Side:アインス
辿り着いた先には行方不明の飛行艇があり、更にはハイジャック犯であるところの空賊が居たとは……完全に軍の連中は、一番重要な場所をキチ
ンと捜査してなかった訳だ。
ルゥイ少年の証言は正しかった事が証明された訳だが……先ずは空賊団をとっ捕まえて軍に突き出してやるとするか。将軍殿への嫌味と皮肉もた
っぷりとおまけとして付けてな。
数の上では三対五だが、数では負けても質は此方の方が上だな……アホの子にキール兄と呼ばれていた青年は標準的な片手剣を、それ以外の
連中は短剣を使っているが、武器の使い方がまるでなってない。
素人相手ならば其れでも何とかなるかも知れないが、生憎と此方はプロだ、そんな攻撃など怖くはない。
「遅い!」
「へ?剣が!!」
「弾き飛ばされちまった!?」
「此れは、預からせて貰いますよ?」
ヨシュアが絶影で下っ端二人の短剣を弾き飛ばして其れを回収して攻撃手段を奪う……相変わらず速いな。魔力を使わずに、生身であそこまで速
く動く事は、フェイト・テスタロッサでも不可能だろう。
しかもヨシュアの場合、只速いだけではなく、微妙な緩急をつける事であたかも分身や、瞬間移動したかのような錯覚をも起こさせるからな?
ヨシュアの攻撃を初見で見切るのは不可能だろう。
シェラザードは……
「うふふふふ……お~~~っほっほっほっほっほ!」
「「ひぃぃぃぃぃぃ!?」」
下っ端二人に対して、鞭を絶対に当たらない様に、だけど逃げる事が出来ない様に振るって生殺し状態にしてる……仕事忘れて楽しんでないかア
レは?……シェラザードは絶対にSだ。そうだと思ってたけど再確認。
そうなると、私とエステルの相手は必然的にキールになる訳だが、私達が負ける事はあり得ん。全力でブチかませエステル。
《モチのロンよ!》
「行くわよぉ!!」
「クソ……よりにもよってジョゼットが言ってた一番厄介なのが相手かよ……悪いが捕まる訳にゃ行かないんでな、少し手荒く行くぜ!」
少し手荒い程度で私とエステルを止める事が出来ると思っているのならば大間違いだぞ?エステルの棒術を鍛えたのはカシウスだし、実戦的な戦
い方を教えてやったのは私なのだからね。
祝福の太陽を止める事が出来るのは、カシウスとヨシュア位なものだと知るが良い。
夜天宿した太陽の娘 軌跡36
『お前等人の話聞けマジで』
キールとの戦いも、エステルが優勢だ。
剣で斬りかかって来るキールに対し、エステルは棒術特有の円運動で其れを防御しながらも、同じく円運動での反撃も行う攻防一体の動きで対処
し、私もアーツを放っているのだから優勢以外にはあり得ない。遊星優勢って位に優勢だ。
「棒術と同時にアーツって……ジョゼットの言ってた事はマジだったのか!?……しかも駆動時間無しでとか、一体如何なってんだお前?」
「ふっふ~ん、アタシってばちょっと非常識な存在なのよね~~?
二重人格って聞いた事有るでしょ?アタシも二重人格なんだけど、もう一つの人格のアインスがアーツを使ってくれてるから、物理攻撃とアーツの
同時攻撃が出来るって訳。
序に言うと、アインスの使うアーツに駆動時間はマッタクないから。」
「なんだよそりゃ、反則にも程があるだろ!」
まぁ、私は存在が反則みたいなものだからね?そしてそんな私を内包してるエステルは間違いなくゲームセンターや大会では使用禁止になる反則
キャラだろうな。
序に言っておくと、ステルを棒術だけと思ってると危険だぞ。
――ボウ
「なっ、拳に炎が宿った!?」
「アインスがアーツを応用したのよ!ボディがガラ空きだぜ!」
うん、実に見事に決まったな、荒咬み→八錆→七瀬のコンボが。ゲームだと八錆で相手がダウンしてしまうから横蹴り又は回し蹴りの七瀬は、画面
端で七拾五式・改からの追い打ち以外では繋がらないんだが、現実では八錆のエルボーでダウンはしなかったから七瀬が繋がる訳か。
ならトドメは、確実に相手を戦闘不能にするこれだな。
時属性の導力を集中して作ったアーツ弾の外側を、幻属性の導力でコーティングしてやると、異なる属性の間で電位差が生じてアーツ弾は強力な
電気を帯びると同時に、エステル自身も強烈な電気を帯びるようになる。
そして、その電気を全てアーツ弾に集中して放つ必殺技……行け、エステル!
「覇ぁぁぁぁぁ……電刃波動拳!!」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
電刃波動拳……喰らえば一撃スタンで、フルチャージでガード不可になると言う超必殺技だ。……フルチャージはガード出来ないのにブロッキング
は可能なのが解せん。
まぁ、兎に角これを喰らったら全身を強烈な電撃が駆け抜けるから、暫くは痺れて真面に動く事は出来ないさ。
だが此れで、勝負ありだな?
ヨシュアは武器を奪った二人を当て身で気絶させたみたいだし、シェラザードにドSな攻撃をされた二人はすっかり戦意が喪失し、お前は電刃波動拳
で戦闘不能だからね。
「いたた……中々やるじゃないか。ジョゼットを負かせただけはある。」
「おだてても何も出ないもんね。ほれ、とっとと降参して乗客達を解放しなさいよ!」
「ははは、本当に何も知らないらしい。全くおめでたい連中だぜ。」
「あ、あんですってーーー!?」
電刃波動拳を喰らって『いたた』で済むのか……エクセリオンのゼロ距離砲撃を喰らって無傷だった私並みに頑丈だな?――ではなくて、追い詰め
られていると言うのにこの余裕は一体何だ?
後がなくなって自棄になっていると言う訳ではなさそうだが……此の状況から逃げおおせる手段があると言うのか?
戦闘不能状態から逃げるとなれば……まさか!!エステル!!
「へ?」
「……気を付けて!」
「ヨシュアも!?」
「へ……コイツを喰らいな!」
全身が痺れてる筈なのに、動く事が出来たのか!?……いや、痺れていても腕を動かす事位は無理すれば可能だったか――迂闊だったな。
キールが死力を振り絞って放ったのはスモーク弾――完全に視界が潰されてしまったか!……此れに乗じて攻撃と言うのは、向こうにとっても余り
にもリスクが大きいから考えられないが、下っ端達がキールを抱えてこの場から離脱するには充分な時間が稼げると言う訳か。
「あ~っはっはっは!積み荷を残したのは残念だが、その位は我慢してやるさ!アバヨ、遊撃士の諸君!」
クソ、まんまと逃げられたか……電刃波動拳でのスタンよりも、大旋風でタコ殴りにしてKOすべきだったかもしれないな――使われた煙幕に毒性は
ない普通の発煙筒だったか。
連中の姿は既に見えない……一度ならず、二度も取り逃がすとは、正遊撃士だったら降格案件だな。――まぁ、シェラザードは、準遊撃士二名と一
緒だったと言う事で酌量の余地はあるだろうがね。
だが、今回の事は誰一人が悪いと言う訳ではあるまい……確実に勝ったと思った故の油断が、誰にもあったのだからね。無論、私にもだ。
「……そうね、その通りだわアインス。」
「エステル、アインスが何か?」
「うん。『今回の事は誰が悪いって事じゃない』って。勝ったと思った故の油断が全員にあったからだって。」
「其れは、確かに其の通りだね……僕も、少し油断があったのは否定出来ないからね――其れに、悔んでる暇があるのなら今出来る事をしておか
ないとだよ。」
「そうね。幸い定期船は取り戻せたし、早速調べてみるとしますか。中に乗客が居るかも知れないわ。」
「……うん!」
空賊は取り逃がしたが、定期船を取り戻せたのならば、其れを調べない道理はない……何か重要な手掛かりが残されているかもしれないし、シェラ
ザードの言う様に乗客がいる可能性もゼロではないからね。
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で、定期船の中を一通り調べたんだが、乗客はおろか有力な情報すら何もなかった……敢えて言うのであれば、残された積み荷の中の食材で、ラ
ーメンを作る事が出来ると言う事だな。
其れも濃厚な塩トンコツがね。キクラゲとモヤシキムチと明太子をトッピングすると最高に美味しいんだよなアレは。
《明太子って何だっけ?》
《タラの魚卵を、唐辛子ベースのタレに漬け込んだ物だ。塩漬けのタラコよりもパンチのある味で、おにぎりの具材としても大人気だ。バターと合わせ
てパスタを絡めても絶品だぞ。》
《何それめっちゃ美味しそう!》
明太スパゲッティは、大人気メニューだ。機会があれば作ってやる……我が主の明太スパゲッティには及ばないだろうけれどね。
まぁ、其れは其れとして、誰も居ないと言う事は、乗客は全員空賊の飛行艇で連れ去られたと見るのが妥当だろうな……恐らくは連中のアジトに。
「アインスが、乗客はアイツ等のアジトに連れ去られたんじゃないかって。」
「それは僕も同じ意見だよ……と言うか、そうでないと誰も居なかった事の説明が付かないからね。
だけど、折角手掛かりを見つけたと思ったのに、此れじゃあ振り出しに前戻りだね……さて、次の一手は如何打つべきか……」
「ほらほら、そんな辛気臭い顔しないの。
まだ手掛かりが完全になくなった訳じゃないわ。――あの連中、どうしてこんな場所に定期船を隠したんだと思う?
見た所、船内の導力は完全に止まっている……此れはつまり、導力機関が抜き取られた事を意味しているわ。
オーブメントの導力は、時間が経てば回復するモノだからね――更に連中は、大量の積荷を何度も何度も往復して運び去っている……その手間
とリスクを考えたら、定期船ごとアジトに運び込んだ方が遥かに効率が良いと思わない?」
「……確かに。」
あぁ、言われてみれば確かに其の通りだな?
見つかるリスクがあって何度も往復するよりも、定期船ごとアジトに運び込んでしまった方がずっと効率がいい……にも拘らず連中が其れをしなかっ
たのは……若しかして、アジトが特殊な場所にあるからか?
「連中がそうしなかったのは、アジトが特殊な場所にあるかじゃないからじゃないかって、アインスが言ってるわ。アタシもそう思ったけど。」
「うふふ、アインスもエステルも大正解。
推測するに、彼等のアジトは少し特殊な場所にあるのだと思う……十から十五アージュ、つまり空賊艇程度の小型船のみ着陸出来るような特殊
な場所にね。」
「な、成程。」
「山岳や渓谷の様な、高低差の激しい入り組んだ地形……そう言った場所が怪しそうですね。」
だな。
だが、そうなると私達だけでは限界もある……私が表に出れば空を飛ぶ事も出来るが、歩いて辿りつけない場所にアジトがあったらヨシュアとシェラ
ザードはどうしようもないからな。
これは非常に、心の底から思い切り不本意だが、事情を話して軍の協力を仰ぐしかないかも知れないな。彼等は警備飛行艇を持って居るしね。
《今更軍を頼るの?》
《そう言いたくなるのは分かるが、どのみち此の定期船の事を連絡しない訳には行くまい……連中の態度がどうであれ、此処は協力するのが吉だ
と思う。其れで人質が戻って来るのなら尚更な。》
《うーん……そうね。拘ってる場合じゃないか。》
そうだ、変な拘りはこの際捨てて犬にでも食わせてしまえ。
取り敢えずギルドに戻ってルグラン老人に報告しよう。ギルドの導力通信を使えば、ハーケン門に連絡できる筈だからね。
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そう思って、定期船の外に出たら、見事に軍の連中に包囲されてましたとさ……腹ペコな剣王を召喚した赤毛の少年じゃないが、言わせてくれ。
如何してこうなった?
「ハハ……此れは流石に予想外だね。」
「う~ん、連絡する手間が省けたと喜ぶべきかしら?」
ハッハッハ、絶対に喜ぶべき状況ではないと思うぞシェラザード?軍の連中は、完全に私達の事を武器を持った不審者と認識してるからな……きっ
と話を聞いてはくれないだろうさ。
如何やら彼等の中では、私達が空賊だと認識されてるみたいだからな。
「誰が空賊よ!この紋章が目に入らないの!?」
「ふん、遊撃士の紋章か……その様な物が身の潔白の証になる物か。」
む、この無駄に偉そうな声は……貴様かモルガン将軍殿。何故此処に居る?
「モルガン将軍?……アインスが、何で此処に居るのかって。」
「各部隊の調査報告に目を通して、調査が不十分と思われる場所を確かめに来たのだが……
まさか、お主等が空賊団と結託してとは思わなんだぞ。」
うわぁ、物凄い言い掛かりだ此れ。冤罪も甚だしい……と言うか、行方不明の定期船から出て来たから空賊と結託してたとか短絡思考の極みだな
将軍殿?……エステル、ちょっと代わってくれ。
「ん、了解。」
――シュン
「む、髪の色が変わったか……お主はアインスと言ったか?」
「覚えておいていただき、光栄の極みだよ将軍殿。
其れよりも言いがかりは止めて頂こうか?我々はお前達よりも先に此の場所を探し当てたに過ぎん……何を根拠に空賊団と結託していたと戯言
を抜かすのか、是非教えて頂きたいな?」
「ふん、ならば空賊共は何処だ?其の中に人質達は居るのか。」
「空賊には、あと一歩のところで逃げられてしまいました……人質の乗客も此処には居ません。」
あ、おいヨシュア、余計な事を言うな!其れは確かに紛れもない事実だが、そんな事を言ったらこの頑固頭は……
「フ、語るに落ちたな……大方、我々がやって来るのをお主等が空賊に知らせたのだろう。」
「呆れてモノが言えんな将軍殿?
勝手な憶測で我々を空賊の仲間扱いか……果たしてお前は、中から出て来たのが遊撃士ではない一般人が相手でも同じ事を言ったか?否、間
違いなく言わなかった。
毛嫌いしている遊撃士が出て来たから、これ幸いと難癖をつけているに過ぎん……私達が空賊の仲間だと言うのならば、勝手な憶測ではなく、こ
ちらが認めざるを得ないような物的証拠を持って来てからにしろ。
其れもないのに決めつけるとは冤罪と人権無視も甚だしい。
お前がなぜ遊撃士を毛嫌いしてるのかは知らないが、大事な事件の捜査に『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とばかりに個人的感情を持ち込むのは
大間違いだろうに……大概にしろ、此の嘴の黄色い鼻たれの青二才が。」
「黙れ!者共、こ奴等を引っ捕らえい!」
強硬策に出たなオイ……私が表に出てるから、この程度の人数ならば攻撃範囲がおかしい事になってるエアロスパークで纏めて倒せるが、其れを
やったら本気で軍の捜査を邪魔したとか言われるだろうからなぁ……
《あぁ、言われそうね其れ。》
《だからと言って大人しく捕まるのも面白くないから……少しだけ、連中に恥をかかせてやるか。》
《何する気?》
《女である事を利用する。》
こんな風にな。
「オイコラ、何処を触っている!拘束しながらどさくさに紛れて胸を触るな、尻を撫でるな!……オイ、将軍殿、貴様の部下は女性を拘束する時に不
埒な行為を働くのか!」
「何を馬鹿な!そんな事は……」
「ほう?では、今し方シェラザードの放漫な胸を確りとホールドしてるあの手は何かな?」
「へ?」
「あ、あら?い、何時の間に!?離しなさいよこのバカ!」
シェラザードのビンタが見事に炸裂……今のは兵士の方が悪いから、此ればかりは将軍も文句は言えまいよ。己の部下の失態だったのだからね。
まぁ、そうさせたのは私だがな。魔法で人の身体を本人の意思とは無関係に操るくらいは雑作もないさ。
《でも、なんでシェラ姉に?》
《流石にこの身体にと言うのは如何かと思って……穢れなき純潔な乙女の身体に汚らわしい汚れを付けたくはなかったからね。》
《あ、其処はアタシの事考えてくれたんだ。》
《其れはまぁな。》
シェラザードには少し悪い事をしたが、将軍に恥をかかせる事は出来たから其れで良しとして捕まってやるとしよう……まぁ、捕まった所で私達と空
賊の繋がりは何処にも無いのだから直ぐに釈放されるだろうがな。
だが、今回の事が冤罪による誤認逮捕なのは事実だからね……今度ナイアルにあった時にネタとして提供してやるのも良いかも知れないな。
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と言う訳で無事に(?)ハーケン門の地下牢に閉じ込められましたとさ……何でヨシュアも一緒に同じ牢屋なのか。普通男女の牢屋は分けるモノだ
と思うのだがな。
まぁ、ヨシュアが同じ牢屋の女性に対して間違いを犯すとは思えないけどね。
私達を収監した兵士によると、明朝将軍殿の尋問が行われ、無実が証明されれば二~三日で釈放されるらしい。……『頭を冷やせ』は余計だった
けれどね。
「は~~、冗談じゃないわよ。此方の言い分も聞かないでこんな場所に放り込んでさ……」
「軍が空賊団を逮捕出来れば疑いは晴らせるだろうけど……こうなると、無理かもしれないな。」
「え、如何して?」
「……廃坑で戦った空賊リーダーの言葉を覚えているかい?」
『話が違う。』、『来るのが早い。』と言うアレの事かな?
「アインスが、『話が違う。』、『来るのが早い。』って言う奴かって。
確かにそんな事言ってたわよね……って、若しかして其れって、軍の部隊の事だったって事!?」
「十中八九そうだと思う。そして、其れが意味するのは……」
「軍内部に空賊のスパイがいる……若しくは情報を流す協力者のような人物がいる――つまり、そう言う事ね。」
そうなるだろうな。
軍の部隊が大体ドレ位に到着するか知っていたから私達の登場は奴等にとっては『話が違う』事であり、『来るのが早い』と思ったんだろう……しか
し、そうなると空賊団と結託してたのは私達じゃなくて軍内部の誰かと言う事になる。
「そ、それが本当だったら絶対に捕まらないじゃない!……やっぱり、アタシ達が頑張るしかないって言うのに……」
八方塞がりだな……こんな時でもカシウスなら何とかしてしまうのだろう。
私を呪いから解放してくれた少女達ならば……うん、だめだ。如何足掻いても力押しで此処を脱出して、空賊をトリプルブレイカーで壊滅させて、軍
に突き出して身の潔白を証明すると言う力技の未来しか見えない。
「フフフフ……如何やらお困りの様だね。」
「「「?」」」
何だ、何か聞こえたぞ?
「アレ……ヨシュア、何か言った?」
「いや、僕は何も……」
「隣から聞こえて来たわ。」
うん、シェラザードの言う様に隣から聞こえて来た。其れも何だか聞き覚えのある様な子安ボイス……なんだろう、物凄く嫌な予感がする。ドレ位嫌
な予感かと言うと、相手が手札があるのにフィールドのカードが0の状態でターンエンドした時と同じ位嫌な予感だ。
「おお、つれない事を言わないでくれたまえ――この艶のある美声を聞いたら、誰だか直ぐに判るだろうに……」
「こ、此の根拠のない自信……」
「そして、自分に酔った口調……」
「ひょっとしなくても、オリビエ?」
「ピンポ~ン♡」
やっぱりか……『ピンポ~ン♡』じゃないだろう。何で此処に居るんだお前は?
「ああ、こんな所で再会する事が出来るとは……矢張り僕と君達は、運命で結ばれているらしいね。」
「あ、アンタ、如何して此処に居るのよ!ボースに案内した筈でしょ!!!」
うん、私もエステルに同意だ。
そして言わせて貰うのならば、お前と結ばれている運命とか普通に迷惑だ。宿命は変える事が出来ないが、運命は変えられるから、そんな運命な
んて物は強引に断ち切ってやる。
其れは其れとして、何で投獄されてるんだお前?
「アインスが『何で投獄されてるんだ』って。」
「まーまー、そう一度に質問しないでくれたまえよ。これには海よりも深く、山よりも高い事情があるのさ。」
「あっそ、だったら聞かない。って言うか聞いちゃったら物凄く疲れそうな気がする。」
「偶然だねエステル……僕もそんな予感がするんだ。」
「そう言う訳で、話してくれなくても結構よ。アタシ達の美容と健康の為に。」
うーん、見事なまでの全員塩対応。まぁ、そうなるよなぁ。
「はっはっは、そんなに遠慮する事はない。一部始終聞いて貰うよ……僕の身に起きた悲劇的事件をね。」
《聞いちゃいないわね……》
《だな……この手の輩には何を言っても無駄だ、徹底的に無視、無反応、シカトを貫くに限る……此方が反応すれば、調子に乗るからなコイツは。》
《其れが賢明ね。》
其の後もオリビエは自分に酔った口調で話を続けてたが、要約するとアンテローゼで一曲ピアノ演奏を披露したら、支配人に専属ピアニストになら
ないかと言われたので、ミラの代わりに食事とワインを要求したが、シェフの料理に感激して店の貯蔵庫の奥にあったワインを拝借したんだが、それ
が王都のオークションにも出た幻のヴィンテージワインで、其れを堪能してたら支配人が来て、あっと言う間に兵士に囲まれて御用となった訳か。
王都でオークションに掛けられ五十万ミラで落札されたヴィテージワインを勝手に飲まれたとなれば、アンテローゼの支配人もブチ切れるだろうさ。
投獄理由が余りにもアホ過ぎて笑えんわ……無視して寝るぞエステル。
《そうね……色々あって疲れたから寝ちゃおうか?……今日の夢では、貴女はどんな格好で現れるのか楽しみだわ。》
《さぁ、どんな格好だろうな?》
見ればヨシュアとシェラザードも寝息を立てている……矢張り疲れたのだろうな――では、お休みなさいだ。……オリビエがまだ何か言ってようだけ
ど、其れは知らぬ存ぜぬだ。
因みに、エステルの夢に現れた私は、暴走状態のペイントとベルトが現れた姿だった……何でさ。
To Be Continued… 
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