・リベール王国・ロレント市の郊外のブライト家
エステルが持って来たリベール通信の記事には皆が驚愕したのだが、実にタイミングよく朝食の時間になったので、其処で京達の話は終わったのだが、朝食後のブ
ライト家の庭には、肩までの伸びた黒髪と、立派な髭、そして東方の着物を彷彿とさせる服を纏った男と、短めの茶髪で口元に髭をたたえた男が対峙していた。
黒髪の男の名は『草薙柴舟』。草薙家の前頭首であり、京の父親で武闘家としては一流の実力の持ち主なのだが、京は其れ以上の実力の持ち主だったため、京か
らは『親父も大した事ねぇな』とか言われちゃってる哀しい親父だ。……口では生意気言ってますが、京は柴舟の事が嫌いな訳じゃないけどね。
対する茶髪の男は『カシウス・ブライト』。嘗てはリベール王国軍に所属していた軍人で、現在は凄腕の遊撃士として活躍しており、娘達からは当然として、どんな時で
も不遜な態度を崩さない、『俺様』な京からも慕われていると言う凄い親父だ。基本的に敬称を付けない京が『カシウスさん』って呼んでる時点で大分凄いわ。
「いやはや、此れはまた大変な事になりましたなカシウス殿?」
「よもや皇女殿下が誘拐されるとは……一体ドレだけ城の警備が甘かったのか。其れを糾弾せずには居られますまい。」
「うむ、確かに其の通りなのだが、この写真を見て何か気付きませんかなカシウス殿?
見出しは『皇女殿下誘拐?』とありますが、この写真を見る限り、皇女殿下は殿下を攫った賊の首に手を回している様に見えましてな……もし、本当に殿下が誘拐さ
れたのだとしたら、殿下は意識を刈り取られている筈なので、こんな体勢にはなりますまい。」
「柴舟殿も気付かれましたか、確かに、クローディア皇女殿下が意識を刈り取られていたのならばこんな体勢にはならないでしょうな。
いや、仮に意識を刈り取られて居なくとも、本当に誘拐されたのであればもっと抵抗しようとする筈……にも拘らず、この写真の殿下は、己を攫おうとする者に抵抗し
ている様には見えない。寧ろ、安心して己の身を委ねている様にすら見えますからな?
其れを考えると、殿下を抱えている女性は、殿下の顔見知りであり、誘拐と言うよりも幽閉状態にあった殿下を解放しに来たと言うべきでしょう。」
「この記事から其処まで読み取るとは、流石ですなカシウス殿。」
そして、柴舟もカシウスもこの記事を読んで、今回の事が只の『皇女誘拐事件』ではない事に気が付いた様だった――カシウスは柴舟よりも更に先を読み、なのはが
幽閉状態にあったクローゼを助けに来たと言う事にまで考えが及んだようだ。
流石は元王国軍の軍人で、退役前は将軍に次ぐ地位に在籍していた事もあり、物事の本質を見極める能力は極めて高いと見える……現実に、カシウスが軍に在籍
していた時に、その能力を駆使して隣国からの軍事侵略を事前に喰い止めたり、国内で計画されていたテロ活動を潰したりしていたのだから。――カシウスが退役し
ていなかったら、デュナンが行ったクーデター紛いの強引な王位継承も止められたのではないかとすら言われているのである。
「ハッ、其れ位読み取るのは当然だろ親父?
俺やエステルですら、その写真を見て『翼が生えた女は、皇女様の知り合いで、皇女様を助けに来た』って事に気付いたんだぜ?カシウスさんが気付かねぇ筈ない
だろ?……つか、そんな事も分からねぇとは息子として情けないぜ。」
「き、京!わ、ワシだって気付いとったわ!カシウス殿に先に言われてしまっただけだわい!!」
「いや、そんなに動揺すると逆に怪しいぜ親父?本当に気付いてたんならもっと堂々としてろよな?そんなに動揺すると、『やっぱり気付いてなかったんじゃないか』っ
て思われちまうぜ?」
「ぐぬぬぬぬ、相変わらず生意気な!!武術大会で二連覇したからって、思い上がるなよ京!!」
「おーい、今度はお前が相手してくれよエステル!一本やろうぜ。」
「無視かーーー!!!」
そして逆に憐れなり柴舟。実の息子にサラリとディスられた上に、これまたサラッと無視されてしまったからな……誤解のないように言っておくと、柴舟の実力は決して
低くなく、寧ろ中ボスクラスの強さなのだが、京の強さは其れ以上で、更に家では妻の静の尻に敷かれている状態な上に良くふらりと居なくなり、月単位で帰ってこな
い事もあるので、京からすると『尊敬出来る父親』と言うモノではないらしい――其れを言ったら、カシウスも妻のレナには頭が上がらないのだが、イキナリ居なくなる
事はないからなぁ。
「柴舟殿、お互いに父親と言うのは大変ですなぁ……私も何度エステルに『此の極道親父!』と罵倒された事か。」
「ですが、エステルさんは心の底ではカシウス殿を慕っておられるではありませんか!京の奴は、ワシに対して敬意とかそう言うの一切ないんですぞ!?
確かにワシは、真の大蛇薙も、無式も会得はしておらなんだが、其れでも草薙の歴代頭首の中ではトップクラスの実力者と謳われておるのに……そもそも、真の大
蛇薙と無式の両方を会得した者など、長い草薙家の歴史でも京だけでありましてなぁ!!」
「柴舟殿……彼は類稀な天才と言う事で諦めましょう。天才と言うのは、得てして性格が捻くれていると相場が決まってます故に。」
「だとしても、だとしても、カシウス殿には敬意を持って接していると言うのが父親としてなんだかとっても納得出来ない!何故だ、何故だ京ーーーーー!!!!」
親父と言うのは、中々にして肩身の狭い生き物の様である。
特に柴舟は、京に実力で越えられて居ると言うだけでも可成り凹み案件なのだが、実の父である自分よりもカシウスの方を慕っていると言うのは凹むを通り越す事実
だろう……逆に言うと、カシウスと言う人間は、其れだけ人間的に魅力的って事なんだろうけどね。
そして、絶叫した柴舟には、京が『暴走した八神みたいな絶叫してんじゃねぇ。』と、草薙流踵落とし『轟斧 陽』を叩き込んでKOした!……親父よ、強く生きてくれ。
黒き星と白き翼 Chapter3
『拠点の平和な日常と、新たな戦力探し』
・リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点
クローゼが新たに加入したリベリオン・アナガスト・アンリゾナブル(以降『リベリオン』と表記)だが、しかしすぐに何か行動を起こすと言う事はせずに、拠点では訓練場
でのスパーリングや、サロンでの髪の手入れ、温泉で一息入れたりと各々が自由に過ごしている。(リベリオンが拠点にしている岩山は、五百年ほど前に噴火した火
山であり、山のふもとには多くの温泉が湧き出しており、拠点ではその源泉を引いた温泉施設がある、序に、サウナも。)
で、リベリオンのリーダーのなのははと言うと――
「其れでは、今日はお待ちかねの魔法の勉強の続きだ。」
「「「「「「「「「「わーい!」」」」」」」」」」
子供達を相手に、魔法の授業を行っていた。
この子供達も、戦争で親を失ったり、悪魔によって親を殺されたり、ライトロードにって家族を喪ってしまった『理不尽な目に遭ってしまった』子供達だ――そう言った子
供達は、通常は孤児院に預けられるのだが、全ての子供が孤児院に入れる訳ではなく、定員や事情によって受け入れを拒否されてしまった子供達を引き取って、な
のはは生きる術や戦う術を教えながら育てているのだ。
「さて、それでは前回のおさらいからだ。
魔力と言うモノは、魔族、神族、人と種族に関わらず全ての者が持っているのだけれど、人は魔族や神族と比べると魔法を使える者は非常に少ない。其れは、何故
だった?」
「はい!
人は魔族や神族と違って、魔力を魔法として使う為に必要な『リンカーコア』を持ってる人が圧倒的に少ないからです!」
「正解だ。
では、リンカーコアを持たない人が、魔法を使うには如何すれば良いんだっけ?」
「はい!其れは、戦術オーブメントを使う事です!
戦術オーブメントを使えば、リンカーコアがなくても『アーツ』と言う形で魔法を使う事が出来ます!そしてその場合は、戦術オーブメントに装着するクォーツで、ドレだ
け強いアーツが使えるかが決まって来ます。」
「そうだ。戦術オーブメントを介して使えるようになるアーツは、組み込むクォーツの質が高ければ高い程強力なアーツが使える様になる。」
で、本日行っているのは『魔法』に関する授業らしい。
魔力と言うモノは、誰もが持っているが、其れを魔法として使うには『リンカーコア』と言うモノが必要で、魔族と神族はリンカーコアを持って生まれて来る事が、略100
%であるのに対し、人がリンカーコアを持って生まれてくる確率は0.01%以下と、魔法が使える人と言うのは可成りのレアなのだ。――実は、ブライト家のアインスと
エステルは、激レアな『魔法を使える人間』だったりするのだが。
「だが、戦術オーブメントを使う以外にも、リンカーコアを持たない者が魔法を使える様になる方法がある。其れが『精霊と契約する』と言う方法だ。
此れは、契約した精霊と同じ属性の魔法しか使えないと言う制約がある代わりに、その属性の魔法に関しては、先天的に魔法が使える者や、アーツを使う者を遥か
に上回る力を発揮出来る。」
授業は進み、戦術オーブメントを使う以外の方法で、リンカーコアを持たない者が魔法を使う方法として、『精霊との契約』があると言う事を教え、そして夫々の属性の
精霊の性格的な特徴を教えて行く。
『炎は直情的な激情家』、『水(氷)は冷徹な断罪者』、『風は温厚な自由人』、『地は寡黙な守り人』、『光は残酷なロマンチスト』、『闇は無邪気な殺戮者』……これが
精霊の主な特徴だ。水(氷)と闇が若干恐ろしいな。
「精霊と契約する場合、契約する精霊と己の先天属性が同じ場合や、精霊の属性が自分の先天属性に対して相生の関係であった場合はより強い魔法を使う事が出
来るが、相克の関係であった場合は其の力は半減するから注意が必要だ。
精霊と契約する場合は、先ずは己の先天属性を知らねばだ。」
「なのは先生、自分の先天属性って知る事が出来るんですか?」
「あぁ、出来るよ。
戦術オーブメントを使う事になるが、水が入ったグラスに戦術オーブメントを介して魔力を送り込む事で、グラスの水がどう変化したかを見るんだ。
『水の温度が上がれば火属性』、『水の温度が下がった、又は水が凍った場合は水属性』、『水の表面が動いたら風属性』、『水が濁ったら地属性』、『水が光ったら
光属性』、『水が黒く染まったら闇属性』だ。」
「なーるほど!」
なのはの授業は分かり易いモノで、此の授業を見て居たクローゼも、なのはの教え方の旨さには感心していた――ともすれば、なのはの教え方の巧さと言うのは、リ
ベールが世界に誇る学習機関である『ジェニス王立学園』の教師をも凌駕していたのだから。
まぁ、なのはもなのはで、『子供は、キチンと教えてやれば、その分だけ身になる』と考えているので、子供達の指導にはつい熱が入ってしまうのかも知れないが。
「其れでは、今日は此処まで。」
「「「「「「「「「「先生、ありがとうございました。」」」」」」」」」」
本日の授業も終わり、子供達は此れから自由時間だ。
岩山の洞窟を改造して作られた拠点ではあるが、子供達が退屈しないように娯楽施設もバッチリ整備されており、ボーリング、カラオケ、カードゲームやボードゲーム
が出来るフリースペースと、可成り考えられている様だ。
「子供達の教育までしているとは、大変ですねなのはさん?」
「確かに少し大変ではあるが、此れもまた未来の為に必要な事だからね。
あの子達は、私達の次の世代を担う事になる存在だから、其れを確りと育てて行かなければならないだろう?私達が目的を達成し、理想の国を作っても、其れを次
ぐ者達が育っていなければ、その国を存続させる事は出来ないからな。」
「確かに、その通りですね。」
子供達の教育に熱が入るもう一つの理由として、『子供達と言うのは、此の世界の未来を担う存在だから』と言うのもある様だ。
確かになのはの言うように、次の世代を任せる為にも子供達の教育は必要不可欠なのだ――なので、保護した子供達には、様々な知識や戦い方、人との交渉の方
法と、分野を問わずに教えていると言う訳だ。
序に言うと、なのはは持論として『欠点を補ってる暇が有ったら、長所を伸ばす事に努力しろ』と言う考えがあり、子供達も得意分野を伸ばすように育てていたりする。
なのは自身も、欠点に目を瞑って長所を伸ばした結果、遠距離砲撃型でありながら近距離型の前衛を必要としない『単騎で戦える遠距離砲撃型』と言う、他に類を見
ない戦闘スタイルと確立している訳であるし。
「話は変わるがクローゼ、お前は精霊を宿しているんじゃないのか?
其れも、魔法を使う為に後天的に契約した精霊ではなく、生まれながらにその身に宿していた先天的な精霊が。」
「分かるんですか?」
「あぁ、分かる。
先天的に精霊を宿している者は、自身の魔力の他に精霊の魔力もその身に宿しているから、言うなれば一つの身体から二人分の魔力を感じるからね……と言って
も、其れが分かるようになったのは此処二~三年の事だけれどね。」
此処でなのはは話題を変え、クローゼに『精霊を宿しているんじゃないか?』と聞いて来た。クローゼは肯定こそしなかったモノの『分かるんですか?』と聞いたのを見
る限り、精霊を宿しているのは事実なのだろう。……クローゼの魔力だけではなく、クローゼが宿している精霊の魔力まで感じ取れるなのはも凄いと思うが。
「お前の魔力の大きさから考えると、その精霊は相当に強い力を持っている筈なのだが……お前から感じる精霊の魔力は極めて小さいのが少しばかり気にはなるけ
れどな。」
「……実は、私に宿っていた精霊は途轍もなく強力で、ともすれば私自身を喰らって暴走してしまう程に強かったんです。
なのでお祖母様が、その精霊を五つに分解した上で石板に封じ、当時の女王親衛隊に命じてグランセル城の地下と、リベール各地にある『四輪の塔』に封印したら
しいんです。
私の中に残っているのは、精霊の核だけなので弱い魔力しか感じないのかもしれません。」
「前女王陛下が危惧して封印する程の精霊とは……今もまだ、其の精霊を自分の力で制御する事は出来ないのか?」
「いえ、アーツを学ぶのと並行して、私の魔力を精霊のコアに馴染ませて来たので、今の私なら制御する事は出来ると思います……封印の解き方も、お祖母様が亡く
なる前に教えてくださいましたし。
ですが、余りに強い力なので滅多な事では使いたないと言うのが本音ですね。」
「強過ぎる力は、新たな争いの火種になり兼ねないからな……と言うか、其れだけの強力な精霊を五つに分解するとは、前女王陛下も中々に凄いお方だったのでは
ないか?精霊を分解する等と言う話は、十九年間生きて来て初めて聞いたぞ?」
「お祖母様は、武術の心得はありませんでしたが魔術、特に『封印系』の魔術には長けていましたので……」
……如何やら、アリシア前女王陛下も中々どうして凄いお方だったらしい。恐らくだが、クローゼの精霊の力をある程度封じた上で、分解して封印したのだろう。
だが、其の精霊は今のクローゼならば制御出来るとの事なので、いざと言う時の切り札にはなるだろう――果たして、此の可憐な美女が宿している精霊はどのような
姿をしているのか気になる所ではあるが、其れは封印を解かれて召喚されるまで楽しみにしておこう。
「それにしても、戦術オーブメントと言うモノは、如何して種類があれ程豊富なのだろうか?クローゼに渡したモノの様に、1ラインのモノだけあれば事足りるだろう?」
「確かに1ラインの戦術オーブメントならば強力なアーツを組む事が出来ますが、強力なアーツを使うにはそれ相応の魔力が必要になるんですが、そうなると保有して
いる魔力が少ない場合、ラインの最後まで魔力が届かずにオーブメントが機能しない事があるんです。
なので、人によって使用するオーブメントは異なって来るのではないでしょうか?」
「アーツだろうと魔法だろうと、強力なモノを使う為に必要なのは本人の魔力の大きさと言う訳か。
時にクローゼはドレだけのアーツが使えるんだ?クォーツも可成り上等なモノを用意したが……」
「1ラインで、用意して頂いたクオーツも最上位だったので、状況に応じて組み替えれば、現在までに発見されているアーツは略全て使う事が出来ますよ?」
「……略全てのアーツか。用意した自分で言うのも何だが、凄いな。」
その後も、こんな感じで話をしながら、そろそろ昼時なのでなのはとクローゼは食堂でランチに。
食堂で働くスタッフもまた、サロンのスタッフ同様に、『腕は一流だが、理不尽・不条理な理由で職を失った者達』だ。中には高級レストランの料理長を務めていた者ま
で居たりする。――序に言うと、組織運営の資金調達の為に、『宅配食堂・翠屋』の名前でフードデリバリーをしていたりする。
「あら、レオナさんもランチタイムですか?」
「クローゼ、それとなのはも……そう、此れから昼食。」
「そうか。良かったら一緒に如何だ?」
「……そうする。」
なのはとクローゼは、食堂でレオナと出会い、其のまま一緒にランチを摂る事に。
本日のランチは、なのはが『海鮮あんかけ焼きそば、焼売、モズクと春雨のスープ』、クローゼが『チキンカレードリアとシーザーサラダ』、レオナが『塩ラーメンの大盛り
チャーシュー抜き野菜マシマシ』である。……レオナのラーメンは丼から見えるのが野菜の山だと言うのには突っ込んではいけないのだろう。
そして、三人とも着席してランチタイムがスタートだ。
「うん、今日も良い味だな。」
「とても、美味しいです。お城の料理にも引けを取りませんよ。」
「美味しい食事は、其れだけで元気が出る。」
一流の腕前の料理人が揃っているので、この食堂の料理は一級品なのだ。其れこそ、グランセル城のお抱え料理人が作る料理にだって決して引けは取らないので
ある。
そんな料理を堪能していた訳だが――
「時になのはさん、仲間集めは如何する心算なのでしょう?」
此処でクローゼがなのはに『仲間集めは如何するのか?』と聞いて来た。
なのはとクローゼの目指す理想は同じだが、その理想を果たす為には現リベール王であるデュナンを打ち倒す必要がある――であるのなら、当然相応の戦力って言
うモノが必要になってくるだろう。一国を相手にすると言うのは、その国が有する軍隊と戦う事になる訳だから。
「仲間集めか……其れは勿論考えているよ。
もしも必要な仲間が集まらなかったその時は、父が同盟を結んでいた魔王達を頼ろうかとは思っている――が、其れはあくまでも最終手段だ。先ずは、自分の力で
共に戦う仲間を集めなければなるまい。」
「アテはあるのですか?」
「……あると言えばある。
リベールの王族であるお前ならば、『ハーメル村』と言う場所は知っているな?」
「ハーメル村……!十年前に、ライトロードによって滅ぼされた村ですよね?
リベールの近郊で起きた事なので知っています――あの悲劇に関してはお祖母様も心を痛めていました。『軍を派遣していれば、あの悲劇が起こる事を阻止する事
が出来たのではないか』と。」
「アレは誰にも如何にも出来ない事だったから仕方ない……よもや、あの小さな村をライトロードが襲撃するなどと言う事は誰にも予想が出来なかっただろうからな。
だが、ハーメル村の一件には不可解な部分もある。ハーメル村が壊滅したのは確固たる事実だが、ハーメル村を襲撃したライトロードの部隊も全滅しているんだ。」
「襲撃をした側も、全滅ですか?」
「一体何が起きたのか、その真相を知る者は居ないが、ハーメル村には『鬼』を封印したと言われている、『鬼の祠』なるモノが存在して居たらしく、ライトロードの襲撃
でその祠が壊され、『鬼』が封印から解放され、ライトロードの部隊を全滅させたと言う話がまことしやかに囁かれていてな。
更にそれだけでなく、ハーメル村の住民は全滅したのではなく、本当に僅かな子供だけが生き残ったとも言われているんだ――もしもそれが真実で、生き残った子
供達が、封印から解放された『鬼』に育てられていたとしたら其れはとても魅力的な戦力になるとは思わないか?」
「『鬼』と『鬼に育てられた子供達』ですか……確かに、其れが真実であるのならば是非とも仲間にしたいですね。」
なのはも其れには目星を付けていたらしく、十年前にライトロードによって滅ぼされた『ハーメル村』の跡地に注目していた――あくまでも噂レベルの事ではあるが、ラ
イトロードの部隊が全滅したのは事実であるので、此れ等の噂が只の噂ではないと考えたのだろう。
ライトロードの一部隊を全滅させた『鬼』の力は戦力として申し分ないし、『鬼の子供達』と言うのも間違いなく高い実力を持っていると見て間違いないだろう。
「明朝、ハーメル村の跡地に向かう予定だ。」
「でしたら、私もご一緒させて下さいなのはさん。理想を同じにするのであれば、仲間集めを手伝わない理由はありませんから。」
「勿論だよクローゼ。
安全な場所ではないが、お前は自分の身は自分で守れるだろうからね……場合によっては戦闘になるかもしれないが、お前の剣術とアーツの腕前ならば、勝てず
とも負けない戦いは出来るだろうからな。」
なので、なのはは明朝ハーメル村の跡地に向かう予定で、其処にはクローゼも同行する事になった――だけではなく、一緒にランチを摂っていたレオナが『私も一緒
に行く』と言って同行する事になった。
ランチ後に、其れを聞いたクリザリッドが『私も一緒に!』と言って来たが、其れはなのはが『お前には私が留守の間、拠点を守っていて欲しい』と言うと、驚く程にアッ
サリと『分かりました』と退き下がった。クリザリッドにとてなのはは絶対の存在なので、なのはの言う事に意を反するって言う考えがそもそもないのかも知れないが。
取り敢えず今後の方針は決まったので、午後は夫々が夫々の時間を過ごす事になった――なのはは、午後は子供達に料理や裁縫を教え、クローゼはなのはをサポ
ートしていたけれどね。
だがしかし、そのなのはとクローゼの姿は、何も知らない第三者が見たら長年一緒に居た親友のように映っただろう――それ程までに、なのはとクローゼの仲は、十
年振りに再会したとは思えない程に馴染んでいるのである。
若しかしたら、十年前になのはとクローゼが出会ったのは偶然ではなく必然であったのかもしれない……なのはとクローゼは出会うべくして出会ったのだろうな。
――――――
――翌日・明朝
なのは、クローゼ、レオナの三名はハーメル村の跡地に来ていた。
村の跡地にあるのは、ボロボロになった建物と、犠牲者を弔う為の小さな石碑だけだ――が、其れが逆になのはに『ハーメル村の噂』が真実だと言う事を確信させる
に至った。
ボロボロの建物の中には、幾つか修理が行われて生活出来るレベルになっているモノがあるし、犠牲者を弔う為の石碑と言うのも、ハーメル村に生き残りが居ないと
存在しないモノだから。
「此の石碑の存在が、ハーメル村には生き残りが居る証明だな。……だがしかし、生き残った者達からすると、私達は招かれざる客らしいな?クローゼ、レオナ感じて
いるか?」
「はい……感じます、此の上ない濃密な闘気と殺気を。」
「囲まれている……何時襲われてもオカシク無い。」
と同時に、なのはもクローゼも、そしてレオナも己に向けられている殺気と闘気を感じていた。――隠す気がまるでない、純粋な殺気と闘気。並の人間ならば、受けた
だけで卒倒してしまうレベルのモノだ。
なのはとレオナは、戦いの中で生きて来たので耐える事が出来るのは当然だが、クローゼが耐えきったと言うのは見事であると言わざるを得ない。――将来的に、リ
ベールを治める身にあったクローゼは胆力も鍛えていたのだろうな。
其れは兎も角として、なのは達は何時襲われても良い様にその場に止まって警戒を続ける……そして、其れからドレだけの時間が経っただろうか?実際に経過した
時間は五分にも満たないだろうが、其れでも体感的には一時間にも感じただろう。
――ガサ!
其処で唐突に起きた物音!
其れは、藪の中で何かが動いた音であるが、其の音が藪を移動する動物が出したモノなのか、其れとも藪に潜んでいた何者かが動いた音なのかを判別するのは至
難の業と言えるだろう。
「今のは?」
「分からない。」
経験豊富ななのはとレオナも、藪から発せられた音の正体は分からないのだ。――だが、次の瞬間!!
「ハァァァァァ!!」
「!!」
藪の中から何かが現れてなのはを攻撃して来た!!
なのはは咄嗟にその攻撃をレイジングハートでガードする――あと刹那遅かったら、なのははシャレにならないダメージを喰らう事になっていたのかも知れないな。
だが、此れで襲撃者の姿も露わになったのだ。
なのはに攻撃を仕掛けたのは、顔に大きな傷跡のある少年だった。――少年は、茂みから一気に飛び出して、なのはに得意の居合を放ったのだ。尤も、必殺の一撃
はなのはに見事にガードされてしまった訳だが。
「お前、鬼の子供達か?」
「!!」
「ふ、ビンゴか。」
だがしかし、なのはが少年に問うと、少年は自ら飛び退いて、改めて剣を構える――自分の素性を言い当てたなのはの事を警戒しているのだろう。或は、なのは達を
『生き残りを排除しに来た人間』だと思っているのかも知れないな。
尤も、なのはにはそんな邪で最低な考えはなく、純粋に戦力を求めてただけなのだが……此れだけの洗礼を受けたのならば、其れには応えねばならないだろう。
「ハーメル村の事は知っていたが、『鬼の子供達』が実在していたとは、正直驚きだ。
私の目的は、お前達を仲間にする事だが、仲間にする前にその実力が如何程であるのかを知るのもまた一興――良いだろう、少しばかり遊んでやる。持てる力の
全てを出して掛かってくるが良い。」
此処でなのはは、敢えて挑発的な物言いをして襲撃者を煽る、
だが、其れを聞いた少年は、激怒する事はなく、しかし冷静に状況を見極めて、なのはと如何戦うかを考えて居る様だ――それから暫くして考えが纏まったのか、少
年は改めて居合の構えを取ってなのは達に向き合う。
そして――
「行くぜ?」
「来い!」
少年が神速の居合でなのはに切り込んだ事でバトルスタート!!
少年の放った白刃の居合と、なのはのレイジングハートが交錯して火花を散らしていて、その光景だけを見ればラストバトル的な雰囲気が満載だが、実際にはバトル
は始まったばかりなので何方が優勢とは言えないが、しかし『鬼』と『鬼の子供達』に己の存在を認知させる事が出来たと言うのは大きいだろう。己の存在を認知させ
ると言うのは、其れだけ印象に残る事でもあるからね。
「やるな少年、見事な居合だ。此れを初見で見切れる奴は早々居ないだろう――否、私も父の剣術を見ていなかったら先の一撃で両断されていたかも知れん。
名を聞いておこうか?此れだけの実力者の名前を知らないと言うのは如何かと思うのでな。」
「……一夏。俺の名は『織斑一夏』だ。」
「一夏か、良い名だな。
ならば私も名乗っておこう。私の名は高町なのはだ。」
「なのはか……アンタも悪くない名前だ。」
少しばかり強引だが、自己紹介を終えた後は再びなのはと一夏は鍔迫り合いを続け、何方が勝ってもオカシク無いバトルが展開されて行くのだった――
To Be Continued 
補足説明
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