燃え盛る炎…転がる亡骸……あぁ、そうか――此れは私がやったのか。
 怒りと絶望と憎しみに身を任せた結果が此れ……馬鹿と愚かも此処まで来ると笑えるわね…

 「ふぅ……」

 さて、如何しようかしら?
 このまま炎に焼かれて死ぬ――何て言うのは御免被るわね。

 何も知らないまま連れ去られて、何も分らないまま望まない力を得て…
 自分の暴走で数多の命を奪ったとは言え、こんな所で果ててなるものですか。

 「人殺しの罪は罪として背負う――でも、私は生きる…何があっても…!」


 ――ザワ…


 !!
 な、何今のは!?……気のせい?誰も居ないわね……気のせい、よね?
 …取り合えず脱出ね。植え付けられたサイコパワーを使えば脱出できる筈。

 脱出した後の事は…その時考えればいいわね。





 そしてこの日、『人ではなくなった私』は世界に飛び出した。
 でも、この時気付くべきだったのかもしれない……あの時の悪寒は、私に闇が巣食った瞬間だったのだと言う事を…










 『暗躍する影〜蠢く幻影〜










 『超能力開発機構』を暴走の末に破壊して脱出して早1ヶ月。
 私はカナダに流れ着いていた。

 どうやって此処まで来たのかは正直覚えていない。
 正確に言うと覚えている余裕が無かった。


 『くくく…心の闇が増加しているな簪よ…』

 「黙れ…!」

 私の心に巣食ったコイツのせいで。
 何時の間にか私の中に現れた謎の人格。
 自らを『ダークネス』と名乗る謎の存在――少なくとも人間じゃないわね…人の心に入り込むなんて。


 『ふむ…少しばかり闇を増大させるか…』


 !!待て、何をするつもり!?
 ……く、サイコパワーが勝手に!!コイツ…この力にまで干渉出来るの……だめ、止まらない!!

 「逃げてぇぇぇぇぇ!!」

 せめて逃げて、何の罪も無い人達!
 コイツが操ったサイコパワーの影響で…旅客機が落ちてくるから!!


 「お、オイ…なんだあれ!!」
 「旅客機が落ちてくる!?じ、冗談だろ!!にに、にげろぉぉぉ!!」



 ――ドガシャァァァァン!!



 「あ、あぁ……そんな…」

 墜落…爆破炎上…如何考えたって旅客機の生存者は0……こんな事って…


 『ふふふふ…素晴らしいな簪、この力は。少し行使するだけで人がまるでゴミクズだ。』

 「この…お前、人の命を何だと思ってるの!?」

 『お前が其れを言うか?怒りと憎しみに身を任せて数多の命を奪ったお前が。』


 !!
 其れはそうだけど…でも!


 『それにこの力はお前のものだろう?もしもお前の心が強ければ私はこんな事は出来なかった。
  この惨状はお前の弱く脆弱な心が起こしたものだ、闇に飲まれた負け犬の心がな…』


 「そんな…!」

 でも、言い返せない……
 もしも私の心が強かったら、超能力開発機構は壊れなかった。
 私の心にコイツが住み着くこともなかった……でも、だからってこれを起こしたのは…!


 『私か?違うな、此れはお前が心の奥底で望んでいた事だ。
  お前は罪を背負うなどとは言っても、心の奥底では殺戮と破壊を望んでいるのだ…トンでもない偽善者だな。』



 あ、あぁ…あぁぁあぁぁ…!!


 「うおぉい、どぅおぉぉしたぁあ!くおぉんな所に居たら、焼け死んでしまうずうぉ!」

 「!!」

 はぁ、はぁ……あ、危なかった…自分を見失う所だったわ…


 「とぅうぉりあえず、此処からはぁなれるとしよう。詳しい事はそれからどぅあぁ。」

 「…あ、うん…」

 なんだろうこの人…



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 「俺の名はぁ、フレディ・ゴーン。むわぁ、どぅおこにでも居るデュエリストどぅあ。
  お前は誰だ?ストリートチルドレンにしても、靴も履かずにそんなボロを纏っとぅえ、捨て置けぬくぁら連れて来たぐぁ…
  街のスゥラムドゥエはみない顔どぅあな……日本人か?」

 「…簪・ジェニー・雪花――お祖母ちゃんがイギリス人だったって聞いてる。」

 「クォーターくぁ……ぬぁぜあんな場所に居たぬぉだ、身寄りは無いのどぅあろう?」


 無い…でしょうね。
 恐らく『超能力開発機構』に拉致された時点で、お父さんとお母さんは、多分殺されていたと思うから。

 「うん…私が小さい頃に事故で…」

 「やぁはりすぉだったかぁ……。」


 別に良いんだけどね…私も嘘ついたわけだし。
 口には出さないけれどね。


 「ぬぁらぶぁ、此処で暮らしてみないくぁ?お前1人くらい養えるだけの稼ぎはあぁる。
  大体食材も買いすぎて余っている状態どぅぁ…1人増えたとていぃたでにはぬぁらぬ!」


 衣食住が保障された生活…魅了的だわ。
 少なくともフレディって人が何かするとは思えないし…受けたほうが得だわ。

 「こんな小娘で宜しければ…お願いします。」

 「むあっはっはぁ!どぅあい歓迎だ簪!」



 ふふ、特徴的な喋り方だけど面白い人ね。
 厄介になるんだから、せめて何か……家事くらいはしないとね。
 此処でデュエルをしながら普通に生活をすれば、或いは、私の心も強くなれるかもしれない…







 けど其れは甘い考えだった。
 私はフレディの申し出を断るべきだった。
 もしも断っていたら、こんな事にはならなかったのだから…








 ――――――








 アレから2年。
 私はもう私の意志で動くことが出来ない。

 ダークネスは、度々私の力を無理やり発動して人々に危害を加えた…
 交通事故、建物火災上げればキリが無い位に……死者が出ることもあった。

 其れは一見すればただの事故――けど、本当は私の力が引き起こした『人災』。
 私の意志に関係なく、私の力で人が傷つく……そんな事を繰り返し見せられて…ある日突然完全に乗っ取られてしまった…

 しかもご丁寧に対外会話用の『疑似人格』まで作って…私の意識は残したままで。

 おまけにフレディまでが、闇の波動の影響を受けて、すっかり人が変わってしまった。
 少し喋り方が特徴的な面白いデュエリストはもう居ない…


 「ムァッハッハッハ!やるえぃ、ずぃんらいの魔王スカルドェームォン!」

 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 LP:2000→0


 「ふん…所詮ゴミどぅあなぁ…消えろぉ、敗北者に死をぉ!」


 ――バキィィィ!!


 「がふっ…!!」

 「でぇきそこないのゴミクズむぇ…デッキは貰っていくぞぉ…」


 居るのは闇に落ちた邪悪なデュエリストキラーだけ。
 ダークネスが作った疑似人格の『邪悪な雪花』も同じ存在ね…


 「うふふ…見事よフレディ、流石ね?」

 「とぅおぉぜんだぁ。この程度のゴミにぬぃ、負ける私ではぬぁい。」

 「でしょうね。」

 「むははっはぁ。とぅおきに簪ぃ、この間、わぁたしの所ぬぃ『ディック』とか言うやつが自分の組織に入れとか言ってきたが…おぉ前のところには来なかったくぁ?」


 !!ディック……裏世界のデュエル犯罪組織『ファントム』の創始者!!
 確かにこの前、勧誘に来てたけど…フレディのところにも…ダメだ、入っちゃいけないそんな所には!!


 『無駄だぞ簪よ……お前の身体の所有権は私にある…幾らお前が叫ぼうと、其れは声には出ない。』


 く…ダークネス!!


 『受け入れろ……お前の本質はこれまで私が見せてやったように破壊の使途なのだ。
  大人しく破壊と殺戮の衝動に身を任せろ、そして其の心を完全に闇に堕とせ……さすれば楽になるぞ?』



 断る…例え身体は奪われても私の意志は奪わせない。
 私は私のままで居る!


 『…そうか…ならば仕方ない、ファントムと手を組み、更なる絶望をお前に与えるとしよう…』


 !!待て、止めろダークネス!!


 「確かに来たわ……ねぇフレディ、アイツに協力するふりをしてファントムを乗っ取ったら面白そうじゃない?」

 「むぅ?……むははははは、たぁしかに面白そうだぬぁ?…やるか?」

 「聞くまでも無いでしょう?…精々利用してあげるわ、私達の目的『闇による世界の支配』を遂げる為にね。」


 ダメだ…止めろ……もう止めて…
 全ての罪は私が背負う…だからもう、関係の無い人を傷つけるのは止めてよ…
 これ以上世界に闇を増やさないで……お願いだから……


 『無理だな…人の本質は闇、其れは変えられない……お前の心から絶望と憎しみが消えないようにな。』


 いやだ…もう…いやだよぉ…
 助けて…誰か……








 ――――――








 …聞きしに勝る悪党ねファントムも。
 他者を操って手駒にして、悪事を働かせる……ダークネスと良い勝負だわ…


 けどお笑いね…アギトは失敗して、WRG1でも完敗。
 神殿を呼び出しはしたけれど…何をするつもりなのかしらね……

 ふぅ…其れも如何でもいいわ。
 何時まで私の意識を生かしておく心算?
 もう抵抗する気力も無いわ…好きにしなさい…


 『そうは行かん…マダマダお前からは絶望の闇が吸い取れる。
  久しぶりに意識を表に出してやる……精々絶望しろ。』



 意識を表に?
 そう言えばアギトが負けてクリスタルに……

 「!!!」

 フレディ!!……そんな、お前まで…!!


 『くくく…此れがお前の望んだ事だ。お前の本質――絶望の果ての憎悪が生み出したものだ。』


 違う!私はこんな事を望んだわけじゃない!私は…


 『何が違う?自分に力を植えつけた者達を憎み、世界の不条理さに絶望した結果が此れだ。
  認めろ、この憎悪と絶望と狂気こそがお前の変わらぬ本質であり、引いては人間の本質だろう。
  もう暫く精神は入れ替わっていてやる…身体のコントロールは渡さないがな。
  まぁ、精々絶望を高めておけ、其れが私が再びこの世界に示現する為のエネルギーとなるのだからな。』


 「違う…私は望んでない!私が望んだことはこんなものじゃない!此れが本当に私の望みだって言うなら私は…」

 トンでもない人でなしだ…
 恩人のフレディをこんな目にあわせることを望んでたのだとしたら……!



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



 !!新たなクリスタルとカード!…ディック…!お前まで…もう止まらないの?私は……もう…

 「こんな…こんな事を……どうして…!遊哉、遊星…お願いだ、私を…止めて…」

 もう私ではどうしようもない…けどお前達なら…機皇帝を打ち破ったお前達ならきっと…


 『ふふ…こんなところか…良い感じで力が漲ったな…』

 「!!止めろ…私は…もう…やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 『貴様の役目は終わりだ…精々我が糧となるが良い。』


 あ…あぁぁぁぁぁ!!!
 頼んだわ…お願い……








 ――――――








 「んな腐れ外道は言われなくても完膚なきまでにブチのめす!
  だから教えろ!テメェを乗っ取ってやりたい放題やったクソッタレのタコは何処のドイツだ!」


 緋渡遊哉……ふふ、実際に見ると凄い迫力…
 これならきっと……倒せるわ…私に巣食っていたダークネスを…


 …タイムリミットね…でも負けないで…彼方なら勝てるはず。
 凶悪な私の疑似人格を破った彼方ならきっと……









 『くはははは、喜べ簪、我が復活は今なる!お前は其のための糧となるのだ!』


 それは目出度いわね…お前の頭が。
 私は一時消えるわ……けど、最終的に消えるのはお前よダークネス!


 『なんだと?』


 お前では緋渡遊哉には勝てない……彼は本気の怒りに火が点いたからね。
 精々無様に負けて消えなさいダークネス、お前には其れが一番のお似合いよ。


 『吠えるか……操り人形の分際で……ならば闇の狭間から見ていろ、世界が闇に染まる瞬間をな。』


 えぇ、見ていてあげるわ…お前が敗北する様をね。



 頑張れ緋渡遊哉…もう、ダークネスを止められるのは龍皇を従えたお前だけよ。
 必ずダークネスを倒して……お願いね…




 ――シュゥゥゥゥ…









 Fin(To be continued Yu-Gi-Oh Duel Monsters New Generation Duel89)






 後書き座談会


 吉良「マジスンませんでしたぁぁ!!」

 雪花「行き成り何故土下座なの?」

 吉良「だって此れ全編鬱展開過ぎるでしょ!?良いの此れ!?公開して良いの?苦情来ないよねぇ!?」

 雪花「…知らないわよ…大体此れリク作品でしょう?」

 吉良「まぁね。……まさか来るとは思わなかったよファントム過去バナ。
     まぁ、どっちかってーとお前がメインの展開だけどね。」

 雪花「まぁ、邪悪な私の裏はこうなっていたという事ね。フレディが至極普通だわ…」

 吉良「正義の若本降臨!(笑)相変わらず作者泣かせだけどね!
     結局は普通の良い人だったんだけどダークネスの波動を受けておかしくなっちゃった設定やな。」

 雪花「成程…それにしてもダークネスって………」

 吉良「遊戯王史上『最も印象の薄かったボスキャラ』だからね。
     大体こいつラスボスのクセに、使うデッキはバーンだし実はデュエルタクティクスヘッポコだし!
     だが、其れだからこそ色々できる!本編デュエルではやらかす心算!!」

 雪花「やらかす?」

 吉良「端的に言うと某ホウキ頭のBF使いがブチキレルくらいの事を!!」

 雪花「反則カードのオンパレードね……」

 吉良「わっはっは!!まぁ、今回は鬱展開だけど書いてては楽しかった。
     ファントムの過去その他は謎な部分が多いからね〜…まぁぶっちゃけ解明されてない事ばかりだけど!
     こんなのでも楽しんでもらえたら幸いだよNagiさん!」

 雪花「本当に、リクエストありがとうね。
     ………ところで私やフレディは本編で復活するの?」

 吉良「まぁ其の予定やな……先ずは遊哉が勝たないとだがな!」

 雪花「其れは心配してないけど…」

 吉良「なら…!」

 雪花「でも其れは…」

 吉良「しかしなぁ…」

 雪花「でも…」

 吉良「…――!」

 雪花「!!!…!!!」



 きりがないので座談会終了〜〜