったが、其処は私がアースウォールを使う事でダメージ回避だな。
「イエーイ!やっぱり、僕最強!!」
「へ、倉庫の時から只のガキじゃねぇとは思ったが、やるじゃねぇか?」
「エッヘン!」
うん、今日はそこで胸を張って良いぞレヴィ。クローゼのアーツでのアシストがあったとは言え、連中を纏めて倒したのはお前だからな。
取り敢えずレイヴンの連中は動けない様にロープで縛っておくとして……ってレヴィは何で亀甲縛りをしてるかな?更に何故にクローゼはレイヴン
の一人を背面合掌縛りにしてるのか?
「レヴィ、クローゼ、その縛り方は?」
「あれ~~?」
「なぜこんな事に?」
って無自覚か!……まぁ、やられた側からしたら物凄く屈辱的である上に、身体が滅茶苦茶痛い縛り方だからある意味でありかも知れないがな。
「にしても、コイツ等がテレサ院長から寄付金を奪って、孤児院に放火した犯人……」
「いや、違うんだエステル……彼等は多分、暗示を受けて利用されていただけだ。」
「え?」
「つまり、黒幕は別に居ると言う事ですね?」
「そう言うこった……其れに、此のやり口は心当たりがある……行くぞ、未だコイツ等を操っていた真犯人が居る筈だ。」
其れは兎も角、レイヴンは矢張り利用されていただけだったか……そうでなければ、ジャンキーのような状態になる筈がないからな。……アレは
余程強力な催眠暗示を掛けられていたのだろうね。
略間違いなく、レイヴンに全ての罪を擦り付ける心算だった訳だ真犯人は……何とも、いっそ清々しい程の外道だなマッタク!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
階段を上って灯台の最上階に到着だ……灯台守の爺さんが無事なのか気になったが、途中の階で何事もなかったかのように眠っていた。犯人
に睡眠薬を嗅がされたのかとも思ったが、ベッドで寝ていたのでそれは無いだろうね。
寝ている所に、更に睡眠薬を盛られてより深い眠りに落とされた可能性は否定出来ないがな……其れでも、別に眠りが深くなるだけだから、特に
問題は無いだろうね。
その最上階なのだが……何やら話し声が聞こえるな?
人数は、二~三人と言った所だが、そのうち一人は物凄く聞き覚えのある声だ……話の内容としては、今回の事件の罪を全てレイヴンの連中に
被せれば万事解決とのことだったが、其れ以上に衝撃的だったのは、事件の黒幕はダルモア市長だったと言う事だ。
孤児院が建っていたあの場所を高級別荘地にして国内外の富豪に売りつけるのが目的で、その目的の為には孤児院とテレサ先生が邪魔だった
と……其れで人を雇って孤児院に火を点け、テレサ先生を襲って寄付金を奪ったのか――!!
《コンの外道……》
《気持ちは分かるが押さえろエステル……今飛び出して行ったら――》
「このくされドゲドー!はなしはきーたぞ、ひとでなしー!!」
「「レヴィ!!」」
「レヴィちゃん!」
「オイコラ、ガキンチョ!!」
って、エステルよりもレヴィを抑えるべきだったな?……だがまぁ仕方ないか。
レヴィはマテリアルの中でも純真無垢であり、それだけにある意味で純粋な正義感があるからな……こんな腐れ外道の会話を聞いたら黙ってい
られる筈もないか。
だが、此れでもう隠れて聞いている必要は無くなったな?
「「ルーアン市長秘書、ギルバート!!」」
「き、君達は!ど、如何して此処が!!!」
「うっさい!こちとら、空から事件を見てた目撃者がいるのよ!
全部アンタって言うか、ダルモア市長の仕業だったのね……ダルモア市長も当然だけど、アンタも懲らしめてやるから覚悟しなさい!!」
「くそ!君達、コイツ等を皆殺しにしろ!知られたからには生かしておく訳には行かないからな!!」
初めて会った時から胡散臭い奴だとは思っていたが、矢張り裏の顔は真っ黒だったか。
さて、コイツ一人ならば問題ないのだが、他の二人がどうにも面倒そうだな?……この黒装束達、ヴァレリア湖でカプア兄妹と会っていた奴らの仲
間か……あの赤仮面が居ないだけマシか。
「アインスも言ってるんだけど、ヨシュア、コイツ等って……」
「うん、ヴァレリア湖で見た人達と同じ服だね。」
「はっ……お前等も知ってるのか?まぁ良い、漸く出て来やがったな黒装束共。
ちょろちょろ回りくどい事しやがって……此れで尻尾を掴めるぜ。」
「君も中々しつこい男だな……」
そしてアガットが追っていたのはコイツ等だったか……時に、私達だけに集中していると危ないぞ?特にギルバート。
「オマエなんてコーしてやる!くらえ、ベニマルコレダー!!」
「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
はい、レヴィがギルバートに電撃喰らわせて一撃スタン。……今のはベニマルコレダーじゃなくて最早エレクトリッガーだった気もするが。
だが、予想外の事に黒装束達もあっけに取られている様だな?今だエステル!
「ちょいさぁぁぁぁあ!!」
「其処だ!!」
エステルが殴りかかり、ヨシュアが斬りかかるが、この黒装束達中々の手練れだな?不意を突かれながらも攻撃に対処して見せるとは。
アガットとレヴィが攻撃しようとすれば、其方に牽制の射撃を行い、此方に決定打を打たせないか……勝てないまでも負けない戦い方を熟知して
居るみたいだな?中々に厄介だ。
「我々には遊んでいる暇はないのでね……悪いがお暇させて貰おう。」
――ブシュー!!
「「「「「!!!」」」」」
此れは、スモークボム!此方の攻撃に対処しながら床に落としていたのか……やられたな。
スモークそのものは風属性のアーツで吹き飛ばせるが、その隙に連中はまんまと逃げおおせたみたいだな……外の足場には脱出用のワイヤー
ロープがあったしね。
「俺は連中を追う!お前等はジャンに報告して指示を仰げ!」
「え?ちょっと!!」
と、アガットがそのワイヤーロープを伝って一気に灯台の下まで降りて黒装束を追って行った……伝ってとは言え、今のは殆ど自由落下なのでは
ないかと思うのだが、無事に着地して走って行くあたり、アガットの身体能力も普通ではないな。
「バットーサイ、いっちゃった。」
「だから違うわよレヴィ?」
「……黒装束の方はアガットさんに任せよう。僕達は、まだ……」
ヨシュア、見事なスルースキルだ……だが、確かに私達にはまだやるべき事があるからな。
何よりも、クローゼの事が心配だ……大事な場所が、大好きなテレサ先生が、あんな下らない目的の為に不条理で理不尽な目に遇ったと言うの
は可成りショックだっただろうからね。
《なら、アインスが慰めてあげないとね♪》
――シュン!
ってエステル!?……本当に変な所で気が回るなお前は……まぁ、良い。
灯台の中に戻ると、流石にショックだったのかクローゼが床に座り込んでいた……大丈夫かクローゼ?
「アインスさん……大丈夫です。」
「だが、ショックだったのは事実だろう?
コイツは如何する?お前が望むのならば、永遠に覚める事のない悪夢を見続けさせる事も出来るが……と言うか、この様な外道に情けは必要
あるまい?」
「確かにそうなのかもしれません……ですが、彼もまた、私達が守るべきリベール王国の人間ですから。」
「ふ……お前ならばそう言うと思ったよ。」
流石はいずれこの国を背負って立つだけの事はある。
そして其れは同時に、私達遊撃士の使命でもあるからな……だが、遊撃士の仕事は其れだけではない、そうだろうヨシュア?
「あぁ、悪い事をした人をとっちめるのもまた遊撃士の仕事だ。
ルーアン市に戻ろう。逮捕すべき真犯人が、まだ一人残っている。」
「はい、行きましょう!」
「だるもあしちょーめ、かくごしろー!
だいたい、ガチムチマッチョでもないのにしちょーをなのるなんておこがましーにもほどがあるぞ!ハガーしちょーにあやまれ~~!!!」
レヴィ、其れはお前の市長のイメージが間違ってる。ハガーの様なガチムチマッチョの市長なんて現実には居ないからな?アレは、あくまでもゲー
ムの中での事だからね。
まぁ、ダルモア市長に覚悟しろと言うのは同感だけどな。
どんな手を使っても必ず逮捕してやる……否、只逮捕するだけでは足りん――自ら『殺してくれ』と懇願する位の拷問を喰らわせなければ気が済
まん!――テレサ先生や子供達が受けた衝撃は、其れ以上だったのだからな!!
取り敢えず、レイヴンの連中をマノリア村まで子供達を護衛してくれたカルナに預け、私達は一路ルーアンに……道中で、クローゼが一時離脱し
たが、ルーアンのギルドに入る頃には戻ってきたか。
今回の事件も、いよいよ大詰めだな……
To Be Continued… 
キャラクター設定
|