唐突だが稼津斗の朝は早い。
どれ位早いかと言うと、現在AM4:30
「さてと、行くかな。」
クスハは未だ眠っている。
トレーニング・ウェアに着替えて日課であるランニングへと繰り出すのであった。
ネギま Story Of XX 6時間目
『とある1日』
「ふ…せい!」
時折シャドーを織り交ぜ早朝のランニングは続く。
そして時間帯的にはもうお馴染みと為ったのだが、
「おはよう稼津斗先生。」
「神楽坂。おはよう、毎朝感心だな。」
新聞配達のバイト中の明日菜と出会う。
「働かざるもの喰うべからずってね。」
「全くだ。手伝うか?」
「大丈夫よ。もう終わるし。」
「そうか。じゃあ学校でな、遅刻するなよ?」
「大丈夫よ!遅刻だけは無いもん。」
差し掛かった交差点で別れ、稼津斗は家へと進路をとる。
――――――
朝のSHR中の3−A。
ネギが出欠を取る中で、稼津斗は念話を使いたった1人の出欠を確認する。
――相坂さよ。
――はい♪
幽霊の相坂さよ。
完璧に彼女を認識できてるのは現状では稼津斗のみなので一応出欠の確認はしておく。
――何れ彼女も、クラス全員に見えるようにしてやらないとな…
結構色々考えているらしい。
で、勿論クスハも一緒なのだが誰も何も言わない。
それ以前に連れてきて以来、大人気で最早3−Aのマスコットになっているので全く問題ない。
SHRは何事も無く進んだ。
――――――
午前中の授業が終わり只今昼休み。
つまりはお待ち兼ねの昼食時。
「さて、行くか。」
売店に降り立った3人の人物、稼津斗、古菲、茶々丸。
なんとも珍しいこの組み合わせ。
実は本日の買出し係。
何故稼津斗が組み込まれているのかと言うと、朝倉の『勝率が上がるから』と言う意見に他ならない。
「流石に凄い人だかりだな…2人とも行けるか?」
「任せるネ!」
「問題ありません。敵戦力は我々の5%以下です。」
「じゃあ、戦闘開始だ。」
其れを合図に3人の行動が始まった。
「邪魔アル!」
「悪いな、退いてくれ。」
「邪魔です。」
的確に、かつ迅速に人ごみを掻き分けて行く。
その動きには一切の無駄が無い。
「待てこら!」
「割り込むな!」
「うおい!」
無論、唯で通さない輩も居るのだが…
「覇!」
「アイヤ!」
「……」
きっちりと返り討ち。
しかも無駄なダメージを与えず一撃で意識を刈り取るのだから素晴らしい。
あっという間に売店窓口。
「焼きそばパンとアンパン5個ずつ頼むネ。」
「クリームパンとコロッケロール、メンチサンドを3つずつ。」
「普通のカレーパンを4つとピーナッツサンド6つ。それから激辛カレーパン3つ(自分の)と五目稲荷1個(クスハの)。」
邪魔者を排除し目的物を確実に手に入れる。
以降、買出しには殆ど稼津斗が同伴する事となるのであった。
――――――
「宛ら『王立魔法図書館』だな…。」
――クラスの図書委員だけで足りるのか?
午後の授業も問題なく終わった放課後。
特にすることも無いので、本でも借りようと図書館に来た稼津斗の感想である。
――此れだと、目的物を探すのにも一苦労だな…ん?
「宮崎…?」
見つけたるは『本屋』ことのどか。
沢山の本を運んでいるが全て借りるのだろう。
「そう言えば図書委員だったっけ。宮崎。」
丁度良いと思い声を掛けるとのどかも気付く。
「稼津斗せんせ〜如何したんですか?」
「本を借りに来たんだけど…如何せん広くて、何処に何があるのかさっぱり分からん。
で、図書委員の宮崎なら分かると思って声を掛けたんだが…少し持つか?」
のどかが持っている本その数10。
決して少なくは無い、全てハードカバーの重厚な本故、のどかの持てる許容量は明らかに超えている。
「え、だ、大丈夫…」
「じゃあ、無さそうだな。無理は良くないぜ?」
そう言って、上から7冊を持つ。
全部持ってしまうのは、其れは其れでのどかに失礼と思ったから。
「あ、ありがとうございます。」
「運ぶ時も無理はしないようにな。でだ、『Kye Of The Alkaid』の原版を探してるんだけど…」
「えっと…上・中・下巻に分かれた長編文学ですよね?原版だと海外文学ですから…」
のどかに案内されやってきたのは海外文学のスペース。
見る限り殆ど貸し出されていないようだ。
「殆ど借りられてないな。」
『K』の列から目的物を探し出し呟く。
どれか1冊くらい貸し出し中かと思っていた3部作全てあったのだから文句は無いのだが…
「訳版が出ているなら普通はそちらを借りますから…」
「海外作品は原版の方が好きだな。勿論、訳版も訳者によって微妙に表現が違うから面白いけど。」
「そう言えば読書が好きって言ってましたよね。」
初日の朝倉からの質問攻めの1つ『好きなものは?』に対し『読書』をその1つに上げていたのを思い出したのだろう。
「元々は修行の合間に心を落ち着かせる意味で読んでたんだけど、すっかり本の魅力に取り付かれたな。」
「そうなんですか…。」
「加えて海外に武者修行とか行った時なんかは全部現地語の本を読んでたから、嫌でも語学は上達したな。」
「ところでクスハちゃんは?」
「ネギと神楽坂に付いて行った。今日は外泊だ。」
とまぁこんな話をしながら、貸し出しの手続きを済ませる。
借りた本は少し大きめの鞄にまとめて入れる。
「寮まで持っていくんだろ?どうせだから手伝おうか?」
「あ、大丈夫です鞄に入れてしまえば楽ですから。」
「そっか…じゃあ気を付けて帰れよ。」
そう言ってのどかの頭をクシャリと撫でる。
ネギにも結構やるので癖みたいなものらしい。
で、やられたのどかは…
「///〜〜!」
赤くなった。
更に去り際。
「時に…少し髪形変えてみたら如何だ?今のままじゃ折角の顔が勿体無いと思うぞ?」
他意は無い。
思った事を言ったまでなのだが…
「///〜〜〜〜〜〜///」
――せ、せんせー///
言われた本人には止めだったようである。
で、同刻。
「む…強烈なラブ臭がするわ!」
「アホですか…」
何時ものやり取りが寮で行われていた。
――――――
「や、やからごめんなさいって…」
「あぁん?あやまりゃ済むと思ってんのか嬢ちゃん?」
学園都市のとある場所。
其処では亜子が不良数人に囲まれていた。
唯少しぶつかったしまった事から理不尽な因縁をつけられている。
「そんな…やったら如何すれば許してくれるん…」
「きひひひひ、決まってんだろ?俺達と付き合ってもらうのさ。」
下卑びた笑いは其れだけで虫唾が走る。
周囲に人は居るものの、係わり合いに為りたくないのか誰も助けようとしない。
「そんな…」
――誰か…誰か助けて…先生…
無意識に稼津斗に助けを求めてしまう。
そして天はその願いを受け入れた。
「俺の生徒に何か用か?」
現れたるは氷薙稼津斗。
亜子の顔に笑みが浮かぶ。
「先生…」
だが、不良共にそんなことは関係ない。
連中にとって、いきなり現れた稼津斗は邪魔者以外の何者でもないのだ。
「あぁ!?なんだてめぇ?」
「お前等が因縁つけてる奴の副担任だ。」
「は、先公はお呼びじゃねぇ!帰りな!」
「そうは行かないな。副担とは言え自分の教え子が理不尽な因縁つけられてるのを黙って見ては居られないんでね。」
「るせぇんだよ先公が!」
不良の1人が殴りかかってくる。
が…
「せめて相手との力量差を見極めてからかかって来いよ…」
其れを簡単に投げた。
しかも殆ど手を触れずに、殴りかかってきた相手の勢いだけで。
「…意外と吹っ飛んだな。手加減はしたんだが…」
投げられた不良は、哀れゴミ置き場に一直線。
尤も、ゴミ袋などがクッションになって大怪我はしていないようだが。
「こ、この野郎何しやがる!」
「あいつが殴りかかってきたんだ、正当防衛だ。」
「何が正当防衛だ!先公が!やっちまえ!」
「稼津斗先生!」
残った不良が一斉に突撃してくる。
亜子も思わず叫び目を瞑ってしまう。
「だから、力量差を見極めろって…」
――バキ、バキ、バキ、バキ
「…満足したか?」
「…完勝や…」
打撃音数発。
亜子が目を開けると、のされた不良が…!
「ま、不良風情じゃこの程度だよな…大丈夫だったか和泉?」
「大丈夫や。又、助けてもらってしもたな。」
「気にするな。…さて、残ってるのはお前だけだが、如何する?」
最初に投げ飛ばした不良に問う。
口調こそ静かだが、其処には確かな『怒り』が内包されている。
「ち、畜生…覚えてやがれ!」
で、言われたほうは仲間を放って逃げてしまった。
「分かりやすい捨てセリフや。」
「捨て台詞とは…
1、負けて悔しいほうが吐く。
2、言ってから、もっと良いセリフを思いついて後悔する。
3、単純だろうと複雑だろうと言われた方は3日もあれば忘れる。
だと思うんだが如何だろう?」
「同感や。にしても凄い強さや。」
まさか5〜6人を瞬殺してしまうとは思わなかったのだろう、亜子は改めて稼津斗の強さに驚く。
「まぁ、武者修行中に戦った連中はこんなもんじゃ無かったからな。あの程度に負ける気はしないな。
時にこいつ等如何しよう?さっきの奴逃げちゃったしな…」
「放っておいてええんとちゃう?気付けば自力で帰るやろ?」
「確かに。じゃ、帰りますか?」
「そやな。」
「じゃ、又明日な。」
何事も無かったように稼津斗はその場を後にする。
「はぁ…稼津斗先生、やっぱ格好えぇ…」
そして残された亜子は恋が芽生えていた。
で、同刻!
「むむ…新たなラブ臭がするわ!」
「本格的に脳味噌大丈夫ですか?」
やはり感じ取っている人物が居た!
――――――
――麻帆良学園・学園長室
「むぅ…まるで問題ないの。」
其処では近右衛門が刀子より提出された書類を読んでいた。
内容は稼津斗の今日1日の行動だ。
どうやら刀子に1日尾行&監視させていたらしい。
「問題どころか、この上ない素晴らしい若者です。」
「そうじゃのう…一部の魔法教師の意見を受けて観察してもらったが此れなら大丈夫じゃろうて。」
「はい…それと此れを…」
1枚の紙切れを近右衛門に差し出す。
「なんじゃ?」
「和泉亜子を助けたあと去り際にこちらに投げてきたんです。」
「ふむ…気付かれてたのかの?」
そう思いながら紙を開ける。
――ストーキングは趣味が悪いぞ爺さん
紙にはそう記されていた。
「完全にばばれてたみたいじゃのう…」
「そうですね…」
尾行がばれていたという事に驚きながら、改めて稼津斗の凄さを実感するのであった。
――――――
「此れならあのまま一緒に来ても良かったな。」
『超包子』店内にて、稼津斗は真名、楓、亜子、のどかとテーブルを囲んでいた。
テーブルの上には美味しそうな中華が所狭しと並んでいる。
「ほんと、ものすごい偶然や。」
「でも良いんじゃないですか?皆で食べたほうが美味しいですし。」
「のどか殿に賛成でござるな。」
「確かに、悪くないね。」
尤もこの4人は稼津斗と一緒の食事と言うのが重要なみたいだが。
「ま、良いか。じゃあこの最高の中華を楽しむとするか。」
「そうだね…それじゃ、」
「「「「「乾杯」」」」」
稼津斗は焼酎で、真名、楓、亜子、のどかの4人はジュースで乾杯する。
「良い月だな。」
――今日が十六夜…あと2週間か…
夜空に浮かぶ半月より僅かに膨らんだ月を見ながら稼津斗はエヴァンジェリンの解呪のことを考えていた。
最強の真祖が開放されるまであと2週間。
そして稼津斗自身にも『時』が近づいているのであった…
To Be Continued… 