Side:アインス


市長の紹介状のおかげでマルガ鉱山の中に入る事が出来て、鉱山長に会う為にトロッコを使って地下に降りる為のエレベーターがある場所まで
来たのだが……エレベーターが全く反応しないとは一体如何言う事だ?
壊れているのだろうか?叩いたら直るかな?



《逆に壊れる可能性ってないの?》

《いや、我が主が『調子の悪いモノは大抵叩けば直るんやで?斜め四十五度の角度でチョップするのが効果あるんや』と言ってた事があって。》

《なんかそれ色々間違ってる気がするんだけど?》

《あぁ、私もそう思う。特に私が叩いたら、直すどころか確実にトドメを刺すだろうな。》

《絶対やらないでよアインス!》

《うん、其れに関しては約束する。》

直す筈がトドメを刺してしまったとか、笑えないからね。
でだ、ヨシュアがエレベーターを調べてるんだが何か分かったかな?



「ヨシュア、如何だった?」

「此れ、如何やら動かす為には専用の鍵が必要みたいだ。一度戻って、入り口に居た人にエレベーターの鍵の事を聞いた方が良いと思う。」

「鍵か……面倒な作りになってるのね。」



マッタクだが、セプチウムの採掘現場であると言う事を考えれば、防犯上必要な事なのかもしれないな――誰でも勝手にエレベーターを動かす事
が出来たら、盗掘者に採掘現場を荒らされてしまう可能性があるからね。
まぁ、そんな盗掘者は、何れ落盤事故に遭うと相場が決まってはいるけどな……悪い事は絶対にダメだな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡20
『更に頑張る新米遊撃士









取り敢えず入り口に居た鉱員から、マイルドと言う名の鉱員が鍵を持ってると聞き、更にマイルドの場所も教えて貰ったので、トロッコのレールの
ポイントを切り替えてマイルドの所まで行き、事情を話して鍵を貸して貰って無事に地下に降りる事が出来た。
洞窟の中は外よりも気温が低いが、地下に降りると更に気温は下がるんだな。
で、洞窟内を探す事数分、作業中の鉱員から鉱山長の居場所を聞く事が出来て、やっとこ辿り着く事が出来たね。



「おや、嬢ちゃん達は……」

「貴方が鉱山長さん?良かった、やっと見つけたわ。」

「遊撃士協会の者です。クラウス市長の代理として来ました。」

「ほう、成程ねぇ……お前さん達が遊撃士か。若いのに大したモンじゃないか。」

「えへへ、其れ程でも。――其れで、結晶は何処にあるの?」

「あぁ、ちょいと待ってくれ……何分、滅多にお目に掛かれない貴重な代物だからな。肌身離さず保管している訳さ。」



そう言って鉱山長は懐から大粒のセプチウムの結晶を取り出したんだが、此れは凄いな?大きさが人の拳――否、格闘家の拳位はありそうだ。
この世界に来てからセプチウムの結晶を見た事が無かった訳じゃないが、此処まで大きいのは初めて見るぞ?



「うわ~~……こんな大きな結晶見た事ないわ!アインスも驚いてるわよ!」

「凄い……内部から光が弾けているみたいだ。」



ヨシュア、その表現はとても合っていると思う……光源の少ない地下にあって尚、此れだけの輝きを放つとはな――本当に、結晶その物が光を発
しているとしか思えん。
風の力を秘めていると言うエスメラスの結晶……私が元居た世界のエメラルドに近い鉱石みたいだな。此れだけ大きいと宝石としてドレだけの価
値があるのか……ドレだけ低く見積もっても、百万ミラは下らないだろうね。



「えぇ!?」

「ちょ、如何したのエステル?」

「ご、ゴメン!アインスがこの大きさなら百万ミラは下らないだろうって言うから驚いちゃって……」

「ハッハッハ、まぁ確かにその位はするだろう……ってかアインスってのは誰だ?」

「あ~~……アタシってば二重人格で、もう一人のアタシの名前がアインスなの。」

「二重人格とは、また珍しいもんだな?……まぁ、嬢ちゃんが二重人格だろうとなんだろうとちゃんと仕事をして貰えば問題はない。
 コイツはかなり高価なモンだから、間違いなく市長さんに届けてくれよ?」

「うん。
 ……はぁ、綺麗……妖精を持ってるみたい。ほらほら見てヨシュア!」

「はいはい、確かに綺麗だけど落としたりしたら大変だから、ちゃんとしまっておこうか?」

「ちぇ、張り合いがないんだから。」



いや、今のは全面的にヨシュアが正しいと思うぞエステル?もしもその結晶を落として砕けてしまいましたなんて事になったら取り返しが付かない。
此れだけのものを弁済するだけの財力は無いわけだし、遊撃士協会にだって迷惑が掛かってしまうからね。



「分かったわよ……此れで良しと。
 其れじゃあ親方さん、間違い無く市長さんに届けるわね。」

「オウ、宜しく頼んだぜ。」



此れをクラウス市長に届ければ依頼達成か……簡単な仕事だったな――って、ん?



《アインス、如何かした?》

《空気の流れが変わった……なんだ、此れは?》

《空気の流れ――》



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!



んな、何だ此の揺れは!?……此れは、地震とは違うな?



「きゃあ!?な、なに今の?地震?」

「いや……坑道の何処かで崩落が起きたらしい……地盤の緩い場所にぶち当たったか?……こりゃあ被害状況を確認しないと……」



ん?何だ此の妙な感覚は……気を付けろエステル、何か居るぞ。



「気を付けてエステル!」

「アインス?其れにヨシュアまで……って、なんか来た!?」



魔獣……!
アーツ起動、アナライズ!……キラーキャンサー、硬い甲羅に覆われた魔獣か――だが、身体が硬いと言うのならば……エステル、金剛撃だ!



「分かったわ!とぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」



――バガァァァァァン!!



「へ?爆発した!?」

「まさか、またアインスが何かしたのか?」



ヨシュア、大正解だ。
金剛撃が直撃するインパクトの瞬間に、火属性のアーツと水属性のアーツを使って水蒸気爆発を発生させたんだ――渾身の力が籠った棍での一
撃に水蒸気爆発の破壊力が加われば、硬い甲羅で覆われていたとしても其れすら貫通してダメージを与える事が出来る。
名付けて『爆砕金剛撃』だ。



「水蒸気爆発を発生させたって……爆砕金剛撃だってさ。」

「相変わらずやる事が無茶苦茶だなぁ……」

「ホントよね……でも其れは其れとして、なんで魔獣が?――親方さん、此処って魔獣とか出るの?」

「こんな奥に出たのは初めてだ。
 魔獣はセプチウムの輝きに惹き付けられる性質がある……だから、今までも入り口近くに迷い込んで来る事はあったが……」

「ひょっとしたら、さっきの崩落で坑道の一部が魔獣の巣に繋がったのかもしれません。」

「ま、魔獣の巣ですって~~~!?」



確かに驚くべき事だが、ヨシュアの言った事は考えられない事じゃない。……此れは、作業している鉱員達を避難させないと危険じゃないか?



「アインス……そうね。
 親方さん、作業してる人達を避難させないと……私達も手伝うわ!」

「なんだと?」

「魔獣退治ならお手の物よ。一刻を争う事態だから遠慮しないで。」



よくぞ言ったエステル!それでこそ遊撃士だ。
其処からは、鉱山長から働いている鉱員の数を聞き、坑道を隅々まで見て、鉱員を発見&襲って来たキラーキャンサーを滅殺と言う事を繰り返す
事四回だ。
硬い身体がキラーキャンサーの持ち味らしいが、私が存在している時点で大した敵ではないし、私が何をしなくともエステルとヨシュアの息の合った
コンビネーションの前では塵芥に等しかったね。
エステルの棒術も素晴らしいが、ヨシュアの双剣術もまた見事だ……ヨシュアだったら使える気がするから、機会が有ったら『小太刀二刀流』でも
教えてみるか。
ヨシュアなら、『回転剣舞六連』も習得出来るだろうからね。

そんなこんなで地上に戻って来たのだが、鉱員の一人が言っていた『見習いの奴が慌てて走り去っていった』と言うのが気になるが、なんにせよ
誰も怪我がなくて良かったよ。



《マッタクだわ……ところでアインス、なんか火属性のアーツをメインに使ってたみたいだけど何で?》

《アイツ等を見てたら無性に焼きガニを食べたくなってしまってね。》

《……あれって、カニなの?》

《キラーキャンサー……我が主の国の言葉に直すと『殺人ガニ』になるんだが……》

《って事はやっぱりカニなんだ。》

《あの大きさだと、可成りの量のカニミソが期待できそうだな。》



取り敢えず、鉱員は全員無事、目的のセプチウムの結晶も手に入れたから市長邸に戻るとしよう――市長邸に戻る前に、オーヴィットにホタル茸
を渡しておくか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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マルガ鉱山からロレントに戻って来て、市長邸に行く前にオーヴィットにホタル茸を渡したの――魔獣を引き寄せる特性が有ったので、何かよから
ん事を考えてるのかと危惧したが、まさかあれで新たな料理を考えているとは驚きだ。
光るキノコなんて、如何考えても食用ではないのだけど、其れはまぁ言うだけ無駄だろうな……オーヴィットがアレを如何使おうと知らん。後は野と
なれ大和撫子だ。

さてと、市長邸にやって来たのだが……



「成程、あの時計台にはそんな逸話が……私、とても感動しましたわ。」

「戦争の悲惨さを語るのは容易い……大切なのは、悲しみを乗り越えて平和を築こうとする強さだと思うのじゃ。」



来客中だったみたいだな?
青髪の少女……あの服は、ジェニス王立学園の制服だったかな?



「うん、其れで間違いないわアインス。――ヤッホー、戻ったわよ市長さん!礼の品を届けに来たんだけど、えっとお邪魔だったかな?」

「おぉ、エステル君達か!邪魔なんて事があるもんかね!
 丁度いい、紹介しよう。此方はジョゼット君。ジェニス王立学園の学生さんじゃ。」

「ジェニス王立学園……」

「聞いた事があります。ルーアン地方にある全寮制の高等教育学校ですね。」



そう、其れだ。

《そう言えばエステル、前にクローゼからの手紙で、クローゼが勉強の一環としてジェニス王立学園に編入するとか書いてなかったっけか?》

《言われてみればそんな事が書いてあった様な気が……って事は、今頃はクローゼもあの制服を着てるのよね?》

《だな、是非ともその姿を拝んでみたい!!いや、このアインス・ブライト、命を掛けてもクローゼの制服姿を拝ねばならぬ!クローゼのハートを射
 止めてしまった者の使命として!!》

《えぇい、しょうも無い事に命を懸けない!って言うか、其れってアタシの命でもあるから勝手に懸けるんじゃないわよ!!》

《私とお前は一蓮托生だろう?》

《意味が分からないわ!》



うん、物凄くあほらしいやり取りだが、身体は一つでこんなことが出来るのもまた二重人格の特権だろうな。



「お初にお目にかかります。ジョゼット・ハールと申します。」

「アタシはエステル。宜しくねジョゼットさん。」

「ヨシュアです。宜しく。」

「そして――」



――シュン……



「エステルさん、髪の色が変わった?」

「私はアインス……エステルの第二人格だ。私とエステルは所謂二重人格でね……エステルが主人格で、私がサブ人格と言った所だ。」

「そうなのですか……二重人格とは話には聞いていましたが実際に見るのは初めてでして――まさか、髪の色まで変わるとは予想外でしたわ。」



まぁ、人格交代で肉体が変化すると言うのは相当なレアケースだからね。


で、市長さんから私達が遊撃士だと言う事が明かされ、ジョゼットは生の遊撃士に会えたと言う事に感激していた――エステルがクラウス市長と知
り合いなのかと言っていたが、そうではなく初対面で、ジョゼットは自主研究の一環で各地の重要文化財を調べていて、其れでクラウス市長に話を
聞きに来たと言う事らしいね。……交代するぞエステル。



――シュン



「はい、再びアタシです!――じゃなくて、勉強熱心なのねジョゼットって。それじゃあ、邪魔しちゃ悪いかな?」

「いえいえ、もうお話は充分に伺いましたから――其れより、私の方がお邪魔でしょうか?」

「いやいや、そんな事はないよ。
 エステル君、折角の機会だから例の品を彼女にも見せてやってくれないかね?」



例の品と言うとセプチウムの結晶だな。まぁ、見るだけならばタダだからね。見せてやれエステル。



「あ、うん……ちょっと待って。はい、此れよ。」

「まぁ……此れはセプチウムですわね?なんて素晴らしい輝きかしら……」

「うむ、見事な大きさじゃ。正にロレント市民全員の感謝を表すに相応しい贈り物じゃ。」



感謝を表すに相応しい贈り物とはどういう事かと思ったが、如何やらこれは生誕祭でアリシア女王に献上するモノみたいだな……気付いたヨシュア
は流石だね。
だが、確かにこの国の平和を守り続けて来たアリシア女王には此れ位の贈り物でなければ釣り合わないだろうな……寧ろ、此れでも足りない位だ
と思うからね。
しかも結晶をそのまま献上するのではなく、オーブメントの彫刻にすると来た……結晶の状態で百万は下らないとすると、其れから作られた彫刻の
価値は五百万は下らないだろうね。

其れだけの価値のあるモノだから、クラウス市長は結晶を厳重そうな金庫にロックインだ……あれだけ厳重そうな金庫に入れておけば盗まれる事
も無いだろう――金庫ごと盗むにしても、アレは相当に重たいだろうからね。

その後はジョゼット共に市長邸を後に――如何やらジョゼットは明日には定期船でルーアンに戻るらしいな……学校の休みを利用して調べに来て
たと言う事か。
だが、なんだろうか……ジョゼットからは何とも言えない違和感を感じたな?……彼女は本当にジェニス王立学園の生徒なのか?――彼女は、少
し警戒しておいた方が良いかも知れないな。

ともあれ、カシウスが残して行った依頼は次で最後だから気合を入れて行こうかエステル?



「そうね!最後もバッチリ行きまっしょい!!」

「最後だからこそ、気を引き締めてだね。」



その通りだな。
取り敢えず、最後の仕事を終える前に、掲示板の依頼を消化したのだが、猫探しが微妙にめんどくさかった……シュテルが居たら速攻で終わった
と思った私は、悪くないよね絶対に。











 To Be Continued… 





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