場所は『時の箱庭』。
 遊星はこの日、プレシアからの家電品修理依頼でこの場所に。(どうやら沙羅の手に負える故障ではなかったらしい)

 で、修理も無事終わり只今午後のティータイムに御呼ばれしている真っ最中。
 当然ながら沙羅も一緒にだ。

 「そう言えば、母さんとプレシアはどんな風に出会ったんだ?仲よさそうに見えるんだが…」

 「どしたの遊ちゃん突然?」

 「いや、俺は母さんの事を余り知らないからな。少し気になったんだ。」

 その最中での行き成りの遊星の御質問。
 この世界で再会した母親だが、全くと言っていいほど何も知らない。

 母親である沙羅と、その友人であるプレシアの出会いと言うのは息子として中々気になる部分が有るらしい。

 「どんな風にと言うのは難しいかな?私はゼロリバースに巻き込まれた形で飛ばされて気がついたらこの箱庭の前身の『時の庭園』に居たのよ。」

 「酷い有様だったわ…ホント死んでいるのかと思ったわ。
  当時はそのまま捨て置いても良いと思ったのだけれど…『有能』と瞬間的に思ったのよね。
  あの当時の私が『そう』判断したなんて、今思えば本当に貴女は只者じゃなかったのよね…」

 出会った当時を思い出し、思わず笑いが漏れる。

 「プレシア、アンタが母さんを助けてくれてたのか…其れは感謝だな。」

 「結果論よ。当時の私は彼女を利用する心算だったんだですもの…アリシア蘇生の為にね。」

 「けど、目が覚めたときは驚いたわよ?部屋の中に御伽噺に出てくるような魔女が居たんだから。」

 だが、その出会いは結構衝撃的なものだったらしい。
 不動沙羅とプレシア・テスタロッサ。

 共に優秀な科学者である2人の出会いとは如何なる物だったのか?
 そして何を持って絆を紡いだのか…時を、沙羅がこの世界に飛ばされた当時まで遡って見る事にしよう。










 『異世界からの奇跡』










 約半年前――時の庭園の一室。


 「ん……ん、うぅ…此処は…?」

 其処で目を覚ましたのは白衣の女性――不動沙羅だ。
 モーメントの逆転現象『ゼロリバース』に巻き込まれた彼女だが、爆発に飲み込まれる寸前に此処に飛ばされてきたらしい。

 「モーメント開発研究機構…じゃないわね。全然違う場所みたいだけど…」

 「…目が覚めたのね。」

 「!!」

 部屋の中に聞こえた自分以外の声。
 その声の方を見ると、黒いローブを纏った女性――プレシア・テスタロッサが居た。

 「…はい?」

 「…何か?」

 「色々聞きたいことはあるし、私が此処に居るのは貴女のおかげだろうと思うからお礼も言わなきゃなんだけど…
  それらは取り合えず置いといてね?……その格好は無いわ普通に。」

 初対面、出会い頭にも拘らず沙羅はプレシアの服装に思い切り引いていた。
 まぁ、その気持ちは分からなくも無い。
 何処から見ても『露出過多になった、絵本に出てくる魔法使い』にしか見えない格好なのだから。

 「其れは放っておいて欲しいわね…」

 「まぁ、服装は個人の自由だけど…。で、貴女が私を此処に?」

 「只の気紛れよ……殆ど死に掛けていたし、そのまま捨て置いても良かったのだけれど貴女は『使えそう』ですもの。」

 服装は置いておいて本題。
 だが、プレシアはどうやら助けた心算はないようだ。
 自分の役に立ちそうな『駒』を拾った程度の感覚らしい。

 「…なんか気になる言い方だけど、一応はありがとうかな。…で、此処何処?」

 「落ち着いているわね貴女…まぁいいわ。此処は時の庭園、私が造った次元航行要塞よ。」

 「は?」

 プレシアの言葉に気になるものは有ったが、其処はスルーし現状確認を最優先に。
 だが、又しても気になる言葉が…

 「次元航行…?え、ちょっと待ってそれじゃあ此処はネオドミノシティの何処かじゃないの?」

 「ネオドミノシティ…?聞いた事が無いわね。」

 「うそ…そんな、まさか…じゃあ若しかして此処は私からすれば異世界なの〜!?」

 得られた情報は極めて少ないが、それでもこの答えにアッサリ辿り着く辺りは流石は『不動遊星』の母親といったところだ。
 その沙羅の言葉に、今度は逆にプレシアの眉が僅かに動いた。
 『異世界の人物』と言うのに反応したようだ。

 「成程…次元漂流者だったわけね。それなら何故此処で倒れていたのかも納得できるわ?」

 「次元漂流者って……凄く嫌な予感がするんだけど、ひょっとしなくても『次元時空間超えての迷子』…?」

 「その認識で合っているわ。そして少なくとも相当な好条件が揃わない限りもとの世界に戻る事はできないわね。」

 事実である。
 管理局ですら管理外世界からの次元漂流者を元の世界に戻せた事例は稀なのだ。
 それが異世界となっては略不可能なのは火を見るよりも明らかだろう。


 「…物は相談だけれど取引をしないかしら?」

 「取引?」

 唐突のプレシアの提案。
 一体何をすると言うのか…

 「貴女が元の世界に帰れる確率は略0……この世界で生きる術が必要よね?」

 「それは、まぁね?」

 「そこで、此処の一部を貴女の生活の場として提供するわ。代わりに貴女の持つ世界の技術を私に貸すと言うのは如何?」

 「それがさっきの『使えそう』の真意?」

 「有体に言えばね。」

 僅かな言葉の応酬だが、互いに警戒はしている。

 「…仮定の話として、私の持ってる力を何に使うの?もし其れが他の第3者に被害が及ぶ事なら答えは“NO”よ。
  ついでに言っておくと『第3者に被害が及ばない』って言う答えも容認しない、貴女は何を望んでるの?」

 「…肝が据わっているのね貴女は…いいわ、教えてあげる。私の望みと目的は…娘の蘇生よ。」

 「!!」

 驚くのは無理も無い。
 死人の蘇生…そして恐らくプレシアの口調から既に死してから可也の時間が過ぎたであろう人物の蘇生は想像ができた。

 「娘さんの…?」

 其れを聞いた沙羅は考える。
 嘘を言っている目ではない…曇っていた目が『娘の蘇生』と言ったときだけ確かに光があった。

 「…正直私の世界の技術が貴女の娘さんの蘇生に役立つかどうかなんて分らないわよ?」

 「それでもよ。あの子を取り戻せるなら私はどんな事でもするわ!1%でも望みがあるなら。」

 「…あのねぇ…良く考えなさいよ!私から技術だけ教わるんじゃなくて、私にも1枚かませるって言う選択肢は無いの?」

 「え?」

 「考えてみなさい?私が幾ら貴女に私の持てる技術を教えても其れはコピーよ?
  私自身が手を入れたほうが成功する確率はより高くなるでしょう?」

 「…言われてみれば、それもそうね…」

 言われてなんとやら。
 まぁ、長い年月1人で研究してきたのだから仕方ないが…

 と、言うよりも沙羅はプレシアに協力する気のようだ。

 「分ったなら、取り合えずその娘さんに会わせて?状態を見てみないと何とも言えないから。」

 「いいわ…こっちよ。」

 思えば、出会ったときからこの2人は所謂『馬が合う』部分があったのだろう。
 そうでなければ、こうも簡単に話は進まなかっただろう。


 因みに互いに名を知らない事に気付き、道中で簡単に名乗ったのはご愛嬌だ。








 ――――――








 「可能だけどすぐには無理。」

 「何故?」

 「エネルギーが全然足りない。」

 で、現状を見た沙羅の見解である。
 少なくとも此れまで目を通したデータから、プレシアの理論自体は全く間違っていない。
 だが絶対的にエネルギーが不足しているのだ。

 「エネルギーが…」

 「でも、其れも何とかなるわ。少し時間がかかるけどモーメントを造れば解消できるから。」

 「モーメント?」

 「私の世界で開発された『無限エネルギー発生装置』。所謂『永久機関』。
  正回転している限りは、留まる事の無いエネルギーを生み出してくれる…逆回転したらそこまでだけど…」

 その問題も沙羅と言う存在が一気に解消する。
 モーメント研究開発機構で『サブチーフ』と言う立場であった彼女はモーメントに関する知識は半端ではない。

 「永久機関…逆回転するとどうなるのかしら?」

 「…生み出されたエネルギーが破壊エネルギーに変わって全てを消し去るわよ?
  私は其れに巻き込まれたんですもの……完全に飲み込まれる直前で飛ばされたみたいだけれど。」

 「成程ね…逆回転の危険性は?」

 「意図的に逆回転操作を行わない限りは大丈夫よ。1週間…貫徹すれば4日で出来るわ。
  でも、それ以上に……プレシア、貴女の治療も同時に行うわ。」

 沙羅の考えは蘇生だけではなかった。
 プレシアの顔色の悪さから健康状態が『最悪』である事を見抜いていたのだろう。

 「この子が蘇っても貴女がそんなんじゃ意味無いでしょ?だから貴女の病気も同時に治す。」

 「出来るの?」

 「出来ないなら言いません。」

 不動沙羅という女性は何処までも強気だった。

 「と言う訳で、先ずは貴女が今服用してる薬を出す!それから今着てる服は洗濯よ!後風呂入りなさい、臭いお母さんなんて最悪よ!?」

 「…え?ちょっと…」

 「いいから早くする!!」

 どっちがこの庭園の主なのか、出会ったばかりだというのに分らなくなっていた。








 ――――――








 この2人が出会って数日。
 会ったその日のうちに、沙羅はプレシア用の新しい薬を作り上げた。(流石は遊星の母である)
 余談だが、プレシアが服用していたのは中々の『モノ』だったらしく痛みを大幅に和らげる半面、精神を破壊するトンでもない副作用が有ったらしい。

 で、そのトンでも薬の成分を解析した沙羅が『鎮痛作用だけ』をトレースした痛み止めを作成。
 加えて副作用皆無の抗癌剤と向精神薬、精神安定剤を作り出し服用を厳命。

 結果モノの数日でプレシアの精神は落ち着き、見た目にも随分変わってきた。
 特に『アノ』ぶっ飛んだ服装と、紫基調の厚化粧が無くなったというのは相当に大きい。

 精神の安定化と病気の進行が止まった事でアリシアの蘇生に関しても余裕が出てきたようだ。


 「ねぇ沙羅、今更だけれど如何して協力する気になったの?貴女を騙している可能性もあったのよ?」

 「こう見えても人を見る目はあるつもり。アリシアちゃんの蘇生を語った貴女の目には嘘が感じられなかったから。
  それと…息子に、遊星に母親らしい事を何一つしてあげられなかった事への贖罪もあったのかも…
  ゼロリバースに巻き込まれないように脱出させたとは言っても自力で生きていくことなんて出来ない0歳児。
  誰かが拾ってくれなければ其処で終わりだわ……それでも生きられる可能性が有るから脱出さえたけど…もう、安否の確認すら出来ないから。」

 「…そう。」

 沙羅は沙羅で矢張り後悔はあったらしい。
 他に方法は無かったとは言え、もう自身の息子と会うことは無いのだ…

 「それでも生き長らえて、こうして子供の未来を開く事ができるんですもの、悪かった事だけじゃないわ。
  其れよりも、貴女こそ如何なのプレシア。…フェイトちゃんの事は受け入れられそう?」

 「今なら出来そうよ…けど、あの子に何て言えばいいのか、迷っているわ。」

 それでも悪い事ばかりではないと沙羅は言う。
 逆に今度はプレシアにふられた話題だ。

 プレシアにはアリシアの細胞から作り出したクローン『フェイト・テスタロッサ』が居る。
 精神を病んでいた以前は、フェイトを罵り酷い仕打ちを繰り返していたのだ。

 だが、沙羅の薬のおかげで精神が安定した今は其れを後悔していた。


 思い出したからだ、フェイトこそが生前のアリシアが望んでいた『妹』で有るということを。
 それ自体は問題は無い。

 忘れていた事を思い出し、以前の己の行動を悔やむ事ができたならフェイトに今後手を上げることは無いだろう。
 が、其れゆえの問題。
 如何接して良いのかが分らないらしい。

 「プレシアの思うようにすれば良いんじゃない?今、貴女がフェイトちゃんを如何思っているのか其れを嘘偽りなく言えば良いと思うわ。」

 「…確かにそうね。頑張ってみるわ。」

 其れも沙羅の言う事で大丈夫そうではある。

 「それで、アリシアの蘇生は如何?」

 「9割がたOK。でも最後の1ピースが足りない。」

 「最後の1ピース?」

 「生きるのに必要な血が足りない。」

 アリシアの蘇生は、あと少しというところで新たな問題発生だ。
 モーメントは既に完成しエネルギーはアリシアに送り込まれている。

 細胞の活性化と内臓組織の活発化も終わり、後は心臓機能を動かすだけ。
 なのだが、その矢先で判明した『血液の枯渇』。

 プレシアの遺体保存が素晴らしかった為、体組織と細胞は問題なかったが血だけは駄目だった。

 「血の培養は出来るけど…それには『生きてる血』が必要不可欠よ?
  このままの状態で保全は出来るから、蘇生作業の最終段階はフェイトちゃんが戻ってきてからね。
  フェイトちゃんから少し血を採取すれば、そこからアリシアちゃんが生きる為の血は造れるから。
  蘇生さえすれば、後は身体で血を製造してくれるもの。」

 「そう…ふぅ、フェイトが最後の鍵なのね…ホント、貴女が居なかったら何一つ分らずじまいだったわね…」

 沙羅がこの世界に来た事で、大きく流れが変わったのは間違いない。
 フェイトが戻ってきたら、其処から更に事は大きく動くだろう…








 ――――――








 「…なんか感じが違うね?」

 「此処、こんなに明るかったかねぇ?」

 この日、海鳴でジュエルシードを集めていたフェイトとアルフは、報告の為に戻ってきた時の庭園に少し驚いていた。
 なんせ自分達の記憶にあるものとはまるで違う場所になっていたのだ。

 転送を間違ったかとも思ったが、そもそもこの場所へは特別な転送コードが必要なので其れは無い。

 「おかえりなさい、フェイト。」

 「母さん…!?」
 「プレシア!?」

 更に驚いたのは自分達の前に現れたプレシア。
 まるで別人だ。

 顔色は良く、黒いローブ姿ではなく普通の服…何よりもその顔は優しい笑顔だ。

 「も、戻りました。あの、ジュエルシードは6つ…」

 「6つ…そう。」

 プレシアの手がフェイトに伸びる。
 思わず身を硬くするフェイトと、飛び出そうとするアルフだが…

 「頑張ったわね…」

 「え?」
 「えぇっ!?」

 予想に反し、その手はフェイトの頭を撫でていた。
 それどころか…

 「ごめんなさいフェイト…貴女には酷い事ばかりしてきたわね…」

 「え、あ…母さん!?」

 突然の謝罪だ。
 勿論フェイトは驚く。

 いや、フェイト以上にアルフが驚いている。
 てっきり6つという結果に腹を立て、フェイトに叱責という名の虐待をするものだとばかり思っていたのだ。

 「許してくれ…なんて事は言わないわ。けれど、私で良いのなら貴女の母親で居させて欲しい…身勝手だとは思うけれどね。」

 「母さん……戻ってくれたんだ。昔の優しい母さんに…やっと、戻ってくれた…。」

 プレシアの謝罪の弁だが、フェイトには本より許す云々はなかった。
 優しい母親に戻った…それだけで充分だったらしい。

 だが、プレシアはそうはいかない。
 告げなければならないのだ、全ての真実を。

 「…昔の私…其れについても貴女には言わなければならないことがあるわ…ついてきて。」

 「「?」」

 それだけ言って向かう先は言うまでもない、アリシアが居るあの部屋だ。
 既に沙羅が準備を完了している事だろう。




 「この先に全ての真実があるわ……」

 「真実…?母さん…」

 「其れを見て、聞いて如何思うかは貴女次第だわフェイト…もし其れが許せない場合、私を殺してくれて構わない。」

 「そんな!そ、そんな事はしません…絶対に!!」

 その部屋の前で最終確認。
 フェイトはプレシアの言った事を否定する――まぁ、当然だろう。
 アルフが訝しげな顔なのもある意味当然だ。

 「…そう。では、開けるわよ。」

 フェイトの顔の真剣さに『大丈夫かもしれない』と思い、その扉を開ける。


 「え…?」

 「ふぇ、フェイト!?お、オイどういう事だよプレシア!!」

 流石に衝撃を受けたようだ。
 無理もないだろう。

 円筒形のポッドの中に漂う自分と同じ容姿の少女が居たのだから。


 「あの子はアリシア・テスタロッサ。私の娘にして貴女のオリジナルよフェイト。」

 「え…」

 「貴女はアリシアの細胞から作り出したクローンなのよ…その、記憶もあの子のコピーなのよ…。」

 「そんな…!!!」

 衝撃の事実だろう。
 実際フェイトは相当なショックを受けているようだ。

 「本当に私は馬鹿だわ。生前のアリシアが望んでいた存在こそが、フェイト貴女だったのにね。」

 「え?この子が私を望んでた…?」

 「えぇ、アリシアは妹を欲しがっていたわ。あの子のクローンという事は、言い換えれば貴女はアリシアの双子の妹という事になるわ。」

 「え、あ…い、妹?」

 「…貴女にジュエルシードを集めさせていたのは、アリシアを蘇生させる為よ。
  けど、其れはもういいわ。アリシアはもうすぐ蘇るわ…貴女の姉としてね。」

 いまだショックはある。
 だが、それ以上にフェイトは直接的に言われた訳でないが、プレシアが自分を認めてくれていると感じていた。

 「…私は貴女の娘で良いんですか?」

 「貴女が私を母親と認めてくれるのなら。」

 一切の嘘偽りはない。
 だからこそ響くのだ。
 過去記憶がアリシアのコピーであっても、フェイトとして蓄積した記憶は嘘ではない

 「私の母さんは貴女だけです。其れは変わりません。」

 「…ありがとう。」

 何も言うまい。
 プレシアとフェイトは今この瞬間に本当の『親子』になったのだ。


 此れで最後の不安要素は解消。
 後はアリシアの蘇生が成功すれば万事解決だろう。








 ――――――








 プレシアとフェイトが真に親子となり、アルフも一応はプレシアを許してから1週間。
 ついに今日アリシアは復活する。

 フェイトから採取した血を培養して十数リットルの血を造りだし準備は完了。


 「それじゃあはじめるわよ?」

 「えぇ、お願い。」

 手順はこうだ。

 先ずモーメントの力で活性化しているアリシアの身体に、人工心臓のポンプで血液を起こりこむ。
 そのまま体温を上げ、血液が行き渡ったところで今度はこれまたモーメントエネルギーを送り込んでの心肺蘇生。

 アリシアの心臓が自ら動くまで此れを続ける。


 沙羅が人工心臓のポンプを動かす。
 パイプを伝って血液が送り込まれ、其れにあわせてアリシアの体温を上昇させていく。

 少しずつ、少しずつ…


 「体温36度4分で固定、心肺蘇生装置起動。」

 体温が一般の平熱に至ったところで其処で安定固定。
 血液が巡った事を示すようにアリシアの体には生者特有の赤みが戻ってきている。


 そして…


 ――ドクン、ドクン…


 「心肺蘇生成功…!アリシア・テスタロッサ…蘇生したわ!」

 見事大成功。
 備え付けた心電図が、アリシアの鼓動を示している。

 「お姉ちゃん…」

 「アリシア…!本当に…」

 プレシアとフェイトも嬉しそうだ。

 そして更に信じられない事がおきる。


 『…お母さん?』

 ポッドの中のアリシアが目を開けそう言ったのだ。

 「!!!」
 「うそ、信じられない…!」

 皆吃驚だ。
 如何に心肺機能が蘇生したとは言え、こうもすぐに覚醒するとは…

 『おはよう、お母さん。なんか、凄い久しぶりな感じ。』

 「えぇ、本当に…本当にそうだわ…」

 『?何で泣いてるの?悲しいの?』

 「ち、違うわ。嬉しいのよ……」

 感極まったプレシアだが其れも当然のこと。
 16年越しの悲願が叶ったのだから。

 「フェイト、いらっしゃい。」

 そして、フェイトを近くに呼びアリシアと対面させる。

 『その子は?私そっくり…』

 「この子はフェイト。貴女の妹よ。」

 『妹?』

 「はじめまして…お姉ちゃん。フェイト・テスタロッサです。」

 『妹…約束守ってくれたんだ!よろしくねフェイト!』

 アリシアとしては目が覚めたら望んだ妹が居た、それだけで嬉しいのだろう。
 フェイトという存在を早くも妹と認めたようだ。



 「…ありがとう、沙羅。貴女のおかげだわ。」

 「どういたしまして。まぁ流石にすぐに目覚めるのは予想外だったけれど…」

 沙羅がこの世界に現れたことで起きた奇跡である事は間違いない。


 アリシアは徐々に外に慣らす必要があるためまだ暫くはポッド内での生活にはなるだろう。
 だが、それでもこの奇跡は何にも変える事が出来ない――それだけは間違いなかった…








 ――――――








 「そんな事があったのか…」

 一連の話を聞いた遊星は流石に驚いていた。
 まさか自分の母親が人間の完全蘇生をやってのけていたとは思いもよらなかっただろう。

 「で、それからそのまま私此処に有る意味で『寄生』してるのよねぇ…」

 「アリシアとフェイトは貴女の事好きみたいだから良いんじゃないかしら?」

 だが、其れよりもこの2人の関係…こんな友人関係も良いと思っていた。
 沙羅もプレシアも相手に遠慮はしない。

 故にぶつかる事もあるだろうが、其れもまた良き仲の証だ。


 「俺がシティで仲間との絆をつないだように、母さんもプレシアと絆を結んでいたんだな。」

 「そうなるかな?うん、プレシアは間違いなく今の私の一番の友達ではあるわね♪」

 「あら、其れは私も同じよ?」

 本当に、何年も付き合っている友人のようだ。



 偶然による偶然の出会い。


 若しかしたらアリシアの蘇生以上に、沙羅とプレシアのこの関係。
 世界を超えて繋がった絆こそが、最大の奇跡であったのかもしれない…












 FIN








 後書き座談会


 吉良「…………」⊂(。。⊂)

 プレシア「…生きてる?」

 沙羅「ん〜〜…多分。」

 遊星「…取り合えず『死者蘇生』だな。」

 吉良「……うぉぉぉアブねー!お花畑が見えたぜ!サンキュー遊星!」

 遊星「何処まで行って居たんだお前は…」

 吉良「いやはや…まさか此処まで長くなるとは思わなかったのよ?
     本当はもっとすっきり、シャープに行くつもりだったんだけど…それじゃあ満足できなかったんだよ!!
     沙羅とプレシアの出会い、プレシア正常化、プレシアとフェイト和解、アリシア復活&プレシア、フェイトと邂逅!
     此れをグダグダにならず、かつ内容をちゃんとしてまとめる……うん、俺頑張った!!!」

 プレシア「自分で自分を褒めたわ…」

 沙羅「まぁ、最近のキリ番では長い作品ではあるかな?」

 吉良「リク内容的に如何してもね。ただ、読み切りであるから、本編との繋がりさえ無くさなければ良いからある意味では楽だった。」

 遊星「しかし、この蘇生方法は…」

 吉良「人では前例はないけど、コールドスリープ実験は犬では成功してるんだ。
     その実験の時のコールドスリープからの蘇生方法をベースにしてみた。まぁ突っ込みどころ満載なのは勘弁。
     けど、2人の母親の話は書いてては楽しかった。あと沙羅は略オリキャラだからやりやすかったね。」

 沙羅「本編では書かれていない部分の補足的な内容だけど…満足してくれるといいわね♪」

 吉良「ですね。140000番キリリク、いかがでしたでしょうか?こんなので宜しければ貰ってくださいNagiさん。」

 プレシア「ふふ、楽しんでくれたら幸いですって。」

 吉良「っつーわけで!俺はこのまま連載作品に戻る!!アディオス!!!」――バシュン!!


 沙羅「消えた!?」

 プレシア「…過労死しないでしょうね?」

 スピード・ウォリアー『コハー…(アレくらいでは過労死には程遠い!)

 遊星「…何処から出てきたんだお前は…」


 座談会終了♪