――麻帆良学園・学園長室
ヘルマンとその一味を退けた稼津斗達は事後報告のために此処へ来ていた。
尚、千鶴と夏美の2名は気絶したままであり、小太郎の証言から背後から襲われてため何も覚えていないだろうと言う事で其のまま自室に帰されている。
「神楽坂、身体は大丈夫か?全力じゃあないがそれなりに威力は高めてあったんだが…」
「え?うん、大丈夫みたい。流石に驚いたけど…」
稼津斗が心配しているのは明日菜へのダメージ。
自分が放った一撃がそのままダメージとして向かったのだから、まぁ当然だろう。
「頑丈な身体だな…まぁ大丈夫なら良い。そうなると…」
明日菜の無事を確認し、稼津斗の視線は近右衛門の机に向かう。
近右衛門の視線も其処に向かう
「如何するんだ、彼女?」
「如何したモンかのう…」
視線の先には1体のスライム少女が無言で佇んでいた。
ネギま Story Of XX 21時間目
『真実暴露と封印解除』
目の前のスライム少女はこちらを見ている。
対する稼津斗達もスライム少女を見ている。
他の2体は逃げ、彼女だけが稼津斗達に捕まり今に至る。
「爺さん、如何するんだ?少なくとも敵対の意志はないようだが…」
「うむ、だからこそ悩んどるんじゃよ。敵意があれば封印なり処分なり出来たんじゃがこうも敵対心が無いと此方の都合で処分するのは心苦しいわい。」
3体のスライム娘の中で最も寡黙な彼女はヘルマンが消えた後、他の2体のように逃走はせずその場に残っていた。
流石に侵入者の処遇までは稼津斗の一存で決めるわけには行かない。
故に学園長室まで連れてきて近右衛門の指示を仰いでいるのだが、その近右衛門ですら如何すべきか迷っている。
否、以前の近右衛門ならば有無を言わさず処分していただろう。
だが、稼津斗が麻帆良に来て以来、近右衛門の考えも少しずつ変わってきている。
だからこその悩み、因みに強硬に処分を提案する『正義の魔法使い』はエヴァと楓達が黙らせた……物理的に!
ついでに浴場で襲われた面子はエヴァが茶々丸に持って来させた服を着ているので問題ない。
「あのさ、だったらその子いっその事、ネギ君の使い魔にしちゃえば?」
此の権に対する解決策は、今まで静観していた和美からもたらされた。
「はっはっは、確かに其れは良いかもしれん。」
其れに同調するはエヴァ。
「確かに其のスライムの能力ならネギの使い魔としては申し分ない。少なくとも何時も引っ付いてる小動物よりは役に立つだろうよ。」
「…あんな生ものと比べるな、彼女に失礼だぞ?」
容赦など無い。
既に稼津斗とエヴァ……いや、ネギでさえ『カモ=煩悩だらけの役立たず』の図式が出来上がってたりする。
無論、その役立たず…もといカモが黙っているはずはない。
「待ちやがれ!俺っちが其のスライムよりも役にたたねぇとは聞き捨てならねぇ!」
「其のスライムに速攻で捕まって私等の水牢に叩き込まれた奴が偉そうに言うんじゃねぇ。」
「ぐっはぁ!」
反論に出たカモに千雨がドギツイ止めを刺した。
何気に突っ込みを入れながらも馴染んでるっぽい。
「と言う訳で、処分とは別にネギの使い魔と言う道が出来たわけだが、如何する?」
「考えるまでもありませんね。ムザムザ処分されるより、その少年の使い魔になる方を選びますよ。」
あっさりと承諾したが、まぁ当然だろう。
「うむ、此の権はこれで良いな。それでじゃ、今回巻き込まれた一般生徒についてじゃが、コレは稼津斗君に一任する。」
スライム娘の処遇が決まった後で発せられた一言に黙らされていた連中が一気に目を覚ました。
「正気ですか学園長!?」
「彼に一任するなど!記憶を書き換えた方が良いのでは!?」
手前勝手な意見が飛び交うが、
「だまらっしゃい!此れはワシが、麻帆良学園学園長・近衛近右衛門が決めたことじゃ。異論は認めん!」
其処は学園長、普段の飄々とした好々爺の雰囲気を消し去り鋭い眼光で意見をしてきた者達を黙らせる。
――へぇ…やるな爺さん。伊達に関東の長は勤めてないか。
「了解だ。彼女達の事は俺が責任を持とう。真名、先に俺の家に皆を連れて行ってくれ。俺もすぐに行く。」
近右衛門の態度に感心しながら、真名に指示を飛ばす。
言われた真名は頷くと、すぐさま今回の件に巻き込まれた者を連れて学園長室から退室する。
ネギ達も其れに倣う様にその場を後にした。
ついでに学園長の一喝を喰らった連中も退室した。
「さてと…爺さん、俺は一般生徒の処遇の他に何をすればいいんだ?」
「ふむ…相変わらず鋭いの?」
現在此の場に残っているのは稼津斗と近右衛門以外にはタカミチのみ。
此の面子が残った事で何か重大な話が有る……そう察したのだ。
「単刀直入に聞くがの…君は明日菜君についてどれ程まで知っているんじゃ?」
「完全魔法無効体質持ちで常人を遥かに凌駕した身体能力を持つ少々お馬鹿で明るい少女。
あとは、あくまで俺の予想の範疇だが何らかの記憶改竄或いは記憶の封印が施されてる可能性がある。」
「ふむ、何故そう思うのかの?」
「京都の時に、神楽坂と夢の一部を共有した事が有る。まぁ、其の時のメンバーと場所を考えれば無い事じゃあない。
だが、神楽坂本人が記憶に無い光景を夢として再生しているのは流石におかしいだろ…己の幼少期を夢で見ているのだからな。」
近右衛門もタカミチも此れには驚くしかない。
本人は予測と言っていたものの、真実に辿り着いているのだ。
が、同時に近右衛門は腹を決めた……稼津斗ならばと思ったのも大きいだろう。
「うむ…君の予想通りじゃよ。明日菜君は記憶を改竄・封印されておる……他ならぬワシ等の手での。」
「!!如何言う事だ爺さん…事と次第によっては容赦しないぞ?」
「其れは僕から説明するよ稼津斗君。」
「タカミチ…分った、聞かせて貰おうか。」
「明日菜君は大戦のさなか、ナギ率いる『赤き翼』が保護した少女だったんだ…
――タカミチ説明中
そしてガトウさんの死後、僕が彼女の後継人となり此の麻帆良に来た。
後は君も予想してる通りさ、本国からの命令に従い彼女の記憶を封印し今に至ってる。」
「成程…」
溜息一つ。
話の途中から顛末は予想していたが、まさか予想通りとは思わなかったのだろう。
「一つだけ聞かせてくれ。命令に従ったのは仕方ない、お前も爺さんも組織人だからな。
だが、近衛近右衛門、高畑・T・タカミチとしては神楽坂の記憶を弄る事を如何思ったんだ?」
言い逃れはさせないし曖昧な言葉で誤魔化す事も許さない稼津斗の問い。
射殺すような視線に曝され、しかし2人には基より誤魔化すつもりは無かった。
「ワシ個人としては反対じゃよ。如何に記憶を弄ろうと、アスナ姫はあのクラスに入れざるを得なかったんじゃからの。」
「僕も同じだ。先の事を考えればアスナ君の記憶は封印すべきじゃなかった。彼女の為を思うなら尚更…ね。」
「個人としては反対だったが組織人ゆえに従うしかなかったか……分った神楽坂の記憶の件も引き受ける。
だが、封印されてる記憶を解くかどうかは彼女の意志を尊重するが、其れは構わないな?」
「うむ、其れは勿論じゃ。記憶を取り戻したいと言う時には頼むわい。
と、其れともう1つだけお願いがあるんじゃがの…」
退室しようとした稼津斗に言う。
それにしてももう1つのお願いとは…
「君や3−Aのメンバーが壊した物の請求こっちにまわすのやめてくれんかの…」
「無理。その場の持ち合わせで如何にか成るレベルの破壊じゃない。大体俺の給料から天引きしてるんだから問題ないだろう?」
「其の分の計算て意外と大変なんじゃよぉ…」(泣)
「…頑張ってくれ。脳トレはボケ防止に役立つらしい。」
「其の優しさが痛いわい…」
取るに足らない軽口の応酬を交わし、稼津斗は瞬間移動でその場から消えた。
「まったく……しかし、何と言うか彼には感謝じゃな高畑君。」
「そうですね。学園長の仰った様にネギ君にはこの上ないプラスになっていますからね。そしてそれ以上に、僕達に対しても。」
「まったくじゃよ…彼が居らんかったら危うくズルズルと本国の傀儡と化してたじゃろう。」
溜息が漏れる。
3−Aの『真実』を知る物は少ないが、稼津斗ならば恐らく察していると近右衛門は考えていた。
其の上で全てを一任したのだ。
「しかし、不思議じゃよ彼は。ワシ等の方がずっと年上な筈じゃが…何と言うか恐ろしいまでに達観しておるの。」
「ですね。恐らく僕達では想像できないような濃密な経験をしてるんですよ彼は。僅か19年の間に…」
――そして其の若さで君は一体どれだけ拳を血に染めたんだ、稼津斗君…
そんな君に頼むのは酷かもしれないが…ネギ君とアスナ君、3−Aの皆を頼むよ。
2人とも稼津斗の真実は知らない。
だが、ぼんやりとだが想像を絶するような経験をしているだろう事は感じ取っていた。
――――――
――稼津斗の家・特殊ダイオラマ球内部
普段は修行に使っている此の特殊空間にて先程の事件と魔法関連の説明は行われていた。
「魔法使いとかマジかよ。まぁ3−Aが意図的に集められたメンバーだってのには納得だがな。」
粗方の説明を聞いた巻き込まれメンバーを代表する形で千雨が言う。
大凡信じられないが、実際に目の前で起きた事だけに頭ごなしに否定する事はできない。
「驚くべき内容ですが、其の最もたる者が稼津斗先生です。何なんですか不老不死の異世界人て!
それに貴方と仮契約をしたことでのどかまで不老不死とか、もう何処に突っ込めばいいか分かんねぇです!」
夕映の言う事から分るだろうが、稼津斗は自分とその契約者についても説明していた。
当初は言うつもりは無かったのだが、クスハが『カヅト達は不死身』とうっかり言ってしまった為に全て話すハメに。
で、此の状況。
「別に稼津斗先生に文句があるわけではないです。アノ内気なのどかが自分の気持ちを伝えて覚悟をしたのだから先生は信じています。
ですが不老不死とか異世界人とか改造人間とか余りの非常識にちょっと感動しました、サイン下さい!
と言うかのどか達が急成長したのは此の場所のせい…って何するですかアキラさん!離して下さい!」
「少し落ち着こう?」
少々暴走してる所を背後からアキラに羽交い絞めにされてしまった。
「中々見事な暴走ぶりだねゆえ吉も。」
「夕映〜〜。」(泣)
「…話を戻していいか?と言っても粗方説明はしたから後はお前達の処遇なんだが、記憶の操作は行わない。
最早無関係とは行かないが、基本的に無闇にこっちの事を話したりしなければ良い。ただ、魔法や気の事を学んでもらう事にはなるがな。」
「アタマん中弄られるのを考えたら、それで善しとしなきゃだよな。」
千雨が諦めたように溜息をつく。
因みに暴れる夕映を拘束してたアキラは何時の間にか羽交い絞めからアルゼンチンバックブリーカーに拘束方法を変えていた。
「不安や何やらは有るだろうが、その辺は俺とネギ、マクダウェルが責任を持つ。悪いが納得してくれ。
其れとは別に…如何するか決めたか神楽坂?」
巻き込まれ組への説明を取り合えず終了し稼津斗は問う。
説明の前に明日菜に対し、『記憶が封印されている』事を告げ、説明している間に記憶を取り戻したいか否かを決めるように言って有ったのだ。
「決めたわ稼津斗先生。私は、記憶を取り戻したい!」
「明日菜!?」
「明日菜さん!?」
誰よりも驚いたのはネギとエヴァである。
封印された記憶を解くと言うことは、つまり封印後に形成された人格を消滅させる事に他ならない。
「本気か明日菜!そんな事をすれば記憶は消えずとも『神楽坂明日菜』は死ぬ事になるんだぞ!」
「分ってるわよ!でも、このまま『偽りの私』のまま過ごすのなんて絶対嫌!
其れに『神楽坂明日菜』の記憶は消えないんでしょ?だったら記憶が戻っても私とキティは親友でしょ?」
「く…この国宝級の大馬鹿者め!万が一私の事を忘れていたら承知せんからな!」
言葉はキツイがエヴァとて明日菜を心配しての事、其れを分っているから明日菜も『大馬鹿者』呼ばわりされても何も言わない。
「大丈夫でござるよエヴァ殿。記憶が如何であれ明日菜殿は明日菜殿にござる。」
「そやな。記憶が如何であれ明日菜はウチ等の仲間や。」
「明日菜〜頑張ってな?」
「例え人格が変わってしまおうと明日菜さんは私達の仲間です。」
「ありがと木乃香、刹那さん、楓ちゃんに亜子ちゃんも。勿論、キティもね。」
一同を見渡し礼を言う…恐らくは『神楽坂明日菜』として最後になるであろう言葉を。
「…それじゃあ始めるぞ。」
以前エヴァの封印を説いたときと同様に稼津斗は自身の手を明日菜の頭に乗せる。
誰もが、エヴァの封印解除に居合わせたメンバーでさえ息を呑む。
「同調。」
――…成程、此れはかなり強力だな。神楽坂の完全魔法無効能力を考慮してか…。
「解析完了…同調・解!」
一気に気を高め、明日菜の記憶に施されている封印を解除する。
そして、
「ありがと稼津斗。思い出したわ全てを。」
封印を解かれた明日菜…否『アスナ』が居た。
其の目つきは明日菜の頃よりも鋭く、性格も落ち着き払っているように見える。
「一応初めましてと言うべきか、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアよ?」
「明日菜の記憶は有るから初めましてじゃないわよキティ?」
「ふ、どうやらその様だな。」
「封印解除成功だな。」
「何か別人みたいだね〜。」
「でも、こんなアスナもありかにゃ〜?」
稼津斗は成功に安堵し裕奈と和美は楽観的だった。
「あの、アスナさん?」
「ネギ…うん、大丈夫。記憶が戻ってもアンタのパートナーである事に変わりは無いわ。」
「は、はい!これからもよろしくお願いします!」
そしてネギの不安もなんのその。
性格の違いは有れどアスナも明日菜も基本的な部分は変わらないようだ。
「あ〜何つーか空気読まなくて悪いんだけどよ、名前はどうなるんだ?」
割って入るは千雨。
記憶を取り戻したことで本来の名前も思い出したアスナの名前の事が気に成ったのだ。
「表向きは『神楽坂明日菜』で通した方が良いんじゃないか?」
「そうですね。そっちの方が良いと思います。」
真名とのどかの言うことはまぁ当然だろう。
「表向きはかよ…あ〜なんつうかお前を神楽坂って呼ぶのはちょっと抵抗があるから『アスナ』って呼ばせてもらうぜ?」
「うん、別に良い。」
「チウ照れてる〜♪」
「照れてねぇ!戯言ほざいてんじゃねぇ、此の狐!」
「まぁ此れで落着か…」
「稼津君お疲れ様♪」
一応やるべきことを終えた稼津斗を裕奈が労う。
「あの、アキラさん落ち着いたのでそろそろ離して貰えないでしょうか?」
「あ、ゴメン…」
部屋の隅ではようやく夕映が解放されていた。
「取り合えずもう遅い。此処の時間の流れを外と同じにするから今日は泊まって行くと良い。」
ダイオラマの加速空間内部で説明その他を行っていたため外での時間は進んでいないがそれでも只今PM11:00。
そろそろ寝た方が良い時間だ。
「そうするとしよう。貴様等も依存はあるまい?」
エヴァが確認を取れば誰も拒否はしない。
まぁ『色々有って疲れた』と言うのが巻き込まれ組の本音だろう。
事実、アキラ、夕映、千雨の3名はベッドのが用意された途端にすぐに眠ってしまったのだから。
こうして新たに3人の魔法関係者が誕生し、アスナの記憶が取り戻されると言うおまけ付きで今回の事件は幕を閉じた。
因みに…
「ど畜生、いい加減に出しやがれ!」
「ご主人の命令ですから其れは聞けないですね。」
説明前に『話が進まなくなりそうだから』と言う理由でカモはネギの使い魔となったスライム娘の『ぷりん』改め『アクア』の水牢に閉じ込めらていた。
「兄貴の使い魔になったからって調子に乗んじゃねぇ此のスライム!」
「…溶かしますよ?」
「そ、其れは勘弁!」
此の短時間で明確な上下関係も出来上がっていたのだった。
To Be Continued… 