ある日の事、シグナムはJ.S事件で確保した戦闘機人達(ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテを除く)が収容されている更生施設を訪れていた。
目的は言わずもがな、己が確保した戦闘機人No.2『ドゥーエ』との面会だ。

チンク達はクロウ、セインは稼津斗に任せるとして、ドゥーエだけはシグナム自身が面倒を見てやりたいと思っていた。


収容された当初は口数も少なく、更生は無理かと思われたドゥーエも、最近は良く話をするようになり表情も豊かになって来ている。
数日前に訪れた時には笑顔を見せてくれた位だ。


――騎士ゼストにアイツを殺させなかったのは正解だった……感情のままにアイツを殺していたら、彼もあの世で後悔しただろうしな。
   それに、アイツも今は自分の罪を悔やみ、そして前に進もうとしている……嘗ての私と同じようにな…
「其れを見守り、後押ししてやるのもまた私の勤めか…」

程なくシグナムはドゥーエが暮らしている部屋の前に到着。


「ドゥーエ、シグナムだ……入っても構わんか?」

「シグナム?ちょっと待って……うん、良いわよ。」

入室許可を求めれば、少し待ってくれと言った後に了承――招き入れるのにゴミでも片付けているのだろうか?

「失礼する………ってなに!?」

「ふふ、自分と相対する気分は如何だ?」

部屋に入ってシグナムは驚愕!!……無理もない、何得目の前に居たのはドゥーエではなく、シグナム自身であったのだから。













遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 外伝4
『烈火の将と姿偽る諜報者











「此れは……噂には聞いていたが、よもや此処までそっくりに変身できるとは…まるで鏡を見ているようだな?」

「流石に歴戦の騎士様はこの程度じゃ驚かないか……だけど見た目だけなら完全にコピー出来てるでしょ?」

そのシグナムは言わずもがなドゥーエが『ライアーズマスク』を使って変装したモノであり、シグナムには速攻でバレルのも当然だろう。
尤も、シグナム本人以外の他の誰かに変身したていたのなら分からなかったかもしれないが…


「確かに完全にコピー出来ているな……しかも顔だけでなく対象者の服装までコピーできるとは驚きだぞ?
 尤もお前の記憶の中では、まだ私は六課時代の制服を着ているみたいだがな。アレはアレで良いんだが今は地上部隊の青制服だ。」

「そっちの制服も悪くないけど、六課制服の方がベージュでシックな感じがするから個人的には好みなの。
 って言うか、自分で言うのもなんだけど、貴女が騎士服展開して私が其れをコピーして服の色を変えたら其れって否定しようもないほどに…」

「あぁ、対戦格闘ゲームの同キャラ対戦の様になるだろうな。」

一体何の話をしているのかよく分からないが、少なくともシグナムとドゥーエの仲は良好であるらしい。

実は、更生後の身元引受人になっているだけではなく、シグナムはドゥーエを自分の補佐官として管理局に招こうと考えていた。
そしてドゥーエもまた、更生後のニートはゴメンと言う事で、可能であるならばシグナムの部下になるのも良いかもしれないと思っているのだ。

今は未だ互いに言う事はないが、近い将来この2人が上官と部下の関係になるのは略間違いない事だろう。


「更にこんなのは如何?トラップカード『メタル・リフレクト・スライム』×3!」

「!?」

で、何を思ったのかドゥーエは3枚の『メタル・リフレクト・スライム』(施設内での娯楽としてシグナムが持って来たカードパックで当てた)を発動!
対象の姿を映しとるメタル・スライムがその姿を変え、あっという間に3体のシグナム(シルバーメタリックver)が完成である。

「……自分自身ながら、此れだけ同じ顔が揃うと些か不気味ではあるな。」

「自分で言ってれば世話ないわね……で、此れを応用して、立てこもり犯とかにこう言う脅しはどんなもんだろう?」


――すぅ……


今のは余興とばかりに、今度はドゥーエ自身がライアーズマスクの機能で別人に変身し、メタルスライムの姿も其れにならい変化する。
そして出来上がったのは……

「其れは間違いなく泣いて許しを請うだろうな……出来れば私もそんな『悪夢』とは相対したくないぞ……」

「効果あるでしょ?」

4人の『高町なのは』(内3人はシルバーメッキモード)……確かに此れは相対した者には凄まじい恐怖を与えてくれる事だろう。
味方にとっては頼りになる『エース・オブ・エース』も、敵からしたら『難攻不落の移動砲台』であり『管理局の白い悪魔』に他ならないのだから。


「しかし、今は攻撃不能なスライムだが、もしも同じ事を『邪神アバター』で行ったとしたら……何とも笑えない事になりそうだな。」

「……其れってどんな超兵器軍団?」


試みに想像してみよう。
高町なのはと言えば、現代の世界に於いては他の追随を許さない最強の『単騎で戦える砲撃魔導師』である。
今のシグナムの『仮定』が現実になった場合、其れだけの力を持ったなのはの他に、そのなのはよりも少しだけ強い『黒いなのは』が3人…

そして戦場に飛び交う桜色の砲撃と、黒味を帯びた桜色の3本の砲撃。


……怖い、想像しただけで怖すぎる。

更にバカスカ砲撃を撃ちまくった挙句『物凄くいい笑顔』で、相手に対して降伏を求めるとなれば、もうそれは恐怖以外の何者でもない。
どんな凶悪犯罪者やテロリストであろうとも、泣いて命乞いをしながら許しを請う事だろう――高町なのは恐るべし。


「………考えない方が良さそうだな。」

「ゴメン、少し調子に乗り過ぎた……流石に無いわ此れは…

取り敢えず、この『最終兵器なのはさん』が管理局に居る限り、この世に悪が栄える事はないだろう。(謎)


「まぁ、其れは其れとして……押収された私の固有武装ってどうなってるの?」

「ピアッシングネイルだったか?
 アレならば管理局の技術部でデバイスとして調整中だ……遊星が其れに係わっている故、調整前の数倍の性能になって居る事は保証するぞ?」

「数倍って…ドクターだって可成り力入れて作ったモノだってのに、其れをも上回る不動遊星って何者なのかしらね…」

話題変換とばかりにドゥーエはライアーズマスクを解除し、押収された己の武器の事を問えば、其れは調整中だと言う。
押収されはしたが処分されなかったのは『更生が見込める』と判断された故であり、其れに関してはチンク達と同様の判断がされたと言える。

まぁ、デバイスとして再調整するスタッフに遊星が居ると言う事はつまり、更生組の武装は次元世界最高性能のデバイスになる事が確定だろう。


「遊星の頭脳と技術力は管理局でも『SSS++』と言われるほどのモノだ、期待して良い。
 ……時にドゥーエ、お前は妹達に会う気はないのか?」

又しても話題転換。
シグナムが言う妹達とは、言わずもがな同じ施設で更生プログラムを受けているチンク達の事だ。

ドゥーエは事情が事情なだけに、他の姉妹達とは隔離された所謂『独房』とも言うべき部屋で日々を過ごしている……其れを踏まえての事だが…

「会うと言っても、私は長い事スパイ活動を続けていたから、クアットロ以下の後発組は名前しか知らないわ。
 其れはきっとあの子達も同じだろうし、其れに妹達と言われても実感が湧かないって言うのが本音ね……妹2人が『アレ』なのが微妙だけれど。」

ドゥーエは今の所は会う気はないらしい。
幾ら戦闘機人としては姉妹とは言え、此処に収容されている後発組は名前しか知らない上に面と向かって会った事すらないのだから当然だろう。
尤も、己の中で妹と呼べる相手が『男女』と『陰険姑息眼鏡』だけだと言う事に若干へこんでいるようにも見えるのだが……まぁ、頑張れ。



「だが、それでも……お前の気持ちの整理が付いた時で良いから一度は会っておけ。
 生まれがどうあれ、お前達が姉妹である事に、何の変わりはないのだ――チンク達に姉の姿を見せてやるのもまた大切な事だぞ?」

「考えとくわ。」

明確に『是』とは言わないが、拒否するでもない……ドゥーエが妹達と面会するのもそう遠い事でもないだろう。


「そう言えば、私が殺したアイツは……一体どうなったの?
 管理局のお偉いさんとは言え、ドクターと内通してたのはバレてるんでしょう?……何もなく葬り去られたりは……」

「安心しろ……レジアス・ゲイズ中将は確かに奴と内通していたが、彼の思想そのものは何も悪い事では無い。
 其れに、彼が行った政策の一部がミッドの犯罪を激減させ、市民の平和を護る事になったのは紛れもない事実だ…正式に墓にな……」

「そうか……なら良かったよ。」

続いて話はレジアスの事に。
その手でレジアスを暗殺したドゥーエだが、更生プログラムを進めるうちに、自分が犯した罪の重さを自覚するようになった。

其れと同時に気付いたのだ――自分が何をしてしまったのかと言う事に。
レジアスの死がどう処理されたのかが気になる辺り、大分人としての感情が育って来たのだろう。


更にレジアスが『犯罪者』としてではなく『管理局を変えようとした英傑』として葬られている事に素直によかったと感じる事が出来たらしい。



これらはきっと、スカリエッティの下で過ごしたままだったら湧く事のない感情であっただろう。
だが、ドゥーエにはその感情が湧いている――彼女もまた『戦闘機人』から『人』へとシフトしている最中なのかもしれない。


「何とか更生が出来て、此処を出たら……レジアスの墓参りに行かないとね。
 私がした事が許されるとは思わないけど、友への誤解を解く事が出来ぬまま逝ったと言うのは余りにも忍びないからね……」

「そうしてやると良い……彼の残した功績は、確かにミッドと管理局にとってプラスになる物も多かったからな。
 無念の中で死したのは間違いないだろうが、其れでもお前が更生しミッドの平和の為に生きると知れば、彼の魂も安らかに逝けるはずだ…」

「そうね……」


しばし沈黙……2人ともレジアスの死に深く係わっているが故に、この手の話となると如何しても沈黙が多くなってしまう。
とは言っても、今回の沈黙は悪いモノではない――ただ単純に、2人とも志半ばで散ったレジアスの御霊に祈りを捧げているのだから。



「此処を出たら、今度は墓にね――

「その時は私も同行させてもらう……彼に報告する事も有るのでな…」

施設を出た後での墓参りも確定事項の様だ。
ドゥーエはもうスカリエッティの駒のスパイではない……ドゥーエと言う一個人になり得た――彼女の道もまた此処から始まるのだろう。


「と、そろそろ時間か……スマナイが仕事が有るのでここらでお暇させて貰う……まぁ、また来るがな。」

「仕事なら仕方ないでしょ?……まぁ、また来てくれることを楽しみにしてるわ。
 あ、其れとシグナム、私が此処を出たら戦い方を教えて貰って良い?私は暗殺術しか知らなくて、正道の戦い方は良く知らないのよ……」

「そう言う申し出ならば喜んで受けよう……だが、私の教え方は少しばかり厳しいからな?」


互いにそう言って笑い合う。
シグナムもドゥーエも、完全に互いに心を許している――此れならばドゥーエの更生も予定より早く終わるかも知れない。


事実、ドゥーエはこの時から10ヶ月後に此処を退所する事になるのだから。



戦闘機人No.2ドゥーエ……彼女にもきっと出所後には、此れまでは知る由もなかった鮮烈なる(Vividな)日々が待っている事だろう。









そして更生が終了して数年の後、ドゥーエは『シグナムの片腕』として、管理局内でも指折りの魔導師として知られる事になるのであった。













外伝4END