『お話』と聞けば、まぁ、大概の場合は読んで字の如く他者との『会話』ととるだろう。
 或いは子供なんかに対して『絵本の読み聞かせ』をする事も、こう称する事があるかもしれない。

 つまりは其処には決して『過激』な意味など含まないのだ、本来は!


 だが、この『お話』を『O・HA・NA・SHI』と表記するだけで意味はまるっきり異なるものとなる。
 この場合の意味は他者との平和的な会話ではなく、己の意思をストレートにぶつける為の『肉体言語』!
 或いは『問答無用での鉄拳制裁』を意味する。

 正式名称を『高町式肉体言語術』と言うこの物騒過激極まりない『O・HA・NA・SHI』
 其れが本日、海鳴臨海公園にて絶賛展開中なのであった。










 『肉体言語は程々に!』










 「クラールヴィント!お願い!」

 「迎え撃て、ジャンク・ウォリアー!」

 無論そんな過激な事が展開されている以上、公園には結界が張られ、一般人が入ってこないようになっている。
 さて、その結界内で絶賛戦闘中なのは遊星とシャマル。


 シャマルは遊星の手で強化されたクラールヴィントを使って遊星に多角的な攻撃を仕掛ける。

 対する遊星は、お得意のシンクロモンスターで其れに対抗。
 どちらも一歩も退かないバトルが展開されている。



 そう、どちらも退かないのだ。


 シャマルの直接的な戦闘能力は決して高くなく、基本はバックスの役割だ。
 其のシャマルが遊星と互角に渡り合っていると言うのは、凄い事に他ならない。


 「シャマル、まだやるのか?」

 「勿論よ!遊星君が気付いてくれるまで、何度でも!」

 何度目かのぶつかり合いに遊星は暗に停戦を申し入れるが、シャマルは拒否。
 こうなったらとことんやらねば気が済まないだろう。

 「分った。お前がそう言うのなら、最後まで俺は付き合おう!来い、シャマル!」

 「行くわよ遊星君!」

 どうにも戦闘はまだ終わりそうに無い。








 ――――――








 そもそも何でこの2人が戦っているのか?


 事の起こりは午前中だ。




 本日シャマルは非番で仕事が無く家に居た。
 遊星も同様に、修理業の依頼は無く家に居た。

 シグナムはアルバイトで翠屋に。
 ザフィーラはこれまた仕事で工事現場。

 ヴィータはリインを連れてゲートボール仲間の老人達のところに出かけ、家主のはやてもなのは&テスタロッサ姉妹と共に出かけて家に居ない。


 要するに家には遊星とシャマルが2人きりだったのだ。


 そう、2人きりだったのだ!!





 と、普通なら此処で『若い男女が2人きり』と言う状態に色々考えるだろう。
 確かに普通なら『ナニか』起きてもおかしくは無い。(異論はあろうが)

 だが、しかし!
 遊星なのだ。

 遊星なんだよ一緒に居るのは!!



 頭脳明晰、容姿極上、デュエル最強、性格最高と『最強の主人公』とまで言われている遊星だが、其の唯一の欠点!
 遊戯王シリーズ主人公がナチュラルに装備している『鈍感朴念仁スキル』!

 ある意味ではシリーズで最も酷いかもしれないこのスキルのせいで、マッタク何もなし!!


 趣味にしても共通の話題が無いので、話が続かない。

 その結果、

 「…………」(超真剣)

 「え〜っと……」

 ステラを整備する遊星と、それを見ているシャマルの図が大・完・成!!
 ぶっちゃけ整備中の遊星に声を掛けることなど不可能。

 いや、遊星ならば口と手を別に動かすなど造作も無いだろうが雰囲気的にだ。
 だって、作業中の腕がたくさんに見えるもの。


 「ふぅ…よし、コレで良いな。」
 「良好ですマスター。」

 どうやら整備が終わった様子。
 やっとこさシャマルも話しかけられるのだが……何を話したものか?


 悩む。メッチャ悩む。

 で、悩んだ末に考えたのが…


 「ねぇ、遊星君は好きな人は居ないの?」

 ありきたりであるがちょっとした『恋バナ』的な何か。
 まぁ、適当に共通の話題が見つからない場合には中々に使える話だ。




 …相手が遊星じゃなければな。

 「好きな人?」

 こうだもん。

 「ほ、ほら、はやてちゃんや私達になのはちゃん、フェイトちゃんとアリシアちゃん、リンディさん、プレシアさん、桃子さん。
  え〜と…それから、エイミィちゃんにマリーちゃん、リーゼさん達もかしら?兎に角、色んな人が居るじゃない?
  だから、其の中で好きな人が居ないのかな〜って。」

 思いつく限りの女性を上げてみる。
 アルフは忘れているのではない、ザフィーラが要るので除外したのだ。

 「誰かって…皆好きだぞ?大事な仲間だからな。」

 で、矢張り遊星はマッタク分っていなかった。
 だって遊星だし。

 兎に角鈍感が酷すぎるのだ。
 リンディに言わせると『鈍感が犯罪なら、遊星君はS級の次元犯罪者ね♪』との事。

 遊星の鈍感スキル恐るべし。(汗)


 「そ、そうじゃなくてね?『この子良いな〜』とかそう言うのは無いの?」

 「皆夫々に良さがあるだろう?誰か1人だけって言う事は無いさ。」

 これまた遊星らしいと言うか…


 「「…………」」


 お?無言で見合って…


 「例えばはやてちゃんは如何?」
 「歳の割りに確りしているし、面倒見も良くて家庭的だな。」

 「なのはちゃんは?」
 「どんな時でも諦めない不屈の心は素晴らしいな。デュエリストにも通じるものがあるかもしれない。」

 「フェイトちゃんとアリシアちゃんは?」
 「フェイトは冷静且つ周囲を良く見ているし、あの高速戦闘技術は心底驚異的だ。
  アリシアはアリシアで、友達や家族の事を良く考えている。バックアップとしても優秀だな。」

 「シ、シグナムは?」
 「少し堅物な部分があるみたいだが、真面目に将としての役目を果たしている。
  外見も…女性としては魅力的なんじゃないか?そう言うのは良く分らないが。

 「や、やっぱり分らないんだ…。それじゃあヴィータちゃんは?」
 「意地っ張りで素直じゃない部分もあるが、根は優しいし仲間思いだ。その辺が老人達に可愛がられる理由かもしれないな。」

 「リインフォースは!?」
 「彼女とはまだ会ったばかりだから良く分らないが…誰よりもはやてを大事に思っているな。其の思いは尊いものだと思う。」

 「じゃあ、わ、私は!?」
 「シャマルは…そうだな、バックスとしては優秀だし治癒師として頼りにしている。
  何より物腰が柔らかなところは、勤務してる施設でも評価が高いんじゃないか?…料理の腕が珠に瑕だが。」


 怒涛の質問もなんの其の。
 矢張りこの男、良く見ている……あくまで『仲間』としてなのだが。


 「…遊星君の好きなのって…?」
 「デュエル。」


 脊髄反応!
 今までの質問の中で一番速く答えたよこの蟹は!!
 いや、デュエリストとしては正しいんだろうけど…


 「そうよねぇ…」



 ――ピキッ!



 この答えにどうやらシャマルの中の『ナニカ』が切れてしまったらしい。
 別に自分に好意があるとかそういう事を言って貰いたかった訳ではない。


 無いのだが、ぶっちゃけコレだけの美女に囲まれててマッタクそっち方面に気持ちが動かないのはどういうことじゃ?
 つまりそういうことらしい。

 「クラールヴィント…」
 「Jawohl.」



 ――ギュル!



 「!!!」

 隙を突いて遊星拘束!

 「遊星君…少しO・HA・NA・SHIしましょうか?

 で、死刑宣告。
 いや、遊星なら死ぬことないだろうけど。

 「シャマル?」

 「うふふふ…」

 しかしながら全身をクラールヴィントのワイヤーで拘束されている遊星に逃げる術はないわけで…

 そのまま『旅の鏡』で海鳴臨海公園へ一直線!
 …ステラエクィテスも一緒に連れてった辺りは、まだ常識残ってたっぽいね。








 ――――――








 という事があったのさ、以上回想終了!


 「響け、『シューティング・ソニック』!」

 「風よ…お願い!」

 で、説明してる間に遊星は星屑召喚して、シャマルは……うん、シンクロしてんな。


 「『旅の鏡』で俺の墓地から『ターボ・シンクロン』を取り出して自身にチューニングとは中々やるな…」

 其れは感心するところか?
 にしても凄いねぇ…結界内じゃなかったら公園吹っ飛んでますがな。

 「確かにな。一体何がシャマルをそうさせているんだ?」

 全部テメーのせいだよ!少なくとも今回は!!

 「そうなのか?」

 そうだよ!
 てかほら、シャマルが迫ってんぞ?


 「しまった!!」

 「捕らえたわ遊星君!」

 ほうほう、星屑かいくぐって遊星に近づくとは…

 「それぇぇ!!」

 「うわ!!」


 おぉ…『逆巻く嵐』で吹き飛ばしたか。

 「く…!だが!!」

 いや、悪いけど遊星、今回はお前の負けだ。

 「何…がっ!!」

 胸から生えてきたねぇ……シャマルの腕が。
 てか、コレは些かやりすぎでないかな?

 遊星なら大丈夫だと思うけど。


 「少しは…周りの女性の事を『恋愛対象』として見てみなさ〜〜い!!」



 ――ドガシュゥゥゥ!!



 「うおわぁぁぁぁ!!!」
 遊星:LP8000→0


 お見事。
 完璧に決まったね『リンカーコア摘出』、そして今回の目的である『O・HA・NA・SHI』が♪

 てか大丈夫なのか?


 「見事だシャマル。今回は俺の負けだな。」


 はい、普通に無事!!
 もう驚かねぇよ………赤き龍の戦士であるオメェは何でもありだよ…



 『何でもかんでも我のせいなのか?



 なんか聞こえたけど無視!
 てかお前に構ってる暇無いから!!


 『残念だ。


 話し戻すぞ〜?


 でだ、学名『絆紡ぎ蟹』こと遊星君よ、O・HA・NA・SHI喰らってちったぁシャマルが言いたい事分ったか?

 「あぁ、リンカーコアを貫くほどの一撃で、文字通り痛いほど良く分った。」

 貫くどころか抜き取られてんだけどね。

 「シャマル……そんなに俺と――本気で戦ってみたかったんだな。」

 「へ!?」

 マテゴラァァァァ!!
 全然わかってねぇじゃねぇか!

 「シグナムにも言ったが、本気の勝負ならいつでも構わない。俺の仕事は融通が利くからな。」

 「あの、遊星君?」

 「だが、お前の思いは伝わった。もっと仲間の事を今以上に深く考えないといけないな。」

 「あ、あの…」

 「俺もマダマダって言う事か。」


 …納得しちゃったよこの蟹は…ある意味スゲェわな。


 「う、嘘でしょぉぉぉぉ!?如何して肝心なところは伝わらないのぉ?」

 「?」

 「遊星君の感じ取った事は間違いなじゃないけど、間違ってる〜〜!」


 まぁ、遊星だからね。
 男女関係云々を分れってのが前提条件として間違ってるわ。



 けどなぁ、最大の原因はアンタだぜシャマルさん?

 「私?どうして?」

 …だってアンタ『戦闘型』じゃないでしょ?

 「!!!」

 非戦闘型のバックアップ担当じゃ、本家本元の『O・HA・NA・SHI』には遠くおよばねぇって(笑)

 「…ま、まさかそう言うオチ?」

 そうだよ?
 そうじゃなかったら、幾ら遊星とは言えリンカーコアぶっこ抜かれてぴんぴんしている筈無いがな。


 「既にリンカーコアが再生しています。流石ですねマスター。」

 「随分回復が早いものなんだな…」


 ほらね?

 「そんなぁぁぁぁ…うぅ、シャマルさんがっかり…」

 けど安心していいぞ?

 「え?」

 「もう良いなら帰らないか?あまり家を開けておくのも良くないだろう?」(ニッコリ)

 はい、超絶貴重な『遊星スマイル』。
 しかも今回はアンタだけの限定品。

 「はう!…そ、其の笑顔は反則よ遊星君…」

 「シャマル?」

 「はぁぁぁ…我が人生に悔い無し!」(バタム)

 「シャマル?おい、確りしろシャマル!!」

 まぁ、ほうっといて大丈夫だと思うよ?
 アンタの笑顔がクリティカルヒットしただけで害は無いから。




 しかしなんだな、最終的にO・HA・NA・SHIかましたほうが意識ぶっ飛ぶとは…コレが遊星の強さか?


 一つ言える事は、O・HA・NA・SHIはやる側の力が相当に強くないと意味が無い場合があるって事。
 ついでに、相手が遊星だと内容選ばないと絶対に通じないってことだな。


 「一体如何したっていうんだシャマル…」
 「…マスター、少しは女性の気持ちというものも慮って下さい…」


 そら遊星には言うだけ無駄だって。

 まぁ、頑張ってくれシャマル以外の女性陣もな。







 え、オチ?


 無いよ、コレで終幕だ!!







 終わり






 後書き座談会



 吉良「…何故こうなった!?」

 遊星「いや、聞かれてもな…なんでだ?」

 シャマル「コレは…一応は私が遊星君に『O・HA・NA・SHI』をしてはいるのよね?」

 吉良「其の心算なんだけど…シャマルさんや、アンタ戦闘型で無いから難しいわぁ…」

 シャマル「自分で言うのもおかしいけどそうよねぇ…」

 遊星「ゲームでは一部で『最強』との声もあるようだが…」

 吉良「クロスレンジ射程が無限で、フルドライブ技が全キャラ中最強のダメージだからね。
     しっかし、まぁアレだ、ぶっちゃけシャマルがメイン的なものになるのって珍しいよな?」

 シャマル「今回は私以外のリリカルキャラはいないもの…先ず無いとおもうわ。」

 遊星「其の立ち位置と役割からどうしても主役には難しいしな。」

 吉良「まぁ、そういうのは考える分には楽しいけどね。」

 遊星「しかしコレでいいのか?」

 シャマル「いいんじゃないかしら?少なくともラストで良い目を見たし♪」

 遊星「?」

 吉良「まぁ、なんにせよ130000のリク消化だ。こんなのでよければNagi様、貰ってやってくれ。」

 シャマル「これからもよろしくね?」

 遊星「それじゃあな。」


 座談会終了……すっげぇ普通に終わったなおい…