其れは何の変哲も無い日常の筈だった。
 いや、実際そうだったのだ。

 「そう言えば、はやての誕生日は何時なんだ?」

 遊星のこの一言までは…










 『Happy Birth Day From…』










 遊星とて、何の考えもなしに聞いた訳ではない。
 はやての誕生日が分れば、祝うことも出来ると思ってのことだっただが…

 「6月4日や。」

 諸行無常、はやてから告げられた誕生日はとっくに過ぎ去っていた。
 言っておくと本日は7月1日である。

 言われた誕生日から考えてみる。
 遊星がこの世界に来たのは5月の終わりの頃。
 そしてヴォルケンリッターが目覚めたのが其の約1週間後。

 「そうだったのか…」

 詰まる所、闇の書起動のゴタゴタですっかり忘れ去られていたらしい。

 「悪い事をしたな…」
 「気にせんでえぇよ。とっくの昔に両親はおらんかったから誕生日もずっと1人やからな…自分でもあんまし意識してないねん。」

 「そうか……」

 この時はそれ以上のことは言わなかった。
 そう、『この時』は!!










 ――



 「す、既に1ヶ月前に主の誕生日は終わっていただとぉ!?」

 遊星からはやての誕生日がとっくに過ぎ去っていたのを聞いて叫んだのは勿論シグナム。
 主至上主義、究極の忠臣なシグナムにとってはやての誕生日を祝えなかったのは正に失態以外の何者でもない。

 「あぁ、尤も其の時期と言うのが闇の書の起動や、俺とお前の戦いやらでゴタゴタしていた時期でも有る。」

 「だが、それでも祝わなかったことが正当化されるわけではない!」

 尚、はやてはシャマルの手で深〜〜い眠りに落ちているので起きてくる事は先ず無い。
 だからこそこんな話が出来るんだが…

 「其の通りだ。加えて俺達はこの家に居候の状態。其れが家主の誕生日も祝えない何ていう事が有って良いのか?」

 遊星の問いに対するヴォルケンリッターの答えは勿論『No』だ。
 全員が否定の意を表す。

 「其処で、3日後の7月4日に1ヶ月遅れだがはやての誕生パーティを開こうと思う。異論は有るか?」

 「「「「無い!!」」」」

 打ち出されたプランは満場一致で決定した。
 そうなればあとは早い。


 「よし。なら此れから各自の役割を決めようと思う。先ずは飾りつけだが此れはヴィータに任せる。」

 「おし、任せとけ!」

 「ケーキと飲み物の調達はシグナムとザフィーラ、任せて良いか?」

 「無論だ。折角なのでな店長に頼んでみよう。」
 「主の為、勤めさせてもらう。」

 「料理は俺が受け持つ…シャマルは、そうだな…当日はやてを連れ出してくれないか?
  できれば吃驚させたい。其の為には準備の段階でははやてがいない方が良い。重要な役目だが…」

 「任せて!やり遂げて見せるわ!!」

 素早く夫々の役割を極めて行く遊星を見て…


 ――す、凄ぇな遊星のやつ…

 ――あぁ、重要な役目を与えつつ、巧妙にシャマルを料理から遠ざけるとは…

 ――如何に遊星でも、シャマルの料理は耐えられなかったんだな…


 壊滅的な料理の腕を持つシャマルを準備そのものから遠ざけつつ、ちゃんと役割を与える遊星にシグナム達は感心していた。








 ――――――








 で、7月4日当日。



 「ご苦労様。そろそろ時間でしょ?上がって良いわよシグナム。」

 「あぁもうこんな時間か。では今日はこれで。…時に店長頼んでおいたものは?」

 「大丈夫、ちゃんと出来ているわ。」

 翠屋にて、シグナムは桃子から帰宅OKを出されていた。
 そして、事前に頼んでいたバースデーケーキを渡される。

 「スマナイな店長、無理を言って…」

 「うふふ、良いのよ。其れよりも1ヶ月遅れの誕生日、ちゃんと祝ってあげてね?」

 「うむ、基より其のつもりだ。」

 「うん、いい返事。あと此れはおまけ。」

 渡されたのは色とりどりの9本のロウソクとパーティ用のクラッカー。

 「店長…此れは。」

 「市販のロウソクじゃ味気ないもの。其れとクラッカーは盛り上げるのに必要でしょ?」

 「其の心遣い…心底感謝する。」

 深々と礼をし、シグナムは翠屋を後にした。





 其の頃、


 「ただいま。飾り付けの方は如何だ?」

 料理の材料を買いだしに行っていた遊星と飲み物を調達に行っていたザフィーラが帰宅。
 家に残ったヴィータは飾り付けをしていたのだが、

 「万全だぜ!如何だ!!」

 自信満々に見せられたリビング。
 天井と壁にはカラフルなリング飾り、テーブルには綺麗なクロスが敷かれ其の中央を花瓶に生けられた花が飾る。
 そして極めつけは、壁に貼られた『Happy Birth Day Hayate Yagami』の横断幕(?)
 絵の具で書かれた其れは、ヴィータの思いを込めた力作である。

 「あぁ、見事だ。飾り付けをヴィータに任せたのは正解だったな。
  よし、ラストスパートだ。俺は全力で料理を作る。2人は食器やグラスを用意してくれ。シグナムが帰ってきたら手伝ってもらってくれ。」

 「任せとけ!」
 「了解だ。」



 そしてそれから約30分後。
 シグナムも帰宅し、準備はそろそろ大詰め。

 テーブルの上には翠屋の特製ケーキと遊星の料理。
 和、洋、中の料理は見ているだけで食欲が刺激される物ばかりだ。

 「シグナムとザフィーラはクラッカーの準備を。ヴィータはシャマルへ連絡を入れてくれ。」

 料理を続けながらも遊星の指示は飛ぶ。
 指示されたシグナム達もすぐさま動く。
 恐るべき連携である。











 で、


 「あら?もしもし、ヴィータちゃん?…うん、うん、分ったわ。すぐ戻るわね。」

 はやてと外出していたシャマルにヴィータから準備が整った旨が伝えられる。(携帯型の通信機は勿論遊星が作った)

 「シャマル、ヴィータどうかしたん?」

 「ん?どうもしないわ。さ、そろそろ帰りましょ。」

 「やったらスーパーに寄ってや。そろそろタイムセールや。」

 流石はやて、僅か9歳にして経済観念が確りしている。

 「ふふ、其の必要は無いわ。少なくとも今日は。」
 「は?何でや?」

 はやては疑問に思うが…

 「其れは帰れば分るわ。それじゃレッツゴー♪」

 「ちょ、シャマル!?いやぁぁ、安全運転推奨やぁぁぁ!」


 …この日土煙を上げながら疾走する車椅子が目撃されたとか何とか…








 ――――――








 「あ、アカン…結構来たわ…」

 「遊星君のリミットオーバーで慣れてると思ったのよ…ごめんねはやてちゃん…」

 如何やら光に近い速さでシャマルは八神宅へ帰還したらしい。
 …まぁ基より人じゃない存在だから深くは突っ込まないようにしよう。

 「一体何やねん…」
 「入ってみれば分るわ♪」
 「みょ〜に暗いなぁ…何するつもりや…」

 照明が落ちた我が家に少々の戸惑いを持ちながら、シャマルに押されるまま、はやてはリビングへ。
 真っ暗な室内に違和感は拭えないが、思い切ってリビングの扉を開けると、



 ――パァン!パパァン!パンッ、パッパン!!



 突然照明が全て点き、軽快な音がはやてを迎える。

 「え?え?な、なんやの?」

 戸惑うはやてに


「「「「「Happy Birth Dayはやて!!」」」」」


 遊星、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、そして車椅子を押していたシャマルが一斉に誕生日のお決まりのセリフを言う。


 「え、誕生日?私の…?」

 「色々有って1ヶ月遅れになったがな。」

 「そんな…じゃあシャマルが私と一緒にでかけたんは…」

 「主を吃驚させたかったのです。其の為にシャマルに主を連れ出してもらったのです。」

 遊星とシグナムの言葉がはやてには嬉しかった。
 1ヶ月遅れとは言え、はやてにとって此れははじめてのバースデイパーティ、其れが嬉しくないはずがない。



 無意識の内に、はやての瞳からは涙があふれていた。

 「アカン…こんなんはじめてや。はじめて自分の誕生日がうれしい思たわ。」

 溢れ出る涙は止まらない。
 例え1ヶ月遅れであっても、遊星が、ヴォルケンリッターの皆が自分の為に一生懸命パーティを準備してくれた事がはやてには堪らなく嬉しかった。

 「俺達に出来るのは此れ位だが…」

 「うぅん、充分や。最高の家族に誕生日のパーティ開いてもらって、祝ってもらえるなんて私は幸せモンや。
  ホンマにな……遊星、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ…ありがとう。皆、大好きや!」


 1ヶ月遅れの9歳の誕生日。
 この日のバースデイパーティは、はやてにとって生涯忘れられない日となったのだった。





 FIN








 後書き座談会



 吉良「ふ、普通に終わっただと…!?」

 はやて「何おどろいてんねん…」

 吉良「だってキリ番が普通に終わったんだぞ!?暴走せずにだぞ!?」

 遊星「確かに珍しいな。だが、今回は良かったんじゃないか。」

 はやて「私もそう思うわ。」

 吉良「まぁ今回は下手にぶっ壊す必要は無いリクだったからね。」

 遊星「…何時もは意図的に壊してたのか…?」

 吉良「否!キャラが暴走して勝手に壊れていくのだ!まぁ如何言う訳か壊れるしかないリクが圧倒的に多いのは否めないがな!!」

 はやて「座談会では暴走かい…」

 遊星「お約束だが…」

 吉良「HAHAHA!座談会はある意味なんでもありなのだよ!」

 遊星「はやて…」

 はやて「突っ込まんでえぇで遊星。こいつはそう言う奴や!」

 遊星「そうか…」

 吉良「わっはっは!」



 本編とはかけ離れた状態で座談会終了