「はぁ!!」
「オラ!!」
鋭い気合と共に繰り出された拳と蹴り。
其れは相手に見事命中し、その身体を闘技場の端まで吹っ飛ばす。
今日も今日とて、拳闘士に休みは無い。
この試合でナギ&コジロー組は目出度く16連勝目。
この後にはダブルエックス&ルイン組の試合があるが、そちらも問題なく16勝目を上げるだろう。
この2組がデビューしてから1週間以上が過ぎ、既に客の賭けのオッズは大きく変わり始めていた。
今までのベテラン、ランキングトップに代わり新人2チームが急速な勢いで賭けの人気トップに。
序でに賭けの人気のみならず、拳闘士としての人気も容姿と実力を含めて鰻上り。
ルーキーであるにも拘らず、此処グラニコスの拳闘闘技場では既にメインイベンターに上り詰めていた。
「………」
だが、この勝利をもってしてもネギの表情は浮かない。
如何やら、思っていた以上に拳闘大会での己のレベルアップがなされていないようだ…
其れとは別に、客席では1人の男がこの試合を見ていた。
フードを被った褐色の肌の大男だ。
「成程、まだガキだが…筋は悪かねぇみてぇだな。」
男は『新しい玩具』を見つけたような笑みを浮かべていた。
ネギま Story Of XX 65時間目
『命を賭した本気決闘』
「虚空…裂風穿!」
「深き闇に沈め…デアボリックエミッション!」
続いて、稼津斗とリインのコンビも極めて楽勝で16連勝目。
因みに只今の試合時間0分10秒、現在までで最速である。
世界最強タッグ(暫定)の前に、目下敵等居ないであろう。
「お疲れ。いやはや、本当に物凄い強さだナ?」
「すごいね〜〜♪」
戻ってきた2人を仲間が労う。
粗方情報を纏めた裏方チームはやる事も少ない。
最前線で戦っている拳闘士組を労ったとて罰は当たらないだろう。
「流石やな兄ちゃん、リイン!いつかその高みに辿り着いて見せるからな!」
「その意気や良しだ。お前達ならここまで来れるさ…待っているぞ。」
稼津斗は小太郎と拳をあわせる。
何だかんだで『良い師弟関係』を築けているようだ。
「…ネギ、悩み事か?」
「リインフォースさん…悩み事、と言うとそうかもしれません。」
連勝で意気揚々の小太郎とは逆に、ネギの表情は浮かない。
矢張り悩んでいるようだ。
「せやから難しく考えんなて。必殺技なんて思いつきでえぇやん。」
「いや、其れはそうなんだけど…其れはあくまで根本原因解決の手段と言うか…」
悩みの根幹は如何にも小太郎が言った事とは別らしい。
「あの白髪の少年…フェイトか?」
「…うん。」
その悩みの根っ子は小太郎や桜子などの一部を除いては大体予想はしていた。
作戦がとんとん拍子に進んでいる現状で、唯一の懸念が有るとすればゲートポートを襲ったフェイト一味位なのだ。
ネギ達を指名手配は麻帆良に戻れば無視出来るから無問題。
「アレだけ派手なゲートポートの破壊をしておいて、それだけで終わるとは思えない。
其れに僕達の目的である放棄されたゲート……其れを放っておくとも思えないんだ。
麻帆良に戻る前に、必ずもう1度アイツとは出会うことになると思う…略確実に。」
「矢張りお前もそう思うか?其れについては俺も同意だが……次に会ったら勝てないと?」
頷き、ネギは続ける。
「カヅトが一緒なら大丈夫だと思うし、小太郎君とのタッグなら多分押し勝てる。
…けど、僕が1人でアイツと戦う事にでもなったら、今の僕じゃ…先ず勝てない…」
此れがネギの悩み。
1vs1の状況では如何にもならない事を、あのゲートポートの一件でネギは分ってしまっていたのだ。
同時に、其れは小太郎も思っていた。
「やな。俺も1人じゃアイツに勝つのは無理かも知れん。やけど、その為の修行も兼ねてるんやろ拳闘士は?」
「うん。…けど、思ったよりレベルアップしてないような気がする。」
「ぐ…確かに。思ったよりも強い奴がおらへんからなぁ…」
そして作戦の誤算。
そう、稼津斗とリインフォースはまぁ仕方ないとして、ネギと小太郎よりも強い相手が居ないのだ。
如何にもこの2人は麻帆良での修行で、既に魔法世界の並の拳闘士などでは及ばないレベルに達している。
『ナギ』の名に釣られて挑戦してくる拳闘士は確かに多いが、弱くなくとも精々一流半が関の山。
共に世界最強の師を持つネギと小太郎の相手にすらならない連中ばかり。
実戦の繰り返しは無駄ではないが、相手が格下ばかりでは劇的レベルアップは望めない。
「其ればかりはどうしようもないな。地方で超一流を望むほうが、寧ろ酷だ。
だが、オスティアの大会でなら期待できるだろう?」
「そうかもしれないけど…けど、その間にフェイト達と遭遇したら…」
「その時は状況にもよるが生き残る事だけを考えれば良い…俺が一緒に居ない場合に限りだがな。」
解決策は見えない。
現状では、拳闘士としてオスティアの大会を目指しつつも微々たるレベルアップに勤しむしかないのだろう…
――――――
本日の試合を全て消化し、ネギは夜の街を行く。
なお、『1人歩きは厳禁』との事で、闘技場の外を歩く際には必ず2人1組で出歩くようにしている。
本日のネギのお相手は超だ。
「…矢張り簡単には割り切れないかナギ?」
「春さん…えぇ簡単には。」
人目のあるところでは、拳闘士組と手配組は偽名で互いを呼ぶ事にしている。
プライベートとの使い分けが出来ているのは流石だろう。
「急激なレベルアップは、ここでは望めそうにありません。…そうなると矢張り必殺技が…」
「必殺技がなんだってぇ?」
呟いたネギに答える形で返って来た謎の声。
ネギも超も何事かと辺りを見回し…見つけた。
ある店の野外席で酒を飲んでいる大男を。
「え?いや、あのですね?」
「ハッハッハ、照れるこたぁねぇ!必殺技…当たれば必ず相手を殺す技だろ?
良いんじゃねぇか?男なら必殺技の一つや二つ持ってるもんだ!」
誤魔化そうとするが効かない。
「まぁ、悩んでんなら俺が代わりに考えてやっても良い。
但し、考案料30万Dp、伝授料40万Dp、使用料60万Dpを貰うがな?」
「はい!?」
「待て待て、何処の悪徳商法ダ!?」
余りな男の発言に突っ込みが入る…当然だ。
「まぁ、コイツはジョークだが…おい、俺よりも頭上に注意したほうが良いんじゃねぇか?」
謎の大男が何かを忠告した瞬間…
――ドス
ネギの目の前に黒い刃が。
「「!!!」」」
突然の攻撃。
即座にネギと超は襲撃者を捜すと…居た。
大きな建物の屋上に、黒いローブに身を包んだ仮面の人物が。
「………」
その人物は何も言わずにネギに攻撃を仕掛けてくる。
あくまでネギだけに。
「く…離れていてください春さん!」
「ナギ!」
狙いは自分だと察したネギは、超に離れるように言い、その攻撃に対処する。
迫り来る黒い刃、其れを弾き捌きながらネギと襲撃者は建物の屋根に。
「貴方は…」
「呼びかけに応じて馳せ参じたぞナギ・スプリングフィールド。
私はボスポラスのカゲタロウ……貴様に尋常の勝負を申し込む。」
如何やらデビュー戦での『アレ』を見て来た輩のようだ。
だが、此れは闘技場での戦いではない…完全なストリートファイトだ。
無論ネギは看破できない。
こんな街中での戦闘などはどれだけの被害が出るか想像がつかない。
「ま、待ってください!ここじゃ街の人に被害が…「グダグダ言ってんじゃねぇ!」…え?」
戦闘停止を求めるネギの言葉を遮る声。
その主は、先程の悪徳商法の大男。
被っていたフードを脱ぎ、ネギに告げる。
「この辺の連中はこの程度の事にゃ慣れっこだ!
其れよりも、そのおっさん本気だ、テメェも前だけ見てねぇと……死ぬぜ?」
「!!」
謎の大男の忠告の直後にネギを襲う黒い刃。
直撃か?…いや、ギリギリのところで攻撃を止めている。
加えてその刃を素手で握り砕く。
だが、カゲタロウも其れだけではない。
今度は刃をネギの背後の建物に回し、括るようにして切断。
瓦礫が降り注ぐが、其れよりも早くネギは離脱。
カゲタロウとの距離を離す。
しかし其れを追うように刃が……如何やらカゲタロウは並の使い手ではないらしい。
その刃がネギを貫く…
「シィ!!」
が、其れは身代わりの偽者。
一瞬で背後に回って反撃に移る。
「むぅ…!」
でも決まらない。
反撃を試みたネギの目の前に突き刺さる刃。
若し飛び出していたら、そのまま串刺しになっていただろう。
修行で培われた超反応と超感覚がなければ今の一撃でお陀仏だったはずだ。
「…3撃以上持つ人間は久しぶりだ。良い、そうでなくてはな。」
挑発めいた一言だが、ネギはそれ以上に嬉しかった。
ストリートファイトは想定外だが、自分が何よりも望んだ『強い相手』。
其れが目の前に居る…此れだけでも充分。
僅か数合の打ち合いだが、それでもネギはカゲタロウの事は確りと分析していた。
フェイトよりも強くはない…だが今の自分よりはずっと強い。
此れがネギが下したカゲタロウへの評価だ。
「………!」
恐らくは無意識だろうが、ネギの顔には笑みが浮かんでいた。
この戦いは拳闘ではない。
本気の本気…命をかけた殺し合いだ。
少なくともカゲタロウはその心算で来ている。
繰り出された攻撃の全てが、的確にネギの急所を狙っているのがその証拠だ。
だが、其れを前にして尚ネギには焦りも恐怖もなかった。
あるのは只一つ…『強敵との戦い』それだけだ。
「ぁぁぁぁああ!!…はぁぁぁぁぁ!!!」
この戦いで『何か』を掴めると思ったのだろう。
その身の魔力を解放し、ネギの周囲には凄まじい魔力が逆巻く。
「!!」
此れにはカゲタロウも驚き、先手必勝とばかりに無数の刃をネギに向けて放つ。
だが、魔力を解放したネギに只の直線攻撃などは通じない。
かわし、避け時には蹴り壊すなどして一切のヒットを認めない――着ている服に穴が開いたりはするが。
――ぐ…
更にその刃を足場代わりにし一気にカゲタロウに近づく。
この辺りも、麻帆良での厳しい修行が有ればこそ出来たことだろう。
勿論カゲタロウとて易々と近づかせはしない。
「百の影槍!!」
更なる刃でネギを迎撃せんとする。
――解放!!
「断罪の剣・未完成!」
その刃も師匠エヴァンジェリン譲りの技で粉砕!
更に…
――解放!!
右腕に魔力を集中!
ネギの決め技『雷華崩拳』だ。
カゲタロウとの距離は略ゼロ。
決まれば一撃必殺、ネギの勝ちだ。
だが…
――ザシュ!
拳がカゲタロウの仮面に当たった瞬間に右腕を黒い刃が掠める。
――ドスッ…
更に別の刃が腹を貫く。
完全なカウンター…正に『肉を切らせて骨を絶つ』と言わんばかりの一撃だ。
「惜しかったが…私の勝ちだ。」
切断にこそ至って居ないが、ネギの右腕は半分が切られている。
骨に異常は勿論のこと、此れでは神経だって何本か切れている筈だ。
こうなっては右腕は使い物にならない。
更に其処に加えて腹の傷。
確かにカゲタロウの言う様に、終わりだろう。
ただし其れはあくまで一般の拳闘士の話だ。
この状況において尚、ネギには諦めの色がない。
――まだだ…まだ、左がある!!
「解放!!」
残る左腕に力を集約し更なる一撃!
三重遅延魔法…可也高度な技術に、カゲタロウも驚く。
――ドゴォォォォ!!!
拳が打ち抜かれ凄まじい轟音が。
だが、ネギの拳もカゲタロウの反撃も夫々相手に当たる事はなかった。
「…其処までだ。」
「この勝負、俺に預からせろや。」
何故ならネギの拳を稼津斗が、カゲタロウの刃を謎の大男が、夫々掴んで止めていたのだから…
To Be Continued… 