時は2月13日、場所は『翠屋』
 乙女にとって大切な日を翌日に控え、此処の厨房は宛ら戦場の如き様相を呈していた。

 この場に居る者達の本命は言うまでも無い。

 異世界よりやってきた完璧超人――不動遊星である。










 『季節外れって何!?』










 「えぇ感じやでリインフォース。ってシャマル何してんねん!『湯煎に掛ける』んは直接熱湯掛けるんとちゃうで!!」
 「だって、熱湯でチョコレートを溶かすって…」
 「ああ!フェイトちゃんそれじゃあ型からはみ出ちゃうの!!」
 「ま、魔法覚えるのよりも難しいよ…」
 「将よ…お前何作っている?」
 「遊星にやるのだからと思って『スターダスト・ドラゴン』型のチョコレートを作っているのだが…?」
 「意外と器用だよなお前…ならアタシは『ジャンク・ウォリアー』でも作るか。」


 前言撤回、戦場よりもっと凄い事に成ってた。
 そもそもなんで全員集合でチョコ作りに勤しんでいるのか?

 先程も言ったが全員本命は遊星である。
 本来なら全員がライバルである此の状況においての今回の集まり…全ての原因は遊星にある。

 頭脳明晰、運動神経抜群、ルックス最高、技術力激強と正に完璧超人とも言うべき遊星。
 そんな遊星の唯一にして絶対的な欠点…そう『鈍感』『朴念仁』である。

 此処に集った女性陣、実は幾度と無く遊星にアタックしている。
 中にはかなり直接的なアプローチをした者まで居る。


 だが結果は…見事に玉砕。
 シグナムに至っては余程ショックだったのか『途轍もなく偉そうな男が『粉砕・玉砕・大喝采ー!!』と大笑いしていた』等と言い始める始末。

 まぁ此れまでの人生で遊星はそっち方面に徹底的に疎いので仕方ないのだが…


 で、そんなことが続いたので半ば遊星を『恋愛方面』で振り向かせる事を諦めかけていた矢先のバレンタインデー。
 此れは大チャンス!
 恋路のライバル?知ったことか!遊星を想っていると言う意味では盟友とも言えるのだ此の集団は。


 故に始まったチョコレート作り。
 其の熱気だけでチョコレートが溶解しそうな気合を撒き散らしながら恋する少女と女性達の奮闘は続く。




 そして1時間後。


 「「「「「「「出来たーーー!!」」」」」」」

 熱き思いを込めたバレンタインチョコレートが完成した。

 尚全くの余談だが此の1時間限定で彼女達の魔力ランクはSSS+を突破していたとか居ないとか。


 「ふっふっふ…出来た、出来たで!」
 「此れなら遊星さんも…」
 「遊星なら大丈夫…きっと誉めてくれる。」
 「遊星、見て驚け!」
 「うふふ…覚悟してね遊星君♪」
 「ぜってー振りむかせっからな遊星!!」
 「遊星…此の思い、届かせて見せる。」


 気合…入ってるね〜





 其の頃の遊星だが…



 「ザフィーラ、皆は如何したんだ?」

 「さぁな。主が全員引き連れて高町の家に行ったぞ?」

 「?」

 「明日は覚悟しておけよ遊星。」

 「???」

 矢張り全く分っちゃ居なかった。





 で、2月14日。
 バレンタインデー当日!




 「皆揃って如何したんだ?」

 はやてから翠屋に呼び出された遊星は…矢張り何も分っていなかった!

 「遊星、今日は何月何日や?」
 「?…2月14日だが?」
 「2月14日と言えば何や?」

 問われて記憶を探る。
 思い出されるのはジャック宛に届いたトラック1台分のチョコレートとやたら落ち着かない牛尾。
 そして苦労して作ったのであろうアキと龍可から貰った手作りのチョコレート。

 「…確か『バレンタインデー』だったか?」

 「流石に知っていたか。」
 「其れすら知らねぇんかともっちまったぜ。」

 烈火と鉄槌の言うことに誰もが納得していたり。
 何にせよ遊星はこう言ったイベントにはとことん疎い、兎に角疎い、抹殺レベルで疎い。
 其れは次の一言に集約されている。

 「其れで、何で俺は此処に呼ばれているんだ?」

 「「「「「「「は?」」」」」」」

 全員、目が点になった。
 この期に及んで此のセリフ…まさかとは思い代表してなのはが問う(原作主人公として!!)

 「あの遊星さん、バレンタインデーが何か分ってます?」
 「女性が男性にチョコレートを渡して自分の思いを伝える日だったと思うが…其れがどうかしたのか?」

 其処まで分っていながら此の状況をまるで理解していない蟹。
 あまつさえ…

 「あぁ、義理チョコと言う奴か?アキと龍可もそう言っていたな。」

 原爆投下。



 ――照れ隠しは分るけど何でちゃんと言わへんねん!怨むでアキさん龍可ちゃん!!



 聞いたことは有るが有ったことは無い異世界の2人に思い切り怨み節をぶつけた。
 そして其れはこの場の女性全員の創意だったりする。


 「違うの!全部『本命』なの!!」
 「其れくらい分ってよ遊星!!」

 魔王様と金の閃光、渾身の一撃!

 「遊星、はっきり言うが此の場の全員お前のことが好きなんだが…」
 「勿論『Love』の方だぜ!」
 「過ぎた鈍感は罪よ、遊星君?」
 「遊星、シャマルの言う通りだぞ?」

 烈火、鉄槌、湖、祝福の追撃!!

 「分ったかい私等の気持ち!てかこんな良い女に好意を寄せられて男冥利に尽きると思わんかい遊星!!」

 そして夜天の主止めの一撃!!
 其の背後に嵐の海が見える気がするが多分気のせいだろう。
 てか気のせいだと思いたい。



 で、人生で初めて異性からストレートに思いを告げられた遊星はと言うと…


 ――本命?…義理じゃなくて?
 「…そう、なのか?」

 軽いショックを受けていた。
 まぁ今まで経験したことが無い事ゆえ仕方が無いが…

 それでも何とか気分を落ち着け。

 「あぁ…ありがとう。」

 それだけ言うことができた…と同時に貴重な『遊星スマイル』炸裂!!
 此の瞬間、女性陣全員のハートに新たな矢が突き刺さった!
 一瞬ジャンク・アーチャーが現れた気がするが矢張り気のせいだと思いたい。


 「「「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」」」
 「?大丈夫か、顔が赤いぞ?」

 原因が己の笑顔であるなどとは露ほども考えはしない。
 無自覚にフラグを立てそして発展させる、不動遊星とはそう言う男だ。


 「だ、大丈夫や。其れよりも…」
 「あぁ…皆の気持ちは分った。だが…」

 流石に歯切れが悪い。
 計7人もの美女・美少女から思いを伝えらたらそうなるだろう…幾ら遊星であっても!!

 「遊星、流石に此の場で答えを出せとは言わん。」
 「ですが1ヵ月後…3月14日には何が有るかお分かりですね?」

 「…ホワイトデー…成程、そう言うことか。」

 何かに納得したように頷く。

 「そう言う事なの。」
 「1ヶ月後楽しみにしてる。」
 「期待してるぜ?」
 「うふふ、楽しみ♪」

 「分った3月14日には必ず(俺なりの)応えを出す。皆、本当にありがとう。」

 ストレートに思いを伝える事ができ、更には認識もさせられた。
 此れだけで彼女達にとっては大きな前進といえるだろう。
 1ヵ月後の3月14日に再度此の場に集まる事にして此の日は流れ解散となった。




 因みに…



 「…何か用か?」

 「はい、此れ。」

 「俺に?」

 「他に誰が?」

 「何故?」

 「同族アンタしか居ないじゃん。」

 「…其れもそうか。」

 留守番だったザフィーラと、其処を訪れたアルフの間でこんなことがあったとか…







 ――――――








 で、1ヵ月後の3月14日――ホワイトデー
 場所は勿論翠屋。

 先月のバレンタインデーにて遊星に思いを伝えた7人は此の場に居る。
 まぁ流れ的に何が有るのかは理解できるのだが…肝心の遊星が居ない。
 此の場に召集を掛けた張本人であるにも拘らず、だ。

 「お母さん、遊星さんは?」
 「慌てないの。もう来ると思うわ。」

 待ち切れなくなったなのはが、母である桃子に聞いても返ってくるのは笑顔と此の返事だけ。
 だが、既に15分も経っている…と、


 「すまない、待たせてしまったな。」

 部屋の奥から遊星登場。
 其の両手にはお盆。
 片方には人数分のカップと紅茶の入ったティーポット。
 もう片方にはバスケットに入った焼きたてのクッキー。

 「ラッピングして個別に渡しても良かったんだが、焼きたてって言うのも良いだろ?」

 そう言いながらテーブルに2つの盆を置く。
 女性陣は思いがけない遊星の行動に驚くが、それ以上に…

 「此れって『ロード・ランナー』?」
 「こっちは『ボルト・ヘッジホッグ』や!」
 「『チューニング・サポーター』?」

 クッキーの形に驚く。
 ホカホカ焼きたてのクッキーは全てが遊星のデッキの中でも特にマスコット色の強いモンスターの形をしている。

 更に唯其の形をしているだけでなく、ドライフルーツやチョコレートを使って色分けがされている。
 其れは最早芸術の域、下手すればパティシエとして世界に通用するレベルである。


 何処まで器用なのか此の男。


 驚いているはやて達を余所に遊星はティータイムのセッティングを終える。
 其の手際も実に素晴らしい。

 さて、焼きたての美味しそうなクッキーと紅茶が入り全員が席に着いたところで遊星が切り出す。

 「バレンタインのお返しだ。遠慮はしないで欲しい。」

 尤も彼女達に遠慮など無い。
 が、それ以上に…

 「遊星、その…1月前の応えは?」

 リインのいった此れこそが全員が聞きたかったこと。
 此れを聞き遊星も偽り無く自分の思いを言う。


 「すまない…」


 其の一言だった。
 まぁある意味で予想していた答えだが、ショックでないといえば嘘になる。
 だが、次の一言で其れは杞憂だと知る事になる。

 「俺には誰か1人を選ぶことなんて出来ない。皆大切な俺の仲間だから…!」

 「「「「「「「え?」」」」」」」

 「俺が誰か1人を選べば、選ばなかった残りのメンバーは如何なる?誰かを悲しませるなんて俺には出来ない!!」

 Coolながらも熱い男の一言は女性陣全員の心に響き感動を与える。
 遊星は己の事ではなく相手のことを第一に考えている。
 其れゆえの『誰も選べない』宣言…はやて達の遊星に対する好感度が倍増した!

 「遊星さん…」
 「私達の事…」
 「其処まで考えてくれてたんやな…!」
 「何時も自分以外の誰かのため…か。」
 「ま、お前らしいけどな!」
 「本当にね。」
 「遊星、お前と出会えた事を誇りに思う。」

 「皆…」






 と、此処で終われば実に感動的だっただろう。
 だが、そうは問屋が卸さない。
 卸さないったら卸さない!!


 「せやけどな、そんな心配無用やで遊星!」

 「はやて、如何言う事だ?」


 『誰も選ばない』と言う選択に対して『心配無用』とは一体?



 「ふっふっふ…見て驚けや!私が調べた『一夫多妻制を認めている国』の一覧表や!!」

 「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」


 まさかの衝撃展開。
 いや、それ以前にどうやって調べたのか?
 てか僅か10歳で一夫多妻を提言するって如何なのよ?

 「待てはやて、其れは流石に…」
 「あぁ安心してや。ちゃーんと入国方法も調べとるからな?」
 「いや、そう言う事では…「実に素晴らしいアイディアです、我が主!」…リインフォース!?」


 「其の手があったか…流石は主はやて!」
 「シグナム!?」

 「それなら確かに全員がハッピーだぜ…」 
 「ヴィータ!?」

 「問題は誰が第一夫人かね。」
 「ちょっと待ってくれ、シャマル!」

 「其の考えは無かったの…」
 「やるねはやて…」
 「なのはとフェイトまで!?」


 遊星にしては珍しい突っ込みもこの際全てスルーされる。
 其れほどまでだったのだはやての一撃は!!

 そして此の場の女性陣の心は1つとなる。


 「遊星。」
 「遊星…」
 「遊星さん。」
 「遊星…」
 「遊星。」
 「遊星君。」
 「遊星…」


 「「「「「「「覚悟して(なの)(ね?)(や)(おけ)(おけよ?)(ててね?)(おいてくれ)」」」」」」」


 逃げ場無し。


 「…なんでこうなるんだ?」


 全ては無自覚に立てたフラグのせいだが、そんなことは知るよしもない。
 自分の世界の未来を破滅から守った英雄――不動遊星。


 だが、彼から女性絡みの『色々』な事がなくなる事は恐らく未来永劫に無いのだろう…














 了







 あとがき座談会


 遊星「『スターダスト・ミラージュ』…5連打ぁ!!」

 吉良「ひでぶ!!」

 吉良:LP4000→0


 吉良「行き成り何すんじゃい!3300の5回攻撃って流石に死ぬわ!!」

 遊星「『シューティング・クェーサー』じゃなかっただけ手加減した。」

 吉良「最大9回攻撃可能の4000って充分チートだよな…シューティング・スター呼べるし…」

 はやて「それよか此れ随分…」

 遊星「あぁ『季節外れ』だな。」

 はやて「はっきり言うたらあかんて…」

 吉良「まぁ季節外れは確かだね。だが、しかしそれ以上にやりがいのあるキリリクだった!
     クロスで此のイベントをヤレだと!?無茶振りだがやってやろうじゃねぇかって気がわいてきたよ!!」

 遊星「しかし本編進んでないのに此れは無茶だったんじゃないか?」

 吉良「そうでもない!要はこれに繋がるように本編改変すれば良いんじゃ!!」

 はやて「出来るんかい?」

 吉良「出来るかどうかは問題じゃない!やるかやらないかだ!!」

 遊星「正論だな。」

 はやて「それで良いんかい…まぁなんやkouさん77777のキリリクおおきに!」




 本編はこれからの展開に期待…しすぎないで待っててくれ!座談会終了!