空には鈍色の雲が広がり、その雲からは冷たい雨が降り注いでいる。
そんな冷たい雨が降り注ぐ路地の一角には少女が膝を抱えて蹲っている――栗毛の髪をツインテールに纏めた少女の歳の頃は八~十歳位だろうが、そんな幼い少
女が、一人で雨に打たれていたら、誰か声を掛けそうなモノだが少女に声を掛ける者は誰も居なかった。
その理由は、少女の右肩から生えた黒い翼と、左肩から生えた白い翼だろう……この一対の翼が少女が人間でない事を現していた――白き翼は神族の、黒き翼は
魔族の証だから。
此れが、一対の翼がどちらも白かったのならば、声を掛けた者も居ただろう……だが、魔族の証である黒い翼を持っていた事で、少女に声を掛ける者は居なかった。
人間にとって、魔族とは畏怖する存在でしかなかったからだ。
否、そもそもにしてこの翼は魔力体であるので、少女の意思で消す事は可能なのだが、彼女は其れをせず、己が魔族の血を引いているのだと言う事を周囲に知ら示
して居るかのようにも見える。其の雰囲気が、余計に彼女に声を掛けるのを躊躇わせていた。
加えて少女の瞳には、大凡子供が宿して良いモノではない、煉獄の炎が、暗い復讐の炎が宿っていたと言うのもあるかもだ。


「……大丈夫ですか?」

「え?」


身を打つ冷たい雨が無くなったので、何事かと思った少女が顔を上げると、其処には己に傘を掛け、そして傷を治療する為の治癒にアーツを使ってくれている、スミレ
色の髪が特徴的な、己と同じ位の歳の少女の姿があった。
身なりは良く、従者と思われるモノが一緒なのを見る限り、可成り身分が高い者なのだろう。


「……貴女は自分が何をしてるか分かってるの?この翼を見れば分かるよね?私は魔族の血を引いてるんだよ?其れなのに助けるの?」

「黒い翼は魔族の証……ですが、其れが助けない理由になりますか?
 私はお祖母様から、『此の世界には種による優劣は存在しない。神族も魔族も人間も、全ては平等である。』と教えられました。ならば、貴女も私も同じ存在です。
 其れ以上に、私が貴女を助ける理由が必要でしょうか?」

「…………」


自分を助けた少女の言葉に、傷だらけだった少女は答える事が出来なかった。
少女は、神族である母を魔族に殺され、魔族だった父を人間に殺され、母を天界から追放した神族、母を殺した魔族、父を殺した人間に深い憎しみを抱き、全ての種
に復讐する事を考えていたからだ。


「貴女の様な人間も居るんだ……人間は、全て魔族を忌み嫌って居ると思って居た。私達が暮らしていた村の人間も、お父さんが魔族だと知った途端に、掌を返して
 ライトロードに加担してお父さんとお姉ちゃんを殺したから。
 でも、貴女みたいな人も居るんだね……!!」

「家族を……其れは、私には想像も出来ない位に苦しく悲しい思いをした事でしょう……」


スミレ色の髪の少女は栗毛の少女を抱きしめる……と同時に、栗毛の少女は此れまで保って来た感情が決壊し、スミレ色の髪の少女の胸で泣いた……家族を全て
失ったその日から涙を流す事をしなかった栗毛の少女は、自分でも何時振りになるか分からない程に泣き、声を上げて泣く栗毛の少女を、スミレ色の少女は只優しく
抱きしめていた。


その後、栗毛の少女は、スミレ色の髪の少女から『私の家に来ませんか?』と言われたが、栗毛の少女は『貴女の家の人間が全て貴女と同じとは限らないから止め
ておく』と言って断った。
スミレ色の髪の少女は、栗毛の少女の気持ちを汲むと『ピクニックに来たんですが、まさかの俄雨で取りやめたので、良かったらどうぞ』と持っていた弁当を渡し、更に
『少しですが』と十万ミラの大金を渡された。
勿論、栗毛の少女は『お弁当は兎も角、こんな大金は受け取れない』と言ったのだが、スミレ色の髪の少女は『なら、生きていつか返しに来て下さい。』と言って微笑
んで見せた。


「……私を助けてくれた、この恩は絶対に忘れないよ。
 だから約束する。貴女が窮地に陥ったその時は、私が必ず助けに行くから!私は高町なのは。貴女は?」

「クローディア・フォン・アウスレーゼです。なのはさん。」


そうして二人の少女は別れた。互いに、再会する時がいつか来ると信じて……












黒き星と白き翼 Chapter1
『Vorspiel von Dunkelheit und Licht』










「…………何時の間にか眠っていたのか私は。」

「お前が居眠りするとは珍しいな、なのは?何か夢でも見たか?」

「あぁ、少しばかり懐かしい夢をな。」


黒衣を纏い、栗毛の髪をサイドテールに纏めた女性、高町なのはは移動中の車の中で目を覚ました……彼女は、ある目的の為にとある場所に向かってるのだが、そ
の道中で少しばかり眠ってしまったらしい。


「懐かしい夢、ですか?」

「十年前にクローディアに助けられた時の事をな。お前と会う前の事だよクリザリッド。」

「あぁ、彼女の夢ですか。」


車を運転するのはクリザリッドと呼ばれた大柄の青年――ある組織によって作り出された存在だったが、十年前に組織がライトロードの襲撃を受けた際に、半ば捨て
駒同然の扱いをされ、辛くも生き延びたモノの生きる目的を見失っていた時になのはと出会い、『其の力を私の為に使ってみないか?』と言われて、己の力を必要とし
てくれていると感じ、なのはの手を取り最初の仲間になった者で、なのはに絶対の忠誠を誓っている。

そしてもう一人、なのはと共に後部座席に座っている褐色肌に金髪、右目の眼帯が特徴的な女性の名はサイファー……数年前に仲間を探していたなのはと出会い、
勝負を挑んだ末に敗北し、そしてなのはの仲間になった女性だ。

この二人は、現在なのはがリーダーを務めている『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』におけるなのはの最側近と言える存在だ。


「しかし、お前を助けたクローディアと言うのも酔狂な奴だな?魔族の血を引くお前を助けるとは……助けたお前に襲われるとは思わなかったのか?」

「全く思って居なかっただろうな。
 だが、もしも彼女と出会わなかったら、私は私の中にある復讐心に駆られるがままに全ての神族と魔族と人間に対して復讐を行い、己の命が尽きるまで殺戮を続け
 ていた事だろう……お前達と出会う事なくな。
 彼女のおかげで、私は只の復讐者にならず、己と同じ思いをする者を無くしたいと考える事が出来るようになった……最も、その目的を果たす為にも、私から家族を
 奪った者達には因果を応報させるけれどね。」


クローディアと出会った後、なのはは貰った十万ミラで服と当面の食糧、そして骨董屋でアーティファクトのインテリジェント・デバイス『レイジングハート』を購入し、魔族
の血を引いている事を隠しながら、魔獣退治等を行って金を稼ぎ、それと同時に己と同じような境遇にある者を集めて『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を組織
し、世界に対して反逆の狼煙を上げる時の為の力を蓄えていた。


「してなのは様、本日はどのような用件でこの街に?」


目的地に着いた一行は車を降り、なのはの先導である場所へと向かって居る際にクリザリッドがなのはに、『目的は何か?』と聞いていた――此処に行く事は聞いて
いても、目的までは聞いていなかった様だ。


「私がアルーシェに従魔を使って情報収集をさせている事は知っているな?
 その従魔の一体が、今日此の町でオークションが行われるとの情報を持って来たのだ……其れも只のオークションではない。人間が一人だけ出品物の中に居ると
 言うな。」

「オークションの名を借りた人身売買か……!」

「正解だサイファー。
 しかも、その情報が入る数日前には、リベールのロレントと言う街で一人の少女が誘拐されると言う事件が発生している……無関係とは思えまい。」

「その少女を誘拐した者達が、少女を売って金にしようとしていると言う事ですか?」

「十中八九間違いあるまい。
 誘拐された挙げ句、何処の馬の骨とも知れん奴に売られる少女を放っておく事は出来ない……私が買い取って保護すべきだろう。――勿論、私の目的を果たす為
 の力となりそうならば、其の力を借りるがな。」


目的はオークションの名を借りた人身売買にあった。
誘拐された上に売られる少女と言うのも、中々に理不尽な目に遭った者故に、なのはには救わないと言う選択肢は存在して居なかったのだろう。――誰よりも、理不
尽と不条理を知っているなのはだからこそ。

程なくして、オークション会場に一行は到着。会場と言っても何処かの建物を使ってる訳ではなく、屋外の広場にある簡素なステージだが。
既にオークションは始まっており、貴金属や骨董品などが次々と競売に掛けられては競り落とされて行く……此の貴金属や骨董品も偽物か、或は盗品だろうが、オー
クションの参加者は競売に熱狂しており、そんな事は気にも掛けて居ないだろう。


「それじゃあ本日の目玉商品だ!
 コイツは神族の中でも特に強い力を持っている『熾天使』の血を引いてる娘っ子だ!神族との混血は其れなりに居るが、熾天使との混血ってのは可成りのレア物だ
 ろう?だから、コイツの競売開始額は五十万イェンからだ!」


此処で『本日の目玉』として、なのはが目的としていた少女が登場。
桜色の髪と琥珀色の瞳が特徴的で、十人が十人とも『美少女』だと言う容姿をした少女だ……オークションに参加している男共からしたら喉から手が出る位に欲しい
存在だろう。競り落として奴隷にすれば、好きな様に出来るのだから。

だが、なのはは『熾天使の血を引いている』と言う事に興味を持った――少女に付加価値を付けたい売る側のブラフである可能性もあるが、魔族だけでなく神族の血
も受け継いでいるなのはには、其れが本当だと分かったのだ。


「二百万イェン!」

「二百五十万イェン!!」

「……三千万ミラだ。」


だからこそ、此処でなのははトンデモない額を提示した。
他のオークション参加者が口にしていた『イェン』とは異なる『ミラ』と言う通貨単位だが、為替ルートでは『一ミラ十イェン』なので、なのはが提示した三千万ミラは、イェ
ンに換算すると三億イェンになるのだ。


「……すまんな、手持ちの金はミラしかなかったのだが、ミラではダメだったか?」

「いえいえ、ミラと言えばイェン以上に信頼がおける貨幣なので何も問題はございません!三千万ミラならば、三億イェン……さて、此れ以上に出すお客様は居られま
 すか?……居ないようなので、この少女は彼女が競り落としました!」

「では、有り難く貰って行くぞ。クリザリッド。」

「は、此方に。」


少女を競り落としたなのはは、クリザリッドに大きなバッグを持って来させて、オークション主の前に置く。


「この少女の三千万ミラだけでなく、総額で六千万ミラある。此れを全て貴様にくれてやるから、今日のオークションで出品する筈だった武器やアーティファクトを全て
 出せ。
 武器やアーティファクトは使ってこそ価値があるからな。私が全て有効活用してやろう。」

「ろろろ、六千万ミラ!!分かりました、武器やアーティファクトは全て貴女にお渡ししましょう!」


更に金を積んで、なのははオークションの主から、出品予定の武器とアーティファクトを全て買い取る――そして、それ等を全て受け取ると、買い取った少女と共に車
に乗り込むと街を後にした。


「…………」

「……そう怯えるな。私達はお前を奴隷の様に扱う気は全く無い。寧ろ、お前の衣食住は保証する……お前が愚劣な男達の物にならなるのを避けるために競り落と
 したのだからね。」

「え……そうなの?」

「そうなの。」


車の中で、少女は脅えていたが、なのはが『奴隷の様に扱う気はない』と言い、彼女を競り落とした理由を話すと、少女は安心したのか『ホッと』息を吐いた。誘拐され
ただけでなく、オークションに出されたと言うのは矢張り怖かったのだろう。


「だが、タダではない。
 私も神族の血を引いているから、あの男が言っていた『熾天使の血を引いている』と言うのが嘘ではない事が分かる……お前の中に秘められている聖属性の魔力
 の大きさが其れを示しているからね。
 だから、お前には魔法を覚えて貰う……異論は有るか?」

「魔法を覚えるだけで良いなら、異論なんてないわ!……出来れば、ロレントに帰して欲しいんだけどね。」

「……私の目的を果たした暁には、ロレントに帰す事を約束しよう。魔族は嘘を吐く事が出来ない故に、私の言葉を信じて貰うしかないのが哀しい所だがな。」


その少女に、『魔法を覚える事が条件』だと言うなのはだが、其れもまた少女ならば出来ると見越しての事だろう。


「さて、そろそろ自己紹介をしておこうか?私の名は高町なのは。世界を変革する組織『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』のリーダーを務めている。お前は?」

「璃音。久我山璃音だよ。」

「璃音か……良い名だな。」


互いに自己紹介した後は、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に着くまで、なのはと璃音は談笑していた――歳が大きく離れていないと言う事もあり打ち解
けるのも時間はそんなに必要なかったのかもだ。其の中でなのはは璃音に『何処かの街に行く時には、私かクリザリッド、サイファーに声を掛けてくれ』と注意だけは
していたけどね。

そんな訳で一行は岩山の洞窟を改造して作られた、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に到着だ。
洞窟を改造したとは言え、中には照明や空調設備、水道にキッチンと、生活する為に必要なモノは一通り揃っている上、マジックミラーを利用した窓もあるので、洞窟
の中に居ながら、外の景色を見れたり、日光を取り込んだり出来る、結構快適な拠点なのである。
車を降りて、拠点に入ろうとしたのだが……


「あ、おかえりなのはさん。なのはさんにお客さんが来てるよ。」

「私に客だと?」

「セスさんだよ。取り敢えず、リベールの調査が終わったみたい。」

「そうか……分かった、直ぐに行く。」


其処には半妖の少女であるアルーシェが待っていて、なのはに来客があった事を告げる。
其れを聞いたなのはは、璃音の事をクリザリットとサイファーに任せて、来客と面会する為に応接室へと足を進めた――そして、応接間の前まで来ると……


「レイジングハート。」

『All right.Divine Buster.


行き成り直射砲をフチかまして、応接室の扉を粉砕!玉砕!!大喝采!!!の『砕』の三段活用と言うのは実に見事です……まあ、其れ以前に普通に扉を開けろっ
て事なのだが、此の拠点にある扉は全て自己修復機能を備えた『形状記憶合金』で出来ているので問題はない。と言うかそうじゃなかったら、なのはだってこんな事
しないだろうしね。


「相変わらず豪快だな君は高町なのは?」

「一日一度はバスターを撃っておかないとどうにも調子が出なくてな。それで、何が分かった?」

「其れはコイツを見てくれ。今回の調査報告書だ。」


応接室で待っていた褐色肌に銀の……此れは何て言えばいいんだ?『チョンマゲ』か、『ザンギエフ擬き』か、『成長途中のヘタレモヒカン』か?的確な表現が思い付
かないな。
まぁ、其れは其れとして、セスと呼ばれた男は調査報告書をなのはに手渡し、なのはも其れを読み始めたのだが、読み進めて行くほどになのはの顔は険しくなって行
く……如何やらあまり良い内容ではないらしい。


「セス、お前を疑う訳はないが、敢えて聞くぞ?『デュナン王がクローディア皇女の暗殺を企てている』、此れは本当か?」

「あぁ、本当だとも……今のリベール王のデュナンは人気が無いだけでなく、幽閉生活を送っているクローディア皇女の方が圧倒的に支持されているからね……此の
 ままでは革命が起きてしまう事を危惧したのだろう――ならば、その革命の旗印となり得る彼女を殺してしまおうと言う訳さ。
 クローディア皇女の死の理由を、『突然の重い病』にするのか、外部の暗殺者をでっち上げるのか、其処までは未だ分からないがね。」

「冗談にしても笑えない話だが、冗談だったらどれ程良かっただろうな……!
 特にクローディアの死の理由、前者なら兎も角、後者は隣国との戦争に発展しかねんモノだぞ?……本当は、もっと準備が整ってからにしたかったがそうも言ってら
 れないな。
 予定の大幅な前倒しになるが、十年前の約束を今夜果たしに行くとするか。」


報告書に掛かれていたのは『クローディア皇女の暗殺』を現リベール王のデュナンが企てて居ると言うモノだった。
確かにデュナンは国民からの支持は低く、『クローディア皇女が王位を継ぐべきだ』と言う意見は非常に多い――前リベール女王であったアリシア・フォン・アウスレー
ゼが病気で急逝した後に、殆どクーデター同然に王位を強引に継いだのだから国民の支持が得られる訳がないのだが。
序に言うと、クーデターの際に使用した傭兵団を自身の親衛隊とし、其れまでの女王親衛隊を解体して一般兵として王国軍に左遷すると言う事までやっているのだ。
まぁ、王位に就いた以上は一応の政は行っているようだが、アリシア女王時代と比べると国民からは不満のある政治だろう――税金は引き上げられ、酒を始めとした
嗜好品も、高級品はグランセル城で全て買占め、国民には二流品しか与えられなくなったのだからね。


「いっそデュナンをぶち殺して……否、一時の感情で先走るな私。
 クローディアを幽閉生活から救い出した後には、デュナンに戦いを仕掛け、奴を倒してリベールを解放し、私の目的を達成する為の足掛かりにする心算だったが、今
 は未だデュナンを倒す時期ではない……下準備を怠ってはならないからね。
 だが、クローディアは今助け出す。彼女が死んでしまっては本末転倒だからな。
 セス、クローディアが幽閉されているのは城の何処だ?」

「空中庭園の女王宮だね。
 彼女が女王宮から出て来ない事には国民からも疑問の声が上がっているが、表向きには『アリシア女王の急逝にショックを受けて精神的に不安定だから』と言う事
 になって居る様だ。」

「自分で閉じ込めておいて良く言う。あの、タヌキオヤジめ。」


セスからクローディアの幽閉場所を聞いたなのはは吐き捨てるように言うと拠点の外に出て、その背に魔族の証である黒い翼と、神族の証である白い翼を出すと、レ
イジングハートを握りしめ一気に飛翔すると、一路リベール王国の王都グランセルに向かって行った。

尚、グランセルに向かいながら、拠点に通信を入れた際に、クリザリッドから『行くのならばそう仰ってからにして下さい!』と言われたのは御愛嬌だろう。








――――――








そしてその夜。


リベール王国の王都グランセルにあるグランセル城の上空になのはの姿はあった。
なのはは上空からサーチャーを飛ばし、空中庭園の警備状況と、女王宮のバルコニーからクローディアの様子を観察していた……上空から直射砲ぶちかまして警備
を全滅させても良かったのだが、其れだとクローディアを連れ出すのに面倒な事になるので止めたようだ。


「女王宮の警備を行っている兵士は二名、女王宮の中にはクローディアのみか……ならば、バルコニーから入ってクローディアを連れ出すのがスマートなのだが、其
 れでは、私の意思をデュナンに伝える事は出来ないか。
 では、此処は正面から行くか。十年振りの再会だから、少しばかり派手に行った方が良いかも知れないからね。」


空中庭園と女王宮の状況を観察し終えたなのはは、警備兵の死角となる場所に降りると、其処から女王宮に向かって歩みを進めて行く。
となれば、当然女王宮の前で警備兵に見つかってしまうのだが……


「貴様、何者だ!何処から入った!」

「止まれ!止まらんと撃つぞ!!」

「…………」


なのはは警備兵の言う事を聞かずに無言で歩みを続ける……そんななのはに警備兵は、手にしている魔導自動小銃を発砲するが、なのははレイジングハートをバト
ン運動させてその銃撃を全て弾き飛ばすと、一足飛びで間合いを詰め、警備兵の一人にレイジングハートの柄でボディブローを叩き込んで昏倒させると、残る一人に
は魔力を込めたアッパー掌底を叩き込んで意識を刈り取る。


「三下に用はないから其処で寝ていて。」


其れだけ言うとなのはは女王宮に入り、最奥の扉を手元で魔力を炸裂させて破壊する……だから、普通に開けようね?言っても無駄かもしれないが。
勿論、行き成り扉が弾け飛んだ事に、中に居たクローディアは驚いた訳だが。


「い、一体何事ですか!?」

「スマナイ、少し驚かせてしまったな……十年前の約束を果たしに来たぞ、クローディア。」

「え?……貴女は若しかして、なのはさん、ですか?」

「あぁ、そうだ。十年前のあの日、お前に助けて貰った魔族の血を引く高町なのはだよ。」


だが、その扉の向こうから現れたのが十年振りの再会となる相手だったと言うのには更に驚いた様だ――まさか、再会出来るとはクローディアは思って居なかったの
だろう。


「な、何故此処に?」

「お前を助けに来た。
 お前が幽閉状態にあるのは知っていたから、私の準備が整ったら助けに来る心算だったのだが、デュナンがお前の暗殺を企てて居ると言うの知ってな……計画を
 前倒しして、お前を此処から連れ出しに来たんだ。」

「叔父様が、私を!?」

「私が絶対の信頼を寄せている情報屋が持って来た情報だから間違いはないよ――お前が幽閉状態にあると言う情報を掴んだも彼だからな。
 お前はこのまま此処に居たら間違いなく殺されるぞ?……女王親衛隊が存在しない今、お前を守ってくれる者は居ないからな――だから、私と一緒に来ないか?
 そして、準備が整ったら共にデュナンと戦い、あのタヌキオヤジからリベールを解放しないか?そして、私と共に、私の理想を実現して欲しい。」

「貴女の目的、ですか?」

「あぁ、そうだ。
 私は、もう二度と私と同じ目に遇う者を出したくない……私は、魔族も神族も人間も、全ての種が種の垣根を越えて平和に暮らせる世界を作りたい――そして、リベ
 ールをその始まりの地にしたいんだ。お前の故郷であるこの国を。」


クローディアからしたら、自分の暗殺を叔父が企てて居ると言うのはショッキングな事だっただろう。
なのはの言うように、このままでは殺されるのを待つばかりだが、なのはが自分を助ける理由が単純に自分を助ける為だけでなく、己の理想を共に叶えて欲しいと言
うのを聞いてクローディアの心は決まった。全ての種が、争う事なく平和に暮らせる世界と言うのは、クローディアも考えていた事だったから。


「なのはさん……貴女の理想は、私の理想でもあります。なので、どうか私を此処から連れ出してください。不自由な幽閉生活は、もう十分です。」

「ならば決まりだな。――済まないが、私の事を知らしめる為に、城を少し壊すぞ。」


クローディアの答えを聞いたなのはは、彼女を所謂『お姫様抱っこ』すると、レイジングハートをバルコニーに向け、一撃必殺のディバインバスターでバルコニーを破壊
すると同時に夜空に飛び出し、そしてこの破壊音を聞いた兵士達が集まって来るまで夜空で待つ。


「今の音は貴様か!!皇女をどうする心算だ!!」

「気付いてから到着するまでが遅すぎるぞノロマ。
 どうするかだと?見たままだ、白き翼たるクローディア皇女は、魔王の一人である不破士郎の娘である高町なのはが貰い受ける。白き翼に窮屈な鳥小屋は似合わ
 ないからな。
 あの無能なタヌキオヤジに伝えておけ、そう遠くない未来に、高町なのはがクローディア皇女を旗印とした一団を率いて貴様に戦いを挑むとな!」


そして、集まって来た兵士達に其れだけ言うと、レイジングハートから直射砲を放って、兵士達を一撃で鎧袖一触!!其の力の差は圧倒的であり、一騎当千と言うの
は此の事だろう。


「完全に悪役ですね、なのはさん?」

「魔族の血を引いている時点で、私は悪役全開だ。ならば、悪役らしいやり方でやらせて貰うだけだ。寧ろ、悪役上等だ。私は魔神とも言うべき存在だからな。」

「魔神ですか……確かにそうですね。では、連れて行って下さいなのはさん。貴女が今いる場所に。」

「あぁ、確り捕まっていろクローディア。」


クローディアを女王宮から連れ出したなのはは、デュナンに対して盛大な宣戦布告をすると共に夜の闇へと消えた。

十年の時を経て再会したなのはとクローディア……この時から歴史は動き、新たな物語が紡がれていくのだった。












To Be Continued 







補足説明


イェン

此の世界でミラに次いで信頼されている通貨で、為替レートは1ミラ10イェンと言った所。
1イェン、5イェン、10イェン、50イェン、100イェン、500イェンの5種類の硬貨と、1000イェン、5000イェン、10000イェンの3種類の紙幣で構成されている。



レイジングハート・エクセリオン

なのはの相棒であるインテリジェントデバイス。
原作とは違い、待機状態は存在せず、常にエクセリオンモードの形態でいる。原作よりもちょっと辛口になるかも。