Side:アインス


己の素性を隠した状態で、メイベル市長の使いと言う形でモルガン将軍と謁見し、其れなりの情報を得る事が出来たのだが、エルテルがやらかして
くれた事で、私達が遊撃士だと言う事がバレて、遊撃士嫌いのモルガン将軍に兵舎から追い出されてしまいましたとさ。
全然マッタク目出度くない事だ。



「ちょっ、ちょっと何よ!犬を追っ払うようにして!」



いやいや、犬を追っ払うのに銃を向けたりはしないだろう?犬の方がドーベルマンとかボクサーとか、暗黒の狂犬みたいなヤバめなのなら話は別だ
ろうけどな。
しかしまぁ、私達が遊撃士と知った瞬間のモルガン将軍の変わり様と言ったら凄まじかったな?何処まで遊撃士が嫌いなのかこの人は……過去に
遊撃士と一体何があったのやらだ。

《取り敢えずある程度の情報は入手出来たが、見事なまでにフラグを回収してくれたなぁエステル?
 如何してお前は考えるよりも先に手や口が出てしまうのだろうな?……アレだけ盛大にやらかしてしまっては、流石のヨシュアでもフォローするの
 は無理だろうに。》

《うぅ~~、ゴメン。でも、あの青髪僕ッ娘の一味が此処まで大きな事件を起こしてるとは思わなかったんだもん……どう見てもやられ専門の小悪党
 にしか見えなかったし。》

《人は見かけによらないと言う事なのだろうな……だが、何れにしても此れ以上は軍からの情報を得る事は出来ないから、後は私達が独自に調査
 するしかないだろうな。》

《そうね、頑張りましょう。》



とは言え、此のまま此処から『はい、さようなら』とは行かないだろうな……



「ふん、似たようなモノだ。
 態々身分を隠して情報を盗み出そうとするとは……そう言う姑息な真似をするから、遊撃士など信用できんのだ!」



モルガン将軍がまだ何か言って来たからな……だが、姑息な真似とは言ってくれるじゃないか……此れは流石に黙ってる事は出来んな?悪いが、
少しばかり変わって貰うぞエステル。
将軍が遊撃士の何を知ってるのか知らんが、大切な妹分と弟分が誇りに思っている遊撃士を貶されて黙ってられる程、私は人間が出来ている訳で
はないからね。

……否、そもそもにして私は人間ですらなかったなそう言えば。










夜天宿した太陽の娘 軌跡31
ハーケン門、右も左も、子安です』









――シュン!



「む?髪の色が変わっただと?」



人格交代をさせて貰っただけだよモルガン将軍。
お初にお目にかかるなモルガン将軍殿。私の名はアインス、此の娘、エステルのもう一つの人格だ――以後お見知りおき願おう。将軍殿とは、未だ
付き合う事になりそうだからね。



「もう一つの人格だと?多重人格と言うのは聞いた事があるが、よもや容姿まで変化するモノだとは思わなかったぞ。」

「あ~~……私とエステルは少々特殊な二重人格だからね。
 其れよりも将軍殿、盗むと言うのは聞き捨てならないな?身分を偽って接触したのは確かだが、其れは其方がギルドに情報を渡してくれなかった
 からであり、遊撃士として苦肉の策を取ったに過ぎん。情報と言うのは、広く共有してこそ意味があるのではないか?」

「たわけ、此れだけの事件をたかが民間団体に任せられるか!まったく……メイベル嬢にも困ったモノだ。
 このような女子供を雇って、捜索活動の邪魔をさせるとは……」

「……その辺にしておけよ、将軍殿。」



――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



「!?地面が割れただと!?」

「アーツとも違う……此れは、エステル――否、アインス自身の闘気が溢れ出してるのか!」

「其れで地面にクレーター作るってドンだけなのよアインスは……!」



ドレだけと言われたら、私の全盛期の戦闘力は超サイヤ人3のブロリーにだって負けないんじゃなかろうか?今は大分力が落ちてしまったので、超
サイヤ人2の少年孫悟飯並の戦闘力だがな。

「将軍殿、何故私達が態々ロレントからボースまでやって来たと思ってるんだ?
 ……貴様等軍人が肝心な時に役に立たないからだ!」

「な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「(あらあら……)」

「(アインス、マジ切れだね。)」

「(まぁ、アインスが切れなかったら私が切れてたわ。)」



小声で話してるが、全部聞こえてるからなヨシュア、シェラザード。
さて将軍殿、ここ数カ月、ボース地方で空賊の仕業と思しき強盗が相次いでいたのは御存知だよな?――其れを碌に捜査もしないで、ギルド任せ
にしていたのは何方だったかな?此れは、シェラザードがぼやいていたから知った事だがね。
なのに、今回みたいな事件が起こった途端に偉そうな態度で仕切ったりして……しかも、未だに人質はおろか船の行方まで掴めてないと来た。
何が王国軍だ、恥を知れ。



「黙るが良い小娘!組織の規律に支えられた軍隊は、気軽に動かせる物ではないのだ!
 後先考えず動いた挙げ句、連中の一味を取り逃がしたくせに偉そうな口を叩くでない!」

「貴様の方こそ黙れ小童が。
 エステルは確かに未だ16歳だが、エステルに宿った私は既に1000年は生きている……年上は敬えって、親から教わらなかったか?あぁ、其れ
 とも、軍で可成り高い地位に就いた事でそんな事は忘れてしまったのかな?
 だとしたら失礼な事を言った、謝るよ。」

《……アインス、ちょっと言い過ぎじゃない?》

《そう言うなエステル、此れでも抑えている方なんだぞ?
 リミッターを解除したら、此の10倍の罵詈雑言が並び立てられるんじゃないかと思う……作者は毒舌表現に何かと定評があるみたいだからね。》

《作者?》

《……妄言だ、気にするな。》

とは言っても、将軍殿と言葉で分かり合う事は出来そうにない……分かり合うどころか、何処まで行っても平行線で終わりだろうさ。
しかし何だなぁ?こうして人の言葉にイラつくとか、私も大分人らしい感情が備わって来た気がする。闇の書の意思だった頃は、殆どAI状態だったか
らな……否、そうでもないか?
そんな事よりどうしたモンだ此の状況?このままだと、何方も譲らずに最後は乱闘に発展……はしないと思うけど。



――ポロロン……



「悲しい事だね。」

「「「「「「?」」」」」」


弦楽器の音?ギター……いや、リュートかな?
そしてその後に聞こえて来たのは、圧倒的な子安感の声……さっきのアイツか。



「争いは何も生み出さない……ただ、不毛な荒野を広めるだけさ。そんな君達に歌を贈ろう。
 心の荒野を潤して、美しい花を咲かせられるような、そんな優しくも切ない歌を……」



って、なんかいきなり歌い始めたぞ?しかも想像よりも上手いし。……と言うか、此の状況に乱入するだけでも凄い度胸だと思うが、更に歌い始める
とかドレだけの強心臓なんだ?
心臓に毛だけじゃなくて苔とか雑草とかキノコとか生えてるんじゃないか?分かり易く言うなら、ミズゴケ、ハエトリソウ、ベニテングダケ。



《いや、そんなん生えてたらヤバいでしょ?ミストヴァルトにだって生えてないわ。》

《あそこには赤松の木が有ったから、年によってはマツタケが生えるかもしれない。》

《あ、其れちょっと期待。――じゃなくて、如何するのよ此の状況?歌うの止めた方が良いのかなぁ?》

《いや、辞めておこう。何となくあれに突っ込んだら負けな気がしてならない。ホントなんでか分からないけど、そんな気がするから。》

《あ~~~……何となく分かるわ其れ。
 と言うか止めるんだったらシェラ姉――よりも先にモルガン将軍が止めるだろうしね。》

《そう言う事だ。》

でだ、結局一曲歌いきってしまったよコイツは。



「フ……皆判ってくれた様だね。何よりも大切なもの、それは愛と平和であると言う事を!今風に言えばラブ&ピース。」



……はい、空気が死んだ。間違いなく死んだ……すまんエステル、代わってくれ。



《この空気はキッツいわぁ……後は任せてアインス。》

《頼む。》



――シュン



「ご、ゴホン。
 そろそろ各地の捜索部隊から報告が入ってくる頃合いだな?」

「は、はい。仰る通りであります!」

「では、ワシは任務に戻る。そ奴等を二度と入れるでないぞ。
 ……其れから、アイゼンロードの検問は解除しろ。何時までもそこの連中に居着かれたら目障りで敵わん。」

「りょ、了解しました!」

「(あ、逃げた。)」

「(気持ちは分かるけどね……)」



うん、とっても良く分かる。
私もエステルと人格交代して敵前逃亡したからな……あのモルガン将軍を撤退させるとは、恐るべしだ。



「フッ、何処の国でも軍人が無粋なのは同じだな。
 矢張り君達の方が、僕の審美眼に叶っているよ。」

「……さ、さ~てと、アタシ達も帰ろうか。」



よし、見事なスルースキルだエステル。



「そ、そうだね。トラブルはあったけど一応情報は入手できたし……」



そして、其れに自然に乗っかるヨシュア。実に見事だ。そしてクールだ。アイツの事を視界に入れないようにしているのもポイントが高いぞ?あの手
の輩は、目が合うと面倒だからな。



「一旦、ボースに戻ってから今後の対策を立てるとしますか。」



最後のシェラザードが年長者らしく絞めてターンエンド。いや、実に見事な三連コンボだった。
混沌帝龍(旧テキスト)発動→クリッターで八咫烏サーチ→八咫烏通常召喚からのダイレクトでロック完成位に見事だった……八咫烏、何であんな
カード作ったし。
取り敢えずこの場からは撤収だな。



「おやおや?ちょっと君達、何処に行こうと言うのかね?
 ま、待ちたまえ!いや、如何か待って下さい!」



追って来たよ……此れは面倒なタイプだな絶対に。
はぁ……如何やら無視を決め込んだら決め込んだで面倒な事になりそうだ――宿舎の酒場で話だけでも聞いてやるとするか。



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・・・



で、宿舎の酒場だ



「――改めて自己紹介をしよう。オリビエ・レンハイム。
 漂泊の詩人にして演奏家でね。知っての通りエレボニア人で、リベールには巡業旅行に来たのさ。」



オリビエか。
ロレントの市長がクラウス、そしてこの青年がオリビエ……戦乱期のベルカの覇王と聖王女と同じ名前なのは偶然なのだろうか?尤も彼女はオリビ
エではなくオリヴィエだがな。



「アタシはエステル……って、なんで自己紹介なんてしなくちゃいけないのよ!」



う~ん、実に見事なノリ突っ込みだなエステル。



「まぁ、やり方は兎も角、あの場を仲裁してくれた訳だし。あ、僕はヨシュアと言います。」

「アタシはシェラザードよ。」



ヨシュアもシェラザードも其処で乗る?乗っちゃうのか……頼れるストッパーも乗っちゃったら此れはもう誰も止める事は出来ないだろうな。邪悪なる
バリアでは攻撃を止める事が出来ないみたいに。
其れは兎も角、方法はアレだったがさっきは助かったよオリビエ……私も頭に来ていて少し熱くなっていたからね。一応礼を言っておく。



「……アインスが、さっきは助かっただって。一応、礼を言っておくってさ。」

「アインスとは、君が銀髪の時の子かな?
 ふ、礼には及ばないよ……美と平和を愛する者として当然のことをしただけさ……しかし、是非にと言うのであれば僕と一日デートに付き合って、」



……コイツは一体何を言ってるんだ?デートに付き合う訳ないだろう。と言うかお断りだ。暇じゃないしな。



「暇じゃないしお断りだってさ。」

「其れは残念だ。では代わりに、ヨシュア君に付き合ってもらうとしようか?」



如何してそうなる!?



「何でそうなるんですか……性質の悪い冗談はやめて下さい。」

「心外だな。冗談の心算じゃないんだが。」

「余計に性質が悪いですね。」



マッタクだな。
で、如何したエステル?



「ちょっと待ちなさいよ。何でアタシは誘わない訳?」



え、其処?其処に突っ込むのかお前は?



「え、君?
 うーん、素材は申し分ないが、色気に欠けているのが問題だな。少しは、君のもう一つの人格や、シェラザード君、ヨシュア君を見習うと良い。」

「むっかー!色気が無くて悪かったわね!しかも男の子のヨシュアを見習えとかどういう事よ!」

「お、落ち着いて!エステルは充分可愛いと思うよ。……まぁ、確かに色気は少ないと思うけど。」



そしてヨシュア、お前はナチュラルに可愛いとか言っちゃうんだな?其れ普通に殺し文句なんだが……後半が要らない。充分可愛いだけで終わらせ
ておけ。



「あ、あんですってーー!?」



こうなるからな。



「ヤレヤレ……
 で、さっきエステルがアインスの代弁をした通り、アタシ達は忙しい身なのよ。碌にお礼も出来なくて悪いけど、そろそろ失礼させて貰うわ。」

「ふむ、だったら……僕もボースと言う街まで同行させて貰えないだろうか?
 何しろリベールは初めてでね。道案内を頼みたいのだよ。」

「まぁ、その位だったら別に構わないけど……」



《嘘、マジで!?》

《まぁ、其れ位は良いんじゃないかエステル?どうせ目的地は同じだしな。
 もっと言うのであれば、ボースまで辿り着けばオリビエとはバイバイだ……あとはオリビエが好きな様に行動すれば良いから、私達の仕事に支障
 はないさ……シェラザードも、そう判断したんじゃないかな?其れに、道案内も遊撃士の仕事だ。そうだろう?》

《なら、しょうがないか。》

「でも、コイツの毒牙にヨシュアが狙われたりしたら……!」

「あの、エステル?」

「ヨシュア、心配しないで!間違いが起こらないよう、アタシが守ってあげるからね!」



はい、此処で殺し文句来た。
だけど其れは、普通男性が女性に言う物であって、女性が男性に言う事ではないよね?此れはアレか、ヒロインはヨシュアですか?……若干否定
出来ない此れ。



「何の心配をしてるのさ。」

「人をケダモノみたいに言わないでくれたまえ。何方かと言うと愛の狩人と呼んで欲しいね。恋泥棒も悪くないが、フフ……」



だ・れ・が呼ぶか。
王がこの場に居たら『この戯けが!』と一喝し、シュテルが冷静に毒を吐き、レヴィは……あの子だけは、オリビエのキャラに付いて行ける気がして
ならないな。



「さてと、其れでは早速ボースへ出発するとしようか。君達、よろしく案内を頼むよ。」

「さり気なく仕切ってるし。って言うかアンタ、少しは人の話を聞きなさいよ!!!」



其れは言うだけ無駄だと思うぞエステル?この手の輩は自己完結暴走型だからな……自分が言いたい事を言ったら後は知らぬ存ぜぬのターンエ
ンドだからね。
まぁ、ボースへ戻るか。此れからの対策を立てねばならないしな。


其れでボースへの道中の魔獣との戦闘で、オリビエは導力銃を使う事が分かったんだが……子安ボイスで銃か。『お前に相応しい、ソイルは決まっ
たぁ!』とか『完全勝利の誓い、ウルトラショッキングピンク!』とか言わないよな?言わないで欲しい、って言うか言うな。言ったらもう突っ込みが間
に合わないからね。











 To Be Continued… 





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